【課題】高温環境下において軟質塩化ビニルなどの可塑剤を含む被着材料から粘着剤組成物への可塑剤の移行による粘着力の低下を抑制し、低温環境下における粘着剤自体の粘着力の低下を抑制し、かつ、印刷インクへのなじみ性が高いフィルム用粘着剤組成物を供給する。
【解決手段】カルボキシ基を有する(メタ)アクリル系モノマーに由来する構成単位Aと、単独重合体としたときのガラス転移温度が0℃〜45℃の(メタ)アクリル酸アルキルエステルに由来する構成単位Bを44質量%〜70質量%と、単独重合体としたときのガラス転移温度が−80℃〜−60℃の(メタ)アクリル酸アルキルエステルに由来する構成単位Cを29質量%〜55質量%と、を含む(メタ)アクリル系共重合体を含有するフィルム用粘着剤組成物。
カルボキシ基を有する(メタ)アクリル系モノマーに由来する構成単位Aと、単独重合体としたときのガラス転移温度が0℃〜45℃の(メタ)アクリル酸アルキルエステルに由来する構成単位Bを44質量%〜70質量%と、単独重合体としたときのガラス転移温度が−80℃〜−60℃の(メタ)アクリル酸アルキルエステルに由来する構成単位Cを29質量%〜55質量%と、を含む(メタ)アクリル系共重合体と、架橋剤と、を含有するフィルム用粘着剤組成物。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明のフィルム用粘着剤組成物、及び粘着シートについて詳細に説明する。
本明細書において(メタ)アクリルとは、アクリル又はメタクリルを意味する。
また、本明細書において「〜」を用いて示された数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値をそれぞれ最小値及び最大値として含む範囲を示す。
【0015】
<フィルム用粘着剤組成物>
本発明のフィルム用粘着剤組成物は、カルボキシ基を有する(メタ)アクリル系モノマーに由来する構成単位Aと、単独重合体としたときのガラス転移温度(Tg)が0℃〜45℃の(メタ)アクリル酸アルキルエステルに由来する構成単位Bを44質量%〜70質量%と、単独重合体としたときのガラス転移温度(Tg)が−80℃〜−60℃の(メタ)アクリル酸アルキルエステルに由来する構成単位Cを29質量%〜55質量%と、を含む(メタ)アクリル系共重合体と、架橋剤と、を含有する。
【0016】
本発明のフィルム用粘着剤組成物は、必要に応じて、着色剤、安定剤などの、その他の成分を含有してもよい。
【0017】
本発明の作用機構は明確ではないが、本発明者らは、以下の如く推測している。
本発明において、粘着剤組成物が含有する(メタ)アクリル系共重合体が、共重合体を構成する構成単位として、単独重合体としたときのTgが0℃〜45℃の(メタ)アクリル酸アルキルエステルに由来する構成単位Bを、(メタ)アクリル系共重体全質量に対して44質量%〜70質量%含むことで、粘着剤組成物に硬さが与えられ、経時(特に高温環境下)における可塑剤の移行による粘着力の低下を抑制することができると考えられる。また、経時(特に高温環境下)における可塑剤の移行による凝集力(粘着剤組成物が形状を保持しようとする力)についても、上記と同様の理由で、低下を抑制することができると考えられる。
また、粘着剤組成物が含有する(メタ)アクリル系共重合体が、共重合体を構成する構成単位として、単独重合体としたときのTgが−80℃〜−60℃の(メタ)アクリル酸アルキルエステルに由来する構成単位Cを、(メタ)アクリル系共重合体全質量に対して29質量%〜55質量%含むことで、粘着剤組成物は、低温環境下において粘着剤組成物の粘着力が低下することを抑制することができ、印刷インクへのなじみ性も向上すると考えられる。
そして、粘着剤組成物が、構成単位B及び構成単位Cをそれぞれ所定の含有量で含有する(メタ)アクリル系共重合体を有することで、従来、両立が困難であった、高温環境下における可塑剤の移行による粘着力の低下の抑制、並びに、低温環境下における優れた粘着力、及び良好ななじみ性を両立することができるものと考えられる。
【0018】
本発明のフィルム用粘着剤組成物は、可塑剤を含有する基材、例えば、軟質塩化ビニルを含むフィルム等に付与された場合、基材から粘着剤組成物へ可塑剤が移行することによる粘着力の低下を抑制することができる。それに加え、粘着剤組成物を付与したフィルム等を貼り付ける被着体に可塑剤が含まれる場合においても、被着体から粘着剤組成物へ可塑剤が移行することによる粘着力の低下を抑制することができる。
【0019】
本発明の粘着剤は、基材と被着体の貼り合わせに好適に用いることができる。基材は、特に制限されないが、可塑剤を含むフィルムが好ましく、中でも軟質塩化ビニルを含むフィルムがより好ましい。
なお、本明細書において、軟質塩化ビニルとは、塩化ビニル系樹脂100質量部に対して可塑剤を10質量部以上含むものである。
【0020】
≪(メタ)アクリル系共重合体≫
本発明における(メタ)アクリル系共重合体は、少なくとも、カルボキシ基を有する(メタ)アクリル系モノマーに由来する構成単位Aと、単独重合体としたときのガラス転移温度(Tg)が0℃〜45℃の(メタ)アクリル酸アルキルエステルに由来する構成単位Bを44質量%〜70質量%と、単独重合体としたときのガラス転移温度(Tg)が−80℃〜−60℃の(メタ)アクリル酸アルキルエステルに由来する構成単位Cを29質量%〜55質量%と、を含む。
