【課題】LED照明における青色網膜傷害がなく、かつ明るさの低下の少ない光拡散性ポリカーボネート樹脂組成物とその成形品および青色網膜傷害の問題がないLED照明用カバーを提供する。
さらに、ポリカーボネート樹脂に対して0.02質量%以下の含有量で波長450nmにおける光線透過率が50%を達成可能な(C)青色光カット染料を含有する請求項1に記載の光拡散性ポリカーボネート樹脂組成物。
(C)青色光カット染料の含有量が、(A)ポリカーボネート樹脂100質量部に対し、0.0001〜0.01質量部である請求項2に記載の光拡散性ポリカーボネート樹脂組成物。
さらに、(D)有機スルホン酸アルカリ金属塩を、(A)ポリカーボネート樹脂100質量部に対し、0.01〜1質量部含有する請求項1〜3のいずれか1項に記載の光拡散性ポリカーボネート樹脂組成物。
さらに、(E)フッ素系樹脂を、(A)ポリカーボネート樹脂100質量部に対し、0.01〜1質量部含有する請求項1〜4のいずれか1項に記載の光拡散性ポリカーボネート樹脂組成物。
さらに、(F)有機珪素化合物を、(A)ポリカーボネート樹脂100質量部に対し、0.01〜5質量部含有する請求項1〜5のいずれか1項に記載の光拡散性ポリカーボネート樹脂組成物。
(A)ポリカーボネート樹脂は、構造粘性指数が1.2以上のポリカーボネート樹脂(A1)を30質量%以上含有する請求項1〜6のいずれか1項に記載の光拡散性ポリカーボネート樹脂組成物。
(A)ポリカーボネート樹脂は、粘度平均分子量が38,000以上のポリカーボネート樹脂(A2)を5質量%以上含有する請求項1〜7のいずれか1項に記載の光拡散性ポリカーボネート樹脂組成物。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明について実施形態及び例示物等を示して詳細に説明するが、本発明は以下に示す実施形態及び例示物等に限定して解釈されるものではない。
なお、本明細書において、「〜」とは、特に断りのない限り、その前後に記載される数値を下限値および上限値として含む意味で使用される。また、「部」とは、特に断りのない限り、質量基準に基づく質量部を表す。
【0013】
本発明は、(A)ポリカーボネート樹脂100質量部に対し(B)光拡散性微粒子を0.1〜10質量部を含有するポリカーボネート樹脂組成物において、厚み1mmでの全光束保持率が40%以上であり、かつ露光許容時間指数が30以上のものが、LED照明における青色網膜傷害の問題がなく、かつ明るさの低下の少ない光拡散性のポリカーボネート樹脂組成物となることを見出したものである。また、本発明は、その好ましい態様として、さらに、ポリカーボネート樹脂に対して0.02質量%以下の含有量で波長450nmにおける光線透過率が50%を達成可能な(C)青色光カット染料を含有する光拡散性ポリカーボネート樹脂組成物を提供する。
微粒子を用いて拡散を制御する方法は従来から適用されているが、本発明では(B)光拡散性微粒子を、(A)ポリカーボネート樹脂100質量部に対し0.1〜10質量部を配合し、全光束保持率を40%以上とした上で露光許容時間指数を30以上とする。
【0014】
ここで、全光束保持率は、CIE127:2007に準拠して、厚み1mmの試験片で測定される。全光束保持率の具体的な測定方法は、実施例に詳記するとおりである。
【0015】
また、露光許容時間指数(T
B)は、JIS C7550:2011に準拠して、以下のようにして決定され、青色光による網膜傷害のなりにくさを示す値である。
JIS C7550:2011によると、青色光による網膜傷害の露光許容時間t
maxは、下記式(1)によって求める。
【数1】
式(1)中、L
Bは、青色光による網膜傷害の実行放射輝度(W・m
−2・sr
−1)である。
【0016】
そして、このL
Bは、下記式(2)によって求められると定義されている。
【数2】
式(2)中、L(λ)は分光放射輝度(W・m
−2・sr
−1・nm
−1)、B(λ)は青色光傷害作用関数、Δλは波長幅(nm)である。
【0017】
ここで、分光放射輝度L(λ)は単位立体角あたりの輝度であるが、本発明においては、全方向の合計値を用いることとし、前記全光束保持率の測定の際に得られる分光放射強度(LI)を用い、青色網膜傷害放射強度指数(LI
B)とする。
青色網膜傷害放射強度指数(LI
B)は、下記式(3)により求められる。
【数3】
式(3)中、LI(λ)は全光束測定で得られる分光放射強度(W・nm
−1)、B(λ)はJIS C7550に記載の青色光傷害作用関数、Δλは波長幅5nmである。なお、LEDは350nm未満の波長は発しないので下限は350nmとした。
【0018】
さらに、露光許容時間の前記式(1)を参照して指数化し、下記式(4)で表わされる露光許容時間指数(T
B)を求める。
【数4】
【0019】
この露光許容時間指数(T
B)は、数値が大きいほど青色網膜傷害になりにくいことを示すが、本発明では、露光許容時間指数(T
B)が30以上であり、かつ全光束保持率が40%以上であることを必要とする。露光許容時間指数(T
B)は、好ましくは35以上であり、より好ましくは40以上であり、さらに好ましくは40以上であり、その上限に制限はないが好ましくは100以下、より好ましくは90以下であり、さらに好ましくは85以下である。全光束保持率は、好ましくは45%以上、より好ましくは50%以上、さらに好ましくは55%以上、特に好ましくは60%以上であって、好ましくは95%以下、より好ましくは93%以下、さらに好ましくは91%以下である。
以下、本発明のポリカーボネート樹脂組成物が含有する各成分について、説明する。
【0020】
[(A)ポリカーボネート樹脂]
本発明のポリカーボネート樹脂組成物に用いる(A)ポリカーボネート樹脂の種類に制限はない。また、(A)ポリカーボネート樹脂は、1種類を用いてもよく、2種類以上を任意の組み合わせ及び任意の比率で併用してもよい。
ポリカーボネート樹脂は、一般式:−(−O−X−O−C(=O)−)− で示される炭酸結合を有する基本構造の重合体である。式中、Xは、一般には炭化水素基であるが、種々の特性付与のためヘテロ原子、ヘテロ結合の導入されたXを用いてもよい。
また、ポリカーボネート樹脂は、炭酸結合に直接結合する炭素がそれぞれ芳香族炭素である芳香族ポリカーボネート樹脂、及び脂肪族炭素である脂肪族ポリカーボネート樹脂に分類できるが、本発明では、耐熱性、機械的物性、電気的特性等の観点から、芳香族ポリカーボネート樹脂を使用することが好ましい。
【0021】
芳香族ポリカーボネート樹脂の具体的な種類に制限は無いが、例えば、ジヒドロキシ化合物とカーボネート前駆体とを反応させてなるポリカーボネート樹脂が挙げられる。この際、ジヒドロキシ化合物及びカーボネート前駆体に加えて、ポリヒドロキシ化合物等を反応させるようにしても良い。また、二酸化炭素をカーボネート前駆体として、環状エーテルと反応させる方法も用いても良い。
また芳香族ポリカーボネート樹脂は、直鎖状でもよく、分岐鎖状でもよい。さらに、芳香族ポリカーボネート樹脂は1種の繰り返し単位からなる単重合体であってもよく、2種以上の繰り返し単位を有する共重合体であってもよい。このとき共重合体は、ランダム共重合体、ブロック共重合体等、種々の共重合形態を選択することができる。なお、通常、このようなポリカーボネート重合体は、熱可塑性の樹脂となる。
【0022】
芳香族ポリカーボネート樹脂の原料となるモノマーのうち、芳香族ジヒドロキシ化合物の例としては、
1,2−ジヒドロキシベンゼン、1,3−ジヒドロキシベンゼン(即ち、レゾルシノール)、1,4−ジヒドロキシベンゼン等のジヒドロキシベンゼン類;
2,5−ジヒドロキシビフェニル、2,2’−ジヒドロキシビフェニル、4,4’−ジヒドロキシビフェニル等のジヒドロキシビフェニル類;
2,2’−ジヒドロキシ−1,1’−ビナフチル、1,2−ジヒドロキシナフタレン、1,3−ジヒドロキシナフタレン、2,3−ジヒドロキシナフタレン、1,6−ジヒドロキシナフタレン、2,6−ジヒドロキシナフタレン、1,7−ジヒドロキシナフタレン、2,7−ジヒドロキシナフタレン等のジヒドロキシナフタレン類;
【0023】
2,2’−ジヒドロキシジフェニルエーテル、3,3’−ジヒドロキシジフェニルエーテル、4,4’−ジヒドロキシジフェニルエーテル、4,4’−ジヒドロキシ−3,3’−ジメチルジフェニルエーテル、1,4−ビス(3−ヒドロキシフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(4−ヒドロキシフェノキシ)ベンゼン等のジヒドロキシジアリールエーテル類;
【0024】
2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(即ち、ビスフェノールA)、
1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、
2,2−ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、
2,2−ビス(3−メトキシ−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、
2−(4−ヒドロキシフェニル)−2−(3−メトキシ−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、
1,1−ビス(3−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、
2,2−ビス(3,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、
2,2−ビス(3−シクロヘキシル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、
2−(4−ヒドロキシフェニル)−2−(3−シクロヘキシル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、
α,α’−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1,4−ジイソプロピルベンゼン、
1,3−ビス[2−(4−ヒドロキシフェニル)−2−プロピル]ベンゼン、
ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、
ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキシルメタン、
ビス(4−ヒドロキシフェニル)フェニルメタン、
ビス(4−ヒドロキシフェニル)(4−プロペニルフェニル)メタン、
ビス(4−ヒドロキシフェニル)ジフェニルメタン、
ビス(4−ヒドロキシフェニル)ナフチルメタン、
1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、
1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1−フェニルエタン、
1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1−ナフチルエタン、
1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ブタン、
2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ブタン、
2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ペンタン、
1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ヘキサン、
