特開2015-182152(P2015-182152A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社小松製作所の特許一覧 ▶ コマツNTC株式会社の特許一覧

<>
  • 特開2015182152-ワークレスト装置 図000003
  • 特開2015182152-ワークレスト装置 図000004
  • 特開2015182152-ワークレスト装置 図000005
  • 特開2015182152-ワークレスト装置 図000006
  • 特開2015182152-ワークレスト装置 図000007
  • 特開2015182152-ワークレスト装置 図000008
  • 特開2015182152-ワークレスト装置 図000009
  • 特開2015182152-ワークレスト装置 図000010
  • 特開2015182152-ワークレスト装置 図000011
  • 特開2015182152-ワークレスト装置 図000012
  • 特開2015182152-ワークレスト装置 図000013
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2015-182152(P2015-182152A)
(43)【公開日】2015年10月22日
(54)【発明の名称】ワークレスト装置
(51)【国際特許分類】
   B23C 3/06 20060101AFI20150925BHJP
   B23Q 1/76 20060101ALI20150925BHJP
【FI】
   B23C3/06
   B23Q1/76 S
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2014-58614(P2014-58614)
(22)【出願日】2014年3月20日
(71)【出願人】
【識別番号】000001236
【氏名又は名称】株式会社小松製作所
(71)【出願人】
【識別番号】000152675
【氏名又は名称】コマツNTC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100097755
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 勉
(72)【発明者】
【氏名】有壁 剛生
(72)【発明者】
【氏名】中島 啓
(72)【発明者】
【氏名】若林 伸之
(72)【発明者】
【氏名】下村 真素美
【テーマコード(参考)】
3C022
3C048
【Fターム(参考)】
3C022CC04
3C048BB15
3C048EE10
(57)【要約】
【課題】ワークの変形を生じさせることなく支持することができるとともに、ワークの加工時のびびり振動を抑制することができるワークレスト装置を提供する。
【解決手段】クランクシャフト15の加工時にそのクランクシャフト15のジャーナル部15aを一対のレストアーム26,27でクランプして補助的に支持するようにしたワークレスト装置20において、レストアーム26,27に、該レストアーム26,27によるクランプ動作の際にクランクシャフト15のジャーナル部15aを求心方向に押圧する複数のパッド装置31を装着し、該パッド装置31は、クランクシャフト15のジャーナル部15aに当接されるレストパッド32を、粘弾性体37を介してパッド支持部材33に支持させてなるものとする。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワークの加工時にそのワークをワーク補助支持体で補助的に支持するようにしたワークレスト装置において、
前記ワーク補助支持体でワークを支持する際にそのワークとの間に粘弾性体が介在されるようにしたことを特徴とするワークレスト装置。
【請求項2】
クランクシャフトの加工時にそのクランクシャフトのジャーナル部を一対のレストアームでクランプして補助的に支持するようにしたワークレスト装置において、
前記レストアームでクランクシャフトのジャーナル部を支持する際にそのジャーナル部との間に粘弾性体が介在されるようにしたことを特徴とするワークレスト装置。
【請求項3】
