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特開2015-181666血管指標値算出装置、血管指標値算出方法、および、血管指標値算出プログラム
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2015-181666(P2015-181666A)
(43)【公開日】2015年10月22日
(54)【発明の名称】血管指標値算出装置、血管指標値算出方法、および、血管指標値算出プログラム
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/0205 20060101AFI20150925BHJP
   A61B 5/02 20060101ALI20150925BHJP
   A61B 5/0245 20060101ALI20150925BHJP
【FI】
   A61B5/02 C
   A61B5/02 A
   A61B5/02 310Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
【全頁数】29
(21)【出願番号】特願2014-60267(P2014-60267)
(22)【出願日】2014年3月24日
(71)【出願人】
【識別番号】503246015
【氏名又は名称】オムロンヘルスケア株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101454
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 卓二
(74)【代理人】
【識別番号】100081422
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 光雄
(74)【代理人】
【識別番号】100111039
【弁理士】
【氏名又は名称】前堀 義之
(74)【代理人】
【識別番号】100122286
【弁理士】
【氏名又は名称】仲倉 幸典
(72)【発明者】
【氏名】今村 美貴
(72)【発明者】
【氏名】小椋 敏彦
(72)【発明者】
【氏名】澤野井 幸哉
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 博則
【テーマコード(参考)】
4C017
【Fターム(参考)】
4C017AA09
4C017AB01
4C017AC01
4C017AC26
4C017AD01
4C017BB13
4C017BC11
4C017BD06
4C017CC02
4C017FF05
(57)【要約】
【課題】精度よく血管の状態を示す指標値を算出することができる血管指標値算出装置を提供すること。
【解決手段】第1部位の脈波の第1脈波データと、第2部位の脈波の第2脈波データと、を取得する脈波取得部と、第1脈波データから第1脈波の周波数特性である第1周波数特性を導出し、第2脈波データから第2脈波の周波数特性である第2周波数特性を導出する脈波周波数特性導出部と、第1脈波を入力とし第2脈波を出力とする系の周波数伝達特性を算出する周波数伝達特性算出部と、周波数伝達特性の周波数ゲイン特性を第1周波数特性の周波数振幅特性に基づいて重み付けすることにより周波数伝達特性を修正する周波数伝達特性修正部と、修正された周波数伝達特性を用いて参照入力に対する系の応答を算出する応答算出部と、算出した応答に基づいて指標値を算出する指標値算出部と、を有する周波数伝達特性血管指標値算出装置。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被測定者の血管の状態を示す指標値を算出する血管指標値算出装置であって、
前記被測定者の第1測定部位での脈波である第1脈波の時系列情報を含んだ第1脈波データと、前記被測定者の第2測定部位での脈波である第2脈波の時系列情報を含んだ第2脈波データと、を取得する脈波取得部と、
前記取得した第1脈波データを周波数空間へ変換して、前記第1脈波の周波数特性である第1周波数特性を導出し、前記取得した第2脈波データを周波数空間へ変換して、前記第2脈波の周波数特性である第2周波数特性を導出する脈波周波数特性導出部と、
前記血管を含んで構成され前記第1脈波を入力とし前記第2脈波を出力とする血管系の周波数伝達特性を、前記第1周波数特性および前記第2周波数特性に基づいて算出する周波数伝達特性算出部と、
前記算出した周波数伝達特性を修正する周波数伝達特性修正部と、
前記修正された周波数伝達特性を用いて予め定められた参照入力に対する前記血管系の応答を算出する応答算出部と、
前記算出した応答に基づいて前記血管の状態を示す指標値を算出する指標値算出部と、を有し、
前記周波数伝達特性修正部は、前記周波数伝達特性の周波数ゲイン特性を前記第1周波数特性の周波数振幅特性に基づいて重み付けすることにより周波数ゲイン特性を修正し、前記修正された周波数ゲイン特性に基づいて前記周波数伝達特性を修正する、ことを特徴とする血管指標値算出装置。
【請求項2】
請求項1に記載の血管指標値算出装置であって、
前記周波数伝達特性修正部は、前記第1周波数特性に基づいて、
前記周波数伝達特性の周波数ゲイン特性において、
前記第1脈波の基本波の周波数に相当する第1周波数と、
前記第1脈波の第2高調波の周波数に相当する第2周波数と、
の間の周波数ゲイン特性が、前記第1周波数および前記第2周波数でのゲインを通り線形的に変化するように前記周波数ゲイン特性を修正し、
前記周波数伝達特性の周波数位相特性において、
前記第1周波数と、
前記第2周波数と、
の間の周波数位相特性が、前記第1周波数および前記第2周波数での位相を通り線形的に変化するように前記周波数位相特性を修正し、
前記修正された周波数ゲイン特性および前記修正された周波数位相特性に基づいて前記周波数伝達特性を修正する、ことを特徴とする血管指標値算出装置。
【請求項3】
請求項2に記載の血管指標値算出装置であって、
前記周波数伝達特性修正部は、前記第1周波数特性に基づいて、
前記周波数伝達特性の周波数ゲイン特性において、
前記第2周波数と、
前記第1脈波の第3高調波の周波数に相当する第3周波数と、
の間の周波数ゲイン特性が、前記第2周波数および前記第3周波数でのゲインを通り線形的に変化するように前記周波数ゲイン特性を修正し、
前記周波数伝達特性の周波数位相特性において、
前記第2周波数と、
前記第3周波数と、
の間の周波数位相特性が、前記第2周波数および前記第3周波数での位相を通り線形的に変化するように前記周波数位相特性を修正し、
前記修正された周波数ゲイン特性および前記修正された周波数位相特性に基づいて前記周波数伝達特性を修正する、ことを特徴とする血管指標値算出装置。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項に記載の血管指標値算出装置であって、
前記周波数伝達特性修正部は、前記周波数伝達特性の周波数帯域を前記第1脈波の基本波の周波数よりも小さい周波数と10ヘルツとの間の範囲に制限することにより前記周波数伝達特性を修正する、ことを特徴とする血管指標値算出装置。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか1項に記載の血管指標値算出装置であって、
前記参照入力は、ステップ関数の形状を有し、
前記応答算出部は、前記参照入力に対する前記血管系の応答を算出し、
前記指標値算出部は、前記応答において最初に極大値が現れるまでの時間に基づいて前記血管の状態を示す指標値を算出する、ことを特徴とする血管指標値算出装置。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか1項に記載の血管指標値算出装置であって、
前記周波数伝達特性修正部は、前記第1周波数特性に基づいて、
前記周波数伝達特性の周波数位相特性において、
前記第1周波数以下の周波数範囲における周波数位相特性が、前記第1周波数での位相と同じ値になるように前記周波数位相特性を修正し、
前記修正された周波数位相特性に基づいて前記周波数伝達特性を修正する、ことを特徴とする血管指標値算出装置。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか1項に記載の血管指標値算出装置であって、
前記周波数伝達特性修正部は、前記第1周波数特性に基づいて、
前記周波数伝達特性の周波数ゲイン特性において、
前記第1脈波の基本波の周波数に相当する第1周波数以下の周波数範囲における周波数ゲイン特性が、前記第1周波数でのゲインと同じ値になるように前記周波数ゲイン特性を修正し、
前記修正された周波数ゲイン特性に基づいて前記周波数伝達特性を修正する、ことを特徴とする血管指標値算出装置。
【請求項8】
請求項1から7のいずれか1項に記載の血管指標値算出装置であって、
前記指標値算出部は、前記応答と前記第1脈波の基本波の周波数とに基づいて前記血管の状態を示す指標値を算出する、ことを特徴とする血管指標値算出装置。
【請求項9】
請求項1から8のいずれか1項に記載の血管指標値算出装置であって、
