【解決手段】車軸側のアウタチューブ2の内周の上下に嵌着されたガイドブッシュ4,5によって車体側のインナチューブ3を上下摺動可能に支持するとともに、アウタチューブ2とインナチューブ3の内部にオイルを封入してインナチューブ3内の上部にエア室Saを形成し、アウタチューブ2とインナチューブ3の伸縮動に伴うオイルの流動抵抗によって減衰力を発生する減衰力発生機構を備えた正立型フロントフォーク1において、前記アウタチューブ2内周の下側の前記ガイドブッシュ5の嵌着面に、前記アウタチューブ2と前記インナチューブ及び上下の前記ガイドブッシュによって画成される環状隙間と前記アウタチューブ3の内部とを連通させる縦溝21を形成する。
車軸側のアウタチューブの内部に車体側のインナチューブの一部を上方から挿入し、前記アウタチューブ内周の上下に嵌着されたガイドブッシュによって前記インナチューブを上下摺動可能に支持するとともに、前記アウタチューブと前記インナチューブの間に懸架スプリングを介装し、
前記アウタチューブと前記インナチューブの内部にオイルを封入して前記インナチューブ内の上部にエア室を形成し、前記アウタチューブと前記インナチューブの伸縮動に伴う前記オイルの流動抵抗によって減衰力を発生する減衰力発生機構を備えた正立型フロントフォークにおいて、
前記アウタチューブ内周の下側の前記ガイドブッシュの嵌着面に、前記アウタチューブと前記インナチューブ及び上下の前記ガイドブッシュによって画成される環状隙間と前記アウタチューブの内部とを連通させる縦溝を形成したことを特徴とする正立型フロントフォーク。
前記アウタチューブ内周の下側の前記ガイドブッシュの嵌着面に環状溝を形成し、該環状溝に、合口隙間を有する状態で環状の前記ガイドブッシュを装着し、該ガイドブッシュの合口隙間によって前記環状隙間と前記アウタチューブの内部とを連通させたことを特徴とする請求項1又は2記載の正立型フロントフォーク。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、アウタチューブ102の内周の上下にガイドブッシュ104,105を嵌着する固定嵌合型の正立型フロントフォーク101においては、
図10に示すように、上下のガイドブッシュ104,105とアウタチューブ102及びインナチューブ103によって画成される環状隙間Sδにエアが不可避的に残留するが、従来の正立型フロントフォーク101においては、環状隙間Sδは密閉され、その内部に残留するエアが環状空間Sδに閉じ込められるために次のような問題が発生していた。
【0008】
即ち、正立型フロントフォーク101が
図11(a)に示す中立状態から
図11(b)に示す圧縮行程に移行すると、油室S1,S2内のオイルは、圧縮されてその圧力が高められ、エア室Sa内のエアは、
図11(b)に黒塗りして示すように、インナチューブ103の油室S2内への進入体積分(インナチューブ103の断面積(外径に囲まれる部分)×ストローク)だけ圧縮されてその容積が減少する。このとき、環状隙間Sδは前述のように密閉されているため、油室S1の圧力が環状隙間Sδに直ちに伝播せず、環状隙間Sδ内のエアは、圧縮されないで
図11(b)に黒塗りして示すように非圧縮状態にあるため、エアによる反力に応答遅れが生じ、
図12に破線カーブaにて示すようにストローク中間域での圧縮反力が実線カーブAに示す所期の特性に対して高くなって硬さを感じるという問題が発生する。ここで、
図12はストロークに対するエア反力特性を示す図であって、横軸はストローク、縦軸はエア反力である。
【0009】
而して、圧縮行程の終期においては、環状隙間Sδには僅かな隙間を介して油室S1の圧力が伝播するため、環状隙間Sδのエアも圧縮され、
図11(c)に黒塗りして示すように、その容積も減少するが、その状態から伸長行程に移行すると、油室S1内の油圧が低下し、エア室Saのエアは、インナチューブ103の油室S2内からの退出体積分(インナチューブ103の断面積(外径に囲まれる部分)×ストローク)だけ膨張してその容積が