2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ヘキサン、
1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)オクタン、
2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)オクタン、
1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ヘキサン、
2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ヘキサン、
4,4−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ヘプタン、
2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ノナン、
1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)デカン、
1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ドデカン、
等のビス(ヒドロキシアリール)アルカン類;
【0025】
1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロペンタン、
1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、
1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3,3−ジメチルシクロヘキサン、
1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3,4−ジメチルシクロヘキサン、
1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3,5−ジメチルシクロヘキサン、
1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、
1,1−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、
1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3−プロピル−5−メチルシクロヘキサン、
1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3−tert−ブチル−シクロヘキサン、
1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−4−tert−ブチル−シクロヘキサン、
1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3−フェニルシクロヘキサン、
1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−4−フェニルシクロヘキサン、
等のビス(ヒドロキシアリール)シクロアルカン類;
【0026】
9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)フルオレン等のカルド構造含有ビスフェノール類;
【0027】
4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルフィド、4,4’−ジヒドロキシ−3,3’−ジメチルジフェニルスルフィド等のジヒドロキシジアリールスルフィド類;
【0028】
4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホキシド、4,4’−ジヒドロキシ−3,3’−ジメチルジフェニルスルホキシド等のジヒドロキシジアリールスルホキシド類;
【0029】
4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホン、4,4’−ジヒドロキシ−3,3’−ジメチルジフェニルスルホン等のジヒドロキシジアリールスルホン類;等が挙げられる。
【0030】
これらの中でもビス(ヒドロキシアリール)アルカン類が好ましく、中でもビス(4−ヒドロキシフェニル)アルカン類が好ましく、特に耐衝撃性、耐熱性の点から2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(即ち、ビスフェノールA)が好ましい。
なお、芳香族ジヒドロキシ化合物は、1種を用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0031】
芳香族ポリカーボネート樹脂の原料となるモノマーのうち、カーボネート前駆体の例を挙げると、カルボニルハライド、カーボネートエステル等が使用される。なお、カーボネート前駆体は、1種を用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用しても良い。
【0032】
カルボニルハライドとしては、具体的には例えば、ホスゲン;ジヒドロキシ化合物のビスクロロホルメート体、ジヒドロキシ化合物のモノクロロホルメート体等のハロホルメート等が挙げられる。
【0033】
カーボネートエステルとしては、具体的には例えば、ジフェニルカーボネート、ジトリルカーボネート等のジアリールカーボネート類;ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート等のジアルキルカーボネート類;ジヒドロキシ化合物のビスカーボネート体、ジヒドロキシ化合物のモノカーボネート体、環状カーボネート等のジヒドロキシ化合物のカーボネート体等が挙げられる。
【0034】
・ポリカーボネート樹脂の製造方法
ポリカーボネート樹脂の製造方法は、特に限定されるものではなく、任意の方法を採用できる。その例を挙げると、界面重合法、溶融エステル交換法、ピリジン法、環状カーボネート化合物の開環重合法、プレポリマーの固相エステル交換法などを挙げることができる。以下、これらの方法のうち特に好適なものについて具体的に説明する。
【0035】
・・界面重合法
まず、ポリカーボネート樹脂を界面重合法で製造する場合について説明する。界面重合法では、反応に不活性な有機溶媒及びアルカリ水溶液の存在下で、通常pHを9以上に保ち、ジヒドロキシ化合物とカーボネート前駆体(好ましくは、ホスゲン)とを反応させた後、重合触媒の存在下で界面重合を行うことによってポリカーボネート樹脂を得る。なお、反応系には、必要に応じて分子量調整剤(末端停止剤)を存在させるようにしてもよく、ジヒドロキシ化合物の酸化防止のために酸化防止剤を存在させるようにしてもよい。
【0036】
ジヒドロキシ化合物及びカーボネート前駆体は、前述のとおりである。なお、カーボネート前駆体の中でもホスゲンを用いることが好ましく、ホスゲンを用いた場合の方法は特にホスゲン法と呼ばれる。
【0037】
反応に不活性な有機溶媒としては、例えば、ジクロロメタン、1,2−ジクロロエタン、クロロホルム、モノクロロベンゼン、ジクロロベンゼン等の塩素化炭化水素等;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素;などが挙げられる。なお、有機溶媒は、1種を用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用しても良い。
【0038】
アルカリ水溶液に含有されるアルカリ化合物としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、炭酸水素ナトリウム等のアルカリ金属化合物やアルカリ土類金属化合物が挙げられるが、中でも水酸化ナトリウム及び水酸化カリウムが好ましい。なお、アルカリ化合物は、1種を用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用しても良い。
【0039】
アルカリ水溶液中のアルカリ化合物の濃度に制限は無いが、通常、反応のアルカリ水溶液中のpHを10〜12にコントロールするために、5〜10質量%で使用される。また、例えばホスゲンを吹き込むに際しては、水相のpHが10〜12、好ましくは10〜11になる様にコントロールするために、ビスフェノール化合物とアルカリ化合物とのモル比を、通常1:1.9以上、中でも1:2.0以上、また、通常1:3.2以下、中でも1:2.5以下とすることが好ましい。
【0040】
重合触媒としては、例えば、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリブチルアミン、トリプロピルアミン、トリヘキシルアミン等の脂肪族三級アミン;N,N’−ジメチルシクロヘキシルアミン、N,N’−ジエチルシクロヘキシルアミン等の脂環式三級アミン;N,N’−ジメチルアニリン、N,N’−ジエチルアニリン等の芳香族三級アミン;トリメチルベンジルアンモニウムクロライド、テトラメチルアンモニウムクロライド、トリエチルベンジルアンモニウムクロライド等の第四級アンモニウム塩等;ピリジン;グアニン;グアニジンの塩;等が挙げられる。なお、重合触媒は、1種を用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用しても良い。
【0041】
分子量調節剤としては、例えば、一価のフェノール性水酸基を有する芳香族フェノール;メタノール、ブタノールなどの脂肪族アルコール;メルカプタン;フタル酸イミド等が挙げられるが、中でも芳香族フェノールが好ましい。このような芳香族フェノールとしては、具体的に、m−メチルフェノール、p−メチルフェノール、m−プロピルフェノール、p−プロピルフェノール、p−tert−ブチルフェノール、p−長鎖アルキル置換フェノール等のアルキル基置換フェノール;イソプロパニルフェノール等のビニル基含有フェノール;エポキシ基含有フェノール;o−ヒドロキシ安息香酸、2−メチル−6−ヒドロキシフェニル酢酸等のカルボキシル基含有フェノール;等が挙げられる。なお、分子量調整剤は、1種を用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用しても良い。
【0042】
分子量調節剤の使用量は、ジヒドロキシ化合物100モルに対して、通常0.5モル以上、好ましくは1モル以上であり、また、通常50モル以下、好ましくは30モル以下である。分子量調整剤の使用量をこの範囲とすることで、ポリカーボネート樹脂組成物の熱安定性及び耐加水分解性を向上させることができる。
【0043】
反応の際に、反応基質、反応媒、触媒、添加剤等を混合する順番は、所望のポリカーボネート樹脂が得られる限り任意であり、適切な順番を任意に設定すればよい。例えば、カーボネート前駆体としてホスゲンを用いた場合には、分子量調節剤はジヒドロキシ化合物とホスゲンとの反応(ホスゲン化)の時から重合反応開始時までの間であれば任意の時期に混合できる。
なお、反応温度は通常0〜40℃であり、反応時間は通常は数分(例えば、10分)〜数時間(例えば、6時間)である。
【0044】
・・溶融エステル交換法
次に、ポリカーボネート樹脂を溶融エステル交換法で製造する場合について説明する。溶融エステル交換法では、例えば、炭酸ジエステルとジヒドロキシ化合物とのエステル交換反応を行う。
【0045】
ジヒドロキシ化合物は、前述の通りである。
