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特開2015-175901電界吸収型変調器、光モジュール、及び電界吸収型変調器の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2015-175901(P2015-175901A)
(43)【公開日】2015年10月5日
(54)【発明の名称】電界吸収型変調器、光モジュール、及び電界吸収型変調器の製造方法
(51)【国際特許分類】
   G02F 1/017 20060101AFI20150908BHJP
   H01S 5/026 20060101ALI20150908BHJP
【FI】
   G02F1/017 503
   H01S5/026 616
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2014-50518(P2014-50518)
(22)【出願日】2014年3月13日
(71)【出願人】
【識別番号】301005371
【氏名又は名称】日本オクラロ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000154
【氏名又は名称】特許業務法人はるか国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】安原 望
(72)【発明者】
【氏名】山内 俊也
【テーマコード(参考)】
2K102
5F173
【Fターム(参考)】
2K102AA20
2K102BA02
2K102BB01
2K102BC04
2K102BD01
2K102CA11
2K102CA30
2K102DA05
2K102DA08
2K102DA11
2K102DD03
2K102DD09
2K102EA02
2K102EB20
2K102EB29
5F173AA26
5F173AD12
5F173AH14
5F173AP05
5F173AP33
5F173AP45
(57)【要約】
【課題】消光特性の劣化を抑制しつつチャープ特性を小さくするEA変調器の提供。
【解決手段】Mg若しくはCのいずれか又はその組み合わせがドーパントとして第1濃度に添加される多重量子井戸層と、前記第1濃度よりも高濃度である第2濃度にMgがドーパントとして添加されるとともに、前記多重量子井戸層に接して形成されるp型半導体層と、を備える、電界吸収型変調器。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
Mg若しくはCのいずれか又はその組み合わせがドーパントとして第1濃度に添加される多重量子井戸層と、
前記第1濃度よりも高濃度である第2濃度にMgがドーパントとして添加されるとともに、前記多重量子井戸層に接して形成されるp型半導体層と、
を備える、電界吸収型変調器。
【請求項2】
請求項1に記載の電界吸収型変調器であって、
前記第1濃度は、前記多重量子井戸層の層厚の中心部分におけるドーパント濃度である、
ことを特徴とする、電界吸収型変調器。
【請求項3】
請求項2に記載の電界吸収型変調器であって、
前記第1濃度は、2×1016cm−3以上である、
ことを特徴とする、電界吸収型変調器。
【請求項4】
請求項2に記載の電界吸収型変調器であって、
前記多重量子井戸層の、積層方向に沿うそれぞれの位置におけるドーパント濃度は、前記第1濃度の±1×1016cm−3以内である、
ことを特徴とする、電界吸収型変調器。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれかに記載の電界吸収型変調器を備える、レーザモジュールと、
受信器と、
を備える、光モジュール。
【請求項6】
Mg若しくはCのいずれか又はその組み合わせがドーパントとして第1濃度に添加される多重量子井戸層を積層する、多重量子井戸積層工程と、
前記第1濃度よりも高濃度である第2濃度にMgがドーパントとして添加されるp型半導体層を、前記多重量子井戸層に接して積層する、隣接p型半導体層積層工程と、
を備える、電界吸収型変調器の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電界吸収型変調器、光モジュール、及び電界吸収型変調器の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電界吸収型(Electro-Absorption:以下、EAと記す)変調器は、変調電圧を印加することにより光を吸収する。EA変調器は、変調時の波長変動(チャープ)が小さく、光信号の消光比が大きい高速変調が可能である。それゆえ、例えば、光通信システム用途のレーザモジュールは、高速化と共に長距離伝送が要求されており、EA変調器は光通信用に広く用いられている。EA変調器は基板上に多重量子井戸層を含む半導体多層が積層されている。多重量子井戸層はドーパント(不純物)が意図的に添加されていない真正半導体層(i層:アンドープ層)であり、積層方向に沿って、多重量子井戸層を、p型半導体層とn型半導体層とで挟んだp−i−n構造となっているのが、一般的である。