図11(d)に黒塗りにて示すように増加する。このとき、環状隙間Sδは密閉されているため、油室S1の圧力が環状隙間Sδに直ちに伝播せず、
図11(d)に黒塗りによって示すように、環状隙間Sδ内のエアは膨張しないで非膨張状態(圧縮行程終期の状態)にあるため、エア反力に応答遅れが生じ、
図12に破線カーブbにて示すように伸び反力が
図12において実線カーブBにて示す所期の特性に対して低くなって車両の操縦安定性が損なわれるという問題が発生する。
【0010】
本発明は上記問題に鑑みてなされたもので、その目的とする処は、圧縮及び伸長ストロークに対するエア反力の応答性を高めることができる正立型フロントフォークとこれを備える車輪懸架装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するため、請求項1記載の発明は、車軸側のアウタチューブの内部に車体側のインナチューブの一部を上方から挿入し、前記アウタチューブ内周の上下に嵌着されたガイドブッシュによって前記インナチューブを上下摺動可能に支持するとともに、前記アウタチューブと前記インナチューブの間に懸架スプリングを介装し、
前記アウタチューブと前記インナチューブの内部にオイルを封入して前記インナチューブ内の上部にエア室を形成し、前記アウタチューブと前記インナチューブの伸縮動に伴う前記オイルの流動抵抗によって減衰力を発生する減衰力発生機構を備えた正立型フロントフォークにおいて、
前記アウタチューブ内周の下側の前記ガイドブッシュの嵌着面に、前記アウタチューブと前記インナチューブ及び上下の前記ガイドブッシュによって画成される環状隙間と前記アウタチューブの内部とを連通させる縦溝を形成したことを特徴とする。
【0012】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の発明において、前記アウタチューブはダイカスト製品であって、該アウタチューブの成形時に前記縦溝を同時に形成することを特徴とする。
【0013】
請求項3記載の発明は、請求項1又は2記載の発明において、前記アウタチューブ内周の下側の前記ガイドブッシュの嵌着面に環状溝を形成し、該環状溝に、合口隙間を有する状態で環状の前記ガイドブッシュを装着し、該ガイドブッシュの合口隙間によって前記環状隙間と前記アウタチューブの内部とを連通させたことを特徴とする。
【0014】
請求項4記載の発明は、請求項1〜3の何れか1項に記載の発明において、前記環状隙間内の上下の前記ガイドブッシュ間にディスタンスカラーを介設したことを特徴とする。
【0015】
請求項5記載の車輪懸架装置は、請求項1〜4の何れか1項に記載の正立型フロントフォークとこれと対を成す別の正立型フロントフォークとで車輪を懸架する装置であって、
前記別の正立型フロントフォークを、請求項1〜4の何れか1項に記載の正立型フロントフォークの前記懸架スプリングと前記減衰力発生機構を含まない構成としたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
請求項1記載の発明によれば、アウタチューブ内周の下側のガイドブッシュの嵌着面に形成された縦溝によって環状隙間とアウタチューブの内部とを連通させたため、圧縮行程と伸長行程におけるアウタチューブ内の圧力(油圧)変化が環状隙間に直ちに伝播し、環状隙間に残留するエアが時間遅れなく直ちに圧縮/膨張することとなり、圧縮及び伸長ストロークに対するエア反力の応答性を高めることができる。又、環状隙間に残留するエアは、アウタチューブに形成された縦溝から環状隙間外へと排出されるため、その環状隙間内での量が減少し、このこととも相俟って圧縮及び伸長ストロークに対するエア反力の応答性が高められる。
【0017】
請求項2記載の発明によれば、アウタチューブをダイカスト製品とし、該アウタチューブの成形時に縦溝を同時に形成するようにしたため、縦溝を形成する手間が省かれ、加工工数を削減してコストダウンを図ることができる。
【0018】