前記脈波周波数特性導出部は、前記第1脈波データおよび前記第2脈波データをそれぞれ複数のデータフレームに分割し、前記第1脈波データおよび前記第2脈波データの少なくともいずれか一方の各データフレームの周波数特性を導出し、導出された各周波数特性においてピークを示す最低の周波数を求め、求めた最低の周波数に基づいて雑音が含まれるデータフレームを特定して除外し、除外されなかった前記第1脈波データおよび前記第2脈波データの少なくともいずれか一方のデータフレームおよび対応する前記第1脈波データおよび前記第2脈波データの少なくともいずれか他方のデータフレームに基づいて前記第1周波数特性および前記第2周波数特性を導出する、ことを特徴とする血管指標値算出装置。
【請求項10】
血管指標値算出装置において被測定者の血管の状態を示す指標値を算出する血管指標値算出方法であって、
前記血管指標値算出装置の演算部が、前記被測定者の第1測定部位での脈波である第1脈波の時系列情報を含んだ第1脈波データと、前記被測定者の第2測定部位での脈波である第2脈波の時系列情報を含んだ第2脈波データと、を取得するステップと、
前記演算部が、前記取得した第1脈波データを周波数空間へ変換して、前記第1脈波の周波数特性である第1周波数特性を導出し、前記取得した第2脈波データを周波数空間へ変換して、前記第2脈波の周波数特性である第2周波数特性を導出するステップと、
前記演算部が、前記血管を含んで構成され前記第1脈波を入力とし前記第2脈波を出力とする血管系の周波数伝達特性を、前記第1周波数特性および前記第2周波数特性に基づいて算出するステップと、
前記演算部が、前記算出するステップで算出した周波数伝達特性を修正するステップと、
前記演算部が、前記修正するステップで修正された周波数伝達特性を用いて予め定められた参照入力に対する前記血管系の応答を算出するステップと、
前記演算部が、前記応答を算出するステップで算出された応答に基づいて前記血管の状態を示す指標値を算出するステップと、を有し、
前記修正するステップは、前記演算部が前記周波数伝達特性の周波数ゲイン特性を前記第1周波数特性の周波数振幅特性に基づいて重み付けすることにより周波数ゲイン特性を修正し、前記修正された周波数ゲイン特性に基づいて前記周波数伝達特性を修正するステップを含んでいる、ことを特徴とする血管指標値算出方法。
【請求項11】
被測定者の血管の状態を示す指標値を算出する方法をコンピュータに実行させるための血管指標値算出プログラムであって、前記方法は、
前記被測定者の第1測定部位での脈波である第1脈波の時系列情報を含んだ第1脈波データと、前記被測定者の第2測定部位での脈波である第2脈波の時系列情報を含んだ第2脈波データと、を取得するステップと、
前記取得した第1脈波データに基づいて前記第1脈波の周波数特性である第1周波数特性を導出し、前記取得した第2脈波データに基づいて前記第2脈波の周波数特性である第2周波数特性を導出するステップと、
前記血管を含んで構成され前記第1脈波を入力とし前記第2脈波を出力とする血管系の周波数伝達特性を、前記第1周波数特性および前記第2周波数特性に基づいて算出するステップと、
前記算出するステップで算出した周波数伝達特性を修正するステップと、
前記修正するステップで修正された周波数伝達特性を用いて予め定められた参照入力に対する前記血管系の応答を算出するステップと、
前記応答を算出するステップで算出された応答に基づいて前記血管の状態を示す指標値を算出するステップと、を有し、
前記修正するステップは、前記周波数伝達特性の周波数ゲイン特性を前記第1周波数特性の周波数振幅特性に基づいて重み付けすることにより周波数ゲイン特性を修正し、前記修正された周波数ゲイン特性に基づいて前記周波数伝達特性を修正するステップを含んでいる、ことを特徴とする血管指標値算出プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、被測定者から取得された脈波の情報に基づいて血管の状態を示す指標値を算出する血管指標値算出装置および血管指標値算出方法に関する。
【0002】
この発明は、被測定者から取得された脈波の情報に基づいて血管の状態を示す指標値を算出する方法をコンピュータに実行させるための血管指標値算出プログラムに関する。
【背景技術】
【0003】
足関節上腕血圧比(Ankle Brachial (pressure) Index、ABI)の測定は、末梢動脈疾患(PAD、peripheral arterial disease)または閉塞性動脈硬化症(ASO、arteriosclerosis obliterans)の診断にとって信頼できる客観的な指標を与える点で極めて重要である。足関節上腕血圧比(以下では「ABI」とも称する。)は、被測定者の足関節血圧を上腕血圧で除した値と定義される。ここでの足関節血圧は、左右それぞれの足の後脛骨動脈(PT)血圧または足背動脈(DP)血圧(収縮期血圧)であり、通例、いずれか高い方の血圧値が足関節血圧として採用され、他方、上腕血圧は、通例、左右の上腕血圧(収縮期血圧)のうち高い方の値が上腕血圧として採用される。よって、通例、ABIの算出には被測定者の上腕および足関節の収縮期血圧の測定を要する。
【0004】
特許文献1(特開2013−094262号公報)には、被測定者の脈波からABIに相当する指標値(以下、「ABI推定値」と称する。)を算出する測定装置が開示されている。この測定装置では、被測定者から取得した上肢および下肢の脈波信号から、脈波の先鋭度を表す指標、足首脈波の上昇特徴値を表す指標、脈振幅、(ステップ応答の「上側面積」、「上側面積/下側面積比」、「区間最大値」といった)上肢から下肢への脈波の伝達関数を表す指標等を算出し、それらに基づいてABI推定値を算出している(特許文献1の段落[0054]〜[0069],図22図23図27等)。このようにして算出されるABI推定値は、真のABI値(実際に被測定者の上腕及び足関節の収縮期血圧を測定して得たABIの値、以下、「ABI測定値」とも称する。)に対し、決定係数(寄与率)0.663を示す(特許文献1の図27)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2013−094262号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、ABI推定値といった血管の状態を示す指標値には、さらに高い精度が望まれる。例えば、ABI推定値といった上記の指標値には、ABI測定値とより高い相関性を有することが望まれる。そこで、この発明の課題は、被測定者から取得された脈波の情報に基づいて、従来よりもさらに精度よく、血管の状態を示す指標値を算出することができる血管指標値算出装置および血管指標値算出方法を提供することにある。
【0007】
また、この発明の課題は、被測定者から取得された脈波の情報に基づいて、従来よりもさらに精度よく、血管の状態を示す指標値を算出することができる血管指標値算出プログラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、この発明の実施形態による、被測定者の血管の状態を示す指標値を算出する血管指標値算出装置は、
被測定者の第1測定部位での脈波である第1脈波の時系列情報を含んだ第1脈波データと、被測定者の第2測定部位での脈波である第2脈波の時系列情報を含んだ第2脈波データと、を取得する脈波取得部と、
取得した第1脈波データを周波数空間へ変換して、第1脈波の周波数特性である第1周波数特性を導出し、取得した第2脈波データを周波数空間へ変換して、第2脈波の周波数特性である第2周波数特性を導出する脈波周波数特性導出部と、
血管を含んで構成され第1脈波を入力とし第2脈波を出力とする血管系の周波数伝達特性を、第1周波数特性および第2周波数特性に基づいて算出する周波数伝達特性算出部と、
算出した周波数伝達特性を修正する周波数伝達特性修正部と、
修正された周波数伝達特性を用いて予め定められた参照入力に対する血管系の応答を算出する応答算出部と、
算出した応答に基づいて血管の状態を示す指標値を算出する指標値算出部と、を有し、
周波数伝達特性修正部は、周波数伝達特性の周波数ゲイン特性を第1周波数特性の周波数振幅特性に基づいて重み付けすることにより周波数ゲイン特性を修正し、修正された周波数ゲイン特性に基づいて周波数伝達特性を修正する、ことを特徴とする。
【0009】
この発明の実施形態による血管指標値算出装置では、脈波取得部が被測定者の第1および第2測定部位の脈波の時系列情報(第1および第2脈波データ)を取得し、脈波周波数特性導出部が、第1および第2測定部位の脈波の周波数特性(第1および第2周波数特性)を導出し、周波数伝達特性算出部が、第1および第2周波数特性を用いて血管系の周波数伝達特性を算出する。そして周波数伝達特性修正部が、算出された周波数伝達特性の周波数ゲイン特性を、第1周波数特性の周波数振幅特性に基づいて重み付けすることにより周波数ゲイン特性を修正し、修正された周波数ゲイン特性に基づいて周波数伝達特性を修正する。最後に応答算出部が、そのように修正された周波数伝達特性を用いて参照入力に対する血管系の応答を算出し、指標値算出部が、応答算出部によって算出された応答に基づいて血管の状態を示す指標値を算出する。
【0010】
