【実施例1】
【0016】
実施例1は、酸素プラズマ処理を行う例である。
図1(a)から
図3(b)は、実施例1に係る半導体装置を例示する断面図である。なお、
図1(a)から
図3(b)は模式的な図であり、各層の厚さは簡略化して図示している。
【0017】
図1(a)に示すように、下から基板10、バリア層12、チャネル層14、電子供給層16、キャップ層18を積層してなる半導体基板を準備する。基板10は例えばSiC(炭化シリコン)からなる。バリア層12は、例えば厚さ300nmのAlN(窒化アルミニウム)からなる。チャネル層14は、例えば厚さ1000nmのi−GaNからなる。電子供給層16は、例えば厚さ20nmのAlGaN(窒化アルミニウムガリウム)からなる。キャップ層18は、例えば厚さ5nmのn−GaNからなる。バリア層12、チャネル層14、電子供給層16及びキャップ層18は、窒化物半導体層11を形成する。窒化物半導体層11は、例えばMOCVD法(Metal Organic Chemical Vapor Deposition:有機金属気相成長法)により、エピタキシャル成長されて形成される。なお、窒化物半導体層11は、キャップ層18がなく、バリア層12、チャネル層14、及び電子供給層16から形成されることもある。
【0018】
キャップ層18の一部の上にレジスト13を形成し、キャップ層18のエッチングを行う。エッチングにより、キャップ層18のレジスト13から露出した部分が除去され、リセス28が形成される。リセス28からは電子供給層16が露出する。
【0019】
図1(b)に示すように、蒸着法及びリフトオフ法により、リセス28にソース電極20及びドレイン電極22を形成する。より詳細には、レジスト15を形成し、金属を蒸着させる。レジスト15を除去する。ソース電極20及びドレイン電極22は、電子供給層16に近い順に、例えばTi/AlやTa/Al等の金属を積層してなるオーミック電極である。また、良好なオーミック電極を得るため、熱処理を行う。
【0020】
図1(c)に示すように、アッシャーを用いてキャップ層18の表面に、酸素プラズマ処理を行う。酸素プラズマ処理の条件は以下の通りである。なお、パワー密度とは、アッシャーが備える電極の単位面積あたりのパワーである。
アッシャーの電極面積:4000cm
2
プラズマのパワー:800W(パワー密度0.2W/cm
2に相当)
RF周波数:13.56MHz
処理時間:1分
【0021】
酸素プラズマ処理により、キャップ層18に含まれるN(窒素)が、O(酸素)と結びついて除去される。この結果、キャップ層18の酸素プラズマ処理が行われた領域は、酸素プラズマ処理が行われなかった領域よりも、Ga(ガリウム)の組成比が大きくなる。これにより、キャップ層18の上面に導電層26が形成される。
【0022】
図2(a)に示すように、キャップ層18、ソース電極20及びドレイン電極22上に、SiN(窒化シリコン)層30を形成する。SiN層30の厚さは例えば20nmである。SiN層30のエッチングを行い、ソース電極20とドレイン電極22との間の一部の領域で、SiN層30に開口部31を形成する。開口部31からはキャップ層18が露出する。このとき、開口部31の導電層26もエッチングされる。
【0023】
図2(b)に示すように、例えば蒸着法及びリフトオフ法により、キャップ層18上にゲート電極24を形成する。ゲート電極24は、キャップ層18に近い順に、例えばNi/Au等の金属を積層してなる。
図2(c)に示すように、ゲート電極24上及びSiN層30上に、SiN層32を形成する。SiN層32の厚さは例えば40nmである。
【0024】
図3(a)に示すように、SiN層30及びSiN層32に開口部を形成し、ソース電極20及びドレイン電極22を露出させる。その後、ソース電極20及びドレイン電極22の各々に接触する2つの配線36を形成する。配線36は、例えばAu等の金属からなる。
図3(b)に示すように、SiN層32上及び配線36上に、SiN層34を形成し、パッシベーションを行う。SiN層30,32及び34は耐湿性の保護層として機能する。以上で、実施例1に係る半導体装置の製造方法は終了する。
【0025】
ここで酸素プラズマ処理の効果を検証した実験について説明する。実験は、酸素プラズマ処理を行ったサンプル(実施例1)と、酸素プラズマ処理を行わなかったサンプル(比較例)とで、XPS(X−ray Photoelectron Spectroscopy:X線光電子分光)分析、及びゲート−ドレイン間電流の測定とを行ったものである。
