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特開2015-176646円筒形電池の製造方法、および円筒形電池
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2015-176646(P2015-176646A)
(43)【公開日】2015年10月5日
(54)【発明の名称】円筒形電池の製造方法、および円筒形電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 2/02 20060101AFI20150908BHJP
   H01M 2/08 20060101ALI20150908BHJP
【FI】
   H01M2/02 E
   H01M2/08 Q
   H01M2/08 R
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2014-49901(P2014-49901)
(22)【出願日】2014年3月13日
(71)【出願人】
【識別番号】503025395
【氏名又は名称】FDKエナジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000176
【氏名又は名称】一色国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】都築 秀典
(72)【発明者】
【氏名】山崎 龍也
(72)【発明者】
【氏名】國谷 繁之
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 拓也
(72)【発明者】
【氏名】安西 晋吾
【テーマコード(参考)】
5H011
【Fターム(参考)】
5H011AA17
5H011CC06
5H011DD11
5H011DD22
5H011FF03
5H011GG02
5H011GG05
5H011HH02
5H011HH05
5H011JJ02
5H011JJ15
5H011KK01
(57)【要約】
【課題】長期間保存性能に優れた円筒形電池をコストアップを伴わずに製造する。
【解決手段】有底円筒状の電池缶2の上方開口25の端部21に、円盤の周縁に上方に立設する壁面部13が一体形成された封口ガスケット10を介して端子板7が嵌着されてなる円筒形電池1の製造方法であって、電池缶の内面と壁面部の外面15との接触領域22に流動性を有するシール剤30をリング状に塗布する工程と、ガスケットの内方に端子板を配置した封口体20を電池缶の開口端部に圧入する圧入工程とを含み、圧入工程では、接触領域の下端24から開口に向かって拡径してシール剤の上端位置31および下端位置32の内径がCおよびDの電池缶を用いるとともに、壁面部の上端16および下端17の外径をAおよびBとして、A>B、A>C、B<Dの関係を満たしている。
【選択図】 図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一方の電極を兼ねて上方に開口する有底円筒状の電池缶内に、発電要素が収納されるとともに、上方を底部とした皿状の他方の電極の端子板が絶縁性の樹脂からなる封口ガスケットを介して前記電池缶の開口端部に嵌着されて当該電池缶が密封されてなる円筒形電池の製造方法であって、
前記封口ガスケットは、円盤の周縁に上方に立設する壁面部が一体形成された形状を有し、
前記円筒形電池において、前記電池缶の内面で前記封口ガスケットの前記壁面部の外面と接触する領域を接触領域として、当該接触領域に流動性を有するシール剤をリング状に塗布するシール剤塗布工程と、前記壁面部で囲繞された前記封口ガスケットの内方に前記端子板を配置して封口体を構成するとともに、当該封口体を前記電池缶の開口端部に圧入する圧入工程とを含み、
前記圧入工程では、前記壁面部の上端の外径をA、下端の外径をBとして、A>Bの封口ガスケットと、前記接触領域の下端から前記開口に向かって拡径する電池缶とを用いるとともに、前記シール剤の上端位置での前記電池缶の内径をC、当該シール剤の下端位置での前記電池缶の内径をDとして、A>CかつB<Dの関係を満している、
ことを特徴とする円筒形電池の製造方法。
【請求項2】
請求項1において、前記シール剤塗布工程では、前記圧入工程後も流動性を維持するシール剤を塗布することを特徴とする円筒形電池の製造方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の円筒形電池の製造方法によって製造された円筒形電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は円筒形電池の製造方法および円筒形電池に関する。具体的には、円筒形電池の製造過程において電池缶の開口を封口する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