周波数伝達特性の周波数ゲイン特性は、本来的には、周波数成分毎の入力と出力の比であって、入力に含まれる各周波数成分間の相対的な大小関係と直接的な関係はない。他方、脈波は、被測定者の脈拍数の逆数と一致する周波数(基本波の周波数)の成分、ならびに、その高調波の成分を含み、それらの振幅は、基本波からその高調波に向かう方向に沿って指数関数的に減少する。そこで、本実施形態においては、脈波に含まれる基本波および比較的低次の高調波の成分の応答特性がその比較的高次の高調波成分の応答特性と比較して強調されるように、周波数伝達特性の周波数ゲイン特性を第1周波数特性の周波数振幅特性に基づいて重み付けする。具体的には、周波数空間への変換後の振幅スペクトルにおける基本波の周波数のピークと、1つまたは複数の高調波のピークとの比率に応じて周波数ゲイン特性を重み付けする。応答算出部が、そのようにして修正された周波数伝達特性を用いて参照入力に対する血管系の応答を算出し、指標値算出部が、算出された応答に基づいて血管の状態を示す指標値を算出する。そうすることで、本実施形態においては、参照入力に対する応答において、脈波の基本波および比較的低次の高調波の成分からの寄与が強調され、指標値算出部は、そのような応答を用いて血管の状態を示す指標値を算出することで、精度よく指標値を算出することが可能となっている。
【0011】
上記課題を解決するため、この発明の実施形態による血管指標値算出装置は、
周波数伝達特性修正部は、第1周波数特性に基づいて、
周波数伝達特性の周波数ゲイン特性において、
第1脈波の基本波の周波数に相当する第1周波数と、
第1脈波の第2高調波の周波数に相当する第2周波数と、
の間の周波数ゲイン特性が、第1周波数および第2周波数でのゲインを通り線形的に変化するように周波数ゲイン特性を修正し、
周波数伝達特性の周波数位相特性において、
第1周波数と、
第2周波数と、
の間の周波数位相特性が、第1周波数および第2周波数での位相を通り線形的に変化するように周波数位相特性を修正し、
修正された周波数ゲイン特性および修正された周波数位相特性に基づいて周波数伝達特性を修正することを特徴とする。
【0012】
この発明の実施形態による血管指標値算出装置では、周波数伝達特性の周波数ゲイン特性および周波数位相特性において、脈波の基本波の周波数およびその第2高調波の周波数にそれぞれ等しい第1および第2の周波数の間を、直線的につなぐように、周波数伝達特性を修正する。そうすることで、周波数伝達特性において第1周波数と第2周波数とに挟まれた範囲の周波数の成分のうち脈波に由来しないと思われる周波数の成分の、参照入力に対する応答への寄与を抑制することができ、後述する指標値算出部が精度よく血管の状態を示す指標値(ABWI値)を算出することが可能となっている。
【0013】
上記課題を解決するため、この発明の実施形態による血管指標値算出装置は、
周波数伝達特性修正部は、第1周波数特性に基づいて、
周波数伝達特性の周波数ゲイン特性において、
第2周波数と、
第1脈波の第3高調波の周波数に相当する第3周波数と、
の間の周波数ゲイン特性が、第2周波数および第3周波数でのゲインを通り線形的に変化するように周波数ゲイン特性を修正し、
周波数伝達特性の周波数位相特性において、
第2周波数と、
第3周波数と、
の間の周波数位相特性が、第2周波数および第3周波数での位相を通り線形的に変化するように周波数位相特性を修正し、
修正された周波数ゲイン特性および修正された周波数位相特性に基づいて周波数伝達特性を修正することを特徴とする。
【0014】
この発明の実施形態による血管指標値算出装置では、周波数伝達特性の周波数ゲイン特性および周波数位相特性において、脈波の第2高調波の周波数およびその第3高調波の周波数にそれぞれ等しい第2および第3の周波数の間を、直線的につなぐように、周波数伝達特性を修正する。そうすることで、周波数伝達特性において第2周波数と第3周波数とに挟まれた範囲の周波数の成分のうち脈波に由来しないと思われる周波数の成分の、参照入力に対する応答への寄与を抑制することができ、後述する指標値算出部が精度よく血管の状態を示す指標値(ABWI値)を算出することが可能となっている。
【0015】
上記課題を解決するため、この発明の実施形態による血管指標値算出装置は、
周波数伝達特性修正部は、周波数伝達特性の周波数帯域を第1脈波の基本波の周波数よりも小さい周波数と10ヘルツとの間の範囲に制限することにより周波数伝達特性を修正することを特徴とする。ここで、第1脈波の基本波の周波数未満の周波数とは、例えば、第1脈波の基本波の周波数から脈波周波数特性導出部の周波数分解能以上を差し引いた値に等しい周波数である。
【0016】
この発明の実施形態による血管指標値算出装置では、周波数伝達特性の周波数帯域を10ヘルツ以下に制限することにより、応答に対する脈波の比較的高次の高調波の成分の影響を除去する。そうすることで、参照入力に対する応答において、脈波の比較的高次の高調波の成分からの寄与が除去され(少なくとも低減され)、指標値算出部は、そのような応答を用いて血管の状態を示す指標値を算出することで、精度よく指標値を算出することが可能となっている。
【0017】
上記課題を解決するため、この発明の実施形態による血管指標値算出装置は、
参照入力は、ステップ関数の形状を有し、
応答算出部は、参照入力に対する血管系の応答を算出し、
指標値算出部は、応答において最初に極大値が現れるまでの時間に基づいて血管の状態を示す指標値を算出することを特徴とする。
【0018】
この発明の実施形態による血管指標値算出装置では、応答において最初に極大値が現れるまでの時間に基づいて血管の状態を示す指標値を算出する。そうすることで、血管の状態を示す指標値が、精度よく算出される。
【0019】
上記課題を解決するため、この発明の実施形態による血管指標値算出装置は、
周波数伝達特性修正部は、第1周波数特性に基づいて、
周波数伝達特性の周波数位相特性において、
第1周波数以下の周波数範囲における周波数位相特性が、第1周波数での位相と同じ値になるように周波数位相特性を修正し、
修正された周波数位相特性に基づいて周波数伝達特性を修正することを特徴とする。
【0020】
上記課題を解決するため、この発明の実施形態による血管指標値算出装置は、
周波数伝達特性修正部は、第1周波数特性に基づいて、
周波数伝達特性の周波数ゲイン特性において、
第1脈波の基本波の周波数に相当する第1周波数以下の周波数範囲における周波数ゲイン特性が、第1周波数でのゲインと同じ値になるように周波数ゲイン特性を修正し、
修正された周波数ゲイン特性に基づいて周波数伝達特性を修正することを特徴とする。
【0021】
この発明の実施形態による血管指標値算出装置は、脈拍数の逆数に相当する第1周波数以下の周波数範囲について、周波数ゲイン特性および周波数位相特性の少なくともいずれか一方を、第1周波数における値と同じ値になるように周波数伝達特性を修正する。そうすることで、被測定者の脈拍数の大小が応答に与える影響を低減することができ、血管の状態を示す指標値が、精度よく算出される。
【0022】
上記課題を解決するため、この発明の実施形態による血管指標値算出装置は、
指標値算出部は、応答と第1脈波の基本波の周波数とに基づいて血管の状態を示す指標値を算出することを特徴とする。
【0023】
この発明の実施形態による血管指標値算出装置では、応答に加え、第1脈波の基本波の周波数すなわち被測定者の脈拍数(の逆数)に基づいて血管の状態を示す指標値を算出する。具体的には、回帰分析により予め求めた定係数を用いて応答の特徴量と被測定者の線形結合を求め、それを指標値とする。そうすることで、被測定者の脈拍数の大小が応答に与える影響を低減することができ、血管の状態を示す指標値が、精度よく算出される。
【0024】
上記課題を解決するため、この発明の実施形態による血管指標値算出装置は、
脈波周波数特性導出部は、第1脈波データおよび第2脈波データをそれぞれ複数のデータフレームに分割し、第1脈波データおよび第2脈波データの少なくともいずれか一方の各データフレームの周波数特性を導出し、導出された各周波数特性においてピークを示す最低の周波数を求め、求めた最低の周波数に基づいて雑音が含まれるデータフレームを特定して除外し、除外されなかった第1脈波データおよび第2脈波データの少なくともいずれか一方のデータフレームおよび対応する第1脈波データおよび第2脈波データの少なくともいずれか他方のデータフレームに基づいて第1周波数特性および第2周波数特性を導出することを特徴とする。
【0025】
この発明の実施形態による血管指標値算出装置は、各データフレームについて、雑音が混入していないか判断し、雑音が混入していると判断されたデータフレームを除外(リジェクト)する。そうすることで、脈波データ取得時に混入した雑音の影響が低減され、血管の状態を示す指標値が、精度よく算出される。
【0026】
上記課題を解決するため、この発明の別の実施形態による、被測定者の血管の状態を示す指標値を算出する血管指標値算出方法は、
血管指標値算出装置において被測定者の血管の状態を示す指標値を算出する血管指標値算出方法であって、
血管指標値算出装置の演算部が、被測定者の第1測定部位での脈波である第1脈波の時系列情報を含んだ第1脈波データと、被測定者の第2測定部位での脈波である第2脈波の時系列情報を含んだ第2脈波データと、を取得するステップと、