一方、炭酸ジエステルとしては、例えば、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジ−tert−ブチルカーボネート等の炭酸ジアルキル化合物;ジフェニルカーボネート;ジトリルカーボネート等の置換ジフェニルカーボネートなどが挙げられる。中でも、ジフェニルカーボネート及び置換ジフェニルカーボネートが好ましく、特にジフェニルカーボネートがより好ましい。なお、炭酸ジエステルは1種を用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用しても良い。
【0046】
ジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルとの比率は所望のポリカーボネート樹脂が得られる限り任意であるが、ジヒドロキシ化合物1モルに対して、炭酸ジエステルを等モル量以上用いることが好ましく、中でも1.01モル以上用いることがより好ましい。なお、上限は通常1.30モル以下である。このような範囲にすることで、末端水酸基量を好適な範囲に調整できる。
【0047】
ポリカーボネート樹脂では、その末端水酸基量が熱安定性、加水分解安定性、色調等に大きな影響を及ぼす傾向がある。このため、公知の任意の方法によって末端水酸基量を必要に応じて調整してもよい。エステル交換反応においては、通常、炭酸ジエステルと芳香族ジヒドロキシ化合物との混合比率;エステル交換反応時の減圧度などを調整することにより、末端水酸基量を調整したポリカーボネート樹脂を得ることができる。なお、この操作により、通常は得られるポリカーボネート樹脂の分子量を調整することもできる。
【0048】
炭酸ジエステルとジヒドロキシ化合物との混合比率を調整して末端水酸基量を調整する場合、その混合比率は前記の通りである。
また、より積極的な調整方法としては、反応時に別途、末端停止剤を混合する方法が挙げられる。この際の末端停止剤としては、例えば、一価フェノール類、一価カルボン酸類、炭酸ジエステル類などが挙げられる。なお、末端停止剤は、1種を用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用しても良い。
【0049】
溶融エステル交換法によりポリカーボネート樹脂を製造する際には、通常、エステル交換触媒が使用される。エステル交換触媒は任意のものを使用できる。なかでも、例えばアルカリ金属化合物及び/又はアルカリ土類金属化合物を用いることが好ましい。また補助的に、例えば塩基性ホウ素化合物、塩基性リン化合物、塩基性アンモニウム化合物、アミン系化合物などの塩基性化合物を併用してもよい。なお、エステル交換触媒は、1種を用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用しても良い。
【0050】
溶融エステル交換法において、反応温度は通常100〜320℃である。また、反応時の圧力は通常2mmHg以下の減圧条件である。具体的操作としては、前記の条件で、芳香族ヒドロキシ化合物等の副生成物を除去しながら、溶融重縮合反応を行えばよい。
【0051】
溶融重縮合反応は、バッチ式、連続式の何れの方法でも行うことができる。バッチ式で行う場合、反応基質、反応媒、触媒、添加剤等を混合する順番は、所望のポリカーボネート樹脂が得られる限り任意であり、適切な順番を任意に設定すればよい。ただし中でも、ポリカーボネート樹脂及びポリカーボネート樹脂組成物の安定性等を考慮すると、溶融重縮合反応は連続式で行うことが好ましい。
【0052】
溶融エステル交換法においては、必要に応じて、触媒失活剤を用いても良い。触媒失活剤としてはエステル交換触媒を中和する化合物を任意に用いることができる。その例を挙げると、イオウ含有酸性化合物及びその誘導体などが挙げられる。なお、触媒失活剤は、1種を用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用しても良い。
【0053】
触媒失活剤の使用量は、前記のエステル交換触媒が含有するアルカリ金属又はアルカリ土類金属に対して、通常0.5当量以上、好ましくは1当量以上であり、また、通常10当量以下、好ましくは5当量以下である。更には、ポリカーボネート樹脂に対して、通常1ppm以上であり、また、通常100ppm以下、好ましくは20ppm以下である。
【0054】
・(A)ポリカーボネート樹脂に関するその他の事項
(A)ポリカーボネート樹脂は、構造粘性指数Nが所定範囲にあるポリカーボネート樹脂を一定割合以上含有することが好ましい。
構造粘性指数Nとは、文献「化学者のためのレオロジー」(化学同人、1982年、第15〜16頁)にも詳記されているように、溶融体の流動特性を評価する指標である。通常、ポリカーボネート樹脂の溶融特性は、数式:γ=a・σ
Nにより表示することができる。なお、前記式中、γ:剪断速度、a:定数、σ:応力、N:構造粘性指数、を表す。
【0055】
上記式において、N=1のときはニュートン流動性を示し、Nの値が大きくなるほど非ニュートン流動性が大きくなる。つまり、構造粘性指数Nの大小により溶融体の流動特性が評価される。一般に、構造粘性指数Nが大きいポリカーボネート樹脂は、低剪断領域における溶融粘度が高くなる傾向がある。このため、構造粘性指数Nが大きいポリカーボネート樹脂を別のポリカーボネート樹脂と混合した場合、得られる成形品の燃焼時の滴下を抑制し、難燃性を向上させることができる。ただし、得られるポリカーボネート樹脂組成物の成形性を良好な範囲に維持するためには、このポリカーボネート樹脂の構造粘性指数Nは過度に大きくないことが好ましい。
【0056】
本発明のポリカーボネート樹脂組成物において、(A)ポリカーボネート樹脂は、構造粘性指数Nが、好ましくは1.2以上のポリカーボネート樹脂(A1)を含有することが好ましい。ポリカーボネート樹脂(A1)の構造粘性指数Nは、より好ましくは1.25以上、さらに好ましくは1.28以上、特に好ましくは1.30以上であり、また、通常1.8以下、好ましくは1.7以下である。
このように構造粘性指数Nが高いことは、ポリカーボネート樹脂が分岐構造を有することを意味し、このように構造粘性指数Nが高いポリカーボネート樹脂を含有することにより、ポリカーボネート樹脂成形品の燃焼時の滴下を抑制し、難燃性を向上させることができる。
【0057】
なお、構造粘性指数Nは、例えば特開2005−232442号公報に記載されているように、上述の式を誘導した、Logη
a=〔(1−N)/N〕×Logγ+Cによって表示することも可能である。なお、前記式中、N:構造粘性指数、γ:剪断速度、C:定数、η
a:見かけの粘度、を表す。この式から分かるように、粘度挙動が大きく異なる低剪断領域におけるγとη
aからN値を評価することもできる。例えば、γ=12.16sec
−1及びγ=24.32sec
−1でのη
aからN値を決定することができる。
【0058】
構造粘性指数Nが1.2以上のポリカーボネート樹脂は、例えば、特開平8−259687号公報、特開平8−245782号公報に記載されているように、溶融法(エステル交換法)によって芳香族ジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルを反応させる際、触媒の条件または製造条件を選択することにより、分岐剤を添加することなく、構造粘性指数が高く、加水分解安定性に優れた芳香族ポリカーボネート樹脂を得ることができる。
【0059】
また、構造粘性指数Nが1.2以上のポリカーボネート樹脂は、常法に従って、ホスゲン法あるいは溶融法(エステル交換法)で製造する際に、分岐剤を使用する方法によって製造することもできる。
分岐剤の具体例としては、フロログルシン、4,6−ジメチル−2,4,6−トリス(4−ヒドロキシフェニル)ヘプテン−2、4,6−ジメチル−2,4,6−トリス(4−ヒドロキシフェニル)ヘプタン、2,6−ジメチル−2,4,6−トリス(4−ヒドロキシフェニルヘプテン−3、1,3,5−トリス(4−ヒドロキシフェニル)エタンなどで示されるポリヒドロキシ化合物、また3,3−ビス(4−ヒドロキシアリール)オキシインドール(=イサチンビスフェノール)、5−クロルイサチンビスフェノール、5,7−ジクロルイサチンビスフェノール、5−ブロムイサチンビスフェノールなどが挙げられる。
その使用量は芳香族ジヒドロキシ化合物に対して好ましくは0.01〜10モル%の範囲であり、特に好ましくは0.1〜3モル%の範囲である。
【0060】
本発明のポリカーボネート樹脂組成物において、(A)ポリカーボネート樹脂は、上述した構造粘性指数Nが1.2以上であるポリカーボネート樹脂(A1)を、ポリカーボネート樹脂中、好ましくは30質量%以上、より好ましくは40質量%以上、さらに好ましくは50質量%以上、最も好ましくは60質量%以上含むことが望ましい。このようにポリカーボネート樹脂(A1)と組合せることにより、必要以上に押出し時のトルク上昇を招かないため、生産性の低下を招きにくくなる。すなわち、成形性と生産性をいずれも顕著に発揮できることになる。
なお、(A)ポリカーボネート樹脂中の、ポリカーボネート樹脂(A1)の含有量の上限に制限は無く、通常100質量%以下であるが、好ましくは90質量%以下であり、より好ましくは85質量%以下である。また、ポリカーボネート樹脂(A1)は、1種を用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0061】
また、(A)ポリカーボネート樹脂は、上述したポリカーボネート樹脂(A1)以外に、構造粘性指数Nが上記の所定範囲外であるポリカーボネート樹脂を含んでいてもよい。その種類に制限は無いが、なかでも直鎖状ポリカーボネート樹脂が好ましい。ポリカーボネート樹脂(A1)と直鎖状ポリカーボネート樹脂とを組み合わせることにより、得られるポリカーボネート樹脂組成物の難燃性(滴下防止性)と成形性(流動性)のバランスをとりやすいという利点が得られる。この観点から、(A)ポリカーボネート樹脂は、ポリカーボネート樹脂(A1)と、直鎖状ポリカーボネート樹脂とから構成されるものを用いることが特に好ましい。なお、この直鎖状ポリカーボネート樹脂の構造粘性指数Nは通常1〜1.15程度である。
【0062】
(A)ポリカーボネート樹脂の分子量は、適宜選択して決定すればよいが、溶液粘度から換算した粘度平均分子量[Mv]で、通常15,000以上、好ましくは19,000以上、より好ましくは21,000以上、特には23,000以上であり、また、通常36,000以下、好ましくは34,000以下、より好ましくは32,000以下、さらに好ましくは30,000以下、特に好ましくは29,000以下である。粘度平均分子量を前記範囲の下限値以上とすることにより本発明のポリカーボネート樹脂組成物の機械的強度をより向上させることができ、機械的強度の要求の高い用途に用いる場合により好ましいものとなる。一方、粘度平均分子量を前記範囲の上限値未満とすることにより本発明のポリカーボネート樹脂組成物の流動性低下を抑制して改善でき、成形加工性を高めて成形加工を容易に行えるようになる。
【0063】
なお、(A)ポリカーボネート樹脂は、粘度平均分子量の異なる2種類以上のポリカーボネート樹脂を混合して用いてもよく、この場合には、粘度平均分子量が上記の好適な範囲外であるポリカーボネート樹脂を混合してもよい。
混合して用いる場合には、粘度平均分子量(Mv)が相対的に小さいポリカーボネート樹脂に、Mvが大であるポリカーボネート樹脂(A2)を混合して使用することが好ましく、この場合、Mvが小さいポリカーボネート樹脂を38,000未満、好ましくは10,000〜30,000、より好ましくは12,000〜20,000の範囲から選び、Mvが大きいポリカーボネート樹脂(A2)のMvを38,000以上、好ましくは50,000〜90,000、より好ましくは60,000〜85,000のものを組み合わせて使用することが好ましい。
