【解決手段】モールド部付端子付電線の製造方法は、造形面501と通気孔55が形成された電線対向面502とが形成された金型5に端子付電線90をセットし、電線対向面502が絶縁被覆920の外周面に対向する状態にする第1工程と、電線対向面502の通気孔55を通じて空気を吸引することにより絶縁被覆920の外周面を電線対向面502に吸着させる第2工程と、第2工程と並行して、造形面501で取り囲まれた造形空間内に流動状の合成樹脂を射出する第3工程と、を含む。
芯線及びその周囲を覆う絶縁被覆を有する絶縁電線及び該絶縁電線の端部の前記芯線に接続された端子を有する端子付電線における前記芯線と前記端子とが接続された部分から前記絶縁被覆の部分までに亘るインサート領域を覆う合成樹脂のモールド部をインサート成形する工程を含むモールド部付端子付電線の製造方法であって、
前記モールド部の外形に対応した造形面と、前記造形面に連なり前記絶縁電線の前記絶縁被覆の部分の輪郭形状よりも大きい形状で形成されており通気孔が形成された電線対向面と、が形成された金型に前記端子付電線をセットし、これにより前記金型における前記造形面が前記端子付電線のインサート領域を取り囲むとともに前記金型の前記電線対向面が前記絶縁電線の前記絶縁被覆の外周面に対向する状態にする第1工程と、
前記金型における前記電線対向面の前記通気孔を通じて空気を吸引することにより前記絶縁電線における前記絶縁被覆の外周面を前記電線対向面に吸着させる第2工程と、
前記第2工程と並行して、前記金型における前記造形面で取り囲まれた造形空間内に流動状の合成樹脂を射出する第3工程と、を含むモールド部付端子付電線の製造方法。
前記第3工程開始前において前記絶縁電線における前記絶縁被覆の外周面が前記金型の前記電線対向面に吸着するまでに、前記電線対向面に取り囲まれた空間内の前記絶縁電線の前記絶縁被覆を加熱する工程をさらに含む、請求項1に記載のモールド部付端子付電線の製造方法。
【背景技術】
【0002】
自動車などの車両に搭載されるワイヤーハーネスは、絶縁電線と、絶縁電線の絶縁被覆の端部から延び出た芯線に接続された端子と、を有する端子付電線を備える。端子は、一般的には、銅を主成分とする金属の部材である。
【0003】
ところで、特許文献1に示されるように、端子付電線が、絶縁電線の芯線と端子との接続部分を密封するモールド部を備えることがある。モールド部は、射出成形によって得られる合成樹脂の部材である。以下、モールド部を有する端子付電線をモールド部付端子付電線と称する。
【0004】
特許文献1に示されるモールド部付端子付電線においては、絶縁電線の芯線と端子との接続部分がモールド部により止水され、腐食が防がれる。なお、モールド部は、絶縁電線の接続先の機器を収容する筐体の開口部において絶縁電線と筐体との隙間を塞ぎ、機器へ液体が侵入することを防ぐ役割も果たす。
【0005】
モールド部付端子付電線のモールド部は、モールド部の成形用の金型と金型内に溶融した合成樹脂を射出する射出装置とを用いたインサート成形によって作られる。
【0006】
モールド部の成形用の金型には、モールド部付端子付電線のモールド部の外形に対応した造形面と絶縁電線の絶縁被覆の部分の外周面に対応した電線押さえ面とが形成されている。以下に、モールド部付端子付電線の製造方法の一例について説明する。
【0007】
まず、金型の造形面に取り囲まれた造形空間内に、端子付電線における絶縁電線の芯線と端子との接続部分が収容される。
【0008】
次に、射出装置から溶融した合成樹脂が造形空間内に射出される。そして、造形空間内の溶融した合成樹脂が固化することにより、端子付電線における絶縁電線の芯線と端子との接続部分を密封するモールド部が形成されたモールド部付端子付電線が得られる。
【0009】
一方、特許文献2に示されるように、モールド部端子付電線が、端子付電線における絶縁電線の芯線と端子との接続部分から絶縁電線の絶縁被覆の端部までに亘る領域を封止する第1モールド部と絶縁電線の絶縁被覆の端部と第1モールド部の端部との間に介在する第2モールド部とを備える場合もある。第2モールド部は、エラストマーの部材である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
