(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2015-180781(P2015-180781A)
(43)【公開日】2015年10月15日
(54)【発明の名称】銅合金線、銅合金撚線、被覆電線、及び端子付き電線
(51)【国際特許分類】
C22C 9/00 20060101AFI20150918BHJP
C22C 9/02 20060101ALI20150918BHJP
C22C 9/01 20060101ALI20150918BHJP
C22C 9/04 20060101ALI20150918BHJP
C22C 9/06 20060101ALI20150918BHJP
H01B 5/02 20060101ALI20150918BHJP
H01B 1/02 20060101ALI20150918BHJP
H01B 11/00 20060101ALI20150918BHJP
【FI】
C22C9/00
C22C9/02
C22C9/01
C22C9/04
C22C9/06
H01B5/02 Z
H01B1/02 A
H01B11/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2015-102156(P2015-102156)
(22)【出願日】2015年5月19日
(62)【分割の表示】特願2013-26516(P2013-26516)の分割
【原出願日】2013年2月14日
(71)【出願人】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】395011665
【氏名又は名称】株式会社オートネットワーク技術研究所
(71)【出願人】
【識別番号】000183406
【氏名又は名称】住友電装株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100100147
【弁理士】
【氏名又は名称】山野 宏
(72)【発明者】
【氏名】井上 明子
(72)【発明者】
【氏名】西川 太一郎
(72)【発明者】
【氏名】桑原 鉄也
(72)【発明者】
【氏名】草刈 美里
(72)【発明者】
【氏名】小林 啓之
【テーマコード(参考)】
5G301
5G307
【Fターム(参考)】
5G301AA01
5G301AA03
5G301AA08
5G301AA11
5G301AA12
5G301AA14
5G301AA20
5G301AA21
5G301AA23
5G307CA02
5G307CA03
(57)【要約】
【課題】高強度・高導電率で伸びにも優れる極細の銅合金、銅合金撚線、銅合金線や銅合金撚線を備える被覆電線、端子付き電線を提供する。
【解決手段】導体に利用される銅合金線であって、Feを0.4質量%以上1.5質量%以下、Tiを0.1質量%以上1.0質量%以下含有し、残部がCu及び不純物からなる。銅合金を特定の組成とすると共に、伸線後に特定の熱処理を施すことで、引張強度が450MPa以上、導電率が60%IACS以上、伸びが5%以上を満たし、高強度・高導電率であり、優れた耐衝撃性や屈曲特性を有する。Fe/Ti(質量比)を0.5〜5.5とすることで、引張強度及び導電率の向上を図ることができる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
導体に利用される銅合金線であって、
Feを0.4質量%以上1.5質量%以下、Tiを0.1質量%以上1.0質量%以下含有し、残部がCu及び不純物からなる銅合金線。
【請求項2】
更に、Mg,Sn,Ag,In,Sr,Zn,Ni,Al及びPから選択される1種以上の添加元素を合計で0.01質量%以上0.5質量%以下含有する請求項1に記載の銅合金線。
【請求項3】
Fe/Ti(質量比)が0.5以上5.5以下である請求項1又は2に記載の銅合金線。
【請求項4】
伸びが5%以上である請求項1〜3のいずれか一項に記載の銅合金線。
【請求項5】
導電率が60%IACS以上、引張強度が450MPa以上である請求項1〜4のいずれか一項に記載の銅合金線。
【請求項6】
線径が0.3mm未満である請求項1〜5のいずれか一項に記載の銅合金線。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか一項に記載の銅合金線を複数本撚り合わせてなる銅合金撚線。