【0021】
本発明における(メタ)アクリル系共重合体は、上記構成単位A〜構成単位C以外のその他の構成単位を更に含んでいてもよい。
【0022】
(カルボキシ基を有する(メタ)アクリル系モノマーに由来する構成単位A)
本発明における(メタ)アクリル系共重合体は、カルボキシ基を有する(メタ)アクリル系モノマーに由来する構成単位Aの少なくとも1種を含む。
(メタ)アクリル系共重合体が、カルボキシ基を有する(メタ)アクリル系モノマーに由来する構成単位Aを含むことで、粘着剤組成物の粘着力及び凝集力が向上する。
【0023】
カルボキシ基を有する(メタ)アクリル系モノマーとしては、分子内にカルボキシ基を有する重合性二重結合含有化合物であれば特に制限されず、例えば、アクリル酸(AA)、メタクリル酸(MAA)、クロトン酸(CA)、無水マレイン酸(MAH)、フマル酸(FA)、イタコン酸(IA)、グルタコン酸(GA)、及びシトラコン酸(CiA)等が挙げられ、中でも粘着力及び凝集力を向上させやすく、高温環境下における粘着力及び凝集力の低下を抑制する観点からアクリル酸が好ましい。
【0024】
(メタ)アクリル系共重合体中に含まれる構成単位Aの含有量は、21質量%以下が好ましく、10質量%以下がより好ましく、4質量%〜7質量%が更に好ましい。
(メタ)アクリル系共重合体中に含まれる構成単位Aの含有量が、上記範囲内であると、粘着力及び凝集力がより向上するため高温環境下における粘着力及び凝集力の低下をより抑制できる傾向にあるので好ましい。
【0025】
((メタ)アクリル酸アルキルエステルに由来する構成単位B)
本発明における(メタ)アクリル系共重合体は、単独重合体としたときのTgが0℃〜45℃の(メタ)アクリル酸アルキルエステルに由来する構成単位Bを含む。
(メタ)アクリル系共重合体が、Tgが0℃〜45℃の(メタ)アクリル酸アルキルエステルに由来する構成単位Bを含むことで、粘着剤組成物の経時(特に高温環境下)における可塑剤の移行による粘着力及び凝集力の低下を抑制することができる。
【0026】
本発明における構成単位Bは、Tgが0℃〜45℃の(メタ)アクリル酸アルキルエステルに由来するものであり、Tgが0℃未満であると、高温環境下における粘着力の低下を抑制しにくくなる。また、(メタ)アクリル酸アルキルエステルのTgが45℃を越えると、低温環境下における粘着力及び印刷インクへのなじみ性が劣る。更に、Tgは、5℃〜30℃であることが好ましい。
【0027】
本発明における(メタ)アクリル系共重合体中の構成単位Bの含有量は、(メタ)アクリル系共重合体全質量に対して44質量%〜70質量%であり、構成単位Bの含有量が、44質量%未満であると高温環境下における粘着力の低下を抑制しにくくなる。また、構成単位Bの含有量が70質量%を超えると、低温環境下における粘着力の低下を抑制しにくくなり、また印刷インクへのなじみ性が劣る。
【0028】
前記Tgが0℃〜45℃の(メタ)アクリル酸アルキルエステルは、アルキル基の炭素数が1〜6であることが好ましく、炭素数が1〜4であることがより好ましい。
Tgが0℃〜45℃の(メタ)アクリル酸アルキルエステルの具体的な例としては、メチルアクリレート(MA:Tg=5℃)、t−ブチルアクリレート(tBA:Tg=41℃)、n−プロピルメタクリレート(nPMA:Tg=35℃)、エチルメタクリレート(EMA:Tg=42℃)、n−ブチルメタクリレート(nBMA:Tg=21℃)等が挙げられる。これらは1種を単独で又は2種以上を併せて用いることができる。
これらの中でも、メチルアクリレート(MA)、t−ブチルアクリレート(tBA)、エチルメタクリレート(EMA)及びn−ブチルメタクリレート(nBMA)が好ましく、メチルアクリレート(MA)が特に好ましい。
【0029】
本明細書において示す各モノマーの単独重合体としたときのガラス転移温度(Tg)は、示差走査熱量測定装置(DSC)(セイコーインスツルメンツ社製、EXSTAR6000)を用い、窒素気流中、測定試料10mmg、昇温速度10℃/分の条件で測定を行い、得られたDSCカーブの変曲点をTgとしたものである。
【0030】
本発明における(メタ)アクリル系共重合体の構成単位Bの含有量は、高温環境下において可塑剤が粘着剤層に移行することよる粘着力の低下を抑制する観点、低温環境下における粘着性の低下を抑制する観点、及び印刷インクへのなじみ性を良好にする観点から、共重合体全質量に対して46質量%〜62質量%が好ましく、50質量%〜60質量%がより好ましい。
【0031】
((メタ)アクリル酸アルキルエステルに由来する構成単位C)
本発明における(メタ)アクリル系共重合体は、単独重合体としたときのTgが−80℃〜−60℃の(メタ)アクリル酸アルキルエステルに由来する構成単位Cを含む。
(メタ)アクリル系共重合体が、構成単位Cを含むことで、粘着剤組成物は、低温環境下における粘着剤組成物の粘着力が低下することを抑制でき、印刷インクへのなじみ性も向上する。
【0032】
本発明における構成単位Cは、Tgが−80℃〜−60℃の(メタ)アクリル酸アルキルエステルに由来するものであり、Tgが−80℃未満であると、高温環境下における粘着力の低下を抑制しにくくなる。また、(メタ)アクリル酸アルキルエステルのTgが−60℃を越えると、低温環境下における粘着剤組成物の粘着力の低下を抑制しにくくなる。また、印刷インクへのなじみ性が劣る。Tgは、−76℃〜−66℃であることが好ましい。