アルカリ乾電池に代表される円筒形電池は、正負一方の極の集電体を兼ねる有底円筒状の電池缶内に発電要素を収納するともに、当該電池缶の開口を樹脂製の封口ガスケットを介して他方の極の端子板で封口することで製造される。
【0003】
図1に円筒形電池の一例として円筒形アルカリ電池1を挙げる。図1に示した円筒形アルカリ電池はLR6型であり、ここでは円筒軸50の延長方向を縦方向としたときの縦断面を示している。この図に示したように、アルカリ電池1は、有底筒状の金属製電池缶(正極缶)2、環状に成形された正極合剤3、この正極合剤3の内側に配設されたセパレーター4、亜鉛合金を含んでセパレーター4の内側に充填されるゲル状の負極合剤(負極ゲル)5、この負極ゲル5中に挿入された負極集電子6、負極端子板7、ナイロンやポリオレフィンなどの樹脂からなる封口ガスケット10を主な構成要素としている。そして、正極合剤3、セパレーター4、負極ゲル5が電解液の存在下でアルカリ乾電池1の発電要素を形成する。
【0004】
アルカリ乾電池1において、電池缶2は電池ケースを兼ねるとともに、正極合剤3に直接接触することにより、正極集電体を兼ねている。そして、有底円筒状の電池缶2の底部を下方として、当該電池缶2には正極端子8が下方に向けて突出するように形成されている。
【0005】
金属製の負極端子板7はフランジを有する皿を伏せた形状で、封口ガスケット10とともに封口体20を構成している。負極ゲル5中に挿入された棒状の負極集電子6は、その上端が皿状の負極端子板7の下面に溶接により立設固定されている。そして封口ガスケット10の外周部が電池缶2の開口縁部と負極端子板7の周縁部との間に挟持された状態でかしめられていることで、電池缶2が密閉された状態で封口されている。
【0006】
ここでアルカリ電池1の製造過程において電池缶2の開口を封口する工程について説明すると、電池缶2には、開口の僅かに下方に円筒状の電池缶の周囲を巡るビーディング部9が形成されており、負極集電子6と封口体20(負極端子板7、封口ガスケット10)はあらかじめ一体に組み合わせられている。封口工程では、負極集電子6と負極端子板7とともに一体化された封口ガスケット10を電池缶2内に圧入し、当該封口ガスケット10をこのビーディング部9を座にして載置する。この状態で、電池缶2において、開口からビーディング部9に至る領域(以下、開口端部)21を絞り加工によって内方に縮径、圧縮するとともに開口縁端をカール加工する。それによって、電池缶2におけるビーディング部9から開口に至る開口端部21にて封口ガスケット10が負極端子板7と電池缶2の間に挟持された状態でかしめられ、電池缶2の開口が密閉される。
【0007】
図2に、封口ガスケット10の概略構造を縦断面図にして示した。当該図2では封口工程前の当初の封口ガスケット10の形状を示しており、図2(A)は縦断面図であり、(B)は平面図である。なお図2(B)では封口ガスケット10を構成する各部位を異なるハッチングパターンによって示している。
【0008】
図2に示したように、当初の封口ガスケット10は、表面に同心円状の凹凸が形成された円盤の中心に負極集電子6が挿通される中空部11を備えた円筒状のボス部12と、円盤の外周にて上方に立設して当該円盤の縁を周回する壁面部13とが一体的に形成された形状を有している。そして、ボス部12の外周から円盤の周縁、すなわち壁面部13の下端に至る凹凸のある膜状の部分14が発電要素の収納空間を密閉しつつ正極缶2の内部を上下に仕切る隔壁として機能する。壁面部13の外面15は、電池缶2が封口された際に当該電池缶2の開口端部21の内面に接触して電池缶を密閉する。
【0009】
ところで、図1に示したアルカリ乾電池1など、円筒形の電池缶2の開口が封口ガスケット10を介して封口板(負極端子板など)で封口されている円筒形電池では、より高い気密性を確保して、電池缶2の内圧上昇時に封口ガスケット10と電池缶2の内面との接触部分から電解液が漏出しないように、封口ガスケットの壁面部13の外面15と電池缶2の内面との接触面にシール剤を介在させることがある。
【0010】