この際のポリカーボネート樹脂(A2)の割合は、ポリカーボネート樹脂全体100質量%中、ポリカーボネート樹脂(A2)が5質量%以上であることが好ましく、より好ましくは10質量%以上、さらには15質量%以上、特には20質量%以上であることが好ましく、また、通常50質量%以下であることが好ましい。また、ポリカーボネート樹脂(A2)は、1種を用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0064】
また、(A)ポリカーボネート樹脂は、前記したポリカーボネート樹脂(A1)とポリカーボネート樹脂(A2)の両方を含有することも好ましい。
【0065】
なお、本発明において、粘度平均分子量[Mv]とは、溶媒としてメチレンクロライドを使用し、ウベローデ粘度計を用いて温度20℃での極限粘度[η](単位dl/g)を求め、Schnellの粘度式、すなわち、η=1.23×10
−4Mv
0.83、から算出される値を意味する。また極限粘度[η]とは、各溶液濃度[C](g/dl)での比粘度[η
sp]を測定し、下記式により算出した値である。
【数5】
【0066】
(A)ポリカーボネート樹脂の末端水酸基濃度は任意であり、適宜選択して決定すればよいが、通常1,500ppm以下、好ましくは800ppm以下、より好ましくは600ppm以下である。これにより本発明のポリカーボネート樹脂組成物の滞留熱安定性及び色調をより向上させることができる。また、その下限は、特に溶融エステル交換法で製造されたポリカーボネート樹脂では、通常10ppm以上、好ましくは30ppm以上、より好ましくは40ppm以上である。これにより、分子量の低下を抑制し、本発明のポリカーボネート樹脂組成物の機械的特性をより向上させることができる。
なお、末端水酸基濃度の単位は、ポリカーボネート樹脂の質量に対する、末端水酸基の質量をppmで表示したものである。その測定方法は、四塩化チタン/酢酸法による比色定量(Macromol.Chem.88 215(1965)に記載の方法)である。
【0067】
(A)ポリカーボネート樹脂は、ポリカーボネート樹脂単独(ポリカーボネート樹脂単独とは、ポリカーボネート樹脂の1種のみを含む態様に限定されず、例えば、モノマー組成や分子量が互いに異なる複数種のポリカーボネート樹脂を含む態様を含む意味で用いる。)で用いてもよく、ポリカーボネート樹脂と他の熱可塑性樹脂とのアロイ(混合物)とを組み合わせて用いてもよい。さらに、例えば、難燃性や耐衝撃性をさらに高める目的で、ポリカーボネート樹脂を、シロキサン構造を有するオリゴマーまたはポリマーとの共重合体;熱酸化安定性や難燃性をさらに向上させる目的でリン原子を有するモノマー、オリゴマーまたはポリマーとの共重合体;熱酸化安定性を向上させる目的で、ジヒドロキシアントラキノン構造を有するモノマー、オリゴマーまたはポリマーとの共重合体;光学的性質を改良するためにポリスチレン等のオレフィン系構造を有するオリゴマーまたはポリマーとの共重合体;耐薬品性を向上させる目的でポリエステル樹脂オリゴマーまたはポリマーとの共重合体;等の、ポリカーボネート樹脂を主体とする共重合体として構成してもよい。
【0068】
また、成形品の外観の向上や流動性の向上を図るため、(A)ポリカーボネート樹脂は、ポリカーボネートオリゴマーを含有していてもよい。このポリカーボネートオリゴマーの粘度平均分子量[Mv]は、通常1,500以上、好ましくは2,000以上であり、また、通常9,500以下、好ましくは9,000以下である。さらに、含有されるポリカーボネートリゴマーは、ポリカーボネート樹脂(ポリカーボネートオリゴマーを含む)の30質量%以下とすることが好ましい。
【0069】
さらに(A)ポリカーボネート樹脂は、バージン原料だけでなく、使用済みの製品から再生されたポリカーボネート樹脂(いわゆるマテリアルリサイクルされたポリカーボネート樹脂)であってもよい。前記の使用済みの製品としては、例えば、光ディスク等の光記録媒体;導光板;自動車窓ガラス、自動車ヘッドランプレンズ、風防等の車両透明部材;水ボトル等の容器;メガネレンズ;防音壁、ガラス窓、波板等の建築部材などが挙げられる。また、製品の不適合品、スプルー、ランナー等から得られた粉砕品またはそれらを溶融して得たペレット等も使用可能である。
ただし、再生されたポリカーボネート樹脂は、本発明のポリカーボネート樹脂組成物に含まれるポリカーボネート樹脂のうち、80質量%以下であることが好ましく、中でも50質量%以下であることがより好ましい。再生されたポリカーボネート樹脂は、熱劣化や経年劣化等の劣化を受けている可能性が高いため、このようなポリカーボネート樹脂を前記の範囲よりも多く用いた場合、色相や機械的物性を低下させる可能性があるためである。
【0070】
[(B)光拡散性微粒子]
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、(B)光拡散性微粒子を、(A)ポリカーボネート樹脂100質量部に対し、0.1〜10質量部の範囲で含有する。
(B)光拡散性微粒子は、微粒子状の無機又は有機粒子であり、例えばガラス微粒子、ポリスチレン樹脂、(メタ)アクリル樹脂、シリコーン樹脂等の有機微粒子が挙げられ、有機微粒子が好ましく、光拡散効果の点から微粒子は球状であるものが好ましい。
【0071】
(B)光拡散性微粒子の平均粒径は、通常0.1〜50μmであるが、好ましくは0.5μm以上、より好ましくは1.0μm以上であり、好ましくは30μm以下、より好ましくは20μm以下、さらに好ましくは10μm以下、最も好ましくは6μm以下である。平均粒径が、0.1μm未満では、得られるポリカーボネート樹脂組成物の光拡散性は向上しにくく、一方で輝度を下げてしまいやすい。また、50μmを超えると、光拡散効果も低下しやすく、輝度も下がってしまいやすい。
【0072】
(B)光拡散性微粒子の含有量は、前記の通り、(A)ポリカーボネート樹脂100質量部に対して、0.1〜10質量部であるが、好ましくは0.2質量部以上、より好ましくは0.3質量部以上であり、好ましくは5質量部以下、より好ましくは3質量部以下、さらに好ましくは2質量部以下、特に好ましくは1.5質量部以下である。含有量が0.1質量部より少ないと、光拡散性が不足し高輝度のLED光源が透けて見えやすく、眩しさ低減効果が不十分となり、10質量部を超えて多すぎると必要な照明輝度が得られなくなる。
【0073】
(B)光拡散性微粒子としては、ポリカーボネート樹脂の成形温度まで加熱してもポリカーボネート樹脂中に実質的に溶融しない、架橋した有機微粒子が好ましく、具体的には架橋したアクリル系重合体微粒子、架橋シロキサン系重合体微粒子が特に好ましい。
【0074】
・架橋アクリル系重合体微粒子
架橋アクリル系重合体微粒子として、好ましいのは、非架橋性アクリルモノマーと架橋性モノマーを、好ましくは懸濁重合により、製造される架橋アクリル樹脂系微粒子である。
非架橋性アクリル系モノマーとしては、アクリルモノマー単独またはアクリルモノマー複数を組み合わせて用いる。アクリルモノマーとしては、メチルアクリレート、n−ブチルアクリレート、エチルアクリレート、プロピルアクリレート、ブチルアクリレート、2−エチル−ヘキシルアクリレート等のアクリル酸エステル類、メチルメタアクリレート、エチルメタアクリレート、プロピルメタアクリレート、ブチルメタアクリレート等のメタクリル酸エステル類が好ましく挙げられ、これらを単独又は二種以上組み合わせて用いることができる。なかでも、メチルメタクリレートが好適に用いられる。
また、単量体には、(メタ)アクリル酸エステル系単量体と共重合可能な単量体を加えてもよく、そのような単量体としては、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、酢酸ビニル等のビニル基を有する単量体が挙げられる。
【0075】
一方、架橋性モノマーとしては、分子内に2個以上の不飽和結合を持つ化合物が好ましく用いられる。例えばトリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、アリルメタクリレート、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアネート、エチレングリコールジメタクリレート、プロピレングリコールジアリルエーテル、ジビニルベンゼン、ジエチレングリコールジメタクリレート、1,6−ヘキサンジオールジメタアクリレート等が挙げられる。なかでも、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレートが好ましい。
【0076】
架橋アクリル系重合体微粒子は、非架橋性アクリルモノマーと架橋性モノマーを懸濁重合させることにより製造できる。例えば、両モノマーを、ポリビニルアルコールを分散剤として、懸濁させて重合を行い、ろ過、洗浄、篩がけ、乾燥することにより得られる。両モノマーの使用割合は、好ましくは、非架橋性アクリルモノマー90〜99質量%、架橋性モノマー10〜1質量%である。架橋性モノマーの量が少なすぎると、得られたビーズ状架橋アクリル重合体微粒子のポリカーボネート樹脂中への分散性が不良となりやすく、逆に、架橋性モノマーの配合率が多いと、架橋アクリル系重合体微粒子が硬くなりすぎて衝撃強度が低下しやすいので好ましくない。
【0077】
本発明において、粒径および粒径分布の測定は、コールターカウンター法にて個数基準にて行われる。コールカウンター法は、サンプル粒子を懸濁させた電解質を細孔(アパチャ−)に通過させ、そのときに粒子の体積に比例して発生する電圧パルスの変化を読み取って粒子径を定量するもので、また電圧パルス高を1個ずつ計測処理して、サンプル粒子の体積分布ヒストグラムを得ることができる。このようなコールカウンター法による粒径又は粒径分布測定は、粒度分布測定装置として最も多用されているものである。
【0078】
架橋アクリル系重合体微粒子は、その平均粒径が好ましくは1.5〜5μmであり、平均粒径がこの範囲にあると、光拡散率や分散度がより高上する。平均粒径は、好ましくは1〜3μm、さらに好ましくは1.5〜3μmである。
【0079】
また、架橋アクリル系重合体微粒子は、5%熱重量減少温度が280℃以上であることが好ましく、より好ましくは295℃以上である。280℃未満の場合は、本発明の樹脂組成物を溶融混練にて製造する際に、粒子形状を維持できず、所望の透過率と光拡散性が得られないため好ましくない。
【0080】
架橋アクリル系重合体微粒子の含有量は、好ましくは(A)ポリカーボネート樹脂100質量部に対し、0.1〜5質量部であり、より好ましくは0.1〜2質量部、さらに好ましくは0.3〜1.5質量部である。0.1質量部未満の場合は、ポリカーボネート樹脂の透過率および光拡散性を向上させる効果が充分に得られにくく、5質量部を超える場合は、ポリカーボネート樹脂の耐衝撃性等が低下する傾向にあるため好ましくない。
【0081】
架橋アクリル系重合体微粒子を製造するための方法は、公知であり、特に限定されないが、乳化重合法または懸濁重合法などにより、直接的に粒子として重合、製造することも好ましい。架橋アクリル系重合体微粒子を重合により直接的に製造する場合は、重合条件によってその粒子径を制御できる。たとえば、ホモジナイザーを用いて、粒子径を所定のものとし、粒子径分布は過度のせん断力を負荷しないようにして、ブロードな分布の重合体を得ることができる。
また、固体状態で得られたアクリル樹脂をジェット気流式粉砕機、機械衝突式粉砕機、ロールミル、ハンマーミル、インペラーブレーカーなどの粉砕装置により粉砕し、得られた粉砕物を風力分級装置、ふるい分級装置などの分級装置に導入して分級することにより、粒子の粒径を制御して用いてもよい。