【0033】
本発明における(メタ)アクリル系共重合体中の構成単位Cの含有量は、(メタ)アクリル系共重合体全質量に対して29質量%〜55質量%であり、構成単位Cの含有量が、29質量%未満であると低温環境下における粘着力及び印刷インクへのなじみ性が劣る。また、構成単位Cの含有量が55質量%を超えると、高温環境下における粘着力の低下を抑制しにくくなる。
【0034】
前記Tgが−80℃〜−60℃の(メタ)アクリル酸アルキルエステルは、アルキル基の炭素数が1〜10であることが好ましく、炭素数が1〜8であることがより好ましい。
Tgが−80℃〜−60℃の(メタ)アクリル酸アルキルエステルの具体的な例としては、n−ヘプチルアクリレート(nHA:Tg=−60℃)、2−エチルヘキシルアクリレート(2EHA:Tg=−76℃)、n−オクチルアクリレート(nOA:Tg=−80℃)、i−オクチルアクリレート(iOA:Tg=−75℃)等が挙げられる。これらは1種を単独で又は2種以上を併せて用いることができる。
これらの中でも、2−エチルヘキシルアクリレート(2EHA)、n−オクチルアクリレート(nOA)、及びi−オクチルアクリレート(iOA)が好ましく、2−エチルヘキシルアクリレート(2EHA)が特に好ましい。
【0035】
本発明の(メタ)アクリル系共重合体における構成単位Cの含有量は、高温環境下において可塑剤が粘着剤層に移行することによる粘着力の低下を抑制する及び低温環境下における粘着剤組成物の粘着力の低下を抑制する観点から、共重合体全質量に対して36質量%〜52質量%が好ましく、40質量%〜50質量%がより好ましい。
【0036】
(その他の構成単位)
本発明における(メタ)アクリル系共重合体は、上記構成単位A〜構成単位C以外のその他の構成単位を含んでいてもよい。
その他の構成単位とは、上記構成単位A〜構成単位Cを構成するモノマーと共重合可能なモノマーに由来する構成単位を意味する。その他の構成単位を形成するモノマーは、上記カルボキシ基を有する(メタ)アクリル系モノマー、上記Tgが0℃〜45℃の(メタ)アクリル酸アルキルエステル、及び上記Tgが−80℃〜−60℃の(メタ)アクリル酸アルキルエステルを除く、その他のモノマーの中から選択することができる。
【0037】
前記その他のモノマーとしては、例えば、エチルアクリレート(EA:Tg=−27℃)、ブチルアクリレート(BA:Tg=−57℃)、メチルメタクリレート(MMA:Tg=103℃)、ラウリルアクリレート(LA:Tg=−3℃)、i−プロピルメタクリレート(iPMA:Tg=85℃)、t−ブチルメタクリレート(tBMA:Tg=107℃)、i−ブチルメタクリレート(iBMA:Tg=48℃)、2−エチルヘキシルメタクリレート(2EHMA:Tg=−10℃)、シクロヘキシルメタクリレート(CHMA:Tg=56℃)、イソボニルメタクリレート(iBOMA:Tg=100℃)、2−ヒドロキシエチルアクリレート(2HEA:Tg=−15℃)、及び2−ヒドロキシエチルメタクリレート(2HEMA:Tg=55℃)等が挙げられる。
【0038】
≪(メタ)アクリル系共重合体の重合方法≫
本発明における(メタ)アクリル系共重合体は、その重合方法に特に制限されるものではない。重合方法としては、製造が比較的簡単に行なえる点で、溶液重合が好ましい。
【0039】
前記溶液重合は、一般に、重合槽内に所定の有機溶剤、モノマー、重合開始剤、及び必要に応じて用いられる連鎖移動剤を仕込み、窒素気流中又は有機溶媒の還流温度で、撹拌しながら数時間加熱反応させることにより行なわれる。この場合、有機溶剤、モノマー、重合開始剤及び/又は連鎖移動剤の少なくとも一部を逐次添加してもよい。
【0040】
重合反応時に用いられる有機溶剤としては、例えば、ベンゼン、トルエン、エチルベンゼン、n−プロピルベンゼン、t−ブチルベンゼン、o−キシレン、m−キシレン、p−キシレン、テトラリン、デカリン、芳香族ナフサなどの芳香族炭化水素類;
例えば、n−ヘキサン、n−ヘプタン、n−オクタン、i−オクタン、n−デカン、ジペンテン、石油スピリット、石油ナフサ、テレピン油などの脂肪系もしくは脂環族系炭化水素類;
例えば、酢酸エチル、酢酸n−ブチル、酢酸n−アミル、酢酸2−ヒドロキシエチル、酢酸2−ブトキシエチル、酢酸3−メトキシブチル、安息香酸メチルなどのエステル類;
例えば、アセトン、メチルエチルケトン、メチル−i−ブチルケトン、イソホロン、シクロヘキサノン、メチルシクロヘキサノンなどのケトン類;
例えば、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテルなどのグリコールエーテル類;
例えば、メチルアルコール、エチルアルコール、n−プロピルアルコール、i−プロピルアルコール、n−ブチルアルコール、i−ブチルアルコール、s−ブチルアルコール、t−ブチルアルコールなどのアルコール類;
などを挙げることができる。
これらの有機溶剤は、それぞれ1種を単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
【0041】
前記有機溶剤のうち、(メタ)アクリル系共重合体の重合に際しては、重合反応の容易さなどの点から、トルエン、酢酸エチル、メチルエチルケトンなどが好ましい。
【0042】