シール剤を上記接触面に介在させるためには、まず、円筒形電池1の製造過程における封口工程で、封口体20を電池缶2の内部に圧入する前に、正極缶2の内面において、封口されたときに封口ガスケット10の壁面部13の外面15と接触する領域(以下、接触領域)にシール剤をリング状に塗布しておく。次いで、負極集電子6と負極端子板7とともに一体化された封口ガスケット10を電池缶2に圧入する。それによってシール剤が接触領域に充填される。シール剤としては、例えば、ポリブテン、エポキシ樹脂、ポリブテンなどを主剤としてアスファルトや固形パラフィンを含む混合シール剤などが使用される。なおアルカリ電池の封口構造やその封口構造に用いられるシール剤などについては以下の特許文献1などに記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2009−231237号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
従来、各種電子機器や電気機器に使用している電池は、使用にともなって容量が少なくなり、所謂「電池切れ」となった時点で新品のものと交換するという形態で利用されるのが一般的であった。このような一般的な利用形であれば、電池を買い置きする場合でもその電池の保存期間は1〜2年程度で十分であった。
【0013】
しかし近年では、大災害の発生に備え、電池を非常用の食料などとともに長期に亘って「備蓄」する場合が多くなりつつある。ところが備蓄されている非常用食料などは、その保存期間が5〜10年程度であり、備蓄以外の一般用途に使用される電池の一般的な保存期間よりも長い。なかには25年もの長期間に亘って品質を保証している非常用食料もある。そのため、備蓄用の電池は他の備蓄用品とともに長期間に亘って、言わば「放置」される可能性が高い。
【0014】
そこで本発明者が、極めて長い期間に亘る電池の保存性能について検討したところ、電池の気密性能は、その電池の製造過程で塗布したシール剤の量に見合う期間に亘って維持されていないということが判明した。確かに備蓄された電池を定期的に交換するという方法もあるが、これでは廃棄物を多量に発生させることになり、環境に対する負荷が大きい。備蓄に掛かる費用も増大する。したがって、電池には極めて長い期間(例えば、10年以上)に亘って保存しても液漏れなどの劣化が無いことが求められる。もちろん長期保存性能を達成するために電池自体の製造コストが嵩めば備蓄の普及促進を妨げることになる。
【0015】
そこで本発明の主な目的は、極めて長い期間に亘って保存が可能な円筒形電池を大きなコストアップを伴わずに製造できる方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記目的を達成するための本発明は、一方の電極を兼ねて上方に開口する有底円筒状の電池缶内に、発電要素が収納されるとともに、上方を底部とした皿状の他方の電極の端子板が絶縁性の樹脂からなる封口ガスケットを介して前記電池缶の開口端部に嵌着されて当該電池缶が密封されてなる円筒形電池の製造方法であって、
前記封口ガスケットは、円盤の周縁に上方に立設する壁面部が一体形成された形状を有し、
前記円筒形電池において、前記電池缶の内面で前記封口ガスケットの前記壁面部の外面と接触する領域を接触領域として、当該接触領域に流動性を有するシール剤をリング状に塗布するシール剤塗布工程と、前記壁面部で囲繞された前記封口ガスケットの内方に前記端子板を配置して封口体を構成するとともに、当該封口体を前記電池缶の開口端部に圧入する圧入工程とを含み、
前記圧入工程では、前記壁面部の上端の外径をA、下端の外径をBとして、A>Bの封口ガスケットと、前記接触領域の下端から前記開口に向かって拡径する電池缶とを用いるとともに、前記シール剤の上端位置での前記電池缶の内径をC、当該シール剤の下端位置での前記電池缶の内径をDとして、A>CかつB<Dの関係を満している、
ことを特徴とする円筒形電池の製造方法としている。
【0017】
前記シール剤塗布工程では、前記圧入工程後も流動性を維持するシール剤を塗布することを特徴とする円筒形電池の製造方法としてもよい。また本発明は、上記円筒形電池の製造方法によって製造された円筒形電池にも及んでいる。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係る円筒形電池の製造方法によれば、極めて長い期間に亘って保存できる円筒形電池を大きなコストアップを伴わずに製造することができる。またその方法を用いて製造した円筒形電池は、安価で優れた長期間保存性能を備えている。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】円筒形電池の一例である円筒形アルカリ乾電池の構造を示す図である。
図2】円筒形アルカリ乾電池を構成する封口ガスケットの構造を示す図である。
図3】本発明の実施例に係る製造方法において使用される封口ガスケットと電池缶における各部位のサイズを示す図である。
図4】円筒形アルカリ乾電池に対するヒートサイクル試験の概要を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
===シール剤による気密効果について===
