特開2015-180198(P2015-180198A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特開2015-180198表皮セリンラセマーゼ及び/又はD−セリン量を指標とした、皮膚のバリア機能亢進薬剤のスクリーニング方法並びに皮膚バリア機能評価方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2015-180198(P2015-180198A)
(43)【公開日】2015年10月15日
(54)【発明の名称】表皮セリンラセマーゼ及び/又はD−セリン量を指標とした、皮膚のバリア機能亢進薬剤のスクリーニング方法並びに皮膚バリア機能評価方法
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/533 20060101AFI20150918BHJP
   C12Q 1/02 20060101ALI20150918BHJP
   C12Q 1/68 20060101ALI20150918BHJP
   A61K 36/899 20060101ALI20150918BHJP
   A61K 36/18 20060101ALI20150918BHJP
   A61K 36/28 20060101ALI20150918BHJP
   A61K 31/675 20060101ALI20150918BHJP
   A61P 17/16 20060101ALI20150918BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20150918BHJP
   A61K 8/97 20060101ALI20150918BHJP
   A61K 8/67 20060101ALI20150918BHJP
   A61Q 19/08 20060101ALI20150918BHJP
   A61K 31/4415 20060101ALI20150918BHJP
   A61Q 19/00 20060101ALI20150918BHJP
   G01N 33/15 20060101ALI20150918BHJP
   G01N 33/50 20060101ALI20150918BHJP
   C12N 15/09 20060101ALN20150918BHJP
【FI】
   C12Q1/533ZNA
   C12Q1/02
   C12Q1/68 A
   A61K35/78 U
   A61K35/78 C
   A61K35/78 T
   A61K31/675
   A61P17/16
   A61P43/00 111
   A61K8/97
   A61K8/67
   A61Q19/08
   A61K31/4415
   A61Q19/00
   G01N33/15 Z
   G01N33/50 Z
   C12N15/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2015-44097(P2015-44097)
(22)【出願日】2015年3月5日
(31)【優先権主張番号】特願2014-43073(P2014-43073)
(32)【優先日】2014年3月5日
(33)【優先権主張国】JP
【新規性喪失の例外の表示】申請有り
(71)【出願人】
【識別番号】000001959
【氏名又は名称】株式会社 資生堂
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100077517
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 敬
(74)【代理人】
【識別番号】100087871
【弁理士】
【氏名又は名称】福本 積
(74)【代理人】
【識別番号】100087413
【弁理士】
【氏名又は名称】古賀 哲次
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100150810
【弁理士】
【氏名又は名称】武居 良太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100166165
【弁理士】
【氏名又は名称】津田 英直
(72)【発明者】
【氏名】東條 洋介
(72)【発明者】
【氏名】飯野 雅人
(72)【発明者】
【氏名】水本 智恵子
(72)【発明者】
【氏名】吉田 雄三
(72)【発明者】
【氏名】松浦 有宇子
(72)【発明者】
【氏名】森 寿
【テーマコード(参考)】
2G045
4B024
4B063
4C083
4C086
4C088
【Fターム(参考)】
2G045AA24
4B024AA11
4B024CA09
4B024HA14
4B063QA18
4B063QA20
4B063QQ08
4B063QQ39
4B063QQ42
4B063QQ53
4B063QQ61
4B063QQ79
4B063QQ80
4B063QQ92
4B063QQ93
4B063QR19
4B063QR32
4B063QR36
4B063QR41
4B063QR48
4B063QR49
4B063QR55
4B063QR62
4B063QR65
4B063QR77
4B063QS03
4B063QS12
4B063QS17
4B063QS25
4B063QS36
4B063QX02
4C083AA111
4C083AD631
4C083CC02
4C083EE12
4C086AA01
4C086AA02
4C086BC18
4C086DA36
4C086MA63
4C086NA14
4C086ZA89
4C086ZC41
4C088AB26
4C088AB75
4C088AB81
4C088AC01
4C088AC04
4C088AC05
4C088AC11
4C088BA08
4C088BA16
4C088CA03
4C088MA63
4C088NA14
4C088ZA89
4C088ZC41
(57)【要約】
【課題】本発明の課題は、in vitro実験で皮膚のバリア機能を高める効果を有する薬剤のスクリーニング法の開発し、皮膚における皮膚のバリア機能を評価することにある。
【解決手段】セリンラセマーゼの活性及び/又は発現量を指標とすることにより、候補薬剤のスクリーニングか可能になった。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケラチノサイトにおいて、セリンラセマーゼの活性若しくは発現量、及び/又はD−セリン量を指標とする、皮膚のバリア機能亢進薬剤のスクリーニング方法。
【請求項2】
以下の:
ケラチノサイトに、候補薬剤を添加する工程、
ケラチノサイトにおいてセリンラセマーゼの活性若しくは発現量、及び/又はD−セリン量を測定する工程、
セリンラセマーゼ発現量若しくは活性、及び/又はD−セリン量から、候補薬剤の皮膚のバリア機能亢進作用を決定する工程
を含む、請求項1に記載のスクリーニング方法。
【請求項3】
ケラチノサイトを分化誘導する工程をさらに含む、請求項2に記載のスクリーニング方法。
【請求項4】
前記スクリーニング方法が、分化誘導されたケラチノサイトにおいて行われる、請求項1に記載のスクリーニング方法。
【請求項5】
セリンラセマーゼ発現量の測定が、セリンラセマーゼのmRNA又はタンパク質の量を測定することにより行われる、請求項1〜4のいずれか一項に記載のスクリーニング方法。
【請求項6】
セリンラセマーゼ活性の測定が、セリンラセマーゼによる、基質の変換効率の測定もしくはD-アミノ酸生成物の量を測定することによる、請求項1〜4のいずれか一項に記載のスクリーニング方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか一項に記載のスクリーニング方法によって得られた、加水分解カラス麦タンパク、ルムプヤン抽出物、シロバナイガコウゾリナ抽出物、ピリドキサールリン酸、及びビタミンB6類からなる群から選ばれる1又は複数の物質を有効成分とするセリンラセマーゼ活性化剤。
【請求項8】
ヒト皮膚から単離した皮膚サンプルからセリンラセマーゼ活性若しくは発現量及び/又はD−セリン量を指標とする、皮膚バリア機能を評価する方法。