演算部が、取得した第1脈波データを周波数空間へ変換して、第1脈波の周波数特性である第1周波数特性を導出し、取得した第2脈波データを周波数空間へ変換して、第2脈波の周波数特性である第2周波数特性を導出するステップと、
演算部が、血管を含んで構成され第1脈波を入力とし第2脈波を出力とする血管系の周波数伝達特性を、第1周波数特性および第2周波数特性に基づいて算出するステップと、
演算部が、算出するステップで算出した周波数伝達特性を修正するステップと、
演算部が、修正するステップで修正された周波数伝達特性を用いて予め定められた参照入力に対する血管系の応答を算出するステップと、
演算部が、応答を算出するステップで算出された応答に基づいて血管の状態を示す指標値を算出するステップと、を有し、
修正するステップは、演算部が周波数伝達特性の周波数ゲイン特性を第1周波数特性の周波数振幅特性に基づいて重み付けすることにより周波数ゲイン特性を修正し、修正された周波数ゲイン特性に基づいて周波数伝達特性を修正するステップを含んでいることを特徴とする。
【0027】
この発明の別の実施形態による血管指標値算出方法では、取得した第1および第2脈波データを用いて第1および第2測定部位の脈波の周波数特性(第1および第2周波数特性)を導出し、第1および第2周波数特性から血管系の周波数伝達特性が算出される。そして、算出された周波数伝達特性の周波数ゲイン特性が、第1周波数特性の周波数振幅特性に基づいて重み付けされることにより周波数ゲイン特性が修正され、修正された周波数ゲイン特性に基づいて周波数伝達特性が修正される。最後に、そのように修正された周波数伝達特性を用いて参照入力に対する血管系の応答が算出され、当該応答に基づいて血管の状態を示す指標値が算出される。
【0028】
本実施形態においては、参照入力に対する応答において、脈波の基本波および比較的低次の高調波の成分からの寄与が強調され、そのような応答を用いて血管の状態を示す指標値を算出することで、精度よく指標値が算出される。
【0029】
上記課題を解決するため、この発明の別の実施形態による、被測定者の血管の状態を示す指標値を算出する方法をコンピュータに実行させるための血管指標値算出プログラムは、
被測定者の血管の状態を示す指標値を算出する方法をコンピュータに実行させるための血管指標値算出プログラムであって、方法は、
被測定者の第1測定部位での脈波である第1脈波の時系列情報を含んだ第1脈波データと、被測定者の第2測定部位での脈波である第2脈波の時系列情報を含んだ第2脈波データと、を取得するステップと、
取得した第1脈波データを周波数空間へ変換して、第1脈波の周波数特性である第1周波数特性を導出し、取得した第2脈波データを周波数空間へ変換して、第2脈波の周波数特性である第2周波数特性を導出するステップと、
血管を含んで構成され第1脈波を入力とし第2脈波を出力とする血管系の周波数伝達特性を、第1周波数特性および第2周波数特性に基づいて算出するステップと、
算出するステップで算出した周波数伝達特性を修正するステップと、
修正するステップで修正された周波数伝達特性を用いて予め定められた参照入力に対する血管系の応答を算出するステップと、
応答を算出するステップで算出された応答に基づいて血管の状態を示す指標値を算出するステップと、を有し、
修正するステップは、周波数伝達特性の周波数ゲイン特性を第1周波数特性の周波数振幅特性に基づいて重み付けすることにより周波数ゲイン特性を修正し、修正された周波数ゲイン特性に基づいて周波数伝達特性を修正するステップを含んでいることを特徴とする。
【0030】
この発明の別の実施形態による血管指標値算出プログラムでは、取得した第1および第2脈波データを用いて第1および第2測定部位の脈波の周波数特性(第1および第2周波数特性)を導出し、第1および第2周波数特性から血管系の周波数伝達特性が算出される。そして、算出された周波数伝達特性の周波数ゲイン特性が、第1周波数特性の周波数振幅特性に基づいて重み付けされることにより周波数ゲイン特性が修正され、修正された周波数ゲイン特性に基づいて周波数伝達特性が修正される。最後に、そのように修正された周波数伝達特性を用いて参照入力に対する血管系の応答が算出され、当該応答に基づいて血管の状態を示す指標値が算出される。
【0031】
本実施形態においては、参照入力に対する応答において、脈波の基本波および比較的低次の高調波の成分からの寄与が強調され、そのような応答を用いて血管の状態を示す指標値を算出することで、精度よく指標値が算出される。
【0032】
本明細書において、ある系の周波数伝達特性は、その系の周波数ゲイン特性および周波数位相特性の少なくともいずれか一方、または、両方を含む。ある系の周波数伝達特性は、例えば、その系の伝達関数で表される。
【0033】
本明細書において、ある時系列データの周波数特性は、そのデータの周波数振幅特性および周波数位相特性の少なくともいずれか一方、または、両方を含む。ある時系列データの周波数特性は、例えば、そのデータについてのフーリエ係数として表される。このときフーリエ係数は、複素形式で表現されてもよい。
【発明の効果】
【0034】
以上より明らかなように、この発明の実施形態による血管指標値算出装置によれば、被測定者から取得された脈波の情報に基づいて、従来よりもさらに精度よく、血管の状態を示す指標値を算出することができる。
【0035】
同様、この発明の実施形態による血管指標値算出方法によれば、被測定者から取得された脈波の情報に基づいて、従来よりもさらに精度よく、血管の状態を示す指標値を算出することができる。
【0036】
同様、この発明の実施形態による血管指標値算出プログラムによれば、被測定者から取得された脈波の情報に基づいて、従来よりもさらに精度よく、血管の状態を示す指標値を算出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
図1】この発明の一実施形態による血管指標値算出装置の構成を示すブロック図である。
図2】血管指標値算出装置の第1脈波センサの構成を示すブロック図である。
図3】血管指標値算出装置の機能的構成を示すブロック図である。
図4】血管指標値算出装置の動作概略を示すフローチャートである。
図5A】右上腕部より取得された脈波時系列データの一例である。
図5B】左上腕部より取得された脈波時系列データの一例である。
図5C】右足関節部より取得された脈波時系列データの一例である。
図5D】左足関節部より取得された脈波時系列データの一例である。
図6A】脈波時系列データの各データフレームの周波数特性を示すグラフである。
図6B】雑音除去処理後の脈波時系列データの各データフレームの周波数特性を示すグラフである。
図7A】血管系の周波数伝達特性を示すボード線図である(ゲイン)。
図7B】血管系の周波数伝達特性を示すボード線図である(位相)。
図8】脈波の基本波および高調波の分布を示すグラフである。
図9A】周波数伝達特性平滑化部により修正された周波数伝達特性を示すボード線図である(ゲイン)。
図9B】周波数伝達特性平滑化部により修正された周波数伝達特性を示すボード線図である(位相)。
図10】周波数ゲイン特性重み付け部により修正された周波数伝達特性を示すボード線図である(ゲイン)。
図11A】周波数伝達特性帯域制限部により修正された周波数伝達特性を示すボード線図である(ゲイン)。
図11B】周波数伝達特性帯域制限部により修正された周波数伝達特性を示すボード線図である(位相)。
図12A】周波数伝達特性低域修正部により修正された周波数伝達特性を示すボード線図である(ゲイン)。
図12B】周波数伝達特性低域修正部により修正された周波数伝達特性を示すボード線図である(位相)。
図13】ステップ応答算出部により算出されたステップ応答およびピークまでの時間Tpeakを、横軸をサンプリングポイントとして示すグラフである。
図14A】ABWI算出部が算出したABWI値と、ABI測定値との関係を示す散布図である。(所定の条件下、雑音混入ブロック除去部による雑音除去処理を行わなかった場合のデータによる。)
図14B】ABWI値と、ABI測定値との関係を示す散布図である。(図14Aと同一の条件下、さらに雑音混入ブロック除去部による雑音除去処理を行った場合のデータによる。)
図15A】ABWI値と、ABI測定値との関係を示す散布図である。(所定の条件下、周波数伝達特性平滑化部による周波数伝達特性修正処理を行わなかった場合のデータによる。)
図15B】ABWI値と、ABI測定値との関係を示す散布図である。(図15Aと同一の条件下、さらに周波数伝達特性平滑化部による周波数伝達特性修正処理を行った場合のデータによる。)
図16A】ABWI値と、ABI測定値との関係を示す散布図である。(所定の条件下、周波数ゲイン特性重み付け部による周波数伝達特性修正処理を行わなかった場合のデータによる。)
図16B】ABWI値と、ABI測定値との関係を示す散布図である。(図16Aと同一の条件下、さらに周波数ゲイン特性重み付け部による周波数伝達特性修正処理を行った場合のデータによる。)
図17A】ABWI値と、ABI測定値との関係を示す散布図である。(所定の条件下、周波数伝達特性帯域制限部による周波数伝達特性修正処理を行わなかった場合のデータによる。)
図17B】ABWI値と、ABI測定値との関係を示す散布図である。(図17Aと同一の条件下、さらに周波数伝達特性帯域制限部による周波数伝達特性修正処理を行った場合のデータによる。)