ところで、溶融した合成樹脂が金型から漏れ出すことを防止するため、電線押さえ面は、絶縁電線の絶縁被覆の部分に比較的強い力で押し当てられる。
【0012】
このとき、絶縁被覆は、電線押さえ面に押さえられた部分が窪んだ形状に変形するまで圧縮される。この場合、モールド部のインサート成形は、絶縁電線の絶縁被覆における電線押さえ面に押さえられた部分がそれ以外の部分に比べ内側に窪んだ形状に変形したままで行われる。
【0013】
また、モールド部付端子付電線が金型から外されると、絶縁電線の絶縁被覆における電線押さえ面に押さえられていた部分は元の形状に戻る。これにより、モールド部における絶縁被覆が窪んだ部分、即ち、絶縁被覆における電線押さえ面に押さえられた部分とそれ以外の部分との境界で成形される部分が、絶縁電線の絶縁被覆に食い込む形状に形成されやすくなる。
【0014】
一方、車両への取り付け時などに絶縁電線を大きな曲率で曲げることが必要な場合、或いは絶縁電線の曲げ変形の頻度が特に高い場合などの絶縁電線の曲げ仕様の条件が厳しい場合、より柔らかく薄い絶縁被覆を有する絶縁電線が採用される。
【0015】
絶縁電線の絶縁被覆が一般的な絶縁被覆よりも柔らかく薄い場合、上記のようなモールド部付きの絶縁電線が厳しい曲げ仕様の条件の下で使用されると、モールド部の食い込み部が柔らかく薄い絶縁被覆にダメージを与える可能性も否定できない。
【0016】
特許文献2に示されるモールド部付端子付電線における第2モールド部の後端の内縁部も同様である。
【0017】
また、特許文献2に示されるモールド部付端子付電線の製造においては、第1モールド部及び第2モールド部について2回のモールド成形を行う必要がある。この場合、第2モールド部の成形後、第2モールド部の成形用の金型から第1モールド部が形成されたモールド部付端子付電線を一旦取り出し、第1モールド部の成形用の金型に移すなどの手間のかかる作業を必要とする。そのような手間のかかる作業を行うことは、コスト抑制及びリードタイム短縮の要請に反する。
【0018】
本発明は、絶縁被覆に食い込む部分がモールド部に形成されにくいモールド部付端子付電線を簡易に作れるモールド部付端子付電線の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
第1態様に係るモールド部付端子付電線の製造方法は、芯線及びその周囲を覆う絶縁被覆を有する絶縁電線及び該絶縁電線の端部の上記芯線に接続された端子を有する端子付電線における上記芯線と上記端子とが接続された部分から上記絶縁被覆の部分までに亘るインサート領域を覆う合成樹脂のモールド部をインサート成形する工程を含む。そして、上記モールド部付端子付電線の製造方法は、第1工程と第2工程と第3工程とを含む。上記第1工程は、上記モールド部の外形に対応した造形面と、上記造形面に連なり上記絶縁電線の上記絶縁被覆の部分の輪郭形状よりも大きい形状で形成されており通気孔が形成された電線対向面と、が形成された金型に上記端子付電線をセットし、これにより上記金型における上記造形面が上記端子付電線のインサート領域を取り囲むとともに上記金型の上記電線対向面が上記絶縁電線の上記絶縁被覆の外周面に対向する状態にする工程である。上記第2工程は、上記金型における上記電線対向面の上記通気孔を通じて空気を吸引することにより上記絶縁電線における上記絶縁被覆の外周面を上記電線対向面に吸着させる工程である。上記第3工程は、上記第2工程と並行して、上記金型における上記造形面で取り囲まれた造形空間内に流動状の合成樹脂を射出する工程である。
【0020】
第2態様に係るモールド部付端子付電線の製造方法は、第1態様に係るモールド部付端子付電線の製造方法の一態様である。第2態様に係るモールド部付端子付電線の製造方法は、上記第3工程開始前において上記絶縁電線における上記絶縁被覆の外周面が上記金型の上記電線対向面に吸着するまでに、上記電線対向面に取り囲まれた空間内の上記絶縁電線の上記絶縁被覆を加熱する工程をさらに含む。