【請求項9】
以下の:
対象から単離された皮膚サンプルにおいて、セリンラセマーゼ活性若しくは発現量及び/又はD−セリン量を測定する工程、
セリンラセマーゼ活性若しくは発現量及び/又はD−セリン量から、対象の皮膚のバリア機能を決定する工程
を含む、請求項8に記載の皮膚バリア機能を評価する方法。
【請求項10】
セリンラセマーゼ発現量の測定が、セリンラセマーゼのmRNA又はタンパク質の量を測定することにより行われる、請求項8又は9に記載の皮膚バリア機能を評価する方法。
【請求項11】
セリンラセマーゼ活性の測定が、セリンラセマーゼによる、基質の変換効率の測定もしくはD-アミノ酸生成物の量を測定することによる、請求項8又は9に記載の皮膚バリア機能を評価する方法。
【請求項12】
請求項1〜6のいずれか一項に記載のスクリーニング方法によって得られた、加水分解カラス麦タンパク、ルムプヤン抽出物、シロバナイガコウゾリナ抽出物、ピリドキサールリン酸、及びビタミンB6類からなる群から選ばれる1又は複数の物質を含む皮膚のバリア機能亢進剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、皮膚のバリア機能亢進薬剤のスクリーニング方法、並びに皮膚における皮膚のバリア機能の評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
皮膚のバリア機能が失われると、皮膚の水分が失われ、また外部からの異物の侵入が生じ、敏感肌や乾燥肌、肌荒れをはじめ、皮膚炎及びアレルギーなどの原因となる。したがって、機能性食品、化粧品又は医薬品の開発の観点から皮膚のバリア機能を高める薬剤の開発が望まれている。皮膚バリア機能を高める要素としては細胞間脂質の量を増加させたり、配列を整えるなどの方法が知られており、例えば特許文献1に示すように細胞間脂質の産生を促進させる薬剤等が開発されている。
【0003】
皮膚のバリア機能の指標として、経表皮水分蒸発量(TEWL)や色素等の指標物質を用いた皮膚に対する浸透度などが挙げられる。皮膚のTEWLは、Vapometerなどの装置を用いて測定することができるが、水分量の測定は大気中の水分量や空気の流れ、本人の体温、心理状態、汗などの測定環境に大きく影響を受けて不安定になりやすい指標であるため、より安定的に皮膚のバリア機能を評価できる方法が望まれている。指標物質の浸透度を皮膚のバリア機能の指標とする場合、色素等の指標物質を皮膚に適用しなくてはならず、皮膚に対する負担が大きかった。
【0004】
皮膚のバリア機能を高める効果を有する薬剤を数多くの候補薬剤からスクリーニングするには、皮膚バリア機能の指標としてTEWLを用いて、in vivoで実験を行うことができるが、測定環境に大きく影響を受けて不安定であり、生理的又は構造的に皮膚バリア機能を高める効果を有する薬剤を、数多くの候補薬剤からスクリーニングすることは困難であった。一方で、かかるスクリーニング方法として、単離した皮膚を用いて、バリア機能の回復および亢進に関与する皮膚内在性の因子の測定し、バリア機能の回復および亢進を評価する方法も考えられるが、少量の試料で簡便に評価できる適切な因子がなく、そのような因子の特定が望まれていた。
【0005】
一方で、アミノ酸には、光学異性体としてL体とD体とがあることが知られており、生体を構成するアミノ酸は、主としてL体であり、D体のアミノ酸は、細菌のペプチドグリカンなど極めて限られた生体成分であると考えられていた。しかしながら、近年の研究の成果により、微生物のみならず、植物や哺乳動物にも様々なD−アミノ酸が遊離型として又はタンパク質を構成するアミノ酸残基として存在して、多様な生理機能を発揮していることが明らかにされてきている。哺乳動物における遊離型のD−アミノ酸としては、D−セリンとD−アスパラギン酸が最初に見出された。D−セリンは、大脳、海馬に局在し、NMDA受容体のコアゴニストとして作用して、興奮性の神経伝達の制御に役割を果たすことが見出されている(非特許文献1)。また、D−アスパラギン酸は、精巣や松果体に局在が認められ、ホルモン分泌の制御に関与することが見出されている。一方で近年のD−アミノ酸研究の成果により、D−セリン、D−アスパラギン酸、D−アラニン、D−グルタミン酸、及びD−プロリンが、真皮と表皮に存在することが明らかにされており、また加齢とともに減少することが示されていた(非特許文献2)。この中で、D−セリンは表皮・角層において最も含量の高いD−アミノ酸でありながらも、D−セリンの皮膚において果たす役割については、真皮における繊維芽細胞において紫外線障害を軽減する作用は見出されていたものの(特許文献2)、含量の高い表皮においては未だ明らかにされていなかった。
【0006】
D−アミノ酸の生成に関わる酵素として、アミノ酸ラセマーゼが知られており、ピリドキサールリン酸(PLP)に依存する酵素と、補因子を要求しないラセマーゼに分類されている。哺乳動物を含む真核細胞にD−アミノ酸が存在するという報告を契機に、PLP依存性のセリンラセマーゼが哺乳動物に存在することが報告されている(非特許文献3)が、アスパラギン酸ラセマーゼについては哺乳動物では、未だラセマーゼ活性を伴って存在されているかどうかは確認されていない。D−セリンが、大脳、海馬に局在することから、セリンラセマーゼは脳において発現することがヒトを含めた哺乳類で確かめられているが、その他の組織における発現についてはほとんど報告はされていない(非特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2012−92032号公報
【特許文献2】WO2011/030903号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】S.H. Snyder, et al., NeuroChem Res 25, 553 (2000)
【非特許文献2】Y. Tojo, Food Style 21, 2013, August, (Vo. 17, No.8)
【非特許文献3】Molecular Brain Research, Vo l. 125, pp. 96-104, 2004
【非特許文献4】機能性化粧品素材開発のための実験プロトコール集、シーエムシー出版、2010年、第214〜216頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
皮膚のバリア機能を高めるために、細胞間脂質の量を増加させたり、配列を整えることが着目されている。一方で、皮膚のバリア機能を亢進・修復する上で、健常な角層の層数そのものを増加させることが、生理的又は構造的に皮膚のバリア機能を高める観点からより有効なアプローチであると考えられる。しかしながら、これまでそのような作用を有する薬剤は知られておらず、さらにこれをスクリーニングにより見出すことは、上述のごとく困難であった。したがって、生理的又は構造的に皮膚のバリア機能を高める効果を有する薬剤のスクリーニング方法の開発が望まれていた。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、皮膚における機能が未だ知られていないD−セリンについて鋭意研究を行ったところ、D−セリンが皮膚バリア機能に寄与することを見出した。また、D-セリンの培養ケラチノサイトに与える影響を調べたところ、バリア機能形成に重要な役割を有するフィラグリンをはじめ、周辺帯(CE)形成に関与するコーニュリンやレペチンの発現が見られた。これらの知見に基づき、ケラチノサイトにおいて、D−セリン量、さらにはL−セリンからD−セリンを生成するセリンラセマーゼの発現量又は活性を指標とすることにより、皮膚のバリア機能を高める効果を有する薬剤のスクリーニング方法を提供すること、さらに被験者に負担の少ない、簡便で安定的な皮膚のバリア機能亢進の評価が可能になり、本発明に至った。かかるスクリーニング方法を用いることで、皮膚バリア機能を亢進させる薬剤をスクリーニングできた。
【0011】
具体的に、本発明者らは、以下の発明を完成させた:
[1] ケラチノサイトにおいて、セリンラセマーゼの活性若しくは発現量、及び/又はD−セリン量を指標とする、皮膚のバリア機能亢進薬剤のスクリーニング方法。