請求項3記載の発明によれば、アウタチューブに形成された縦溝に加えて、アウタチューブの環状溝に嵌着されるガイドブッシュの合口隙間によって環状隙間とアウタチューブの内部とを連通させたため、環状隙間に残留するエアに起因するエア反力の応答遅れの問題を一層確実に解消することができる。
【0019】
請求項4記載の発明によれば、環状隙間内の上下のガイドブッシュ間に介設されたディスタンスカラーによって環状隙間に残留するエアが環状隙間に占める体積を減らすことができるため、環状隙間に残留するエアに起因するエア反力の応答遅れの問題を一層確実に解消することができる。
【0020】
請求項5記載の発明によれば、車輪懸架装置を構成する一対の正立型フロントフォークの他方を構成が単純で安価なもの(懸架スプリングと減衰力発生機構を備えないもの)で構成したため、車輪懸架装置の構造単純化とコストダウンを図ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下に本発明の実施の形態を添付図面に基づいて説明する。
[正立型フロントフォーク]
<実施の形態1>
図1は本発明の実施の形態1に係る正立型フロントフォークの半裁断面図、
図2は
図1のX部拡大詳細図、
図3は
図2のY−Y線断面図であり、図示の正立型フロントフォーク1は、自動二輪車の不図示の前輪を車体に対して懸架するものである。この正立型フロントフォーク1においては、
図1に示すように、車軸側のアウタチューブ2の内部に車体側のインナチューブ3の一部が上方から挿入され、前記アウタチューブ2の内周の上下に嵌着されたリング状のガイドブッシュ4,5によって前記インナチューブ3が上下摺動可能に支持されている。尚、アウタチューブ2の下端部は、これに形成された軸孔2aに挿通する不図示の車軸によって前輪に取り付けられており、インナチューブ3の上端部は、これの上部の上下に嵌着された不図示のアッパブラケットとロアブラケットを介して車体側に取り付けられている。
【0023】
ここで、前記アウタチューブ2の上端開口部の前記インナチューブ3が挿通する部位の内周には、オイルシール6が嵌着されており、アウタチューブ2の上端外周には、そのリップ部がインナチューブ3の外周に摺接するダストシール7が嵌着されており、オイルシール6のシール作用によって正立型フロントフォーク1の内部からのオイルの漏出が防がれ、ダストシール7のシール作用によって正立型フロントフォーク1内へのダストの侵入が防がれる。
【0024】
前記上側のガイドブッシュ4は、アウタチューブ2の上端部の前記オイルシール6の下方に配置されており、このガイドブッシュ4は、アウタチューブ2の上端部内周に嵌着されたリング状のパイプガイド8によって保持されている。又、下側のガイドブッシュ5は、アウタチューブ2の上下方向中間部に嵌着されている。
【0025】
ところで、前記インナチューブ3の上端開口部は、その内周に嵌着されたキャップ9によって閉塞されており、前記アウタチューブ2内の底部には、上端が開口するシートパイプ10がボルト11によって締結されて同心状に植設されている。そして、シートパイプ10の上端に一体に形成されたフランジ状のピストン10Aは、その外周に嵌着されたピストンリング12を介して前記インナチューブ3の内周に摺接しており、シートパイプ10の下端部外周には有底筒状のオイルロックピース13が嵌着されている。又、インナチューブ3内のシートパイプ10の上端と前記キャップ9との間には懸架スプリング14が介装されている。尚、前記オイルロックピース13は、上方に向かって縮径するよう上半部外周がテーパ状(先細り状)に形成されている。
【0026】
又、前記インナチューブ3の下端部(先端部)内周には、円筒状のオイルロックカラー15が嵌着されており、このオイルロックカラー15を挟んでこれの上下にはチェックバルブ16,17がそれぞれ設けられている。尚、チェックバルブ16は、圧縮行程時に開いて伸長行程時に閉じる機能を有するものであり、チェックバルブ17は、後述のオイルロック状態から伸長行程に移行する際に開いてオイルロック状態を解除する機能を有するものである。
【0027】