【請求項8】
前記銅合金撚線は、圧縮加工されている請求項7に記載の銅合金撚線。
【請求項9】
前記銅合金撚線の断面積は、0.03mm2以上0.5mm2以下である請求項7又は8に記載の銅合金撚線。
【請求項10】
導体の外側に絶縁被覆層を備える被覆電線であって、
前記導体が、請求項1〜6のいずれか一項に記載の銅合金線又は請求項7〜9のいずれか一項に記載の銅合金撚線である被覆電線。
【請求項11】
請求項10に記載の被覆電線と、この被覆電線の端部に装着された端子部とを備える端子付き電線。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車等に配策される電線の導体に用いられる銅合金線、銅合金撚線、この銅合金線や銅合金撚線を導体とする被覆電線、この被覆電線を備える端子付き電線に関する。特に、極細であって、高強度・高導電率を有しながら伸びにも優れる銅合金線に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車等の配策に用いられる電線導体の構成材料は、導電性に優れた銅や銅合金といった銅系材料が主流である。引張強度等の機械的特性を向上させるために種々の研究がなされている(例えば、特許文献1を参照)。
【0003】
特許文献1には、Mg,Ag,Sn,Znから選択されるいずれか1種を特定範囲の含有量で含有させた銅合金に、99%以上の冷間加工度で伸線加工を施すことで引張強度、縦弾性係数、導電率等の機械的特性を高めた硬質素線を、複数本撚り合わせてなる自動車用電線導体が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008-16284号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
昨今、自動車の高性能化や高機能化が急速に進められてきており、車載される各種の電気機器、制御機器などの増加に伴い、これらの機器に使用される電線も増加傾向にある。一方、近年、環境対応のために自動車等の搬送機器の燃費を向上するべく、軽量化が強く望まれている。
【0006】
電線の軽量化のために、例えば線径0.3mm未満といった極細線の電線が望まれる。極細線の電線は、配策時の衝撃によって断線する虞がある。従って、優れた耐衝撃性や屈曲特性を有する必要があり、十分な伸びを有する銅合金線の開発が望まれる。特許文献1に記載される電線導体は、引張強度に優れる反面、伸びに改善の余地がある。
【0007】
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、その目的の一つは、極細線であって、高強度・高導電率を有しながら伸びにも優れる銅合金線を提供することにある。また、本発明の他の目的は、上記銅合金線を複数本撚り合わせてなる銅合金撚線を提供することにある。更に、本発明の別の目的は、上記銅合金線や銅合金撚線を導体とする被覆電線、この被覆電線を備える端子付き電線を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、銅合金を特定の組成とすると共に、伸線後に特定の熱処理を施すことで、高強度・高導電率を有しながら伸びにも優れる銅合金線が得られるとの知見を得た。本発明は、この知見に基づくものである。
【0009】
本発明の銅合金線は、導体に利用される銅合金線であって、Feを0.4質量%以上1.5質量%以下、Tiを0.1質量%以上1.0質量%以下含有し、残部がCu及び不純物からなる。
【0010】
上記本発明の銅合金線は、Cu-Fe-Ti系合金からなることで高強度であり、かつ添加元素が特定の範囲であることで導電率も高い。本発明の銅合金線は、伸びを向上させるために伸線後に特定の熱処理を施すが、銅合金が特定の組成であることで、高温に長時間保持された後にも高強度を維持できる。
【0011】
本発明の銅合金線の一形態として、更に、Mg,Sn,Ag,In,Sr,Zn,Ni,Al及びPから選択される1種以上の添加元素を合計で0.01質量%以上0.5質量%以下含有する形態が挙げられる。
【0012】
上記添加元素を1種以上含有することで、引張強度の向上を図ることができる。特に、Mg,Snは、導電率の低下が少なく、引張強度の向上効果が高い。
【0013】
本発明の銅合金線の一形態として、Fe/Ti(質量比)が0.5以上5.5以下である形態が挙げられる。