【0003】
p型半導体層のドーパントには、Zn(亜鉛)又はMg(マグネシウム)がよく用いられている。Znは拡散しやすく、製造プロセスの過程で、i層である多重量子井戸層にp型半導体層のZnが拡散することが、例えば特許文献1及び特許文献2に開示されている。一方、Mgは拡散しにくく、製造プロセスを経ても、Znと比較して多重量子井戸層にp型半導体層のMgが拡散することは抑制される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10−228005号公報
【特許文献2】特開2007−201072号公報
【特許文献3】特開2001−13472号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、EA変調器には、チャープ特性をさらに小さくする特性向上が求められている。EA変調器に比較的低いバイアス電圧が印加される場合に、多重量子井戸層における電界強度が小さくなり、チャープ特性が大きいことが問題となる。チャープ特性を小さくするためには、多重量子井戸層における電界強度を強めればよいことが知られている。電界強度を強めるために、多重量子井戸層の層厚を薄くる方法が考えられるが、この場合、多重量子井戸層での光吸収量が小さくなり、消光比が小さくなってしまうという問題が生じる。すなわち、消光特性の劣化を抑制することと、チャープ特性を小さくすることとの両立の実現をするために、製造プロセスを経た後の多重量子井戸層のドーピングプロファイルを制御することが求められる。
【0006】
上述の通り、p型半導体層のp型ドーパントにZnを用いる場合、多重量子井戸層にZnが拡散され、多重量子井戸層にZnが拡散される場合の半導体多層の電界強度分布が、特許文献3に開示されている。しかし、多重量子井戸層へのZnの拡散の制御は困難であり、製造プロセスを経た後の多重量子井戸層のZn濃度のドーピングプロファイルを精密に制御することは困難である。それゆえ、Znの拡散による多重量子井戸層へのドーピングの影響を、特性改善に積極的に利用されることはなかった。
【0007】
一方、p型半導体層のp型ドーパントにMgを用いる場合、多重量子井戸層へMgがほとんど拡散せず、製造プロセスを経た後の多重量子井戸層のドーピングプロファイルの制御をZnと比べるとより精密に行うことが出来る。しかし、多重量子井戸層のMg濃度のドーピングプロファイルがEA変調器の特性にどう影響するか見出されておらず、p型半導体層のp型ドーパントにMgを用いるEA変調器の多重量子井戸層は、ドーパントが意図的に添加されないi層(アンドープ層)とされていた。
【0008】
本発明は、かかる課題を鑑みてなされたものであり、消光特性の劣化を抑制しつつチャープ特性を小さくするEA変調器の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(1)上記課題を解決するために、本発明に係る電界吸収型変調器は、Mg若しくはCのいずれか又はその組み合わせがドーパントとして第1濃度に添加される多重量子井戸層と、前記第1濃度よりも高濃度である第2濃度にMgがドーパントとして添加されるとともに、前記多重量子井戸層に接して形成されるp型半導体層と、を備える、電界吸収型変調器である。
【0010】
(2)上記(1)に記載の電界吸収型変調器であって、前記第1濃度は、前記多重量子井戸層の層厚の中心部分におけるドーパント濃度であってもよい。
【0011】
(3)上記(2)に記載の電界吸収型変調器であって、前記第1濃度は、2×1016cm−3以上であってもよい。
【0012】
(4)上記(2)に記載の電界吸収型変調器であって、前記多重量子井戸層の、積層方向に沿うそれぞれの位置におけるドーパント濃度は、前記第1濃度の±1×1016cm−3以内であってもよい。
【0013】
(5)本発明に係る光モジュールは、上記(1)乃至(4)のいずれかに記載の電界吸収型変調器を備える、レーザモジュールと、受信器と、を備える、光モジュールであってもよい。
【0014】
