【解決手段】複数フレーム分の超音波エコー信号を連続して取得し、複数フレームのBモード画像群を形成する処理部21と、加温前後においてそれぞれ取得したBモード画像群に対応する超音波エコー信号を記憶するデータ記憶部15と、加温前後のいずれか一方のBモード画像群のフレーム間で、相互相関を算出していずれか1つのフレームを基準画像として抽出し、他方のBモード画像群の各フレームと基準画像との間で、相互相関を算出していずれか1つのフレームを比較画像として抽出する抽出部22と、基準画像および比較画像に対応する超音波エコー信号に基づいて超音波速度変化を算出して超音波速度変化画像を形成する超音波速度変化解析部23とを備えた構成とする。
測定領域から取得した1フレーム分の走査本数の超音波エコー信号に基づいてBモード画像を形成するとともに、加温前および加温後の測定領域からそれぞれ取得した1フレーム分の走査本数の超音波エコー信号に基づいて超音波速度変化を算出して超音波速度変化画像を形成することにより脂肪診断を行う脂肪診断装置であって、
周期変動する測定領域から、周期変動の一周期内に複数フレームのBモード画像群を形成するために要する走査本数の超音波エコー信号を連続して取得し、前記複数フレームのBモード画像群を形成する処理部と、
加温前と加温後とにおいてそれぞれ取得した複数フレームのBモード画像群に対応する超音波エコー信号を記憶するデータ記憶部と、
加温前または加温後のいずれか一方のBモード画像群のフレーム間で画像変化の度合を示す相互相関を算出していずれか1つのフレームを基準画像として抽出し、加温前または加温後の他方のBモード画像群の各フレームと前記基準画像との間で画像変化の度合となる相互相関を算出していずれか1つのフレームを比較画像として抽出する抽出部と、
前記基準画像および前記比較画像に対応する走査本数の超音波エコー信号に基づいて超音波速度変化を算出して超音波速度変化画像を形成する超音波速度変化解析部とを備えたことを特徴とする脂肪診断装置。
【背景技術】
【0002】
体内の状態を診断する診断技術として、被検体に対し、エネルギーを照射して加温を行い、加温前後の超音波速度の変化を計測することで、加温部位の温度変化特性、エネルギー吸収特性を計測する音波計測装置が開示されている(特許文献1参照)。
【0003】
また、加温前後の超音波速度変化を利用した新しい画像診断手法として、生活習慣病の危険因子の1つである内蔵脂肪を診断するために、関心領域に対して光照射による加温を行い、加温前後の超音波速度変化を計測して、超音波速度が負の変化をする部位を脂肪組織として検出し、脂肪組織分布を診断する脂肪組織の検出方法および検出装置が提案されている(特許文献2)。
【0004】
特許文献2に記載された脂肪診断装置(脂肪組織検出装置)について説明する。この装置は、Bモード画像や超音波速度変化画像を取得するために必要な制御部を搭載した装置本体と、被検体の体表に直接当接させて被検体に向けて超音波照射や加温を行うプローブとを備えている。プローブは、被検体の測定領域に対し超音波照射を行うリニアアレイ探触子と、リニアアレイ探触子の隣にあって、被検体の測定領域に対し加温するための近赤外光照射を行う赤外線レーザ光源とを、それぞれ同じ測定領域に向けて行えるように横に並べて配置した専用のプローブを用いている。
【0005】
リニアアレイ探触子は、直線状に配列された複数の振動子(圧電素子で形成)を有しており、各振動子は、制御部からの駆動信号によりパルス波が励振されて超音波信号を送波し、この超音波信号に対する被検体内からの超音波エコー信号を受波する。そして制御信号により送受波を行う振動子を順に切り換えて走査するようにしてある。また、赤外線レーザ光源はリニアアレイ探触子の横から700nm〜1000nmの近赤外光が照射されるようにしてある。
【0006】
この装置で超音波速度変化を測定し脂肪測定を行う動作について説明する。被検体に対し赤外線レーザ光源から近赤外光を照射し、所定の加温時間経過後に、リニアアレイ探触子を駆動し、パルス状の超音波信号を順次走査するようにして送波するとともに、被検体からの受信信号である超音波エコー信号を順次受波する。そして、光照射状態で取得した超音波エコー信号(受信信号)の波形を、光照射後超音波エコー信号として記憶する。