前記重合開始剤としては、通常の溶液重合で用いられる有機過酸化物、アゾ化合物などを使用することが可能である。
有機過酸化物としては、例えば、t−ブチルヒドロペルオキシド、クメンヒドロペルオキシド、ジクミルペルオキシド、ベンゾイルペルオキシド、ラウロイルペルオキシド、カプロイルペルオキシド、ジ−i−プロピルペルオキシジカルボナト、ジ−2−エチルヘキシルペルオキシジカルボナト、t−ブチルペルオキシビバラト、2,2−ビス(4,4−ジ−t−ブチルペルオキシシクロヘキシル)プロパン、2,2−ビス(4,4−ジ−t−アミルペルオキシシクロヘキシル)プロパン、2,2−ビス(4,4−ジ−t−オクチルペルオキシシクロヘキシル)プロパン、2,2−ビス(4,4−ジ−α−クミルペルオキシシクロヘキシル)プロパン、2,2−ビス(4,4−ジ−t−ブチルペルオキシシクロヘキシル)ブタン、2,2−ビス(4,4−ジ−t−オクチルペルオキシシクロヘキシル)ブタンなどが挙げられる。
アゾ化合物としては、例えば、2,2’−アゾビス−i−ブチルニトリル、2,2’−アゾビス−2,4−ジメチルバレロニトリル、2,2’−アゾビス−4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリルなどが挙げられる。
【0043】
前記有機過酸化物のうち、(メタ)アクリル系共重合体の重合に際しては、重合反応中にグラフト反応を起こさない重合開始剤の使用が好ましく、特にアゾビス系の重合開始剤が好ましい。この場合の重合開始剤の使用量は、通常はモノマーの合計量100質量部に対して、0.01質量部〜2質量部、好ましくは0.1質量部〜1.2質量部である。
【0044】
また、(メタ)アクリル系共重合体の製造に際しては、本発明の目的及び効果を損なわない範囲であれば、必要に応じて連鎖移動剤を使用することは可能である。
【0045】
このような連鎖移動剤としては、例えば、シアノ酢酸;シアノ酢酸の炭素数1〜8のアルキルエステル類;ブロモ酢酸;ブロモ酢酸の炭素数1〜8のアルキルエステル類;α-メチルスチレン、アントラセン、フェナントレン、フルオレン、9−フェニルフルオレンなどの芳香族化合物類;p−ニトロアニリン、ニトロベンゼン、ジニトロベンゼン、p−ニトロ安息香酸、p−ニトロフェノール、p−ニトロトルエンなどの芳香族ニトロ化合物類;ベンゾキノン、2,3,5,6−テトラメチル−p−ベンゾキノンなどのベンゾキノン誘導体類;トリブチルボランなどのボラン誘導体;四臭化炭素、四塩化炭素、1,1,2,2−テトラブロモエタン、トリブロモエチレン、トリクロロエチレン、ブロモトリクロロメタン、トリブロモメタン、3−クロロ−1−プロペンなどのハロゲン化炭化水素類;クロラール、フラルデヒドなどのアルデヒド類:炭素数1〜18のアルキルメルカプタン類;チオフェノール、トルエンメルカプタンなどの芳香族メルカプタン類;メルカプト酢酸、メルカプト酢酸の炭素数1〜10のアルキルエステル類;炭素数1〜12のヒドロキシアルキルメルカプタン類;ビネン、ターピノレンなどのテルペン類;などを挙げることができる。
【0046】
本発明のおける(メタ)アクリル系共重合体は、(メタ)アクリル系共重合体中全質量に対して、少なくとも、構成単位Bを44質量%〜70質量%、構成単位Cを29質量%〜55質量%含む。
(メタ)アクリル系共重合体中における構成単位Cに対する構成単位Bの含有比率(B/C)は、質量基準で、1以上であることが好ましく、1.1〜2.5であることがより好ましく、1.4〜2.2であることが更に好ましい。
構成単位の比率(B/C)が、1以上であると、高温環境下における可塑剤の移行による粘着力の低下をより抑制することができる。
【0047】
本発明における(メタ)アクリル系共重合体の重量平均分子量(Mw)は、15万〜80万が好ましく、20万〜75万であることがより好ましく、20万〜70万であることが更に好ましい。
(メタ)アクリル系共重合体の重量平均分子量が上記範囲であると、被着体へのなじみ性を低下させることなく、凝集力がより向上する。そのため、高温環境下における可塑剤の移行による粘着力の低下を抑制することと、低温環境下での粘着力の低下を抑制することを両立できる傾向にある。
【0048】
本発明の(メタ)アクリル系共重合体は、Tgが0℃〜45℃の(メタ)アクリル酸アルキルエステルに由来する構成単位Bと、Tgが−80℃〜−60℃の(メタ)アクリル酸アルキルエステルに由来する構成単位Cと、を含む。
本発明の(メタ)アクリル系共重合体は、構成単位Bを形成するモノマー及び構成単位Cを形成するモノマーのTgの差が70℃以上であることが好ましく、80℃〜120℃であることがより好ましい。
【0049】
前記(メタ)アクリル系共重合体の重量平均分子量(Mw)は、下記の方法により測定する値である。
【0050】
(重量平均分子量(Mw)の測定方法)
Mwは、下記(1)〜(3)の手順にしたがって測定される。
(1)(メタ)アクリル系共重合体の溶液を剥離紙に塗布し、100℃で2分間乾燥させ、フィルム状の(メタ)アクリル系共重合体を得る。
(2)前記(1)で得られたフィルム状の(メタ)アクリル系共重合体をテトラヒドロフラン(THD)にて固形分0.2質量%になるように溶解する。
(3)下記条件にて、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いて、標準ポリスチレン換算値として、(メタ)アクリル系共重合体の重量平均分子量(Mw)を測定する。
