【解決手段】23℃n−デカンに可溶な部分(Dsol)5〜80重量%と23℃n−デカンに不溶な部分(Dinsol)20〜95重量%とから構成され、要件[1]〜[6]を同時に満たすプロピレン系ブロック共重合体;[1]Dsolのプロピレン含量が、30〜80mol%;[2]Dsolの極限粘度[η](dl/g)が1.5以上10.0以下;[3]DinsolのMw/Mnが7〜15、Mz/Mwが4〜10;[4]DinsolのGPC測定によって得られる微分分子量分布曲線におけるLogMが2〜4の範囲にピークを有する;[5]Dinsolのペンタド分率(mmmm)が93%以上;[6]プロピレン系ブロック共重合体のMFRが25〜350g/10min。
23℃n−デカンに可溶な部分(Dsol)5〜80重量%と23℃n−デカンに不溶な部分(Dinsol)20〜95重量%とから構成され(ただし、DsolとDinsolの合計量は100重量%である)、
以下の要件[1]〜[6]を同時に満たすことを特徴とするプロピレン系ブロック共重合体。
[1]Dsolのプロピレン含量が30〜80mol%
[2]Dsolの極限粘度[η](dl/g)が1.5以上10.0以下
[3]Dinsolの重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)の比であるMw/Mnが7〜15、z平均分子量(Mz)と重量平均分子量(Mw)の比であるMz/Mwが4〜10
[4]DinsolのGPC測定によって得られる微分分子量分布曲線におけるLogMが2〜4の範囲にピークを有する
[5]Dinsolのペンタド分率(mmmm)が93%以上
[6]プロピレン系ブロック共重合体のASTM D1238Eに準拠して荷重2.16kg、温度230℃で測定したメルトフローレート(MFR)が25〜350g/10min
23℃n−デカンに可溶な部分(Dsol)は、プロピレンと、エチレンおよび炭素原子数4〜20のα−オレフィンから選ばれる一種以上のオレフィンとからなる共重合体ゴムを50重量%より大きく100重量%以下で含み、
23℃n−デカンに不溶な部分(Dinsol)は、プロピレン98.5〜100mol%と、エチレンおよび炭素原子数4〜20のα−オレフィンから選ばれる一種以上のオレフィン0〜1.5mol%とからなる結晶性プロピレン系(共)重合体を50重量%より大きく100重量%以下で含むことを特徴とする請求項1に記載のプロピレン系ブロック共重合体。
前記共重合体ゴムが、プロピレンと、エチレンおよび炭素原子数4〜20のα−オレフィンから選ばれる一種以上のオレフィンとを1段階で重合することにより製造されることを特徴とする請求項2に記載のプロピレン系ブロック共重合体。
前記式(1)および/または(2)において、前記環状骨格中の炭素原子間結合のすべてが単結合であることを特徴とする請求項4に記載のプロピレン系ブロック共重合体。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明のプロピレン系ブロック共重合体について具体的に説明する。
【0030】
[プロピレン系ブロック共重合体]
本発明のプロピレン系ブロック共重合体は、23℃n−デカンに可溶な部分(Dsol)5〜80重量%、好ましくは10〜50重量%、さらに好ましくは10〜30重量%と23℃n−デカンに不溶な部分(Dinsol)20〜95重量%、好ましくは50〜90重量%、さらに好ましくは70〜90重量%から構成される[ただし、DsolとDinsolの合計量は100重量%である]。
【0031】
23℃n−デカンに可溶な部分(Dsol)は、プロピレンと、エチレンおよび炭素原子数4〜20のα−オレフィンから選ばれる一種以上のオレフィンとからなるプロピレン系共重合体ゴムを主成分(50重量%より大きく100重量%以下、好ましくは80〜100重量%、より好ましくは90〜100重量%)とする。該プロピレン系共重合体ゴムに含まれるエチレンおよび炭素原子数4〜20のα−オレフィンから選ばれる一種以上のオレフィンは、後述する結晶性プロピレン系(共)重合体に含まれる当該オレフィンよりも高含有量である。
【0032】
23℃n−デカンに不溶な部分(Dinsol)は、結晶性プロピレン系(共)重合体を主成分(50重量%より大きく100重量%以下、好ましくは80〜100重量%、より好ましくは90〜100重量%)とする。該結晶性プロピレン系(共)重合体は、結晶性プロピレン単独重合体、もしくは、プロピレンと、エチレンおよび炭素原子数4〜20のα−オレフィンから選ばれる一種以上のオレフィンを1.5mol%以下含有する結晶性プロピレン系共重合体を示す。
【0033】
本発明に係るプロピレン系ブロック共重合体は、後述する要件[1]〜[6]を同時に満たすことを特徴とする。なお、本発明において、「23℃n−デカンに可溶な部分(Dsol)」とは後記する実施例において詳述するように、プロピレン系ブロック共重合体のうち、n−デカン中150℃で2時間加熱溶解後に23℃まで降温後にn−デカン溶液側に溶解している部分を示す。また、以下の説明においては、「23℃n−デカンに可溶な部分」を「n−デカン可溶部」、「23℃n−デカンに不溶な部分」を「n−デカン不溶部」と略称する場合がある。
【0034】
本発明のプロピレン系ブロック共重合体はプロピレンに起因する骨格を必須骨格として、エチレンおよび炭素原子数4〜20のα−オレフィンから選ばれる一種以上のオレフィンに起因する骨格から構成される。炭素原子数4〜20のα−オレフィンとしては、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、4−メチル−1−ペンテン、1−オクテン、1−デセン、1−ドデセン、1−テトラデセン、1−ヘキサデセン、1−オクタデセン、1−エイコセンなどが挙げられる。共重合体中のエチレンおよび炭素原子数4〜20のα−オレフィンから選ばれる一種以上のオレフィンに起因する骨格を構成するオレフィンとしては、エチレンまたは炭素原子数4〜10のα−オレフィンが好ましく、さらに好ましくは、エチレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、4−メチル−1−ペンテン、1−オクテン、1−デセンであり、1種以上用いることがより好ましい。
【0035】
本発明に係るプロピレン系ブロック共重合体が満たすべき要件[1]〜[6]は以下の通りである。
【0036】
[1]Dsolのプロピレン含量が30〜80mol%
[2]Dsolの極限粘度[η](dl/g)が1.5以上10.0以下
[3]Dinsolの重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)の比であるMw/Mnが7〜15、z平均分子量(Mz)と重量平均分子量(Mw)の比であるMz/Mwが4〜10
[4]DinsolのGPC測定によって得られる微分分子量分布曲線におけるLogMが2〜4の範囲にピークを有する
[5]Dinsolのペンタド分率(mmmm)が93%以上
[6]DinsolのASTM D1238Eに準拠して荷重2.16kg、温度230℃で測定したメルトフローレート(MFR)が25〜350g/10min
以下、本発明のプロピレン系ブロック共重合体が備える要件[1]〜[6]について詳説する。
【0037】
○要件[1]
本発明に係るプロピレン系ブロック共重合体のデカン可溶部(Dsol)は、当該成分中に含有する重合体中のプロピレンにかかるモノマーユニットの含量が30〜80mol%であり、好ましくは35〜75mol%であり、より好ましくは40〜70mol%である。
【0038】
本発明のプロピレン系ブロック共重合体は、デカン可溶部(Dsol)中に含有する重合体中のプロピレンにかかるモノマーユニットの含量が上記範囲内にあることにより、デカン可溶部(Dsol)中の重合体はエラストマーとしての性質を有することになる。これによって、本発明のプロピレン系ブロック共重合体は耐衝撃性を高くすることができるため、耐衝撃性と高溶融弾性の両立化を図る上で有利である。プロピレン系ブロック共重合体の溶融弾性が高いと、射出成形品の外観が良好になったり、ブロー成形性、発泡成形性が良好になるなど、成形加工性の付与が可能である。
【0039】
なお、本要件[1]にかかるプロピレン含量は、プロピレンと、エチレンおよび炭素原子数4〜20のα−オレフィンから選ばれる一種以上のオレフィンを共重合する際のプロピレンの重合器内への供給量を調整することにより、調整することができる。
【0040】
○要件[2]
本発明のプロピレン系ブロック共重合体のデカン可溶部(Dsol)の極限粘度[η](dl/g)は、通常1.5〜10.0、耐衝撃性、高流動性、高溶融弾性のバランスを最適化させる観点で、好ましくは2.0〜7.0、さらに好ましくは2.5〜4.0の範囲である。極限粘度[η](dl/g)が、1.5dl/gよりも低下すると、プロピレン系ブロック共重合体の耐衝撃性が、低下するおそれがあるため、好ましくない。また、極限粘度[η](dl/g)が10dl/gよりも高いと、流動性の低下や、フィッシュアイが発生しやすくなるため、大型射出成形品やフィルムへの適用が難しくなる場合がある。
【0041】
なお、デカン可溶部(Dsol)の極限粘度[η](dl/g)が高いプロピレン系共重合体ゴムを後添加することで、耐衝撃性、高流動性、高溶融弾性等の効果を発現させることができることは当業者間では常識とされている。しかしこの場合、フィッシュアイの発生がしやすいという問題があり、成形品外観の悪化の観点で、工業化することが困難である。一方、本発明のようにデカン可溶部(Dsol)を連続して重合することにより得られるプロピレン系ブロック共重合体は、共重合体ゴムが共重合体全体に微分散するため、上記のような不具合は発生せず、耐衝撃性、高流動性、高溶融弾性等の効果に加えて、フィッシュアイの発生が抑えられた成形品を得ることができる。
【0042】
○要件[3]
本発明に係るプロピレン系ブロック共重合体のデカン不溶部(Dinsol)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)による測定値から求められる、重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)の比であるMw/Mn値が7〜15であり、高剛性化と耐衝撃性の保持の観点で、好ましくは7〜12であり、より好ましくは7〜10である。
【0043】
また、本発明に係るプロピレン系ブロック共重合体のデカン不溶部(Dinsol)は、GPCによる測定値から求められる、z平均分子量(Mz)と重量平均分子量(Mw)の比であるMz/Mw値が4〜10であり、好ましくは5〜10であり、より好ましくは6〜10である。
【0044】
本発明に係るプロピレン系ブロック共重合体のデカン不溶部(Dinsol)は、Mw/Mn値が高いことから、充分に広い分子量分布を示し、成形性に優れるとともに剛性に優れる。また、本発明に係るプロピレン系ブロック共重合体は、上述のように高いMz/Mw値を示すため、高分子量の成分を多く含んでおり、溶融張力(MT)が高く成形性に優れる。さらに、当該要件を満たすプロピレン系ブロック共重合体は、フローマークが改善され、かつ耐衝撃性が良好である。
【0045】
上記のような本発明に係るプロピレン系ブロック共重合体のデカン不溶部(Dinsol)は、多段階の重合や、複数種のポリプロピレンの混合によっても製造することもできるが、1段階の重合により得ることが好ましい。本発明に係るプロピレン系ブロック共重合体のデカン不溶部(Dinsol)が、1段階の重合により得られる場合には、重合体製造装置をよりシンプルにすることができ、経済的である上、プロピレン系ブロック共重合体中の高分子量成分が、凝集せずにより微分散した状態となるため好ましい。
【0046】
本発明のプロピレン系ブロック共重合体のデカン不溶部(Dinsol)は、Mw/Mn値が高く、且つMz/Mw値と、好ましくは後述するMz/Mn値とが高い高分子量成分を多く含んだものであるため、成形時にはプロピレン系ブロック共重合体中の高分子量成分が核剤として作用し、充填剤粉末や樹脂粉末などの核剤を添加しなくても、結晶化度の高い成形体が得られることがある。特に当該高分子量体が微分散していると核剤などの作用が高まる傾向があるので好ましい。
【0047】
なお、本要件[3]は、後述するオレフィン重合用触媒の存在下、プロピレン98.5〜100mol%と、エチレンおよび炭素原子数4〜20のα−オレフィンから選ばれる一種以上のオレフィン0〜1.5mol%を(共)重合することにより得ることができる。
【0048】
○要件[4]
本発明に係るプロピレン系ブロック共重合体のデカン不溶部(Dinsol)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)による測定によって得られる微分分子量分布曲線におけるLogMが2〜4の範囲にピークを有する。
【0049】
ここで、前記ピークとは、X軸を分子量Mの対数表示(LogM(範囲:1〜8))、Y軸を微分分子量分布(dw/d(LogM)(範囲:0〜1))とし、グラフのX軸とY軸の長さ比を5:3になるように微分分子量分布曲線を作成する。ここで、LogMの2〜4の範囲のピークとは、LogMにおいて2〜4の範囲で、グラフのX軸に平行の部位、あるいはX軸ベクトルに対して第一象限に30°の範囲内、かつ第四象限に45°の範囲内に線部を有するピークとして定義される。
【0050】
本発明に係るプロピレン系ブロック共重合体のデカン不溶部(Dinsol)中に前記ピークに相当する重合体が存在すると、射出成形部品におけるフローマークが改善される傾向にある。
【0051】
なお、本要件[4]は、後述するオレフィン重合用触媒、特に有機ケイ素化合物(III)を併用する触媒の存在下、プロピレン98.5〜100mol%と、エチレンおよび炭素原子数4〜20のα−オレフィンから選ばれる一種以上のオレフィン0〜1.5mol%を(共)重合することにより得ることができる。
【0052】
○要件[5]
本発明のプロピレン系ブロック共重合体のデカン不溶部(Dinsol)のペンタド分率(mmmm)は93%以上、好ましくは94%以上、さらに好ましくは95%以上である。ペンタド分率の上限は100%、好ましくは99.8%、さらに好ましくは99.5%である。ペンタド分率(mmmm)が93%未満であると剛性が低下したり、フィルム等の製品分野で耐熱性が要求特性を担保しきれない分野があるので好ましくない。
【0053】
例えば、三塩化チタン触媒で重合されたプロピレン系重合体は、例えば特開昭47−34478号公報に記載あるように、広分子量分布化による効果はあるが、デカン不溶部のペンタド分率は91〜92%程度と極めて低いため、自動車材などの高剛性を必要とする射出成型用途などでは使用ができない。
【0054】