【0014】
銅合金線の引張強度及び導電率は、基本的にはFeとTiの化合物の析出によって決まるものである。よって、FeとTiの質量比が重要となり、上記質量比であることで、引張強度及び導電率の向上を図ることができる。
【0015】
本発明の銅合金線の一形態として、伸びが5%以上である形態が挙げられる。
【0016】
伸びが5%以上であることで、耐衝撃性や屈曲特性が求められる電線の導体素材に好適に利用することができる。伸びが5%であることで、電線の配策時において断線し難い。
【0017】
本発明の銅合金線の一形態として、導電率が60%IACS以上、引張強度が450MPa以上である形態が挙げられる。
【0018】
導電率が60%IACS以上、引張強度が450MPa以上であることで、耐衝撃性や屈曲特性が求められる電線の導体素材に好適に利用することができる。引張強度が450MPa以上であることで、破断し難く、端子圧着を行った場合に長期的にその圧着状態を維持できる。
【0019】
本発明の銅合金線の一形態として、線径が0.3mm未満である形態が挙げられる。
【0020】
銅合金線の線径が0.3mm未満の極細線であることで、銅合金線の軽量化を図ることができる。
【0021】
上記本発明の銅合金線は、単線でも利用できるが、撚線の素線とすることができる。例えば、本発明の銅合金撚線として、上記本発明の銅合金線を複数本撚り合わせた形態が挙げられる。
【0022】
本発明の銅合金撚線は、素線を構成する本発明の銅合金線の特性を実質的に維持しており、高強度・高導電率を有し、伸びにも優れる。本発明の銅合金線は伸びに優れるため、銅合金線を撚り合わせる際に断線し難い。また、複数本の本発明の銅合金線を撚り合わせることで撚線全体としての耐衝撃性や屈曲特性といった機械的特性を単線の場合よりも向上することができる。
【0023】
本発明の銅合金撚線の一形態として、圧縮加工されている形態が挙げられる。
【0024】
撚線全体を圧縮加工することで、撚線形状の安定性が高まる。また、撚線の断面積に占める空隙率を減少することができる。
【0025】
本発明の銅合金撚線の一形態として、銅合金撚線の断面積は、0.03mm
2以上0.5mm
2以下である形態が挙げられる。
【0026】
撚線の断面積が0.03mm
2以上であることで、端子圧着が確実になされ、撚線の断面積が0.5mm
2以下であることで、撚線の軽量化を図ることができる。
【0027】
上記本発明の銅合金線や本発明の銅合金撚線は、電線の導体に好適に利用することができる。例えば、本発明の被覆電線として、導体の外側に絶縁被覆層を備え、この導体が、上記本発明の銅合金線又は本発明の銅合金撚線である形態が挙げられる。
【0028】
本発明の被覆電線は、上述のように高強度・高導電率であって伸びにも優れる本発明の銅合金線や銅合金撚線を導体に備えることで、高強度・高導電率であり、伸びにも優れ、優れた耐衝撃性や屈曲特性を有する。
【0029】
上記本発明の被覆電線は、端子付き電線に好適に利用することができる。例えば、本発明の端子付き電線として、上記本発明の被覆電線と、この被覆電線の端部に装着された端子部とを備える形態が挙げられる。
【0030】
本発明の端子付き電線は、上述のように高強度・高導電率であって伸びにも優れる本発明の被覆電線を備えることで、高強度・高導電率であり、伸びにも優れ、優れた耐衝撃性や屈曲特性を有する。
【発明の効果】
【0031】
本発明の銅合金線、銅合金撚線、被覆電線、及び端子付き電線は、高強度・高導電率であり、伸びにも優れる。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本発明をより詳細に説明する。なお、元素の含有量は、質量%を示す。
【0033】
[銅合金線]
《組成》
本発明の銅合金線を構成する銅合金は、純Cuを主成分(母材)とし、Feを0.4%〜1.5%、Tiを0.1%〜1.0%含有する。
【0034】
Feは、0.4%以上含有することで、強度に優れる銅合金線が得られる。Feの含有量は、多い程銅合金線の強度は高まるが、一方で導電率が低下したり、伸線加工時などで断線が生じ易くなるため、1.5%以下とする。Feの含有量は、0.45%以上1.3%以下が好ましく、0.5%以上1.1%以下がより好ましい。
【0035】
