【解決手段】車両の車両本体と車輪との相対位置を変更可能なフロントフォーク,リヤサスペンションと、フロントフォーク,リヤサスペンションを制御して相対位置を変更することで車両本体の高さである車高を調整する制御装置50と、を備え、制御装置50は、停止時目標車高への車高変化速度を車両の減速度に基づいて変化させる。
前記制御手段は、前記車両の車速及び減速度に基づいて予想停車時間を予想し、当該予想停車時間から所定時間前後させた車高低下完了時間に基づいて前記車高変化速度を変化させる
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の車高調整装置。
前記制御手段は、前記車両の車速及び減速度に基づいて予想停車時間を予想し、当該予想停車時間から所定時間前後させた車高低下完了時間に基づいて前記車高変化速度及び前記下降基準車速を変化させる
ことを特徴とする請求項2に記載の車高調整装置。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、添付図面を参照して、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
図1は、実施の形態に係る自動二輪車1の概略構成を示す図である。
自動二輪車1は、
図1に示すように、車体フレーム11と、この車体フレーム11の前端部に取り付けられているヘッドパイプ12と、このヘッドパイプ12に設けられた2つのフロントフォーク13と、この2つのフロントフォーク13の下端に取り付けられた前輪14と、を有している。2つのフロントフォーク13は、前輪14の左側と右側にそれぞれ1つずつ配置されている。
図1では、右側に配置されたフロントフォーク13のみを示している。このフロントフォーク13の具体的構成については後で詳述する。
また、自動二輪車1は、フロントフォーク13の上部に取り付けられたハンドル15と、車体フレーム11の前上部に取り付けられた燃料タンク16と、この燃料タンク16の下方に配置されたエンジン17および変速機18と、を有している。
【0011】
また、自動二輪車1は、車体フレーム11の後上部に取り付けられたシート19と、車体フレーム11の下部にスイング自在に取り付けられたスイングアーム20と、このスイングアーム20の後端に取り付けられた後輪21と、スイングアーム20の後部(後輪21)と車体フレーム11の後部との間に取り付けられた1つ又は2つのリヤサスペンション22と、を有している。1つ又は2つのリヤサスペンション22は、後輪21の左側と右側にそれぞれ1つずつ配置されている。
図1では、右側に配置されたリヤサスペンション22のみを示している。このリヤサスペンション22の具体的構成については後で詳述する。
【0012】
また、自動二輪車1は、ヘッドパイプ12の前方に配置されたヘッドランプ23と、前輪14の上部を覆うようにフロントフォーク13に取り付けられたフロントフェンダ24と、シート19の後方に配置されたテールランプ25と、このテールランプ25の下方に後輪21の上部を覆うように取り付けられたリヤフェンダ26と、を有している。また、自動二輪車1は、前輪14の回転を停止するブレーキ27を有している。
【0013】
また、自動二輪車1は、前輪14の回転角度を検出する前輪回転検出センサ31と、後輪21の回転角度を検出する後輪回転検出センサ32と、を有している。また、自動二輪車1は、シート19などに乗員が乗車したり荷物が載せられたりすることに起因して車体フレーム11から前輪14および後輪21に生じる荷重を検出する荷重検出センサ33を有している。
また、自動二輪車1は、フロントフォーク13の後述する前輪側電磁弁270およびリヤサスペンション22の後述する後輪側電磁弁170の開度を制御することで自動二輪車1の車高を制御する制御手段の一例としての制御装置50を備えている。制御装置50は、前輪側電磁弁270および後輪側電磁弁170の開度を制御することで自動二輪車1の車高を制御する。制御装置50には、上述した前輪回転検出センサ31、後輪回転検出センサ32、荷重検出センサ33などからの出力信号が入力される。
【0014】
次に、リヤサスペンション22について詳述する。
図2は、リヤサスペンション22の断面図である。
リヤサスペンション22は、自動二輪車1の車両本体の一例としての車体フレーム11と後輪21との間に取り付けられている。そして、リヤサスペンション22は、自動二輪車1の車重を支えて衝撃を吸収するスプリングの一例としての後輪側懸架スプリング110と、後輪側懸架スプリング110の振動を減衰するダンパの一例としての後輪側ダンパ120と、を備えている。また、リヤサスペンション22は、後輪側懸架スプリング110のバネ力を調整することで車体フレーム11と後輪21との相対的な位置である後輪側相対位置を変更可能な後輪側相対位置変更装置140と、この後輪側相対位置変更装置140に液体を供給する後輪側液体供給装置160と、を備えている。また、リヤサスペンション22は、このリヤサスペンション22を車体フレーム11に取り付けるための車体側取付部材184と、リヤサスペンション22を後輪21に取り付けるための車軸側取付部材185と、車軸側取付部材185に取り付けられて後輪側懸架スプリング110における中心線方向の一方の端部(
図2においては下部)を支持するばね受け190と、を備えている。リヤサスペンション22は、車体フレーム11と後輪21との相対的な位置を変更する変更手段の一例として機能する。
【0015】
後輪側ダンパ120は、
図2に示すように、薄肉円筒状の外シリンダ121と、外シリンダ121内に収容される薄肉円筒状の内シリンダ122と、円筒状の外シリンダ121の円筒の中心線方向(
図2では上下方向)の一方の端部(
図2では下部)を塞ぐ底蓋123と、内シリンダ122の中心線方向の他方の端部(
図2では上部)を塞ぐ上蓋124と、を有するシリンダ125を備えている。以下では、外シリンダ121の円筒の中心線方向を、単に「中心線方向」と称す。
【0016】
また、後輪側ダンパ120は、中心線方向に移動可能に内シリンダ122内に挿入されたピストン126と、中心線方向に延びるとともに中心線方向の他方の端部(
図2では上部)でピストン126を支持するピストンロッド127と、を備えている。ピストン126は、内シリンダ122の内周面に接触し、シリンダ125内の液体(本実施の形態においてはオイル)が封入された空間を、ピストン126よりも中心線方向の一方の端部側の第1油室131と、ピストン126よりも中心線方向の他方の端部側の第2油室132とに区分する。ピストンロッド127は、円筒状の部材であり、その内部に後述するパイプ161が挿入されている。
【0017】
また、後輪側ダンパ120は、ピストンロッド127における中心線方向の他方の端部側に配置された第1減衰力発生装置128と、内シリンダ122における中心線方向の他方の端部側に配置された第2減衰力発生装置129とを備えている。第1減衰力発生装置128および第2減衰力発生装置129は、後輪側懸架スプリング110による路面からの衝撃力の吸収に伴うシリンダ125とピストンロッド127との伸縮振動を減衰する。第1減衰力発生装置128は、第1油室131と第2油室132との間の連絡路として機能するように配置されており、第2減衰力発生装置129は、第2油室132と後輪側相対位置変更装置140の後述するジャッキ室142との間の連絡路として機能するように配置されている。
【0018】
後輪側液体供給装置160は、シリンダ125に対するピストンロッド127の伸縮動によりポンピング動作して後輪側相対位置変更装置140の後述するジャッキ室142内に液体を供給する装置である。
後輪側液体供給装置160は、後輪側ダンパ120の上蓋124に中心線方向に延びるように固定された円筒状のパイプ161を有している。パイプ161は、円筒状のピストンロッド127の内部であるポンプ室162内に同軸的に挿入されている。
【0019】
また、後輪側液体供給装置160は、シリンダ125およびパイプ161に進入する方向のピストンロッド127の移動により加圧されたポンプ室162内の液体を後述するジャッキ室142側へ吐出させる吐出用チェック弁163と、シリンダ125およびパイプ161から退出する方向のピストンロッド127の移動により負圧になるポンプ室162にシリンダ125内の液体を吸い込む吸込用チェック弁164とを有する。