前記レストアームには、該レストアームによるクランプ動作の際にクランクシャフトのジャーナル部を求心方向に押圧する複数のパッド装置が装着され、該パッド装置は、クランクシャフトのジャーナル部に当接されるレストパッドを、前記粘弾性体を介してパッド支持部材に支持させてなることを特徴とする請求項2に記載のワークレスト装置。
【請求項4】
前記レストパッドは、クランクシャフトの回転運動の際にそのクランクシャフトのジャーナル部の回転に倣って回転するローラ部材よりなることを特徴とする請求項3に記載のワークレスト装置。
【請求項5】
前記レストパッドは、クランクシャフトの回転運動の際にそのクランクシャフトのジャーナル部の周面と滑り合って接触する摺動部材よりなることを特徴とする請求項3に記載のワークレスト装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加工時にワークを補助的に支持するワークレスト装置に関し、特に、クランクシャフトのような長尺物のワークを支持するのに用いられて好適なワークレスト装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えばクランクシャフトのジャーナル部やピン部を切削加工する際には、切削抵抗でクランクシャフトが振れないように加工部近傍を補助的に支持する必要があり、このためのワークレスト装置として例えば特許文献1にて提案されているものがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】実開昭63−91333号公報
【0004】
図11に示されるように、特許文献1に係るワークレスト装置100は、図示されないベッド上に設置される本体フレーム101における全幅方向の一側部に設けられた一対のレストアーム支軸102,103を支点に上下方向に回動されて相互に開閉自在な一対のレストアーム104,105を備えている。これらレストアーム104,105の開閉は、一方側のレストアーム105の基端部と本体フレーム101との間に取り付けられる油圧シリンダ106の伸縮作動により行われる。
一対のレストアーム104,105の対向面の略中央部に形成された半円形状の切欠部には複数のレストパッド107が装着され、これらレストパッド107により、クランクシャフト108のジャーナル部108aを求心してクランプすることができるようになっている。
なお、一対のレストアーム104,105の先端側にはそれらレストアーム104,105を閉合状態にロックするロック機構109が配されており、クランクシャフト108の加工時にそれらレストアーム104,105が開かないようにしている。
【0005】
上記のワークレスト装置100を備えたクランクシャフトミラーにおいては、クランクシャフト108のジャーナル部108aを一対のレストアーム104,105でクランプすることにより、そのジャーナル部108aの中心を、クランクシャフト108のセンタ穴を基準とするワーク中心線(図11中記号Owで示されるワーク中心点を紙面に垂直に貫く方向に延びる線)上に位置させるような芯出しが行われ、その後、それらレストアーム104,105でクランプされたジャーナル部108aに隣接する他のジャーナル部やピン部をカッタで切削加工するようにされている。
【0006】
ところで、加工対象物であるクランクシャフト108は、前加工精度が悪い等に起因して、センタ穴を基準とするワーク中心線に対してジャーナル部108aが偏心していることがある。
この場合、クランクシャフト108に対して一対のレストアーム104,105による上記芯出しが行われると、ワーク中心線に対して偏心しているジャーナル部108aが強制的にワーク中心線上に位置決め・固定され、これによってクランクシャフト108がそのジャーナル部108aの偏心量分だけ強制的に曲げられるような変形が生じ、その変形した状態のクランクシャフト108に対して切削加工が行われることになる。
このため、所望の加工精度を確保することができないという問題点がある。特に、クランクシャフト108のような長尺物が加工対象物である場合、かかる問題点が顕著に現れることになる。
【0007】