而して、アウタチューブ2とインナチューブ3の内部は、油室S1,S2,S3が画成されており、これらの油室S1〜S3にはオイルが封入されている。又、インナチューブ3内の上部には、オイルによって区画されるエア室Saが形成されており、このエア室Saにはエアが充填されている。又、アウタチューブ2とインナチューブ3との間には、上下のガイドブッシュ4,5によって区画される環状隙間Sδが形成されており、この環状隙間Sδにはオイルが封入されているが、その一部にはエアが残留している。尚、油室S3にはリバウンドスプリング18が収容されている。
【0028】
ところで、シートパイプ10の上端部の側壁には、油室S1と油室S3とを連通させる1箇所以上の油孔19(
図1には1つのみ図示)が形成されており、同シートパイプ10の下部(オイルロックピース13の直上)には、油室S1と油室S2とを連通させる1箇所以上の油孔20(
図1には1つのみ図示)が形成されている。そして、これらの油孔19,20と前記チェックバルブ16,17は、アウタチューブ2とインナチューブ3との伸縮動に伴うオイルの流動抵抗(流動損失)によって所要の減衰力を発生する減衰力発生機構を構成している。
【0029】
而して、本実施の形態に係る正立型フロントフォーク1においては、
図2及び
図3に示すように、アウタチューブ2の内周の下側の前記ガイドブッシュ5の嵌着面には、前記環状隙間Sδとアウタチューブ2の内部の油室S2とを連通させる横断面半円状の2つの縦溝21が相対向して上下方向に貫設されている。ここで、本実施の形態においては、アウタチューブ2はダイカスト製品であって、該アウタチューブ2の成形時に前記縦溝21が同時に形成される。尚、縦溝21の横断面形状と個数は任意に設定することができる。
【0030】
次に、以上のように構成された正立型フロントフォーク1の圧縮行程時と伸長行程時の作用を
図1に基づいて説明する。又、圧縮行程時と伸長行程時のエア室Sa及び環状隙間Sδのエアの体積変化を
図4(a)〜(c)を参照しながら以下に説明する。尚、
図4(a)〜(c)は正立型フロントフォーク内のエアの体積変化を示す図であり、同図においてはエアが占める部分を黒塗りによって示している。
【0031】
1)圧縮行程:
自動二輪車の走行中に前輪が路面凹凸に追従して上下動すると、前輪を懸架する正立型フロントフォーク1のアウタチューブ2とインナチューブ3が伸縮動するが、インナチューブ3がアウタチューブ2に対して相対的に下動する圧縮行程においては、油室S2内のオイルが圧縮されてその圧力が高くなり、この油室S2内のオイルの一部は、チェックバルブ17,16を通って油室S3へと流入し、油室S3の容積増加分のオイルを補給する。又、油室S3内へは油室S1内のオイルの一部が油孔19を通過して流入し、この圧縮行程においては、主として油孔20とチェックバルブ16,17を通過するオイルの流動抵抗によって所望の減衰力が発生する。
【0032】
ところで、この圧縮行程においては、エア室Sa内のエアは、インナチューブ3の油室S2への進入体積分(インナチューブ3の断面積(外径に囲まれる部分)×ストローク)だけ圧縮され、その体積は、
図4(b)に示すように、
図4(a)に示す中立状態時のそれよりも小さくなる。そして、本実施の形態においては、アウタチューブ2の内周面に形成された2つの縦溝21によって環状隙間Sδと油室S2とが連通しているため、油室S2の油圧が縦溝21を介して環状隙間Sδへと直ちに伝播し、環状隙間Sδに残留するエアが時間遅れなく直ちに圧縮される。このため、環状隙間Sδの残留エアの体積が
図4(a)に示す中立状態の体積よりも減少する。
【0033】
以上のように、圧縮行程においては、油室S2の油圧が縦溝21を介して環状隙間Sδに直ちに伝播するため、圧縮ストロークに対するエア反力の応答性が高められ、
図11に実線カーブAにて示すように所望のエア反力特性が得られ、従来のように(
図11の破線カーブa参照)ストローク中間域での圧縮反力が高くなることによって硬さを感じるという問題が解消される。又、環状隙間Sδに残留するエアは、アウタチューブ2の縦溝21から環状隙間Sδ外へと排出されるため、エアの環状隙間Sδでの量が減少し、このこととも相俟って圧縮ストロークに対するエア反力の応答性が高められる。