Tiは、Feと共存させることで、導電率及び強度が向上する。Tiは、0.1%以上含有することで、強度に優れる銅合金線が得られる。Tiの含有量は、多い程銅合金線の強度は高まるが、一方で導電率が低下したり、伸線加工時などで断線が生じ易くなるため、1.0%以下とする。Tiの含有量は、0.1%以上0.7%以下が好ましく、0.1%以上0.5%以下がより好ましい。
【0036】
FeとTiは、化合物でCuに析出して存在することで、本発明の銅合金線は強度及び導電率に優れる。このFeとTiの質量比(Fe/Ti)は、0.5以上とすることで、FeとTiの化合物を適度に析出することができ、導電率が向上する。Fe/Tiは、Feが過剰となると導電率が低下するため、5.5以下とする。Fe/Tiは、0.7以上5.3以下が好ましく、0.9以上5.1以下がより好ましい。
【0037】
Fe及びTiに加えて、Mg,Sn,Ag,In,Sr,Zn,Ni,Al及びPから選択される1種以上の添加元素を含有することで、強度を向上することができる。Mg,Snは、導電率の低下が少なく、強度を向上することができる。他の元素は、導電率の低下が大きいものの、強度の向上効果が高い。これらの添加元素は、1種でも2種以上を組み合わせて含有してもよく、合計含有量が0.01%以上0.5%以下であることが好ましい。これらの元素の合計含有量が0.5%を超えると、銅合金線の強度は高まるが、導電率が低下したり、伸線加工時などで断線が生じ易くなる。これらの元素の合計含有量が0.01%未満では、各元素を添加することによる強度の向上効果が十分に得られない。
【0038】
各元素の好ましい含有量として、Mgは、0.01%以上0.3%以下が好ましく、0.01%以上0.15%以下がより好ましい。他に、Sn:0.02%以上0.3%以下、Ag:0.002%以上0.15%以下、In:0.01%以上0.15%以下、Sr:0.005%以上0.08%以下、Zn:0.005%以上0.15%以下、Ni:0.005%以上0.15%以下、Al:0.005%以上0.15%以下、P:0.002%以上0.008%以下が挙げられる。例えば、SnとAgを組み合わせて含有する場合、合計含有量は0.025%以上0.3%以下であることが挙げられる。
【0039】
《機械的特性》
本発明の銅合金線は、高強度・高導電率であり、引張強度が450MPa以上、導電率が60%IACS以上を満たすことが好ましい。引張強度及び導電率は、添加元素の種類、含有量、製造条件(伸線加工度、熱処理の温度など)により変化させることができる。例えば、添加元素を多くしたり、伸線加工度を高めたり(線径を細くしたり)すると、引張強度が高く、導電率が小さくなる傾向にある。引張強度及び導電率は、高い程好ましいが、伸びと強度とのバランスを考慮すると引張強度の上限は650MPa程度であり、添加元素の析出による導電率の増加の限界を考慮すると導電率の上限は80%IACS程度である。
【0040】
本発明の銅合金線は、伸びにも優れ、伸びが5%以上を満たすことが好ましい。伸びは、伸線後に特定の熱処理を施すことにより変化させることができる。例えば、熱処理として焼鈍を行い、焼鈍温度を高くしたり、焼鈍時間を長くすると、伸びが高くなる傾向にある。具体的な焼鈍条件は後述する。伸びは、高い程耐衝撃性や屈曲特性に優れて好ましいが、伸びと強度とのバランスを考慮すると伸びの上限は20%程度である。
【0041】
《線径》
本発明の銅合金線は、伸線加工時の加工度(断面減少率)を適宜調整することで、線径を変化させることができる。例えば、自動車用電線導体に利用する場合、線径は0.3mm未満の極細線が挙げられる。本発明の銅合金線は、線径が0.3mm未満といった極細線であっても、上記引張強度、導電率、及び伸びに優れる。
【0042】
《断面形状》
本発明の銅合金線は、伸線加工時のダイス形状によって種々の横断面形状を有することができる。横断面が円形状である丸線が代表的である。その他、横断面形状は、楕円形状、矩形や六角形といった多角形状等の種々の形状が挙げられる。上記楕円形状や多角形状といった異形状の場合、線径は、横断面における最大長さ(楕円:長径、矩形や六角形:対角線)とする。
【0043】
[銅合金撚線]
上記本発明の銅合金線は、複数本を撚り合わせた撚線(本発明の銅合金撚線)とすることで、耐衝撃性や屈曲特性に更に優れる導体が得られる。撚り合わせ本数は、特に問わない。この銅合金撚線を圧縮加工して圧縮線材とすると、撚線形状の安定性が高まる。また、撚線の断面積に占める空隙率を減少し、撚り合わせた状態よりも線径を小さくすることができ、撚線の軽量化を図ることができる。撚線の断面積は、0.03mm