そこで、ワークレスト装置100を用いることで生じるクランクシャフト108の変形を防止して加工精度を確保するために、ワークレスト装置100を用いないで加工を行うと、切削時にワークが振動(びびり振動)し、加工面の不良が起きたり、騒音が発生し易くなったりする。特に、長尺物の支持剛性が低下する中央付近にそのような現象が顕著に現れる。このような現象を防止するために、加工条件(切削速度や切削送り量等)を調整(速度や送り量等を落とす)して負荷を下げて加工する必要があるが、そうすると加工効率が低下するという問題点が発生する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、前述のような問題点に鑑みてなされたもので、ワークの変形を生じさせることなく支持することができるとともに、ワークの加工時のびびり振動を抑制することができるワークレスト装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記目的を達成するために、第1発明によるワークレスト装置は、
ワークの加工時にそのワークをワーク補助支持体で補助的に支持するようにしたワークレスト装置において、
前記ワーク補助支持体でワークを支持する際にそのワークとの間に粘弾性体が介在されるようにしたことを特徴とするものである。
【0010】
また、第2発明によるワークレスト装置は、
クランクシャフトの加工時にそのクランクシャフトのジャーナル部を一対のレストアームでクランプして補助的に支持するようにしたワークレスト装置において、
前記レストアームでクランクシャフトのジャーナル部を支持する際にそのジャーナル部との間に粘弾性体が介在されるようにしたことを特徴とするものである。
【0011】
第2発明において、前記レストアームには、該レストアームによるクランプ動作の際にクランクシャフトのジャーナル部を求心方向に押圧する複数のパッド装置が装着され、該パッド装置は、クランクシャフトのジャーナル部に当接されるレストパッドを、前記粘弾性体を介してパッド支持部材に支持させてなるものとすることができる(第3発明)。
【0012】
第3発明において、前記レストパッドは、クランクシャフトの回転運動の際にそのクランクシャフトのジャーナル部の回転に倣って回転するローラ部材よりなるものとすることができる(第4発明)。
【0013】
第3発明において、前記レストパッドは、クランクシャフトの回転運動の際にそのクランクシャフトのジャーナル部の周面と滑り合って接触する摺動部材よりなるものとすることができる(第5発明)。
【発明の効果】
【0014】
第1発明のワークレスト装置によれば、ワーク補助支持体でワークを支持する際にそのワークとの間に粘弾性体が介在されるので、ワーク補助支持体からワークに対してワークを変形させるような偏荷重が作用しても、その偏荷重を粘弾性体の弾性変形によって吸収することができ、ワークを変形させることなく支持することができる。
また、加工時に生じるワークの微小な振動(びびり振動)は粘弾性体によって減衰されるので、ワークの加工時のびびり振動を抑制することができる。
【0015】
第2発明のワークレスト装置によれば、一対のレストアームでクランクシャフトのジャーナル部を支持する際にそのジャーナル部との間に粘弾性体が介在されるので、レストアームからクランクシャフトに対してクランクシャフトを変形させるような偏荷重が作用しても、その偏荷重を粘弾性体の弾性変形によって吸収することができ、クランクシャフトを変形させることなく支持することができる。
また、加工時に生じるクランクシャフトのびびり振動は粘弾性体によって減衰されるので、クランクシャフトの加工時のびびり振動を抑制することができる。
【0016】
第3発明のワークレスト装置によれば、一対のレストアームによるクランプ動作の際にクランクシャフトのジャーナル部を求心方向に押圧する複数のパッド装置が装着されるので、クランクシャフトのジャーナル部をそれらパッド装置でより安定的に支持することができる。
ここで、パッド装置は、クランクシャフトのジャーナル部に当接されるレストパッドを、粘弾性体を介してパッド支持部材に支持させてなるものとされる。これにより、レストアームからクランクシャフトに対してクランクシャフトを変形させるような偏荷重が作用しても、その偏荷重を粘弾性体の弾性変形によって吸収することができ、クランクシャフトを変形させることなく支持することができる。また、加工時に生じるクランクシャフトのびびり振動がレストパッドから粘弾性体へと伝達されて該粘弾性体でそのびびり振動が減衰されるので、クランクシャフトの加工時のびびり振動を抑制することができる。
【0017】