(6)本発明に係る電界吸収型変調器の製造方法は、Mg若しくはCのいずれか又はその組み合わせがドーパントとして第1濃度に添加される多重量子井戸層を積層する、多重量子井戸積層工程と、前記第1濃度よりも高濃度である第2濃度にMgがドーパントとして添加されるp型半導体層を、前記多重量子井戸層に接して積層する、隣接p型半導体層積層工程と、を備える、電界吸収型変調器の製造方法であってもよい。
【発明の効果】
【0015】
本発明により、消光特性の劣化を抑制しつつチャープ特性を小さくするEA変調器が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の実施形態に係るEA変調器集積レーザ素子の上面図である。
図2】本発明の実施形態に係るEA変調器集積レーザ素子のEA変調器部の断面図である。
図3】本発明の実施形態に係るEA変調器のαパラメータの計算結果を示す図である。
図4】本発明の実施形態に係るEA変調器のαパラメータの計算結果を示す図である。
図5】多重量子井戸層のバンドダイヤグラムである。
図6】多重量子井戸層のバンドダイヤグラムである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に、図面に基づき、本発明の実施形態を具体的かつ詳細に説明する。なお、実施形態を説明するための全図において、同一の機能を有する部材には同一の符号を付し、その繰り返しの説明は省略する。なお、以下に示す図は、あくまで、実施形態の実施例を説明するものであって、図の大きさと本実施例記載の縮尺は必ずしも一致するものではない。
【0018】
図1は、本発明の実施形態に係るEA変調器集積レーザ素子1の上面図である。当該実施形態に係るEA変調器集積レーザ素子1は、波長1.55μm帯の光通信システム用途のレーザモジュールに搭載されるための光素子である。当該実施形態に係るEA変調器集積レーザ素子1は、EA変調器部2とレーザ部3とが同一基板上に集積されたレーザ素子である。すなわち、当該実施形態にかかるEA変調器はEA変調器部2である。ここで、レーザ部3は、一定電流により駆動されるDFBレーザ(Distributed Feedback Laser)である。EA変調器部2とレーザ部3の間には、導波路部4が設けられている。
【0019】
図2は、当該実施形態に係るEA変調器集積レーザ素子1のEA変調器部2の断面図であり、図1に示すII−II線による断面を表している。図2に示す通り、EA変調器部2は、埋め込みヘテロ(Buried Hetero:以下、BHと記す)構造を有している。n型InP半導体基板10上に、ハイメサ構造が形成される。ハイメサ構造は、n型InGaAsP下光ガイド層11、p型InGaAsP多重量子井戸層12、p型InGaAsP上光ガイド層13、p型InPクラッド層14、及びp型InGaAsコンタクト層15を含んでいる。ここでは、p型InGaAsP多重量子井戸層12、p型InGaAsP上光ガイド層13、p型InPクラッド層14、及びp型InGaAsコンタクト層15には、Mgがドーパント(不純物)として添加(ドープ)されており、製造プロセスにおいて添加されるMgはそれぞれ、5×1016cm−3、1×1018cm−3、1×1018cm−3、5×1018cm−3である。ここで、p型InGaAsP多重量子井戸層12のドーパント濃度が第1濃度、p型InGaAsP上光ガイド層13のドーパント濃度が第2濃度である。ハイメサ構造の両側が、Fe(鉄)が添加された半絶縁性InP埋め込み層16で埋め込まれており、BH構造となる半導体多層が形成されている。スルーホールとなる領域以外にパッシベーション膜17が形成され、さらに、p側電極18が形成されており、p型電極18はスルーホールによってp型InGaAsコンタクト層15と電気的に接続している。n型InP半導体基板10の裏面(図2に示す下面)に、n側電極19が形成されている。なお、ここでは、p型InGaAsP多重量子井戸層12に添加されるドーパントは、p型InGaAsP多重量子井戸層12に接して形成されるp型半導体層であるp型InGaAsP上光ガイド層13のドーパントであるMgと同じであるとしたが、これに限定されることはなく、C(炭素)であってもよい。また、MgとCの組み合わせであってもよい。
【0020】
本発明に係るEA変調器の主な特徴は、多重量子井戸層にMg若しくはCのいずれか又はその組み合わせがドーパント(不純物)として第1濃度に添加され、多重量子井戸層に接して形成されるp型半導体層にMgがドーパントとして第2濃度に添加されていることにある。ここで、第2濃度は第1濃度よりも高濃度である。すなわち、多重量子井戸層に添加されるドーパント濃度(第1濃度)を、多重量子井戸層に接して形成されるp型半導体層に添加されるドーパント濃度(第2濃度)よりも低濃度とすることにより、光吸収量の増大を抑制しながら、チャープ特性を小さくすることが実現できる。なお、少なくとも、形成される複数のp型半導体層のうち、多重量子井戸層に接して形成されるp型半導体層(p型InGaAsP上光ガイド層13)のドーパントがMgであればよいが、p型半導体層すべてのドーパントがMgであるのがさらに望ましい。