図18A】ABWI値と、ABI測定値との関係を示す散布図である。(所定の条件下、ABWI算出部において被測定者の脈拍数を考慮せずにABWI値を算出した場合のデータによる。)
図18B】ABWI値と、ABI測定値との関係を示す散布図である。(図18Aと同一の条件下、ABWI算出部において被測定者の脈拍数を考慮してABWI値を算出した場合のデータによる。)
【発明を実施するための形態】
【0038】
以下、この発明の実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0039】
図1は、この発明の実施形態による血管指標値算出装置である足関節上腕比算出装置(全体を符号1で示す。以下、「ABI算出装置」と称す。)のハードウェア構成を示すブロック図である。このABI算出装置1は、脈波取得部100と、演算処理部200と、ユーザインタフェース部300と、を有し、脈波取得部100が取得した脈波のデータに基づいて被測定者2の血管の状態を示す指標値(例えば、脈波に基づいて算出されたABI値(以下、「ABWI値」と称する。)を算出することができる。ここで、ABWIとは、Ankle Brachial Wave Indexの略称である。
【0040】
脈波取得部100は、被測定者2の脈波を測定し、測定結果を演算処理部200へ出力する。脈波取得部100は、第1カフ110cと接続され、被測定者2の第1測定部位(例えば、左上腕部21)での脈波を測定し、測定結果を時系列データとして出力することができる第1脈波センサ110と、第2カフ120cと接続され、被測定者2の第2測定部位(例えば、左足関節部22)での脈波を測定し、測定結果を時系列データとして出力することができる第2脈波センサ120と、を有する。第1脈波センサ110と、第2脈波センサ120は、実質的に同じ構成を備えてよく、両者は、演算処理部200の制御により同期して独立的に被測定者2の脈波を測定することができる。
【0041】
なお、脈波取得部100は、さらに、第1および第2脈波センサ110,120と同様の構成を有する第3および第4の脈波センサを備え、第1および第2脈波センサ110,120と同期して、例えば、被測定者2の右上腕部23および右足関節部24の脈波を測定できるものであってもよい。以下では、説明の簡単のため、脈波取得部100として、被測定者2の上肢部に含まれる第1測定部位(左上腕部21)および下肢部に含まれる第2測定部位(左足関節部22)の2点における脈波を測定するための構成を示す。
【0042】
図2は、脈波取得部100の構成の詳細を説明するための図である。簡単のため、第2脈波センサ120の構成の図示を省略し、第1脈波センサ110の構成のみを示す。上述したように第2の脈波センサ120の構成は、第1脈波センサ110と同様の構成でよい。
【0043】
第1脈波センサ110は、第1カフ110cの内圧を調整し、検出することで第1カフ110cが装着された部位の脈波を測定する。第1脈波センサ110は、第1カフ110cへ空気を供給するポンプ111と、第1カフ110c内の空気の給排気を行うための調圧弁112と、第1カフ110c内の圧力を検出する圧力センサ113と、圧力センサ113の出力をデジタルデータに変換するアナログ・デジタル・コンバータ114(以下、「ADC」)と、ADC114の出力からオフセット成分(所謂直流成分)を除去し、変動成分(所謂交流成分)のみを出力するオフセット除去部115とを備える。
【0044】
脈波測定時には、第1脈波センサ110は、演算処理部200の制御の下、ポンプ111を駆動させ、第1カフ110cの内圧をおよそ50mmHgに保持し、圧力センサ113が、第1カフ110cの内圧を検出する。圧力センサ113が検出する内圧には、ポンプ111の作用により維持される圧力成分と、被測定者2の脈波による圧力変動の成分とが含まれている。ADC114は、圧力センサ113が検出した脈波の時系列データを所定のレート[pts/sec]でデジタルデータに変換し、オフセット115が当該デジタルデータから直流成分を除去する。このようにして、第1脈波センサ110は、第1カフ110cが装着された部位における脈波の変動成分の時系列データを演算処理部200へ出力する。
【0045】
なお、脈波取得部100は、上述のようにカフを介して圧脈波を測定する構成に限定されず、例えば、光学的に脈波を取得する構成であってもよい。
【0046】
図1に戻り、演算処理部200は、演算処理および装置全体を制御するための処理を行う中央処理装置230(以下「CPU」と称す。)と、CPU230が実行するプログラムを記憶するリード・オンリー・メモリ210(以下、「ROM」と称す。)と、各種処理でワークメモリとして使用されるランダム・アクセス・メモリ220(以下、「RAM」と称す。)と、を有する。具体的には、ROM210は、ABI算出装置1(血管指標値算出装置)において被測定者2の血管の状態を示す指標値(例えばABWI値)を算出する血管指標値算出方法を制御部230に実行させるための血管指標値算出プログラムを記憶し、CPU230がROM210に記憶されている当該プログラムを読み出し、RAM220を利用して下記の処理を行って血管指標値(例えばABWI値)を算出する。
【0047】
ユーザインタフェース部300は、表示部240および操作部250を有する。表示部240は、表示画面(例えば、LCD(Liquid Crystal Display)またはEL(Electroluminescence)ディスプレイなど)を備え、被測定者2の脈拍に関する情報(例えば、脈拍数)や、ABI算出装置1が算出したABWI値等を表示する。等を表示画面に表示する。当該表示画面の制御は、表示制御部として機能する制御部230(CPU)(後述)によって行われる。操作部250は、例えば、ABI算出装置1の電源をON又はOFFするために操作される電源スイッチや、ABWI値の算出を開始するためのスイッチ(スタート・ボタン)等を備える。なお、表示部240と操作部250は、タッチパネル方式の表示装置を用いて一体的に構成されてもよい。
【0048】
次に、図3図13を参照し、血管指標値算出装置であるABI算出装置1の演算処理部200により実現される機能について説明する。図3は、演算処理部200のCPU230が上記のプログラムを実行することにより実現される機能を表したブロック図である。図4は、ABI算出装置1の動作フローを示すフローチャートである。
【0049】
脈波取得部100は、被測定者2の第1測定部位21の脈波を30秒間、それと同時に、第2測定部位22の脈波を同じく30秒間測定する。ここで、第1カフ110cの内圧をx’(t)、第2カフ120cの内圧をy’(t)(t:0〜30[秒])とし、内圧の定常成分をそれぞれ、xおよびyとし、内圧の変動成分をそれぞれ、x(t)およびy(t)とすれば、
【数1】
【数2】
である。脈波取得部100は、第1および第2測定部位21,22の脈波(第1脈波および第2脈波)の変動成分x(t)およびy(t)を、サンプリング周波数1200[Hz](1200[pts/sec])でサンプリングし、それぞれデジタルデータとして演算処理部200へ出力する(図4におけるステップS1)。
【0050】
図5A図5B図5C図5Dは、脈波取得部100が出力するデジタルデータの例である。図5Aは、右上腕部23から取得される脈波時系列データの例であり、図5Bは、左上腕部21から取得される脈波時系列データの例であり、図5Cは、右足関節部24から取得される脈波時系列データの例であり、図5Dは、左足関節部22から取得される脈波時系列データの例である。上述したように、左右上腕部および左右足関節部の4点の脈波を使用してABWI値を算出する方法も存在するが、ここでは、説明の簡単化のため、左上腕部における脈波(図5Bのデータ列x(m))および左足関節部における脈波(図5Dのデータ列y(m))の2つの脈波時系列データを用いてABWI値を算出する方法を説明する。
【0051】
演算処理部200の脈波時系列データ作成部201(CPU230)は、脈波取得部100から、第1および第2脈波をサンプリング周波数1200[Hz]で30秒間サンプリングし直流成分を除去して得られた第1および第2脈波のデジタルデータを取得する(図4におけるステップS2)。以下、第1脈波の(変動成分の)時系列データを、
【数3】
とし、第2脈波の(変動成分の)時系列データを、
【数4】
とする。ここで、mは、1〜36000の整数である。
【0052】
脈波時系列データ切出部202(CPU230)は、第1および第2脈波時系列データx(m)、y(m)を受け、それぞれを、フレームサイズ4096データポイント、隣接データフレーム間のオーバーラップ率50%(2048データポイント)の16個のデータフレーム(ブロック)に切り分ける(図4におけるステップS3)。すなわち、第1脈波時系列データx(m)を切り出して生成される、第j番目のデータフレーム(ブロック)の各データは、
【数5】
と表現される関係にあり、同様、第2脈波時系列データy(m)を切り出して生成される、第j番目のデータフレーム(ブロック)の各データは、
【数6】
と表現される関係にある。ここで、jは、1〜16の整数であり、nは、1〜4096の整数である。