光照射後超音波エコー信号の受信波形の記憶が終わると光照射を停止する。この照射停止から所定時間経過して被検体の温度が十分に低下したところで、リニアアレイ探触子を駆動し、超音波信号を送波するとともに、被検体から超音波エコー信号を受波する。そして、光照射停止状態で取得した超音波エコー信号(受信信号)の波形を非照射時超音波エコー信号として記憶する。なお、記憶された超音波エコー信号はその振幅を輝度表示することでBモード画像として表示される。
続いて、光照射後と非照射時の超音波エコー信号に基づいて、以下に示す関係から超音波速度変化を求める。
【0007】
図9はある部分区間の非照射時(加温前)超音波エコー信号と光照射後(加温後)超音波エコー信号とを示す模式図である。非照射時の超音波速度をV、光照射後の超音波速度をV’とする。また、非照射時にある境界間を超音波信号が伝播するときに生じるパルス間隔をτとし、同じ境界間(距離一定)を光照射後に超音波信号が伝播するときに生じるパルス間隔をτ−Δτとする。すなわち、温度変化によりΔτだけパルス間隔が短くなるようにシフトしたとする。
このとき、
V・τ = V’・(τ−Δτ) ・・・(1)
の関係が成立し、したがって、2つのエコー信号におけるパルス間隔の時間変化から超音波速度変化データが次式(2)で算出できる。
V’/V = τ/(τ−Δτ) ・・・(2)
したがって、測定した2つのエコー信号から関心領域におけるパルス間隔(τ)、波形シフト量(Δτ)を、相互相関を求めて算出し、式(2)に基づいて各部位での超音波速度の変化(超音波速度変化比(V’/V))を算出する。
【0008】
続いて、算出された各部位の超音波速度変化比(V’/V)に基づいて、この値が1より小さい部位(加温に対する超音波速度変化が負の領域)を脂肪領域と判定する。
すなわち、水中および脂肪中を伝播する超音波速度は37℃のとき水中音速が1524m/秒、脂肪中音速が1412m/秒であるが、温度変化に対する超音波速度変化を比較すると、以下の通りである。
水: +2 m/秒・℃
脂肪: −4 m/秒・℃
よって、水分が多く含まれる筋肉や内蔵(肝臓等)は温度が上がると超音波速度が増加するのに対し、脂肪部分では超音波速度が減少することになり、超音波速度変化の極性が反転する。
そこで、測定領域を温度変化させたときに超音波速度変化が負となる領域を特定すれば脂肪領域の検出を行うことができる。
【0009】
そして、解析結果の超音波速度変化の分布を画像化して表示装置に表示することにより、脂肪領域が他の部位と明確に分けて画像表示される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
特許文献2に記載された脂肪診断装置によれば、専用のプローブを用いて加温を行うとともに超音波速度変化の測定を行うことにより、加温前後の超音波速度変化画像を形成し、超音波速度変化が負の領域を検出すれば脂肪領域を画像化することができる。
しかしながら、生体において超音波速度変化画像により脂肪診断を行う場合には、以下の問題が生じることになる。
【0012】
超音波速度変化画像を取得するには、加温前と加温後との異なる温度で、それぞれBモード画像形成に必要な走査本数(例えば128本)の超音波エコー信号を取得し、取得した加温前および加温後のBモード画像間の対応する超音波エコー信号の部分区間どうしで式(2)の演算を行うことになる。
【0013】
ところで生体では、呼吸、鼓動等の生理的な動きによる組織境界の拡張、収縮、振動等の周期的な変動が生じている。そのため、プローブでBモード画像形成に要する走査本数の超音波エコー信号を取得する場合、周期変動における一周期中の超音波エコー信号を取得するタイミングによっては、周期的変動が超音波速度変化画像の構築の際に影響を与え、測定誤差、不鮮明さの要因となる。
なお、呼吸については測定の際に、被測定者に一時的に呼吸を停止してもらうことで改善できる場合もありうるが、病人、乳児等のように測定中に呼吸を止めてもらうことが困難な被測定者の場合もありえる。また動物を測定対象とする場合にも呼吸を止めさせることは困難である。一方、鼓動については意識的に止めることは困難である。
【0014】