第4発明のワークレスト装置によれば、レストパッドが、クランクシャフトの回転運動の際にそのクランクシャフトのジャーナル部の回転に倣って回転するローラ部材よりなるものとされるので、クランクシャフトを回転させながら切削加工する場合でも、クランクシャフトの回転運動を案内しながら安定的に支持することができる。
【0018】
第5発明のワークレスト装置によれば、レストパッドが、クランクシャフトの回転運動の際にそのクランクシャフトのジャーナル部の周面と滑り合って接触する摺動部材よりなるものとされるので、クランクシャフトを回転させながら切削加工する場合でも、第4発明と同様に、クランクシャフトの回転運動を案内しながら安定的に支持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の第1の実施形態に係るワークレスト装置を具備するクランクシャフトミラーの全体斜視図である。
図2】同クランクシャフトミラーにおけるワークヘッド間にワークがセッティングされた状態図である。
図3】第1の実施形態に係るワークレスト装置の正面図である。
図4】同ワークレスト装置の要部拡大図である。
図5】同ワークレスト装置におけるパッド装置の内部構造を示す正面図である。
図6】同パッド装置の側面図である。
図7】本発明の第2の実施形態に係るワークレスト装置を具備するマシニングセンタの要部を示す正面図である。
図8】本発明の第3の実施形態に係るワークレスト装置を具備する研削盤の要部を示す側面図で、(a)は粘弾性を有しないワークレスト装置によるワーク支持状態図、(b)は粘弾性を有するワークレスト装置によるワーク支持状態図である。
図9】第1の実施形態に係るワークレスト装置の変形例の説明図である。
図10】第3の実施形態に係るワークレスト装置の変形例の説明図である。
図11】従来のワークレスト装置の正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
次に、本発明によるワークレスト装置の具体的な実施の形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0021】
〔第1の実施形態〕
図1には、第1の実施形態に係るワークレスト装置を具備するクランクシャフトミラーの全体斜視図が示されている。また、図2には、同クランクシャフトミラーにおけるワークヘッド間にワークがセッティングされた状態図が示されている。
【0022】
<クランクシャフトミラーの概略説明>
図1に示されるクランクシャフトミラー1は、ワーク固定式インターナルタイプのクランクシャフトミラーであり、ベッド2上に互いに対向するように設置される2基のワークヘッド3間に設置される2基のカッタユニット4を備えている。
【0023】
<カッタユニットの説明>
各カッタユニット4は、ベッド2の長手方向(Z軸方向)に移動自在なサドル5を備えるとともに、このサドル5上にZ軸と直交するY軸方向(奥行方向)へ移動自在なスライド6を備えている。
スライド6には、一端部が支軸7に支承されるとともに、他端部がスライド6上に設置された揺動機構8により上下方向(X軸方向)に揺動されるスイングヘッド9が装着されている。このスイングヘッド9内には、カッタドラムモータ10により回転されるカッタドラム11が設けられ、カッタドラム11には、カッタアダプタ12を介してカッタ13が取り付けられている。
【0024】
各カッタユニット4のサドル5には、ワークレスト装置20が設置されている。このワークレスト装置20は、図2に示されるように、各ワークヘッド3の対向面に設けられたチャック14によって両端部が支持された加工対象物(ワーク)であるクランクシャフト15を補助的に支持して、クランクシャフト15のジャーナル部15aやピン部15bをカッタ13で切削加工する際に切削抵抗でクランクシャフト15が振れないようにする役目をする。
【0025】
<ワークレスト装置の説明>
次に、ワークレスト装置20の詳細構造について、図3図6を参照しつつ説明する。ここで、図3には、第1の実施形態に係るワークレスト装置の正面図が、図4には、同ワークレスト装置の要部拡大図がそれぞれ示されている。また、図5には、同ワークレスト装置におけるパッド装置の内部構造を示す正面図が、図6には、同パッド装置の側面図がそれぞれ示されている。
【0026】