なお、本要件[5]が満たされるのは、後述するオレフィン重合用触媒中に電子供与体として環状エステル化合物(a)と環状エステル化合物(b)が含まれることに起因する。
【0055】
○要件[6]
本発明のプロピレン系ブロック共重合体のASTM D1238Eに準拠して荷重2.16kg、温度230℃で測定したメルトフローレート(MFR)は、通常25〜350g/10min、好ましくは30〜350g/10min、さらに好ましくは40〜300g/10minである。MFRが前記下限値を下回ると射出成形時の流動性が低下し、大型射出成形部品への適用が難しくなることがある。また、MFRが前記上限値よりも高いと、プロピレン系ブロック共重合体の靭性が低下する場合がある。
【0056】
上記の要件[1]〜[6]を同時に満たすことを特徴とするプロピレン系ブロック共重合体は、以下のオレフィン重合用触媒を用いて製造されることが好ましい。
【0057】
[オレフィン重合用触媒]
本発明に係るプロピレン系ブロック共重合体は、固体状チタン触媒成分(I)と、周期
表の第1族、第2族および第13族から選ばれる金属原子を含む有機金属化合物(II)と、特定の有機ケイ素化合物(III)とを含むオレフィン重合用触媒の存在下で、予備重合触媒[A]を調整後、前記予備重合触媒[A]、前記有機金属化合物(II)および前記有機ケイ素化合物(III)の存在下で、プロピレンと、エチレンおよび炭素原子数4〜20のα−オレフィンから選ばれる一種以上のオレフィンとを重合して得られたものであることが好ましい。以下、オレフィン重合用触媒に係る各成分について詳細に説明する。
【0058】
[固体状チタン触媒成分(I)]
本発明に係る固体状チタン触媒成分(I)は、チタン、マグネシウム、ハロゲン、下記
式(1)で特定される環状エステル化合物(a)および下記式(2)で特定される環状エステル化合物(b)を含む。
【0059】
<環状エステル化合物(a)>
環状エステル化合物(a)は、複数のカルボン酸エステル基を有し、下記式(1)で表される。
【0060】
【化5】
式(1)において、nは、5〜10の整数、好ましくは5〜7の整数であり、特に好ましくは6である。またC
aおよびC
bは、炭素原子を表わす。
【0061】
R
2およびR
3はそれぞれ独立にCOOR
1またはRであり、R
2およびR
3のうちの少なくとも1つはCOOR
1である。
【0062】
環状骨格中の炭素原子間結合は、すべてが単結合であることが好ましいが、環状骨格中の、C
a−C
a結合およびR
3がRである場合のC
a−C
b結合以外の、いずれかの単結合は、二重結合に置き換えられていてもよい。すなわち、環状骨格中の、C−C
b結合、R
3がCOOR
1である場合のC
a−C
b結合、およびC−C結合(nが6〜10の場合)は、二重結合に置き換えられていてもよい。
【0063】
複数個あるR
1は、それぞれ独立に、炭素原子数が1〜20、好ましくは1〜10、より好ましくは2〜8、さらに好ましくは4〜8、特に好ましくは4〜6の1価の炭化水素基である。この炭化水素基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、ヘキシル基、へプチル基、オクチル基、2−エチルヘキシル基、デシル基、ドデシル基、テトラデシル基、ヘキサデシル基、オクタデシル基、エイコシル基などが挙げられ、中でもn−ブチル基、イソブチル基、ヘキシル基、オクチル基が好ましく、さらにはn−ブチル基、イソブチル基が、分子量分布の広いプロピレン系ブロック共重合体を製造できることから特に好ましい。
【0064】
複数個あるRは、それぞれ独立に、水素原子、炭素原子数1〜20の炭化水素基、ハロゲン原子、窒素含有基、酸素含有基、リン含有基、ハロゲン含有基およびケイ素含有基から選ばれる原子または基であるが、少なくとも1つのRは水素原子ではない。
【0065】
水素原子以外のRとしては、これらの中でも炭素原子数1〜20の炭化水素基が好ましく、この炭素原子数1〜20の炭化水素基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、iso−プロピル基、n−ブチル基、iso−ブチル基、sec−ブチル基、n−ペンチル基、シクロペンチル基、n−ヘキシル基、シクロヘキシル基、ビニル基、フェニル基、オクチル基などの脂肪族炭化水素基、脂環族炭化水素基、芳香族炭化水素基が挙げられる。中でも脂肪族炭化水素基が好ましく、具体的にはメチル基、エチル基、n−プロピル基、iso−プロピル基、n−ブチル基、iso−ブチル基、sec−ブチル基が好ましい。
【0066】
またRは、互いに結合して環を形成していてもよく、Rが互いに結合して形成される環の骨格中には、二重結合が含まれていてもよく、該環の骨格中に、COOR
1が結合したC
aを2つ以上含む場合は、該環の骨格をなす炭素原子の数は5〜10である。
【0067】
このような環の骨格としては、ノルボルナン骨格、テトラシクロドデセン骨格などが挙げられる。
【0068】
また複数個あるRは、カルボン酸エステル基、アルコキシ基、シロキシ基、アルデヒド基やアセチル基などのカルボニル構造含有基であってもよく、これらの置換基には、炭素原子数1〜20の炭化水素基1個以上を含んでいることが好ましい。
【0069】
このような環状エステル化合物(a)としては、国際公開2006/077945号パンフレットに記載がある。具体的には、
3−メチルシクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸ジエチル、
3−メチルシクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸ジn−プロピル、
3−メチルシクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸ジイソプロピル、
3−メチルシクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸ジn−ブチル、
3−メチルシクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸ジイソブチル、
3−メチルシクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸ジヘキシル、
3−メチルシクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸ジへプチル、
3−メチルシクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸ジオクチル、
3−メチルシクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸ジ2−エチルヘキシル、
3−メチルシクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸ジデシル、
4−メチルシクロヘキサン−1,3−ジカルボン酸ジエチル、
4−メチルシクロヘキサン−1,3−ジカルボン酸ジイソブチル、
4−メチルシクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸ジエチル、
4−メチルシクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸ジn−プロピル、
4−メチルシクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸ジイソプロピル、
4−メチルシクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸ジn−ブチル、
4−メチルシクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸ジイソブチル、
4−メチルシクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸ジヘキシル、
4−メチルシクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸ジへプチル、
4−メチルシクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸ジオクチル、
4−メチルシクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸ジ2−エチルヘキシル
4−メチルシクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸ジデシル、
5−メチルシクロヘキサン−1,3−ジカルボン酸ジエチル、
5−メチルシクロヘキサン−1,3−ジカルボン酸ジイソブチル、
3,4−ジメチルシクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸ジエチル、
3,4−ジメチルシクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸ジn−プロピル、
3,4−ジメチルシクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸ジイソプロピル、
3,4−ジメチルシクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸ジn−ブチル、
3,4−ジメチルシクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸ジイソブチル、
3,4−ジメチルシクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸ジヘキシル、
3,4−ジメチルシクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸ジへプチル、
3,4−ジメチルシクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸ジオクチル、
3,4−ジメチルシクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸ジ2−エチルヘキシル
3,4−ジメチルシクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸ジデシル、
3,6−ジメチルシクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸ジエチル、
3,6−ジメチルシクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸ジn−プロピル、
3,6−ジメチルシクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸ジイソプロピル、
3,6−ジメチルシクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸ジn−ブチル、
3,6−ジメチルシクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸ジイソブチル、
3,6−ジメチルシクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸ジヘキシル、
3,6−ジメチルシクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸ジへプチル、
3,6−ジメチルシクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸ジオクチル、
3,6−ジメチルシクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸ジ2−エチルヘキシル、
3,6−ジメチルシクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸ジデシル、
3,6−ジフェニルシクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸ジエチル、
3,6−ジフェニルシクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸ジn−プロピル、
3,6−ジフェニルシクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸ジイソプロピル、
3,6−ジフェニルシクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸ジn−ブチル、
3,6−ジフェニルシクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸ジイソブチル、
3,6−ジフェニルシクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸ジヘキシル、
3,6−ジフェニルシクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸ジオクチル、
3,6−ジフェニルシクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸ジデシル、
3−メチル−6−エチルシクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸ジエチル、
3−メチル−6−エチルシクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸ジn−プロピル、
3−メチル−6−エチルシクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸ジイソプロピル、
3−メチル−6−エチルシクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸ジn−ブチル、
3−メチル−6−エチルシクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸ジイソブチル、
3−メチル−6−エチルシクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸ジヘキシル、
3−メチル−6−エチルシクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸ジへプチル、
3−メチル−6−エチルシクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸ジオクチル、
3−メチル−6−エチルシクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸ジ2−エチルヘキシル、