【0020】
図3(a)および
図3(b)は、後輪側液体供給装置160の作用を説明するための図である。
以上のように構成された後輪側液体供給装置160は、自動二輪車1が走行してリヤサスペンション22が路面の凹凸により力を受けると、ピストンロッド127がシリンダ125およびパイプ161に進退する伸縮動によりポンピング動作する。このポンピング動作により、ポンプ室162が加圧されると、ポンプ室162内の液体が吐出用チェック弁163を開いて後輪側相対位置変更装置140のジャッキ室142側へ吐出され(
図3(a)参照)、ポンプ室162が負圧になると、シリンダ125の第2油室132内の液体が吸込用チェック弁164を開いてポンプ室162に吸い込まれる(
図3(b)参照)。
【0021】
後輪側相対位置変更装置140は、後輪側ダンパ120のシリンダ125の外周を覆うように配置されて後輪側懸架スプリング110における中心線方向の他方の端部(
図3では上部)を支持する支持部材141と、シリンダ125における中心線方向の他方の端部側(
図3では上側)の外周を覆うように配置されて支持部材141とともにジャッキ室142を形成する油圧ジャッキ143とを有している。作動油室の一例としてのジャッキ室142内にシリンダ125内の液体が充填されたり、ジャッキ室142内から液体が排出されたりすることで、支持部材141が油圧ジャッキ143に対して中心線方向に移動する。そして、油圧ジャッキ143には、上部に車体側取付部材184が取り付けられており、支持部材141が油圧ジャッキ143に対して中心線方向に移動することで後輪側懸架スプリング110のバネ力が変わり、その結果、後輪21に対するシート19の相対的な位置が変わる。
【0022】
また、後輪側相対位置変更装置140は、ジャッキ室142と油圧ジャッキ143に形成された液体溜室143aとの間の流体の流通経路上に設けられて、ジャッキ室142に供給された液体をジャッキ室142に溜めるように閉弁するとともに、ジャッキ室142に供給された液体を、油圧ジャッキ143に形成された液体溜室143aに排出するように開弁する電磁弁(ソレノイドバルブ)である後輪側電磁弁170を有している。後輪側電磁弁170については後で詳述する。なお、液体溜室143aに排出された液体は、シリンダ125内に戻される。
【0023】
図4(a)および
図4(b)は、後輪側相対位置変更装置140による車高調整を説明するための図である。
後輪側電磁弁170が全開状態から少しでも閉じた状態のときに、後輪側液体供給装置160によりジャッキ室142内に液体が供給されるとジャッキ室142内に液体が充填され、支持部材141が油圧ジャッキ143に対して中心線方向の一方の端部側(
図4(a)では下側)に移動し、後輪側懸架スプリング110のバネ長が短くなる(
図4(a)参照)。他方、後輪側電磁弁170が全開になるとジャッキ室142内の液体は液体溜室143aに排出され、支持部材141が油圧ジャッキ143に対して中心線方向の他方の端部側(
図4(b)では上側)に移動し、後輪側懸架スプリング110のバネ長が長くなる(
図4(b)参照)。
【0024】
支持部材141が油圧ジャッキ143に対して移動することで後輪側懸架スプリング110のバネ長が短くなると、支持部材141が油圧ジャッキ143に対して移動する前と比べて後輪側懸架スプリング110が支持部材141を押すバネ力が大きくなる。その結果、車体フレーム11から後輪21側へ力が作用したとしても両者の相対位置を変化させない初期セット荷重が切り替わる。かかる場合、車体フレーム11(シート19)側から中心線方向の一方の端部側(
図4(a)および
図4(b)では下側)に同じ力が作用した場合には、リヤサスペンション22の沈み込み量(車体側取付部材184と車軸側取付部材185との間の距離の変化)が小さくなる。それゆえ、支持部材141が油圧ジャッキ143に対して移動することで後輪側懸架スプリング110のバネ長が短くなると、支持部材141が油圧ジャッキ143に対して移動する前と比べて、シート19の高さが上昇する(車高が高くなる)。つまり、後輪側電磁弁170の開度が小さくなることで車高が高くなる。
【0025】
他方、支持部材141が油圧ジャッキ143に対して移動することで後輪側懸架スプリング110のバネ長が長くなると、支持部材141が油圧ジャッキ143に対して移動する前と比べて後輪側懸架スプリング110が支持部材141を押すバネ力が小さくなる。かかる場合、車体フレーム11(シート19)側から中心線方向の一方の端部側(
図4(a)および
図4(b)では下側)に同じ力が作用した場合には、リヤサスペンション22の沈み込み量(車体側取付部材184と車軸側取付部材185との間の距離の変化)が大きくなる。それゆえ、支持部材141が油圧ジャッキ143に対して移動することで後輪側懸架スプリング110のバネ長が長くなると、支持部材141が油圧ジャッキ143に対して移動する前と比べて、シート19の高さが下降する(車高が低くなる)。つまり、後輪側電磁弁170の開度が大きくなるに応じて車高が低くなる。
なお、後輪側電磁弁170は、制御装置50によりその開度が制御される。
また、後輪側電磁弁170が開いたときに、ジャッキ室142に供給された液体を排出する先は、シリンダ125内の第1油室131および/または第2油室132であってもよい。
【0026】
また、
図2に示すように、シリンダ125の外シリンダ121には、支持部材141が油圧ジャッキ143に対して中心線方向の一方の端部側(
図2では下側)に予め定められた限界位置まで移動したときに、ジャッキ室142内の液体をシリンダ125内まで戻す戻し路121aが形成されている。
図5は、車高が維持されるメカニズムを示す図である。
戻し路121aにより、後輪側電磁弁170が全閉しているときにジャッキ室142内に液体が供給され続けても、供給された液体がシリンダ125内に戻されるので油圧ジャッキ143に対する支持部材141の位置、ひいてはシート19の高さ(車高)が維持される。
【0027】
なお、以下では、後輪側電磁弁170が全開となり、支持部材141の油圧ジャッキ143に対する移動量が最小(零)であるときのリヤサスペンション22の状態を最小状態、後輪側電磁弁170が全閉となり、支持部材141の油圧ジャッキ143に対する移動量が最大となったときのリヤサスペンション22の状態を最大状態と称す。
【0028】
また、リヤサスペンション22は、後輪側相対位置検出部195(
図11参照)を有している。後輪側相対位置検出部195としては、油圧ジャッキ143に対する支持部材141の中心線方向への移動量、言い換えれば車体側取付部材184に対する支持部材141の中心線方向への移動量を検出する物であることを例示することができる。具体的には、支持部材141の外周面にコイルを巻くとともに、油圧ジャッキ143を磁性体とし、油圧ジャッキ143に対する支持部材141の中心線方向への移動に応じて変化するコイルのインピーダンスに基づいて支持部材141の移動量を検出する物であることを例示することができる。
【0029】
次に、フロントフォーク13について詳述する。
図6は、フロントフォーク13の断面図である。
フロントフォーク13は、車体フレーム11と前輪14との間に取り付けられている。そして、フロントフォーク13は、自動二輪車1の車重を支えて衝撃を吸収するスプリングの一例としての前輪側懸架スプリング210と、前輪側懸架スプリング210の振動を減衰するダンパの一例としての前輪側ダンパ220と、を備えている。また、フロントフォーク13は、前輪側懸架スプリング210のバネ力を調整することで車体フレーム11と前輪14との相対的な位置である前輪側相対位置を変更可能な前輪側相対位置変更装置240と、この前輪側相対位置変更装置240に液体を供給する前輪側液体供給装置260と、を備えている。また、フロントフォーク13は、このフロントフォーク13を前輪14に取り付けるための車軸側取付部285と、フロントフォーク13をヘッドパイプ12に取り付けるためのヘッドパイプ側取付部(不図示)と、を備えている。フロントフォーク13は、車体フレーム11と前輪14との相対的な位置を変更する変更手段の一例として機能する。