そこで、本発明は超音波速度変化による脂肪診断に必要な、加温前および加温後の2つの時点での超音波エコー信号を取得する際に、被測定者の呼吸や鼓動等による周期変動が生じていても、周期変動の影響を抑えて超音波速度変化の測定、さらには脂肪診断ができる脂肪診断装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題を解決するためになされた本発明の脂肪診断装置は、測定領域から取得した1フレーム分の走査本数の超音波エコー信号に基づいてBモード画像を形成するとともに、加温前および加温後の測定領域からそれぞれ取得した1フレーム分の走査本数の超音波エコー信号に基づいて超音波速度変化を算出して超音波速度変化画像を形成することにより脂肪診断を行う脂肪診断装置であって、周期変動する測定領域から、周期変動の一周期内に複数フレームのBモード画像群を形成するために要する走査本数の超音波エコー信号を連続して取得し、前記複数フレームのBモード画像群を形成する処理部と、加温前と加温後とにおいてそれぞれ取得した複数フレームのBモード画像群に対応する超音波エコー信号を記憶するデータ記憶部と、加温前または加温後のいずれか一方のBモード画像群のフレーム間で画像変化の度合を示す相互相関を算出していずれか1つのフレームを基準画像として抽出し、加温前または加温後の他方のBモード画像群の各フレームと前記基準画像との間で画像変化の度合となる相互相関を算出していずれか1つのフレームを比較画像として抽出する抽出部と、前記基準画像および前記比較画像に対応する走査本数の超音波エコー信号に基づいて超音波速度変化を算出して超音波速度変化画像を形成する超音波速度変化解析部とを備えるようにしてある。
【0016】
一般に、生体では呼吸と鼓動との動きが重なり合った周期的変動が生じている。本発明では、この周期変動の一周期の期間内における複数時点に対応した複数フレームのBモード画像群を形成するために、処理部は、複数フレームのBモード画像群の形成に要する走査本数の超音波エコー信号を連続して取得する。そして、この超音波エコー信号を連続して取得する処理を、加温前と加温後の測定領域に対して行い、2つのBモード画像群を形成するとともに、取得した超音波エコー信号をデータ記憶部に記憶しておく。抽出部は、記憶された加温前または加温後のいずれか一方のBモード画像群に含まれる複数フレームのBモード画像のうち、フレーム間で画像変化が小さい(類似度が高い)1つのフレームを決めるために、フレーム間の相互相関を算出し、「基準画像」として抽出する。ここでの演算に用いられる相互相関は、画像変化の度合(類似度)の大小を数値化して比較できる演算であれば、特に限定されない。このようにして抽出された「基準画像」は、周期変動による画像変化の影響が小さい、ほぼ静止した時点に取得されたBモード画像が選択されていることになる。
抽出部は、また、記憶された加温後または加温前のBモード画像群(「基準画像」が含まれるBモード画像群とは異なる側のBモード動画)に含まれるBモード画像の各フレームと、抽出された「基準画像」との間で、画像変化の度合が小さい(類似度が高い)1つのフレームを選択するために、相互相関を算出し、「比較画像」として抽出する。
このようにして抽出された「比較画像」と「基準画像」とは、呼吸および鼓動がほぼ同じ状態のBモード画像であり、しかも、ほぼ静止した時点でのBモード画像が選択されていることになる。
そして、超音波速度変化解析部は、選択された「基準画像」と「比較画像」のそれぞれに対応する超音波エコー信号に基づいて、超音波速度変化を算出して超音波速度変化画像を形成する。これにより、呼吸や鼓動が同状態になっている瞬間で、しかも、ほぼ静止した瞬間での加温前と加温後の超音波エコー信号から超音波速度変化を算出した超音波速度変化画像を形成することができるようになる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、呼吸や鼓動が同じ状態のタイミングで、しかも、ほぼ静止した瞬間での加温前後の超音波エコー信号に基づいて超音波速度変化画像が形成できるので、呼吸や鼓動の影響が最も除かれた超音波速度変化画像による脂肪診断が可能になる。
【0018】
上記発明において、Bモード画像を形成する際のフレームあたりの走査本数は調整可能にしてあり、前記処理部は、Bモード画像群を形成する際に1フレームあたりの走査本数を間引いて前記周期変動の一周期中に撮影可能なフレーム数を増やすように切り換わるように構成されてもよい。