【0051】
<条件>
・GPC :HLC−8220 GPC(東ソー(株)製)
・カラム :TSK−GEL GMHXL 4本使用
・移動相溶媒:テトラヒドロフラン
・流速 :0.6ml/min
・カラム温度:40℃
【0052】
≪架橋剤≫
本発明における粘着剤組成物は、既述の(メタ)アクリル系共重合体と共に、(メタ)アクリル系共重合体と反応して架橋構造を形成しうる官能基を(好ましくは2個以上、より好ましくは2個〜5個)有する架橋剤を含む。
【0053】
架橋剤は(メタ)アクリル系共重合体と反応して架橋構造を形成するものである限り、特に限定されるものではなく、ポリエポキシ化合物、ポリイソシアネート化合物、ポリアジリジン化合物、メラミンホルムアルデヒド縮合物、金属塩、金属キレート化合物などを挙げることができる。
これら架橋剤のうち、基材への密着性、(メタ)アクリル系共重合体と配合した後の安定性等の観点から、ポリエポキシ化合物(エポキシ系架橋剤)、及びポリイソシアネート系化合物(イソシアネート系架橋剤)が好ましい。
これら架橋剤は、それぞれ1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0054】
上記エポキシ系架橋剤としては、例えば、ビスフェノールA・エピクロルヒドリン型のエポキシ樹脂、エチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、グリセリンジグリシジルエーテル、グリセリントリグリシジルエーテル、1,6−ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル、ソルビトールポリグリシジルエーテル、ポリグリセロールポリグリシジルエーテル、ペンタエリスリトールポリグリシジルエリスリトール、ジグリセロールポリグリシジルエーテル等が挙げられる。
【0055】
これらのエポキシ系架橋剤は、例えば「TETRAD−C」、「TETRAD−X」〔三菱瓦斯化学(株)製〕などの商品名により市販されているものを好適に使用することができる。
【0056】
エポキシ系架橋剤の添加量は、(メタ)アクリル系共重合体100質量部に対して、0.001質量部以上1.0質量部以下が好ましく、0.05質量部以上0.5質量部以下がより好ましく、0.05質量部以上0.15質量部以下が更に好ましい。エポキシ系架橋剤の添加量が前記範囲内であると、粘着剤層の凝集力を調整することができるので、高温環境下での粘着力を良好に保つ点で有利である。
【0057】
上記イソシアネート系架橋剤としては、例えば、2,4−トリレンジイソシアネート、2,6−トリレンジイソシアネート、水素化トリレンジイソシアネート、1,3−キシリレンジイソシアネート、1,4−キシリレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、ジフェニルメタン−4,4−ジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、1,3−ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン、テトラメチルキシリレンジイソシアネート、1,5−ナフタレンジイソシアネート、トリフェニルメタントリイソシアネート、およびこれらのポリイソシアネート化合物とトリメチロールプロパン等のポリオール化合物とのアダクト体、これらポリイソシアネート化合物のビュレット体やイソシアヌレート体等が挙げられる。
【0058】
これらのイソシアネート系架橋剤は、例えば「コロネートL」「コロネートHX」、「コロネートHL−S」、「コロネート2234」〔以上日本ポリウレタン(株)製〕、「デスモジュールN3400」〔住友バイエルウレタン(株)製〕、「デュラネートE−405−80T」、「デュラネートTSE−100」〔旭化成工業(株)製〕、「タケネートD−110N」、「タケネートD−120N」、「タケネートM−631N」〔以上三井武田ケミカル(株)製〕などの商品名により市販されているものを好適に使用することができる。
【0059】
イソシアネート系架橋剤の粘着剤組成物中における添加量としては、(メタ)アクリル系共重合体100質量部に対して、1質量部以上10質量部以下の範囲が好ましく、4質量部以上7質量部以下の範囲がより好ましい。イソシアネート系架橋剤の添加量が上記範囲であると、高温環境下における可塑剤に起因する粘着力の低下がより抑制され、低温環境下における粘着性がより向上する。
【0060】
架橋剤は、2種以上を組み合わせて用いることができ、前記エポキシ系架橋剤と前記イソシアネート系架橋剤とを組み合わせてもよい。その場合、エポキシ系架橋剤、及びイソシアネート系架橋剤は、それぞれ前記添加量の範囲において、適宜選択することができるが、好ましくは、いずれも有効成分質量比で、エポキシ系架橋剤:イソシアネート系架橋剤=1:1〜1:300、特には1:10〜1:100の範囲となるように用いるのが好ましい。
【0061】
本発明の粘着剤組成物において、前記エポキシ系架橋剤と前記イソシアネート系架橋剤とを組み合わせて用いることで、粘着剤組成物の高温環境下における可塑剤の移行による粘着力の低下をより抑制することができる。
【0062】