【0082】
・架橋シロキサン系重合体微粒子
架橋シロキサン系重合体微粒子を構成するポリオルガノシロキサンとしては、フェニル基、ジフェニル基、ビニル基又はアルコキシ基(例えば、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、イソプロポキシ基、n−ブトキシ基、イソブトキシ基、sec−ブトキシ基、tert−ブトキシ基など)を有するポリオルガノシロキサン、フェニル基とジフェニル基を有するポリオルガノシロキサン、ビニル基とアルコキシ基を有するポリオルガノシロキサン、フェニル基とアルコキシ基とビニル基を有するポリオルガノシロキサン等が好ましく挙げられる。
【0083】
ポリオルガノシロキサンとして好ましいのは、ポリオルガノシルセスキオキサンである。ポリオルガノシルセスキオキサンは、R−SiO
1.5(Rは一価の有機基)で示される3官能性シロキサン単位(以下、「T単位」ということがある。)を有するポリオルガノシロキサンをいい、全シロキサン単位の合計100モル%中、50モル%以上のものをいう。T単位の割合はより好ましくは80モル%以上、更に好ましくは90モル%、特には95モル%である。
【0084】
ポリオルガノシルセスキオキサンに結合する有機基Rとしては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ヘキシル基、デシル基、ドデシル基、オクタデシル基等の炭素数1〜20アルキル基、シクロヘキシル基等の環状アルキル基、フェニル基、トリル基、およびキシリル基等のアリール基、フェニルエチル基およびフェニルプロピル基等のアラルキル基などが好ましく挙げられる。ポリオルガノシルセスキオキサンとして、ポリアルキルシルセスキオキサンが、特にポリメチルシルセスキオキサンが好ましい。
【0085】
架橋シロキサン系重合体微粒子は、平均粒径が1.5〜5μmであるものが好ましい。平均粒径が、1.5μm未満では、得られるポリカーボネート樹脂組成物の光拡散性の向上効果は少なく、一方で輝度を下げてしまう。5μmを超えると、光拡散効果も低下し、輝度も下がってしまう傾向にある。
【0086】
架橋シロキサン系重合体微粒子の含有量は、好ましくは(A)ポリカーボネート樹脂100質量部に対し、0.35〜3質量部含有する。このような架橋シロキサン系重合体微粒子を、このような量配合することで、本発明のポリカーボネート樹脂組成物の優れた光拡散性と光透過率を達成することができる。
【0087】
上記したような好ましい架橋シロキサン系重合体微粒子の製造するための方法は、公知であり、例えば特開平01−217039号公報に記載されるように、オルガノトリアルコキシシランを酸性条件下で加水分解してオルガノシラントリオールの水/アルコール溶液に、アルカリ性水溶液を添加、混合し、静置状態において、オルガノシラントリオールを重縮合させることによって得られる。
【0088】
粒径の調整は、主にアルカリの水溶液のpHの調整によって行うことができ、小さい粒子を得ようとすればpHを高く、大きい粒子を得ようとすればpHを低くすることで粒子径の制御が可能であり、縮合反応は通常アルカリ添加後0.5〜10時間、好ましくは0.5〜5時間の範囲で行われ、縮合物が熟成されるが、熟成時の攪拌を弱くして、粒子の会合を防止することで、粒径および粒径分布の調整が可能である。さらに、得られた架橋シロキサン系重合体粒子を更に粉砕して粒度を調整してもよい。また、架橋シロキサン系重合体微粒子は、その製造者に所望の粒径と分布のスペックを指定することでも、入手可能である。
【0089】
[(C)青色光カット染料]
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、ポリカーボネート樹脂に対して0.02質量%以下の含有量で波長450nmにおける光線透過率が50%を達成可能な(C)青色光カット染料を含有することが好ましい。
合成樹脂用の青色光吸収剤としては、インジゴ系色素、キノフタロン系色素、キノン系色素、クマリン系色素、クロロフィル系色素、ジフェニルメタン系色素、スピロピラン系色素、チアジン系色素、トリフェニルメタン系色素などがあるが、本発明ではこれらの中でも、ポリカーボネート樹脂に対して0.02質量%以下の含有量で波長450nmにおける光線透過率が50%を達成できる青色光を吸収する(C)青色光カット染料を含有する。
【0090】
ここで、波長450nmにおける光線透過率が50%以上を0.02質量%以下の含有量で達成できるかの判定に用いるポリカーボネート樹脂としては、市販の汎用のポリカーボネート樹脂であれば、その光線透過率に大きな差異が生じることはないので、市販のポリカーボネート樹脂で十分測定することができる。もし光線透過率が50%前後で微妙な場合には、基準となるポリカーボネート樹脂として、三菱エンジニアリングプラスチックス株式会社製「ユーピロン(登録商標)S−3000」(粘度平均分子量Mv:21,000)を使用し、試験片の厚みを1mmとして測定する。光線透過率の具体的な測定方法は、実施例に詳記される。
【0091】
このような(C)青色光カット染料としては、例えば、アンスラキノン系、アゾ系、ニトロ系、メチン系、フタロシアニン系等の黄色系染料等が使用可能である。具体的には、例えば、紀和化学工業社製「KP PLAST Yellow HK」、ランクセス社製「MACROLEX Yellow 6G」、住化ケムテックス社製の「Sumiplast Olive MR」などを例示することができる。
【0092】
(C)青色光カット染料の含有量は、(A)ポリカーボネート樹脂100質量部に対して、0.0001〜0.01質量部が好ましく、より好ましくは0.001質量部以上であり、好ましくは0.005質量部以下である。(C)青色光カット染料の含有量が少なすぎると、ポリカーボネート樹脂組成物の全光束保持率が小さくなり、また露光許容時間指数が低くなり、逆に多すぎてもポリカーボネート樹脂の熱安定性の低下、並びに、成形品の外観不良及び機械的強度の低下が生ずる。
【0093】
[(D)有機スルホン酸アルカリ金属塩]
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は(D)有機スルホン酸アルカリ金属塩を含有することが好ましい。有機スルホン酸アルカリ金属塩を含有することで、本発明のポリカーボネート樹脂組成物の難燃性を向上させることができる。
【0094】
有機スルホン酸アルカリ金属塩が有するアルカリ金属の種類としては、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム等のアルカリ金属が挙げられるが、なかでもナトリウム、カリウム、セシウムが好ましく、特にはカリウム及びナトリウムが好ましい。
【0095】
有機スルホン酸アルカリ金属塩のうち、好ましいものの例としては、含フッ素脂肪族スルホン酸のアルカリ金属塩、含フッ素脂肪族スルホン酸イミドのアルカリ金属塩等の含フッ素有機スルホン酸のアルカリ金属塩、芳香族スルホン酸のアルカリ金属塩、芳香族スルホンアミドのアルカリ金属塩が挙げられる。
その中でも好ましいものの具体例を挙げると、パーフルオロブタンスルホン酸カリウム、パーフルオロブタンスルホン酸リチウム、パーフルオロブタンスルホン酸ナトリウム、パーフルオロブタンスルホン酸セシウム、トリフルオロメタンスルホン酸リチウム、トリフルオロメタンスルホン酸ナトリウム、トリフルオロメタンスルホン酸カリウム、パーフルオロエタンスルホン酸カリウム、パーフルオロプロパンスルホン酸カリウム等の、分子中に少なくとも1つのC−F結合を有する含フッ素脂肪族スルホン酸のアルカリ金属塩;
【0096】
パーフルオロメタンジスルホン酸ジナトリウム、パーフルオロメタンジスルホン酸ジカリウム、パーフルオロエタンジスルホン酸ナトリウム、パーフルオロエタンジスルホン酸ジカリウム、パーフルオロプロパンジスルホン酸ジカリウム、パーフルオロイソプロパンジスルホン酸ジカリウム、パーフルオロブタンジスルホン酸ジナトリウム、パーフルオロブタンジスルホン酸ジカリウム、パーフルオロオクタンジスルホン酸ジカリウム等の、分子中に少なくとも1つのC−F結合を有する含フッ素脂肪族ジスルホン酸のアルカリ金属塩;等の、含フッ素脂肪族スルホン酸の金属塩、
【0097】
ビス(パーフルオロプロパンスルホニル)イミドリチウム、ビス(パーフルオロプロパンスルホニル)イミドナトリウム、ビス(パーフルオロプロパンスルホニル)イミドカリウム、ビス(パーフルオロブタンスルホニル)イミドリチウム、ビス(パーフルオロブタンスルホニル)イミドナトリウム、ビス(パーフルオロブタンスルホニル)イミドカリウム、トリフルオロメタン(ペンタフルオロエタン)スルホニルイミドカリウム、トリフルオロメタン(ノナフルオロブタン)スルホニルイミドナトリウム、トリフルオロメタン(ノナフルオロブタン)スルホニルイミドカリウム、トリフルオロメタン等の、分子中に少なくとも1つのC−F結合を有する含フッ素脂肪族ジスルホン酸イミドのアルカリ金属塩;
【0098】
シクロ−ヘキサフルオロプロパン−1,3−ビス(スルホニル)イミドリチウム、シクロ−ヘキサフルオロプロパン−1,3−ビス(スルホニル)イミドナトリウム、シクロ−ヘキサフルオロプロパン−1,3−ビス(スルホニル)イミドカリウム等の、分子中に少なくとも1つのC−F結合を有する環状含フッ素脂肪族スルホンイミドのアルカリ金属塩;等の、含フッ素脂肪族スルホン酸イミドのアルカリ金属塩、
【0099】
ジフェニルスルホン−3,3’−ジスルホン酸ジカリウム、ジフェニルスルホン−3−スルホン酸カリウム、ベンゼンスルホン酸ナトリウム、(ポリ)スチレンスルホン酸ナトリウム、パラトルエンスルホン酸ナトリウム、(分岐)ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、トリクロロベンゼンスルホン酸ナトリウム、ベンゼンスルホン酸カリウム、スチレンスルホン酸カリウム、(ポリ)スチレンスルホン酸カリウム、パラトルエンスルホン酸カリウム、(分岐)ドデシルベンゼンスルホン酸カリウム、トリクロロベンゼンスルホン酸カリウム、ベンゼンスルホン酸セシウム、(ポリ)スチレンスルホン酸セシウム、パラトルエンスルホン酸セシウム、(分岐)ドデシルベンゼンスルホン酸セシウム、トリクロロベンゼンスルホン酸セシウム等の、分子中に少なくとも1種の芳香族基を有する芳香族スルホン酸のアルカリ金属塩;
【0100】
サッカリンのナトリウム塩、N−(p−トリルスルホニル)−p−トルエンスルホイミドのカリウム塩、N−(N’−ベンジルアミノカルボニル)スルファニルイミドのカリウム塩、N−(フェニルカルボキシル)−スルファニルイミドのカリウム塩等の、分子中に少なくとも1種の芳香族基を有する芳香族スルホンアミドのアルカリ金属塩;等の、芳香族スルホンアミドの金属塩等が挙げられる。
【0101】
上述した例示物の中でも、含フッ素有機スルホン酸のアルカリ金属塩、特に含フッ素脂肪族スルホン酸アルカリ金属塩、芳香族スルホン酸金属塩がより好ましく、含フッ素脂肪族スルホン酸金属塩が、特に好ましい。
また、含フッ素脂肪族スルホン酸金属塩としては分子中に少なくとも1つのC−F結合を有する含フッ素脂肪族スルホン酸アルカリ金属塩がより好ましく、パーフルオロアルカンスルホン酸のアルカリ金属塩が特に好ましく、具体的にはパーフルオロブタンスルホン酸カリウム、パーフルオロエタンスルホン酸ナトリウム塩が好ましい。