【0021】
当該実施形態に係るEA変調器では、p型InGaAsP多重量子井戸層12のドーパント濃度(ドーピング濃度)を5×1016cm−3としているが、これに限定されることはなく、2×1016cm−3以上であればよい。また、当該実施形態に係るEA変調器は、p型InGaAsP多重量子井戸層12の材料にInGaAsPを用いているが、これに限定されることはなく、他の材料、例えば、InGaAlAsであってもよい。さらに、当該実施形態に係るEA変調器は、EA変調器集積レーザ素子1のEA変調器部2であるとしたが、これに限定されることはなく、EA変調器単体であっても、同一基板上に他の光部品と集積された素子であってもよい。
【0022】
図3及び図4は、当該実施形態に係るEA変調器のαパラメータの計算結果を示す図である。αパラメータはチャープ特性を示すパラメータであり、それぞれの吸収量[dB]におけるαパラメータについて行ったシミュレーション結果が図3及び図4に示されている。図3に合計で11本の曲線が示されているが、それぞれの曲線は、図3に示す矢印の順に、多重量子井戸層のドーパント濃度(ドーピング量)が0〜2×1017cm−3の場合(2×1016cm−3間隔で増加)を表している。吸収量が、0〜−15dBの範囲において、ドーパント濃度が増加するにつれて、同じ吸収量におけるαパラメータが減少している。すなわち、チャープ特性が小さくなっている。
【0023】
図4に3本の曲線が示されているが、図3のx軸に示す吸収量が−2dB、−5dB、及び−10dBであるときに、図3の示す11本の曲線のαパラメータの値がそれぞれ示されている。すなわち、吸収量−2dBであるときをシンボル◆で、吸収量−5dBであるときをシンボル■で、吸収量−10dBであるときをシンボル▲で示している。いずれの吸収量においても、ドーパント濃度が増加するにつれて、αパラメータが減少している。この結果は、同じ吸収量すなわち同じ消光比において、αパラメータが減少していることを示している。以上のように、本願発明により、消光特性の劣化を抑制しつつチャープ特性を小さくするEA変調器が提供できる。
【0024】
多重量子井戸層にMg若しくはCのいずれか又はその組み合わせをドーパントとして添加して、多重量子井戸層に接するp型半導体層にMgがドーパントとして添加される場合に、チャープ特性が小さくなる(チャープ特性が向上する)ことは、発明者らによって見出されたものである。発明者らは、チャープ特性が小さくなる原因について、以下の通り検討を行っている。
【0025】
図5及び図6は、多重量子井戸層のバンドダイヤグラムである。多重量子井戸層に低濃度のドーピングがなされる場合が図5に、多重量量子井戸層に意図的にドーパントが添加されていない(ノンドープ)場合が図6に、それぞれ示されている。図5に示す多重量子井戸層には、ドーパント濃度8×1016cm−3にドーパントが添加されている。図5及ぶ図6にはともに、伝導帯のバンド端のエネルギー準位が実線で、価電子帯のバンド端のエネルギー準位が破線で、それぞれ示されている。また、図の位置は、多重量子井戸層を含む半導体多層の積層方向に沿う位置を表しており、図の右側が基板側で、右から左の向きに半導体多層は積層されている。なお、図のx軸の10nm以下はp型半導体層(p型InGaAsP上光ガイド層13に相当)の位置であり、図の120nm以上はn型半導体層(n型InGaAsP下光ガイド層11に相当)の位置であり、多重量子井戸層の位置は、図の10nm〜120nmの範囲である。
【0026】
図5及び図6は、電極間(p側電極18及びn側電極19の間に相当)に所定の低バイアス電圧を印加したときのバンドダイヤグラムである。すなわち、図5及び図6のダイヤグラムにおいて、位置にて微分すると、多重量子井戸層の積層方向の位置それぞれにおける電界強度が求まる。図6に示すノンドープの多重量子井戸層では、多重量子井戸層の上面(左側)から下面(右側)にかけて一定の電界強度Eの電界が印加されている(E=E=一定)。
【0027】
これに対して、低濃度のドーピングをした多重量子井戸層では、多重量子井戸層のエネルギーバンド構造が図5に示す通り湾曲する。多重量子井戸層の上部(左側)においては、図6に示す電界強度Eよりも小さな電界強度(E<E)の電界が印加されているが、多重量子井戸層の下部(右側)においては、図6に示す電界強度Eよりも大きな電界強度(E>E)の電界が印加されている。