上述したように、封口ガスケットの壁面部外面と電池缶の内面は、より高い気密性を確保するためにシール剤を介在させた状態で接触させているが、円筒形電池の製造時に塗布したシール剤の量に見合う期間に亘って気密性が維持されないという問題がある。そこで本発明者がこの問題について検討したところ、封口工程において封口ガスケットを電池缶の開口に圧入していることに着目してみた。確かに、封口ガスケットはそれ自体で電池缶の開口を密閉する機能を担っていることから、製造過程において封口ガスケットを電池缶に圧入することが必須の条件となっている。しかし本発明者は、この圧入に際して電池缶の内面に塗布されているシール剤の多くが電池缶の下方に掻き落とされてしまい、塗布した量のシール剤に見合う気密効果が得らないのではないかと考えた。そして本発明は、このような考察を出発点として鋭意研究を重ねることで想到したものである。
===実施例について===
本発明の実施例に係る円筒形電池の製造方法として、図1に示したLR6型の円筒形アルカリ乾電池(以下、電池)の製造方法を挙げる。実施例に係る製造方法ではその手順をほとんど変更することなく、封口ガスケットのサイズと、電池缶の開口端部においてシール剤を塗布する領域におけるサイズとの相対関係を最適化することで電池の長期保存性能を向上させている。
【0021】
以下に添付図面を用いて本発明の実施例に係る製造方法について説明する。なお、以下の説明に用いた図面において、同一または類似の部分に同一の符号を付して重複する説明を省略することがある。図面によっては説明に際して不要な符号を省略することもある。
【0022】
図3は組立前の図1に示した電池における電池缶2と封口ガスケット10のサイズを示す概略図である。当該図3は、電池1の製造過程において電池缶2に封口ガスケット10を含む封口体20を組み付ける前の状態を縦断面図にして示しており、図3(A)は封口ガスケット10の縦断面図であり、(B)は電池缶2の縦断面図である。以下、当該図3と先の図1を用いて本実施例に係る電池の製造方法について説明する。
【0023】
図3(A)に示したように、封口ガスケット10は図2に示した従来の製造方法において使用される封口ガスケット10と同様に、中心に中空円筒状のボス部12を備えて隔壁として機能する円盤状の部分14の外周に上方に立設する壁面部13が一体形成された形状を有している。そして、本実施例の製造方法では、封口ガスケット10のサイズとして壁面部13の上端16における外径Aと壁面部13の下端17における外径Bを定義している。
【0024】
電池缶2については、開口端部21は従来の製造方法ではほぼ上下に亘って同じ内径を有しており、ビーディング部9を形成した場合はその形成時にビーディング部9から開口25に向かって若干拡径することが知られている。しかし本実施例の製造方法では、図3(B)に示したように、ビーディング部9の有無に拘わらず製造後の電池1において、少なくとも接触領域23の下端24から開口25までは、上方に向かって拡径している電池缶2を用いている。そして、電池缶2の内面22において、封口ガスケット10との接触領域23中にある高さ位置に、シール剤30が電池缶2の内周を巡るようにリング状に塗布されている。そして本実施例の製造方法では、電池缶2のサイズとして、このシール剤30が塗布されている領域の上端31での内径Cと、当該領域の下端32での内径Dを定義している。
===サンプル===
本実施例に係る電池1の製造方法を評価するために、上記A〜Dの大小関係やシール剤30の種類が異なる各種電池1をサンプルとして作製し、各サンプルについて、長期保存性能を評価するために高温多湿環境下での保存試験(以下、加速劣化試験)、およびヒートサイクル試験を行った。また、電池1の長期保存性能が優れていても、外観に問題があれば製品として販売する際に問題となるため、外観試験として、電池1を組み立てた直後の初期状態でシール剤30の漏れがあるか否か目視により検査した。
【0025】
これらの試験について、外観試験は、電池1の製造過程において封口ガスケット10を電池缶2に圧入することに起因してシール剤30が電池缶2の外への漏れ出したか否かを目視により検査することで行った。加速劣化試験は、温度60℃相対湿度90%RHの環境下で100日間サンプルを放置した後に封口ガスケット10と電池缶2との接触領域23を伝って電解液が漏出(液漏れ)しているか否かを目視により確認し、液漏れしたサンプルを不合格とした。
【0026】