【0034】
そして、圧縮行程の終期においてオイルロックカラー15がオイルロックピース13の外周に嵌合すると、アウタチューブ2内の底部に密閉空間(オイルロック室)が形成されてオイルロック状態となるため、密閉空間に高い油圧が発生してインナチューブ3のそれ以上の下動が阻止され、インナチューブ3の底付きが防がれる。
【0035】
2)伸長行程:
インナチューブ3がアウタチューブ2に対して相対的に上動する伸長行程においては、油室S2の容積が増大するために該油室S2の油圧が低下し、油室S1のオイルの一部が油孔20を通って油室S2内に流入する。又、この伸長行程においては、油室S3の容積が減少して該油室S3の油圧が高くなるが、前述のように伸長行程においてはチェックバルブ16は油室S2から油室S3への通過を阻止するため、油室S3内のオイルの一部は、油孔19を通って油室S1へと流れ込む。そして、このときの油孔19,20をオイルが通過する際の流動抵抗によって所要の減衰力が発生する。
【0036】
ところで、この伸長行程においては、エア室Sa内のエアは、
図4(c)に示すように、インナチューブ3の油室S2からの退出体積分(インナチューブ3の断面積(外径に囲まれる部分)×ストローク)だけ膨張する。又、本実施の形態においては、アウタチューブ2の内周に形成された縦溝21によって環状隙間Sδと油室S2とが連通しているため、油室S2の油圧が縦溝21を介して環状隙間Sδへと直ちに伝播し、環状隙間Sδに残留するエアが
図4(c)に示すように時間遅れなく直ちに膨張する。このため、伸長ストロークに対するエア反力の応答性が高められ、
図11に実線カーブBにて示すように所望のエア反力特性が得られ、従来のように(
図11の破線カーブb参照)伸び反力が不足するために車両の操縦安定性が損なわれるという問題の発生が防がれる。
【0037】
そして、伸長行程の終期(伸び切り時)においては、油室S3内に設けられたリバウンドスプリング18によってインナチューブ3の伸長ストロークが規制され、該インナチューブ3の下端内周に設けられたチェックバルブ17やオイルロックカラー15等とピストン10Aとの干渉が防がれ、伸び切り時の衝撃が緩和されて各種部品が損傷から保護される。
【0038】
以上のように、本実施の形態に係る正立型フロントフォーク1によれば、アウタチューブ2の内周の下側のガイドブッシュ5の嵌着面に形成された2つの縦溝21によって環状隙間Sδとアウタチューブ2内の油室S2とを連通させたため、圧縮行程と伸長行程におけるアウタチューブ2内の油室S2の圧力(油圧)変化が縦溝21を介して環状隙間Sδに直ちに伝播する。この結果、環状隙間Sδに残留するエアが時間遅れなく直ちに圧縮/膨張することとなり、圧縮及び伸長ストロークに対するエア反力の応答性が高められる。
【0039】
又、アウタチューブ2に形成された縦溝21によって環状隙間Sδにオイルを循環させることができるため、この循環するオイルの潤滑作用によってガイドブッシュ4,5とインナチューブ3との摺動性が高められ、両者間の摺動抵抗を低く抑えることができるとともに、ガイドブッシュ4,5の耐久性を高めることができる。
【0040】
そして、本実施の形態では、アウタチューブ2をダイカスト製品とし、該アウタチューブ2の成形時に縦溝21を同時に形成するようにしたため、縦溝21を形成する手間が省かれ、加工工数を削減してコストダウンを図ることができるという効果も得られる。
【0041】
<実施の形態2>
次に、本発明の実施の形態2に係る正立型フロントフォークを
図5及び
図6に基づいて以下に説明する。
【0042】
図5は本発明の実施の形態2に係る正立型フロントフォーク要部(下側のガイドブッシュ部)の横断面図(
図3と同様の図)、
図6(a)〜(c)は同正立型フロントフォークに用いられるガイドブッシュの種々の形態を示す正面図である。
【0043】