[2] 以下の:
ケラチノサイトに、候補薬剤を添加する工程、
ケラチノサイトにおいてセリンラセマーゼの活性若しくは発現量、及び/又はD−セリン量を測定する工程、
セリンラセマーゼ発現量若しくは活性、及び/又はD−セリン量から、候補薬剤の皮膚のバリア機能亢進作用を決定する工程
を含む、項目1に記載のスクリーニング方法。
[3] ケラチノサイトを分化誘導する工程をさらに含む、項目2に記載のスクリーニング方法。
[4] 前記スクリーニング方法が、分化誘導されたケラチノサイトにおいて行われる、項目1に記載のスクリーニング方法。
[5] セリンラセマーゼ発現量の測定が、セリンラセマーゼのmRNA又はタンパク質の量を測定することにより行われる、項目1〜4のいずれか一項に記載のスクリーニング方法。
[6] セリンラセマーゼ活性の測定が、基質の変換効率の測定もしくはD-アミノ酸生成物の量を測定することによる、項目1〜4のいずれか一項に記載のスクリーニング方法。
[7] 項目1〜6に記載のスクリーニング方法によって得られた、加水分解カラス麦タンパク、ルムプヤン抽出物、シロバナイガコウゾリナ抽出物、ピリドキサールリン酸、及びビタミンB6類からなる群から選ばれる1又は複数の物質を有効成分とするセリンラセマーゼ活性化剤。
[8] ヒト皮膚から単離した皮膚サンプルからセリンラセマーゼ活性若しくは発現量及び/又はD−セリン量を指標とする、皮膚バリア機能を評価する方法。
[9] 以下の:
対象から単離された皮膚サンプルにおいて、セリンラセマーゼ活性若しくは発現量及び/又はD−セリン量を測定する工程、
セリンラセマーゼ活性若しくは発現量及び/又はD−セリン量から、対象の皮膚のバリア機能を決定する工程
を含む、項目8に記載の皮膚バリア機能を評価する方法。
[10] セリンラセマーゼ発現量の測定が、セリンラセマーゼのmRNA又はタンパク質の量を測定することにより行われる、項目8又は9に記載の皮膚バリア機能を評価する方法。
[11] セリンラセマーゼ活性の測定が、セリンラセマーゼによる、基質の変換効率の測定もしくはD-アミノ酸生成物の量を測定することによる、項目8又は9に記載の方法。
[12] 項目1〜6に記載のスクリーニング方法によって得られた、加水分解カラス麦タンパク、ルムプヤン抽出物、シロバナイガコウゾリナ抽出物、ピリドキサールリン酸、及びビタミンB6類からなる群から選ばれる1又は複数の物質を含む皮膚のバリア機能亢進剤。
[13] 皮膚バリア機能が低下した対象に対して、加水分解カラス麦タンパク、ルムプヤン抽出物、シロバナイガコウゾリナ抽出物、ピリドキサールリン酸、及びビタミンB6類からなる群から選ばれる1又は複数の物質を投与することを含む、皮膚バリア機能亢進方法。
[14] セリンラセマーゼ活性が低下した対象に対して、加水分解カラス麦タンパク、ルムプヤン抽出物、シロバナイガコウゾリナ抽出物、ピリドキサールリン酸、及びビタミンB6類からなる群から選ばれる1又は複数の物質を投与することを含む、セリンラセマーゼ活性化方法。
[15] セリンラセマーゼ活性化剤の製造のための、加水分解カラス麦タンパク、ルムプヤン抽出物、シロバナイガコウゾリナ抽出物、ピリドキサールリン酸、及びビタミンB6類の使用。
[16] 皮膚バリア機能亢進剤の製造のための、加水分解カラス麦タンパク、ルムプヤン抽出物、シロバナイガコウゾリナ抽出物、ピリドキサールリン酸、及びビタミンB6類の使用。
【発明の効果】
【0012】
本発明のスクリーニング方法を用いることにより、皮膚バリア機能を改善又は亢進可能な薬剤の選択が可能になる。また、本発明の皮膚バリア機能の評価方法により、皮膚バリア機能を細胞レベル若しくは組織レベルで、又は生化学的に判定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1Aは、高TEWL群と、低TEWL群の皮膚における遊離L−セリンの量の比較を示す。図1Bは、高TEWL群と、低TEWL群の皮膚における遊離D−セリンの量の比較を示す。
図2図2は、培養ケラチノサイトにおいて、分化誘導刺激を与える前後における、細胞内D−セリンを検出したクロマトグラムである。
図3図3Aは、候補薬剤の一つである加水分解カラス麦タンパク液が、遊離D−セリン量を増加させたことを示す図である。図3Bは、候補薬剤の一つである加水分解カラス麦タンパク液が、セリンラセマーゼの発現を増加させたことを示す図である。
図4図4は、候補薬剤の一つであるピリドキサールリン酸(PLP)を培養ケラチノサイトに添加することにより、遊離D−セリン量を増加させたことを示す図である。
図5図5は、D-セリンが、3次元皮膚モデルにおいて、フィラグリン遺伝子の発現を増加させたことを示す図である。
図6図6は、D-セリンが、3次元皮膚モデルにおいて、コーニュリン遺伝子の発現を増加させたことを示す図である。
図7図7は、D-セリンが、3次元皮膚モデルにおいて、レペチン遺伝子の発現を増加させたことを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明は、ケラチノサイトにおいて、セリンラセマーゼの発現量、活性、及びD−セリン量である指標の1種または2種以上を組み合わせた、皮膚のバリア機能亢進薬剤のスクリーニング方法に関する。
【0015】
本発明のスクリーニング方法では、皮膚バリア機能亢進作用を有する薬剤の取得が可能になる。ここで、皮膚のバリア機能とは、皮膚の水分を保持したり、外部から異物が侵入するのを防ぐ機能であり、表皮の中でも特に、角質層が、かかる機能を担っている。皮膚バリア機能は、経表皮水分蒸発量(TEWL)により測定可能であり、この水分蒸発量が高いほど、皮膚バリア機能は低いと考えられている。皮膚バリア機能の亢進は、例えば、角質層の層数の増加や、角質層における角化外膜(コーニファイドエンベロープ)の成熟化や、細胞間脂質、例えばコレステロールやセラミドの増加などにより達成されうるが、これらに限定されることを意図するものではない。したがって、理論に束縛されることを意図するものではないが、本発明のスクリーニング方法により選択された薬剤は、皮膚に対して適用することにより、セリンラセマーゼの発現若しくは活性を亢進すること、又はD−セリン量を増加させることができ、その結果として、角質層における層数増加などの効果を発揮し、皮膚バリア機能を亢進することができると考えられる。
【0016】
本発明のスクリーニング方法に供される候補薬剤は、任意の化合物、例えばリコンビナトリアルライブラリーから得られる化合物であってもよいし、混合物や抽出物であってもよい。候補薬剤としては、例えば食品素材、化粧品素材若しくは医薬品素材の化合物、混合物又は抽出物ライブラリーを用いることもできる。本発明により、皮膚バリア機能亢進作用を有するとされた薬剤は、機能性食品や栄養食品などの食品、化粧品、医薬品又は医薬部外品へと適用することができる。化粧品としては、例えば、化粧水、クリーム、乳液、ジェル、美容液、軟膏、パック、入浴剤、ボディソープ、シャンプー、リンス、ファンデーションなどに適用可能であるがこれらに限定されることを意図するものではない。より好ましくは、敏感肌用の化粧料、例えば化粧水、クリーム、乳液、美容液などに適用される。医薬品又は医薬部外品であれば、経皮投与用の各種の軟膏、クリームなどの形態や、経口投与用の形態に適用可能である。
【0017】
本発明のスクリーニング方法では、ケラチノサイトにおいて、セリンラセマーゼの発現量若しくは活性、及び/又はD−セリン量が指標として用いられる。指標とするとは、セリンラセマーゼの発現量若しくは活性、及び/又はD−セリン量を考慮していることをいう。したがって、候補薬剤を添加した場合に、セリンラセマーゼの発現量若しくは活性、及び/又はD−セリン量を判断の基準として、皮膚のバリア機能亢進作用を有する薬剤を選択すれば、本発明のスクリーニング方法に該当する。
【0018】
ケラチノサイトとは、表皮の約95%を構成する細胞である。生体において表皮の基底層にケラチノサイトの幹細胞が存在し、成熟するに伴い外側の層に移動し、有棘層、顆粒層、角層を形成する。ケラチノサイトは、成熟に伴いその性質を変化させており、有棘層や顆粒層では細胞が扁平化し、セラミドなどの脂質が細胞間隙に放出され、最外層の角質層で脱核が生じる。この一連の成熟過程を、ケラチノサイトの分化ということができる。脱核が生じた細胞は、細胞形態が消失し重層化して角層を形成し、最終的に最外層から、垢として剥がれ落ちる。