【0030】
前輪側ダンパ220は、
図6に示すように、薄肉円筒状の外シリンダ221と、円筒状の外シリンダ221の中心線方向(
図6では上下方向)の他方の端部(
図6では上部)から一方の端部(
図6では下部)が挿入された薄肉円筒状の内シリンダ222と、外シリンダ221の中心線方向の一方の端部(
図6では下部)を塞ぐ底蓋223と、内シリンダ222の中心線方向の他方の端部(
図6では上部)を塞ぐ上蓋224と、を有するシリンダ225を備えている。内シリンダ222は、外シリンダ221に対して摺動可能に挿入されている。
【0031】
また、前輪側ダンパ220は、中心線方向に延びるように底蓋223に取り付けられたピストンロッド227を備えている。ピストンロッド227は、中心線方向に延びる円筒状の円筒状部227aと、円筒状部227aにおける中心線方向の他方の端部(
図6では上部)に設けられた円板状のフランジ部227bとを有する。
また、前輪側ダンパ220は、内シリンダ222における中心線方向の一方の端部側(
図6では下部側)に固定されるとともに、ピストンロッド227の円筒状部227aの外周に対して摺動可能なピストン226を備えている。ピストン226は、ピストンロッド227の円筒状部227aの外周面に接触し、シリンダ225内の液体(本実施の形態においてはオイル)が封入された空間を、ピストン226よりも中心線方向の一方の端部側の第1油室231と、ピストン226よりも中心線方向の他方の端部側の第2油室232とに区分する。
【0032】
また、前輪側ダンパ220は、ピストンロッド227の上方に設けられてピストンロッド227の円筒状部227aの開口を覆う覆い部材230を備えている。覆い部材230は、前輪側懸架スプリング210における中心線方向の一方の端部(
図6では下部)を支持する。そして、前輪側ダンパ220は、内シリンダ222内における覆い部材230よりも中心線方向の他方の端部側の空間およびピストンロッド227の円筒状部227aの内部の空間に形成された油溜室233を有している。油溜室233は、常に第1油室231および第2油室232と連通している。
【0033】
また、前輪側ダンパ220は、ピストン226に設けられた第1減衰力発生部228と、ピストンロッド227に形成された第2減衰力発生部229とを備えている。第1減衰力発生部228および第2減衰力発生部229は、前輪側懸架スプリング210による路面からの衝撃力の吸収に伴う内シリンダ222とピストンロッド227との伸縮振動を減衰する。第1減衰力発生部228は、第1油室231と第2油室232との間の連絡路として機能するように配置されており、第2減衰力発生部229は、第1油室231、第2油室232と油溜室233との間の連絡路として機能するように形成されている。
【0034】
前輪側液体供給装置260は、内シリンダ222に対するピストンロッド227の伸縮動によりポンピング動作して前輪側相対位置変更装置240の後述するジャッキ室242内に液体を供給する装置である。
前輪側液体供給装置260は、前輪側ダンパ220の覆い部材230に中心線方向に延びるように固定された円筒状のパイプ261を有している。パイプ261は、後述する前輪側相対位置変更装置240の支持部材241の下側円筒状部241aの内部であるポンプ室262内に同軸的に挿入されている。
【0035】
また、前輪側液体供給装置260は、内シリンダ222に進入する方向のピストンロッド227の移動により加圧されたポンプ室262内の液体を後述するジャッキ室242側へ吐出させる吐出用チェック弁263と、内シリンダ222から退出する方向のピストンロッド227の移動により負圧になるポンプ室262に油溜室233内の液体を吸い込む吸込用チェック弁264とを有する。
【0036】
図7(a)および
図7(b)は、前輪側液体供給装置260の作用を説明するための図である。
以上のように構成された前輪側液体供給装置260は、自動二輪車1が走行してフロントフォーク13が路面の凹凸により力を受けて、ピストンロッド227が内シリンダ222に進退すると、パイプ261が前輪側相対位置変更装置240の支持部材241に進退することによりポンピング動作する。このポンピング動作により、ポンプ室262が加圧されると、ポンプ室262内の液体が吐出用チェック弁263を開いて前輪側相対位置変更装置240のジャッキ室242側へ吐出され(
図7(a)参照)、ポンプ室262が負圧になると、油溜室233内の液体が吸込用チェック弁264を開いてポンプ室262に吸い込まれる(
図7(b)参照)。
【0037】
前輪側相対位置変更装置240は、前輪側ダンパ220の内シリンダ222内に配置されるとともに、円板状のスプリング受け244を介して前輪側懸架スプリング210における中心線方向の他方の端部(
図7では上部)を支持する支持部材241を備えている。支持部材241は、中心線方向の一方の端部側(
図7では下側)において円筒状に形成された下側円筒状部241aと、中心線方向の他方の端部側(
図7では上側)において円筒状に形成された上側円筒状部241bとを有している。下側円筒状部241aには、パイプ261が挿入される。
【0038】
また、前輪側相対位置変更装置240は、支持部材241の上側円筒状部241b内に嵌め込まれて支持部材241とともにジャッキ室242を形成する油圧ジャッキ243を有している。作動油室の一例としてのジャッキ室242内にシリンダ225内の液体が充填されたり、ジャッキ室242内から液体が排出されたりすることで、支持部材241が油圧ジャッキ243に対して中心線方向に移動する。そして、油圧ジャッキ243には、上部にヘッドパイプ側取付部(不図示)が取り付けられており、支持部材241が油圧ジャッキ243に対して中心線方向に移動することで前輪側懸架スプリング210のバネ力が変わり、その結果、前輪14に対するシート19の相対的な位置が変わる。
【0039】
また、前輪側相対位置変更装置240は、ジャッキ室242と油溜室233との間の流体の流通経路上に設けられて、ジャッキ室242に供給された液体をジャッキ室242に溜めるように閉弁するとともに、ジャッキ室242に供給された液体を油溜室233に排出するように開弁する電磁弁(ソレノイドバルブ)である前輪側電磁弁270を有している。前輪側電磁弁270については後で詳述する。
【0040】
図8(a)および
図8(b)は、前輪側相対位置変更装置240による車高調整を説明するための図である。
前輪側電磁弁270が全開状態から少しでも閉じた状態のときに、前輪側液体供給装置260によりジャッキ室242内に液体が供給されるとジャッキ室242内に液体が充填され、支持部材241が油圧ジャッキ243に対して中心線方向の一方の端部側(
図8(a)では下側)に移動し、前輪側懸架スプリング210のバネ長が短くなる(
図8(a)参照)。他方、前輪側電磁弁270が全開になるとジャッキ室242内の液体は油溜室233に排出され、支持部材241が油圧ジャッキ243に対して中心線方向の他方の端部側(
図8(b)では上側)に移動し、前輪側懸架スプリング210のバネ長が長くなる(
図8(b)参照)。
【0041】
支持部材241が油圧ジャッキ243に対して移動することで前輪側懸架スプリング210のバネ長が短くなると、支持部材241が油圧ジャッキ243に対して移動する前と比べて前輪側懸架スプリング210が支持部材241を押すバネ力が大きくなる。その結果、車体フレーム11から前輪14側へ力が作用したとしても両者の相対位置を変化させない初期セット荷重が切り替わる。かかる場合、車体フレーム11(シート19)側から中心線方向の一方の端部側(
図8(a)および
図8(b)では下側)に同じ力が作用した場合には、フロントフォーク13の沈み込み量(ヘッドパイプ側取付部(不図示)と車軸側取付部285との間の距離の変化)が小さくなる。それゆえ、支持部材241が油圧ジャッキ243に対して移動することで前輪側懸架スプリング210のバネ長が短くなると、支持部材241が油圧ジャッキ243に対して移動する前と比べて、シート19の高さが上昇する(車高が高くなる)。つまり、前輪側電磁弁270の開度が小さくなることで車高が高くなる。