【発明の効果】
【0021】
上記の各態様によれば、絶縁電線の絶縁被覆の外周面に対向する電線対向面が、通気孔を通じて空気を吸引することにより、絶縁電線の絶縁被覆の外周面を吸い付ける。
【0022】
これにより、金型の電線対向面と絶縁被覆の外周面との間に隙間が形成されることが防がれる。そのため、造形空間内に射出された溶融した合成樹脂は金型から漏れ出さない。膨張した絶縁被覆の外周面が電線対向面に密着しており、流路となる隙間が形成されていないためである。
【0023】
また、モールド部付端子付電線が金型から取り出されると、絶縁電線の絶縁被覆の部分は、膨張していた状態から元の形状へと戻る。この場合、従来のように絶縁被覆における金型の圧力で窪んだ部分に流れ込んだ合成樹脂が絶縁被覆に食い込みやすい形状で固化する現象は生じない。即ち、モールド部における造形面の電線対向面側で成形される部分の内縁部は、絶縁被覆に食い込みにくい形状に成形される。
【0024】
また、上記の各態様におけるモールド部付端子付電線の製造工程においては、モールド部の成形を複数回行う必要がない。この場合、ある金型から別の金型に移し変えるような手間のかかる作業を行う必要がない。
【0025】
以上に示されることから、絶縁被覆に食い込む部分がモールド部に形成されにくいモールド部付端子付電線を簡易に作ることが可能となる。これにより、より柔らかく薄い絶縁被覆を有する絶縁電線を含み、耐久性に優れたモールド部付端子付電線を製造することが可能となる。
【0026】
また、上記の第2態様においては、電線対向面に取り囲まれた空間内の絶縁被覆は、加熱されることによってより柔軟性が高まり、電線対向面側へ膨張しやすくなる。これにより、比較的小さなパワーの吸引装置を用いて金型の電線対向面に絶縁被覆を吸着させることができ、また、絶縁被覆の外周面をより確実に電線対向面に密着させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、添付の図面を参照しながら、本発明の実施形態について説明する。以下の実施形態は、本発明を具現化した一例であり、本発明の技術的範囲を限定する事例ではない。
【0029】
<第1実施形態>
図1〜7を参照しつつ、第1実施形態に係るモールド部付端子付電線の製造方法について説明する。本実施形態に係るモールド部付端子付電線の製造方法により得られたモールド部付端子付電線1は、例えば、自動車等の車両に搭載される。
【0030】
はじめに、
図1,2を参照しつつ、本実施形態に係るモールド部付端子付電線の製造方法に使用される端子付電線90及び金型5について説明する。
図1は、端子付電線90の主要部の断面図である。
図2は、金型5の断面図である。
【0031】
<端子付電線>
図1に示されるように、端子付電線90は、絶縁電線9と端子8とを有する。
【0032】
絶縁電線9は、長尺な導体である芯線910と、その芯線910の周囲を覆う絶縁体である絶縁被覆920と、を有する電線である。通常、芯線910は、細い導体からなる複数の素線が撚り合わされた撚り線である。しかしながら、芯線910が単線であることも考えられる。
【0033】
端子8が取り付けられる絶縁電線9の端部は、予め一定の長さの分の芯線910の周囲から絶縁被覆920が剥がれた状態、即ち、一定の長さ分の芯線910が絶縁被覆920から伸び出た状態に加工されている。以下、絶縁被覆920の端から延び出た芯線910を裸線部91と称する。
【0034】
絶縁電線9の芯線910は、例えば、銅を主成分とする金属の線材である。一方、絶縁電線9の絶縁被覆920は、例えば、ポリエチレン、塩化ビニル又はポリアミド系ナイロンなどを主成分とする合成樹脂の部材である。なお、芯線910が、アルミニウムを主成分とする金属の線材であることも考えられる。
【0035】
端子8は、裸線部91に接続されている。
図1に示される例では、端子8は、芯線接続部81と接点部82とを有している。
【0036】