走査本数を間引くことによりフレームレートを上げることができるようになり、時間あたりの撮影可能なBモード画像のフレーム数を増大することができるようになる。これにより、基準画像や比較画像の選択を、より多くのフレーム数のなかから最適な画像を選択することができるようになる。なお、1フレームあたりの走査本数が間引かれることにより、画像自体の分解能は劣るようになるが、肝臓等での脂肪分布の空間的変化は比較的小さいので、あまり高い分解能を要求されることはない。よって、最初に測定位置を決定するための事前観察の際は、1フレームあたりの走査本数を増やして分解能を高くしておき、測定位置が決定された後は、処理部によってBモード動画を取得するときに、走査本数を間引いてフレームレートを上げることにより、脂肪診断に適した測定ができるようになる。
【0019】
上記発明において、相互相関の算出には、ゼロ平均正規化相互相関(ZNCC)が用いられてもよい。
ここで、ZNCCは次式(3)で与えられる。
【0020】
【数1】
【0021】
ここで、画像のサイズ(画素数)はM×N、加温前後それぞれにおける画像中の画素位置(i,j)の振幅(画素の輝度)はI(i,j),T(i,j)、各画像における振幅(画素の輝度)平均は、次の通りとする。
【0022】
【数2】
【0023】
R
ZNCCは、−1<R
ZNCC<1の値をとり、1に近いほど高い相関性を有している。
この式を用いた演算によれば、2つの画像の対応する画素ごとの輝度変化を総合的に数値化した相関を得ることができ、画像変化の度合(類似度)を的確に数値表現できる。
【0024】
上記発明において、前記基準画像を抽出する相互相関には、ゼロ平均正規化相互相関(ZNCC)の和が用いられてもよい。
これによれば隣接する3つ以上のフレーム間での相関の強さを確認することができるので、さらに画像の静止状態を的確に数値表現できる。
【発明を実施するための形態】
【0026】
(装置構成)
以下、本発明の実施形態について図面を用いて説明する。なお、ここでは肝臓(脂肪肝)の測定を行う場合を例にして説明する。
図1は本発明の一実施形態である脂肪診断装置の全体構成を示すブロック図であり、
図2は診断用の超音波パルス波の送受波と、加温用超音波連続波の送波とを1つのプローブを用いて行うための構成部分を示す図である。
【0027】
脂肪診断装置1は、プローブ2と、このプローブ2を用いて超音波診断、加温、さらには超音波速度変化測定から脂肪診断を行うための制御を行う制御部3とからなる。
【0028】
プローブ2は、被検体に送受波を行う振動子として機能する圧電素子が、直線状に多数(例えば128個)配列されたアレイ型プローブ(アレイトランスデューサともいう)が用いられる。振動子から出射される超音波が隣り合う肋骨の間から深部の肝臓に向けて進入できるようにするため、振動子の厚さを肋骨間の幅よりも小さく、具体的には厚さを15mm以下にしてある。なお、従来からBモード画像診断用として市販されている超音波診断装置のアレイ型プローブのうちで、振動子の厚さが適合しているものはそのままプローブ2として使用することができる。
【0029】
制御部3は、メモリ、CPU、入出力装置を含むコンピュータ装置が含まれ、Bモード画像による診断や脂肪診断を行うための操作および解析に必要な制御を全般的に行う。これらの制御で、本発明に関係する構成部分を機能ごとにブロック化して説明すると、超音波送受機構11、連続波電源機構12、スイッチ部13、演算処理部14、データ記憶部(メモリ)15、画像表示制御部(デジタルスキャンコンバータ;DSC)16、表示装置(液晶パネル)17、入力装置(マウス、キーボード等)18を備えている。
【0030】
超音波送受機構11は、プローブ2の振動子Sを所定の走査順で励振させるための超音波パルス波を駆動回路11aにより順次駆動し、プローブ2から診断用の超音波パルス波信号として送波する走査制御を行う。送波するパルス電圧は20−60V程度で、パルスの持続時間は0.5〜5μ秒程度である。
さらに超音波送受機構11は、超音波パルス波信号を送波後に被検体から反射してくる超音波エコー信号を振動子Sごとに待ち受けて順次受波する制御を行う。このような送波と受波との制御を1フレームの走査本数分だけ繰り返すことにより、1フレームのBモード画像を形成する超音波エコー信号が取得されることになる。