【0042】
他方、支持部材241が油圧ジャッキ243に対して移動することで前輪側懸架スプリング210のバネ長が長くなると、支持部材241が油圧ジャッキ243に対して移動する前と比べて前輪側懸架スプリング210が支持部材241を押すバネ力が小さくなる。かかる場合、車体フレーム11(シート19)側から中心線方向の一方の端部側(
図8(a)および
図8(b)では下側)に同じ力が作用した場合には、フロントフォーク13の沈み込み量(ヘッドパイプ側取付部(不図示)と車軸側取付部285との間の距離の変化)が大きくなる。それゆえ、支持部材241が油圧ジャッキ243に対して移動することで前輪側懸架スプリング210のバネ長が長くなると、支持部材241が油圧ジャッキ243に対して移動する前と比べて、シート19の高さが下降する(車高が低くなる)。つまり、前輪側電磁弁270の開度が大きくなるに応じて車高が低くなる。
なお、前輪側電磁弁270は、制御装置50によりその開度が制御される。
また、前輪側電磁弁270が開いたときに、ジャッキ室242に供給された液体を排出する先は、第1油室231および/または第2油室232であってもよい。
【0043】
図9は、車高が維持されるメカニズムを示す図である。
油圧ジャッキ243の外周面には、
図9に示すように、支持部材241が油圧ジャッキ243に対して中心線方向の一方の端部側(
図8(a)および
図8(b)では下側)に予め定められた限界位置まで移動したときに、ジャッキ室242内の液体を油溜室233内まで戻す戻し路(不図示)が形成されている。
戻し路により、前輪側電磁弁270が閉弁しているときにジャッキ室242内に液体が供給され続けても、供給された液体が油溜室233内に戻されるので油圧ジャッキ243に対する支持部材241の位置、ひいてはシート19の高さ(車高)が維持される。
【0044】
なお、以下では、前輪側電磁弁270が全開となり、支持部材241の油圧ジャッキ243に対する移動量が最小(零)であるときのフロントフォーク13の状態を最小状態、前輪側電磁弁270が全閉となり、支持部材241の油圧ジャッキ243に対する移動量が最大となったときのフロントフォーク13の状態を最大状態と称す。
【0045】
また、フロントフォーク13は、前輪側相対位置検出部295(
図11参照)を有している。前輪側相対位置検出部295としては、油圧ジャッキ243に対する支持部材241の中心線方向への移動量、言い換えればヘッドパイプ側取付部に対する支持部材241の中心線方向への移動量を検出する物であることを例示することができる。具体的には、半径方向の位置では内シリンダ222の外周面であって、中心線方向の位置では支持部材241に対応する位置にコイルを巻くとともに、支持部材241を磁性体とし、油圧ジャッキ243に対する支持部材241の中心線方向への移動に応じて変化するコイルのインピーダンスに基づいて支持部材241の移動量を検出する物であることを例示することができる。
【0046】
次に、前輪側相対位置変更装置240の前輪側電磁弁270および後輪側相対位置変更装置140の後輪側電磁弁170の概略構成について説明する。
図10(a)は、前輪側電磁弁270の概略構成を示す図であり、
図10(b)は、後輪側電磁弁170の概略構成を示す図である。
前輪側電磁弁270は、いわゆるノーマルオープンタイプの電磁弁であり、
図10(a)に示すように、コイル271を巻いたボビン272と、ボビン272の中空部272aに固定された棒状の固定鉄心273と、コイル271とボビン272と固定鉄心273を支持するホルダ274と、固定鉄心273の先端(端面)に対応して配置され、固定鉄心273に吸引される略円板状の可動鉄心275と、を備えている。また、前輪側電磁弁270は、可動鉄心275の先端中央に固定された弁体276と、ホルダ274と組み合わされるボディ277と、ボディ277に形成され、弁体276が配置される弁室278と、ボディ277に形成された開口部を覆うとともにボディ277と協働して弁室278を形成する覆い部材279と、弁体276と覆い部材279との間に配置されたコイルスプリング280と、を備えている。また、前輪側電磁弁270は、ボディ277に形成され、弁体276に対応して弁室278に配置された弁座281と、ボディ277に形成され、ジャッキ室242(
図9参照)から弁室278に流体を導入する導入流路282と、ボディ277に形成され、弁室278から弁座281を経由して油溜室233の方へ流体を導出する導出流路283と、を備えている。なお、前輪側電磁弁270は、ノーマルクローズタイプの電磁弁であってもよい。
【0047】
後輪側電磁弁170は、いわゆるノーマルオープンタイプの電磁弁であり、
図10(b)に示すように、コイル171を巻いたボビン172と、ボビン172の中空部172aに固定された棒状の固定鉄心173と、コイル171とボビン172と固定鉄心173を支持するホルダ174と、固定鉄心173の先端(端面)に対応して配置され、固定鉄心173に吸引される略円板状の可動鉄心175と、を備えている。また、後輪側電磁弁170は、可動鉄心175の先端中央に固定された弁体176と、ホルダ174と組み合わされるボディ177と、ボディ177に形成され、弁体176が配置される弁室178と、ボディ177に形成された開口部を覆うとともにボディ177と協働して弁室178を形成する覆い部材179と、弁体176と覆い部材179との間に配置されたコイルスプリング180と、を備えている。また、後輪側電磁弁170は、ボディ177に形成され、弁体176に対応して弁室178に配置された弁座181と、ボディ177に形成され、ジャッキ室142(
図5参照)から弁室178に流体を導入する導入流路182と、ボディ177に形成され、弁室178から弁座181を経由して液体溜室143aの方へ流体を導出する導出流路183と、を備えている。なお、後輪側電磁弁170は、ノーマルクローズタイプの電磁弁であってもよい。
【0048】
このように構成された前輪側電磁弁270,後輪側電磁弁170は、コイル271,171に通電されない非通電時には、コイルスプリング280,180によって可動鉄心275,175が図中下方へ付勢されるので、可動鉄心275,175の先端(端面)に固定されている弁体276,176が弁座281,181に当接しない。このため、前輪側電磁弁270および後輪側電磁弁170は、導入流路282,182と導出流路283,183との間が連通され、弁開状態となる。一方、前輪側電磁弁270,後輪側電磁弁170は、コイル271,171に通電される通電時には、コイル271,171が通電により励磁されるときの固定鉄心273,173の吸引力とコイルスプリング280,180の付勢力との釣り合いにより可動鉄心275,175が変位する。前輪側電磁弁270および後輪側電磁弁170は、弁座281,181に対する弁体276,176の位置、すなわち弁の開度が調整されるようになっている。この弁の開度は、コイル271,171に供給される電力(電流・電圧)を変えることにより調整される。
【0049】
次に、制御装置50について説明する。
図11は、制御装置50のブロック図である。
制御装置50は、CPUと、CPUにて実行されるプログラムや各種データ等が記憶されたROMと、CPUの作業用メモリ等として用いられるRAMと、を備えている。制御装置50には、上述した前輪回転検出センサ31、後輪回転検出センサ32、前輪側相対位置検出部295および後輪側相対位置検出部195などからの出力信号が入力される。
【0050】
制御装置50は、前輪回転検出センサ31からの出力信号を基に前輪14の回転速度を演算する前輪回転速度演算部51と、後輪回転検出センサ32からの出力信号を基に後輪21の回転速度を演算する後輪回転速度演算部52と、を備えている。これら前輪回転速度演算部51、後輪回転速度演算部52は、それぞれ、センサからの出力信号であるパルス信号を基に回転角度を把握し、それを経過時間で微分することで回転速度を演算する。
【0051】
制御装置50は、前輪側相対位置検出部295からの出力信号を基に前輪側相対位置変更装置240(