図3に示されるように、本実施形態のワークレスト装置20は、下部がボールねじ軸21に螺合されてベッド2上をZ軸方向(図3の紙面を垂直に貫く方向)に移動自在な本体フレーム22を備えている。本体フレーム22の中央部には、開口部23が設けられている。また、本体フレーム22の一側部には、一対のレストアーム支軸24,25が設けられ、これら支軸24,25を支点にして一対のレストアーム26,27が上下方向に回動されて相互に開閉自在とされている。これらレストアーム26,27の開閉は、一方側のレストアーム27の基端部と本体フレーム22との間に取り付けられる油圧シリンダ28の伸縮作動により行われる。
なお、本体フレーム22の他側部には、一対のレストアーム26,27を閉合状態にロックするロック機構29が配設されており、クランクシャフト15の加工時にそれらレストアーム26,27が開かないようにしている。
【0027】
図4に示されるように、一対のレストアーム26,27の対向面の略中央部には、半円形状の切欠部26a,27aが形成され、該切欠部26a,27aには、パッドホルダ30を介して複数のパッド装置31が装着されている。これらパッド装置31は、一対のレストアーム26,27によるクランプ動作の際にクランクシャフト15のジャーナル部15aを求心方向(ワーク中心Owに向かう方向)に押圧する役目をし、クランクシャフト15のジャーナル部15aをそれらパッド装置31でより安定的に支持することができるようになっている。
【0028】
<パッド装置の説明>
図5に示されるように、パッド装置31は、クランクシャフト15のジャーナル部15aに当接されるレストパッド32と、このレストパッド32を支持するパッド支持部材33とを備えている。
【0029】
<レストパッドの説明>
レストパッド32は、ワーク中心Owに向かって延びる縦棒部32aに対してTの字形状を呈するように横棒部32bが一体的に設けられてなり、縦棒部32aの先端面をジャーナル部15aの周面に当接可能に構成されている。
【0030】
<パッド支持部材の説明>
パッド支持部材33は、ワーク中心Owに向かって開口された切欠凹部34aを有する比較的厚肉の板状部材からなるケーシング本体34を備えている。
ケーシング本体34におけるワーク中心Ow側に向けた開口側端面には、一対の押え蓋35がボルト36の締結によって固定されている。押え蓋35は、ケーシング本体34への取付側部分に内向きに臨ませた第1内側面35aを有するとともに、この第1内側面35aからワーク中心Ow側に向かって段差部35bを経て内向き突出した部分に内向きに臨ませた第2内側面35cを有している。
【0031】
パッド支持部材33に対しレストパッド32は、横棒部32bが切欠凹部34a内に入り込んだ状態で縦棒部32aが一対の押え蓋35における互いに対向する第2内側面35cの間を通過するようにしてそれら押え蓋35からワーク中心Owに向かって外側に突出するように収容されている。
【0032】
<粘弾性体の説明>
パッド支持部材33とレストパッド32との間には、粘弾性体37(37a〜37d)が組み込まれており、レストパッド32が粘弾性体37を介してパッド支持部材33に支持されるようになっている。より具体的に説明すると、ケーシング本体34とレストパッド32とにおいて、切欠凹部34aの奥面と横棒部32bとの間に粘弾性体37aが配設されるとともに、切欠凹部34aの内側面と横棒部32bとの間に粘弾性体37bが配設されている。また、一対の押え蓋35とレストパッド32とにおいて、第1内側面35aと縦棒部32aとの間に粘弾性体37cが配設されている。
【0033】
ここで、粘弾性体37とは、ばね要素と減衰要素とを有するものであり、非線形なばね定数を有するものである。つまり、荷重を加えることによって粘弾性体37を変形させた場合、粘弾性体37のばね定数は荷重の大きさによって変化することになる。粘弾性体37としては例えばゴム等が挙げられる。
【0034】
ケーシング本体34における切欠凹部34aの奥面と粘弾性体37aとの間には、所要のシム38が介挿されており、シム38の枚数を調整することにより、クランクシャフト15のジャーナル部15aに対するレストパッド32の押し代を調整することができるようになっている。
【0035】
図6に示されるように、ケーシング本体34と一対の押え蓋35とには、それらを両側から覆うようにカバー部材39が装着されている。なお、カバー部材39とレストパッド32との間にも粘弾性体37dが配設されている。