【0019】
本発明で用いられる培養ケラチノサイトは、表皮の基底層、有棘層、顆粒層、角層のいずれかから取得された細胞であってもよいし、幹細胞、例えば皮膚上皮幹細胞、多能性幹細胞、例えばES細胞、iPS細胞、EG細胞などから分化誘導された細胞であってもよい。表皮から取得されて培養された細胞は、初代培養された細胞であってもよいし、継代培養された細胞であってもよく、さらには癌化又は不死化した細胞であってもよい。また、本発明において用いられる培養ケラチノサイトは、例えばヒトや動物由来などの株化ケラチノサイトであってもよい。これらのケラチノサイトの細胞株は、公的機関や販売業者から取得可能である。
【0020】
培養物とは、所望の細胞のみを指してもよいし、他の細胞を含んでもよく、さらには細胞と培地とから構成されてもよい。したがって、ケラチノサイト培養物とは、ケラチノサイトのみを指してもよいし、ケラチノサイトと他の細胞を含んでもよく、ケラチノサイト単独又はケラチノサイトと他の細胞と培地とから構成されてもよい。このような培養物として、単層培養物、混合培養物、三次元培養物などが挙げられる。ケラチノサイトを培養する培地は、ケラチノサイトの培養を可能にする培地であれば、任意の培地であってもよく、例えばHuMedia−KB2(クラボウ)や、Keratinocyte‐SFM(インビトロジェン)の培地に、各種添加剤を添加して用いられてもよいが、これらに限定されることを意図するものではない。培養条件は、通常、37℃、5%CO2存在下で培養されるが、ケラチノサイトの増殖が生じる範囲で変更をすることも可能である。D−セリン存在量を、セリンラセマーゼ活性とする観点から、培地はL−セリン富化状態であることが好ましい。培養培地中には、通常、意図的にD−アミノ酸が添加されておらず、培地中のD−セリンに対するL−セリンの存在量は、少なくとも1.1倍、より好ましくは10倍、さらに好ましくは50倍以上である。例えば、HuMedia−KB2(クラボウ)に、HuMedia−KG増殖添加剤セットを添加した培地(KGM培地)において、D−セリンに対するL−セリンの存在量は、100倍以上である。
【0021】
ケラチノサイト培養物は、播種後、培養が行われており、およそ50%集密〜コンフルエントになったものを実験に供することができる。集密度は、分化誘導を行う観点から、70%以上が好ましく、さらに好ましくは80%以上である。ケラチノサイト培養物に対し、候補薬剤を添加する工程は、ケラチノサイト培養物の培地を、候補薬剤を含む培地に置換することにより行われてもよいし、ケラチノサイトと培地を含む培養物に対して、候補薬剤がそのまま、又は希釈液として添加されてもよい。
【0022】
セリンラセマーゼは、ビタミンB6補酵素型であるピリドキサール5’リン酸(PLP)依存性のラセマーゼである。理論に限定されることを意図するものではないが、セリンラセマーゼは、セリンのα―水素を引き抜くことにより、アニオン性中間体の生成を介してL-セリンとD-セリンとの間の変換を行うことができる酵素である。L−セリンとD−セリンとの間の変換反応において、反応前後でエンタルピーは変化せず、反応はエントロピーにより駆動されることから、平衡状態ではL−セリンとD-セリンは等量となる。生体中では、D-セリンよりもL−セリンの存在量が多いため、セリンラセマーゼが存在することにより、生体中のL−セリンがD-セリンへと変換される。培養条件でも、通常、培地中にはL体が多く含まれていることから、同様にセリンラセマーゼの存在によりL−セリンがD-セリンへと変換される。本発明において、ラセマーゼは、非特許文献3により脳で発現が認められたラセマーゼと同一か、又はそのホモログ若しくはオルソログであってもよい。したがって、同文献により用いられたプライマー対により増幅可能であり、かつ同文献に記載された抗ラセマーゼ抗体により検出可能なものをいう。セリンラセマーゼについては、当業者であればNCBIなどの公的機関のウェブサイトから、動物種に応じて適宜特定することができる。
【0023】
本発明の1の態様では、ケラチノサイトにおけるセリンラセマーゼの活性を指標として、皮膚のバリア機能を評価、または皮膚のバリア機能亢進薬剤のスクリーニングをすることができる。セリンラセマーゼの活性は、酵素の基質となる物質を添加しない場合は通常の培地に含まれるL−セリンが変換されることにより生じるD−セリン量に基づいてもよいし、D−セリンを含むその他のD−アミノ酸の合計量に基づいてもよい。また、セリンラセマーゼの基質となり得るセリン以外の物質を添加することにより、その添加物の変換に基づく生成物の量の測定もしくは変換効率の測定をしてもよい。セリンラセマーゼはD体とL体が50:50になるまで過剰な光学異性体をもう一方の光学異性体に変換することから、活性測定においてD体を添加する事も当然ながら可能である。その場合は変換により生じるL−セリンの増加分を測定することでも酵素活性を評価できる。この他にも例えばシクロセリンやセリンの誘導体(N-メチル化体、アセチル化体、リン酸化体等)を添加すれば、対応する光学異性体への変換効率を調べることで酵素活性を評価可能である。D−セリン量に基づいてセリンラセマーゼの活性を測定する場合、対象から単離された皮膚サンプル中、又はケラチノサイト培養物中、すなわち培地中、細胞中、若しくはその両方におけるD−セリンの存在量により決定されてもよいし、皮膚サンプル中又はケラチノサイト培養物中におけるD-セリンの存在量の変化に基づき決定された酵素学的パラメーターにより決定されてもよい。この方法は酵素の基質となる上述の物質にもすべて適用可能である。セリンラセマーゼ酵素の活性を示す酵素学的パラメーターとして、Vmax、Km値を決定することにより示されてもよい。
【0024】
本発明のさらなる態様では、ケラチノサイトにおけるD−セリン量を指標として、皮膚のバリア機能を評価、または皮膚のバリア機能亢進薬剤のスクリーニングをすることができる。D−セリン量は、対象から単離された皮膚サンプル中、又はケラチノサイト培養物中、すなわち培地中、細胞中、若しくはその両方において測定されてもよい。D−セリン量の測定方法は、既知の方法を用いて行うことができ、例えば光学異性体分離カラムを用いたHPLC法や、ガスクロマトグラフィー法、電気泳動法、酵素法により行うことができる。セリンラセマーゼ活性の測定が、D−セリン量の測定により行われる場合、D−セリン量を増加させるため、ケラチノサイト培養物に対して、L−セリンを添加してもよい。セリンラセマーゼが、L−セリンとD−セリンとの間の変換反応を行う場合、反応前後でエンタルピーは変化せず、反応はエントロピーにより駆動されることから、L−セリンを添加することにより、セリンラセマーゼの活性に応じて、D−セリン量を増加させることができ、D−セリン量の測定がより容易になる。
【0025】
別の態様では、セリンラセマーゼの発現量を指標として、皮膚バリア機能を評価、または皮膚のバリア機能亢進薬剤のスクリーニングをすることができる。セリンラセマーゼの発現量は、セリンラセマーゼのタンパク質を、抗セリンラセマーゼ抗体を用いた免疫学的手法により測定することにより決定することができる。免疫学的手法として、例えばウエスタンブロット法、蛍光免疫染色法又はELISA法により行われてもよい。抗セリンラセマーゼの抗体は、市販のモノクローナル抗体またはポリクローナル抗体を用いてもよいし、ウサギやマウスなどの実験動物にセリンラセマーゼタンパク質又は抗原ペプチドを免疫化して回収された抗体を用いてもよい。
【0026】
セリンラセマーゼの発現量は、細胞中のセリンラセマーゼのmRNA量を決定することにより行われてもよい。mRNAの測定は任意の方法により行われてもよく、例えば定量的PCRの手法に基づいて測定されてもよい。定量的PCR法は、通常以下のように行われるが、これに限定されることを意図するものではない。回収された細胞から、mRNAを抽出し、ポリTプライマーと逆転写酵素を用いてcDNAを作成する。作成したcDNAに対し、Syberグリーン法や蛍光プローブ法を用いることにより、細胞中に含まれるmRNA量を定量することができる。