3−メチル−6−エチルシクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸ジデシル、
3−メチル−6−エチルシクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸ジエチル、
3−メチル−6−エチルシクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸ジn−プロピル、
3−メチル−6−エチルシクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸ジイソプロピル、
3−メチル−6−エチルシクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸ジn−ブチル、
3−メチル−6−エチルシクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸ジイソブチル、
3−メチル−6−エチルシクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸ジヘキシル、
3−メチル−6−エチルシクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸ジへプチル、
3−メチル−6−エチルシクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸ジオクチル、
3−メチル−6−エチルシクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸ジ2−エチルヘキシル、
3−メチル−6−エチルシクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸ジデシル、
3−メチル−6−n−プロピルシクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸ジエチル、
3−メチル−6−n−プロピルシクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸ジn−プロピル、
3−メチル−6−n−プロピルシクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸ジイソプロピル、
3−メチル−6−n−プロピルシクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸ジn−ブチル、
3−メチル−6−n−プロピルシクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸ジイソブチル、
3−メチル−6−n−プロピルシクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸ジヘキシル、
3−メチル−6−n−プロピルシクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸ジへプチル、
3−メチル−6−n−プロピルシクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸ジオクチル、
3−メチル−6−n−プロピルシクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸ジ2−エチルヘキシル、
3−メチル−6−n−プロピルシクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸ジデシル、
3−ヘキシルシクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸ジエチル、
3−ヘキシルシクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸ジイソブチル、
3,6−ジヘキシルシクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸ジエチル、
3−ヘキシル−6−ペンチルシクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸ジイソブチル、
3−メチルシクロペンタン−1,2−ジカルボン酸ジエチル、
3−メチルシクロペンタン−1,2−ジカルボン酸ジイソブチル、
3−メチルシクロペンタン−1,2−ジカルボン酸ジへプチル、
3−メチルシクロペンタン−1,2−ジカルボン酸ジデシル、
4−メチルシクロペンタン−1,3−ジカルボン酸ジエチル、
4−メチルシクロペンタン−1,3−ジカルボン酸ジイソブチル、
4−メチルシクロペンタン−1,2−ジカルボン酸ジエチル、
4−メチルシクロペンタン−1,2−ジカルボン酸ジイソブチル、
4−メチルシクロペンタン−1,2−ジカルボン酸ジへプチル、
4−メチルシクロペンタン−1,2−ジカルボン酸ジデシル、
5−メチルシクロペンタン−1,3−ジカルボン酸ジエチル、
5−メチルシクロペンタン−1,3−ジカルボン酸ジイソブチル、
3,4−ジメチルシクロペンタン−1,2−ジカルボン酸ジエチル、
3,4−ジメチルシクロペンタン−1,2−ジカルボン酸ジイソブチル、
3,4−ジメチルシクロペンタン−1,2−ジカルボン酸ジへプチル、
3,4−ジメチルシクロペンタン−1,2−ジカルボン酸ジデシル、
3,5−ジメチルシクロペンタン−1,2−ジカルボン酸ジエチル、
3,5−ジメチルシクロペンタン−1,2−ジカルボン酸ジイソブチル、
3,5−ジメチルシクロペンタン−1,2−ジカルボン酸ジへプチル、
3,5−ジメチルシクロペンタン−1,2−ジカルボン酸ジデシル、
3−ヘキシルシクロペンタン−1,2−ジカルボン酸ジエチル、
3,5−ジヘキシルシクロペンタン−1,2−ジカルボン酸ジエチル、
3−ヘキシル−5−ペンチルシクロペンタン−1,2−ジカルボン酸ジイソブチル、
3−メチル−5−n−プロピルシクロペンタン−1,2−ジカルボン酸ジエチル、
3−メチル−5−n−プロピルシクロペンタン−1,2−ジカルボン酸ジn−プロピル、
3−メチル−5−n−プロピルシクロペンタン−1,2−ジカルボン酸ジイソプロピル、
3−メチル−5−n−プロピルシクロペンタン−1,2−ジカルボン酸ジn−ブチル、
3−メチル−5−n−プロピルシクロペンタン−1,2−ジカルボン酸ジイソブチル
3−メチル−5−n−プロピルシクロペンタン−1,2−ジカルボン酸ジヘキシル、
3−メチル−5−n−プロピルシクロペンタン−1,2−ジカルボン酸ジオクチル、
3−メチル−5−n−プロピルシクロペンタン−1,2−ジカルボン酸ジデシル、
3−メチルシクロヘプタン−1,2−ジカルボン酸ジエチル、
3−メチルシクロヘプタン−1,2−ジカルボン酸ジイソブチル、
3−メチルシクロヘプタン−1,2−ジカルボン酸ジへプチル、
3−メチルシクロヘプタン−1,2−ジカルボン酸ジデシル、
4−メチルシクロヘプタン−1,3−ジカルボン酸ジエチル、
4−メチルシクロヘプタン−1,3−ジカルボン酸ジイソブチル、
4−メチルシクロヘプタン−1,2−ジカルボン酸ジエチル、
4−メチルシクロヘプタン−1,2−ジカルボン酸ジイソブチル、
4−メチルシクロヘプタン−1,2−ジカルボン酸ジへプチル、
4−メチルシクロヘプタン−1,2−ジカルボン酸ジデシル、
5−メチルシクロヘプタン−1,3−ジカルボン酸ジエチル、
5−メチルシクロヘプタン−1,3−ジカルボン酸ジイソブチル、
3,4−ジメチルシクロヘプタン−1,2−ジカルボン酸ジエチル、
3,4−ジメチルシクロヘプタン−1,2−ジカルボン酸ジイソブチル、
3,4−ジメチルシクロヘプタン−1,2−ジカルボン酸ジへプチル、
3,4−ジメチルシクロヘプタン−1,2−ジカルボン酸ジデシル、
3,7−ジメチルシクロヘプタン−1,2−ジカルボン酸ジエチル、
3,7−ジメチルシクロヘプタン−1,2−ジカルボン酸ジイソブチル、
3,7−ジメチルシクロヘプタン−1,2−ジカルボン酸ジへプチル、
3,7−ジメチルシクロヘプタン−1,2−ジカルボン酸ジデシル、
3−ヘキシルシクロヘプタン−1,2−ジカルボン酸ジエチル、
3,7−ジヘキシルシクロヘプタン−1,2−ジカルボン酸ジエチル、
3−ヘキシル−7−ペンチルシクロヘプタン−1,2−ジカルボン酸ジイソブチル、
3−メチル−7−n−プロピルシクロヘプタン−1,2−ジカルボン酸ジエチル、
3−メチル−7−n−プロピルシクロヘプタン−1,2−ジカルボン酸ジn−プロピル、
3−メチル−7−n−プロピルシクロヘプタン−1,2−ジカルボン酸ジイソプロピル、
3−メチル−7−n−プロピルシクロヘプタン−1,2−ジカルボン酸ジn−ブチル、
3−メチル−7−n−プロピルシクロヘプタン−1,2−ジカルボン酸ジイソブチル、
3−メチル−7−n−プロピルシクロヘプタン−1,2−ジカルボン酸ジヘキシル、
3−メチル−7−n−プロピルシクロヘプタン−1,2−ジカルボン酸ジオクチル、
3−メチル−7−n−プロピルシクロヘプタン−1,2−ジカルボン酸ジデシル、
3−メチルシクロオクタン−1,2−ジカルボン酸ジエチル、
3−メチルシクロデカン−1,2−ジカルボン酸ジエチル、
3−ビニルシクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸ジイソブチル、
3,6−ジフェニルシクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸ジイソブチル、
3,6−ジシクロヘキシルシクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸ジエチル、
ノルボルナン−2,3−ジカルボン酸ジイソブチル、
テトラシクロドデカン−2,3−ジカルボン酸ジイソブチル
3,6−ジメチル−4−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸ジエチル、
3,6−ジメチル−4−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸ジn−プロピル、
3,6−ジメチル−4−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸ジイソプロピル、
3,6−ジメチル−4−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸ジn−ブチル、
3,6−ジメチル−4−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸ジイソブチル、
3,6−ジメチル−4−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸ジヘキシル、
3,6−ジメチル−4−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸ジへプチル、
3,6−ジメチル−4−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸ジオクチル、
3,6−ジメチル−4−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸ジ2−エチルヘキシル、
3,6−ジメチル−4−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸ジデシル、
3,6−ジヘキシル−4−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸ジエチル、
3−ヘキシル−6−ペンチル−4−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸ジイソブチル、
などが挙げられる。
【0070】
また、以下の化合物、
3,6−ジメチルシクロヘキサン−1,2−ジアセテート、
3,6−ジメチルシクロヘキサン−1,2−ジブタネート、
3−メチル−6−プロピルシクロヘキサン−1,2−ジオールアセテート、
3−メチル−6−プロピルシクロヘキサン−1,2−ジブタネート、
3,6−ジメチルシクロヘキサン−1,2−ジベンゾエート、
3,6−ジメチルシクロヘキサン−1,2−ジトルエート、
3−メチル−6−プロピルシクロヘキサン−1,2−ジベンゾエート、
3−メチル−6−プロピルシクロヘキサン−1,2−ジトルエート、
等も好ましい例として挙げることができる。
【0071】
上記のようなジエステル構造を持つ化合物には、式(1)における複数のCOOR
1基に由来するシス、トランス等の異性体が存在するが、どの構造であっても本発明の目的に合致する効果を有するが、よりトランス体の含有率が高い方が好ましい。トランス体の含有率が高い方が、分子量分布を広げる効果だけでなく、活性や得られる重合体の立体規則性がより高い傾向がある。
【0072】
前記環状エステル化合物(a)としては、下記式(1−1)〜(1−6)で表される化合物が好ましい。
【0078】
【化11】
上記式(1−1)〜(1−6)中の、R
1およびRは式(1)での定義と同様である。
【0079】
上記式(1−1)〜(1−3)において、環状骨格中の単結合(ただしC
a−C
a結合およびC
a−C
b結合を除く。)は、二重結合に置き換えられていてもよい。
【0080】
上記式(1−4)〜(1−6)において、環状骨格中の単結合(ただしC
a−C
a結合を除く。)は、二重結合に置き換えられていてもよい。
【0081】
また、上記式(1−3)および(1−6)においてnは7〜10の整数である。
【0082】
前記環状エステル化合物(a)としては、特には下記式(1a)で表わされる化合物が好ましい。
【0083】
【化12】
式(1a)中の、n、R
1およびRは式(1)での定義と同様であり、環状骨格中の単結合(ただしC
a−C
a結合およびC
a−C
b結合を除く。)は、二重結合に置き換えられていてもよい。すなわち、環状骨格中のC−C結合(nが6〜10の場合)、C
a−C結合およびC
b−C結合は、二重結合に置き換えられていてもよい。
【0084】
上記式(1a)で表わされる化合物として具体的には、
3,6−ジメチルシクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸ジイソブチル、
3,6−ジメチルシクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸ジn−ヘキシル、
3,6−ジメチルシクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸ジn−オクチル、
3−メチル−6−エチルシクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸ジイソブチル、
3−メチル−6−エチルシクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸ジn−ヘキシル、