芳香族スルホン酸アルカリ金属塩としては芳香族スルホン酸のアルカリ金属塩がより好ましく、ジフェニルスルホン−3,3’−ジスルホン酸ジカリウム、ジフェニルスルホン−3−スルホン酸カリウム等のジフェニルスルホン−スルホン酸のアルカリ金属塩;パラトルエンスルホン酸ナトリウム、及びパラトルエンスルホン酸カリウム、パラトルエンスルホン酸セシウム等のパラトルエンスルホン酸のアルカリ金属塩;が特に好ましく、パラトルエンスルホン酸のアルカリ金属塩がさらに好ましい。
なお、(D)有機スルホン酸アルカリ金属塩は1種を用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0102】
有機スルホン酸アルカリ金属塩の純度は99%以上であることが好ましい。純度がこれより低いと組成物が変色したり、熱安定性が悪化する。
このような有機スルホン酸アルカリ金属塩として、具体的には、例えばDIC社製「メガファックF114P」、ランクセス社製「バイオウェットC4」、インサイト・ハイテクノロジー社製「IHT−FR21」などが例示される。
【0103】
本発明のポリカーボネート樹脂組成物における(D)有機スルホン酸アルカリ金属塩の好ましい含有量は、(A)ポリカーボネート樹脂100質量部に対して、好ましくは0.01質量部以上、より好ましくは0.02質量部以上、さらに好ましくは0.04質量部以上、特に好ましくは0.05質量部以上であり、好ましくは1質量部以下、より好ましくは0.7質量部以下、さらに好ましくは0.5質量部以下、特に好ましくは0.3質量部以下である。(D)有機スルホン酸アルカリ金属塩の含有量が少なすぎると得られるポリカーボネート樹脂組成物の難燃性が不十分となりやすく、逆に多すぎてもポリカーボネート樹脂の熱安定性の低下、並びに、成形品の外観不良及び機械的強度の低下が生じやすい。
【0104】
[(E)フッ素系樹脂]
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、滴下防止剤として、(E)フッ素系樹脂を、(A)ポリカーボネート樹脂100質量部に対して、0.01〜1質量部含有することが好ましい。このようにフッ素系樹脂を含有することで、樹脂組成物の溶融特性を改良することができ、燃焼時の滴下防止性を向上させることができる。
【0105】
(E)フッ素系樹脂の含有量は、0.01質量部より少ないと、フッ素系樹脂による難燃性向上効果が不十分になりやすく、1質量部を超えると、成形品の外観不良や機械的強度の低下が生じやすい。含有量の下限は、より好ましくは0.05質量部、さらに好ましくは0.1質量部、特に好ましくは0.2質量部であり、また、含有量の上限は、より好ましくは0.75質量部、さらに好ましくは0.6質量部、特に好ましくは0.5質量部である。
【0106】
(E)フッ素系樹脂としては、なかでもフルオロオレフィン樹脂が好ましい。フルオロオレフィン樹脂は、通常フルオロエチレン構造を含む重合体あるいは共重合体であり、具体例としては、ジフルオロエチレン樹脂、テトラフルオロエチレン樹脂、テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合樹脂等が挙げられるが、なかでもテトラフルオロエチレン樹脂が好ましい。
また、このフッ素系樹脂としては、フィブリル形成能を有するものが好ましく、具体的には、フィブリル形成能を有するフルオロオレフィン樹脂が挙げられる。このように、フィブリル形成能を有することで、燃焼時の滴下防止性が著しく向上する傾向にある。
【0107】
フィブリル形成能を有するフルオロオレフィン樹脂としては、例えば、三井・デュポンフロロケミカル社製「テフロン(登録商標)6J」、ダイキン工業社製「ポリフロン(登録商標)F201L」、「ポリフロン(登録商標)F103」、「ポリフロン(登録商標)FA500」などが挙げられる。さらに、フルオロオレフィン樹脂の水性分散液の市販品として、例えば、三井・デュポンフロロケミカル社製「テフロン(登録商標)30J」、「テフロン(登録商標)31−JR」、ダイキン工業社製「フルオン(登録商標)D−1」等が挙げられる。
【0108】
さらに、有機重合体被覆フルオロオレフィン樹脂も好適に使用することができる。有機重合体被覆フルオロオレフィン樹脂を用いることで、分散性が向上し、成形品の表面外観が向上し、表面異物を抑制できる。有機重合体被覆フルオロオレフィン樹脂は、公知の種々の方法により製造でき、例えば(1)ポリフルオロエチレン粒子水性分散液と有機系重合体粒子水性分散液とを混合して、凝固またはスプレードライにより粉体化して製造する方法、(2)ポリフルオロエチレン粒子水性分散液存在下で、有機系重合体を構成する単量体を重合した後、凝固またはスプレードライにより粉体化して製造する方法、(3)ポリフルオロエチレン粒子水性分散液と有機系重合体粒子水性分散液とを混合した分散液中で、エチレン性不飽和結合を有する単量体を乳化重合した後、凝固またはスプレードライにより粉体化して製造する方法等が挙げられる。
【0109】
フルオロオレフィン樹脂を被覆する有機系重合体としては、特に制限されるものではなく、このような有機系重合体を生成するための単量体の具体例としては、スチレン、α−メチルスチレン、p−メチルスチレン、o−メチルスチレン、tert−ブチルスチレン、o−エチルスチレン、p−クロロスチレン、o−クロロスチレン、2,4−ジクロロスチレン、p−メトキシスチレン、o−メトキシスチレン、2,4−ジメチルスチレン等の芳香族ビニル系単量体;
アクリル酸メチル、メタクリル酸メチル、アクリル酸エチル、メタクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、メタクリル酸ブチル、アクリル酸−2−エチルヘキシル、メタクリル酸−2−エチルヘキシル、アクリル酸ドデシル、メタクリル酸ドデシル、アクリル酸トリデシル、メタクリル酸トリデシル、アクリル酸オクタデシル、メタクリル酸オクタデシル、アクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸シクロヘキシル等の(メタ)アクリル酸エステル系単量体;
【0110】
アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のシアン化ビニル系単量体;
無水マレイン酸等のα,β−不飽和カルボン酸;N−フェニルマレイミド、N−メチルマレイミド、N−シクロヘキシルマレイミド等のマレイミド系単量体;
グリシジルメタクリレート等のグリシジル基含有単量体;
ビニルメチルエーテル、ビニルエチルエーテル等のビニルエーテル系単量体;酢酸ビニル、酪酸ビニル等のカルボン酸ビニル系単量体;
エチレン、プロピレン、イソブチレン等のオレフィン系単量体;
ブタジエン、イソプレン、ジメチルブタジエン等のジエン系単量体等を挙げることができる。なお、これらの単量体は、単独でまたは2種以上を混合して用いることができる。
【0111】
なかでもフルオロオレフィン樹脂を被覆する有機系重合体を生成するための単量体としては、ポリカーボネート樹脂に配合する際の分散性の観点から、ポリカーボネート樹脂との親和性が高いものが好ましく、芳香族ビニル系単量体、(メタ)アクリル酸エステル系単量体、シアン化ビニル系単量体がより好ましい。
【0112】
また、有機重合体被覆フルオロオレフィン樹脂中のフルオロオレフィン樹脂の含有比率は、通常30質量%以上、好ましくは35質量%以上、より好ましくは40質量%以上、特に好ましくは45質量%以上であり、通常95質量%以下、好ましくは90質量%以下、より好ましくは80質量%以下、特に好ましくは75質量%以下である。有機重合体被覆フルオロオレフィン樹脂中のフルオロオレフィン樹脂の含有比率を、上述の範囲とすることで、難燃性と成形品外観のバランスに優れる傾向にあるため好ましい。
【0113】
このような有機重合体被覆フルオロオレフィン樹脂としては、具体的には、三菱レイヨン社製「メタブレンA−3800」、GEスペシャルティケミカル社製「ブレンデックス449」、PIC社製「Poly TS AD001」等が挙げられる。
なお、(E)フッ素系樹脂は、1種が含有されていてもよく、2種以上が任意の組み合わせ及び比率で含有されていても良い。
【0114】
[(F)有機珪素化合物]
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、(F)有機珪素化合物を含有することも好ましく、難燃性を高めることができ、前記(D)有機スルホン酸アルカリ金属塩と共に含有してもよい。
【0115】
(F)有機珪素化合物としては、分子中に珪素(Si)原子を含有する有機珪素系のものであれば、いずれのものを用いてもよいが、比較的安価で、市場で入手しやすく、熱安定性にも優れるという点から、ポリオルガノシロキサンが好ましい。なかでも、ポリオルガノシロキサンとしては、分子中にフェニル基等の芳香族基を有するものが好ましい。このようなポリオルガノシロキサンとしては、例えば、ポリジフェニルシロキサン、ポリメチルフェニルシロキサン、フェニル基含有環状シロキサン、フェニル基含有シランモノマー等が挙げられる。
【0116】
このようなポリオルガノシロキサンの市販品としては、例えば、信越化学社製「X−40−9805」、「X−40−9243」、「X40−9244」、旭化成ワッカーシリコーン社製「SILRES SY430」、東レ・ダウコーニング社製「217FLAKE」、「SH−6018」等が挙げられる。
【0117】
さらに、ポリオルガノシロキサンは、その分子中に上述の有機基の他に、シラノール基、エポキシ基、アルコキシ基、ヒドロシリル(SiH)基、ビニル基等の官能基を含んでいても良い。これらの特殊な官能基を含有することでポリオルガノシロキサンとポリカーボネート樹脂との相溶性が向上したり、燃焼時の反応性が向上したりすることにより、難燃性が高まることがある。
【0118】
さらに、ポリオルガノシロキサンにおけるシラノール基の含有量は、通常1質量%以上、好ましくは2質量%以上、より好ましくは3質量%以上、特に好ましくは4質量%以上であり、通常10質量%以下、好ましくは9質量%以下、より好ましくは8質量%以下、特に好ましくは7.5質量%以下である。シラノール基の含有量を上述の範囲とすることで、高い難燃効果が得られる傾向にある。また、シラノール基含有量が多すぎるとポリカーボネート樹脂組成物の熱安定性や湿熱安定性が著しく低下する可能性がある。
【0119】
ポリオルガノシロキサンの平均分子量(重量平均分子量)は特に制限はなく、適宜選択して用いればよいが、通常450以上、好ましくは1,000以上、より好ましくは1,500以上、特に好ましくは1,700以上であり、通常30万以下、好ましくは10万以下、より好ましくは20,000以下、特に好ましくは15,000以下である。重量平均分子量が前記範囲の下限値未満のものは製造が困難であり、またポリオルガノシロキサンの耐熱性も極端に低下する可能性がある。また、重量平均分子量が前記範囲の上限値を超えるものは、分散性に劣るためか難燃性が低減する傾向にあり、かつポリカーボネート樹脂組成物の機械物性を低下させる傾向にある。なお、重量平均分子量は、通常GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフ)によって測定される。
【0120】
また、(F)有機珪素化合物としては、アリール基含有ポリシランも好ましい。特にアリール基含有ポリシランを前記(D)有機スルホン酸アルカリ金属塩と同時に含有することで、ポリカーボネート樹脂組成物の難燃性を著しく向上させることができる。この金属塩化合物との著しい難燃性向上の相乗効果の理由の詳細は分からないが、金属塩化合物の触媒作用により、燃焼時の温度下、ポリシランの持つSi−Si結合を、部分的に開裂させ、ポリカーボネート樹脂とポリシランの複合体を効率よく形成させることに起因していると考えられる。また、アリール基を含有することで、ポリシラン自体の耐熱性が高まり、またポリカーボネート樹脂への相溶性、分散性が向上することによって、透明性及び耐衝撃性に優れるポリカーボネート樹脂組成物が得られると考えられる。