受波した1フレーム分の超音波エコー信号は、データ記憶部(メモリ)15に記憶されるとともに、演算処理部14に送られ、必要なときに読み出して演算処理ができるようにしてある。
【0031】
また、超音波送受機構11は、上述した送波および受波の制御を連続して行う「動画モード」での送受により、複数フレームの連続するBモード画像群、すなわちBモード動画に対応する超音波エコー信号を取得することができるようにしてある。このときは複数フレーム分の超音波エコー信号がデータ記憶部15に記憶されるとともに演算処理部14に送られる。
【0032】
そして超音波速度変化画像を求めるときには、測定領域の加温前と加温後とに、それぞれ動画モードによって送波および受波の制御が超音波送受機構11によって行われ、加温前のBモード画像群(Bモード動画)に対応する複数フレーム分の加温前超音波エコー信号、加温後のBモード画像群(Bモード動画)に対応する複数フレーム分の加温後超音波エコー信号が、それぞれデータ記憶部15に記憶される。
【0033】
なお、超音波送受機構11による1フレームあたりの走査本数は、入力装置18からの入力操作によって調整可能にしてあり、走査本数を増やして画質を高める代わりにフレームレートを遅くするか、走査本数を減らして画質を劣化させる代わりにフレームレートを高めるかを自由に調整できるようにしてある。そして「動画モード」では、手動操作で積極的に変更しない限り、自動的に走査本数を間引いてフレームレートを高めるように調整されるようにしてある。
【0034】
連続波電源機構12は、被検体の測定領域を加温する際に、必要なパワーの超音波連続波(例えば正弦波)を高周波電源12aから出力し、プローブ2の振動子Sから一斉に送波する制御を行う。出力電圧は10−20V程度であるが、連続波で出力するためのパワーが必要であることから加温用の専用電源を用いるようにしている。連続波の周波数fに対し、加温可能な生体の深さはほぼ1/fになることが知られている。そのため、脂肪肝の診断では体表から5cm以上の深さまで加温できることが好ましい。これを可能にするため、1〜3MHzの周波数帯域にしてある。
【0035】
スイッチ部13は、プローブ2の各振動子Sと、超音波送受機構11および連続波電源機構12との間に設けられ、電子スイッチまたはマイクロリレーからなり、超音波送受機構11による超音波パルス波信号および超音波エコー信号を走査しながら送受する側の端子(診断側端子)と、連続波電源機構12による超音波連続波を各振動子Sから一斉に送波する側の端子(加温側端子)とのいずれの端子を、プローブ2の振動子Sに接続される端子とするかを切り換えている。これにより、1つのプローブ2から、被検体への加温用の超音波連続波の照射と、診断用の超音波パルス波の照射とを切り換えて照射することができる。
なお、詳細な説明は省略するが、加温側の回路内に必要に応じて遅延回路を追加する等で電子フォーカスを行えるようにし、所望の部位に超音波ビームが収束するようにして加温してもよい。
【0036】
演算処理部14は、超音波送受機構11により取得した超音波エコー信号、あるいは、取得後にデータ記憶部15に記憶させた超音波エコー信号を用いて、Bモード画像診断や脂肪診断を行うための処理および解析に必要な演算処理全般を行う。本発明で行われる演算処理は、処理部21、抽出部22、超音波速度変化解析部23、さらには脂肪領域検出部24の各機能ブロックによって説明することができる。
【0037】
処理部21は、超音波送受機構11を駆動させ、周期変動する測定領域から、周期変動の一周期内の複数フレームのBモード画像群を形成するために要する走査本数の超音波エコー信号を連続して取得し、データ記憶部15に記憶するとともに、取得した超音波エコー信号により複数フレームのBモード画像群(Bモード動画)を形成する処理を行う。データ記憶部15に記憶させた後は、ここから読み出してBモード画像群を形成する処理が行われるようになる。なお、ここでいう「Bモード画像群を形成する」とは、連続して取得した複数フレーム分のBモード画像の超音波エコー信号を1フレーム分の走査本数ごとの超音波エコー信号に振り分けて、個々のフレームのBモード画像と取得した超音波エコー信号とが対応付けられるようにすることで足りる。すなわち取得された複数フレーム分の超音波エコー信号のそれぞれと、各Bモード画像を構成する各走査線の位置の対応付けができれば、ここでいう「Bモード動画を形成する」ことになる。そして形成されたBモード画像群は画像表示制御部(DSC)16に書き込まれる。