芯線接続部81は、底板部811と2つの芯線かしめ部812とを有する。
【0037】
底板部811は、裸線部91を一方の側から支える部分である。
【0038】
2つの芯線かしめ部812は、底板部811から裸線部91の両側へ起立して形成された部分である。端子付電線90においては、起立した2つの芯線かしめ部812が、裸線部91の周囲に沿って曲げられ、底板部811に対向する向きへ折り曲げられてかしめられる。これにより、芯線接続部81が、裸線部91に対して圧着される。
【0039】
図1に示される芯線接続部81としては、2つの芯線かしめ部812が重ならずに裸線部91にかしめられる突き合わせタイプ、2つの芯線かしめ部812が重ねられて裸線部91にかしめられる重ね合わせタイプ、或いは、筒状に形成されたクローズドバレルタイプなどが考えられる。
【0040】
接点部82は、他の部材と接続可能な部分である。
図1に示される例では、例えば端子固定台等の端子8の接続相手への固定用のネジが通される接続孔820が、接点部82に形成されている。接点部82は、底板部811に連なっている。
【0041】
端子8は、金属の板材の折り曲げ加工によって得られる。また、端子8を構成する金属の板材は、メッキが形成された板状の金属の母材に対する打ち抜き加工によって得られる。従って、端子8を構成する金属の板材は、基材と、その基材の表面に形成されたメッキとにより構成されている。
【0042】
例えば、端子8の基材は、銅又は銅の合金など、銅を主成分とする金属材料からなる部材である。この場合、メッキを含む端子8全体は、銅を主成分とする金属材料からなる。一方、メッキは、錫(Sn)もしくは錫に銀(Ag)、銅(Cu)、ビスマス(Bi)などが添加された錫合金など、錫を主成分とする金属材料からなる部材である。なお、銀(Ag)メッキ、又はニッケル(Ni)メッキも考えられる。
【0043】
なお、端子付電線90において、モールド部6に覆われるインサート領域は、端子付電線90における裸線部91が接続された芯線接続部81から絶縁被覆920までに亘る領域である。詳しくは、後述するモールド部付端子付電線の製造方法において説明する。
【0044】
<金型>
次に、
図2を参照しつつ、金型5について説明する。本実施形態において、金型5は、上金型51と下金型52とを備える。上金型51及び下金型52は、不図示の支持機構により、それらの一方又は両方が相互に対向する状態で接近すること及び離隔することが可能に支持されている。以下の説明において、上金型51及び下金型52が最接近して組み合わさった状態のことを成形状態の金型5と称する。
【0045】
図2に示されるように、金型5における上金型51及び下金型52には、造形面501と電線対向面502とが形成されている。電線対向面502には、通気孔55が形成されている。
【0046】
なお、
図2に示される例では、金型5には、端子接触面503も形成されている。また、
図2に示される例においては、電線対向面502の一部に、電線押さえ面508が形成されている。
【0047】
造形面501は、端子付電線90の一部の領域に成形されるモールド部6の外形に対応した面である。即ち、成形状態の金型5において、造形面501は、流動状の合成樹脂を目的の形状に成形する成形面を成す。
【0048】
成形状態の金型5において、造形面501に取り囲まれる造形空間は、端子付電線90における端子8の芯線接続部81から絶縁被覆920の端部までを含む領域を収容可能である。端子付電線90における造形空間に収容される領域がインサート領域である。
【0049】
電線対向面502は、造形面501に連なって形成されている。電線対向面502は、絶縁電線9の絶縁被覆920の部分の輪郭形状よりも大きい形状で形成されている。成形状態の金型5において、電線対向面502に取り囲まれる空間には、絶縁電線9の絶縁被覆920の端部を収容可能である。
【0050】
本実施形態において、通気孔55は、電線対向面502に複数形成されている。例えば、不図示の吸引装置が通気孔55を通じて電線対向面502に取り囲まれる空間内の空気を吸引する。