図8(a)および
図8(b)参照)の支持部材241の油圧ジャッキ243に対する移動量である前輪側移動量Lfを把握する前輪側移動量把握部53を備えている。また、制御装置50は、後輪側相対位置検出部195からの出力信号を基に後輪側相対位置変更装置140の支持部材141の油圧ジャッキ143に対する移動量である後輪側移動量Lrを把握する後輪側移動量把握部54を備えている。前輪側移動量把握部53および後輪側移動量把握部54は、例えば予めROMに記憶された、コイルのインピーダンスと、前輪側移動量Lfまたは後輪側移動量Lrとの相関関係に基づいて、それぞれ前輪側移動量Lf、後輪側移動量Lrを把握することができる。
【0052】
また、制御装置50は、前輪回転速度演算部51が演算した前輪14の回転速度および/または後輪回転速度演算部52が演算した後輪21の回転速度を基に自動二輪車1の移動速度である車速Vcを把握する車速把握部56を備えている。車速把握部56は、前輪回転速度Rfまたは後輪回転速度Rrを用いて前輪14または後輪21の移動速度を演算することにより車速Vcを把握する。前輪14の移動速度は、前輪回転速度Rfと前輪14のタイヤの外径とを用いて演算することができ、後輪21の移動速度は、後輪回転速度Rrと後輪21のタイヤの外径とを用いて演算することができる。そして、自動二輪車1が通常の状態で走行している場合には、車速Vcは、前輪14の移動速度および/または後輪21の移動速度と等しいと解することができる。また、車速把握部56は、前輪回転速度Rfと後輪回転速度Rrとの平均値を用いて前輪14と後輪21の平均の移動速度を演算することにより車速Vcを把握してもよい。
【0053】
また、制御装置50は、車速把握部56が把握した車速Vcに基づいて、前輪側相対位置変更装置240の前輪側電磁弁270の開度および後輪側相対位置変更装置140の後輪側電磁弁170の開度を制御する電磁弁制御部57を有している。この電磁弁制御部57については、後で詳述する。
これら前輪回転速度演算部51、後輪回転速度演算部52、前輪側移動量把握部53、後輪側移動量把握部54、車速把握部56および電磁弁制御部57は、CPUがROMなどの記憶領域に記憶されたソフトウェアを実行することにより実現される。
【0054】
次に、制御装置50の電磁弁制御部57について詳しく説明する。
図12は、電磁弁制御部57のブロック図である。
電磁弁制御部57は、自動二輪車1の走行状態を把握する走行状態把握部575と、前輪側移動量Lfの目標移動量である前輪側目標移動量を決定する前輪側目標移動量決定部571と、後輪側移動量Lrの目標移動量である後輪側目標移動量を決定する後輪側目標移動量決定部572と、を有する目標移動量決定部570を有している。また、電磁弁制御部57は、前輪側相対位置変更装置240の前輪側電磁弁270および後輪側相対位置変更装置140の後輪側電磁弁170に供給する目標電流を決定する目標電流決定部510と、目標電流決定部510が決定した目標電流に基づいてフィードバック制御などを行う制御部520とを有している。
【0055】
目標移動量決定部570は、走行状態把握部575が把握した走行状態、自動二輪車1に設けられた後述する車高調整スイッチ34がどの位置に操作されているかなどに基づいて目標移動量を決定する。
図13は、車高調整スイッチ34の外観図である。
車高調整スイッチ34は、例えば、
図13に示すように、所謂ダイヤル式のスイッチであり、ユーザがつまみを回転させることにより、「低」と、「中」と、「高」とを選択できるように構成することができる。そして、車高調整スイッチ34は、例えばスピードメータの近傍に設けられている。
【0056】
図14(a)は、車速Vcと前輪側目標移動量との相関関係を示す図である。
図14(b)は、車速Vcと後輪側目標移動量との相関関係を示す図である。
目標移動量決定部570は、自動二輪車1のイグニッションスイッチがOFFからONにされた後、車速把握部56が把握した車速Vcが予め定められた上昇車速Vuよりも小さい間は目標移動量を車高調整スイッチ34の操作位置に応じて予め定められた最低目標移動量に決定する。その後、車速Vcが上昇車速Vuより小さい状態から上昇車速Vu以上となった場合には、目標移動量決定部570は、目標移動量を、車高調整スイッチ34の操作位置に応じて予め定められた最高目標移動量に決定する。
【0057】
より具体的には、前輪側目標移動量決定部571は、
図14(a)に示すように、イグニッションスイッチがOFFからONにされた後、車速Vcが上昇車速Vuよりも小さい間は、前輪側目標移動量を、車高調整スイッチ34の操作位置に応じて予め定められた前輪側最低目標移動量Lflに決定する。その後、車速Vcが上昇車速Vuより小さい状態から上昇車速Vu以上となった場合には、前輪側目標移動量を、車高調整スイッチ34の操作位置に応じて予め定められた前輪側最高目標移動量Lfhに決定する。
【0058】
他方、後輪側目標移動量決定部572は、
図14(b)に示すように、イグニッションスイッチがOFFからONにされた後、車速Vcが上昇車速Vuよりも小さい間は、後輪側目標移動量を、車高調整スイッチ34の操作位置に応じて予め定められた後輪側最低目標移動量Lrlに決定する。その後、車速Vcが上昇車速Vuより小さい状態から上昇車速Vu以上となった場合には、後輪側目標移動量を、車高調整スイッチ34の操作位置に応じて予め定められた後輪側最高目標移動量Lrhに決定する。
【0059】
そして、車速把握部56が把握した車速Vcが上昇車速Vu以上である間は、前輪側目標移動量決定部571,後輪側目標移動量決定部572は、前輪側目標移動量,後輪側目標移動量を、前輪側最高目標移動量Lfh,後輪側最高目標移動量Lrhに決定する。
なお、車高調整スイッチ34の操作位置と、前輪側最低目標移動量Lfl,前輪側最高目標移動量Lfh,後輪側最低目標移動量Lrl,後輪側最高目標移動量Lrhとの関係は、予めROMに記憶しておく。前輪側移動量Lfと後輪側移動量Lrとに応じて自動二輪車1の車高が定まることから、車高調整スイッチ34の操作位置に応じて自動二輪車1の車高の目標値である最低目標車高および最高目標車高を定め、これら目標車高に応じた前輪側最低目標移動量Lfl,後輪側最低目標移動量Lrl、および前輪側最高目標移動量Lfh,後輪側最高目標移動量Lrhを予め定め、ROMに記憶しておくことを例示することができる。
【0060】
他方、目標移動量決定部570は、自動二輪車1が上昇車速Vu以上で走行している状態から予め定められた下降車速Vd以下となった場合には目標移動量を、最高目標移動量から最低目標移動量まで徐変させる。これについては後で詳述する。
なお、上昇車速Vuは10km/h、下降車速Vdは8km/hであることを例示することができる。
【0061】
目標電流決定部510は、前輪側目標移動量決定部571が決定した前輪側目標移動量に基づいて前輪側電磁弁270の目標電流である前輪側目標電流を決定する前輪側目標電流決定部511と、後輪側目標移動量決定部572が決定した後輪側目標移動量に基づいて後輪側電磁弁170の目標電流である後輪側目標電流を決定する後輪側目標電流決定部512と、を有している。
前輪側目標電流決定部511は、例えば、予め経験則に基づいて作成しROMに記憶しておいた、前輪側目標移動量と前輪側目標電流との対応を示すマップに、前輪側目標移動量決定部571が決定した前輪側目標移動量を代入することにより前輪側目標電流を決定する。
後輪側目標電流決定部512は、例えば、予め経験則に基づいて作成しROMに記憶しておいた、後輪側目標移動量と後輪側目標電流との対応を示すマップに、後輪側目標移動量決定部572が決定した後輪側目標移動量を代入することにより後輪側目標電流を決定する。
【0062】