3−メチル−6−エチルシクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸ジn−オクチル、
3−メチル−6−n−プロピルシクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸ジイソブチル、
3−メチル−6−n−プロピルシクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸ジn−ヘキシル、
3−メチル−6−n−プロピルシクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸ジn−オクチル、
3,6−ジエチルシクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸ジイソブチル、
3,6−ジエチルシクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸ジn−ヘキシル、
3,6−ジエチルシクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸ジn−オクチル、
3,5−ジメチルシクロペンタン−1,2−ジカルボン酸ジイソブチル、
3,5−ジメチルシクロペンタン−1,2−ジカルボン酸ジn−ヘキシル、
3,5−ジメチルシクロペンタン−1,2−ジカルボン酸ジn−オクチル、
3−メチル−5−エチルシクロペンタン−1,2−ジカルボン酸ジイソブチル、
3−メチル−5−エチルシクロペンタン−1,2−ジカルボン酸ジn−ヘキシル、
3−メチル−5−エチルシクロペンタン−1,2−ジカルボン酸ジn−オクチル、
3−メチル−5−n−プロピルシクロペンタン−1,2−ジカルボン酸ジn−ヘキシル、
3−メチル−5−n−プロピルシクロペンタン−1,2−ジカルボン酸ジn−オクチル、
3,5−ジエチルシクロペンタン−1,2−ジカルボン酸ジイソブチル、
3,5−ジエチルシクロペンタン−1,2−ジカルボン酸ジn−ヘキシル、
3,5−ジエチルシクロペンタン−1,2−ジカルボン酸ジn−オクチル、
3,7−ジメチルシクロヘプタン−1,2−ジカルボン酸ジイソブチル、
3,7−ジメチルシクロヘプタン−1,2−ジカルボン酸ジn−ヘキシル、
3,7−ジメチルシクロヘプタン−1,2−ジカルボン酸ジn−オクチル、
3−メチル−7−エチルシクロヘプタン−1,2−ジカルボン酸ジイソブチル、
3−メチル−7−エチルシクロヘプタン−1,2−ジカルボン酸ジn−ヘキシル、
3−メチル−7−エチルシクロヘプタン−1,2−ジカルボン酸ジn−オクチル、
3−メチル−7−n−プロピルシクロヘプタン−1,2−ジカルボン酸ジn−ヘキシル、
3−メチル−7−n−プロピルシクロヘプタン−1,2−ジカルボン酸ジn−オクチル、
3,7−ジエチルシクロヘプタン−1,2−ジカルボン酸ジイソブチル、
3,7−ジエチルシクロヘプタン−1,2−ジカルボン酸ジn−ヘキシル、
3,7−ジエチルシクロヘプタン−1,2−ジカルボン酸ジn−オクチル、
などが挙げられる。
【0085】
上記の化合物の中では、
3,6−ジメチルシクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸ジイソブチル、
3,6−ジメチルシクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸ジn−ヘキシル、
3,6−ジメチルシクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸ジn−オクチル、
3−メチル−6−エチルシクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸ジイソブチル、
3−メチル−6−エチルシクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸ジn−ヘキシル、
3−メチル−6−エチルシクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸ジn−オクチル、
3−メチル−6−n−プロピルシクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸ジイソブチル、
3−メチル−6−n−プロピルシクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸ジn−ヘキシル、
3−メチル−6−n−プロピルシクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸ジn−オクチル、
3,6−ジエチルシクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸ジイソブチル、
3,6−ジエチルシクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸ジn−ヘキシル、
3,6−ジエチルシクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸ジn−オクチル
がさらに好ましい。これらの化合物はDiels Alder反応を利用して製造できる。
【0086】
上記のようなジエステル構造を持つ環状エステル化合物(a)には、シス、トランス等の異性体が存在し、どの構造であっても本発明の目的に合致する効果を有するが、トランス体の含有率が高い方が、分子量分布を広げる効果だけでなく、活性や得られる重合体の立体規則性がより高い傾向があるため特に好ましい。シス体およびトランス体のうちのトランス体の割合は、好ましくは51%以上であることが好ましい。より好ましい下限値は55%であり、さらに好ましくは60%であり、特に好ましくは65%である。一方、好ましい上限値は100%であり、より好ましくは90%であり、さらに好ましくは85%であり、特に好ましくは79%である。
【0087】
<環状エステル化合物(b)>
環状エステル化合物(b)は、複数のカルボン酸エステル基を有し、下記式(2)で表される。
【0088】
【化13】
式(2)において、nは、5〜10の整数、好ましくは5〜7の整数であり、特に好ましくは6である。またC
aおよびC
bは、炭素原子を表わす。
【0089】
環状骨格中の炭素原子間結合は、すべてが単結合であることが好ましいが、環状骨格中の、C
a−C
a結合およびR
5が水素原子である場合のC
a−C
b結合以外のいずれかの単結合は、二重結合に置き換えられていてもよい。すなわち、環状骨格中の、C−C
b結合、R
5がCOOR
1である場合のC
a−C
b結合、およびC−C結合(nが6〜10の場合)は、二重結合に置き換えられていてもよい。
【0090】
また、R
4およびR
5はそれぞれ独立にCOOR
1または水素原子であり、R
4およびR
5のうちの少なくとも1つはCOOR
1であり、R
1はそれぞれ独立に炭素原子数1〜20の1価の炭化水素基である。
【0091】
複数個あるR
1は、それぞれ独立に、炭素原子数が1〜20、好ましくは1〜10、より好ましくは2〜8、さらに好ましくは4〜8、特に好ましくは4〜6の1価の炭化水素基である。この炭化水素基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、ヘキシル基、へプチル基、オクチル基、2−エチルヘキシル基、デシル基、ドデシル基、テトラデシル基、ヘキサデシル基、オクタデシル基、エイコシル基などが挙げられ、中でもn−ブチル基、イソブチル基、ヘキシル基、オクチル基が好ましく、さらにはn−ブチル基、イソブチル基が、分子量分布の広いプロピレン系ブロック共重合体を製造できることから特に好ましい。
【0092】
このような環状エステル化合物(b)としては、
シクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸ジエチル、
シクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸ジn−プロピル、
シクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸ジイソプロピル、
シクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸ジn−ブチル、
シクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸ジイソブチル、
シクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸ジヘキシル、
シクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸ジへプチル、
シクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸ジオクチル、
シクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸ジ2−エチルヘキシル
シクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸ジデシル、
シクロヘキサン−1,3−ジカルボン酸ジエチル、
シクロヘキサン−1,3−ジカルボン酸ジイソブチル、
シクロペンタン−1,2−ジカルボン酸ジエチル、
シクロペンタン−1,2−ジカルボン酸ジイソプロピル、
シクロペンタン−1,2−ジカルボン酸ジイソブチル、
シクロペンタン−1,2−ジカルボン酸ジへプチル、
シクロペンタン−1,2−ジカルボン酸ジデシル、
シクロペンタン−1,3−ジカルボン酸ジエチル、
シクロペンタン−1,3−ジカルボン酸ジイソブチル、
シクロヘプタン−1,2−ジカルボン酸ジエチル、
シクロヘプタン−1,2−ジカルボン酸ジイソプロピル、
シクロヘプタン−1,2−ジカルボン酸ジイソブチル、
シクロヘプタン−1,2−ジカルボン酸ジへプチル、
シクロヘプタン−1,2−ジカルボン酸ジデシル、
シクロヘプタン−1,3−ジカルボン酸ジエチル、
シクロヘプタン−1,3−ジカルボン酸ジイソブチル、
シクロオクタン−1,2−ジカルボン酸ジエチル、
シクロデカン−1,2−ジカルボン酸ジエチル、
4−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸ジエチル、
4−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸ジn−プロピル、
4−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸ジイソプロピル、
4−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸ジn−ブチル、
4−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸ジイソブチル、
4−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸ジヘキシル、
4−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸ジへプチル、
4−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸ジオクチル、
4−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸ジデシル、
4−シクロヘキセン−1,3−ジカルボン酸ジエチル、
4−シクロヘキセン−1,3−ジカルボン酸ジイソブチル、
3−シクロペンテン−1,2−ジカルボン酸ジエチル、
3−シクロペンテン−1,2−ジカルボン酸ジイソプロピル、
3−シクロペンテン−1,2−ジカルボン酸ジイソブチル、
3−シクロペンテン−1,2−ジカルボン酸ジへプチル、
3−シクロペンテン−1,2−ジカルボン酸ジデシル、
3−シクロペンテン−1,3−ジカルボン酸ジエチル、
3−シクロペンテン−1,3−ジカルボン酸ジイソブチル、
4−シクロヘプテン−1,2−ジカルボン酸ジエチル、
4−シクロヘプテン−1,2−ジカルボン酸ジイソプロピル、
4−シクロヘプテン−1,2−ジカルボン酸ジイソブチル、
4−シクロヘプテン−1,2−ジカルボン酸ジへプチル、
4−シクロヘプテン−1,2−ジカルボン酸ジデシル、
4−シクロヘプテン−1,3−ジカルボン酸ジエチル、
4−シクロヘプテン−1,3−ジカルボン酸ジイソブチル、
5−シクロオクテン−1,2−ジカルボン酸ジエチル、
6−シクロデセン−1,2−ジカルボン酸ジエチル
などが挙げられる。
【0093】
また、以下の化合物、
シクロヘキサン−1,2−ジアセテート、
シクロヘキサン−1,2−ジブタネート、
シクロヘキサン−1,2−ジベンゾエート、
シクロヘキサン−1,2−ジトルエート、
なども好ましい例として挙げることができる。
【0094】
上記のようなジエステル構造を持つ化合物には、シス、トランス等の異性体が存在するが、どの構造であっても本発明の目的に合致する効果を有する。シス体およびトランス体のうちのトランス体の割合は、51%以上であることが好ましい。より好ましい下限値は55%であり、さらに好ましくは60%であり、特に好ましくは65%である。一方、好ましい上限値は100%であり、より好ましくは90%であり、さらに好ましくは85%であり、特に好ましくは79%である。この理由は不明であるが、後述する立体異性体のバリエーションが、広分子量分布化に適した領域にあると推測される。
【0095】
特に上記式(2)においてn=6であるシクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸ジエステルのトランス純度は上記の範囲である。
【0096】
トランス純度が51%未満であると広分子量分布化の効果、活性、立体特異性等が不充分となることがある。また、トランス純度が79%を超えると広分子量分布化の効果が不充分となることがある。すなわち、トランス純度が上記の範囲内であれば、得られる重合体の分子量分布を広げる効果と、触媒の活性や得られる重合体の高い立体規則性とを高いレベルで両立する上で有利なことが多い。
【0097】
前記環状エステル化合物(b)としては、特には下記式(2a)で表わされるシクロアルカン−1,2−ジカルボン酸ジエステル構造またはシクロアルケン−1,2−ジカルボン酸ジエステル構造を有する化合物が好ましい。
【0098】
【化14】
式(2a)中の、n、R
1は前記同様(すなわち、式(2)での定義と同様)であり、環状骨格中の単結合(ただしC
a−C
a結合およびC
a−C
b結合を除く。すなわち、C−C
a結合、C−C
b結合およびC−C結合(nが6〜10の場合))は、二重結合に置き換えられていてもよい。
【0099】