【0121】
このようなアリール基含有ポリシランとしては、ポリメチルフェニルシラン、メチルフェニルシラン−フェニルヘキシルシラン共重合体等のポリアルキルアリールシラン;ポリジフェニルシラン等のポリジアリールシラン;ジメチルシラン−メチルフェニルシラン共重合体、ジメチルシラン−フェニルヘキシルシラン共重合体、ジメチルシラン−メチルナフチルシラン共重合体等のジアルキルシラン−アルキルアリールシラン共重合体;等の直鎖状、または分岐状、網目状、アリール基含有ポリシランや、メチルフェニルシクロシラン等の環状アルキルアリールシラン、ジフェニルシクロシラン等の環状アリールシラン;等の環状アリール基含有ポリシランが挙げられる。
【0122】
これらの(F)有機珪素化合物は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0123】
(F)有機珪素化合物を含有する場合の含有量は、(A)ポリカーボネート樹脂100質量部に対して0.01〜5質量部が好ましく、より好ましくは0.1質量部以上、さらに好ましくは0.3質量部以上、特に0.4質量部以上であり、より好ましくは3質量部以下、さらに好ましくは2質量部以下、特に0.4〜1.5質量部以下であることが好ましい。含有量が上記下限値よりも少ないと、配合したことによる難燃性の改善効果を十分に得ることができず、上記上限値よりも多いと、耐熱性が低下する恐れがある。
【0124】
[その他添加剤]
本発明のポリカーボネート樹脂組成物には、本発明の効果を損なわない範囲で、更に種々の添加剤を含有していても良い。このような添加剤としては、熱安定剤、酸化防止剤、離型剤、紫外線吸収剤、染顔料、蛍光増白剤、帯電防止剤、防曇剤、滑剤、アンチブロッキング剤、流動性改良剤、可塑剤、分散剤、抗菌剤などが挙げられる。
【0125】
・熱安定剤
熱安定剤としては、例えばリン系化合物が挙げられる。リン系化合物としては、公知の任意のものを使用できる。具体例を挙げると、リン酸、ホスホン酸、亜燐酸、ホスフィン酸、ポリリン酸などのリンのオキソ酸;酸性ピロリン酸ナトリウム、酸性ピロリン酸カリウム、酸性ピロリン酸カルシウムなどの酸性ピロリン酸金属塩;リン酸カリウム、リン酸ナトリウム、リン酸セシウム、リン酸亜鉛など第1族または第10族金属のリン酸塩;有機ホスフェート化合物、有機ホスファイト化合物、有機ホスホナイト化合物などが挙げられる。
【0126】
なかでも、トリフェニルホスファイト、トリス(モノノニルフェニル)ホスファイト、トリス(モノノニル/ジノニル・フェニル)ホスファイト、トリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイト、モノオクチルジフェニルホスファイト、ジオクチルモノフェニルホスファイト、モノデシルジフェニルホスファイト、ジデシルモノフェニルホスファイト、トリデシルホスファイト、トリラウリルホスファイト、トリステアリルホスファイト、2,2−メチレンビス(4,6−ジ−tert−ブチルフェニル)オクチルホスファイト等の有機ホスファイトが好ましい。
【0127】
熱安定剤の含有量は、(A)ポリカーボネート樹脂100質量部に対して、通常0.001質量部以上、好ましくは0.01質量部以上、より好ましくは0.03質量部以上であり、また、通常1質量部以下、好ましくは0.7質量部以下、より好ましくは0.5質量部以下である。熱安定剤が少なすぎると熱安定効果が不十分となる可能性があり、熱安定剤が多すぎると効果が頭打ちとなり経済的でなくなる可能性がある。
【0128】
・酸化防止剤
酸化防止剤としては、例えばヒンダードフェノール系酸化防止剤が挙げられる。その具体例としては、ペンタエリスリトールテトラキス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、オクタデシル−3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、チオジエチレンビス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、N,N’−ヘキサン−1,6−ジイルビス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニルプロピオナミド)、2,4−ジメチル−6−(1−メチルペンタデシル)フェノール、ジエチル[[3,5−ビス(1,1−ジメチルエチル)−4−ヒドロキシフェニル]メチル]ホスフォエート、3,3’,3”,5,5’,5”−ヘキサ−tert−ブチル−a,a’,a”−(メシチレン−2,4,6−トリイル)トリ−p−クレゾール、4,6−ビス(オクチルチオメチル)−o−クレゾール、エチレンビス(オキシエチレン)ビス[3−(5−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−m−トリル)プロピオネート]、ヘキサメチレンビス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、1,3,5−トリス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−1,3,5−トリアジン−2,4,6(1H,3H,5H)−トリオン,2,6−ジ−tert−ブチル−4−(4,6−ビス(オクチルチオ)−1,3,5−トリアジン−2−イルアミノ)フェノール等が挙げられる。
【0129】
なかでも、ペンタエリスリトールテトラキス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、オクタデシル−3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネートが好ましい。
【0130】
酸化防止剤の含有量は、(A)ポリカーボネート樹脂100質量部に対して、通常0.001質量部以上、好ましくは0.01質量部以上であり、また、通常1質量部以下、好ましくは0.5質量部以下である。酸化防止剤の含有量が前記範囲の下限値未満の場合は、酸化防止剤としての効果が不十分となる可能性があり、酸化防止剤の含有量が前記範囲の上限値を超える場合は、効果が頭打ちとなり経済的でなくなる可能性がある。
【0131】
・離型剤
離型剤としては、例えば、脂肪族カルボン酸、脂肪族カルボン酸とアルコールとのエステル、数平均分子量200〜15,000の脂肪族炭化水素化合物、ポリシロキサン系シリコーンオイルなどが挙げられる。
【0132】
脂肪族カルボン酸としては、例えば、飽和または不飽和の脂肪族一価、二価または三価カルボン酸を挙げることができる。ここで脂肪族カルボン酸とは、脂環式のカルボン酸も包含する。これらの中で好ましい脂肪族カルボン酸は炭素数6〜36の一価または二価カルボン酸であり、炭素数6〜36の脂肪族飽和一価カルボン酸がさらに好ましい。かかる脂肪族カルボン酸の具体例としては、パルミチン酸、ステアリン酸、カプロン酸、カプリン酸、ラウリン酸、アラキン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、セロチン酸、メリシン酸、テトラリアコンタン酸、モンタン酸、アジピン酸、アゼライン酸などが挙げられる。
【0133】
脂肪族カルボン酸とアルコールとのエステルにおける脂肪族カルボン酸としては、例えば、前記脂肪族カルボン酸と同じものが使用できる。一方、アルコールとしては、例えば、飽和または不飽和の一価または多価アルコールが挙げられる。これらのアルコールは、フッ素原子、アリール基などの置換基を有していてもよい。これらの中では、炭素数30以下の一価または多価の飽和アルコールが好ましく、炭素数30以下の脂肪族又は脂環式飽和一価アルコールまたは脂肪族飽和多価アルコールがさらに好ましい。
【0134】
かかるアルコールの具体例としては、オクタノール、デカノール、ドデカノール、ステアリルアルコール、ベヘニルアルコール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、グリセリン、ペンタエリスリトール、2,2−ジヒドロキシペルフルオロプロパノール、ネオペンチレングリコール、ジトリメチロールプロパン、ジペンタエリスリトール等が挙げられる。
【0135】
脂肪族カルボン酸とアルコールとのエステルの具体例としては、蜜ロウ(ミリシルパルミテートを主成分とする混合物)、ステアリン酸ステアリル、ベヘン酸ベヘニル、ベヘン酸ステアリル、グリセリンモノパルミテート、グリセリンモノステアレート、グリセリンジステアレート、グリセリントリステアレート、ペンタエリスリトールモノパルミテート、ペンタエリスリトールモノステアレート、ペンタエリスリトールジステアレート、ペンタエリスリトールトリステアレート、ペンタエリスリトールテトラステアレート等が挙げられる。脂肪族カルボン酸とアルコールとのエステルは、フルエステルであることが好ましい。
【0136】
数平均分子量200〜15,000の脂肪族炭化水素としては、例えば、流動パラフィン、パラフィンワックス、マイクロワックス、ポリエチレンワックス、フィッシャ−トロプシュワックス、炭素数3〜12のα−オレフィンオリゴマー等が挙げられる。なお、ここで脂肪族炭化水素としては、脂環式炭化水素も含まれる。
これらの中では、パラフィンワックス、ポリエチレンワックスまたはポリエチレンワックスの部分酸化物が好ましく、パラフィンワックス、ポリエチレンワックスがさらに好ましい。
また、前記の脂肪族炭化水素の数平均分子量は、好ましくは5,000以下である。
【0137】
離型剤の含有量は、(A)ポリカーボネート樹脂100質量部に対して、通常0.001質量部以上、好ましくは0.01質量部以上であり、また、通常2質量部以下、好ましくは1質量部以下である。離型剤の含有量が前記範囲の下限値未満の場合は、離型性の効果が十分でない場合があり、離型剤の含有量が前記範囲の上限値を超える場合は、耐加水分解性の低下、射出成形時の金型汚染などが生じる可能性がある。
【0138】
・紫外線吸収剤
紫外線吸収剤としては、例えば、酸化セリウム、酸化亜鉛などの無機紫外線吸収剤;ベンゾトリアゾール化合物、ベンゾフェノン化合物、サリシレート化合物、シアノアクリレート化合物、トリアジン化合物、オギザニリド化合物、マロン酸エステル化合物、ヒンダードアミン化合物などの有機紫外線吸収剤などが挙げられる。これらのうち、有機紫外線吸収剤が好ましく、中でもベンゾトリアゾール化合物がより好ましい。有機紫外線吸収剤を選択することで、本発明のポリカーボネート樹脂組成物の透明性や機械物性が良好なものになる。
【0139】