ヒートサイクル試験は、所定の規則で温度を経時変化させる1サイクル分の温度昇降操作を所定サイクル行ったのち、さらに常温で1ヶ月放置することで行った。具体的には、図4に示したように、サンプルの周囲温度を20℃から70℃まで30分掛けて昇温したのち、その70℃の温度を4時間(h)維持する。その後30分(min)掛けて20℃まで降温させ、その20℃の温度を2時間維持した。さらに30分掛けて−20℃まで冷却し、−20℃の温度下に4時間放置した。次いで30分掛けて初期状態の20℃まで昇温し、以上の温度昇降操作を1サイクル分とした。そして、この1サイクル分の試験を40サイクル行った後、常温で1ヶ月間サンプルを放置するとともに、常温放置後に液漏れの有無を目視により確認した。このヒートサイクル試験においても液漏れがあったサンプルを不合格とした。
【0027】
なお各サンプルは、上記各試験について100個ずつ用意した。すなわち各サンプルについて300個の個体を用意した。また各サンプルは、上記各サイズについて、封口ガスケット10および電池缶2のサイズがA≧BおよびC>Dとなる条件を満たすとともに、封口ガスケット10と電池缶2との相対的なサイズについては、封口ガスケット10が電池缶2に必ず圧入されるように設定されている。すなわちA>D、B>Dのいずれかの条件を満たしている。すなわち、A≧BかつC>DかつA>D、あるいはA≧BかつC>DかつB>Dが必須条件となる。例えば、B<Dである場合はA>Dが満たされていることになる。
【0028】
以下の表1に各サンプルの製造条件と上記検査や試験の結果を示した。
【0029】
【表1】
表1では上記A〜Dの相互の大小関係と使用したシール剤が製造条件として示されている。なお表1には上記必須条件を記載していない。また表1には各検査や試験の結果として、各検査と試験毎に用意した各サンプルにおける100個の個体の内、不合格となった個体数が示されている。まず表1において、サンプル1、2、9、12は封口ガスケット10の壁面部13の上端と下端が同じ外径(A=B)であり、従来の製造方法で用いる封口ガスケット10と同じである。
【0030】
表1において、サンプル1〜8は、シール剤30として圧入後も流動性を維持するポリブテンあるいはエポキシ樹脂を用いたサンプルであり、まずサンプル1〜8における試験結果を見ると、A<Cとなるサンプル2、4、6では、加速劣化試験とヒートサイクル試験で不合格となった固体が発生しなかった反面、外観試験において不合格となった固体が見られた。これは、接触領域23におけるシール剤30の上端31での電池缶内径Cが封口ガスケット10における壁面部13の上端16での外径Aよりも大きいため、壁面部13の上端側が当該壁面部13の外面15と電池缶2の内面22とが接触せず、壁面部13の上端側からシール剤30が漏れ出したものと考えられる。なお、シール剤30は下方に掻き落とされずに十分な量が残留するため、加速劣化試験とヒートサイクル試験では不合格となった個体が発生しなかった。
【0031】
またサンプル3、5はB>Cであり、サンプル1もA=BであることからB>Cである。したがってサンプル1、3、5では、封口ガスケット10における壁面部13の下端17がシール剤30の上端位置31にて圧入されることになる。そのためサンプル1、3、5では、シール剤30が下方に掻き落とされてしまい、加速劣化試験やヒートサイクル試験において不合格となった個体が多く発生した。
【0032】
そして、サンプル7、8は、シール剤30の種類が異なっているだけで、双方ともA>B、A>C、B<Dの関係を満たしている。そしてこのサンプル7、8では全ての固体が外観試験、加速劣化試験、およびヒートサイクル試験の全てに合格した。これは、サンプル7、8ではB<Dにより、封口ガスケット10における壁面部13の下端17がシール剤30の上端位置31では圧入されず、A>Cの関係によって封口ガスケット10における壁面部13の上端16側がシール剤30の上端位置31で圧入されているとともに、先のB<Dの関係によりシール剤30が下方に掻き落とされないためである。すなわち、流動性を永年に亘って維持するシール剤30を用いるとともに、A>B、A>C、B<Dの関係を満たしたサンプル7、8では極めて長期に亘る保存性能を備えて美観にも優れている。
【0033】
つぎに、サンプル9〜14における試験結果について考察してみる。サンプル9〜14ではシール剤30がサンプル1〜8とは異なり、当初は流動性があるものの経時変化により固化するアスファルトを用いている。そして、サンプル9〜11では、アスファルトが固化した後に封口ガスケット10を電池缶2に圧入している。この場合、封口ガスケット10の外径(A、B)と電池缶2の内径(C、D)の関係がサンプル7,8と同じように最適な条件(A>B、A>C、B<D)に設定されているサンプル11であっても、ヒートサイクル試験で不合格となったサンプルが100個中36個も出現した。これは、封口ガスケット10を電池缶2に圧入する時点ですでにシール剤30が固化しているため固化したシール剤30によって封口ガスケット10と電池缶2とが十分に密着できなかったためと思われる。もちろん、封口ガスケット10と電池缶2との相対的なサイズが最適条件にないサンプル9、10では、作製した100個の固体の半数近くが不合格となった。なお、サンプル9〜11では封口ガスケット10を圧入する時点でシール剤30が固化しているため、外観試験は全数合格となった。