本発明の粘着剤組成物は、高温環境下における可塑剤の移行による粘着力の低下を抑制する観点、低温環境下における粘着力の低下を抑制する観点、及びインクへのなじみ性を向上させる観点から、前記(メタ)アクリル系共重合体の間で架橋構造を形成した後、すなわち架橋後のゲル分率が、30%〜75%であることが好ましく、35%〜75%であることがより好ましく、40%〜75%であることが更に好ましい。
【0063】
ゲル分率が、30%以上であると、粘着剤組成物の凝集力に優れるため高温環境下における可塑剤の移行を抑制することができるので粘着力の低下を引き起こしにくく、75%以下であると、低温環境下における粘着剤組成物の粘着力の低下を抑制できる傾向にある。
【0064】
(ゲル分率の測定)
ゲル分率は、下記(1)〜(5)に示す方法により測定するものである。
(1)粘着剤組成物の溶液を剥離紙上に塗布し、室温で風乾30分後、100℃で5分間本乾燥し、フィルム状の粘着剤層を形成する。
(2)上記粘着剤層を23℃、相対湿度65%の環境下で10日間養生する。
(3)精密天秤にて質量を秤量した250メッシュ、100mm×100mmの金網に、75mm×75mmにカットした上記フィルム状の粘着剤層を貼付し、デシケーター内で1時間乾燥させる。その後、精密天秤にて質量を秤量する。
(4)秤量した試料を、粘着剤層が溶剤浸漬時に漏れ出ないように金網で包み込み、溶剤(酢酸エチル)に72時間静置浸漬する。
(5)溶剤浸漬後、金網を乾燥させ、精密天秤にて質量を秤量する。浸漬前と浸漬後の質量変化から下式によりゲル分率を算出する。
ゲル分率[%] = 100−[(A−B)/(C−B)]×100
式中、Aは溶剤浸漬後の金網と粘着剤層の合計質量(g)を表し、Bは金網の質量(g)を表し、Cは溶剤浸漬前の金網と粘着剤層の合計質量(g)を表す。
【0065】
本発明の粘着剤組成物には、以上述べた(メタ)アクリル系共重合体、及び架橋剤の他に、必要に応じて、粘着剤組成物に通常配合される配合物、例えば、耐候性安定剤、タッキファイヤー、可塑剤、軟化剤、染料、顔料、無機充填剤などを、本発明の効果を損なわない範囲で含むことができる。
【0066】
<粘着シート>
本発明における粘着シートは、既述の本発明の粘着剤組成物を含む粘着剤層を有して構成されたものである。本発明の粘着剤組成物を用いるので、高温環境下において基材から粘着剤組成物へ可塑剤が移行することによる粘着力の低下を抑制し、低温環境下における粘着力の低下を抑制し、かつ、印刷インクへのなじみ性に優れる。
また、本発明の粘着シートは、既述の粘着剤を用いるので、粘着シートを貼り付ける被着体に可塑剤が含まれる場合であっても、被着体から粘着剤層へ可塑剤が移行することによる粘着力の低下を抑制することができる。
【0067】
本発明の粘着シートの例として、粘着剤組成物を塗布等して形成された粘着剤層を有するマーキングフィルムやオーバーラミネートフィルムなどが挙げられる。これらのフィルムは、前記粘着剤組成物を粘着剤溶液として剥離紙(又は剥離フィルム)上に塗工し、乾燥させることで粘着剤層を形成し、剥離紙(又は剥離フィルム)上に形成された粘着剤層と基材であるフィルムとを貼り合せることによって作製することができる。
【0068】
本発明の粘着シートの基材は、特に制限はないが、可塑剤を含んだフィルムを基材として用いることで、本発明の効果が顕著に現れる。さらに、これらの中でも、軟質塩化ビニルを含んだフィルムを基材として用いることで、本発明の効果がより顕著に現れる。
【0069】
本発明の粘着シートの基材の厚さは、特に限定されないが、粘着シートの強度の点から25μm〜200μm程度の範囲が好ましい。
【0070】
粘着剤層の厚さは、特に制限されないが、基材上の凹凸、段差に対する追従性の点から、20μ〜175μm程度の範囲が好ましい。
【0071】
基材や剥離フィルムに粘着剤組成物を塗布する場合、塗布方法としては、グラビアロールコーター、リバースロールコーター、キスロールコーター、ディップロールコーター、バーコーター、ナイフコーター、スプレーコーターなどを用いた通常の方法により行なうことができる。
【実施例】
【0072】
以下、本発明を実施例により更に具体的に説明するが、本発明はその主旨を越えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。なお、特に断りのない限り、「部」及び「%」は質量基準である。
【0073】
<(メタ)アクリル系共重合体の重合>
≪重合例1≫
攪拌機、還流冷却器、逐次滴下装置、及び温度計を備えた反応器に、酢酸エチル(EAc)200質量部、トルエン(TOL)100質量部を仕込んだ。次いで、別の容器にメチルアクリレート(MA)211.2質量部((メタ)アクリル系共重合体全質量に対して44質量%相当)、2−エチルヘキシルアクリレート(2EHA)201.6質量部(42質量%相当)、n−ブチルアクリレート(BA)48質量部(10質量%相当)、アクリル酸(AA)19.2質量部(4質量%相当)からなるモノマー混合物480質量部を用意し、このうち120質量部を反応器に仕込み、重合開始剤としてアゾビスイソブチロニトリル(AIBN)0.06質量部を添加した。添加後、加熱し、還流温度82℃で20分間保った。この中に更に、残りのモノマー混合物360質量部、EAc200質量部及びAIBN0.6質量部からなる混合物を90分間かけて逐次滴下した。更に、60分間83℃に保った後、TOL60質量部及びAIBN1.2質量部を30分間かけて逐次滴下し、更に120分間同温度で保ってから、TOLで固形分45%に希釈後冷却し、(メタ)アクリル系共重合体A(樹脂A)の溶液を得た。
