(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2015-181887(P2015-181887A)
(43)【公開日】2015年10月22日
(54)【発明の名称】起立補助装置
(51)【国際特許分類】
A61G 5/00 20060101AFI20150925BHJP
A47C 9/00 20060101ALI20150925BHJP
【FI】
A61G5/00 502
A47C9/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2014-63788(P2014-63788)
(22)【出願日】2014年3月26日
(71)【出願人】
【識別番号】500132214
【氏名又は名称】学校法人明星学苑
(74)【代理人】
【識別番号】110000420
【氏名又は名称】特許業務法人エム・アイ・ピー
(72)【発明者】
【氏名】香椎 正治
【テーマコード(参考)】
3B095
【Fターム(参考)】
3B095AB03
3B095AC03
3B095EB02
3B095FA07
(57)【要約】
【課題】本発明は、転倒事故を防止しつつ、椅子からの立ち上がりを補助することができる新規な起立補助装置を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明によれば、略平行に対向する2つのフレームと、前記2つのフレームの間に配置される座面部と、前記2つのフレームと前記座面部を接続する第1のリンクおよび第2のリンクと、前記第1のリンクを前記フレームから離れる方向に付勢する第1の付勢手段と、を含み、前記第1のリンクと前記第2のリンクと前記フレームと前記座面部を対向するリンクが不等長の四節リンクとして構成することによって、前記座面部が上昇と同時に後退するように構成された、起立補助装置が提供される。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
略平行に対向する2つのフレームと、
前記2つのフレームの間に配置される座面部と、
前記2つのフレームと前記座面部を接続する第1のリンクおよび第2のリンクと、
前記第1のリンクを前記フレームから離れる方向に付勢する第1の付勢手段と、
を含み、
前記第1のリンクと前記第2のリンクと前記フレームと前記座面部を対向するリンクが不等長の四節リンクとして構成することによって、前記座面部が上昇と同時に後退するように構成された、
起立補助装置。
【請求項2】
さらに、前記第1のリンクを前記座面部から離れる方向に付勢する第2の付勢手段を含む、
請求項1に記載の起立補助装置。
【請求項3】
前記付勢手段は、前記第1のリンクに固設される軸の回転を付勢するように取り付けられたぜんまいバネである、
請求項1または2に記載の起立補助装置。
【請求項4】
第1の間隔を置いて略平行に対向する2本の軸であって、前記2つのフレームに略直交する形で該2つのフレームに回転自在に固定される第1の軸および第2の軸を含み、
前記第1のリンクは、前記第1の軸に略直交する2本のリンクであって、一方の端が前記第1の軸に固設され他方の端が第3の軸に固設され、
前記第2のリンクは、前記第2の軸に直交する2本のリンクであって、一方の端が前記第2の軸に固設され他方の端が第4の軸に固設される、
請求項1〜3のいずれか一項に記載の起立補助装置。
【請求項5】
前記第3の軸および前記第4の軸は、第2の間隔を置いて平行する形で前記座面部の底面に対して回転自在に固定される、
請求項4に記載の起立補助装置。
【請求項6】
前記第1のリンクの長さと前記第1の間隔が略等しく、前記第2のリンクの長さと前記第2の間隔が略等しく、前記第1のリンクが前記第2のリンクより長い、
請求項5に記載の起立補助装置。
【請求項7】
前記第3の軸に平行な軸であって前記座面部の底面に対して回転自在に固定されその端にレバーが固設される第5の軸を含み、
前記第5の軸に固設される第1の歯車と前記第3の軸に固設される第2の歯車が噛み合うように位置決めされ、前記レバーを押し下げる力が該第1の歯車および第2の歯車を介して前記第1のリンクを前記第1の軸を支点として前記フレームから離れる方向に押し上げる力に変換される、
請求項4〜6のいずれか一項に記載の起立補助装置。
【請求項8】
前記レバーは、前記第1の歯車の回転方向を規制するラチェット機構を備える、
請求項7に記載の起立補助装置。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか一項に記載の起立補助装置を具備した椅子。
【請求項10】
請求項1〜8のいずれか一項に記載の起立補助装置を具備した車椅子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、起立補助装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、椅子から自力で立ち上がるのが困難な人の立ち上がりを補助するための装置が種々検討されている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−29284号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一方、足腰の弱ったお年寄りや病人が補助的に車椅子を利用するケースがある。このようなケースでは、介助者が車椅子に座った人の立ち上がりを介助することになる。本発明者は、この立ち上がり時に転倒事故が起こりやすいことを発見し、その原因を以下のように突き止めた。