上記式(2a)で表わされる化合物として具体的には、
シクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸ジn−ブチル、
シクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸ジイソブチル、
シクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸ジヘキシル、
シクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸ジへプチル、
シクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸ジオクチル、
シクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸ジ2−エチルヘキシル、
シクロペンタン−1,2−ジカルボン酸ジイソブチル、
シクロペンタン−1,2−ジカルボン酸ジヘプチル、
シクロヘプタン−1,2−ジカルボン酸ジイソブチル、
シクロヘプタン−1,2−ジカルボン酸ジへプチル
などが挙げられる。
【0100】
上記の化合物の中では、
シクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸ジイソブチル、
シクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸ジヘキシル、
シクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸ジへプチル、
シクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸ジオクチル、
シクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸ジ2−エチルヘキシル、
がさらに好ましい。その理由は、触媒性能だけでなく、これらの化合物がDiels Alder反応を利用して比較的安価に製造できる点にある。
【0101】
環状エステル化合物(a)および(b)は、各々単独で用いてもよく各2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0102】
環状エステル化合物(a)と環状エステル化合物(b)の組合せモル比(環状エステル化合物(a)/(環状エステル化合物(a)+環状エステル化合物(b))×100(モル%))は10モル%以上であることが好ましい。更に好ましくは、30モル%以上、特に好ましくは40モル%以上、特により好ましくは50モル%である。好ましい上限値は99モル%、好ましくは90モル%。より好ましくは85モル%、特に好ましくは80モル%である。
【0103】
本発明の固体状チタン触媒成分(I)は、広範囲の環状エステル化合物(a)の組合せモル比の条件で、即ち固体状チタン触媒成分(I)の環状エステル化合物(a)の含有量が低くても、極めて分子量分布の広いオレフィン重合体を与えることができる。この効果の要因は不明であるが、本発明者らは以下のように推測している。
【0104】
環状エステル化合物(a)は置換基Rの存在により環状エステル化合物(b)に比して形成し得る立体構造のバリエーションが極めて多いことは自明である。このため、分子量分布については環状エステル化合物(a)の影響が支配的になり、組合せモル比が低くても極めて広い分子量分布のオレフィン重合体を与えることができると考えられる。
【0105】
一方、環状エステル化合物(a)と環状エステル化合物(b)とは比較的構造が似ているので、活性、立体規則性などの基本性能には互いの化合物の効果に影響を与え難い(構造が異なる化合物を用いた場合、活性や立体規則性等が激変することや、一方の化合物の効果が支配的になる例が多くある)。
【0106】
このため、本発明で使用する固体状チタン触媒成分(I)は、環状エステル化合物(a)の含有率が低くても極めて広い分子量分布かつ高い立体規則性を有するオレフィン重合体を高い活性で与えることができる。
【0107】
本発明のプロピレン系ブロック共重合体は、分子量分布の広い重合体である。この理由は現時点で不明であるが、下記のような原因が推定される。
【0108】
環状炭化水素構造は、イス型、舟型など多彩な立体構造を形成することが知られている。さらに、環状構造に置換基を有すると、取りうる立体構造のバリエーションはさらに増大する。また、環状エステル化合物の環状骨格を形成する炭素原子のうちの、エステル基(COOR
1基)が結合した炭素原子とエステル基(COOR
1基)が結合した他の炭素原子との間の結合が単結合であれば、取りうる立体構造のバリエーションが広がる。この多彩な立体構造を取りうることが、固体状チタン触媒成分(I)上に多彩な活性種を形成することに繋がる。その結果、固体状チタン触媒成分(I)を用いてオレフィンの重合を行うと、多様な分子量のオレフィン重合体を一度に製造することができる、即ち分子量分布の広いプロピレン系ブロック共重合体を製造することができる。
【0109】
本発明において、環状エステル化合物(a)および(b)は、固体状チタン触媒成分(I)を調製する過程で形成されてもよい。例えば、固体状チタン触媒成分(I)を調製する際に、環状エステル化合物(a)および(b)に対応する無水カルボン酸やカルボン酸ジハライドと、対応するアルコールとが実質的に接触する工程を設けることで、環状エステル化合物(a)および(b)を固体状チタン触媒成分中に含有させることもできる。
【0110】
本発明で使用する固体状チタン触媒成分(I)の調製には、上記の環状エステル化合物(a)および(b)の他、マグネシウム化合物およびチタン化合物が用いられる。また、本発明の目的を損なわない限り、後述する触媒成分(c)および触媒成分(d)を組み合わせて用いてもよい。
【0111】
<マグネシウム化合物>
本発明に係る固体状チタン触媒成分(I)の調製に用いられるマグネシウム化合物として具体的には、
塩化マグネシウム、臭化マグネシウムなどのハロゲン化マグネシウム;
メトキシ塩化マグネシウム、エトキシ塩化マグネシウム、フェノキシ塩化マグネシウムなどのアルコキシマグネシウムハライド;
エトキシマグネシウム、イソプロポキシマグネシウム、ブトキシマグネシウム、2−エチルヘキソキシマグネシウムなどのアルコキシマグネシウム;
フェノキシマグネシウムなどのアリーロキシマグネシウム;
ステアリン酸マグネシウムなどのマグネシウムのカルボン酸塩などの公知のマグネシウム化合物を挙げることができる。
【0112】
これらのマグネシウム化合物は単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。またこれらのマグネシウム化合物は、他の金属との錯化合物、複化合物あるいは他の金属化合物との混合物であってもよい。
【0113】
これらの中ではハロゲンを含有するマグネシウム化合物が好ましく、ハロゲン化マグネシウム、特に塩化マグネシウムが好ましく用いられる。他に、エトキシマグネシウムのようなアルコキシマグネシウムも好ましく用いられる。また、該マグネシウム化合物は、他の物質から誘導されたもの、例えばグリニャール試薬のような有機マグネシウム化合物とハロゲン化チタンやハロゲン化ケイ素、ハロゲン化アルコールなどとを接触させて得られるものであってもよい。例えば、アルコキシマグネシウムとテトラアルコキシチタンなどを組み合わせる場合は、ハロゲン化剤として四塩化珪素などを反応させ、ハロゲン化マグネシウムとすることが好ましい。
【0114】
<チタン化合物>
チタン化合物としては、例えば一般式;
Ti(OR)
gX
4-g
(Rは炭化水素基であり、Xはハロゲン原子であり、gは0≦g≦4である。)
で示される4価のチタン化合物を挙げることができる。より具体的には、
TiCl
4、TiBr
4などのテトラハロゲン化チタン;
Ti(OCH
3)Cl
3、Ti(OC
2H
5)Cl
3、Ti(O−n−C
4H
9)Cl
3、Ti(OC
2H
5)Br
3、Ti(O−isoC
4H
9)Br
3などのトリハロゲン化アルコキシチタン;
Ti(OCH
3)
2Cl
2、Ti(OC
2H
5)
2Cl
2などのジハロゲン化アルコキシチタン;
Ti(OCH
3)
3Cl、Ti(O−n−C
4H
9)
3Cl、Ti(OC
2H
5)
3Brなどのモノハロゲン化アルコキシチタン;
Ti(OCH
3)
4、Ti(OC
2H
5)
4、Ti(OC
4H
9)
4、Ti(O−2−エチルヘキシル)
4などのテトラアルコキシチタンなどを挙げることができる。
【0115】
これらの中で好ましいものは、テトラハロゲン化チタンであり、特に四塩化チタンが好ましい。これらのチタン化合物は単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0116】
上記のようなマグネシウム化合物およびチタン化合物としては、例えば前記特許文献1、特許文献2などに詳細に記載されている化合物も挙げることができる。
【0117】
本発明の固体状チタン触媒成分(I)の調製には、環状エステル化合物(a)および(b)を使用する他は、公知の方法を制限無く使用することができる。具体的な好ましい方法としては、例えば下記(P−1)〜(P−4)の方法を挙げることができる。
【0118】
(P−1)マグネシウム化合物および触媒成分(c)からなる固体状付加物と、環状エステル化合物(a)および(b)と、液状状態のチタン化合物とを、不活性炭化水素溶媒共存下、懸濁状態で接触させる方法。
【0119】
(P−2)マグネシウム化合物および触媒成分(c)からなる固体状付加物と、環状エステル化合物(a)および(b)と、液状状態のチタン化合物とを、複数回に分けて接触させる方法。
【0120】
(P−3)マグネシウム化合物および触媒成分(c)からなる固体状付加物と、環状エステル化合物(a)および(b)と、液状状態のチタン化合物とを、不活性炭化水素溶媒共存下、懸濁状態で接触させ、且つ複数回に分けて接触させる方法。
【0121】
(P−4)マグネシウム化合物および触媒成分(c)からなる液状状態のマグネシウム化合物と、液状状態のチタン化合物と、環状エステル化合物(a)および(b)とを接触させる方法。
【0122】
固体状チタン触媒成分(I)の調製の際の好ましい反応温度は、−30℃〜150℃、より好ましくは−25℃〜140℃、さらに好ましくは−25〜130℃の範囲である。
【0123】
また上記の固体状チタン触媒成分の製造は、必要に応じて公知の媒体の存在下に行うこともできる。この媒体としては、やや極性を有するトルエンなどの芳香族炭化水素やヘプタン、ヘキサン、オクタン、デカン、シクロヘキサンなどの公知の脂肪族炭化水素、脂環族炭化水素化合物が挙げられるが、これらの中では脂肪族炭化水素が好ましい例として挙げられる。
【0124】
上記の範囲で製造された固体状チタン触媒成分(I)を用いてオレフィンの重合反応を行うと、広い分子量分布の重合体を得られる効果と、触媒の活性や得られる重合体の高い立体規則性とをより高いレベルで両立することができる。
【0125】
<触媒成分(c)>
上記の固体状付加物や液状状態のマグネシウム化合物の形成に用いられる触媒成分(c)としては、室温〜300℃程度の温度範囲で上記のマグネシウム化合物を可溶化できる公知の化合物が好ましく、例えばアルコール、アルデヒド、アミン、カルボン酸およびこれらの混合物などが好ましい。これらの化合物としては、例えば前記特許文献1や特許文献2に詳細に記載されている化合物を挙げることができる。
【0126】
上記のマグネシウム化合物可溶化能を有するアルコールとして、より具体的には、
メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、イソブタノール、エチレングリコール、2−メチルペンタノール、2−エチルブタノール、n−ヘプタノール、n−オクタノール、2−エチルヘキサノール、デカノール、ドデカノールのような脂肪族アルコール;
シクロヘキサノール、メチルシクロヘキサノールのような脂環族アルコール;
ベンジルアルコール、メチルベンジルアルコールなどの芳香族アルコール;
n−ブチルセルソルブなどのアルコキシ基を有する脂肪族アルコールなどを挙げることができる。
【0127】
カルボン酸としては、カプリル酸、2−エチルヘキサノイック酸などの炭素原子数7以上の有機カルボン酸類を挙げることができる。
【0128】
アルデヒドとしては、カプリックアルデヒド、2−エチルヘキシルアルデヒドなどの炭素原子数7以上のアルデヒド類を挙げることができる。
【0129】
アミンとしては、ヘプチルアミン、オクチルアミン、ノニルアミン、ラウリルアミン、2−エチルヘキシルアミンなどの炭素原子数6以上のアミン類を挙げることができる。
【0130】
上記の触媒成分(c)としては、上記のアルコール類が好ましく、特にエタノール、プロパノール、ブタノール、イソブタノール、ヘキサノール、2−エチルヘキサノール、デカノールなどが好ましい。
【0131】
上記の固体状付加物や液状状態のマグネシウム化合物を調製する際のマグネシウム化合物および触媒成分(c)の使用量については、その種類、接触条件などによっても異なるが、マグネシウム化合物は、該触媒成分(c)の単位容積あたり、0.1〜20モル/リットル、好ましくは、0.5〜5モル/リットルの量で用いられる。また、必要に応じて上記固体状付加物に対して不活性な媒体を併用することもできる。上記の媒体としては、ヘプタン、ヘキサン、オクタン、デカンなどの公知の炭化水素化合物が好ましい例として挙げられる。
【0132】
得られる固体状付加物や液状状態のマグネシウム化合物のマグネシウムと触媒成分(c)との組成比は、用いる化合物の種類によって異なるので一概には規定できないが、マグネシウム化合物中のマグネシウム1モルに対して、触媒成分(c)は、好ましくは2.0モル以上、より好ましくは2.2モル以上、さらに好ましくは2.3モル以上、特に好ましくは2.4モル以上、5モル以下の範囲である。
【0133】
<芳香族カルボン酸エステルおよび/または複数の炭素原子を介して2個以上のエーテル結合を有する化合物>
本発明の固体状チタン触媒成分(I)は、さらに、芳香族カルボン酸エステルおよび/または複数の炭素原子を介して2個以上のエーテル結合を有する化合物(以下「触媒成分(d)」ともいう。)を含んでいてもよい。本発明の固体状チタン触媒成分(I)が触媒成分(d)を含んでいると触媒活性を向上させたり、立体規則性を高めたり、分子量分布をより広げることができる場合がある。
【0134】
この触媒成分(d)としては、従来オレフィン重合用触媒に好ましく用いられている公知の芳香族カルボン酸エステルやポリエーテル化合物、たとえば上記特許文献1や特開2001−354714号公報などに記載された化合物を制限無く用いることができる。
【0135】