本実施の形態に係る正立型フロントフォークは、実施の形態1に係る正立型フロントフォーク1において、アウタチューブ2の内周の下側のガイドブッシュ5の嵌着面に環状溝2bを形成し、該環状溝2bに、合口隙間5aを有する状態で環状のガイドブッシュ5を装着し、該ガイドブッシュ5の合口隙間5aとアウタチューブ2に形成された縦溝21とによって環状隙間Sδとアウタチューブ2内の油室S2とを連通させたことを特徴としており、他の構成は前記実施の形態1に係る正立型フロントフォーク1のそれと同じである。
【0044】
尚、本実施の形態では、ガイドブッシュ5として、
図6(a)に示すような上下方向に直線状に形成された合口隙間5aを有するものを使用したが、
図6(b)に示すように上下方向に対して傾斜した合口隙間5bを有するもの、
図6(c)に示すような上下方向に階段状に形成された合口隙間5cを有するもの等を使用することができる。
【0045】
而して、本実施の形態に係る正立型フロントフォークによれば、アウタチューブ2に形成された縦溝21に加えて、アウタチューブ2の内周に嵌着される下側のガイドブッシュ5に形成された合口隙間5aによって環状隙間Sδとアウタチューブ2内の油室S2とを連通させたため、環状隙間Sδに残留するエアに起因するエア反力の応答遅れの問題を一層確実に解消することができるという効果が得られる。
【0046】
<実施の形態3>
次に、本発明の実施の形態3に係る正立型フロントフォークを
図7に基づいて以下に説明する。
【0047】
図7は本発明の実施の形態3に係る正立型フロントフォーク要部の半裁断面図であり、本図においては、
図1〜
図4において示したものと同一要素には同一符号を付しており、以下、それらについての再度の説明は省略する。
【0048】
本実施の形態に係る正立型フロントフォークは、前記実施の形態1に係る正立型フロントフォーク1において、環状隙間Sδ内の上下のガイドブッシュ4,5間に円筒状のディスタンスカラー22を介設したことを特徴としており、他の構成は前記実施の形態1に係る正立型フロントフォーク1のそれと同じである。
【0049】
従って、本実施の形態に係る正立型フロントフォークにおいても、前記実施の形態1と同様の効果を得ることができるが、本実施の形態では、環状隙間Sδ内の上下のガイドブッシュ4,5間にディスタンスカラー22を介設したため、環状隙間Sδに残留するエアの量をディスタンスカラー22の体積分だけ減らすことができ、環状隙間Sδに残留するエアに起因するエア反力の応答遅れの問題を一層確実に解消することができる。
【0050】
尚、ディスタンスカラー22を前記実施の形態2に係る正立型フロントフォークに設けても、前記と同様の効果が得られる他、ディスタンスカラー22によってガイドブッシュ5の抜けが防がれる。
[車輪懸架装置]
次に、本発明に係る車輪懸架装置について説明する。
【0051】
<実施の形態1>
本実施の形態に係る車輪懸架装置は、前記実施の形態1〜3の何れか1つに係る正立型フロントフォーク1(
図1参照)とこれと対を成す
図8に示す正立型オイル摺動フロントフォーク1’によって自動二輪車の前輪を車体に対して懸架するものである。ここで、正立型オイル摺動フロントフォーク1’の構成を
図8に基づいて以下に説明する。
【0052】
図8は正立型オイル摺動フロントフォークの半裁断面図であり、図示の正立型オイル摺動フロントフォーク1’は、前記正立型フロントフォーク1に設けられた懸架スプリング14と減衰力発生機構(
図1参照)を省略した簡単な構成のものである。
【0053】
即ち、図示の正立型オイル摺動フロントフォーク1’においては、車軸側のアウタチューブ2’の内部に車体側のインナチューブ3’の一部が上方から挿入され、前記アウタチューブ2’の内周の上下に嵌着されたガイドブッシュ4’,5’によって前記インナチューブ3’が上下摺動可能に支持されている。尚、アウタチューブ2’の下端部は、これに形成された軸孔2a’に挿通する不図示の車軸によって前輪に取り付けられており、インナチューブ3’の上端部は、これの上下に嵌着された不図示のアッパブラケットとロアブラケットを介して車体側に取り付けられている。