【0051】
図2に示される例においては、金型内流路551が金型5に形成されている。金型内流路551は、金型5の外側面に形成された開口部と通気孔55とを繋ぐ通気用の流路である。
【0052】
また、
図2に示される例においては、金型内流路551の通気孔55に対して反対側の開口部には、流体経路管552が取り付けられている。流体経路管552の金型5側に対して反対側の端部には、不図示の吸引装置が接続されている。
【0053】
電線押さえ面508は、絶縁電線9の絶縁被覆920の部分の輪郭形状と同じ形状又は少し小さい形状で形成されている。
【0054】
<モールド部付端子付電線の製造方法>
次に、
図3〜7を参照しつつ、本実施形態に係るモールド部付端子付電線の製造方法における各工程について説明する。本実施形態に係るモールド部付端子付電線の製造方法は、以下に示される第1工程、第2工程及び第3工程を含む。
【0055】
第1工程は、端子付電線90を金型5にセットする工程である。第2工程は、端子付電線90における絶縁電線9の絶縁被覆920の外周面を金型5における電線対向面502に吸着させる工程である。第3工程は、溶融した合成樹脂を金型5の造形面501に取り囲まれる空間内に射出する工程である。なお、第1工程の開始前には、絶縁電線9への端子8の接続工程(圧着工程)が行われる。この接続工程により、端子付電線90が得られる。
【0056】
図3は、本実施形態に係るモールド部付端子付電線の製造方法における第1工程を示す断面図である。なお、
図3は、金型5に端子付電線90をセットする様子を表す。
図4は、本実施形態に係るモールド部付端子付電線の製造方法における第2工程を示す断面図である。
図5は、本実施形態に係るモールド部付端子付電線の製造方法における第3工程を示す断面図である。
図6は、モールド部付端子付電線の製造方法の第3工程終了後のモールド部付端子付電線1及び金型5の断面図である。
図7は、本実施形態に係るモールド部付端子付電線の製造方法により得られたモールド部付端子付電線1の主要部の断面図である。
【0057】
<モールド部付端子付電線の製造方法:第1工程>
図3に示されるように、第1工程において、下金型52に端子付電線90がセットされる。このとき、端子付電線90における絶縁電線9の絶縁被覆920の端部の外周面の一部が、下金型52の電線対向面502に対して隙間を隔てて対向する状態になる。また、端子付電線90における端子8が、下金型52の端子接触面503に支持される。
【0058】
その後、上金型51が下金型52に対向する状態で下金型52に近付けられる。これにより、端子付電線90における裸線部91と端子8とが接続された芯線接続部81から絶縁被覆920までに亘るインサート領域が造形面501に取り囲まれる造形空間に収容される。
【0059】
また、端子付電線90における絶縁電線9の絶縁被覆920の端部が、上金型51及び下金型52における電線対向面502に取り囲まれる空間に収容される。これにより、電線対向面502が、絶縁電線9の絶縁被覆920の端部の外周面に対してその全周に亘って隙間を隔てて対向する。
【0060】
また、端子付電線90における端子8の接点部82が、端子接触面503に取り囲まれる空間に収容される。これにより、端子付電線90の位置が固定される。
【0061】
また、電線押さえ面508が、絶縁電線9の絶縁被覆920の外周面に接する。これにより、絶縁電線9における絶縁被覆920の部分が、金型5における電線対向面502に取り囲まれる空間内の予め定められた位置に位置決めされる。
【0062】
<モールド部付端子付電線の製造方法:第2工程>
次に、
図4を参照しつつ、モールド部付端子付電線の製造方法における第2工程について説明する。第2工程は、第1工程の後に行われる。第2工程は、金型5における電線対向面502の通気孔55を通じて空気を吸引することにより、絶縁電線9における絶縁被覆920の外周面を電線対向面に吸着させる工程である。
【0063】