この芳香族カルボン酸エステルとしては、具体的には安息香酸エステル(エチルベンゾエートなど)やトルイル酸エステルなどの芳香族カルボン酸モノエステルの他、フタル酸エステル類等の芳香族多価カルボン酸エステルが挙げられる。これらの中でも芳香族多価カルボン酸エステルが好ましく、フタル酸エステル類がより好ましい。このフタル酸エステル類としては、フタル酸エチル、フタル酸n−ブチル、フタル酸イソブチル、フタル酸ヘキシル、フタル酸へプチル等のフタル酸アルキルエステルが好ましく、フタル酸ジイソブチルが特に好ましい。
【0136】
また前記ポリエーテル化合物としては、より具体的には以下の式(4)で表わされる化合物が挙げられる。
【0137】
【化15】
なお、上記式(4)において、mは1〜10の整数、より好ましくは3〜10の整数であり、特に好ましくは3〜5である。R
11、R
12、R
31〜R
36は、それぞれ独立に、水素原子、あるいは炭素、水素、酸素、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素、窒素、硫黄、リン、ホウ素およびケイ素から選択される少なくとも1種の元素を有する置換基である。
【0138】
R
11、R
12について好ましくは、炭素原子数1〜10の炭化水素基であり、好ましくは炭素原子数2〜6の炭化水素基であり、R
31〜R
36について好ましくは水素原子または炭素原子数1〜6の炭化水素基である。
【0139】
R
11、R
12について具体的には、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、ヘキシル基、へプチル基、オクチル基、2−エチルヘキシル基、デシル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基が挙げられ、好ましくは、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、である。
【0140】
R
31〜R
36について具体的には、水素原子、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基が挙げられ、好ましくは水素原子、メチル基である。
【0141】
任意のR
11、R
12、R
31〜R
36、好ましくはR
11、R
12は共同してベンゼン環以外の環を形成していてもよく、主鎖中に炭素以外の原子が含まれていてもよい。
【0142】
上記のような2個以上のエーテル結合を有する具体的な化合物としては、
2−イソプロピル−1,3−ジメトキシプロパン、
2−s−ブチル−1,3−ジメトキシプロパン、
2−クミル−1,3−ジメトキシプロパン
等の1置換ジアルコキシプロパン類、
2−イソプロピル−2−イソブチル−1,3−ジメトキシプロパン、
2,2−ジシクロヘキシル−1,3−ジメトキシプロパン、
2−メチル−2−イソプロピル−1,3−ジメトキシプロパン、
2−メチル−2−シクロヘキシル−1,3−ジメトキシプロパン、
2−メチル−2−イソブチル−1,3−ジメトキシプロパン、
2,2−ジイソブチル−1,3−ジメトキシプロパン、
2,2−ビス(シクロヘキシルメチル)−1,3−ジメトキシプロパン、
2,2−ジイソブチル−1,3−ジエトキシプロパン、
2,2−ジイソブチル−1,3−ジブトキシプロパン、
2,2−ジ−s−ブチル−1,3−ジメトキシプロパン、
2,2−ジネオペンチル−1,3−ジメトキシプロパン、
2−イソプロピル−2−イソペンチル−1,3−ジメトキシプロパン、
2−シクロヘキシル−2−シクロヘキシルメチル−1,3−ジメトキシプロパン
等の2置換ジアルコキシプロパン類
2,3−ジシクロヘキシル−1,4−ジメトキシブタン、
2,3−ジシクロヘキシル−1,4−ジエトキシブタン、
2,3−ジイソプロピル−1,4−ジエトキシブタン
2,4−ジフェニル−1,5−ジメトキシペンタン、
2,5−ジフェニル−1,5−ジメトキシヘキサン、
2,4−ジイソプロピル−1,5−ジメトキシペンタン、
2,4−ジイソブチル−1,5−ジメトキシペンタン、
2,4−ジイソアミル−1,5−ジメトキシペンタン
等のジアルコキシアルカン類、
2−メチル−2−メトキシメチル−1,3−ジメトキシプロパン、
2−シクロヘキシル−2−エトキシメチル−1,3−ジエトキシプロパン、
2−シクロヘキシル−2−メトキシメチル−1,3−ジメトキシプロパン
等のトリアルコキシアルカン類、
2,2−ジイソブチル−1,3−ジメトキシ4−シクロヘキセン、
2−イソプロピル−2−イソアミル−1,3−ジメトキシ4−シクロヘキセン、
2−シクロヘキシル−2−メトキシメチル−1,3−ジメトキシ4−シクロヘキセン、
2−イソプロピル−2−メトキシメチル−1,3−ジメトキシ4−シクロヘキセン、
2−イソブチル−2−メトキシメチル−1,3−ジメトキシ4−シクロヘキセン、
2−シクロヘキシル−2−エトキシメチル−1,3−ジメトキシ4−シクロヘキセン、
2−イソプロピル−2−エトキシメチル−1,3−ジメトキシ4−シクロヘキセン、
2−イソブチル−2−エトキシメチル−1,3−ジメトキシ4−シクロヘキセン
等のジアルコキシシクロアルカン
等を例示することができる。
【0143】
これらのうち、1,3−ジエーテル類が好ましく、特に、2−イソプロピル−2−イソブチル−1,3−ジメトキシプロパン、2,2−ジイソブチル−1,3−ジメトキシプロパン、2−イソプロピル−2−イソペンチル−1,3−ジメトキシプロパン、2,2−ジシクロヘキシル−1,3−ジメトキシプロパン、2,2−ビス(シクロヘキシルメチル)1,3−ジメトキシプロパンが好ましい。
【0144】
これらの化合物は、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0145】
上記の環状エステル化合物(a)および(b)、触媒成分(c)、触媒成分(d)は、当業者間では電子供与体と呼ばれる成分に属すると考えても差し支えない。上記の電子供与体成分は、触媒の高い活性を維持したまま、得られる重合体の立体規則性を高める効果や、得られる共重合体の組成分布を制御する効果や、触媒粒子の粒形や粒径を制御する凝集剤効果などを示すことが知られている。
【0146】
上記の環状エステル化合物(a),(b)は、それ自身が電子供与体であることによって、さらに分子量分布を制御する効果をも示していると考えられる。
【0147】
本発明の固体状チタン触媒成分(I)において、ハロゲン/チタン(原子比)(すなわち、ハロゲン原子のモル数/チタン原子のモル数)は、2〜100、好ましくは4〜90であることが望ましく、
環状エステル化合物(a)/チタン(モル比)(すなわち、環状エステル化合物(a)のモル数/チタン原子のモル数)および環状エステル化合物(b)/チタン(モル比)(すなわち、環状エステル化合物(b)のモル数/チタン原子のモル数)は、0.01〜100、好ましくは0.2〜10であることが望ましく、
触媒成分(c)は、触媒成分(c)/チタン原子(モル比)は0〜100、好ましくは0〜10であることが望ましい。
【0148】
ここで、環状エステル化合物(a)と環状エステル化合物(b)の好ましい比率としては、100×環状エステル化合物(a)/(環状エステル化合物(a)+環状エステル化合物(b))の値(モル%)の下限が5モル%、好ましくは25モル%、より好ましくは40モル%であり、特により好ましくは50モル%である。上限は99モル%、好ましくは90モル%、より好ましくは85モル%、特に好ましくは80モル%である。
【0149】
マグネシウム/チタン(原子比)(すなわち、マグネシウム原子のモル数/チタン原子のモル数)は、2〜100、好ましくは4〜50であることが望ましい。
【0150】
また、前述した環状エステル化合物(a)および(b)以外に含まれても良い成分、例えば触媒成分(c)および触媒成分(d)の含有量は、好ましくは環状エステル化合物(a)および(b)100重量%に対して20重量%以下であり、より好ましくは10重量%以下である。
【0151】
固体状チタン触媒成分(I)のより詳細な調製条件として、環状エステル化合物(a)および(b)を使用する以外は、例えばEP585869A1(欧州特許出願公開第0585869号明細書)や前記特許文献2等に記載の条件を好ましく用いることができる。
【0152】
[有機金属化合物(II)]
本発明に係る有機金属化合物(II)としては、周期表の第1族、第2族および第13族から選ばれる金属原子を含む有機金属化合物が挙げられる。具体的には、第13族金属を含む化合物、例えば、有機アルミニウム化合物、第1族金属とアルミニウムとの錯アルキル化物、第2族金属の有機金属化合物などを用いることができる。これらの中でも有機アルミニウム化合物が好ましい。
【0153】
有機金属化合物(II)として具体的には、前記EP585869A1等の公知の文献に記載された有機金属化合物触媒成分を好ましい例として挙げることができる。
【0154】
[有機ケイ素化合物(III)]
本発明に係る有機ケイ素化合物(III)としては、下記式(3)で表される有機ケイ素化合物が挙げられる。
【0155】
Si(OR
1)
3(NR
2R
3) ・・・(3)
上記式(3)中、R
1は炭素原子数1〜8の炭化水素基であり、好ましくは、炭素原子数1〜8の不飽和または飽和脂肪族炭化水素基などが挙げられ、特に好ましくは炭素原子数2〜6の飽和脂肪族炭化水素基である。具体例としてはメチル基、エチル基、n−プロピル基、iso−プロピル基、n−ブチル基、iso−ブチル基、ter−ブチル基、sec−ブチル基、n−ペンチル基、iso−ペンチル基、シクロペンチル基、n−ヘキシル基、シクロヘキシル基などが挙げられる。特に好ましくはエチル基である。
【0156】
上記式(3)中、R
2は炭素原子数1〜12の炭化水素基または水素であり、好ましくは、炭素原子数1〜12の不飽和あるいは飽和脂肪族炭化水素基または水素などが挙げられる。具体例としては水素、メチル基、エチル基、n−プロピル基、iso−プロピル基、n−ブチル基、iso−ブチル基、ter−ブチル基、sec−ブチル基、n−ペンチル基、iso−ペンチル基、シクロペンチル基、n−ヘキシル基、シクロヘキシル基、オクチル基などが挙げられる。特に好ましくは、エチル基である。
【0157】
上記式(3)中、R
3は炭素原子数1〜12の炭化水素基であり、好ましくは、炭素原子数1〜12の不飽和あるいは飽和脂肪族炭化水素基などが挙げられる。具体例としてはメチル基、エチル基、n−プロピル基、iso−プロピル基、n−ブチル基、iso−ブチル基、ter−ブチル基、sec−ブチル基、n−ペンチル基、iso−ペンチル基、シクロペンチル基、n−ヘキシル基、シクロヘキシル基、オクチル基などが挙げられる。特に好ましくは、エチル基である。
【0158】
本発明に係る有機ケイ素化合物(III)の具体例としては、ジメチルアミノトリエトキシシラン、ジエチルアミノトリエトキシシラン、ジエチルアミノトリメトキシシラン、ジエチルアミノトリn−プロポキシシラン、ジn−プロピルアミノトリエトキシシラン、メチルn−プロピルアミノトリエトキシシラン、t−ブチルアミノトリエトキシシラン、エチルn−プロピルアミノトリエトキシシラン、エチルイソプロピルアミノトリエトキシシランおよびメチルエチルアミノトリエトキシシランが挙げられる。これら有機ケイ素化合物は、単独で用いても良いし、2種以上併用しても良い。
【0159】
[プロピレン系ブロック共重合体の製造方法]
本発明に係るプロピレン系ブロック共重合体は、前記要件[1]〜[6]を満たす限り製造方法が限定されるものではない。
【0160】
本発明のプロピレン系ブロック共重合体の製造方法では、上述したオレフィン重合用触媒の存在下にオレフィンを予備重合(prepolymerization)させて得られる予備重合触媒[A]を調整した後、本重合(polymerization)を行うことが好ましい。
【0161】
<予備重合触媒[A]>
本発明にかかるプロピレン系ブロック共重合体は、特定範囲の分子量分布に制御させ、さらには、前記プロピレン系ブロック共重合体の要件[4]を満たすものを得る目的で、予備重合触媒[A]を調整後、当該予備重合触媒[A]、前記有機金属化合物[B]、および前記有機ケイ素化合物(III)の存在下で、プロピレンの重合を行う(本重合と定義する)ことが好ましい。
【0162】
予備重合触媒[A]は、固体状チタン触媒成分(I)、有機金属化合物(II)、および有機ケイ素化合物(III)の存在下に、オレフィン類などを予備重合させることにより形成される。
【0163】
この予備重合は、固体状チタン触媒成分(I)、有機金属化合物(II)、および有機ケイ素化合物(III)の合計量1g当り通常0.1〜1000g、好ましくは0.3〜500g、特に好ましくは1〜200gの量でオレフィン類を予備重合させることにより行われる。
【0164】
予備重合では、本重合における系内の触媒濃度よりも高い濃度の触媒を用いることができる。
【0165】
予備重合に用いるオレフィン類としては、プロピレンが好ましく用いられる。
【0166】
予備重合における前記固体状チタン触媒成分(I)の濃度は、液状媒体1リットル当り、チタン原子換算で、通常約0.001〜200ミリモル、好ましくは約0.01〜50ミリモル、特に好ましくは0.1〜20ミリモルの範囲とすることが望ましい。
【0167】
予備重合における前記有機金属化合物(II)の量は、固体状チタン触媒成分(I)1g当り通常0.1〜1000g、好ましくは0.3〜500gの重合体が生成するような量であればよく、固体状チタン触媒成分(I)中のチタン原子1モル当り、通常約0.1〜300モル、好ましくは約0.5〜100モル、特に好ましくは1〜50モルの量であることが望ましい。
【0168】
予備重合における前記有機ケイ素化合物(III)の量は、前記固体状チタン触媒成分(I)中のチタン原子1モル当り、通常0.1〜50モル、好ましくは0.5〜30モル、さらに好ましくは1〜10モルの量で用いられる。
【0169】
予備重合は、不活性炭化水素媒体にオレフィン類および上記の固体状チタン触媒成分(I)、有機金属化合物(II)、および有機ケイ素化合物(III)の各成分を加え、温和な条件下に行うことができる。
【0170】
この場合、用いられる不活性炭化水素媒体として具体的には、
プロパン、ブタン、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、デカン、ドデカン、灯油などの脂肪族炭化水素;
シクロペンタン、メチルシクロペンタン、シクロヘキサン、シクロヘプタン、メチルシクロヘプタン、シクロオクタンなどの脂環族炭化水素;
ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素;
エチレンクロリド、クロルベンゼンなどのハロゲン化炭化水素;
あるいはこれらの混合物などを挙げることができる。
【0171】