【0054】
ここで、前記アウタチューブ2’の上端開口部の前記インナチューブ3’が挿通する部位の外周には、オイルシール6’とそのリップ部がインナチューブ3’の外周に摺接するダストシール7’が嵌着されている。そして、アウタチューブ2’とインナチューブ3’の内部にはオイルとエアが封入されており、アウタチューブ2’とインナチューブ3’の内部には油室Sとエア室Saが形成されている。尚、油室S内のオイルの漏出は、前記オイルシール6’のシール作用によって防がれ、前記ダストシール7’のシール作用によってアウタチューブ2’の上端開口部から内部へのダストの侵入が防がれている。又、前記インナチューブ3’の上端開口部は、その内周に嵌着されたキャップ9’によって閉塞されている。
【0055】
而して、自動二輪車の走行時に前輪が路面凹凸に追従して上下動すると、この前輪を懸架する車輪懸架装置の他方の正立型オイル摺動フロントフォーク1’においては、オイルの粘性摩擦抵抗と互いに摺接するガイドブッシュ4’,5’とインナチューブ3’との摩擦抵抗によって所要の減衰力が発生し、この減衰力と前記正立型フロントフォーク1における減衰力発生機構において発生する減衰力によって前輪が路面から受ける衝撃が吸収緩和され、これによって自動二輪車の乗心地性が高められる。
【0056】
以上のように、本実施の形態に係る車輪懸架装置を、
図1に示す前記正立型フロントフォーク1と、構成が単純で安価な
図8に示す正立型オイル摺動フロントフォーク1’とで構成したため、該車輪懸架装置の構造単純化とコストダウンが図られる。尚、本実施の形態では、インナチューブ3’に横孔を形成していないが、横孔を設ければ、エア室Saの圧縮比が下がってエアバネの応答性の影響が小さくなるために潤滑性が高められる。
【0057】
<実施の形態2>
次に、本発明に係る車輪懸架装置の実施の形態2を
図9に基づいて以下に説明する。
【0058】
図9は正立型グリス摺動フロントフォークの半裁断面図であり、本図においては、
図8に示したものと同一要素には同一符号を付しており、以下、それらについての再度の説明は省略する。
【0059】
本実施の形態に係る正立型グリス摺動フロントフォーク1”は、
図8に示す正立型オイル摺動フロントフォーク1’において作動流体としてのオイルをアウタチューブ2’とインナチューブ3’の内部に封入しておらず、内部にはエアのみが存在する。従って、本実施の形態に係る正立型グリス摺動フロントフォーク1”の基本構成は、前記実施の形態1に係る正立型オイル摺動フロントフォーク1’のそれと同じであるが、オイルシール6’(
図8参照)は設けられていない。尚、本実施の形態に係る正立型グリス摺動フロントフォーク1”に設けられたダストシール7’は、ダストの侵入防止とグリスの漏出防止の機能を果たしている。
【0060】
而して、自動二輪車の走行時に前輪が路面凹凸に追従して上下動すると、この前輪を懸架する車輪懸架装置の他方の正立型グリス摺動フロントフォーク1”においては、潤滑剤であるグリスを介して互いに摺接するガイドブッシュ4’,5’とインナチューブ3’との摩擦抵抗によって所要の減衰力が発生し、この減衰力と前記正立型フロントフォーク1における減衰力発生機構において発生する減衰力によって前輪が路面から受ける衝撃が吸収緩和され、これによって自動二輪車の乗心地性が高められる。
【0061】
以上のように、本実施の形態に係る車輪懸架装置を、
図1に示す前記正立型フロントフォーク1と、構成が単純で安価な
図9に示す正立型グリス摺動フロントフォーク1’とで構成したため、該車輪懸架装置の構造単純化とコストダウンが図られるという前記実施の形態1と同様の効果が得られる。
【0062】
尚、以上は本発明を自動二輪車の前輪を懸架する正立型フロントフォークとこれを備える車輪懸架装置に対して適用した形態について説明したが、本発明は、自動二輪車以外の他の任意の車両の車輪を懸架する正立型フロントフォークとこれを備える車輪懸架装置に対しても同様に適用可能であることは勿論である。