本実施形態においては、金型5にセットされた端子付電線90における絶縁電線9の絶縁被覆920の外周面の周囲に存在する空気が、通気孔55、金型内流路551及び流体経路管552を通じて不図示の吸引装置により吸引される。
【0064】
絶縁被覆920の周囲の空気が吸引されることにより、絶縁被覆920の外周面が電線対向面502へ吸い寄せられて膨張する。やがて、膨張した絶縁被覆920の外周面は、金型5の電線対向面502に密着する。これにより、電線対向面502と絶縁被覆920の外周面との間に形成されていた隙間が、塞がれる。
【0065】
本実施形態は、電線対向面502の一部に形成された電線押さえ面508が、電線対向面502に取り囲まれる空間への空気の流入経路の一部を塞ぐ場合の事例である。この場合、比較的小さなパワーの吸引装置を用いて金型5の電線対向面502に絶縁被覆920の外周面を吸着させることができる。
【0066】
なお、電線対向面502の一部に、電線押さえ面508が形成されていない場合も考えられる。
【0067】
<モールド部付端子付電線の製造方法:第3工程>
次に、
図5を参照しつつ、モールド部付端子付電線の製造方法における第3工程について説明する。第3工程は、金型5における造形面501に取り囲まれた造形空間内に流動状の合成樹脂を射出する工程である。この合成樹脂が固化することにより、端子付電線90におけるインサート領域にモールド部6が形成される。モールド部6を構成する合成樹脂としては、例えば、PPS(ポリフェニレンスルファイド)樹脂、PPA(ポリフタルアミド)樹脂、LCP樹脂(液晶ポリマー)、フェノール系、ポリエステル系、ポリアミド系又はエポキシ系の樹脂等が考えられる。
【0068】
第3工程は、第2工程と並行して行われる。例えば、第3工程の開始時に既に第2工程が行われており、第3工程が途中から第2工程と並行して行われること、或いは、第2工程と第3工程とが同時に開始されることなどが考えられる。
【0069】
第3工程においては、溶融した合成樹脂が不図示の射出装置から金型5における造形面501で取り囲まれた造形空間内に射出される。造形空間内に射出された溶融した合成樹脂は、端子付電線90におけるインサート領域を覆い、造形面501によって成形される。
【0070】
絶縁電線9の絶縁被覆920の外周面は、電線対向面502に吸着している。そのため、造形空間内に射出された合成樹脂が、金型5から漏れ出すことが防がれる。
【0071】
なお、第3工程が、第2工程よりも先に行われる場合も考えられる。この場合、第3工程により造形空間内に射出された溶融した合成樹脂が、電線対向面502と絶縁被覆920の外周面との間の隙間に流れ込んでくるまでに第2工程が行われる。
【0072】
<モールド部付端子付電線>
第3工程後、モールド部付端子付電線1は、金型5から取り出される。
図6は、その様子を示している。モールド部付端子付電線1が金型5から取り出されると、絶縁被覆920における膨張していた部分は元の形状に戻る。
【0073】
従来、モールド部の成形は、端子付電線における絶縁被覆の部分が金型の圧縮により窪んだ状態で行われていた。この場合、溶融した合成樹脂は、金型の圧縮により生じた絶縁被覆の窪みに流れ込む。そのようにして成形されたモールド部を有するモールド部付端子付電線が金型から取り出されると、絶縁被覆における金型で圧縮されていた部分は元の形状に戻る。これにより、モールド部における絶縁被覆の窪みで成形される部分が絶縁被覆に食い込む形状に形成されやすくなる。
【0074】
しかしながら、本実施形態においては、絶縁電線9の絶縁被覆920が圧縮されることなくモールド部6が成形される。そのため、モールド部6の成形時に、絶縁被覆920の部分に合成樹脂が流れ込む窪みは生じない。
【0075】
従って、従来のように絶縁被覆920における金型5の圧力で窪んだ部分に流れ込んだ合成樹脂が絶縁被覆920に食い込みやすい形状で固化する現象は生じない。即ち、
図7に示されるモールド部付端子付電線1においては、モールド部6における造形面501の電線対向面502側で成形される部分の内縁部は、絶縁被覆920に食い込みにくい形状に成形される。