【0053】
脈波周波数特性導出部203(FFT部)(CPU230)は、第1脈波時系列データの各ブロックx(n)、および、第2脈波時系列データの各ブロックy(n)を、ブロック毎に周波数領域に変換する(図4におけるステップS4)。第1および第2脈波時系列データの各ブロックの時間領域から周波数領域への変換は、高速フーリエ変換(FFT)により行われる。なお、周波数領域への変換処理は、フーリエ変換以外の方法で行われてもよい。以下、第j番目の第1脈波時系列データのブロックをFFTにより周波数領域に変換して得られる、複素数形式のフーリエ係数を、
【数7】
とし、同様、第j番目の第2脈波時系列データのブロックをFFTにより周波数領域に変換して得られる、複素数形式のフーリエ係数を、
【数8】
とする。フーリエ係数X(f)およびY(f)は、
【数9】
【数10】
である。ここで、XjR(f)は、X(f)の実数部、XjI(f)は、X(f)の虚数部であり、これを複素平面上における極座標表記を用いれば、振幅XjA(f)と、位相(偏角)XjP(f)が得られる。同様、YjR(f)は、Y(f)の実数部、YjI(f)は、Y(f)の虚数部であり、これを複素平面上における極座標表記を用いれば、振幅YjA(f)と、位相(偏角)YjP(f)が得られる。
【0054】
ピーク周波数検出部204(CPU230)は、第1および第2脈波データの各ブロックのフーリエ係数X(f)およびY(f)を受け取る。ピーク周波数検出部204は、各ブロックの周波数振幅特性についてピークサーチ(極大点の検出)を行い、ピークが検出された周波数のうちで最も低い周波数を、最低ピーク周波数サーチ結果として、雑音混入ブロック除去部205へ送る。
【0055】
雑音混入ブロック除去部205(CPU230)は、第1脈波データの各ブロックについての最低ピーク周波数サーチ結果同士を比較し、16の最低ピーク周波数の分布状態から、例えば多数決等により、最も多くのサーチ結果が指し示している最低ピーク周波数を、第1脈波の基本波周波数と推定し、当該推定された基本波周波数と異なる周波数が最低ピーク周波数であるブロックを、雑音が混入されたブロックであるとみなし、以後の処理から除外(ブロックリジェクト)する(図4におけるステップS5)。また、除外された第1脈波データのブロックに対応する第2脈波データのブロックも、以後の処理から除外する。雑音混入ブロック除去部205は、除外しなかった第1および第2脈波データのブロックの周波数特性(フーリエ係数)のみを、周波数伝達特性算出部206へ送る。
【0056】
図6Aは、除去前の第1脈波データの各ブロックの周波数振幅特性をプロットしたグラフである。図より判るように、a番目のブロックの周波数振幅特性X(f)の最低ピーク周波数、b番目のブロックの周波数振幅特性X(f)の最低ピーク周波数、および、c番目のブロックの周波数振幅特性X(f)の最低ピーク周波数は、他のブロックの周波数振幅特性における最低ピーク周波数から大きくずれている。この場合、雑音混入ブロック除去部205は、a番目のブロック、b番目のブロック、および、c番目のブロックを、雑音が混入されたブロックであるとみなし、以後の処理から除外(ブロックリジェクト)する。
【0057】
図6Bは、除去されなかったブロックの周波数振幅特性のグラフである。このようにして、本実施形態によるABI算出装置1は各ブロックの周波数特性においてピークを示す最低の周波数を求め、求めた最低の周波数に基づいて雑音が含まれるデータフレームを特定して除外し、除外されなかった第1脈波データおよび第2脈波データの少なくともいずれか一方のデータフレームおよび対応する第1脈波データおよび第2脈波データの少なくともいずれか他方のデータフレームに基づいて第1周波数特性および第2周波数特性を導出する。そうすることで、脈波データ取得時に混入した雑音の影響が低減され、血管の状態を示す指標値が、精度よく算出される。
【0058】
以下、説明の簡素化のため、除外されず周波数伝達特性算出部206へ送られた第1および第2脈波データのブロックの周波数特性を、Xk(f)およびYk(f)とする。ここでkは、1から、除外されずに残ったブロック数Kまでの整数である。
【0059】
なお、雑音混入ブロック除去部205は、上記の処理に加えて/代えて、第2脈波データの各ブロックについての最低ピーク周波数サーチ結果同士を比較し、16の最低ピーク周波数の分布状態から、最も多くのサーチ結果が指し示している最低ピーク周波数を、第2脈波の基本波周波数と推定し、当該推定された基本波周波数と異なる周波数が最低ピーク周波数であるブロックを、雑音が混入されたブロックであるとみなし、以後の処理から除外(ブロックリジェクト)してもよい。その場合、除外された第2脈波データのブロックに対応する第1脈波データのブロックも、以後の処理から除外される。
【0060】
周波数伝達特性算出部206(伝達関数算出部)(CPU230)は、雑音混入ブロック除去部205により除外されなかった第1および第2脈波データのブロックを用いて、第1脈波を入力とし第2脈波を出力とする、血管系の周波数伝達特性(所謂伝達関数)を算出する(図4におけるステップS6)。周波数伝達特性算出部206は、第1および第2脈波データのブロックの各ペア(ペアk(k:1〜K))を用いて伝達関数H(0)(f)を求める。
【0061】
具体的には、伝達関数H(0)(f)を次式、
【数11】
を用いて算出する。ここで、添え字*は複素共役を表し、G(0)(f)は周波数ゲイン特性、φ(0)(f)は周波数位相特性を指す。本実施形態では、上式を用いて伝達関数(周波数伝達特性)を、入力と出力のクロススペクトルと入力のパワースペクトルの比として導出するが、上式は伝達関数の算出の例に過ぎず、上式と異なる数式を用いて伝達関数を算出してもよい。XAVE(f)およびYAVE(f)は、それぞれ、雑音混入ブロック除去部205によって除去されなかったブロックの周波数特性の平均である。例えば、XAVE(f)およびYAVE(f)は、それぞれ、
【数12】
および
【数13】
である。なお以下では、周波数ゲイン特性Gをデシベル表記したものをgとし、周波数位相特性φの位相をθ(単位:ラジアン)とする。つまり、
【数14】
【数15】
とする。
【0062】
図7Aおよび図7Bは、周波数伝達特性H(0)(f)のボード線図である。図7Aは、周波数伝達特性H(0)(f)の周波数ゲイン特性のグラフ(単位はデシベル)であり、図7Bは、周波数伝達特性H(0)(f)の周波数位相特性のグラフ(単位はラジアン)である。
【0063】
次に、周波数伝達特性修正部207(伝達関数修正部)(CPU230)は、周波数伝達特性算出部206が算出した周波数伝達特性H(0)(f)を以下のようにして修正し、修正周波数伝達特性mH(4)(f)を出力する。
【0064】
周波数伝達特性修正部207の脈波基本周波数検出部207e(脈拍数検知部)(CPU230)は、雑音混入ブロック除去部205より第1脈波の平均周波数特性XAVE(f)を受け取り、その周波数振幅特性に対しピークサーチを行い、ピークが検出された周波数に基づき第1脈波に含まれる基本波の周波数fFWを求める。併せて、脈波基本周波数検出部207eは、求めた基本波の周波数に基づいて、被測定者2の脈拍数PRを決定しておく。このようにして求められた基本波周波数fFW(もしくは脈拍数PR)は、周波数伝達特性平滑化部207aへ送られる。
【0065】
周波数伝達特性修正部207の周波数伝達特性平滑化部207a(CPU230)は、脈波基本周波数検出部207eより送られた基本波周波数fFWに基づいて、周波数伝達特性H(0)(f)の周波数ゲイン特性G(0)(f)(すなわちg(0)(f))および周波数位相特性φ(0)(f)を修正する。
【0066】
具体的には、周波数伝達特性平滑化部207aは、先ず、基本波周波数fFWを整数倍することにより高次高調波の周波数fH2、fH3、fH4、fH5等を求める。図8は、平均周波数特性XAVE(f)と基本波周波数fFW、および求められた高次高調波の周波数fH2、fH3、fH4、fH5等との関係を示すグラフである。
【0067】
そして、周波数伝達特性平滑化部207aは、基本波周波数fFW、高次高調波の周波数fH2、fH3、fH4、fH5等を用いて周波数ゲイン特性G(0)(f)(すなわちg(0)(f))および周波数位相特性φ(0)(f)を修正する。図9Aは、周波数伝達特性平滑化部207aによって周波数ゲイン特性g(0)(f)が修正されることで求められた周波数ゲイン特性g(1)(f)のボード線図である。以下、周波数ゲイン特性g(1)(f)の導出方法について説明する。まず、周波数伝達特性平滑化部207aは、周波数ゲイン特性G(0)(f)について、第1脈波の基本波の周波数fFW(第1周波数)のゲインG(0)(fFW)と、第2高調波の周波数fH2(第2周波数)のゲインG(0)(fH2)との間を直線で結ぶように周波数ゲイン特性G(0)(f)を修正する。
【0068】