【0034】
一方、同じアスファルトをシール剤30として使用しても、封口ガスケット10を電池缶2に圧入した後にそのシール剤30を固化させたサンプル12〜14における試験結果を見てみると、サンプル2、4、6と同様にA<Cとなるサンプル12、13では外観試験において不合格となる固体が発生した。またサンプル12、13では、ヒートサイクル試験において不合格となった固体数がサンプル9、10に対して1/3〜1/4程度に減少したものの、依然として10%以上(サンプル12:13%、サンプル13:11%)の固体が不合格となった。なお、ヒートサイクル試験では、サンプル12で13%、サンプル13で11%の固体が不合格となった。一方、シール剤30のみが異なるサンプル2、4、6ではヒートサイクル試験で不合格となった固体は発生していなかった。
【0035】
一方、封口ガスケット10の外径(A、B)と電池缶の内径(C、D)の関係が上記最適条件となるサンプル14では、ヒートサイクル試験において6個の固体が不合格となったものの、その固体数はサンプル12や13の1/2程度であり、サンプル11に対しては1/6にまで減少しており、上記最適条件を満たした上で、シール剤30が少なくとも封口ガスケット10の圧入時において流動性を有していれば、長期保存性能が向上することが確認できた。
【0036】
なお、ヒートサイクル試験で不合格となった個体がサンプル12〜14において発生したのは、これらのサンプルに用いられたシール剤30がサンプル2,4、6、7、8に使用されたシール剤30とは異なり、時間経過とともに固化していることに起因する。すなわち、急激な温度変化によって電池缶2内圧が増減し、電池缶2はその内圧の変化によって変形する。そして、シール剤30は製造後の電池1内では固化しているため、電池缶2の変形に対してシール剤30の形状が追従できず、結果として封口ガスケット10と電池缶2との密着状態が維持されなかったためと思われる。
【0037】
以上より、円筒形電池の製造方法では、封口ガスケット10を電池缶2に圧入する工程では、上記A〜DがA>B、A>C、B<Dの関係を全て満たしているともに、シール剤30が当該圧入工程において流動性を有していればよいことが確認された。そして、圧入後も流動性を維持し続けるシール剤30を用いればより好ましいこともわかった。
【0038】
このように本実施例に係る製造方法で製造された電池1では、封口ガスケット10における所定の部位の外径(A、B)と電池缶2における所定の部位の内径(C、D)を所定の関係にしておくだけで長期間に亘って優れた気密性能を維持することができる。もちろん、樹脂の一体成形品からなる封口ガスケット10や周知のプレス加工技術によって作製される電池缶2は、専用の製造設備を用いることなく形状変更にも柔軟に対応することができる。特殊なシール剤を用いたり特殊な製造工程を採用したりすることもない。しがたって、優れた長期保存性能を大きなコストアップを伴わずに実現させることができる。
===その他の実施例===
上記実施例では本発明に係る製造方法の対象として円筒形アルカリ乾電池を挙げたが、円筒形電池はアルカリ乾電池に限るものではなく、一方の電極を兼ねて上方に開口する有底円筒状の電池缶内に、発電要素が収納されるとともに、上方を底部とした皿状の他方の電極の端子板が絶縁性の樹脂からなる封口ガスケットを介して前記電池缶の開口端部に嵌着されて当該電池缶が密封されてなる円筒形電池であれば、どのようなものであってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明は円筒形アルカリ乾電池の製造方法に適用することができる。
【符号の説明】
【0040】
1 円筒形電池(円筒形アルカリ乾電池)、2 電池缶(正極缶)、3 正極合剤、
4 セパレーター、5 負極ゲル、6 負極集電子、7 負極端子板、8 正極端子、
9 ビーディング部、10 封口ガスケット、12 ボス部、13 壁面部、
14 隔壁部、15 壁面部の外面、20 封口体、21 電池缶の開口端部、
22 電池缶内面、
23 電池缶内面と封口ガスケットの壁面部との対向領域(接触領域)、
25 電池缶の開口、30 シール剤、31 シール剤の上端位置、
32 シール剤の下端位置、A 壁面部上端の外径、B 壁面部下端の外径、
C シール剤の上端位置での電池缶内径、D シール剤の下端位置での電池缶内径
図1
図2
図3
図4