【0076】
<効果>
本実施形態によれば、絶縁電線9の絶縁被覆920の外周面に対向する電線対向面502が、通気孔55を通じて空気を吸引することにより、絶縁電線9の絶縁被覆920の外周面を吸い付ける。
【0077】
これにより、金型5の電線対向面502と絶縁被覆920の外周面との間に隙間が形成されることが防がれる。そのため、造形空間内に射出された溶融した合成樹脂は金型5から漏れ出さない。膨張した絶縁被覆920の外周面が電線対向面502に密着しており、流路となる隙間が形成されていないためである。
【0078】
また、モールド部付端子付電線1が金型5から取り出されると、絶縁電線9の絶縁被覆920の部分は、膨張していた状態から元の形状へと戻る。この場合、モールド部6における造形面501の電線対向面502側で成形される部分の内縁部は、絶縁被覆920に食い込みにくい形状に成形される。
【0079】
また、本実施形態におけるモールド部付端子付電線の製造工程においては、モールド部6の成形を複数回行う必要がない。この場合、ある金型から別の金型に移し変えるような手間のかかる作業を行う必要がない。
【0080】
以上に示されることから、絶縁被覆920に食い込む部分がモールド部6に形成されにくいモールド部付端子付電線1を簡易に作ることが可能となる。これにより、より柔らかく薄い絶縁被覆920を有する絶縁電線9を含み、耐久性に優れたモールド部付端子付電線1を製造することが可能となる。
【0081】
<第2実施形態>
次に、
図8を参照しつつ、第2実施形態に係るモールド部付端子付電線の製造方法について説明する。第2実施形態に係るモールド部付端子付電線の製造方法は、絶縁被覆920の加熱工程を更に含む。
【0082】
図8は、第2実施形態に係るモールド部付端子付電線の製造方法における加熱工程の主要部を表す断面図である。
図8において、
図1〜7に示される構成要素と同じ構成要素は、同じ参照符号が付されている。以下、第2実施形態に係るモールド部付端子付電線の製造方法における第1実施形態と異なる点について説明する。
【0083】
本実施形態においては、モールド部付端子付電線の製造方法における第3工程開始前において絶縁電線9における絶縁被覆920の外周面が金型5の電線対向面502に吸着するまでに加熱工程が行われる。加熱工程は、電線対向面502に取り囲まれた空間内の絶縁電線9の絶縁被覆920を加熱する工程である。
【0084】
図8に示される例においては、第1工程の途中で加熱工程が行われている。より具体的には、端子付電線90が金型5にセットされる前、即ち、電線押さえ面508と絶縁電線9の絶縁被覆920の外周面とが接する状態になる前に、加熱工程が行われている。
【0085】
なお、金型5に電線押さえ面508が形成されていない場合など、第1工程終了後に加熱工程が行われることも考えられる。また、第1工程の開始前に加熱工程が行われている場合も考えられる。
【0086】
図8に示される例は、加熱ノズル125を用いて絶縁電線9の絶縁被覆920に熱風を吹き付けることにより加熱工程が行われている場合の例である。
【0087】
本実施形態によれば、電線対向面502に取り囲まれた空間内の絶縁被覆920は、加熱されることによってより柔軟性が高まり、電線対向面502側へ膨張しやすくなる。これにより、比較的小さなパワーの吸引装置を用いて金型5の電線対向面502に絶縁被覆920を吸着させることができる。また、絶縁被覆920の外周面をより確実に電線対向面502に密着させることができる。
【0088】
<応用例>
端子8が、絶縁電線9の絶縁被覆920に圧着される被覆圧着部をさらに有していてもよい。また、端子8が超音波溶接などの溶接により絶縁電線9に接続されていてもよい。
【0089】
なお、本発明に係るモールド部付端子付電線の製造方法は、各請求項に記載された発明の範囲において、以上に示された各実施形態及び応用例を自由に組み合わせること、或いは各実施形態及び応用例を適宜、変形する又は一部を省略することによって構成されることも可能である。