なお、前輪側目標電流決定部511,後輪側目標電流決定部512は、前輪側目標移動量,後輪側目標移動量が零の場合には、前輪側目標電流,後輪側目標電流を零に決定する。また、前輪側目標電流決定部511,後輪側目標電流決定部512は、前輪側目標移動量,後輪側目標移動量が零であり、前輪側目標電流,後輪側目標電流を零に決定している状態から、前輪側目標移動量決定部571,後輪側目標移動量決定部572が決定した前輪側目標移動量,後輪側目標移動量が零以外の値に変わった場合には、言い換えれば、車高を高めていない状態から高め始める場合には、一定時間、前輪側目標電流,後輪側目標電流を予め定められた最大電流に決定する。そして、前輪側目標電流決定部511,後輪側目標電流決定部512は、一定時間経過後に、前輪側目標移動量決定部571,後輪側目標移動量決定部572が決定した前輪側目標移動量,後輪側目標移動量に応じた、前輪側目標電流,後輪側目標電流に決定する。なお、前輪側電磁弁270がノーマルクローズタイプの電磁弁である場合、前輪側目標移動量が零のときに通電が必要になる。また、後輪側電磁弁170がノーマルクローズタイプの電磁弁である場合、後輪側目標移動量が零のときに通電が必要になる。
【0063】
また、前輪側目標電流決定部511は、前輪側目標移動量決定部571が決定した前輪側目標移動量に基づいて前輪側目標電流を決定する際、一定期間経過後は、前輪側目標移動量決定部571が決定した前輪側目標移動量と、前輪側移動量把握部53が把握した実際の前輪側移動量Lfとの偏差に基づいてフィードバック制御を行い、前輪側目標電流を決定してもよい。同様に、後輪側目標電流決定部512は、後輪側目標移動量決定部572が決定した後輪側目標移動量に基づいて後輪側目標電流を決定する際、一定期間経過後は、後輪側目標移動量決定部572が決定した後輪側目標移動量と、後輪側移動量把握部54が把握した実際の後輪側移動量Lrとの偏差に基づいてフィードバック制御を行い、後輪側目標電流を決定してもよい。
【0064】
制御部520は、前輪側電磁弁270の作動を制御する前輪側作動制御部530と、前輪側電磁弁270を駆動させる前輪側電磁弁駆動部533と、前輪側電磁弁270に実際に流れる実電流を検出する前輪側検出部534とを有している。また、制御部520は、後輪側電磁弁170の作動を制御する後輪側作動制御部540と、後輪側電磁弁170を駆動させる後輪側電磁弁駆動部543と、後輪側電磁弁170に実際に流れる実電流を検出する後輪側検出部544とを有している。
【0065】
前輪側作動制御部530は、前輪側目標電流決定部511が決定した前輪側目標電流と、前輪側検出部534が検出した実際の電流(前輪側実電流)との偏差に基づいてフィードバック制御を行う前輪側フィードバック(F/B)制御部531と、前輪側電磁弁270をPWM制御する前輪側PWM制御部532とを有している。
後輪側作動制御部540は、後輪側目標電流決定部512が決定した後輪側目標電流と、後輪側検出部544が検出した実際の電流(後輪側実電流)との偏差に基づいてフィードバック制御を行う後輪側フィードバック(F/B)制御部541と、後輪側電磁弁170をPWM制御する後輪側PWM制御部542とを有している。
【0066】
前輪側フィードバック制御部531は、前輪側目標電流と、前輪側検出部534が検出した前輪側実電流との偏差を求め、その偏差がゼロとなるようにフィードバック処理を行う。後輪側フィードバック制御部541は、後輪側目標電流と、後輪側検出部544が検出した後輪側実電流との偏差を求め、その偏差がゼロとなるようにフィードバック処理を行う。前輪側フィードバック制御部531,後輪側フィードバック制御部541は、例えば、前輪側目標電流と前輪側実電流との偏差,後輪側目標電流と後輪側実電流との偏差に対して、比例要素で比例処理し、積分要素で積分処理し、加算演算部でこれらの値を加算するものであることを例示することができる。あるいは、前輪側フィードバック制御部531,後輪側フィードバック制御部541は、例えば、目標電流と実電流との偏差に対して、比例要素で比例処理し、積分要素で積分処理し、微分要素で微分処理し、加算演算部でこれらの値を加算するものであることを例示することができる。
【0067】
前輪側PWM制御部532は、一定周期(T)のパルス幅(t)のデューティ比(=t/T×100(%))を変え、前輪側電磁弁270の開度(前輪側電磁弁270のコイルに印加される電圧)をPWM制御する。PWM制御が行われると、前輪側電磁弁270のコイルに印加される電圧が、デューティ比に応じたパルス状に印加される。このとき、前輪側電磁弁270のコイル271に流れる電流は、コイル271のインピーダンスにより、パルス状に印加される電圧に追従して変化することができずになまって出力され、前輪側電磁弁270のコイルを流れる電流は、デューティ比に比例して増減される。そして、前輪側PWM制御部532は、例えば、前輪側目標電流が零である場合にはデューティ比を零に設定し、前輪側目標電流が上述した最大電流である場合にはデューティ比を100%に設定することを例示することができる。
【0068】
同様に、後輪側PWM制御部542は、デューティ比を変え、後輪側電磁弁170の開度(後輪側電磁弁170のコイルに印加される電圧)をPWM制御する。PWM制御が行われると、後輪側電磁弁170のコイル171に印加される電圧がデューティ比に応じたパルス状に印加され、後輪側電磁弁170のコイル171を流れる電流がデューティ比に比例して増減する。そして、後輪側PWM制御部542は、例えば、後輪側目標電流が零である場合にはデューティ比を零に設定し、後輪側目標電流が上述した最大電流である場合にはデューティ比を100%に設定することを例示することができる。
【0069】
前輪側電磁弁駆動部533は、例えば、電源の正極側ラインと前輪側電磁弁270のコイルとの間に接続された、スイッチング素子としてのトランジスタ(FET)を備えている。そして、このトランジスタのゲートを駆動してこのトランジスタをスイッチング動作させることにより、前輪側電磁弁270の駆動を制御する。後輪側電磁弁駆動部543は、例えば、電源の正極側ラインと後輪側電磁弁170のコイルとの間に接続されたトランジスタを備えている。そして、このトランジスタのゲートを駆動してこのトランジスタをスイッチング動作させることにより、後輪側電磁弁170の駆動を制御する。
前輪側検出部534は、前輪側電磁弁駆動部533に接続されたシャント抵抗の両端に生じる電圧から前輪側電磁弁270に流れる実電流の値を検出する。後輪側検出部544は、後輪側電磁弁駆動部543に接続されたシャント抵抗の両端に生じる電圧から後輪側電磁弁170に流れる実電流の値を検出する。
【0070】
以上のように構成された自動二輪車1においては、制御装置50の電磁弁制御部57が、車高調整スイッチ34の操作位置に応じた目標車高に基づいて目標電流を決定し、前輪側電磁弁270および後輪側電磁弁170に供給される実際の電流が決定した目標電流となるようにPWM制御を行う。つまり、電磁弁制御部57の前輪側PWM制御部532,後輪側PWM制御部542は、デューティ比を変更することにより前輪側電磁弁270,後輪側電磁弁170のコイル271,171に供給される電力を制御し、前輪側電磁弁270,後輪側電磁弁170を任意の開度に制御する。これにより、制御装置50は、前輪側電磁弁270,後輪側電磁弁170の開度を制御してジャッキ室242,ジャッキ室142に流入する液体(オイル)の量の上限を制御することで、車高を任意の高さに変更することができるので、車高を多段階又は無段階に変更することができる。なお、電磁弁制御部57の前輪側PWM制御部532,後輪側PWM制御部542は、検出した移動量を目標移動量に一致させるように制御してもよい。この場合、前輪側PWM制御部532,後輪側PWM制御部542は、目標移動量と検出した移動量に基づいて目標電流を決定する。
【0071】
また、上述した制御装置50においては、前輪側目標電流決定部511,後輪側目標電流決定部512は、車速Vcが上昇車速Vu以上である場合には前輪側目標電流,後輪側目標電流を車高調整スイッチ34の操作位置に応じた値に決定し、前輪側PWM制御部532,後輪側PWM制御部542は、前輪側電磁弁270,後輪側電磁弁170に供給される電流が車高調整スイッチ34の操作位置に応じた値となるようにデューティ比を設定する。これにより、前輪側電磁弁270,後輪側電磁弁170のコイル271,コイル171に非パルス状に(連続して)電圧を印加するのと比べると、コイル271,コイル171に流れる電流を減少させることができる。その結果、前輪側電磁弁270,後輪側電磁弁170の発熱を抑制することができ、省電力化、小型化を図ることができる。