【0038】
また、超音波速度変化画像を形成するときには、加温前と加温後との2つのBモード動画を形成することが必要であるため、加温前後で超音波エコー信号を取得する2回の処理が行われ、データ記憶部15には加温前のBモード動画に対応する複数フレーム分の加温前超音波エコー信号と、加温後のBモード動画に対応する複数フレーム分の加温後超音波エコー信号が記憶される。
【0039】
抽出部22は、処理部21によって形成された加温前(あるいは加温後)のBモード動画の各フレーム間で、式(3)に基づいて二次元の相互相関を算出し、いずれか1つのフレームを「基準画像」として抽出する処理を行う。
【0040】
抽出部22は、また、「基準画像」を抽出する際に使用したものとは異なる加温後(加温前)のBモード動画の各フレームと、「基準画像」との間で、式(3)に基づいて二次元の相互相関を算出し、いずれか1つのフレームを「比較画像」として抽出する処理を行う。
【0041】
超音波速度変化解析部23は、
図9で説明した従来例と同様の原理・方法で、抽出した「基準画像」および「比較画像」に対応する超音波エコー信号(データ記憶部15に記憶されたそれぞれ1フレーム分の超音波エコー信号)の部分区間ごとに加温前後の超音波エコー信号の波形シフト量(Δτ)の計算を行い、また、測定領域内の組織の境界間のパルス間隔(τ)を算出する処理を行う。そして式(2)に基づいて、各部位の超音波速度比(V’/V)を算出する処理を行い、さらに超音波速度比の算出結果に基づいて超音波速度変化画像を形成し、画像表示制御部(DSC)16に書き込む。
【0042】
脂肪領域検出部24は、算出された各部位の超音波速度比(V’/V)に基づいて、この値が1より小さい部位を脂肪領域と判定する。そして脂肪領域画像をそれ以外の領域と区別できるようにして(例えば色分け)、画像表示制御部(DSC)16に書き込む。
【0043】
画像表示制御部(DSC)16は、処理部21、超音波速度変化解析部23、脂肪領域検出部24により書き込まれた画像データを、液晶パネル等の表示装置17に画像表示する制御を行う。
【0044】
(測定動作)
次に、脂肪診断装置1による肝臓(脂肪肝)の測定動作手順の一例について
図3のフローチャートを用いて説明する。
【0045】
スイッチ部13を超音波送受機構11につながる「診断側端子」に切り換えておき、プローブ2の振動子Sを被検体の肋骨の間から測定領域である肝臓に向けてセットする(S11)。
そして測定位置を微調整するための事前観察を行う。このとき「動画モード」で観察してもよいが、最終的には、鮮明画像で測定位置を探す方が望ましいので、走査本数を間引かずに撮影したBモード画像(静止画像)により測定領域を確認する。
【0046】
続いて「動画モード」で、加温前の超音波エコー信号の測定を行う(S12)。すなわち被検体に生じている周期変動の一周期内での複数フレーム分の超音波エコー信号が取得されるように、周期変動の一周期よりも長い期間、超音波パルス波信号を繰り返し送波するとともに、被検体から反射してくる超音波エコー信号を受波する。
このとき送波および受波を振動子ごとに走査してもよいし、隣接する複数個の振動子ごとに走査し、いわゆる位相合成を行うようにして特定の深さ位置に測定領域を集中させてもよい。取得した複数フレーム分の「加温前超音波エコー信号」を記憶するとともに、Bモード画像群(Bモード動画)を形成し、画像表示制御部(DSC)16を介して表示装置17に表示する。
【0047】
続いて、加温前超音波エコー信号を取得した位置から動かさずに、スイッチ部13を連続波電源機構12につながる「加温側端子」に切り換え、超音波連続波を全振動子から照射して測定領域が2℃程度上昇するまで加温する(S13)。
【0048】
続いて、測定領域が加温状態で安定すると、「動画モード」で加温後の超音波エコー信号の測定を行う(S14)。すなわち、加温を停止するとともにスイッチ部13を「診断側端子」に切り換える。そして加温停止直後で温度が降下する前に、S12と同じ測定条件にして、再び超音波パルス波信号を繰り返し送波するとともに、被検体から反射してくる超音波エコー信号を受波し、複数フレーム分の「加温後超音波エコー信号」を記憶するとともにBモード画像群(Bモード動画)を形成して表示装置17に表示する。