【0028】
以上、チャープ特性が小さくなる原因について考察した。当該実施形態に係るEA変調器では、p型InGaAsP多重量子井戸層12のドーパント濃度を第1濃度とし、多重量子井戸層に接して形成されるp型半導体層(p型InGaAsP上光ガイド層13)のドーパント濃度を第2濃度としている。理想的には、積層方向に沿って、p型InGaAsP多重量子井戸層12のドーパント濃度が、p型InGaAsP多重量子井戸層12の下面から上面にかけて第1濃度で一定に維持され、p型InGaAsP多重量子井戸層12とp型InGaAsP上光ガイド層13の界面においてドーパント濃度が不連続に変化し、p型InGaAsP上光ガイド層13のドーパント濃度が、p型InGaAsP上光ガイド層13の下面から上面にかけて第2濃度で一定に維持されるのが望ましい。しかし、実際には、p型InGaAsP多重量子井戸層12とp型InGaAsP上光ガイド層13の界面付近においてドーパント濃度は有限の幅をもって急峻に変化するものと考えられる。また、製造プロセス又はその他の理由により、p型InGaAsP多重量子井戸層12のドーパント濃度が、積層方向に沿って変化する場合が考えられる。よって、より厳密には、第1濃度をp型InGaAsP多重量子井戸層12の(積層方向に沿う長さである)層厚の中心部分の濃度であるとする。同様に、第2濃度をp型InGaAsP上光ガイド層13の下面付近の濃度であるとする。p型InGaAsP多重量子井戸層12とp型InGaAsP上光ガイド層13の界面においてドーパント濃度が有限の幅をもって急峻に変化する場合に、第2濃度は、その急峻な変化している領域の最大値(p型InGaAsP上光ガイド層13側の値)である。また、p型InGaAsP多重量子井戸層12の、積層方向に沿うそれぞれの位置におけるドーパント濃度は、第1濃度の±1×1016cm−3以内にあるのが望ましい。なお、ここで用いる「p型InGaAsP多重量子井戸層12の、積層方向に沿うそれぞれの位置」は、p型InGaAsP多重量子井戸層12の上面付近であって、p型InGaAsP上光ガイド層13からのMgの拡散により、ドーパント濃度が急峻に変化している部分を含まないものとする。
【0029】
以上のように多重量子井戸層にドーピングを行うことで、消光比の劣化を抑制しつつ低チャープ特性を得られることを、本発明者らは初めて見出した。従来においては、p型半導体層のp型ドーパントがZnを用いた場合、多重量子井戸層にZnが存在することが確認されることがあるが、これは拡散であるために、多重量子井戸層内のドーパント濃度を精密に制御することが困難であった。そのため、ドーパント量を制御して、所望の消光比、チャープ特性(αパラメータ)を得ることは難しかった。しかし、本願発明によれば拡散度合が小さいMg若しくはCのいずれか又はその組み合わせをドーパントとして用いることで、p型半導体層からの拡散を抑え、製造段階において意図的に多重量子井戸層に所望の濃度をドーピングすることで、所望の特性を得ることが安定的に可能となる。
【0030】
また、本発明に係る光モジュールは、本発明に係るEA変調器を備えるレーザモジュールと、公知の受信器と、を備える光モジュールである。本発明に係る光モジュールは、消光比を確保しつつ低チャープ特性を実現でき、光通信における長距離伝送用に最適である。
【0031】
以下に、当該実施形態に係るEA変調器集積レーザ素子1の製造方法について説明する。
【0032】
最初に、有機金属気相法を用いて、EA変調器部2の下部半導体多層を形成する(EA変調器部下部半導体多層形成工程)。かかる工程において、n型InP半導体基板10上に、n型InGaAsP下光ガイド層11を積層し、その上にMgが5×1016cm−3ドープされたp型InGaAsP多重量子井戸層12を積層する。その上にMgが1×1018cm−3ドープされたp型InGaAsP上光ガイド層13を形成し、さらにMgが1×1018cm−3ドープされたInPスペーサ層を形成する。なお、ここでEA変調器部2の下部半導体多層は、n型InGaAsP下光ガイド層11、p型InGaAsP多重量子井戸層12、及びp型InGaAsP上光ガイド層13である。そして、プラズマCVD法により絶縁膜を形成した後に、EA変調器部2となる領域に絶縁膜が残存するようにパターニングし、この絶縁膜をマスクとしてエッチングを施すことにより、EA変調器部2となる領域以外の下部半導体多層を除去する。なお、EA変調器部2のp型InGaAsP多重量子井戸層12からのフォトルミネッセンス波長が1490nmとなるように、p型InGaAsP多重量子井戸層12のInGaAsP組成は調整されている。
【0033】