2以上0.5mm
2以下が好ましい。
【0044】
[被覆電線]
上記本発明の銅合金線や本発明の銅合金撚線は、電線の導体に利用することができる。導体の外側に絶縁被覆層を備える被覆電線として使用することもできる。絶縁被覆層を構成する絶縁材料は、例えば、ポリ塩化ビニル(PVC)やノンハロゲン樹脂、難燃性に優れる材料等が挙げられる。絶縁被覆層の厚さは、所望の絶縁強度を考慮して適宜選択することができ、特に限定されない。
【0045】
[端子付き電線]
上記本発明の被覆電線は、端子付き電線に好適に利用することができる。本発明の端子付き電線は、代表的には、本発明の被覆電線を1本以上含む電線を備え、各電線の端部に端子部が取り付けられている。上記各電線は、上記端子部を介して電気機器等の接続対象に接続される。本発明の端子付き電線は、電線ごとに一つの端子部がそれぞれ設けられた形態の他、複数の電線が一つの端子部にまとめて取り付けられた電線群を含む形態でもよい。上記端子部の形状は、雄型、雌型等が挙げられ、この端子部と被覆電線の導体との接続は、導体を圧着する圧着型や、溶融した導体が接続される溶融型等が挙げられ、特に限定されない。端子付き電線に備える複数の電線は、結束具等により一纏まりに束ねると、ハンドリング性に優れる。
【0046】
[製造方法]
本発明の銅合金線は、代表的には、以下の製造方法により製造することができる。この製造方法は、導体に利用される銅合金線の製造方法であって、以下の連続鋳造工程、溶体化工程、伸線工程、熱処理工程を備える。
連続鋳造工程:上記特定の組成からなる銅合金の溶湯を連続鋳造して鋳造材を作製する工程。
溶体化工程:上記鋳造材に溶体化処理を施し、固溶線材を作製する工程。
伸線工程:上記固溶線材に伸線加工を施し、伸線材を作製する工程。
熱処理工程:上記伸線材に後述する特定の熱処理を施す工程。
【0047】
《連続鋳造工程》
まず、上記特定の組成の銅合金からなる鋳造材を作製する。鋳造材の作製には、連続鋳造を好適に利用することができる。鋳造材として、添加元素がCu中に十分に固溶された過飽和固溶状態の固溶素材を形成するための一形態として、この連続鋳造工程において急冷することが挙げられる。鋳造時の冷却速度は、適宜選択することができるが、5℃/sec以上が好ましい。例えば、水冷銅鋳型や強制水冷機構等を有する連続鋳造装置を用いると、上述のような冷却速度による急冷を容易にできる。連続鋳造は、ベルトアンドホイール法等の可動鋳型を用いる形態や枠状の固定鋳型を用いる形態が挙げられる。
【0048】
上記連続鋳造により得られた鋳造材に、鋳造に引き続いてスウェージ加工や圧延加工等の塑性加工を施す。この塑性加工は、加工温度を150℃以下、加工度を50%以上90%以下とすることが好ましい。
【0049】
《溶体化工程》
上記固溶素材を形成するための一形態として、上記連続鋳造工程により得られた鋳造材(上述した急冷したものでも、急冷したものでなくてもよい)や、塑性加工が施された線材に溶体化処理を施し、固溶線材を作製することが挙げられる。この溶体化処理は、加熱温度を850℃以上950℃以下、保持時間を5分以上3時間以下、冷却速度を10℃/sec以上とすることが好ましい。
【0050】
《伸線工程》
上記連続鋳造工程において急冷した固溶素材、もしくは溶体化処理を施した固溶線材に伸線加工を施して、最終線径の伸線材を作製する。伸線加工(代表的には冷間)は、最終線径になるまで複数パスに亘って行う。各パスの加工度は、組成、最終線径等を考慮して適宜調整するとよい。
【0051】
《熱処理工程》
最終線径まで伸線加工が施された伸線材に特定の熱処理を施し、過飽和固溶状態からFeとTiの化合物を析出させる。熱処理は、熱処理温度を350℃以上550℃以下、保持時間を30分以上とすることで、析出物を十分に析出させることができる。所望の特性に応じて、熱処理温度を選択するとよい。熱処理温度は、400℃以上500℃以下、保持時間は、30分以上40時間以下がより好ましい。熱処理の保持時間は長い程、析出物をより多く析出できることから、導電率を向上できることがある。この熱処理は、伸線加工前に行うと、熱処理によって析出した析出物が起点となり、伸線時に線材が断線する虞があるため、伸線加工を施した後に行うことが好ましい。伸線加工を施した伸線材に熱処理を行うことで、伸線加工による歪みを除去して、伸びを向上させることができる。