【0072】
〔目標移動量決定処理〕
次に、目標移動量決定部570が目標移動量を決定する基本処理について説明する。
図15は、走行状態把握部575が行う基本処理の手順を示すフローチャートである。走行状態把握部575は、この基本処理を予め定めた期間毎(例えば4ミリ秒毎)に繰り返し実行する。
走行状態把握部575は、先ず、RAMにおいてセットされるフラグの設定(以下、フラグ設定と記す場合もある。)において最高フラグがOFFになっているか否かを調べる(ステップ(以下、単に、「S」と記す。)101)。ここで、最高フラグは、車速Vcが上昇車速Vuより小さい状態から上昇車速Vu以上となった場合にセットされるフラグであり、後述するS103にてセットされる。
【0073】
最高フラグがOFFである場合(S101でYes)、車速Vcが上昇車速Vu以上であるか否かを判別する(S102)。そして、車速Vcが上昇車速Vu以上である場合(S102でYes)、最高フラグをONにセットし(S103)、車高を最高目標車高まで上昇するように、前輪側目標移動量決定部571,後輪側目標移動量決定部572に指示命令(コマンド)を送る(S104)。これにより、前輪側目標移動量決定部571,後輪側目標移動量決定部572は、前輪側目標移動量,後輪側目標移動量を、前輪側最高目標移動量Lfh,後輪側最高目標移動量Lrhに決定する。
他方、車速Vcが上昇車速Vu以上ではない場合(S102でNo)、本処理を終了する。
【0074】
一方、最高フラグがONである場合(S101でNo)、車速Vcが下降車速Vd以下であるか否かを判別する(S105)。そして、車速Vcが下降車速Vd以下である場合(S105でYes)、最高フラグをOFFにセットし(S106)、後述するフェードアウト処理を実行するように、前輪側目標移動量決定部571,後輪側目標移動量決定部572に指示命令(コマンド)を送る(S107)。他方、車速Vcが下降車速Vd以下ではない場合(S105でNo)、後述する急減速判定処理を実行する(S108)。
【0075】
〔フェードアウト処理〕
次に、目標移動量決定部570が目標移動量を、最高目標移動量から最低目標移動量まで徐変させるフェードアウト処理について説明する。
目標移動量決定部570は、自動二輪車1が上昇車速Vu以上で走行している状態から下降車速Vd以下となった場合には、予め定めた下降期間Tlに亘って、目標移動量を、最高目標移動量から最低目標移動量まで徐変させる。
より具体的には、前輪側目標移動量決定部571は、車速Vcが下降車速Vd以下となり車高を下降開始した後の経過時間tにおける前輪側移動量Lfの目標値である前輪側目標移動量Lf(t)を下記の式(1)に基づいて決定する。
Lf(t)=(Tl−t)/Tl×Lfh+(1−(Tl−t)/Tl)×Lfl・・・(1)
また、後輪側目標移動量決定部572は、車速Vcが下降車速Vd以下となり車高を下降開始した後の経過時間tにおける後輪側移動量Lrの目標値である後輪側目標移動量Lr(t)を下記の式(2)に基づいて決定する。
Lr(t)=(Tl−t)/Tl×Lrh+(1−(Tl−t)/Tl)×Lrl・・・(2)
なお、下降期間Tlは、5secであることを例示することができる。
【0076】
次に、フローチャートを用いて、前輪側目標移動量決定部571が行うフェードアウト処理(
図15のS107)の手順について説明する。
図16は、前輪側目標移動量決定部571が行うフェードアウト処理の手順を示すフローチャートである。
前輪側目標移動量決定部571は、フェードアウト処理開始後の経過時間tが下降期間Tl未満であるか否かを判別する(S201)。そして、経過時間tが下降期間Tl未満である場合(S201でYes)、上述した式(1)に基づいて前輪側目標移動量Lf(t)を決定し(S202)、S201の処理に移行する。
他方、経過時間tが下降期間Tl以上である場合(S201でNo)、前輪側目標移動量を前輪側最低目標移動量Lflに決定し(S203)、本処理の実行を終了する。
なお、
図16に示したフローチャートでは、前輪側目標移動量決定部571が行うフェードアウト処理の手順を示しているが、後輪側目標移動量決定部572も同様の処理を行う。S202においては、後輪側目標移動量決定部572は、上述した式(2)に基づいて後輪側目標移動量Lr(t)を決定する。
【0077】
以上説明したように、目標移動量決定部570は、自動二輪車1が上昇車速Vu以上で走行している状態から下降車速Vd以下となった場合には、目標移動量を最低目標移動量まで変化させるが、例えば急減速時には、自動二輪車1が停車する時に、車高が所望の高さまで下がりきらない可能性がある。自動二輪車1の停車時には、運転者が地面に足を付け易くするために、車高は所望の高さまで下がりきっていることが望ましい。
【0078】
そこで、本実施の形態に係る目標移動量決定部570においては、自動二輪車1が急減速状態であるか否かを判定し、急減速状態である場合には、急減速制御を行う。
ここで、目標移動量決定部570は、自動二輪車1が停車すると予想される予想停車時間Tsよりも予め定められた事前期間Tb前に車高が最低目標車高となるように設定する。つまり、目標移動量決定部570は、予想停車時間Ts−事前期間Tbに車高が最低目標車高となるように目標移動量を決定する。
【0079】
目標移動量決定部570の走行状態把握部575は、予想停車時間Tsから事前期間Tbを減算した車高低下完了時間Teが、車高を低下させるのに要する時間として予め設定された車高低下設定時間Td以下であり、かつ車速Vcが予め定められた高車速判定値Vh以下である場合に急減速状態であると判定する。つまり、車高低下完了時間Teが車高低下設定時間Td以下であり、かつ車速Vcが高車速判定値Vh以下であることが急減速状態であると判定するための急減速条件である。そして、前輪側目標移動量決定部571,後輪側目標移動量決定部572は、急減速状態であると判定した場合(急減速条件が成立した場合)には、予想停車時間Ts−事前期間Tbに車高が最低目標車高となるように後述する急減速制御処理を実行する。なお、Tbは事後期間として設定して、予想停車時間Tsから事後期間Tbを加算して車高低下完了時間Teを算出してもよい。
【0080】
一方、目標移動量決定部570は、急減速制御処理を実行しているときに、車高低下完了時間Teが車高低下設定時間Tdよりも長くなったか、あるいは車速Vcが高車速判定値Vhよりも大きくなった場合には急減速制御処理を中止し、車高を最高目標車高まで高める。
なお、高車速判定値Vhは、40km/hであることを例示することができる。車速Vcが高車速判定値Vh以下である場合に急減速状態であると判定するのは、例えばカーブを曲がるために一時的に減速することが考えられるためである。
【0081】
〔急減速判定処理〕
次に、フローチャートを用いて、目標移動量決定部570の走行状態把握部575が行う急減速判定処理(
図15のS108)の手順について説明する。
図17は、走行状態把握部575が行う急減速判定処理の手順を示すフローチャートである。
【0082】
走行状態把握部575は、先ず、フラグ設定において急減速フラグがONになっているか否かを調べる(S301)。ここで、急減速フラグは、自動二輪車1が急減速状態であると判定された場合にセットされるフラグであり、後述するS307にてセットされる。急減速フラグがOFFである場合(S301でNo)、現時点の車速Vcと車両加速度(減速度)とに基づいて、自動二輪車1の予想停車時間Tsを算出する(S302)。なお、車両加速度は、前輪回転速度演算部51(
図11参照)からの出力値を基に把握することができる。また、予想停車時間Ts(秒)は、現時点の車速Vc(km/h)を、((−1)×車両加速度(G)×35.28(km/h/秒))で除算することにより算出することができる。
そして、算出した予想停車時間Tsが所定時間(例えば10秒)以下であるか否かを判別する(S303)。予想停車時間Tsが所定時間(例えば10秒)以下である場合(S303でYes)、予想停車時間Tsから事前期間Tbを減算した車高低下完了時間Te(=Ts−Tb)を算出する(S304)。