なお、加温停止の入力操作を行うだけで、加温停止直後の超音波パルス波信号の送波、および、超音波エコー信号の受波までの一連の動作が連動して行われるようにするための制御シーケンスを装置に組み込んでおくことにより、ここでの操作が確実かつ安定して行えるようになる。
【0049】
続いて、温度変化前(加温前)のBモード画像群(Bモード動画)のなかから基準画像を抽出する(S15)。
すなわち、加温前のBモード画像群に含まれるBモード画像のフレーム間で式(3)による相互相関R
ZNCCを算出する。
具体的には、
図4に示すように、Bモード画像群に含まれるBモード画像をF(1),F(2),・・・,F(n−1),F(n),F(n+1),・・・としたときに、F(1)とF(2)との相互相関R
ZNCC(1)、F(2)とF(3)との相互相関R
ZNCC(2)、・・・、F(n−1)とF(n)との相互相関R
ZNCC(n−1)、F(n)とF(n+1)との相互相関R
ZNCC(n)、・・・を順次算出する。既述のように、R
ZNCCは、−1<R
ZNCC<1の間の値となり、1に近いほど高い相関性を有し、2つの画像の類似性が高くなる。換言すればR
ZNCCが1に近いほど、2つの画像間の変化が小さい画像になる(静止画像に近づく)。よって相互相関R
ZNCCが最も1に近いものを選択することで、変化の小さい画像を基準画像として選択することができる。
【0050】
なお、上述した相互相関R
ZNCCで基準画像を選択してもよいが、さらに画像間の安定性を求めたい場合には、次式(4)に示す2つの連続する相互相関R
ZNCCどうしの和SR(n)を算出してもよい。
SR(n)=R
ZNCC(n)+R
ZNCC(n+1) ・・・(4)
【0051】
このSR(n)は、−2<R
ZNCC<2の間の値となり、2に近いほど高い相関性を有し、連続する3フレームの画像の類似性が高くなる。換言すればSR(n)が2に近いほど、3つの画像間の変化が小さい画像になる。よって相互相関R
ZNCCどうしの和SR(n)が最も2に近いものを選択することで、3フレーム分連続して変化の小さい画像を基準画像として選択することができる。
【0052】
図5はウサギを用いた動物実験での相互相関の和SR(n)の算出例を示す図である。図において、横軸は加温前の超音波エコー信号から形成した連続するBモード画像群のフレーム番号であり、縦軸はSR(n)の値である。
この図では、大きい振幅の変動が約4.5周期分含まれ、これに小さい振幅で小さい周期の変動が重畳している。大きい振幅の変動は呼吸による変動であり、小さい変動は鼓動による変動である。約4.5周期の周期変動中に600フレーム分のBモード画像が形成されている。
大きい振幅の変動のうちSR(n)の値が2近くまで上昇して(小さい振幅(鼓動)の影響を除いて)しばらく2近くを持続している期間は、息を吐いてから吐き切るまでの期間を現し、SR(n)の値が1.5〜1.7くらいまで上昇しピーク直後に急降下する瞬間は、息を吸い切った瞬間を現している。
【0053】
この例では息を吐き切るまでの期間中であって、しかも鼓動が拡張し終えた瞬間、あるいは収縮し終えた瞬間の静止期間のSRの値が2近くまで上昇して画像として最も安定していることを示している。
よって、SRの値が2に近い値を実際に選択することによって、画像変化の小さい最も静止した状態に近い画像を「基準画像」(以下F(S)とする)として抽出することができる。
【0054】
続いて、温度変化後(加温後)のBモード画像群(Bモード動画)のなかから比較画像を抽出する(S16)。すなわち、加温後のBモード画像群に含まれるBモード画像の各フレームと、基準画像F(S)との間で、式(3)による相互相関R
ZNCCを算出する。
具体的には、
図6に示すように、加温後のBモード画像群に含まれるBモード画像をG(1),G(2),・・,G(n),・・・としたときに、G(1)とF(S)との相互相関R
ZNCC(1S)、G(2)とF(S)との相互相関R
ZNCC(2S)、・・・、G(n)とF(S)との相互相関R
ZNCC(nS)、・・・を順次算出する。この場合もR
ZNCCが1に近いほど、2つの画像間の変化が小さい画像(類似画像)になる。よって相互相関R