【0027】
より具体的には、本発明のスクリーニング方法は、以下の:
ケラチノサイトに、候補薬剤を添加する工程、
ケラチノサイトにおいてセリンラセマーゼ発現量若しくは活性、及び/又はD−セリン量を測定する工程、及び
セリンラセマーゼ発現量若しくは活性、及び/又はD−セリン量から、候補薬剤の皮膚のバリア機能亢進作用を決定する工程
を含んでもよい。本発明のスクリーニング方法は、さらに、ケラチノサイトを分化誘導させる工程をさらに含んでもよい。
【0028】
分化誘導工程は、ケラチノサイトに対して、分化誘導刺激を与えることにより行われる。ケラチノサイトに対し分化誘導刺激を与えることにより、細胞の扁平化、細胞内での繊維物若しくは顆粒の増加、細胞間隙の不明瞭化、重層化(特に単層培養の場合)、最終的には脱核といった形態的な変化や、ケラチン1、ケラチン10、インボルクリン、トランスグルタミンサーゼの活性化等のタンパク質およびタンパク質の変化が生じる等の細胞の変化を生じる(日皮会誌 90(12),1089−1101,http://drmtl.org/data/090121089.pdf、Drug News Perspect 2004, 17(2) p117を参照のこと)。この分化誘導刺激としては、先に述べたケラチノサイトの分化を生じさせることができれば任意の刺激であってよく、例えばカルシウムイオンの濃度を増加させるカルシウムイオン刺激、フォルボール−12−ミリステート−13−アセテートによる刺激(Hawley−Nelson P, Stanley JR et al, Exp Cell Res, 137: 155−167,1982)、電圧や気相暴露などの物理的刺激、生体液による刺激であってもよい。カルシウムイオンにより刺激する場合、カルシウムイオンを終濃度として0.1mM〜10mMの濃度になるように、カルシウム塩又はその希釈液が添加されてもよいし、予め終濃度のカルシウムイオンを含むように調製された培地と置換されてもよい。使用されるカルシウム塩として、例えば塩化カルシウム、炭酸水素カルシウム、炭酸カルシウム、硝酸カルシウム、酢酸カルシウムなどが用いられる。カルシウムイオンの終濃度の上限は、細胞培養に悪影響を与えない観点から、5mM以下が好ましく、さらに好ましくは2mM以下である。分化誘導を促進する観点から、濃度の下限値は、0.5mM以上が好ましく、さらに好ましくは1.0mM以上である。
【0029】
分化誘導工程と候補薬剤の添加工程は、同時に行われてもよいし、分化誘導工程の後に候補薬剤の添加工程が行われてもよいし、その逆、すなわち候補薬剤の添加工程の後に分化誘導工程が行われてもよい。理論にとらわれることを意図するわけではないが、候補薬剤の所望される作用機序により分化誘導と候補薬剤添加のタイミングを変えることができる。例えば、分化誘導刺激物質と拮抗する薬剤を検討する観点からは、添加工程は刺激工程と同時もしくは刺激前に行われることが好ましい。さらに分化誘導後の細胞変化(形態変化、各種細胞内因子の発現等)を促進・抑制する観点からは、添加工程は刺激工程と同時もしくは後に行われることが好ましく、分化誘導刺激が作用する受容体等をあらかじめブロックする等の機序を探索する観点からは、添加工程の後に刺激工程が行われることが好ましい。候補薬剤の添加工程と分化誘導の刺激工程とが同時に行われない場合、添加工程と刺激工程との間に数分〜数時間の細胞培養工程が含まれてもよい。
【0030】
分化誘導の刺激と候補薬剤の添加後、セリンラセマーゼの発現量若しくは活性、及び/又はD−セリン量の測定工程前に、さらに細胞培養工程が含まれてもよい。この細胞培養工程の期間は、使用される分化誘導剤の種類や濃度や、ケラチノサイトの種類に応じて任意に選択することができるが、例えば6時間〜1週間培養を行うことができる。十分にセリンラセマーゼを発現させる観点から、培養期間の下限は、12時間以上が好ましく、さらに好ましくは1日以上である。一方で、培養期間の上限は単層培養や重層化培養、三次元培養等の培養方法により異なるために特に規定するものではないが、細胞の健常な培養条件を維持する観点から、単層培養の場合は一週間以内が好ましく、より好ましくは3日以内である。
【0031】
本発明のスクリーニング方法には、ダメージ付与工程をさらに含んでもよい。ダメージ付与工程は、培養されているケラチノサイトに、物理的又は化学的な刺激により、ダメージを与えられるものであってよく、例えば紫外線照射、酸化剤などのラジカル源の添加、界面活性剤の添加、貧栄養培地への置換などが挙げられる。ダメージ付与工程によりダメージを与えられたケラチノサイトでは、セリンラセマーゼの発現が低下していると考えられる。したがって、候補薬剤の添加工程後に、ダメージ付与工程を行うスクリーニング方法において、ラセマーゼ発現量又はラセマーゼ活性、及び/又はD−セリン量の低下が抑えられる場合、かかる候補薬剤は、皮膚のバリア機能に対するダメージの予防剤とすることができる。一方で、ダメージ付与工程後に、候補薬剤の添加工程を行うスクリーニング方法において、低下したラセマーゼ発現量又はラセマーゼ活性、及び/又はD−セリン量が増加する場合、かかる候補薬剤は、皮膚バリア機能の回復、改善又は治療剤とすることができる。ダメージ付与を行わないスクリーニング方法において、ラセマーゼ発現量若しくはラセマーゼ活性、及び/又はD−セリン量が増加させる候補薬剤は、皮膚バリア機能の亢進剤ということができる。
【0032】
セリンラセマーゼ発現量を指標とした本発明のスクリーニング方法を化粧品素材ライブラリーに対し行った結果、ケラチノサイトにおいてセリンラセマーゼの発現量を増加させることができる薬剤として加水分解カラス麦タンパク、ルムプヤン抽出物、シロバナイガコウゾリナ抽出物を選択することができた。セリンラセマーゼの発現量が高まれば、セリンラセマーゼ活性も高まり、角層中のD-セリン含量が増加し、皮膚バリア機能を更新することができる。したがって、これらの物質を、セリンラセマーゼ発現促進剤、セリンラセマーゼ活性化剤又は皮膚バリア機能亢進剤と呼ぶこともできる。本発明のスクリーニング方法により、スクリーニングされた薬剤は、ルムプヤンやシロバナイガコウゾリナ由来の抽出物に限定されず、その近縁種の抽出物も同様に皮膚バリア機能亢進効果を有する。したがって、本発明のセリンラセマーゼ発現促進剤、セリンラセマーゼ活性化剤又は皮膚バリア機能亢進剤としては、ショウガ(Zingiberaceae)科ジンギバー(Zingiber)属植物やキク(Compositae)科エレファントパス(Elephamtopus)属植物の抽出物が挙げられる。したがって、これらの物質を化粧料に配合することにより、皮膚バリア機能亢進効果を発揮する化粧料を製造することができる。
【0033】
また、セリンラセマーゼ活性を指標とした本発明のスクリーニング方法を化粧品素材ライブラリーに対し行った結果、ケラチノサイトにおいてピリドキサールリン酸(PLP:活性型ビタミンB6)を選択することができた。セリンラセマーゼ活性が亢進すると、角層中のD-セリン含量が増加し、皮膚バリア機能を更新することができる。したがって、ピリドキサールリン酸をセリンラセマーゼ活性化剤又は皮膚バリア機能亢進剤と呼ぶことができる。
【0034】
本発明に用いられる加水分解カラス麦タンパクとは、カラス麦(Avene satiba)から取得されたタンパク質の加水分解産物である。カラス麦のタンパク質は、例えば、種子、葉、根、ヌカなどから抽出されるが、種子が特に好ましい。前記カラス麦は、採取後ただちに乾燥し粉砕したものが好適である。乾燥は天日で行ってもよいし、通常使用される乾燥機を用いて行ってもよい。タンパク質は、抽出過程で又は抽出後に酸や酵素処理により加水分解される。カラス麦は、西アジアからヨーロッパ、北米において食用に栽培される植物である。本発明に用いられる抽出溶媒は、通常抽出に用いられる溶媒であれば何でもよく、特にメタノール、エタノール等のアルコール類、含水アルコール類、アセトン、酢酸エチルエステル等の有機溶媒を単独あるいは組み合わせて用いることができるし、水で抽出を行うこともできる。
【0035】