【0005】
図5は、人が椅子に座った状態から立ち上がるまでの動きを時系列的に示す。通常、人は、(イ)に示す椅子に座った状態から立ち上がるとき、(ロ)に示すように、無意識のうちに足の位置を椅子の下に引き、重心を移動してから立ち上がろうとする。このような立ち上がり方をする場合、(ハ)に示すように、ふくらはぎが椅子の座面に当たってしまうが、
図5に示すように、椅子が可動式の場合は、椅子がふくらはぎに押されて後退するので特に問題にならない。
【0006】
一方、椅子が動かないように固定されている場合には、通常、人は、足を椅子の下に引く代わりに、上体を大きく前に傾けることで重心を移動するので、立ち上がる際にふくらはぎが椅子の座面に当たることはない。
【0007】
次に、
図6を参照して、被介助者を固定された椅子から立ち上がらせる場合を考える。ここで、
図6に示す椅子は車椅子に相当する(被介助者の立ち上がりを補助する際、車椅子は動かないように必ず車輪がロックされるので)。被介助者は、(イ)に示すように、介助者に体を支えてもらいながら立ち上がろうとする。このとき、被介助者は、介助者の負担を軽減しようと、(ロ)に示すように、無意識のうちに足の位置を椅子の下に引く傾向がある。その場合、(ハ)に示すように、立ち上がる途中でふくらはぎが椅子の座面に当たってしまい、被介助者は、(ニ)に示すように、椅子の座面に押し返される形で前方につんのめって転倒してしまう。
【0008】
同様のことは、足腰の弱っている人が自力で車椅子から立ち上がろうとする場合にも当てはまる。なぜなら、足腰の弱っている人は、健常者のように、上体を大きく前に傾けて重心を移動することができないため、立ち上がりの際、同じように足の位置を椅子の下に引くからである。
【0009】
本発明は、上述した転倒の原因に着目してなされたものであり、本発明は、転倒事故を防止しつつ、椅子からの立ち上がりを補助することができる新規な起立補助装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、転倒事故を防止しつつ、椅子からの立ち上がりを補助することができる新規な起立補助装置の構成につき鋭意検討した結果、以下の構成に想到し、本発明に至ったのである。
【0011】
すなわち、本発明によれば、略平行に対向する2つのフレーム(110a,110b)と、前記2つのフレーム(110a,110b)の間に配置される座面部(120)と、前記2つのフレーム(110a,110b)と前記座面部(120)を接続する第1のリンク(142)および第2のリンク(152)と、前記第1のリンク(142)を前記フレーム(110a,110b)から離れる方向に付勢する第1の付勢手段(149)と、を含み、前記第1のリンク(142)と前記第2のリンク(152)と前記フレーム(110)と前記座面部(120)を対向するリンクが不等長の四節リンクとして構成することによって、前記座面部が上昇と同時に後退するように構成された、起立補助装置が提供される。
【0012】
本発明においては、さらに、前記第1のリンクを(142)を前記座面部(120)から離れる方向に付勢する第2の付勢手段(148)を含むことができる。
【0013】
さらに、本発明においては、第1の間隔を置いて略平行に対向する2本の軸であって、前記2つのフレームに略直交する形で該2つのフレームに回転自在に固定される第1の軸(140)および第2の軸(150)を含み、前記第1のリンク(142)は、前記第1の軸(140)に略直交する2本のリンクであって、一方の端が前記第1の軸に固設され他方の端が第3の軸(144)に固設され、前記第2のリンク(152)は、前記第2の軸(150)に直交する2本のリンクであって、一方の端が前記第2の軸(150)に固設され他方の端が第4の軸(154)に固設されるように構成することができ、前記第3の軸(144)および前記第4の軸(154)は、第2の間隔を置いて平行する形で前記座面部(120)の底面に対して回転自在に固定されるように構成することができる。
【0014】
さらに、本発明においては、前記第1のリンク(142)の長さと前記第1の間隔が略等しく、前記第2のリンク(152)の長さと前記第2の間隔が略等しく、前記第1のリンク(142)が前記第2のリンク(152)より長くなるように構成することができ、前記第3の軸(144)に平行な軸であって前記座面部の底面に対して回転自在に固定されその端にレバー(130)が固設される第5の軸(134)を含み、前記第5の軸(134)に固設される第1の歯車(136)と前記第3の軸(144)に固設される第2の歯車(146)が噛み合うように位置決めされ、前記レバー(130)を押し下げる力が該第1の歯車(136)および第2の歯車(146)を介して前記第1のリンク(142)を前記第1の軸(140)を支点として前記フレーム(110)から離れる方向に押し上げる力に変換されるように構成することができる。