【0036】
以上に述べたように構成されるワークレスト装置20を具備するクランクシャフトミラー1においては、クランクシャフト15のジャーナル部15aやピン部15bを切削加工する際に、切削抵抗でクランクシャフト15が振れないようにするために、図3に示されるように、クランクシャフト15のジャーナル部15aを一対のレストアーム26,27でクランプする。これにより、クランクシャフト15のジャーナル部15aが複数のパッド装置31によって求心方向に押圧される。
【0037】
ところで、加工対象物であるクランクシャフト15は、前加工精度が悪い等に起因して、センタ穴を基準とするワーク中心線Sw(図2参照)に対してジャーナル部15aが偏心していることがある。このため、上記のレストアーム26,27によるクランプ動作により、偏心しているジャーナル部15aの中心をワーク中心線Sw上に強制的に一致させるような芯出しが行われることになり、レストアーム26,27からクランクシャフト15に対してクランクシャフト15を変形させるような偏荷重が作用する。
【0038】
<作用効果の説明>
本実施形態のワークレスト装置1においては、図5に示されるように、クランクシャフト15のジャーナル部15aに当接されるレストパッド32が粘弾性体37を介してパッド支持部材33に支持される構造とされて、レストアーム26,27でジャーナル部15aを支持する際にそのジャーナル部15aとの間に粘弾性体37が介在される。これにより、レストアーム26,27からクランクシャフト15に対してクランクシャフト15を変形させるような偏荷重が作用しても、その偏荷重を粘弾性体37(特に粘弾性体37a)の弾性変形によって吸収することができ、クランクシャフト15を変形させることなく支持することができる。したがって、前加工精度が悪い等に起因して、センタ穴を基準とするワーク中心線Swに対してジャーナル部15aが偏心しているようなクランクシャフト15でも、センタ穴基準での切削加工で所望の加工精度を確保することができる。
また、切削加工時に生じるクランクシャフト15のびびり振動がレストパッド32から粘弾性体37へと伝達されて該粘弾性体37でそのびびり振動が減衰されるので、クランクシャフト15の加工時のびびり振動を抑制することができる。
【0039】
〔第2の実施形態〕
図7には、本発明の第2の実施形態に係るワークレスト装置を具備するマシニングセンタの要部を示す正面図が示されている。
【0040】
図7に示されるマシニングセンタ41は、テーブル42上にワーク位置決め治具43を介して固定・設置されたブロック状のワーク44に対して、図示されないATC(自動工具交換装置)で主軸45に装着されたフライス等の切削工具46を用いて切削加工を行うようにしたもので、テーブル42との間にワーク44を挟むようにしてそのワーク44を補助的に支持するワークレスト装置50を備えている。
【0041】
ワークレスト装置50は、ワーク44の側方においてテーブル42上に設置される支柱部材51からワーク44の側縁部上方位置に延設されるワーククランパ52を備え、このワーククランパ52の先端部に、ワーク44の側縁部上面に当接可能な粘弾性体53を装着して構成されている。
【0042】
本実施形態のワークレスト装置50によれば、切削加工時に生じるワーク44のびびり振動が粘弾性体53へと伝達されて該粘弾性体53でそのびびり振動が減衰されるので、ワーク44の切削加工時のびびり振動を抑制することができる。
例えば、剛性の低いワークに対して剛性の高いワークレスト装置を適用した場合、ワークレスト装置からワークに加えられる力によってワークの変形が起こる恐れがある。
そこで、剛性の低いワークに対してワークレスト装置50を適用すれば、ワーククランパ52でワーク44を支持する際にそのワーク44との間に粘弾性体53が介在されるので、ワーククランパ52からワーク44に対してワーク44を変形させるような力が作用しても、その力を粘弾性体の弾性変形によって吸収することができ、ワーク44を変形させることなく支持することができる。
【0043】
〔第3の実施形態〕
図8には、本発明の第3の実施形態に係るワークレスト装置を具備する研削盤の要部を示す側面図で、粘弾性を有しないワークレスト装置によるワーク支持状態図(a)および粘弾性を有するワークレスト装置によるワーク支持状態図(b)が、それぞれが示されている。