ZNCCが最も1に近いものを選択することで基準画像に類似する画像を「比較画像」(以下G(S)とする)として抽出することができる。
【0055】
図7はウサギを用いた動物実験での基準画像との相互相関R
ZNCC(nS)の算出例を示す図である。図において、横軸は加温後の超音波エコー信号から形成した連続するBモード画像のフレーム番号であり、縦軸はR
ZNCC(nS)の値である。
この図でも大きい振幅の変動は呼吸による変動であり、小さい変動は鼓動による変動である。大きい振幅の呼吸の変動の周期ごとにR
ZNCC(nS)の値が0.8〜1近くまで上昇してピークをなしている。ピーク位置が0.8〜1で変動するのは鼓動の影響であり、呼吸と鼓動との双方が同期したときに最も1に近づくようになる。
よって、R
ZNCC(nS)の値が1に近いピークでのフレームを選択することによって、基準画像に近い状態での画像を「比較画像」(以下G(S)とする)として抽出することができる。
【0056】
続いて、基準画像F(S)に対応する超音波エコー信号、比較画像G(S)に対応する超音波エコー信号を読み出し、パルス間隔(τ)、波形シフト量(Δτ)を求め、式(2)による演算を行って超音波速度変化を算出する(S17)。そして、算出した超音波速度変化データから超音波速度変化画像を作成して表示装置に表示する。
【0057】
続いて、算出された超音波速度変化のデータから超音波速度比(V’/V)が1よりも小さい領域を検出して、この領域を脂肪領域と判定する。そして脂肪領域が表示装置に表示されるように画像表示制御部(DSC)16に書き込む。(S18)。
以上の動作を行うことにより、脂肪領域が表示された画像が表示装置17に表示され、これにより脂肪診断結果が表示される。
【0058】
(実施例)
図8は脂肪領域を色分けした超音波速度変化画像の一例を示す図であり、
図8(a)は上述した手順で基準画像F(S)と比較画像G(S)とを抽出して作成した超音波速度変化画像を示す。一方、
図8(b)は周期変動を無視して加温前後にランダムに抽出したフレーム(呼吸、鼓動の同期がとれていない状態)で作成した超音波画像を示している。なお、
図8(c)は基準画像F(S)となるBモード画像である。
図8(a)では周期変動に対する同期(移動補償)が十分にとれて脂肪領域が鮮明に現れているのに対し、
図8(b)では不鮮明が画像しか得られていない。
このように本発明によれば、呼吸や鼓動による周期変動の影響を除くことができ、これにより鮮明な画像で脂肪診断を行うことができるようになる。
【0059】
(変形例)
本発明は上記実施形態に限られず、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、様々に変形実施することができる。
例えば、上記実施形態では、先に加温前のエコー信号として取得するようにして、その後に超音波で加温し、加温停止直後に加温後超音波エコー信号を取得するようにしたが、これに代えて、Bモード画像を観察して測定位置を決定した後、先に加温を行い、所望の温度に加温された後に、加温停止直後の加温後超音波エコー信号を取得し、続いて温度が平温に戻った状態で非加温時の超音波エコー信号を取得し、これを加温前エコー信号としてもよい。このようにすれば測定に要する手間・時間は増えるが、加温したときには体温上昇を防ぐために血管が拡張して血流が増大することになる。血流の増大により温度変化が急峻になるので、温度降下時の測定の方が温度上昇時よりも時間あたりの温度変化が大きくなり、安定した測定が行えるようになる。
【0060】
また、上記実施形態では温度変化前(加温前)のBモード画像群から基準画像を選択し、温度変化後(加温後)のBモード画像群から比較画像を選択するようにしたが、これらを入れ替えてもよい。
【0061】
また、上記実施形態では「基準画像」の抽出に、式(4)で示した2項の相互相関R
ZNCCの和SR(n)を用いたが、さらに項数を増やして3項以上の相互相関R
ZNCCの和を用いるようにしてもよい。
例えば3項の相互相関の和を用いることで、4フレーム分の連続する画像間での変化の小さい画像を基準画像として選択することができる。
【0062】
また、上記実施形態では超音波エネルギーによる加温を行っているが、測定領域の深度によっては光照射等の方法による加温を行ってもよい。