【0026】
まず、XPS分析について説明する。この実験では、XPS分析により、キャップ層18のN/Ga比(窒素/ガリウム比)を測定した。結果を表1に示す。
表1に示すように、比較例ではN/Ga比が0.82であった。これに対して、実施例1ではN/Ga比が0.48であった。このことから、酸素プラズマ処理により、キャップ層18のGaの組成比が大きくなったことが分かった。
【0027】
次に電流の測定について説明する。この実験では、3インチのウェハを用い、ゲート−ドレイン間電圧Vgdを印加した場合の、ゲート−ドレイン間電流Igdを測定した。電流の測定は、ウェハのファセットを下にして、上、下、左、右、及び中央の5つの測定点で行った。上下左右のそれぞれの測定点は、ウェハの外周から約10mmの距離に位置する点とした。
【0028】
図4(a)及び
図4(b)は実験の結果を示す図である。
図4(a)は比較例、
図4(b)は実施例1の測定結果をそれぞれ示す。横軸はゲート−ドレイン間電圧、縦軸はゲート−ドレイン間電流である。実線は上、点線は中央、破線は下、一点鎖線は左、三点鎖線は右、各々の測定点での結果を表す。
【0029】
図4(a)に示すように、酸素プラズマ処理を行っていない比較例では、Vgdを大きくした場合でも、Igdは数μAであった。これに対し、
図4(b)に示すように、酸素プラズマ処理を行った実施例1では、Igdは数十μAとなった。例えば、比較例ではVgd=40Vにおいて、各測定点での測定結果は約1μAだった。実施例1ではVgd=40Vにおいて、各測定点での測定結果が約10μAだった。つまり、酸素プラズマ処理を行うことで、酸素プラズマ処理を行わない場合に比べて、Igdが約10倍になった。
【0030】
導電層26に電流が流れることにより、電極間を移動するAuイオンが少なくなり、イオンマイグレーション現象が抑制されると考えられる。又は、導電層26は、電流が流れることにより発熱する。導電層26の発熱により、浸入した水分が蒸発し、Auが溶け出すことが抑制されると考えられる。
【0031】
実施例1によれば、キャップ層18に導電層26を形成するため、イオンマイグレーション現象を抑制することができる。すなわち半導体装置の耐湿性が改善し、信頼性を向上させることが可能となる。また酸素プラズマ処理で導電層26を形成し、耐湿性を向上させることができる。このため半導体装置の構成や製造工程を簡単にすることができる。
【0032】
酸素プラズマ処理のパワー密度は、Gaの組成比が高い導電層26を形成できる程度の大きさとすればよい。ただし、パワーが高すぎると、窒化物半導体層11に与えるダメージが大きくなる。このためパワー密度は、0.2〜0.3W/cm
2であることが好ましい。またパワー密度を、0.2W/cm
2より大きく、0.3W/cm
2未満としてもよい。さらにパワー密度を、0.22〜028W/cm
2としてもよい。既述したように、酸素プラズマ処理によりキャップ層18に含まれるNを除去して、Gaの組成比が大きい導電層26を形成する。酸素プラズマ処理において酸素ガス以外のガスが供給されると、良好な導電層26が形成されない可能性がある。良好な導電層26を形成するためには、酸素プラズマ処理で供給するガスは、酸素ガスのみであることが好ましい。
【0033】
窒化物半導体層11には、上記以外の窒化物半導体を用いてもよい。窒化物半導体は、窒素を含む半導体であり、例えばInN(窒化インジウム)、InGaN(窒化インジウムガリウム)、InAlN(窒化インジウムアルミニウム)、及びAlInGaN(窒化アルミニウムインジウムガリウム)等がある。つまり、窒化物半導体層11はn−GaN以外の窒化物半導体からなるとしてもよい。ただし、導電層26を良好に形成するためには、窒化物半導体層11はGaを含む窒化物半導体からなることが好ましく、またGaN又はAlGaNからなることが好ましい。
【0034】
導電層26に流れる電流は、半導体装置の動作時に流れるドレイン電流よりも数桁程度小さい。このため、導電層26に流れる電流による、半導体装置の特性の変動は極めて小さい。これにより、半導体装置の特性の悪化を抑制し、かつ耐湿性を改善させることができる。
【0035】
以上、本発明の実施例について詳述したが、本発明はかかる特定の実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。