【発明の効果】
【0015】
上述したように、本発明によれば、転倒事故を防止しつつ、椅子からの立ち上がりを補助することができる新規な起立補助装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図3】本実施形態の起立補助装置の四節リンクの動きを説明するための概念図。
【
図4】本実施形態の起立補助装置の効果を説明するための概念図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を図面に示した実施の形態をもって説明するが、本発明は、図面に示した実施の形態に限定されるものではない。なお、以下に参照する各図においては、共通する要素について同じ符号を用い、適宜、その説明を省略するものとする。
【0018】
図1は、本発明の実施形態である起立補助装置100の外観図を示し、
図1(a)は上面図を示し、
図1(b)は側面図を示す。また、
図2は、起立補助装置100の透視図を示し、
図2(a)は上面から透視した図を示し、
図2(b)は側面から透視した図を示す。なお、以下の説明においては、
図1および
図2を併せて参照するものとする。
【0019】
本実施形態の起立補助装置100は、椅子から自力で立ち上がるのに困難を伴う人(高齢者、身体障害者、病人など)が使用する椅子への適用が期待されるものであり、
図1および
図2に示すように、椅子のフレームの一部を構成するフレーム110と着座者の臀部を載せるための座面部120を4本のリンク(142a、142b、152a、152b)で接続した構造を有する。
【0020】
起立補助装置100においては、略平行に対向する2つのフレーム110a,110bに対して、これに直交する形で2本の平行する軸140,150が架設されている。ここで、軸140は、2つのフレーム110a,110bのそれぞれに軸受112a,112bを介して回転自在に固定されており、軸150は、2つのフレーム110a,110bのそれぞれに軸受113a,113bを介して回転自在に固定されている。
【0021】
また、略平行に対向する2本のリンク(142a、142b)は、軸140に直交する形で一方の端が軸140に固設され、他方の端が軸144に固設されている。また、略平行に対向する2本のリンク(152a、152b)は、軸150に直交する形で一方の端が軸150に固設され、他方の端が軸154に固設されており、起立補助装置100において、4本の軸(軸140、軸150,軸144、軸154)は互いに略平行となっている。
【0022】
ここで、軸144は、座面部120の底面の中央近傍に設けられた2つの軸受145a,145bを介して座面部120の底面に回転自在に固定されており、軸154は、座面部120の底面の前側近傍に設けられた2つの軸受124a,124bを介して座面部120の底面に回転自在に固定されている。
【0023】
さらに、軸144に平行な軸134が、座面部120の底面に設けられた2つの軸受122a,122bを介して回転自在に固定されており、軸134の中央部には、軸134を回転中心とする歯車136が固設されており、軸144の中央部には、軸144を回転中心とする歯車146が固設されている。本実施形態においては、歯車136と歯車146が噛み合うように位置決めされており、軸134の一方の端には、軸134を回転させるためのレバー130が固設されている。
【0024】
本実施形態においては、
図2(b)に示すように、レバー130を紙面下方向に押し下げた場合、レバー130に固設された軸134に固設される歯車136が紙面反時計回りに回転するように構成されており、歯車136の回転によって、歯車136に噛み合う歯車146を紙面時計回りに回転するように構成されている。つまり、本実施形態では、レバー130を紙面下方向に押し下げる力を、歯車136および歯車146を介して軸144に固設される2本のリンク(142a、142b)を軸140を支点として紙面上方向に押し上げる力に変換する機構を備えている。なお、本実施形態においては、歯車136の逆回転を防止し、且つ、歯車136の回転方向を切替可能に制御することができるラチェット機構をレバー130に設けることが好ましい。この場合、着座するときは、歯車136の回転方向を切り替えることで座面部120を下げることができる。
【0025】
加えて、本実施形態においては、軸140に対して付勢手段として2つのぜんまいバネ149a,149bが固定され、軸144に対して付勢手段として2つのぜんまいバネ148a,148bが固定されている。本実施形態においては、
図2(b)に示すように、2つのぜんまいバネ149a,149bが軸140の紙面時計回りの回転を付勢するとともに、2つのぜんまいバネ148a,148bが軸144の紙面時計回りの回転を付勢しており、軸140と軸144に固設される2本のリンク(142a、142b)に対して、軸140を支点として紙面上方向(フレーム110a、110bから離れる方向)に付勢力が常に働くようになっている。