これらの不活性炭化水素媒体のうち、特に脂肪族炭化水素を用いることが好ましい。このように、不活性炭化水素媒体を用いる場合、予備重合はバッチ式で行うことが好ましい。
【0172】
一方、予備重合に用いるオレフィン類自体を溶媒として予備重合を行うこともできるし、また実質的に溶媒のない状態で予備重合することもできる。この場合には、予備重合を連続的に行うのが好ましい。
【0173】
予備重合の際の温度は、通常−20〜+100℃であり、好ましくは−20〜+80℃、さらに好ましくは0〜+40℃の範囲である。
【0174】
<本重合>
本発明における本重合方法としては、不活性媒体を用いる溶媒重合法、モノマー自身を
液状溶媒とする塊状重合法、モノマーを気体状態で重合を行う気相重合法あるいはこれらを組み合わせて利用することが可能である。本発明における本重合では、上記の予備重合触媒[A]、有機金属化合物(II)、有機ケイ素化合物(III)との存在下に、プロピレンと、エチレンおよび炭素原子数4〜20のα−オレフィンから選ばれる一種以上のオレフィンを重合させることによってプロピレン系ブロック共重合体を得ることができる。
【0175】
本発明のプロピレン系ブロック共重合体の製造方法における本重合においては、前記予備重合触媒[A]は、重合容積1リットル当り予備重合触媒[A]中に存在する固体状チタン触媒成分(I)に由来するチタン原子に換算して、通常は約0.0001〜0.5ミ
リモル、好ましくは約0.005〜0.1ミリモルの量で用いられる。また、前記有機金属化合物(II)は、重合系中の予備重合触媒[A]中のチタン原子1モルに対し、通常約1〜2000モル、好ましくは約5〜500モルとなるような量で用いられる。有機ケイ素化合物(III)は、前記有機金属化合物(II)1モルに対して、0.001〜50モル、好ましくは0.01〜30モル、特に好ましくは0.05〜20モルの量で用いられる。
【0176】
本重合を水素の存在下に行えば、得られる重合体の分子量を調節する(下げる)ことができ、メルトフローレートの大きい重合体が得られる。分子量を調整するために必要な水素量は、使用する製造プロセスの種類、圧力、温度によって異なる為、一概に範囲を決定することができない。それゆえ、プロピレン重合体成分を製造する工程では、目標とするMFRが25〜400g/10分の範囲で得られるように圧力、温度を考慮して水素量を決定することが望ましい。
【0177】
本発明における本重合において、重合温度は、通常、約20〜200℃、好ましくは約30〜100℃、より好ましくは50〜90℃である。圧力(ゲージ圧)は、通常、常圧〜100kgf/cm
2(9.8MPa)、好ましくは約2〜50kgf/cm
2(0.20〜4.9MPa)に設定される。本発明のプロピレンブロック共重合体の製造方法においては、重合を、回分式、半連続式、連続式の何れの方法においても行うことができる。さらに重合を、反応条件を変えて二段以上に分けて行うこともできる。
【0178】
本発明にかかるプロピレン系ブロック共重合体の製造方法についてさらに詳細に説明する。
【0179】
本発明者らの別の知見に拠れば、本発明のプロピレン系ブロック共重合体を構成するn−デカン不溶部(Dinsol)は、プロピレンホモポリマー、プロピレンランダムポリマー(エチレンおよび炭素原子数4以上のα−オレフィンから選ばれる1種以上のオレフィンに起因する骨格を1.5mol%を超えない量で含有するプロピレン系重合体)、またはこれらの二種以上の混合体と実質的に同一である。
【0180】
一方、n−デカン可溶部(Dsol)は、プロピレン・エチレン共重合体、プロピレン・α−オレフィン共重合体、プロピレン・エチレン・α−オレフィン共重合体またはこれら二種以上の混合体と実質的に同一である(なお、「共重合体」にはランダムポリマーも含まれる)。
【0181】
したがって、本発明のプロピレン系ブロック共重合体は、大きくは次のいずれかの製造方法によって製造が可能となる。
【0182】
方法A;
次の二つの重合工程(重合工程1および重合工程2)を連続的に実施することによって、要件[1]〜要件[6]を満たすプロピレン系ブロック共重合体を製造する方法(以下、この方法を「直重法」と呼び、この方法によって得られるプロピレン系ブロック共重合体を、プロピレン系ブロック共重合体(A)と呼ぶ場合がある)。
【0183】
(重合工程1)プロピレン並びに、必要に応じてエチレンおよび炭素原子数4〜20のα−オレフィンから選ばれる一種以上のオレフィンを固体状チタン触媒成分の存在下で(共)重合体を製造する工程(結晶性プロピレン系(共)重合体製造工程)。
【0184】
(重合工程2)プロピレン並びに、エチレンおよび炭素原子数4〜20のα−オレフィンから選ばれる一種以上のオレフィンを固体状チタン触媒成分の存在下で共重合体を製造する工程(共重合体ゴム製造工程)。
【0185】
方法B;
前記方法Aの重合工程1で生成する(共)重合体と、前記方法Aの重合工程2で生成する共重合体を、固体状チタン触媒成分の存在下で個別に製造した後に、これらを物理的手段によりブレンドする方法(以下、この方法「ブレンド法」と呼び、この方法によって得られるプロピレン系ブロック共重合体を、プロピレン系共重合体(B)と呼ぶ場合がある)。
【0186】
本発明に係るプロピレン系ブロック共重合体は、前述したオレフィン重合用触媒の存在下、方法Aに記載の通り、重合工程1においてプロピレンの媒体中でプロピレンの単独重合またはエチレンおよび炭素原子数4〜20のα−オレフィンから選ばれる1種以上のオレフィンに起因する骨格を1.5mol%を超えない量で含有するプロピレン系共重合の製造を行い、重合工程2でプロピレンとエチレンおよび炭素原子数が4〜20のα−オレフィンから選ばれる1種以上のオレフィンとの共重合を行い、最終的に得られたプロピレン系ブロック共重合体が室温n−デカンに可溶な部分(Dsol)5〜80重量%と室温n−デカンに不溶な部分(Dinsol)20〜95重量%から構成されることを特徴としている。
【0187】
上記のようなオレフィン重合用触媒を用いてプロピレンの単独重合を行うと、デカン不溶成分含有率が70重量%以上、好ましくは85重量%以上、特に好ましくは重量90%以上である立体規則性の高い、すなわち結晶性成分含有量の多いプロピレン系ブロック共重合体が得られる。
【0188】
さらに本発明のプロピレン系ブロック共重合体の製造方法によれば、本発明のオレフィン重合用触媒の作用により、多段重合を行わなくても、少ない段数の重合、例えば単段重合でも、分子量分布の広いプロピレン重合体を得ることができる。
【0189】
[プロピレン系樹脂組成物]
本発明に係るプロピレン系ブロック共重合体は、本発明の特性を損なわない範囲で、副資材とブレンドさせたプロピレン系樹脂組成物の形態をとることもできる。以下、代表的な副資材の例として、エラストマー、無機充填剤、および添加剤について説明する。
【0190】
<エラストマー>
エラストマーとしては、エチレン・α−オレフィンランダム共重合体ゴム、エチレン・α−オレフィン・非共役ポリエンランダム共重合体ゴム、水素添加ブロック共重合体ゴム、その他弾性重合体ゴム、およびこれらの混合物などが挙げられる。
【0191】
前記エチレン・α−オレフィンランダム共重合体は、エチレンと炭素原子数3〜20のα−オレフィンとのランダム共重合体ゴムである。上記炭素原子数3〜20のα−オレフィンとしては、具体的にはプロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、4−メチル−1−ペンテン、1−ヘプテン、1−オクテン、1−デセン、1−ドデセン、1−テトラデセン、1−ヘキサデセン、1−エイコセンなどが挙げられる。これらのα−オレフィンは、単独でまたは組み合せて用いることができる。これらの中では、特にプロピレン、1−ブテン、1−ヘキセン、1−オクテンが好ましく用いられる。
【0192】
エチレン・α−オレフィンランダム共重合体は、エチレンとα−オレフィンとのモル比(エチレン/α−オレフィン)が95/5〜70/30、好ましくは90/10〜75/25である。エチレン・α−オレフィンランダム共重合体は、230℃、荷重2.16kgにおけるMFRが0.1g/10min以上、好ましくは0.5〜5g/10minである。
【0193】
エチレン/α−オレフィンランダム共重合体のα−オレフィンがエチレンの場合、本発明に係るプロピレン系樹脂組成物は、プロピレン系ブロック共重合体の形態で製造しても良い。プロピレン系ブロック共重合体は、次の二つの重合工程(重合工程1および重合工程2)を連続的に実施することによって、製造することができる。
【0194】
(重合工程1)固体状チタン触媒成分の存在下でプロピレンと必要に応じて他のα−オレフィンとを重合し、プロピレン重合体成分を製造する工程(プロピレン重合体製造工程)。
【0195】
(重合工程2)固体状チタン触媒成分の存在下でプロピレン並びにエチレンを共重合することプロピレン−エチレン共重合体ゴム成分を製造する工程(共重合体ゴム製造工程)。
【0196】
なお、上記プロピレン−エチレン共重合体ゴムを製造する際には、エチレン/(エチレン+プロピレン)ガス比を、好ましくは5〜80モル%、より好ましくは10〜70モル%、さらに好ましくは15〜60モル%で制御して重合を行う。
【0197】
本発明に係るプロピレン系ブロック共重合体(A)は、前述した製造方法で製造されることが好ましく、重合工程1を前段で行い、重合工程2を後段で行うことがより好ましい。また、各重合工程(重合工程1、重合工程2)は2槽以上の重合槽を用いて行うこともできる。
【0198】
ここで、プロピレン重合体成分を製造する工程(上記製造方法の重合工程1)が、2槽以上の重合槽で行われる場合、各槽で生成されるプロピレン重合体の極限粘度[η]は4dl/g以下であることが好ましい。
【0199】
また、前記プロピレン−エチレン共重合体ゴム成分を製造する工程(上記製造方法の重合工程2)は、1段階で重合することが好ましい。
【0200】
<無機充填材>
前記プロピレン系樹脂被改質材料の必須の構成成分である無機充填材としては、タルク、硫酸マグネシウム繊維、ガラス繊維、炭素繊維、マイカ、炭酸カルシウム、水酸化マグネシウム、リン酸アンモニウム塩、珪酸塩類、炭酸塩類、カーボンブラック等の無機フィラーと、木粉、セルロース、ポリエステル繊維、ナイロン繊維、ケナフ繊維、竹繊維、ジュード繊維、米粉、澱粉、コーンスターチ等の有機フィラーとに大別される。
【0201】
前記無機フィラーとしては、タルク、硫酸マグネシウム繊維、ガラス繊維、炭素繊維が好適に使用される。
【0202】
<添加剤>
本発明で用いられる安定剤は、耐熱安定剤、耐候安定剤、耐光安定剤、塩化吸収剤、充填剤、結晶核剤、軟化剤、帯電防止剤、スリップ剤、アンチブロッキング剤、防曇剤、滑剤、染料、顔料、天然油、合成油、ワックス等の公知の安定剤を制限無く用いることができる。例えば公知のフェノール系安定剤、有機ホスファイト系安定剤、チオエーテル系安定剤、ヒンダードアミン系安定剤、ステアリン酸カルシウムなどの高級脂肪酸金属塩、無機酸化物などが挙げられる。
【0203】
本発明に用いられるプロピレン系ブロック共重合体(A)は、上記のとおり高分子量成分を比較的多く含む特徴がある。高分子量成分は、熱、光、剪断などのエネルギーにより比較的切断が起き易い傾向があることが知られている。分子切断が起こると分子量分布が狭くなり、高速成形性能の低下や大型成型品の製造が困難になる等の問題点が生じる可能性がある。したがって、上記の添加剤は従来に比して効果の高い添加剤を選択することや添加量を高めることが好ましい。
【0204】
[射出成形体]
本発明に係るプロピレン系ブロック共重合体および該プロピレン系ブロック共重合体を含むプロピレン系樹脂組成物は、射出成形品においてフローマークの外観不具合が無く、衝撃強度が良好である。
【0205】
したがって、前記射出成形体は用途が限定されることはないが、特にバンパー、サイドモール、フェンダー、アンダーカバー等の自動車外装部品、インストルメントパネル、ドアトリム、ピラー等の自動車内装部品、エンジンルーム周辺部品、その他自動車部品、家電部品、食品容器、飲料容器、医療容器、コンテナ等に好適に使用することができる。本発明の射出成形体の成形条件は、従来公知の条件を制限無く採用することができる。
【実施例】
【0206】
以下、実施例に基づいて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0207】
以下の実施例において、プロピレン系ブロック共重合体およびプロピレン系樹脂組成物の物性は下記の方法によって測定した。
【0208】
(1)分子量分布
液体クロマトグラフ:Waters製 ALC/GPC 150−C plus型 (示唆屈折計検出器一体型)
カラム:東ソー株式会社製 GMH6−HT×2本およびGMH6−HTL×2本を直列接続した。
【0209】
移動相媒体:o−ジクロロベンゼン
流速:1.0ml/分
測定温度:140℃
検量線の作成方法:標準ポリスチレンサンプルを使用した
サンプル濃度:0.10%(w/w)
サンプル溶液量:500μl
の条件で測定し、得られたクロマトグラムを公知の方法によって解析することでMw/Mn値およびMz/Mw値を算出した。1サンプル当たりの測定時間は60分であった。
【0210】
(2)GPC logM=2〜4のピーク有無
上記(1)に記載の方法にて測定し、得られたクロマトグラムについて、X軸を分子量Mの対数表示(LogM(範囲:1〜8))、Y軸を微分分子量分布(dw/d(LogM)(範囲:0〜1))とし、グラフのX軸とY軸の長さ比を5:3になるように微分分子量分布曲線を作成する。
【0211】
LogMが2〜4の範囲におけるピークの有無は、LogMにおいて2〜4の範囲で、グラフのX軸に平行の部位、あるいはX軸ベクトルに対して第一象限に30°の範囲内、かつ第四象限に45°の範囲内に線部を有するかどうかで判断される。
【0212】
(3)アイソタクティックペンダット分率(mmmm:〔%〕)
重合体の立体規則性の指標の1つであり、そのミクロタクティシティーを調べたペンタド分率(mmmm,%)は、プロピレン重合体においてMacromolecules 8,687(1975)に基づいて帰属した
13C−NMRスペクトルのピーク強度比より算出した。
13C−NMRスペクトルは、日本電子製EX−400の装置を用い、TMSを基準とし、温度130℃、o−ジクロロベンゼン溶媒を用いて測定した。
【0213】
(4)23℃n−デカン可溶(不溶)成分量(〔wt%〕)
ガラス製の測定容器にプロピレン系ブロック共重合体約3g(10
-4gの単位まで測定した。また、この重量を、下式においてb(g)と表した。)、デカン500ml、およびデカンに可溶な耐熱安定剤を少量装入し、窒素雰囲気下、スターラーで攪拌しながら2時間で150℃に昇温してプロピレン系ブロック共重合体を溶解させ、150℃で2時間保持した後、8時間かけて23℃まで徐冷した。得られたプロピレン系ブロック共重合体の析出物を含む液を、磐田ガラス社製25G−4規格のグラスフィルターで減圧ろ過した。ろ液の100mlを採取し、これを減圧乾燥してデカン可溶成分の一部を得、この重量を10
