【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは上記課題を解決するために検討した結果、本発明に到達した。
すなわち、本発明は、フィラメント表面が、無水カルボン酸基を有する酸変性ポリオレフィン系樹脂とポリアミド系樹脂とがブレンドされてなるブレンド体によって構成されてなり、フィラメントの強力が150N以上、乾熱収縮率が3%以下であることを特徴とするモノフィラメントを要旨とするものである。
【0012】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0013】
まず、本発明は、1本のフィラメントによって用いられるモノフィラメント糸(なお、本発明では、モノフィラメント糸の「糸」を省略して「モノフィラメント」ともいう。)であって、複数本のフィラメントから構成されるマルチフィラメント糸ではない。マルチフィラメント糸は、複数本のフィラメントを集束して糸とするが、このときに撚りをかけたり、接着剤を付与する必要があり、工程数が多くなり、コストも高くなる。本発明においてはモノフィラメントとすることで、工程の簡略化と低コスト化を図っている。
【0014】
本発明のモノフィラメントは、フィラメント表面が、無水カルボン酸基を有する酸変性ポリオレフィン系樹脂とポリアミド系樹脂とがブレンドされてなるブレンド体によって構成される。
【0015】
フィラメント表面に配されるブレンド体は、特定の酸変性ポリオレフィン系樹脂とポリアミド系樹脂との2種の熱可塑性樹脂がブレンドされたものである。ポリオレフィン系樹脂としては、ポリプロピレン、ポリエチレンが挙げられる。一般に、ポリオレフィン系樹脂とポリアミド系樹脂とは、相溶性が良好でないため、ブレンドしても良好に混ざらない。本発明においては、無水カルボン酸基を有する酸変性ポリオレフィン系樹脂という特定の酸変性ポリオレフィン系樹脂を採用することにより、ポリアミド系樹脂との相溶性を向上させて、繊維を形成しうるブレンド体を得ることができる。
【0016】
また、フィラメント表面に、このような特定の酸変性ポリオレフィン系樹脂を含むブレンド体を配することによって、ポリオレフィン系樹脂により構成されるシース材との接着性、接合性が良好となる。したがって、本発明のモノフィラメントをテンションメンバーとして用いた際に、シース材との接着性、接合性が良好であることから、ケーブルからテンションメンバーが抜け落ちるというトラブルが生じない。
【0017】
無水カルボン酸基を有する酸変性ポリオレフィン系樹脂とポリアミド系樹脂とのブレンド比率は、酸変性ポリオレフィン系樹脂が、少なくとも2.5質量%以上ブレンドするとよく、また、その上限は20質量%がよい。酸変性ポリオレフィン系樹脂のブレンド比率が小さいと、シース材との接着・接合性が劣る傾向となる。酸変性ポリオレフィン系樹脂のブレンド比率が大きくなり過ぎると、フィラメント強度が低下する傾向となる。また、モノフィラメントを製造する際の紡糸操業性が劣る傾向となる。ブレンド比率のより好ましい範囲は、酸変性ポリオレフィン系樹脂が5質量%〜10質量%である。
【0018】
本発明に用いる無水カルボン酸基を有する酸変性ポリオレフィン系樹脂としては、より具体的には、プロピレン75〜99.9モル%と、エチレンおよび炭素数4〜12のα−オレフィンからなる群から選ばれる少なくとも1種のオレフィン0.1〜25モル%を構成単位とするポリオレフィンの酸変性物と炭素数7〜24の芳香環含有アルコールとのエステル化物からなる無水カルボン酸基を有する酸変性ポリオレフィン系樹脂を使用することができる。このような酸変性ポリオレフィン系樹脂として、三洋化成工業社より市販されている酸変性低分子量ポリオレフィン系樹脂(商品名『ユーメックス』)を用いるとよい。
【0019】
酸変性ポリオレフィン系樹脂とブレンドするポリアミド系樹脂としては、例えば、ナイロン6、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン46、ナイロン66、ナイロン610、ナイロンMXD6(ポリメタキシリレンジアジパミド)等のホモポリマー、これらの共重合体や混合物等が挙げられる。ポリアミド系樹脂は、可撓性に優れることから、本発明において好ましく用いる。
【0020】
本発明のモノフィラメントは、フィラメント表面が上記したブレンド体より構成されているが、フィラメントを構成する熱可塑性樹脂として、上記したブレンド体のみから構成される単相の形態のものであっても、また、フィラメント表面はブレンド体により構成され、表面以外は、他の熱可塑性樹脂により構成されるものであってもよい。フィラメント表面に特定のブレンド体を配することにより、モノフィラメントをテンションメンバーとして使用した際のシース材との接着・接合性を向上させることができることから、接着・接合性を考慮すると、フィラメント表面を特定のブレンド体により完全に被覆されていれば所望の目的が達成される。モノフィラメントの強度をより向上させたい場合は、フィラメント表面にはブレンド体を配し、フィラメントの芯部には強度を向上させることが可能な他の熱可塑性樹脂を配することが好ましい。
【0021】