【0026】
なお、軸140に設けるぜんまいバネだけで十分な付勢力が稼げる場合は、軸144に対するぜんまいバネを省略してもよい。また、2本のリンク(142a、142b)を付勢する手段は、上述したぜんまいバネに限定されるものはなく、板バネやガススプリングなど、適切な付勢手段を目的に適った付勢力が働くように設ければよい。
【0027】
以上、起立補助装置100の構成について説明してきたが、続いて、起立補助装置100における座面部120の特徴的な動きについて説明する。
【0028】
上述した起立補助装置100の構成は、機構学的には、1対の四節リンクによって座面が支持されている構造と見ることができる。すなわち、起立補助装置100では、4つのリンク(フレーム110a、リンク142a、リンク152a、座面部120)が4つの関節(軸140と軸受112a、軸144と軸受145a、軸154と軸受124a、軸150と軸受113a)を介して接続されることで第1の四節リンクを構成しており、4つのリンク(フレーム110b、リンク142b、リンク152b、座面部120)が4つの関節(軸140と軸受112b、軸144と軸受145b、軸154と軸受124b、軸150と軸受113b)を介して接続されることで、第2の四節リンクを構成している。
【0029】
ここで、
図3に基づいて、起立補助装置100が備える四節リンクの動きを説明する。なお、
図3においては、理解を容易にするために、第1の四節リンクを構成する部材のみを示して説明するが、第2の四節リンクについても同様である。
【0030】
図3に示すように、第1の四節リンクは、4つのリンク(リンク142a、リンク152a、フレーム110a、座面部120)と4つの関節(軸140と軸受112a、軸144と軸受145a、軸154と軸受124a、軸150と軸受113a)からなる。ここで、
図3(a)に示すように、リンク142aの長さと、軸140と軸150の間隔は略等しく、リンク152aの長さと、軸144と軸154の間隔は略等しい。そして、リンク142aはリンク152aより長い。すなわち、第1の四節リンクは、対向するリンクの長さが不等長の四節リンクとなっている。
【0031】
ここで、レバー130(図示せず)が着座者または介助者によって押し下げられると、2つのぜんまいバネ148a,149a(図示せず)の付勢力も手伝って、
図3(b)に示すように、リンク142aが軸140を支点として紙面上方向に立ち上がり、これに追従して、座面部120を介してリンク142aに接続されるリンク152aも軸150を支点として紙面上方向に立ち上がる。その結果、座面部120が紙面上方向に上昇するが、本実施形態においては、リンク142aがリンク152aより長くなっているため、
図3(c)に示すように、座面部120は、紙面左方向に傾きを増しながら紙面上方向に上昇することになる。
【0032】
図4は、本実施形態の効果を理解するために、初期状態(着席時)の座面部120の状態と起立補助時の座面部120の状態を重ねて示す。
図4に示すように、本実施形態の起立補助装置100においては、起立補助時に、座面部120が傾きを増しながら上昇することで着座者の臀部を押し上げながら前に押し出すことで立ち上がりを補助する。このとき、本実施形態では、
図4に示すように、座面部120が上昇と同時に後退するので、椅子から立ち上がろうとする着座者の足と座面部120の接触が回避される。その結果、着座者の立ち上がりを補助する際の不測の転倒事故が好適に防止される。
【0033】
なお、本実施形態では、リンク152aとリンク142aの長さの比によって座面部120の傾斜が決まる。ただし、あまり座面部120の傾斜を大きくしすぎると立ち上がりの際に着座者が座面部120から滑り落ちる危険があるので、最大で25度前後の傾斜となるようにリンク152aとリンク142aの長さの比を設計することが好ましい。
【0034】
以上、説明したように、本実施形態の起立補助装置によれば、転倒事故を防止しつつ、椅子からの立ち上がりを補助することができる。なお、上述した起立補助装置は、椅子の一部に含める形で構築することもできるし、既製の椅子のフレーム部に対して追加的に接続することもでき、また、その場合は、既製の椅子のフレームを流用して四節リンクを構築することもできる。なお、本実施形態の起立補助装置は、車椅子に代表されるような、椅子から自力で立ち上がるのに困難を伴う人が使用する椅子を始め、あらゆる種類の椅子に適用することができる。
【0035】
以上、本発明について実施形態をもって説明してきたが、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、その他、当業者が推考しうる実施態様の範囲内において、本発明の作用・効果を奏する限り、本発明の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0036】
100…起立補助装置
110…フレーム
112,113,122,124,145…軸受
120…座面部
130…レバー
134,140,144,150,154…軸
136,146…歯車
142,152…リンク
148,149…ぜんまいバネ