ベンゾトリアゾール化合物の具体例としては、例えば、2−(2’−ヒドロキシ−5’−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−[2’−ヒドロキシ−3’,5’−ビス(α,α−ジメチルベンジル)フェニル]−ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’,5’−ジ−tert−ブチル−フェニル)−ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’−tert−ブチル−5’−メチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’,5’−ジ−tert−ブチル−フェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール)、2−(2’−ヒドロキシ−3’,5’−ジ−tert−アミル)−ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−5’−tert−オクチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2,2’−メチレンビス[4−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)−6−(2N−ベンゾトリアゾール−2−イル)フェノール]等が挙げられ、なかでも2−(2’−ヒドロキシ−5’−tert−オクチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2,2’−メチレンビス[4−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)−6−(2N−ベンゾトリアゾール−2−イル)フェノール]が好ましく、特に2−(2’−ヒドロキシ−5’−tert−オクチルフェニル)ベンゾトリアゾールが好ましい。
【0140】
このようなベンゾトリアゾール化合物としては、具体的には例えば、シプロ化成社製「シーソーブ701」、「シーソーブ702」、「シーソーブ703」、「シーソーブ704」、「シーソーブ705」、「シーソーブ709」、共同薬品社製「バイオソーブ520」、「バイオソーブ580」、「バイオソーブ582」、「バイオソーブ583」、ケミプロ化成社製「ケミソーブ71」、「ケミソーブ72」、サイテックインダストリーズ社製「サイアソーブUV5411」、ADEKA社製「LA−32」、「LA−38」、「LA−36」、「LA−34」、「LA−31」、BASF社製「チヌビンP」、「チヌビン234」、「チヌビン326」、「チヌビン327」、「チヌビン328」等が挙げられる。
【0141】
紫外線吸収剤の含有量は、(A)ポリカーボネート樹脂100質量部に対して、好ましくは0.05質量部以上、より好ましくは0.1質量部以上であり、また、その上限は好ましくは1質量部以下、より好ましくは0.5質量部以下である。紫外線吸収剤の含有量が前記範囲の下限値未満の場合は、耐候性の改良効果が不十分となる可能性があり、紫外線吸収剤の含有量が前記範囲の上限値を超える場合は、モールドデボジット等が生じ、金型汚染を引き起こす可能性がある。なお、紫外線吸収剤は、1種が含有されていてもよく、2種以上が任意の組み合わせ及び比率で含有されていても良い。
【0142】
[ポリカーボネート樹脂組成物の製造方法]
ポリカーボネート樹脂組成物の製造方法に制限はなく、公知のポリカーボネート樹脂組成物の製造方法を広く採用でき、(A)ポリカーボネート樹脂、(B)光拡散性微粒子、、並びに、必要に応じて配合されるその他の成分を、例えばタンブラーやヘンシェルミキサーなどの各種混合機を用い予め混合した後、バンバリーミキサー、ロール、ブラベンダー、単軸混練押出機、二軸混練押出機、ニーダーなどの混合機で溶融混練する方法が挙げられる。なお、溶融混練の温度は特に制限されないが、通常240〜320℃の範囲である。
【0143】
[成形品]
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、LED照明部材用として好適に成形される。
特に、本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、白色LED照明の光拡散カバー等の光拡散性部材として好適であり、白色LED電球用カバーや白色LED直管型照明用カバーとして特に好適に使用できる。
【0144】
LED照明部材の形状や製造方法には制限はなく、上記したポリカーボネート樹脂組成物をペレタイズしたペレットを各種の成形法で成形して成形品を製造することができる。またペレットを経由せずに、押出機で溶融混練された樹脂を直接、成形して成形品にすることもできる。成形方法は、好ましくは、射出成形法、押出成形法、中空成形法、射出圧縮成形法、トランスファー成形法などの成形法が挙げられる。中でも、射出成形法が特に好ましい。
【実施例】
【0145】
以下、実施例を示して本発明について更に具体的に説明する。ただし、本発明は以下の実施例に限定して解釈されるものではない。
【0146】
(実施例1〜20)
下記表1に記した各成分を、後記表3以下に記載の量(全て質量部)で、タンブラーにて20分混合した後、1ベントを備えた日本製鋼所社製二軸押出機(TEX30XCT)に供給し、スクリュー回転数200rpm、吐出量20kg/時間、バレル温度290℃の条件で混練し、ストランド状に押出された溶融樹脂組成物を水槽にて急冷し、ペレタイザーを用いてペレット化し、ポリカーボネート樹脂組成物のペレットを得た。
【0147】
【表1】
【0148】
なお、上記表1において、(C)青色光カット染料の波長450nmにおける光線透過率50%を達成する添加量の測定は、ポリカーボネート樹脂として、三菱エンジニアリングプラスチックス株式会社製ポリカーボネート樹脂「ユーピロン(登録商標)S−3000」(粘度平均分子量Mv:21,000)を使用し、田辺プラスチックス機械社製40mm単軸押出機で、温度280℃吐出量20kg/hで混練して樹脂ペレットを得、得られたペレットを120℃で5時間乾燥させた後、日本製鋼所社製のJ55AD型射出成形機を用いて、シリンダ温度280℃、金型温度80℃で射出成形し、3段プレート(厚さ3mm−2mm−1mmの3段厚み)の成形品を製造した。
光線透過率の測定は、JIS K7105に準じ、上記3段プレートの1mm厚部分を島津製作所社製分光光度計UV−3100PCを用いて、JIS K0115に準拠して、波長450nmでの光線透過率(単位:%)を測定した。
【0149】
前記で得られたポリカーボネート樹脂組成物ペレットを使用して、以下の測定及び評価を行った。
[全光線透過率(単位:%)]
前記で得られたポリカーボネート樹脂組成物ペレットを、日本製鋼所社製射出成形機J55ADを用い、シリンダ温度280℃、金型温度80℃の条件下で射出成形を行い、3段プレート(厚さ3mm−2mm−1mmの3段厚み)の成形品を試験片とし、上記3段プレートの1mm厚部分をJIS K7105に準じ、日本電色工業社製、NDH−2000型ヘイズメーターで測定した。
【0150】
[光拡散分散度(単位:°)]
上記で得られた3段プレート試験片を使用し、MURAKAMI COLOR RESEARCH LABORATORY社製のGP−5 GONIOPHOTOMETERを用い、入射光:0°、煽り角:0°、受光範囲:0°〜90°、光束絞り:2.0、受光絞り:3.0の条件で3段プレートの1mm厚部分の輝度を測定し、0°の輝度に対して、輝度が半減する角度を分散度(°)として求めた。
分散度が高いほど、光拡散性が高く、照明カバーにした場合に、光源の光をより拡散し、より広範囲において照度を保て、かつ光源の視認性が低下する効果もあるため好ましい。
【0151】
[全光束保持率(単位:%)]
全光束保持率はCIE127:2007に準拠して評価した。
具体的には、前記により得られた樹脂組成物ペレットを、設定温度280℃、金型温度80℃の条件下で射出成形を行い、半径25.5mmの半球状で厚み1mmの半球状成形品を得た。
市販のLED電球(PANASONIC社製「EVERLEDS LDA7−G」)の照明カバーを取り外し、上記半球状成形品を取り付け、LED電球に半球状成形品を取り付けた状態での全光束(TLFw)および半球状成形品なしの全光束(TLFw/o)を、Labsphere社製全光束分光測定システムCSLMS−2021型(積分球20インチ、分光器CDS−2100)により、測定した。
全光束保持率(単位:%)は、[TLFw/TLFw/o]*100% と定義される。全光束保持率が高いほど、照明カバーによる光束ロスが少なく、明るい照明であることを示す。
【0152】
[青色網膜傷害放射強度指数LI
B]
上記全光束保持率の測定の際に求めた、積分球による光束測定装置の測定で得られた波長毎(5nm毎)の分光放射強度を用いて、JIS C7550(2011)に準拠する前述した式(3)に従って、青色網膜傷害放射強度指数LI
Bを求めた。
青色網膜傷害放射強度指数が大きいほど青色光が多く、網膜傷害のリスクが高くなる。
【0153】
[露光許容時間指数T
B]
上記で得られた青色網膜傷害放射強度指数LI
Bを、前述した式(4)により露光許容時間指数T
Bを求めた。
露光許容時間指数T
Bが大きいほど、照明に長時間さらされても網膜傷害になりにくいことを示す。
【0154】
[露光許容時間指数倍率]
露光許容時間T
Bを青色光カット染料のみ配合しなかった組成物の露光許容時間T
B0で除した、T
B/T
B0を露光許容時間指数倍率として求めた。
露光許容時間指数倍率が大きいほど、青色光カット染料含有による露光許容時間の延長度合いが大で、より安全であることを示す。
【0155】
[難燃性評価(UL)]
前記により得られた樹脂組成物ペレットを、日本製鋼所社製射出成形機J55ADを用い、シリンダ温度280℃、金型温度80℃の条件下で射出成形を行い、長さ127mm、幅12.7mm、肉厚1.0mm、1.2mm、1.5mmのUL試験用試験片をそれぞれ得た。
得られたUL試験用試験片を、温度23℃、湿度50%の恒温室の中で48時間調湿し、米国アンダーライターズ・ラボラトリーズ(UL)が定めているUL94試験(機器の部品用プラスチック材料の燃焼試験)に準拠して行なった。UL94Vとは、鉛直に保持した所定の大きさの試験片にバーナーの炎を10秒間接炎した後の残炎時間やドリップ性から難燃性を評価する方法であり、V−0、V−1及びV−2の難燃性を有するためには、以下の表2に示す基準を満たすことが必要となる。
【0156】
【表2】
【0157】
ここで残炎時間とは、着火源を遠ざけた後の、試験片の有炎燃焼を続ける時間の長さである。また、ドリップによる綿着火とは、試験片の下端から約300mm下にある標識用の綿が、試験片からの滴下(ドリップ)物によって着火されるかどうかによって決定される。さらに、5試料のうち、1つでも上記基準を満たさないものがある場合、V−2を満足しないとしてNR(not rated)と評価した。なお、表中、「燃焼性」と表記する。
【0158】
(比較例1〜4)
下記表3以下に記載した成分を用いた以外は実施例1と同様にして、ポリカーボネート樹脂組成物のペレットを得た。
実施例1と同様にして、各種の評価を行った。
以上の結果を、以下の表3〜表6に示す。
【0159】
【表3】
【0160】
【表4】
【0161】
【表5】
【0162】
【表6】
【0163】
(実施例21)
LED直管型照明カバーの製作と評価:
実施例17で得られた樹脂組成物のペレットを用い、下記の異形押出成形機及び条件にて、外径30mm、肉厚1mmのパイプ状押出成形品を作成した。異形押出成形に問題なく良好な外観のパイプ状成形品が得られた。
押出機:40mm単軸押出機
バレル温度:280℃、スクリュー回転数:15rpm、吐出量:5kg/h
単層中空ダイス:外径45mm、内径42.5mm
水冷式真空サイジング装置:サイジングダイス長さ160mm、冷却水温度25℃
ベルト式引き取り装置:引き取り速度0.8m/min
【0164】
次にこのパイプ状成形品を照明カバーとして用いて、LED直管型照明灯を作製した。
図1において、1はLEDを実装した長尺状基板、2はLED、3は口金、4は端子、5はパイプ状成形品からなる照明カバーである。
この直管型照明灯を、LED直管用照明器具に取り付けて点灯したところ、青色光による眩しさが低減され、当該照明の下で長時間作業しても、目の疲れは少なく良好であった。