-4gの単位まで測定した(この重量を、下式においてa(g)と表した)。この操作の後、デカン可溶成分量を下記式によって決定した。
【0214】
23℃n−デカン可溶成分(Dsol)含有率=100×(500×a)/(100×b)
23℃n−デカン不溶成分(Dinsol)含有率=100−100×(500×a)/(100×b)
(5)プロピレンに由来する骨格の含量(C3量)
Dsol中のプロピレンに由来する骨格濃度を測定するために、サンプル20〜30mgを1,2,4−トリクロロベンゼン/重ベンゼン(2:1)溶液0.6mlに溶解後、炭素核磁気共鳴分析(
13C−NMR)を行った。プロピレンの定量はダイアッド連鎖分布より求めた。プロピレン−エチレン共重合体の場合、PP=Sαα、EP=Sαγ+Sαβ、EE=1/2(Sβδ+Sδδ)+1/4Sγδを用い、以下の計算式により求めた。
【0215】
プロピレン(mol%)=(PP+1/2EP)×100/[(PP+1/2EP)+(1/2EP+EE)
エチレン(mol%)=(1/2EP+EE)×100/[(PP+1/2EP)+(1/2EP+EE)
(6)極限粘度([η]:〔dl/g〕)
テトラリン溶媒を用いて、135℃で測定した。
【0216】
(7)メルトフローレート(MFR:〔g/10分〕)
ASTM D1238Eに準拠し、2.16kg荷重で測定した。測定温度は230℃とした。
【0217】
(8)曲げ弾性率
曲げ弾性率(FM:〔MPa〕)は、ISO178に従って、下記の条件で測定した。
<測定条件>
試験片:10mm(幅)×4mm(厚さ)×80mm(長さ)
曲げ速度:2mm/分
曲げスパン:64mm
(9)シャルピー衝撃試験
シャルピー衝撃試験(〔kJ/m
2〕)は、ISO179に従って、下記の条件で測定した。
<試験条件>
温度:23℃、−10℃
試験片:10mm(幅)×4mm(厚さ)×80mm(長さ)
ノッチは機械加工。
【0218】
(10)射出成形品外観(フローマーク発生開始距離)
射出成形品のフローマークは、長さ420mm、幅100mm、厚み2mmの平板が成形可能で中央部(50mm)にゲートを持つ射出成形金型を用いた。ここで、ゲートからフローマークが発生した面積を目視で評価した。なお、本試験では、フローマークを判定しやすくする為、プロピレン系樹脂組成物100重量部に対して、黒着色マスターバッチ2重量部をドライブレンドして、射出成形を行った。
【0219】
<試験片射出成形条件>
射出成形機:品番 IS150E 東芝機械(株)製
シリンダー温度:220℃
金型温度:40℃
射出時間(一次充填時間):4秒
保圧時間:10秒
成形品形状およびフローマーク評価方法:
図3に示す。
【0220】
[実施例1]
(1)固体状チタン触媒成分(1)の調製
内容積2リットルの高速撹拌装置(特殊機化工業製(TKホモミクサーM型))を充分窒素置換した後、この装置に精製デカン700ml、市販塩化マグネシウム10g、エタノール24.2gおよび商品名レオドールSP−S20(花王(株)製ソルビタンジステアレート)3gを入れ、この懸濁液を撹拌しながら系を昇温し、懸濁液を120℃にて800rpmで30分撹拌した。次いでこの懸濁液を、沈殿物が生じないように高速撹拌しながら、内径5mmのテフロン(登録商標)製チューブを用いて、予め−10℃に冷却された精製デカン1リットルを張り込んである2リットルのガラスフラスコ(攪拌機付)に移した。移液により生成した固体を濾過し、精製n−ヘプタンで充分洗浄することにより、塩化マグネシウム1モルに対してエタノールが2.8モル配位した固体状付加物を得た。
【0221】
この固体状付加物をデカンで懸濁状にして、マグネシウム原子に換算して23ミリモルの上記固体状付加物を、−20℃に保持した四塩化チタン100ml中に、攪拌下、導入して混合液を得た。この混合液を5時間かけて80℃に昇温し、80℃に達したところで、3,6−ジメチルシクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸ジイソブチル(シス体、トランス体混合物)を、固体状付加物のマグネシウム原子1モルに対して0.085モルの割合の量で添加し、40分間で110℃まで昇温した。110℃に到達したところで更にシクロヘキサン1,2−ジカルボン酸ジイソブチル(シス体、トランス体混合物)を固体状付加物のマグネシウム原子1モルに対して0.0625モルの割合の量で添加し、温度を110℃で90分間攪拌しながら保持することによりこれらを反応させた。
【0222】
90分間の反応終了後、熱濾過にて固体部を採取し、この固体部を100mlの四塩化チタンにて再懸濁させた後、昇温して110℃に達したところで、45分間撹拌しながら保持することによりこれらを反応させた。45分間の反応終了後、再び熱濾過にて固体部を採取し、100℃のデカンおよびヘプタンで、洗液中に遊離のチタン化合物が検出されなくなるまで充分洗浄した。
【0223】
以上の操作によって調製した固体状チタン触媒成分(1)はデカン懸濁液として保存したが、この内の一部を、触媒組成を調べる目的で乾燥した。
【0224】
このようにして得られた固体状チタン触媒成分(α−1)の組成はチタン3.2質量%、マグネシウム17質量%、塩素57質量%、3,6−ジメチルシクロヘキサン1,2−ジカルボン酸ジイソブチル10.6質量%、シクロヘキサン1,2−ジカルボン酸ジイソブチル8.9質量%およびエチルアルコール残基0.6質量%であった。
【0225】
(2)予備重合触媒(1)の製造
固体状チタン触媒成分(1)70g、トリエチルアルミニウム128mL、ジエチルアミノトリエトキシシラン36.3ml、ヘプタン10.0Lを内容量20Lの攪拌機付きオートクレーブに挿入し、内温15〜20℃に保ちプロピレンを700g挿入し、60分間攪拌しながら反応させた。重合終了後、固体成分を沈降させ、上澄み液の除去およびヘプタンによる洗浄を2回行った。得られた予備重合触媒(1)を精製ヘプタンに再懸濁して、濃度1.0g/Lとなるよう、ヘプタンにより調整を行った。
【0226】
(3)本重合
内容量58Lのジャケット付循環式管状重合器にプロピレンを40kg/時間、水素を188NL/時間、予備重合触媒(1)のヘプタンスラリーを予備重合触媒(1)として0.55g/時間、トリエチルアルミニウム4.0ml/時間、ジエチルアミノトリエトキシシラン2.9ml/時間を連続的に供給し、気相の存在しない満液の状態にて重合した。管状重合器の温度は70℃であり、圧力は3.5MPa/Gであった。
【0227】
得られたスラリーは内容量100Lの攪拌機付きベッセル重合器へ送り、更に重合を行った。重合器へは、プロピレンを15kg/時間、水素を気相部の水素濃度が8.9mol%になるように供給した。重合温度69℃、圧力3.4MPa/Gで重合を行った。
【0228】
得られたスラリーを内容量2.4Lの移液管に移送し、当該スラリーをガス化させ、気固分離を行った後、内容量480Lの気相重合器にポリプロピレンホモポリマーパウダーを送り、エチレン/プロピレンブロック共重合を行った。気相重合器内のガス組成が、エチレン/(エチレン+プロピレン)=0.18(モル比)、水素/エチレン=0.13(モル比)になるようにプロピレン、エチレン、水素を連続的に供給した。重合温度70℃、圧力1.90MPa/Gで重合を行った。
【0229】
得られたプロピレン系ブロック共重合体は、80℃で真空乾燥を行った。
【0230】
得られたプロピレン系ブロック共重合体100重量部に対して、耐熱安定剤IRGANOX1010(チバガイギー(株)商標)0.1重量部、耐熱安定剤IRGAFOS168(チバガイギー(株)商標)0.1重量部、耐熱安定剤IRGANOX1076(チバガイギー(株)商標)0.1重量部、ステアリン酸カルシウム0.1重量部をタンブラーにて混合後、二軸押出機にて下記条件にて溶融混練してペレット状のポリプロピレン樹脂組成物を調製し、さらに射出成形機にて成形品を作成した。
【0231】
<溶融混練条件>
同方向二軸混練機:品番 NR2−36、ナカタニ機械(株)製
混練温度:190℃
スクリュー回転数:200rpm
フィーダー回転数:400rpm
ホッパー内に窒素フロー有り
<機械物性測定用成形品/射出成形条件>
射出成形機:品番 NEX110−12E、日精樹脂射出成形機(株)製
シリンダー温度:195℃
金型温度:40℃
射出時間−保圧時間:42秒(一次充填時間:2秒)
冷却時間:10秒。
【0232】
[比較例1]
(1)固体状チタン触媒成分(2)の調製
無水塩化マグネシウム95.2g、デカン442mlおよび2−エチルヘキシルアルコール390.6gを130℃で2時間加熱反応を行って均一溶液とした後、この溶液中に無水フタル酸21.3gを添加し、さらに130℃にて1時間攪拌混合を行い、無水フタル酸を溶解させた。
【0233】
このようにして得られた均一溶液を23℃に冷却した後、−20℃に保持した四塩化チタン200ml中に、この均一溶液の75mlを1時間にわたって滴下装入した。装入終了後、この混合液の温度を4時間かけて110℃に昇温し、110℃に達したところでフタル酸ジイソブチル(DIBP)5.22gを添加し、これより2時間同温度にて攪拌保持した。
【0234】
2時間の反応終了後、熱濾過にて固体部を採取し、この固体部を275mlの四塩化チタンに再懸濁させた後、再び110℃で2時間、加熱した。反応終了後、再び熱濾過にて固体部を採取し、110℃のデカンおよびヘキサンにて溶液中に遊離のチタン化合物が検出されなくなるまで充分洗浄した。
【0235】
ここで、この遊離チタン化合物の検出は次の方法で確認した。予め窒素置換した100mlの枝付きシュレンクに上記固体触媒成分の上澄み液10mlを注射器で採取し装入した。次に、窒素気流にて溶媒ヘキサンを乾燥し、さらに30分間真空乾燥した。これに、イオン交換水40ml、(1+1)硫酸10mlを装入し30分間攪拌した。この水溶液をろ紙を通して100mlメスフラスコに移し、続いて鉄(II)イオンのマスキング剤としてconc.H
3PO
4 1mlとチタンの発色試薬として3%H
2O
2 5mlを加え、さらにイオン交換水で100mlにメスアップしたこのメスフラスコを振り混ぜ、20分後にUVを用い420nmの吸光度を観測しこの吸収が観測されなくなるまで遊離チタンの洗浄除去を行った。
【0236】
上記のように調製された固体状チタン触媒成分(2)は、デカンスラリーとして保存したが、この内の一部を触媒組成を調べる目的で乾燥した。このようにして得られた固体状チタン触媒成分(2)の組成は、チタン2.3重量%、塩素61重量%、マグネシウム19重量%、DIBP12.5重量%であった。
【0237】
(2)予備重合触媒(2)の製造
固体状チタン触媒成分(2)70g、トリエチルアルミニウム91.8mL、ジエチルアミノトリエトキシシラン26.1ml、ヘプタン10.0Lを内容量20Lの攪拌機付きオートクレーブに挿入し、内温15〜20℃に保ちプロピレンを700g挿入し、60分間攪拌しながら反応させた。重合終了後、固体成分を沈降させ、上澄み液の除去およびヘプタンによる洗浄を2回行った。得られた予備重合触媒(2)を精製ヘプタンに再懸濁して、濃度1.0g/Lとなるよう、ヘプタンにより調整を行った。
【0238】
(3)本重合
内容量58Lのジャケット付循環式管状重合器にプロピレンを40kg/時間、水素を188NL/時間、予備重合触媒(2)のヘプタンスラリーを予備重合触媒(2)として0.32g/時間、トリエチルアルミニウム2.9ml/時間、ジエチルアミノトリエトキシシラン1.2ml/時間を連続的に供給し、気相の存在しない満液の状態にて重合した。管状重合器の温度は70℃であり、圧力は3.5MPa/Gであった。
【0239】
得られたスラリーは内容量100Lの攪拌機付きベッセル重合器へ送り、更に重合を行った。重合器へは、プロピレンを15kg/時間、水素を気相部の水素濃度が9.0mol%になるように供給した。重合温度69℃、圧力3.4MPa/Gで重合を行った。
【0240】
得られたスラリーを内容量2.4Lの移液管に移送し、当該スラリーをガス化させ、気固分離を行った後、内容量480Lの気相重合器にポリプロピレンホモポリマーパウダーを送り、エチレン/プロピレンブロック共重合を行った。気相重合器内のガス組成が、エチレン/(エチレン+プロピレン)=0.20(モル比)、水素/エチレン=0.13(モル比)になるようにプロピレン、エチレン、水素を連続的に供給した。重合温度70℃、圧力1.4MPa/Gで重合を行った。
【0241】
得られたプロピレン系ブロック共重合体は、80℃で真空乾燥を行った。
【0242】
実施例1と同様に、二軸押出機にて溶融混練してペレット状のポリプロピレン樹脂組成物を調製、射出成形機にて成形品を作成した。
【0243】
[比較例2]
(2)予備重合触媒(3)の製造
固体状チタン触媒成分(1)70g、トリエチルアルミニウム38.3mL、ヘプタン10.0Lを内容量20Lの攪拌機付きオートクレーブに挿入し、内温15〜20℃に保ちプロピレンを700g挿入し、60分間攪拌しながら反応させた。得られた予備重合触媒(3)を精製ヘプタンに再懸濁して、濃度1.0g/Lとなるよう、ヘプタンにより調整を行った。
【0244】
(3)本重合
内容量58Lのジャケット付循環式管状重合器にプロピレンを40kg/時間、水素を175NL/時間、予備重合触媒(3)のヘプタンスラリーを予備重合触媒(3)として0.34g/時間、トリエチルアルミニウム2.5ml/時間、ジエチルアミノトリエトキシシラン1.8ml/時間を連続的に供給し、気相の存在しない満液の状態にて重合した。管状重合器の温度は70℃であり、圧力は3.5MPa/Gであった。
【0245】
得られたスラリーは内容量100Lの攪拌機付きベッセル重合器へ送り、更に重合を行った。重合器へは、プロピレンを15kg/時間、水素を気相部の水素濃度が7.7mol%になるように供給した。重合温度69℃、圧力3.4MPa/Gで重合を行った。
【0246】
得られたスラリーを内容量2.4Lの移液管に移送し、当該スラリーをガス化させ、気固分離を行った後、内容量480Lの気相重合器にポリプロピレンホモポリマーパウダーを送り、エチレン/プロピレンブロック共重合を行った。気相重合器内のガス組成が、エチレン/(エチレン+プロピレン)=0.20(モル比)、水素/エチレン=0.076(モル比)になるようにプロピレン、エチレン、水素を連続的に供給した。重合温度70℃、圧力1.6MPa/Gで重合を行った。
【0247】
得られたプロピレン系ブロック共重合体は、80℃で真空乾燥を行った。
【0248】
実施例1と同様に、二軸押出機にて溶融混練してペレット状のポリプロピレン樹脂組成物を調製、射出成形機にて成形品を作成した。
【0249】
【表1】