本発明における加水分解カラスムギタンパクの配合量は、当業者であれば、効果を発揮する範囲で任意に選択することができる。例えば配合量は、外用剤全量中、乾燥物として0.00005〜20.0質量%である。配合量の上限は、製剤化と効果の観点から10質量%以下が好ましく、5質量%以下がさらに好ましい。配合量の下限は、十分な皮膚バリア機能亢進効果を発揮させる観点から、0.0001質量%以上が好ましく、0.0005質量%以上がさらに好ましい。
【0036】
本発明に用いられるショウガ(Zingiberaceae)科ジンギバー(Zingiber)属植物としては、ルムプヤン(Lempuyang、学名:Zingiber aromaticumMal.)が好適である。ルムプヤンは、特にインドネシアの乾性草原、牧草などに生える植物である。本発明に用いられる抽出物は、上記植物の葉、地下茎を含む茎、果実等、植物全草を抽出溶媒と共に浸漬し、場合により加熱還流した後、濾過し、濃縮して得られる。本発明に用いられる抽出溶媒は、通常抽出に用いられる溶媒であれば何でもよく、特にメタノール、エタノール等のアルコール類、含水アルコール類、アセトン、酢酸エチルエステル等の有機溶媒を単独あるいは組み合わせて用いることができるし、水で抽出を行うこともできる。
【0037】
本発明におけるショウガ(Zingiberaceae)科ジンギバー(Zingiber)属植物の抽出物の配合量は、当業者であれば、効果を発揮する範囲で任意に選択することができる。例えば配合量は、外用剤全量中、乾燥物として0.00005〜20.0質量%である。配合量の上限は、製剤化と効果の観点から10質量%以下が好ましく、5質量%以下がさらに好ましい。配合量の下限は、十分な皮膚バリア機能亢進効果を発揮させる観点から、0.0001質量%以上が好ましく、0.0005質量%以上がさらに好ましい。
【0038】
本発明に用いられるキク(Compositae)科エレファントパス(Elephamtopus)属植物としては、シロバナイガコウゾリナ(学名:Elephantopus mollis)が好適である。シロバナイガコウゾリナは、南アメリカのベネズエラ原産で、熱帯アジアに広く帰化している植物である。本発明に用いられるキク(Compositae)科エレファントパス(Elephamtopus)属植物の抽出物は、上記植物の葉、茎、花、樹皮、種子または果実、植物全草等を抽出溶媒と共に浸漬または加熱還流した後、濾過し、濃縮して得られる。本発明に用いられる抽出溶媒は、通常抽出に用いられる溶媒であれば何でもよく、特にメタノール、エタノール等のアルコール類、含水アルコール類、アセトン、酢酸エチルエステル等の有機溶媒を単独あるいは組み合わせて用いることができる。
【0039】
本発明におけるキク(Compositae)科エレファントパス(Elephamtopus)属植物の抽出物の配合量は、当業者であれば、効果を発揮する範囲で任意に選択することができる。例えば配合量は、外用剤全量中、乾燥物として0.00005〜20.0質量%である。配合量の上限は、製剤化と効果の観点から10質量%以下が好ましく、5質量%以下がさらに好ましい。配合量の下限は、十分な皮膚バリア機能亢進効果を発揮させる観点から、0.0001質量%以上が好ましく、0.0005質量%以上がさらに好ましい。
【0040】
本発明において用いられたピリドキサールリン酸は、セリンラセマーゼの補酵素として用いられる物質である。ピリドキサールリン酸は、ビタミンB6類として知られているピリドキサールの活性型の形態である。理論に限定されることを意図するものではないが、ピリドキサールリン酸は、補酵素としてセリンラセマーゼの活性を増加することができ、それにより生じたD−セリンが、ケラチノサイトに作用して、皮膚バリア機能に関わる遺伝子群、例えばフィラグリン、コーニュリン及びレペチンなどの発現を亢進し、それにより皮膚バリア機能が亢進すると考えられる。ビタミンB6類は、ピリドキサールの他に、ピリドキシン、ピリドキサミンを含み、化粧料に配合される成分であることが知られているが、水溶性のビタミンであり、経皮投与では吸収率や安定性に問題がある場合がある。そこで経皮吸収の改善を目的として脂溶性を増加させたビタミンB6誘導体が既知であり、例えばトリスヘキシルデカン酸ピリドキシン、トリパルミチン酸ピリドキシン、ジパルミチン酸ピリドキシン、ジカプリル酸ピリドキシンなどのビタミンB6誘導体もビタミンB6類に含まれる。また、安定性を改善する目的でピリドキシン環状リン酸、塩酸ピリドキシンが既知である。ピリドキサールリン酸のみならず、ビタミンB6類も、セリンラセマーゼ活性化剤又は皮膚機能亢進剤として用いられる。これらの配合量は、例えば0.000001〜10質量%である。配合量の上限は、製剤化と効果の観点から10質量%以下が好ましく、1質量%以下がさらに好ましい。配合量の下限は、十分な皮膚バリア機能亢進効果を発揮させる観点から、0.000001質量%以上が好ましく、0.00001質量%以上がさらに好ましい。
【0041】
セリンラセマーゼ発現量若しくは活性、又はD−セリン量から、候補薬剤の皮膚のバリア機能亢進作用を決定する工程では、測定されたセリンラセマーゼ発現量若しくは活性、及び/又はD−セリン量を、予め設定していた発現量若しくは活性、及び/又はD−セリン量と、バリア機能亢進作用との関係を示す表を用いて決定することができる。このような表は、対照として、候補薬剤を含まないで同様に実験を行うことにより測定したラセマーゼ発現量若しくは活性、及び/又はD−セリン量や、セリンラセマーゼ発現量若しくは活性、及び/又はD−セリン量を増加させることが既知の対照薬剤を用いて同様に実験を行うことにより測定したラセマーゼ発現量若しくは活性、及び/又はD−セリン量を用いて作成することができる。別の態様では、対照との比較から予め閾値を設定し、かかる閾値よりも統計学的有意差をもって高いか否かで、候補薬剤の皮膚のバリア機能亢進作用を決定することができる。当業者であれば、求める皮膚バリア機能亢進作用に応じて、かかる閾値を適宜設定することができる。このような閾値として、例えば薬剤非添加対照におけるセリンラセマーゼの発現量若しくは活性、及び/又はD−セリン量に対し、任意に倍率の閾値を設定することができるが、例えば1.1倍以上で統計的に有意差及び傾向差をもって、値を設定することもできる。統計的な有意差とはp<0.05、傾向差とはp<0.1のときを指す。また、別の態様では、対照として、候補薬剤を含まないで同様に実験をおこなうことにより測定したラセマーゼ発現量若しくは活性、及び/又はD−セリン量に比較し、高い発現量又は活性を有した場合に、皮膚のバリア機能亢進作用を有すると決定してもよく、その場合、発現量若しくは活性、及び/又はD−セリン量が高いほど皮膚のバリア機能亢進作用を有すると決定することができる。
【0042】
別の態様では、本発明は、セリンラセマーゼ発現量若しくは活性、及び/又はD−セリン量を指標とする、皮膚バリア機能を評価、判定、又は鑑別する方法に関してもよい。かかる評価、判定、又は鑑別は、対象から、皮膚サンプル、例えばテープストリッピングにより取得した角層サンプルにおいて、D−セリン含量、セリンラセマーゼ活性又はセリンラセマーゼの発現量を測定することにより行われてもよい。皮膚バリア機能の評価、判定、又は鑑別方法は、通常Vapomaeterなどを用いてTEWLの測定により行われるが、TEWLは皮膚の状態により左右され、洗浄や摩擦などによっても数値が変化し、さらに皮膚疾患患者では、必ずしも数値と皮膚の健常性との間に相関がない。本発明の評価、判定、又は鑑別方法は、セリンラセマーゼ活性若しくは発現量、及び/又はD−セリン量を指標とすることで、皮膚が本来有する細胞レベルでの皮膚バリア機能を測定することが可能である。さらに、本発明の評価方法は、細胞レベルでの皮膚バリア機能に関わる健常性を決定することから、現時点での皮膚バリア機能というよりは、将来の皮膚バリア機能の予測を可能にする。皮膚バリア機能の評価、判定、又は鑑別は、予め設定していたセリンラセマーゼ発現量若しくは活性、及び/又はD−セリン量と、バリア機能亢進作用との関係を示す図表又は閾値を用いて決定することができる。このような図表又は閾値は、健常な皮膚を有する被験者群、荒れた皮膚を有する被験者群、さらには年齢別の被験者群などから採取され単離された皮膚サンプル中における得られた発現量若しくは活性、及び/又はD−セリン量に基づき設定することができる。