同様、周波数伝達特性平滑化部207aは、周波数ゲイン特性G(0)(f)について、第1脈波の第2高調波の周波数fH2(第2周波数)のゲインG(0)(fH2)と、第3高調波の周波数fH3(第3周波数)のゲインG(0)(fH3)との間を直線で結ぶように周波数ゲイン特性G(0)(f)を修正する。以下同様にして、周波数伝達特性平滑化部207aは、周波数ゲイン特性G(0)(f)について、第1脈波の第3高調波fH3と、第4高調波fH4の間、第4高調波fH4と、第5高調波fH5との間といった具合に、第1脈波の第k高調波と第(k+1)高調波の間を直線で結ぶように周波数ゲイン特性G(0)(f)を修正する(kは1以上の整数、第1高調波は、基本波とする。)。
【0069】
次に、周波数位相特性φ(0)(f)の修正方法について説明する。図9Bは、周波数伝達特性平滑化部207aによって周波数位相特性φ(0)(f)が修正されることで求められた周波数位相特性φ(0)(f)のボード線図である。周波数伝達特性平滑化部207aは、周波数位相特性φ(0)(f)についても、周波数ゲイン特性g(0)(f)と同様にして、第1脈波の基本波の周波数fFW(第1周波数)の位相θ(0)(fFW)と、第2高調波の周波数fH2(第2周波数)の位相θ(0)(fH2)との間を直線で結び、第2高調波の周波数fH2(第2周波数)の位相θ(0)(fH2)と、第3高調波の周波数fH3(第3周波数)の位相θ(0)(fH3)との間を直線で結ぶように周波数位相特性φ(0)(f)を修正する。このようにして、周波数伝達特性平滑化部207aは、周波数位相特性φ(0)(f)の位相θ(0)(f)について、第1脈波の第k高調波と第(k+1)高調波の間を直線で結ぶように周波数位相特性φ(0)(f)を修正する。このようにして周波数伝達特性平滑化部207aによって修正された周波数ゲイン特性および周波数位相特性をそれぞれ、G(1)(f)およびφ(1)(f)とすると、修正された周波数伝達特性mH(1)(f)は、
【数16】
となる。最後に、周波数伝達特性平滑化部207aは、周波数伝達特性mH(1)(f)を、周波数ゲイン特性重み付け部207bへ送る(以上、図4におけるステップS7)。
【0070】
周波数伝達特性平滑化部207aは、上記のようにして周波数伝達特性H(0)(f)を修正する。そうすることで、周波数伝達特性において脈波に由来しないと思われる周波数の成分の、後述する参照入力に対する応答への寄与を抑制することができ、後述する指標値算出部が精度よく血管の状態を示す指標値(ABWI値)を算出することが可能となっている。
【0071】
次に、周波数伝達特性修正部207の周波数ゲイン特性重み付け部207b(CPU230)は、周波数伝達特性平滑化部207aから修正された周波数伝達特性mH(1)(f)を受け取り、これをさらに修正して修正された周波数伝達特性mH(2)(f)を出力する。
【0072】
具体的には、周波数ゲイン特性重み付け部207bは、修正された周波数伝達特性mH(1)(f)の周波数ゲイン特性G(1)(f)を第1周波数特性の周波数振幅特性XAVE(f)に基づいて重み付けすることにより周波数ゲイン特性を修正し、修正された周波数ゲイン特性G(2)(f)(あるいはg(2)(f))と、周波数位相特性φ(1)(f)とに基づいて修正された周波数伝達特性mH(2)(f)を算出する(図4におけるステップS8)。例えば、周波数伝達特性mH(2)(f)は、
【数17】
である。ここで、
【数18】
である。図10は、修正された周波数ゲイン特性g(2)(f)のプロットである。このように、修正された周波数ゲイン特性g(2)(f)は、脈波は被測定者の脈拍数の逆数と一致する周波数(基本波の周波数)の成分、ならびに、その高調波の成分を含み、それらの振幅は、基本波からその高調波に向かう方向に沿って指数関数的に減少する、という特性が、反映されている。そうすることで、後述する応答の算出において、脈波に含まれる基本波および比較的低次の高調波の成分の応答特性がその比較的高次の高調波成分の応答特性と比較して強調されるようになり、後述する指標値算出部が、算出された応答に基づいて血管の状態を示す指標値を精度よく算出できるようになる。なお、周波数伝達特性G(2)(f)(あるいはg(2)(f))に対する重み付けの具体的方法は上式に限定されない。重み付けにより、周波数伝達特性G(2)(f)(あるいはg(2)(f))に第1脈波の基本波およびその高調波の振幅の相対的大小関係が反映されればよい。
【0073】
次に、周波数伝達特性修正部207の周波数伝達特性帯域制限部207c(CPU230)は、周波数ゲイン特性重み付け部207bから修正された周波数伝達特性mH(2)(f)を受け取り、これをさらに修正して修正された周波数伝達特性mH(3)(f)を出力する。
【0074】
具体的には、周波数伝達特性帯域制限部207cは、修正された周波数伝達特性mH(2)(f)の周波数帯域を、第1脈波の基本波の周波数fFWから脈波周波数特性導出部203の周波数分解能以上を差し引いた値に等しい周波数(低域カット周波数fFW’)(単位は、ヘルツ)と10ヘルツとの間の範囲に制限することによりさらに修正された周波数伝達特性mH(3)(f)を求め、これを出力する(図4におけるステップS9)。低域カット周波数fFW’は、第1脈波の基本波の周波数fFWよりも小さければよい(第1脈波の基本波の周波数fFW未満であればよい)。例えば、基本波の周波数fFWが1.16Hzであり、脈波周波数特性導出部203の周波数分解能が0.29Hzである場合、低域カット周波数fFW’は、1.16−0.29=0.87ヘルツ以下に設定すればよい。
【0075】
つまり、周波数伝達特性mH(3)(f)は、
【数19】
である。ここで、
【数20】
【数21】
である。図11Aおよび図11Bは、このようにして求められた周波数ゲイン特性g(3)(f)(=10log(G(3)(f)))および周波数位相特性φ(3)(f)のボード線図である。本図に示す例では、低域カット周波数fFW’を、0.3ヘルツに設定することにより、周波数帯域を0.3ヘルツ以上10ヘルツ以下の範囲に制限した。このようにして周波数伝達特性の周波数帯域を低域カット周波数fFW’ヘルツ以上10ヘルツ以下に制限することにより、応答に対する脈波の比較的高次の高調波の成分の影響を除去することができる。そうすることで、参照入力に対する応答において、脈波の比較的高次の高調波の成分からの寄与が除去され(少なくとも低減され)、指標値算出部は、そのような応答を用いて血管の状態を示す指標値(ABWI値)を算出することで、精度よく指標値を算出することが可能となる。
【0076】
次に、周波数伝達特性修正部207の周波数伝達特性低域修正部207d(CPU230)は、周波数伝達特性帯域制限部207cから修正された周波数伝達特性mH(3)(f)を受け取り、これをさらに修正して修正された周波数伝達特性mH(4)(f)を出力する。
【0077】
具体的には、周波数伝達特性低域修正部207dは、周波数ゲイン特性G(3)(f)について、第1脈波の基本波周波数fFWに相当する第1周波数以下の周波数範囲における周波数ゲイン特性が、第1周波数でのゲインG(3)(fFW)で一定となるように周波数ゲイン特性を修正して、これを修正された周波数ゲイン特性G(4)(f)とする。また、周波数伝達特性低域修正部207dは、周波数位相特性φ(3)(f)について、第1周波数fFW以下の周波数範囲における位相θ(3)(f)が、第1周波数fFWでの位相θ(3)(fFW)で一定となるように周波数位相特性を修正して、これを修正された周波数位相特性φ(4)(f)とする。そして、周波数伝達特性低域修正部207dは、修正された周波数ゲイン特性G(4)(f)および修正された周波数位相特性φ(4)(f)に基づいてさらに修正された周波数伝達特性mH(4)(f)を求め、これを出力する(図4におけるステップS107)。
【0078】
つまり、周波数伝達特性mH(4)(f)は、
【数22】
である。ここで、
【数23】
【数24】
である。図12Aおよび図12Bは、このようにして求められた周波数ゲイン特性g(4)(f)(=10log(G(4)(f)))および周波数位相特性φ(4)(f)のボード線図である。
【0079】
ステップ応答算出部208(CPU230)は、周波数伝達特性低域修正部207dから修正された周波数伝達特性mH(4)(f)を受け取り、修正された周波数伝達特性mH(4)(f)の、参照入力(たとえばステップ関数)に対する応答を算出する。なお、参照入力は、ステップ関数様の形状を有するものに限定されない。
【0080】
図13は、参照入力としてステップ関数を用いて求められた、修正された周波数伝達特性mH(4)(f)の応答RESのプロットである。ここでの横軸は、サンプリングポイント数である。横軸のゼロは、参照入力の入力時に一致させてある。ステップ応答算出部208は、応答RESにおいてピークサーチを行い、最初に現れる極大点を特定し、その極大点が現れた時間(入力時をゼロとする時間軸上での時刻)Tpeakを特定する(図4におけるステップS11)。特定された時刻Tpeakは、ABWI算出部209へ送られる。
【0081】
ABWI算出部209(CPU230)は、ステップ応答算出部208から時刻Tpeakを受け取り、脈波基本周波数検出部207eから脈拍数PRを受け取る。そして、時刻Tpeakおよび脈拍数PRに基づいて、ABWI値を算出する(図4におけるステップS12)。
【0082】
ABWI算出部209は、ABWI値(ABWI)を次式、
【数25】