本発明のモノフィラメントが複合形態の場合は、芯鞘型複合形態であることが好ましい。すなわち、鞘部にブレンド体を配し、芯部に他の熱可塑性樹脂を配する。芯部に配する熱可塑性樹脂としては、鞘部との相溶性を考慮して、上記したポリアミド系樹脂を配することが好ましい。特に、機械的強度を向上させることを考慮すると、芯部には、ナイロンMXD6を配することが好ましい。ナイロンMXD6を用いることにより、機械的強力、乾熱収縮率、可撓性、溶融紡糸時の操業性等に優れるためモノフィラメントを得ることができる。芯部にナイロンMXD6を配し、鞘部にブレンド体を配した芯鞘型のモノフィラメントとすることにより、例えば、テンションメンバーとして使用した際に、光ファイバーを保護する性能や光ケーブル作成時の加工性にも優れたものとなる。さらには、得られるケーブル類の十分な補強が可能となり、ケーブル類を屋内外で使用する際の強靭さをより増大させることができる。
【0022】
なお、芯鞘複合型のモノフィラメントにおいては、芯部は、フィラメントの横断面の中央部に1個存在するものが好ましいが、場合によっては、芯部が2〜3個程度の複数個存在する形態(海島型ともいう。)であってもよい。
【0023】
芯部を構成する樹脂と鞘部を構成する樹脂との比率(質量比)は、芯/鞘=4/1〜2/1が好ましい。モノフィラメントの強度を考慮すると、芯部の比率が大きいほど好ましいが、あまりに芯部の比率が大きくなり過ぎて、鞘部がフィラメント表面を良好に被覆しにくくなり、フィラメント表面の一部に芯部が露出することになると、本発明の目的が達成できない場合が生じる。よって、モノフィラメントの強度と、鞘部によって芯部を完全に被覆しうることを考慮して、上記の範囲とすることが好ましい。
【0024】
モノフィラメントをテンションメンバーとして使用するにあたっては、ケーブル類を良好に補強するために高強力であることが求められ、かつ熱と湿度に対する安定性も求められる。したがって、モノフィラメントは、強力が150N以上、乾熱収縮率が3%以下である。
【0025】
フィラメントの強力は、JIS L1013の引張強さ及び伸び率の標準時試験に基づき、つかみ間隔25cm、引張速度30cm/分で測定する。モノフィラメントの強力が150N未満であると、強力が不足し、ケーブル類の作製時や使用時に破断を生じることがあり、ケーブル類を十分に補強することができない。モノフィラメントの強力は、200N以上が好ましく、より好ましくは250N以上である。
【0026】
フィラメントの乾熱収縮率は、JIS L1013の収縮率・乾熱収縮率に基づき、処理温度140℃、30分間処理後の長さより測定するものである。乾熱収縮率が3%を超えると、例えば、ケーブルとモノフィラメントとをシース材により被覆してケーブルを作成する際に、シース材を構成する樹脂により溶融被覆するが、その溶融被覆のための熱処理によってモノフィラメントが大きく収縮してしまい、シース材の割れやヒビが生じることや、モノフィラメントの形状が収縮により歪が生じて直線性が失われることにもなる。
このような強力や乾熱収縮率を有するモノフィラメントは、例えば、後述する製造方法によって、延伸、熱処理条件を適切な範囲のものに調整して製造することにより得ることができる。
【0027】
また、本発明のモノフィラメントは、テンションメンバーとして使用の際にシース材との接着・接合性に優れる指標として、ポリエチレンとの接着性を考慮した接着引抜強力が強力の0.1倍以上であることが好ましく、中でも0.2倍以上であることが好ましい。つまり、接着引抜強力は25N以上であることが好ましく、30N以上であることがより好ましい。
【0028】
なお、接着引抜強力は以下のようにして測定するものである。予めモノフィラメントを通す穴を開けた、直径0.7mm、高さ13mmの円柱状のアルミカップ5号にポリエチレンチップ10gを入れ、190℃、20分熱処理して溶融させる。ポリエチレンが固化する前にモノフィラメントを通し、25℃にて60分間冷却固化させる。その後、容器の底面を上にして、引き抜き時に容器が動かないように固定し、引張試験機に設置する。引張速度50mm/分でモノフィラメントを引き抜きながら、引き抜き時の強力を測定し、この強力の最大値を接着引抜強力とする。
【0029】
特に、光ケーブルのシース材には、ポリエチレンが用いられることが多いので、モノフィラメントをテンションメンバーとして使用するにあたっては、上記のようなポリエチレンとの接着性を示す接着引抜強力は重要な特性値である。本発明のモノフィラメントは、フィラメント表面に特定の変性ポリオレフィン系樹脂を含むブレンド体を配しているため、モノフィラメント表面に変性ポリオレフィン系樹脂が存在することとなり、接着引抜強力を向上させることができ、接着引抜強力を30N以上のものとすることが可能となる。
【0030】
本発明におけるモノフィラメントの直径は、用途や要求性能に応じて、必要な強力を保持できるものを適宜選択すればよく、特に限定しないが、0.4mm〜1.5mm程度が実用的である。
【0031】
次に、本発明のモノフィラメントの製造方法について一例を用いて説明する。芯部にナイロンMXD6、鞘部に酸変性低分子量ポリオレフィン系樹脂とナイロン6等のポリアミド系樹脂とを配するように、それぞれのチップを準備し、紡糸温度275℃程度とし、エクストルーダー型紡糸装置を使用して、鞘部の2種の樹脂をチップブレンドしながら、紡糸口金より溶融紡出し、紡出糸条を60℃の温水浴中で冷却して未延伸糸を得る。この未延伸糸を90℃の水浴中で第一段階目の延伸(延伸倍率2.8〜3.5倍)を行い、次いで215℃の熱風雰囲気下で第二段階目の延伸(延伸倍率1.1〜2.0倍)を行う。引き続いて約240℃の熱風雰囲気下で2.5〜8%の弛緩熱処理を行い、本発明のモノフィラメントを得ることができる。