EA変調器下部半導体多層形成工程のうち、p型InGaAsP多重量子井戸層12を積層する工程が、Mg若しくはCのいずれか又はその組み合わせがドーパントとして第1濃度に添加される多重量子井戸層を積層する多重量子井戸層積層工程である。また、p型InGaAsP多重量子井戸層12の上にp型InGaAsP上光ガイド層13を積層する工程が、Mgがドーパントとして第2濃度に添加されるp型半導体層を多重量子井戸層に接して積層する隣接p型半導体層積層工程である。ここで、第1濃度は第2濃度より低い。第1濃度は2×1016cm−3以上であるのが望ましい。本発明に係るEA変調器の製造方法の主な特徴は、多重量子井戸層積層工程と、隣接p型半導体層積層工程と、を含むことにある。
【0034】
次に、導波路部4の下部半導体多層を形成する(導波路部下部半導体多層形成工程)。かかる工程において、EA変調器部2となる領域以外の下部半導体多層が除去された基板に、導波路部4に含まれるInGaAsP層を結晶成長する。その後、プラズマCVD法により絶縁膜を形成した後に、EA変調器部2及び導波路部4となる領域に絶縁膜が残存するようにパターニングし、この絶縁膜をマスクとしてエッチングを施すことにより、EA変調器部2及び導波路部4となる領域以外の下部半導体多層を除去する。
【0035】
さらに、レーザ部3の下部半導体多層を形成する(レーザ部下部半導体多層形成工程)。EA変調器部2及び導波路部4となる領域以外の下部半導体多層が除去された基板に、n型InGaAsP下光ガイド層、アンドープのInGaAsP多重量子井戸層、p型InGaAsP上光ガイド層、p型InPキャップ層、及び回折格子層の順で積層する。なお、レーザ部3のInGaAsP多重量子井戸層からのフォトルミネッセンス波長が1555nmとなるように、InGaAsP多重量子井戸層のInGaAsP組成は調整されている。
【0036】
そして、DFBレーザ部3となる領域の回折格子層にEB描画により、発振波長が1550nmとなるように回折格子を形成する(レーザ部回折格子形成工程)。
【0037】
基板上面の全域(EA変調器部2、導波路部4、及びレーザ部3となる領域)に上部半導体多層を形成する(素子上部半導体多層形成工程)。かかる工程において、Mgが1×1018cm−3ドープされたp型InPクラッド層14、Mgが5×1018cm−3ドープされたp型InGaAsコンタクト層15、及びp型InPキャップ層を結晶成長する。なお、p型InPキャップ層は、後の工程において除去される。
【0038】
そして、EA変調器部2、導波路部4、及びDFBレーザ部3において光導波路となる領域の両側にある半導体層を除去して、ハイメサ構造を形成する(ハイメサ形成工程)。かかる工程において、基板表面のうち、光導波路の上方となる領域に、ストライプ形状の絶縁膜マスクを形成する。絶縁膜マスクが形成された基板に対して、ドライエッチングを行い、光導波路部分以外を除去することにより、ハイメサ構造を形成する。
【0039】
さらに、ハイメサ構造の両側を、有機金属気相法を用いて、Fe(鉄)が添加された半絶縁性InP埋め込み層16で埋め込む(埋め込み層形成工程)。
【0040】
そして、基板上面全域にパッシベーション膜17を形成後、パッシベーション膜17のうち、ハイメサ構造に位置するストライプ形状の領域をエッチングにより除去し、スルーホールを形成する(パッシベーション膜形成工程)。さらに、基板上面に所定の形状にp側電極18を、続いて、基板下面(裏面)にn側電極19を形成する(電極形成工程)。その後、ウェハ(基板)からチップを切り出し、端面をコーティングすることにより、当該実施形態に係るEA変調器集積レーザ素子1が完成する(チップ形成工程)。
【0041】
以上、本発明の実施形態に係るEA変調器、光モジュール、及びEA変調器の製造方法について説明した。本発明に係るEA変調器は、上記実施形態に限定されることなく、p型半導体層にMgをドーパントとして用いるEA変調器に本発明を広く適用することが出来る。例えば、当該実施形態では、n型基板上に、n型半導体層と、p型多重量子井戸層と、p型半導体層とが、順に積層されているが、p型基板上に、p型半導体層と、p型多重量子井戸層と、n型半導体層とが、順に積層されてもよい。
【符号の説明】
【0042】
1 EA変調器集積レーザ素子、2 EA変調器部、3 レーザ部、4 導波路部4、10 n型InP半導体基板、11 n型InGaAsP下光ガイド層、12 p型InGaAsP多重量子井戸層、13 p型InGaAsP上光ガイド層、14 p型InPクラッド層、15 p型InGaAsコンタクト層、16 半絶縁性InP埋め込み層、17 パッシベーション膜、18 p側電極、19 n側電極。
図1
図2
図3
図4
図5
図6