【0052】
上記熱処理工程により、上記特定の組成からなり、導電率が60%IACS以上、引張強度が450MPa以上、伸びが5%以上を満たす本発明の銅合金線が得られる。
【0053】
《撚り合わせ工程》
上記本発明の銅合金線を複数本撚り合わせることで、本発明の銅合金撚線を製造することができる。この銅合金撚線を圧縮加工して圧縮線材としてもよい。線材を複数本撚り合わせた撚線構造とする場合、上記熱処理工程を撚線に対して行うことで、撚線の撚りが戻り難いため好ましい。具体的には、伸線工程において最終線径まで伸線加工が施された伸線材を複数本撚り合わせて撚線とし、この撚線に上記熱処理を施す。上記熱処理を施した銅合金線を複数本撚り合わせてもよいし、撚り合わせた後に更に熱処理を施してもよい。
【0054】
《被覆工程》
上記本発明の銅合金線または本発明の銅合金撚線の外周に、上述した絶縁材料からなる絶縁被覆層を形成することで、本発明の被覆電線を製造することができる。絶縁被覆層の形成方法は、押出被覆や粉体塗装による被覆が挙げられる。
【0055】
《端子の取り付け工程》
上記本発明の被覆電線の端部に端子部を装着し、代表的には、端子付きの被覆電線を複数本束ねることで、本発明の端子付き電線を製造することができる。導体と端子部とは、被覆電線の絶縁被覆層の一部を剥いで導体を露出させて圧着することが挙げられる。
【0056】
[試験例]
銅合金線を製造し、銅合金線の機械的特性を調べた。
【0057】
銅合金線は、以下のように製造した。純度99.99%以上の電気銅と各添加元素含有の母合金を用意し、高純度カーボン製坩堝に投入して連続鋳造装置内で真空溶解させ、表1に示す組成の混合溶湯を作製した。得られた混合溶湯と高純度カーボン製鋳型とを用いて連続鋳造により、線径φ16mmの断面円形状の鋳造材を作製した。得られた鋳造材を線径φ12mmまでスウェージ加工(加工温度:室温、加工度:25%)したのち、950℃×1hの溶体化処理を施し固溶線材を作製した。その後、上記固溶線材を線径φ0.16mmまで伸線加工を施し伸線材を作製し、表2に示す熱処理(焼鈍)を行った。
【0059】
得られた銅合金線について、引張強度(MPa)、導電率(%IACS)、伸び(破断伸び(%))を調べた。引張強度(MPa)及び伸び(%、破断伸び)は、JIS Z 2241(金属材料引張試験方法、1998)に準拠して、汎用の引張試験機を用いて測定した。導電率(%IACS)は、ブリッジ法により測定した。その結果を表2に示す。
【0061】
表1及び表2に示すように、特定の組成の銅合金からなり、伸線後に特定の熱処理(焼鈍)を行った試料No.1-2,2〜7,8-2,9-2,10-2,11-2,12〜14は、引張強度が450MPa以上、導電率が60%IACS以上、伸びが5%以上であり、高強度・高導電率である上に、伸びにも優れる。表1の試料No.1,8〜11に対して、表2に示すように熱処理の前後を比較すると、熱処理前と比べて特定の熱処理(焼鈍)を行うと、引張強度は低下するが、伸びが向上する。引張強度は低下しても、耐衝撃性や屈曲特性が求められる電線の導体素材に好適に利用することができる強度は有する。つまり、銅合金が特定の組成であることで、熱処理を施しても高強度を維持でき、高強度・高導電率を有しながら伸びにも優れる。
【0062】
なお、本発明は、上述した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で適宜変更することが可能である。例えば、銅合金の組成、銅合金線の線径、溶体化処理や熱処理条件等を特定の範囲で変更してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明の銅合金線及び本発明の銅合金撚線は、軽量で、高強度・高導電率を有する上に、耐衝撃性や屈曲特性にも優れることが望まれる用途、例えば、自動車や飛行機等の搬送機器、産業用ロボット等の制御機器といった各種の電気機器の配策構造に利用される電線の導体に好適に利用することができる。本発明の被覆電線及び本発明の端子付き電線は、軽量化が望まれている種々の分野の電気機器、特に、燃費の向上のために更なる軽量化が望まれている自動車の配策構造に好適に利用することができる。