【0043】
D-セリンを培養細胞に添加することにより、幾つかの遺伝子の発現が増加することが分かった。その中で、バリア機能形成に重要な役割を持つフィラグリン、並びに周辺帯(cornified cell envelope:CE)形成に寄与するコーニュリン及びレペチンの発現が増加することが分かった。理論に限定されることを意図するものではないが、本発明によりスクリーニングされたセリンラセマーゼ活性化又は発現促進剤は、ケラチノサイトにおけるD-セリン含量を増加することができ、D−セリンが、ケラチノサイトにおいて、バリア機能に関与するタンパク質の発現を亢進することで、皮膚バリア機能を亢進すると考えられる。したがって、D−セリン自体も皮膚バリア機能亢進剤として用いることもできる。また、D-セリンは、フィラグリン遺伝子、コーニュリン遺伝子、及びレペチン遺伝子の発現促進剤ということもでき、また角化促進剤ということもできる。
【0044】
フィラグリンは、ヒスチジン、アルギニン、セリン、グリシン、グルタミン酸などに富む塩基性のタンパク質であり、ケラチン線維に沈着し凝集させる機能を有する。これにより角質細胞内部のケラチン線維が凝集することで、細胞全体が扁平化し、顆粒層から角質層へと変化して角質化する。フィラグリンは、表皮の顆粒細胞でプロフィラグリンという前駆体として発現され、顆粒細胞が角質化する際に、タンパク質分解酵素の作用を受けてフィラグリンへと分解される。フィラグリンの減少は、魚鱗癬やアトピー性皮膚炎の主要な発症要因と考えられており、これらの症状では皮膚バリア機能の顕著な低下が見られる。
【0045】
コーニュリンやレペチンは、角質細胞の細胞膜を裏打ちする周辺帯(cornified cell envelope)を構成するタンパク質である。コーニュリンやレペチンは、周辺帯を構成する他の成分であるインボルクリン、ロリクリンなどのタンパク質と同じく、1q21の染色体位置に存在する遺伝子であり、角化の最終段階において、表皮の最外層で発現される。周辺帯を構成するタンパク質は、フィラグリンの作用により凝集されたケラチンとともに、皮膚のバリア機能に関わる。
【0046】
本発明のスクリーニング方法により皮膚バリア機能亢進剤又はセリンラセマーゼ活性化剤は、化粧品に配合されてもよいし、医薬品に配合されてもよい。このような化粧品は、皮膚バリア機能が低下した対象、例えば、アトピー性皮膚炎、魚鱗癬、乾癬、肌荒れといった症状を有する対象において用いられる。また、医薬品に配合された場合、医薬品は、アトピー性皮膚炎、魚鱗癬、乾癬などの治療用の医薬組成物として用いることができる。
【0047】
以下の実施例により、本発明を更に具体的に説明する。なお、本発明はこれに限定されるものではない。
【実施例】
【0048】
実施例1:角層中D−セリン含量とバリア機能の関連性の検証
被験者は被験箇所が健常なボランティア57名で、被験部位を定法で洗浄した後に洗浄で濡れた被験部位を拭き、恒温・恒湿条件(室温22℃, 湿度45%)で30分間待機した。その後、経皮水分蒸散量(TEWL)をVapometer(Delfin社)により測定した。測定は3回行い、その平均値をその後の解析に用いた。次に、TEWLを測定した位置の角層を、粘着テープを用いて2回剥離したうち2枚目を、95% メタノール水溶液中でアミノ酸を抽出した。抽出したアミノ酸の光学異性体は既報の方法に則り分析を行なった(参考文献:Yurika MiyoshiらJournal of Chromatography B, 877 (2009) 2506−2512)。概要を以下に示す。抽出したアミノ酸をホウ酸塩緩衝液(pH 8.0)中で4−フルオロ−7−ニトロ−2,1,3−ベンゾオキサジアゾール (NBD−F)により蛍光誘導体化し、トリフルオロ酢酸にて酸性条件とした後、二次元ミクロHPLC(資生堂)に供した。一次元目にはミクロモノリスODSカラム(内径0.53 mm、全長500、750、1000 mm、資生堂)、二次元目の光学分割には各アミノ酸に適した内径1.5 mmの光学分割カラムと移動相を用いた。NBD-アミノ酸は530 nmの蛍光発光(励起波長470 nm)により検出した。結果を表1及び図1に示す。
【0049】
【表1】
【0050】
角層中D−セリン(D−Ser)含量と皮膚のバリア機能の関連性を検証するために各被験者をTEWLの値の順に並べ、上位17名(バリア機能下位群)と下位17名(バリア機能上位群)の角層中D-セリン含量をそれぞれ比較した。両群の有意差はnon−paired Student’s t−testにより検証した。この結果、皮膚のバリアの高いヒトはD-セリン含量が有意に高いことが示された。一方で、L-セリンについての比較の結果からは、バリア機能下位群では、L−セリンの含量が低く、バリア機能上位群ではL−セリンの含量が高い傾向が見られたが、有意差はなかった。したがって、バリア機能上位群でD-セリン含量が高いことは、前駆物質であるL−セリンの量によるものではなく、ラセマーゼ発現や活性の影響といえる。
【0051】
実施例2:ケラチノサイトの分化誘導に伴うD−セリン含量の変化
細胞の培養と薬剤処理
ヒト正常ケラチノサイトを24ウェルマルチプレートに細胞密度が2.5×104細胞/ウェルになるように播種し、KGM培地(クラボウ)中、37℃、5%CO2の条件下で培養した。3日後に、1.8mM 塩化カルシウム及び10mM L−セリンを添加したKGM培地(試験群)または10mM L−セリンのみを添加したKGM培地(対照群)に交換し、さらに2日間培養した。
【0052】
HPLC用のサンプル調製およびHPLCによる遊離D−セリン分析
細胞をPBSで洗浄後、5%トリクロロ酢酸水溶液を500μL加えて細胞をよく懸濁して回収し、氷上で30分間超音波処理したのちに遠心分離を経て上清を得た。この上清に対して20倍量のメタノールを加えてアミノ酸を抽出した。抽出したアミノ酸の光学異性体は既報の方法に則り分析を行なった(参考文献:Yurika MiyoshiらJournal of Chromatography B, 877 (2009) 2506−2512)。概要を以下に示す。抽出したアミノ酸をホウ酸塩緩衝液(pH 8.0)中で4-フルオロ-7-ニトロ-2,1,3-ベンゾオキサジアゾール(NBD−F)により蛍光誘導体化し、トリフルオロ酢酸にて酸性条件とした後、二次元ミクロHPLC(資生堂)に供した。一次元目にはミクロモノリスODSカラム(内径0.53 mm、全長750 mm、資生堂)、二次元目の光学分割には各アミノ酸に適した内径1.5 mmの光学分割カラムと移動相を用いた。NBD-アミノ酸は530 nmの蛍光発光(励起波長470 nm)により検出した。試験群と対照群の結果を図2に示す。
【0053】
実施例3:候補薬剤のスクリーニング
細胞の培養と薬剤処理
ヒト正常ケラチノサイトを24ウェルマルチプレートに細胞密度が2.5×104細胞/ウェルになるように播種し、KGM培地(クラボウ)中、37℃、5%CO2の条件下で培養した。3日後に1.8mM 塩化カルシウム、10mM L−セリンおよび候補薬剤の希釈液を含むKGM培地に交換し、さらに2日間培養した。候補薬剤として、7種類の薬剤を用い、そのうちの1つとして0.5%加水分解カラス麦タンパク液を用いた。
【0054】
HPLC用のサンプル調製およびHPLCによる遊離D−セリン分析
細胞をPBSで洗浄後、5%トリクロロ酢酸水溶液を500μL加えて細胞をよく懸濁して回収し、氷上で30分間超音波処理したのちに遠心分離を経て上清を得た。この上清に対して20倍量のメタノールを加えてアミノ酸を抽出した。抽出したアミノ酸の光学異性体は既報の方法に則り分析を行なった(参考文献:Yurika MiyoshiらJournal of Chromatography B, 877 (2009) 2506−2512)。概要を以下に示す。抽出したアミノ酸をホウ酸塩緩衝液(pH 8.0)中で4-フルオロ-7-ニトロ-2,1,3-ベンゾオキサジアゾール(NBD−F)により蛍光誘導体化し、トリフルオロ酢酸にて酸性条件とした後、二次元ミクロHPLC(資生堂)に供した。一次元目にはミクロモノリスODSカラム(内径0.53 mm、全長750 mm、資生堂)、二次元目の光学分割には各アミノ酸に適した内径1.5 mmの光学分割カラムと移動相を用いた。NBD-アミノ酸は530 nmの蛍光発光(励起波長470 nm)により検出した。この結果を、下記の表2及び図3Aに示す。