【0074】
≪重合例2〜重合例19≫
重合例2〜重合例19は、前記重合例1において配合した各モノマーを、下記表1及び表2に示す配合になるように、モノマーの種類及び配合比を変更した以外は、重合例1と同様に重合し、(メタ)アクリル系共重合体B(樹脂B)〜(メタ)アクリル系共重合体S(樹脂S)の溶液を得た。
なお、下記表1及び表2における配合比の数値は、(メタ)アクリル系共重合体全質量(下記表1及び表2における「合計」)に対する各モノマーの質量%で示す。
【0075】
≪重合例21≫
攪拌機、還流冷却器、逐次滴下装置、及び温度計を備えた反応器に、酢酸エチル(EAc)200質量部、トルエン(TOL)150質量部を仕込んだ。次いで、別の容器にメチルアクリレート(MA)259.2質量部((メタ)アクリル系共重合体全質量に対して54質量%相当)、2−エチルヘキシルアクリレート(2EHA)201.6質量部(42質量%相当)、アクリル酸(AA)19.2質量部(4質量%相当)からなるモノマー混合物480質量部を用意し、このうち120質量部を反応器に仕込み、重合開始剤としてアゾビスイソブチロニトリル(AIBN)0.06質量部を添加した。添加後、加熱し、還流温度82℃で20分間保った。この中に更に、残りのモノマー混合物360質量部、EAc200質量部及びAIBN0.6質量部からなる混合物を90分間かけて逐次滴下した。更に、60分間83℃に保った後、TOL60質量部及びAIBN1.2質量部を30分間かけて逐次滴下し、更に120分間同温度で保ってから、TOLで固形分45%に希釈後冷却し、(メタ)アクリル系共重合体T(樹脂T)の溶液を得た。
【0076】
≪重合例20≫
攪拌機、還流冷却器、逐次滴下装置、及び温度計を備えた反応器に、酢酸エチル(EAc)180質量部を仕込んだ。次いで、別の容器にメチルアクリレート(MA)259.2質量部((メタ)アクリル系共重合体全質量に対して54質量%相当)、2−エチルヘキシルアクリレート(2EHA)201.6質量部(42質量%相当)、アクリル酸(AA)19.2質量部(4質量%相当)からなるモノマー混合物480質量部を用意し、このうち120質量部を反応器に仕込み、重合開始剤としてアゾビスイソブチロニトリル(AIBN)0.06質量部を添加した。添加後、加熱し、還流温度82℃で20分間保った。この中に更に、残りのモノマー混合物360質量部、EAc180質量部及びAIBN0.6質量部からなる混合物を90分間かけて逐次滴下した。更に、60分間83℃に保った後、TOL60質量部及びAIBN1.2質量部を30分間かけて逐次滴下し、更に120分間同温度で保ってから、TOLで固形分45%に希釈後冷却し、(メタ)アクリル系共重合体U(樹脂U)の溶液を得た。
【0077】
【表1】
【0078】
【表2】
【0079】
表1及び表2中の各モノマーの略語について説明する。
AA ・・・ アクリル酸
MA ・・・ メチルアクリレート
t−BA ・・・ t−ブチルアクリレート
n−BMA ・・・ n−ブチルメタクリレート
2EHA ・・・ 2−エチルヘキシルアクリレート
n−OA ・・・ n−オクチルアクリレート
i−OA ・・・ i−オクチルアクリレート
BA ・・・ n−ブチルアクリレート
i−BMA ・・・ i−ブチルメタクリレート
LA ・・・ ラウリルアクリレート
VAc ・・・ 酢酸ビニル
なお、表1及び表2中に示したTgは、示差走査熱量測定装置(DSC)(セイコーインスツルメンツ社製、EXSTAR6000)を用い、窒素気流中、測定試料10mmg、昇温速度10℃/分の条件で、各モノマーの単独重合体を用いて測定を行い、得られたDSCカーブの変曲点をTgとしたものである。
【0080】
(実施例1)
<粘着剤溶液の調製>
以下の手順にしたがって、粘着剤溶液(粘着剤組成物)を調製した。
(メタ)アクリル系共重合体である上記樹脂Aの溶液222.22部(固形分:100質量部)に対して、TETRAD−X(三菱瓦斯化学社製)を0.1質量部(固形分:0.1質量部)添加混合し、粘着剤溶液を調製した。得られた粘着剤溶液から形成した粘着剤層の、架橋後のゲル分率は、52質量%であった。
【0081】
<評価用粘着シートの作製>
この粘着剤溶液を、シリコーン処理されたPETフィルム(藤森工業社製、フィルムバイナ、厚さ100μm)上に、25g/m
2なるように塗布した。塗布後、熱風乾燥機を用いて100℃で1分間乾燥し、粘着剤層を形成した。乾燥後、粘着剤層が形成されたPETフィルムの粘着剤層面を、60℃で15分間アニーリング処理した軟質塩化ビニルフィルム(日本カーバイド工業(株)製、N−5マット(可塑剤10%))の片面に貼り合せ、23℃、相対湿度50%の環境下で7日間養生し、粘着力及びなじみ性評価用粘着シートとした。
【0082】
<評価>
上記の方法で作製された評価用粘着シートを用いて、粘着力及びなじみ性の評価を行った。
【0083】
≪常温環境下における粘着力の評価≫
アニーリング処理をした前記塩化ビニルフィルムを、両面テープでSUS板に固定し、粘着力評価用の被着体を作製した。塩化ビニルフィルム面を、粘着剤組成物の粘着力を評価するための被着面とした。