【0083】
その後、車高低下完了時間Teが車高低下設定時間Td以下であるか否かを判別する(S305)。そして、車高低下完了時間Teが車高低下設定時間Td以下である場合(S305でYes)、現時点の車速Vcが高車速判定値Vh以下であるか否かを判別する(S306)。そして、車速Vcが高車速判定値Vh以下である場合(S306でYes)、急減速状態であると判定し、RAMに急減速フラグをONにセットする(S307)。
【0084】
他方、予想停車時間Tsが所定時間(例えば10秒)より長い場合(S303でNo)、車高低下完了時間Teが車高低下設定時間Tdより長い場合(S305でNo)、車速Vcが高車速判定値Vhより大きい場合(S306でNo)、急減速状態ではないと判定し、本処理の実行を終了する。
【0085】
一方、急減速フラグがONである場合(S301でYes)、自動二輪車1の予想停車時間Tsを算出し(S309)、予想停車時間Tsから事前期間Tbを減算した車高低下完了時間Te(=Ts−Tb)を算出する(S310)。その後、車高低下完了時間Teが車高低下設定時間Tdよりも長いか否かを判別する(S311)。そして、車高低下完了時間Teが車高低下設定時間Tdよりも長い場合(S311でYes)、急減速状態から外れたと判断し急減速フラグをOFFにセットする(S312)。S312にて急減速フラグをOFFにセットした後、後述する急減速制御処理を中止し、車高を最高目標車高まで上昇するように、前輪側目標移動量決定部571,後輪側目標移動量決定部572に指示命令(コマンド)を送る(S313)。
【0086】
〔急減速制御処理〕
次に、フローチャートを用いて、前輪側目標移動量決定部571が行う急減速制御処理の手順について説明する。
図18は、前輪側目標移動量決定部571が行う急減速制御処理の手順を示すフローチャートである。前輪側目標移動量決定部571は、急減速フラグがONである場合、この急減速制御処理を予め定めた期間毎(例えば4ミリ秒毎)に繰り返し実行する。
前輪側目標移動量決定部571は、先ず、急減速制御開始時点での車高低下完了時間Teを下げ時間として固定する(S401)。そして、車高低下完了時間Teを算出するとともに算出した車高低下完了時間Teを下げ時間で除算することで低下割合Rを算出する(R=Te/下げ時間)(S402)。そして、低下割合Rが1以上であるか否かを判別する(403)。
【0087】
低下割合Rが1以上ではない場合(S403でNo)、下記の式(3)に基づいて、急減速制御処理開始後の経過時間tにおける前輪側移動量Lfの目標値である前輪側目標移動量Lf(t)を決定する(S404)。
Lf(t)=R×Lfh+(1−R)×Lfl・・・(3)
その後、前輪側目標移動量決定部571は、急減速判定処理のS313にて出力される、この急減速制御処理を中止して車高を最高目標車高まで上昇すべき旨の指示命令(コマンド)を取得したか否かを判別する(S405)。この指示命令を取得した場合(S405でYes)、前輪側目標移動量を、前輪側最高目標移動量Lfhに決定する(S406)。他方、指示命令を取得していない場合(S405でNo)、S402以降の処理を再度実行する。
一方、減速度が小さくなる又は車両が加速されることで算出した低下割合Rが1以上になった場合(S403でYes)、前輪側目標移動量を、前輪側最高目標移動量Lfhに決定して(S406)、本処理の実行を終了する。
【0088】
なお、
図18に示したフローチャートでは、前輪側目標移動量決定部571が行う急減速制御処理の手順を示しているが、後輪側目標移動量決定部572も同様の処理を行い、後輪側目標移動量を決定する。かかる場合、上述したS403の処理においては、後輪側目標移動量決定部572は、下記の式(4)に基づいて、急減速制御処理開始後の経過時間tにおける後輪側移動量Lrの目標値である後輪側目標移動量Lr(t)を決定する。
Lr(t)=R×Lrh+(1−R)×Lrl・・・(4)
【0089】
以上のように構成された制御装置50においては、自動二輪車1が上昇車速Vu以上で走行している状態で、急減速条件が成立していない場合には車速Vcが下降車速Vd以下となったら車高を下げ始め、急減速条件が成立した場合には車速Vcが下降車速Vdより大きくても車高を下げ始めるようにフロントフォーク13,リヤサスペンション22を制御する。より具体的には、本実施の形態に係る目標移動量決定部570によれば、自動二輪車1が上昇車速Vu以上で走行している状態で、急減速状態であると判定された場合には、自動二輪車1の予想停車時間Tsよりも事前期間Tb前に車高が停止時目標車高の一例としての最低目標車高となるように前輪側目標移動量および後輪側目標移動量が決定される。それゆえ、自動二輪車1の減速状態に拘わらず停車するタイミングに合わせて車高を所望の高さまで下げることができるので、運転者が足を地面に付け易くすることができる。
【0090】
また、以上のように構成された制御装置50は、停止時目標車高(最低目標車高)への車高変化速度を自動二輪車1の減速度に基づいて変化させる。より具体的には、制御装置50は、自動二輪車1の車速Vc及び減速度に基づいて予想停車時間Tsを予測し、予測停車時間Tsから所定時間前後させた(本実施の形態においては事前期間Tb前の)車高低下完了時間Teに基づいて車高変化速度を変化させる。そして、制御装置50は、車高低下完了時間Teが車高低下設定時間Tdよりも長い場合には、車速Vcが下降車速Vd以下の場合に、所定の車高変化速度で停止時目標車高へ目標車高を変化させる(S107)。他方、制御装置50は、車高低下完了時間Teが車高低下設定時間Td以下の場合には、所定の車高変化速度で停止時目標車高へ目標車高を変化させる(S404)。かかる場合において、制御装置50は、予想停車時間Tsが車高低下設定時間Tdより長くなった場合に、目標車高を走行時目標車高の一例としての最高目標車高に設定する(S313)。これらより、自動二輪車1の減速状態に拘わらず停車するタイミングに合わせて車高を所望の高さまで下げることができる。
【0091】
また、制御装置50は、自動二輪車1の車速Vcが下降基準車速以下の場合に目標車高を停止時目標車高に設定し、当該下降基準車速を自動二輪車1の減速度に基づいて変化させる。例えば、減速度が小さい場合には、上述した下降車速Vd以下の場合に目標車高を停止時目標車高に設定し、減速度が大きい場合には、高車速判定値Vh以下の場合に目標車高を停止時目標車高に設定する。つまり、制御装置50は、自動二輪車1の車速Vc及び減速度に基づいて予想停車時間Tsを予測し、予測停車時間Tsから所定時間前後させた(本実施の形態においては事前期間Tb前の)車高低下完了時間Teに基づいて車高変化速度及び下降基準車速を変化させる。そして、下降基準車速に上限を設けてもよい。上述した実施の形態においては、下降基準車速として、高車速判定値Vhを上限としており、高車速判定値Vhは40km/hであることを例示することができる。上限を設けるのは、カーブを曲がるために一時的に減速することが考えられるためである。
【0092】
なお、
図15〜
図18を用いて述べた処理においては、急減速状態であると判定され、急減速制御処理に従って前輪側目標移動量および後輪側目標移動量が決定されているときに、車速Vcが下降車速Vd以下となった場合(
図15のS105でYes)にはフェードアウト処理が実行される。かかる場合のフェードアウト処理においては、フェードアウト処理開始時の前輪側移動量Lf,後輪側移動量Lrは、前輪側最高目標移動量Lfh,後輪側最高目標移動量Lrhではなく、急減速制御処理に従って小さくなっている移動量であるため、式(1)および式(2)に基づいて決定するにあたって以下のように読み替えるとよい。すなわち、前輪側最高目標移動量Lfh,後輪側最高目標移動量Lrhを、フェードアウト処理開始時の前輪側移動量Lf,後輪側移動量Lrと読み替える。また、式(1)で用いる下降期間Tlを、Tl×(フェードアウト処理開始時の前輪側移動量Lf/前輪側最高目標移動量Lfh)と読み替え、式(2)で用いる下降期間Tlを、Tl×(フェードアウト処理開始時の後輪側移動量Lr/後輪側最高目標移動量Lrh)と読み替える。