【0055】
定量的PCR(RT−PCR)
細胞をPBSで洗浄後、MagNA Pure LC(ロシュ・ダイアグノスティックス)を用いて細胞からmRNAを抽出した。次に逆転写酵素SuperScriptVILO(インビトロジェン)のキットを用いてcDNAを合成した。このcDNAを鋳型にLightCycler(ロシュ・ダイアグノスティックス)で蛍光色素CyberGreenを用いたリアルタイムPCRを行った。PCR反応は95℃、10分間の酵素活性化ののち、95℃15秒・60℃10秒・72℃10秒の増幅反応を30回繰り返した。遺伝子発現量は、一定量のPCR産物が得られるまでのサイクル数から相対値を算出した。RT−PCRはセリンラセマーゼ遺伝子の他に内部標準としてG3PDH(glyceraldehyde−3−phosphate)遺伝子についても行い、セリンラセマーゼの相対発現量をG3PDHの相対発現量で補正することによって薬剤の評価を行った。RT−PCRにおいて用いたプライマーは、非特許文献3および非特許文献4に記載のものを選択して用いた。この結果を、下記の表2及び図3Bに示す。
【0056】
【表2】
【0057】
本スクリーニングに供された候補薬剤のうち、加水分解カラス麦タンパク液が、分化誘導されたケラチノサイトにおいてセリンラセマーゼの発現を亢進したことが示された。さらに、加水分解カラス麦タンパク液が、分化誘導されたケラチノサイト中のD-セリン含量を増加させることも示された。これらの結果により、加水分解カラス麦タンパク液を、皮膚バリア機能の亢進に有効な薬剤として選択することができる。
【0058】
実施例4:候補薬剤のスクリーニング
細胞の培養と薬剤処理
ヒト正常ケラチノサイトを24ウェルマルチプレートに細胞密度が2.5×104細胞/ウェルになるように播種し、KGM培地(クラボウ)中、37℃、5%CO2の条件下で培養した。3日後に1.8mM 塩化カルシウム、10mM L−セリンおよび候補薬剤の希釈液を含むKGM培地に交換し、さらに2日間培養した。候補薬剤として、12種類の薬剤を用い、その中には、0.5%ルムプヤン抽出物及び0.5%シロバナイガコウゾリナ抽出物が含まれていた。
【0059】
定量的PCR(RT−PCR)
細胞をPBSで洗浄後、MagNA Pure LC(ロシュ・ダイアグノスティックス)を用いて細胞からmRNAを抽出した。次に逆転写酵素SuperScriptVILO(インビトロジェン)のキットを用いてcDNAを合成した。このcDNAを鋳型にLightCycler(ロシュ・ダイアグノスティックス)で蛍光色素CyberGreenを用いたリアルタイムPCRを行った。PCR反応は95℃、10分間の酵素活性化ののち、95℃15秒・60℃10秒・72℃10秒の増幅反応を30回繰り返した。遺伝子発現量は、一定量のPCR産物が得られるまでのサイクル数から相対値を算出した。RT−PCRはセリンラセマーゼ遺伝子の他に内部標準としてG3PDH(glyceraldehyde−3−phosphate)遺伝子についても行い、セリンラセマーゼの相対発現量をG3PDHの相対発現量で補正することによって薬剤の評価を行った。RT−PCRにおいて用いたプライマーは、非特許文献3および非特許文献4に記載のものを選択して用いた。この結果を、下記の表3に示す。
【0060】
【表3】
【0061】
本スクリーニングに供された候補薬剤のうち、ルムプヤン抽出物及びシロバナイガコウゾリナ抽出物が、分化誘導されたケラチノサイトにおいてセリンラセマーゼの発現を亢進したことが示された。この結果により、ルムプヤン抽出物及びシロバナイガコウゾリナ抽出物を、皮膚バリア機能の亢進に有効な薬剤として選択することができる。
【0062】
実施例5:候補薬剤のスクリーニング
細胞の培養と薬剤処理
ヒト正常ケラチノサイトを24ウェルマルチプレートに細胞密度が2.5×104細胞/ウェルになるように播種し、KGM培地(クラボウ)中、37℃、5%CO2の条件下で培養した。3日後に1.8mM塩化カルシウムを含むKGM培地に交換して2日間培養後、1.8mM 塩化カルシウムおよび候補薬剤としてピリドキサールリン酸(PLP)の希釈液を含むKGM培地に交換してさらに2日間培養した。
【0063】
HPLC用のサンプル調製およびHPLCによる遊離D−セリン分析
ピリドキサールリン酸添加培地で培養した細胞をPBSで洗浄後、5%トリクロロ酢酸水溶液を500μL加えて細胞をよく懸濁して回収し、氷上で30分間超音波処理したのちに遠心分離を経て上清を得た。この上清に対して20倍量のメタノールを加えてアミノ酸を抽出した。抽出したアミノ酸の光学異性体は既報の方法に則り分析を行なった(参考文献:Yurika MiyoshiらJournal of Chromatography B, 877 (2009) 2506−2512)。概要を以下に示す。抽出したアミノ酸をホウ酸塩緩衝液(pH 8.0)中で4-フルオロ-7-ニトロ-2,1,3-ベンゾオキサジアゾール(NBD−F)により蛍光誘導体化し、トリフルオロ酢酸にて酸性条件とした後、二次元ミクロHPLC(資生堂)に供した。一次元目にはミクロモノリスODSカラム(内径0.53 mm、全長750 mm、資生堂)、二次元目の光学分割には各アミノ酸に適した内径1.5 mmの光学分割カラムと移動相を用いた。NBD-アミノ酸は530nmの蛍光発光(励起波長470nm)により検出した。D−セリンについての濃度の結果を、下記の図4に示す。セリンラセマーゼの補酵素であるPLPは、セリンラセマーゼを活性化することができる薬剤であり、セリンラセマーゼの活性化を介して、皮膚バリア機能の亢進することができる。
【0064】
実施例6:D−セリンの皮膚に与える影響
表皮角化細胞の三次元培養
ヒト正常ケラチノサイトを径12mm、孔径0.4μmのポリカーボネートインサート(Millipore社)に播種し、インサートの内外にCnT-Prime, Epithelial Culture Medium(CELLnTEC Advanced Cell Systems AG社)を加えて、37℃、5%CO2雰囲気下で3日間培養後、Cnt-prime 3D Barrier medium(CELLnTEC Advanced Cell Systems AG)に置換して24時間培養した。その後、インサート内の培地を除き、インサート外にはD−Serを100μMの濃度で含む培地、又は対照ではD−Ser無添加のCnt-prime 3D Barrier mediumを加えて、細胞表面を空気に暴露した状態で培養した。2日に1回培地交換を行って7日間培養した後、インサートのメンブレンをメスで切り出してTrizol reagent(Invitrogen社)に浸漬して総RNAを抽出した。
【0065】
Real−time PCR法による遺伝子発現解析
Trizol reagent (Invitrogen社)を用いて抽出された総RNAをについて、NanoDrop 1000 Spectrophotometer (Thermo Fisher Scientific社)を用いてRNA濃度を測定した後、SuperScriptVILO(Invitrogen社)を用いてcDNAを作製した。このcDNAを鋳型としてStepOne Real-Time PCR System(Applied Bioscience社)においてPlatinum SYBER Green qPCR SuperMix-UDG(Invitrogen社)を用いて、フィラグリン(FLG)、コーニュリン(CRNN)、レペチン(repetin:RPTN)遺伝子、並びに内部標準遺伝子としてミトコンドリアリボソームタンパク質L19(MRPL19)の遺伝子の相対発現量を測定した。使用したプライマーは、以下の通りである:
【表4】
内部標準であるミトコンドリアリボソームタンパク質L19遺伝子(MRPL19)の発現量で補正して各群の標的遺伝子の相対発現量を求めた(図5〜7)。これらの遺伝子では、D−Serの添加により、遺伝子発現が有意差をもって増加した。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]