評価用粘着シートを25mm×150mmにカットし、カット後、評価用粘着シートのシリコーン処理されたPETフィルムを剥離し、2kgのゴムローラーを用いて、常温環境下(23℃)で、被着面に粘着剤層が接するように圧着して試験サンプルとした。
試験サンプルを23℃、相対湿度50%の環境下で24時間放置した後、軟質塩化ビニルフィルムから評価用粘着シートを粘着剤層ごと剥離した場合の粘着力を、23℃、相対湿度50%の環境下で、剥離角度180°剥離速度0.3m/minの条件で測定した。測定結果は下記表3に示す。
【0084】
≪高温環境下での粘着力保持能の評価≫
高温環境下(80℃)で養生後の粘着力を測定し、常温環境下における粘着力と比較することで、経時における高温環境下での粘着力の低下を抑制できるか(高温環境下での粘着力保持能)を評価した。具体的には、上記の試験サンプルを23℃、相対湿度50%の環境下で24時間放置した後、80℃の環境下に168時間養生し、再び23℃、相対湿度50%の環境下で24時間放置した。この試験サンプルを、軟質塩化ビニルフィルムから評価用粘着シートを粘着剤層ごと剥離した場合の粘着力を、23℃、相対湿度50%の環境下で、剥離角度180°、剥離速度0.3m/minの条件で測定した。下記の基準で高温環境下での粘着力保持能を評価した。評価結果は下記表3に示す。
【0085】
(高温環境下での粘着力保持能の評価基準)
上記常温環境下(23℃)における粘着力と上記高温環境下(80℃)に168時間養生した後の粘着力とを比較したときの粘着力の低下率により、高温環境下での粘着力保持能を評価した。
◎ : 粘着力低下率が0%以上10%未満であり、実用上支障がない程度
○ : 粘着力低下率が10%以上15%未満であり、やや粘着力が低下したが、実用上支障がない程度
△ : 粘着力低下率が15%以上20%未満であり、粘着力が低下したが実用上支障がない程度
× : 粘着力低下率が20%以上であり、大きく粘着力が低下し、実用上支障がある
【0086】
≪低温環境下での粘着力の評価≫
低温環境下(5℃)での粘着力を測定し、常温環境下(23℃)における粘着力と比較することで、低温環境下による粘着力の低下を抑制できるか(低温環境下での粘着力)を評価した。具体的には、5℃の環境下で評価用粘着シートを被着体に圧着した以外は、上記試験サンプルと同様に圧着して低温試験サンプルとした。
低温試験サンプルを5℃の環境下に24時間放置した後、軟質塩化ビニルフィルムから評価用粘着シートを粘着剤層ごと剥離した場合の粘着力を、5℃、相対湿度50%の環境下で、剥離角度180°、剥離速度0.3m/minの条件で測定した。下記の基準で低温環境下での粘着力を評価した。評価結果は下記表3に示す。
【0087】
(低温環境下での粘着力の評価基準)
粘着力測定時のジッピング及び、上記常温環境下における粘着力と、上記低温環境下における粘着力と、を比較したときの粘着力の低下率により、低温環境下での粘着力を評価した。
◎ : 粘着力測定時にジッピングせず、23℃環境下における粘着力と同程度(90%以上)の粘着力を発現し、実用上支障がない
○ : 粘着力測定時に部分的にジッピングするが、23℃環境下における粘着力と同程度(90%以上)の粘着力を発現し、実用上支障がない
△ : 粘着力測定時に部分的にジッピングし、23℃環境下における粘着力より粘着力が低いが(50%以上から90%未満)、実用上支障がない
× : 粘着力測定時にジッピングし、ほとんど粘着力を発現しないので、実用上支障がある
【0088】
≪なじみ性の評価≫
アニーリング処理をした前記軟質塩化ビニルフィルムにインクジェットプリンタ(ローランド社製、VP540i)を用いて30mm×80mmの黒ベタ印刷を行い、なじみ性を評価するための印刷体とした。
上記評価用粘着シートを25mm×75mmにカットし、カット後、評価用粘着シートのPETフィルムを剥離し、2kgのゴムローラーを用いて、常温環境下(23℃)で、印刷体の黒ベタ印刷面に粘着剤層が接するように圧着した。
圧着後の粘着剤組成物のインクへのなじみ性を下記の基準で目視にて評価した。評価結果は下記表3に示す。
【0089】
(なじみ性の評価基準)
◎ : インクへのなじみが良好で、黒ベタ印刷がはっきりみえる
○ : インクへのなじみがやや良好で、黒ベタ印刷がほとんどみえる
△ : インクへのなじみがやや悪く、黒ベタ印刷がやや見えにくいが、空気の混入がなく、実用上支障がない
× : インクへのなじみが悪く、印刷面と粘着剤層との間に空気が混入し、黒ベタ印刷がはっきりみえず、実用上支障がある
【0090】
(実施例2〜実施例21及び比較例1〜比較例8)
実施例1において、樹脂の溶液、及び架橋剤の種類を下記表3に示すように変更した以外は、実施例1と同様にして、粘着剤溶液を調製した。得られた各粘着剤溶液の架橋後のゲル分率は、表3に併せて示す。また、実施例1と同様にして、各実施例、比較例で調製した粘着剤溶液を用いて、評価用粘着シートを作製し、常温環境下での粘着力、高温環境下での粘着力保持能、低温環境下での粘着力及びなじみ性の評価を行った。評価結果は下記表3に示す。
【0091】
【表3】
【0092】
表3に示すように、実施例では、可塑剤を含む軟質塩化ビニルフィルムに貼り付けた場合であっても、80℃の高温環境下において粘着力の低下が抑制され、また、5℃の低温環境下において粘着力の低下が抑制され、かつ、印刷インクへのなじみ性が高いことがわかる。