より算出する。ここで、a、b、およびcは、予め求められた係数である。たとえば、係数a、b、およびcは、時刻Tpeakおよび脈拍数PRを独立変数とし、実際に血圧を測定することにより求められたABI値を従属変数として回帰分析を行うことにより予め求めておけばよい。
【0083】
このようにして求められたABWI値(ABWI)は、表示部240へ送られ、表示部240に表示される。
【0084】
以下、図14A図18Bを参照し、本実施形態のABI算出装置1が行う処理の効果について説明する。
【0085】
図14Aおよび図14Bは、雑音混入ブロック除去部205による処理の効果を示すための比較実験の結果である。図14Aは、所定の条件下において、雑音混入ブロック205による雑音混入ブロックの除去を行わずにABWI値ABWIを算出したときの、ABWI値(ABWI)と、血圧を測定して求めたABI値(ABI測定値)の散布図である。図14Bは、図14Aと同一の条件下において、雑音混入ブロック205による雑音混入ブロックの除去を行ってABWI値ABWIを算出したときの、ABWI値(ABWI)と、ABI測定値の散布図である。その他の処理については、両者は同一である。なお、周波数伝達特性帯域制限部207cによる帯域制限の低域カット周波数fFW’は、第1脈波の基本波の周波数から、脈波周波数特性導出部203の周波数分解能に相当する周波数値を差し引いた値に設定した。すなわち、脈波周波数特性導出部203の周波数分解能を0.29ヘルツとし、低域カット周波数fFW’を、fFW’=fFW−0.29より求め、これを帯域制限の低域側のカットオフ周波数とした。
【0086】
図14Aおよび図14Bより、雑音混入ブロック205による雑音混入ブロック除去処理を行うことにより、ABWI値とABI測定値との相関性がより高くなることがわかる。
【0087】
次に、図15Aおよび図15Bは、周波数伝達特性平滑化部207aによる処理の効果を示すための比較実験の結果である。図15Aは、所定の条件下において、周波数伝達特性平滑化部207aによる周波数伝達特性平滑化処理を行わずにABWI値ABWIを算出したときの、ABWI値(ABWI)と、ABI測定値の散布図である。図15Bは、図15Aと同一の条件下において、周波数伝達特性平滑化部207aによる周波数伝達特性平滑化処理を行ってABWI値ABWIを算出したときの、ABWI値(ABWI)と、ABI測定値の散布図である。その他の処理については、両者は同一である。なお、周波数伝達特性帯域制限部207cによる帯域制限の低域カット周波数fFW’は、図14Aおよび図14Bの例と同様、第1脈波の基本波の周波数から、脈波周波数特性導出部203の周波数分解能に相当する周波数値を差し引いた値(fFW’=fFW−0.29)に設定した。
【0088】
図15Aおよび図15Bより、周波数伝達特性平滑化部207aによる周波数伝達特性平滑化処理を行うことにより、ABWI値とABI測定値との相関性がより高くなることがわかる。
【0089】
次に、図16Aおよび図16Bは、周波数ゲイン特性重み付け部207bによる処理の効果を示すための比較実験の結果である。図16Aは、所定の条件下において、周波数ゲイン特性重み付け部207bによる重み付け処理を行わずにABWI値ABWIを算出したときの、ABWI値(ABWI)と、ABI測定値の散布図である。図16Bは、図16Aと同一の条件下において、周波数ゲイン特性重み付け部207bによる重み付け処理を行ってABWI値ABWIを算出したときの、ABWI値(ABWI)と、ABI測定値の散布図である。その他の処理については、両者は同一である。なお、周波数伝達特性帯域制限部207cによる帯域制限の低域カット周波数fFW’は、図14A図14B図15A、および、図15Bの例と同様、第1脈波の基本波の周波数から、脈波周波数特性導出部203の周波数分解能に相当する周波数値を差し引いた値(fFW’=fFW−0.29)に設定した。
【0090】
図16Aおよび図16Bより、周波数ゲイン特性重み付け部207bによる重み付け処理を行うことにより、ABWI値とABI測定値との相関性がより高くなることがわかる。
【0091】
次に、図17Aおよび図17Bは、周波数伝達特性帯域制限部207cによる処理の効果を示すための比較実験の結果である。図17Aは、所定の条件下において、周波数伝達特性帯域制限部207cによる帯域制限処理を行わずにABWI値ABWIを算出したときの、ABWI値(ABWI)と、ABI測定値の散布図である。図17Bは、図17Aと同一の条件下において、周波数伝達特性帯域制限部207cによる帯域制限処理を行ってABWI値ABWIを算出したときの、ABWI値(ABWI)と、ABI測定値の散布図である。その他の処理については、両者は同一である。なお、図17Bに示したグラフの導出において周波数伝達特性帯域制限部207cによる帯域制限の低域カット周波数fFW’は、図14A図14B図15A図15B図16A、および、図16Bの例と同様、第1脈波の基本波の周波数から、脈波周波数特性導出部203の周波数分解能に相当する周波数値を差し引いた値(fFW’=fFW−0.29)に設定した。
【0092】
図17Aおよび図17Bより、周波数伝達特性帯域制限部207cによる帯域制限処理を行うことにより、ABWI値とABI測定値との相関性がより高くなることがわかる。
【0093】
最後に、図18Aおよび図18Bは、ABWI算出部209において脈拍数PRを考慮してABWI値を算出することの効果を示すための比較実験の結果である。図18Aは、所定の条件下において、脈拍数PRを考慮せず、
【数26】
より算出したときの、ABWI値(ABWI)と、ABI測定値の散布図である。ここで、a’およびc’は、たとえば、時刻Tpeakを独立変数とし、ABI測定値を従属変数として回帰分析を行うことにより予め求められた係数である。図18Bは、図18Aと同一の条件下において、先述したように脈拍数PRを考慮してABWI値ABWIを算出したときの、ABWI値(ABWI)と、ABI測定値の散布図である。その他の処理については、両者は同一である。なお、周波数伝達特性帯域制限部207cによる帯域制限の低域カット周波数fFW’は、図14A図14B図15A図15B図16A図16B、および、図17Bの例と同様、第1脈波の基本波の周波数から、脈波周波数特性導出部203の周波数分解能に相当する周波数値を差し引いた値(fFW’=fFW−0.29)に設定した。
【0094】
図18Aおよび図18Bより、ABWI値を求めるときに脈拍数PRを考慮することにより、ABWI値とABI測定値との相関性がより高くなることがわかる。これは、ABWI値を求めるときに使用する量である時刻Tpeakが時間の次元を有する量であり、被測定者の脈拍数の高低の影響を少なからず受けるのであるが、時刻Tpeakに基づいてABWI値を求める際に被測定者の脈拍数PRを考慮することで、その影響を低減することができると考えられる。
【0095】
なお、上述した実施形態において例示された数値はいずれも一例に過ぎず、適宜変更されてもよい。当該変更は、本願の発明の範囲に含まれる。
【0096】
第1脈波を測定する部位である上肢は、上腕部、前腕部、手等を含む部位である。
【0097】
下肢における圧脈波測定を足関節だけでなく、大腿上部、大腿下部、ふくらはぎ、中足、足指の各部位で行えば、病変の有無のみならず、その存在部位を推定することも可能である。
【0098】
本実施形態では、被測定者の脈波を測定するためにカフを使用している。しかしながら、脈波測定においてカフの内圧は、50mmHg程度といった比較的低い圧力で保持される。そのため、被測定者にかかる負担を低減することができる。なぜなら、重度のPAD患者では、身体部位の軽度に圧迫するだけでも痛みが伴う。そのため、200mmHg〜250mmHg程度までカフ圧を上昇させる必要がある血圧測定は、彼らにとって苦痛を伴うつらい検査である。糖尿病に罹患したり透析を受けている患者の血管は石灰化が進行している場合があり、血圧を測定するためにカフ圧を通常よりもさらに高くまで上昇させる必要があって、より大きな苦痛が伴うことになる。それでもなお、糖尿病に罹患したり透析を受けている患者や、PAD患者では、不整脈や不随運動が見られることもあり、そのような場合、血圧値を正確に求めること自体が困難である。そのような場合であっても、本実施形態によるABI算出装置1(血管指標値算出装置)であれば、正確にABI値を算出することが可能である。
【0099】
本実施形態によるABI算出装置(血管指標値算出装置)では、血圧値を測定する必要が無く、かつ、通常のABI検査よりも短時間でABIに相当する指標を算出することができる。したがって、本装置は、従来患者が感じていた負担を軽減させることができる。
【符号の説明】
【0100】
1 ABI算出装置(血管指標値算出装置)
100 脈波取得部
110 第1脈波センサ
110c 第1カフ
120 第2脈波センサ
120c 第2カフ
200 演算処理部
210 ROM
220 RAM
230 CPU
300 ユーザインタフェース部
240 表示部
250 操作部
図1
図2
図3
図4
図5A
図5B
図5C
図5D
図6A
図6B
図7A
図7B
図8
図9A
図9B
図10
図11A
図11B
図12A
図12B
図13
図14A
図14B
図15A
図15B
図16A
図16B
図17A
図17B
図18A
図18B