【0044】
図8(a)(b)に示される研削盤61は、図示されないチャックによって両端が支持された比較的小径で長尺のワーク62に対して、回転駆動される砥石63によりそのワーク62の表面研削を行うようにしたもので、砥石63との間にワーク62を挟むようにしてそのワーク62を補助的に支持するワークレスト装置70A,70Bを備えている。
【0045】
図8(a)に示されるように、ワークレスト装置70Aは、ワーク62を下側から支えて重力や砥石63の回転による接線方向の力(下向きの力)による変形を防止する第1レスト部材71と、砥石63と対向する側からワーク62を支えて砥石63の加工送りに対する変形を防止する第2レスト部材72とを備えて構成されている。
図8(b)に示されるように、ワークレスト装置70Bは、先に述べたワークレスト装置70Aと基本構成が同じで、各レスト部材71,72の先端部に、ワーク62の周面に当接可能な粘弾性体73を装着して構成されている。
【0046】
本実施形態の研削盤61においては、粘弾性体73を有しない通常のワークレスト装置70Aと、粘弾性体73を有するワークレスト装置70Bとの両方が用いられている。
これにより、重力や砥石63の回転による接線方向の力、砥石63の加工送りによるワーク62の変形をワークレスト装置70Aによって防止することができるとともに、研削加工時に生じるワーク62のびびり振動が粘弾性体73によって減衰されて、ワーク62のびびり振動を抑制することができる。なお、ワークレスト装置70Bをワーク62へ押し付けることがないので、言い換えればレスト部材71,72からワーク62へは力が作用しないので、ワーク62を変形させるようなことがない。
【0047】
以上、本発明のワークレスト装置について、複数の実施形態に基づいて説明したが、本発明は上記実施形態に記載した構成に限定されるものではなく、各実施形態に記載した構成を適宜組み合わせる等、その趣旨を逸脱しない範囲において適宜その構成を変更することができるものである。
【0048】
例えば、図3に示される第1の実施形態のワークレスト装置20におけるパッド装置31に代えて、図9(a)〜(c)のそれぞれに示されるパッド装置31A〜31Cを適用してもよい。
【0049】
図9(a)に示されるパッド装置31Aは、クランクシャフト15のジャーナル部15aの周面に沿う円弧状当接面81aを有するレストパッド81と、このレストパッド81を支持するパッド支持部材82とを備え、レストパッド81の円弧状当接面81aに粘弾性体83をジャーナル部15aとの間に介在するように貼り付けて構成されている。
このパッド装置31Aによれば、極めて簡易な構成で偏荷重の吸収効果とびびり振動の減衰効果を得ることができる。
【0050】
図9(b)に示されるパッド装置31Bは、クランクシャフト15の回転運動の際にそのクランクシャフト15のジャーナル部15aの回転に倣って回転するローラ部材よりなるレストパッド84と、このレストパッド84を支持するパッド支持部材85とを備えている。
パッド支持部材85は、レストパッド84を回転自在に支持する第1ブラケット85aと、この第1ブラケット85aを支持する第2ブラケット85bとにより構成されている。そして、第1ブラケット85aと第2ブラケット85bとの間には、粘弾性体86が介挿されている。
【0051】
図9(c)に示されるパッド装置31Cは、クランクシャフト15の回転運動の際にそのクランクシャフト15のジャーナル部15aの周面と滑り合って接触する摺動部材よりなるレストパッド87と、このレストパッド87を支持するパッド支持部材88とを備えている。
パッド支持部材88は、レストパッド87を支持する第1ブラケット88aと、この第1ブラケット88aを支持する第2ブラケット88bとにより構成されている。そして、第1ブラケット88aと第2ブラケット88bとの間には、粘弾性体89が介挿されている。
なお、レストパッド87としては、例えば潤滑油を含浸させて自己潤滑性を持たせた銅系合金等の摺動部材などが好適に用いられる。
【0052】
上記のパッド装置31B,31Cによれば、粘弾性体86,89によって偏荷重の吸収とびびり振動の減衰を達成することができるのは勿論のこと、クランクシャフト15を回転させながら切削加工する場合でも、クランクシャフト15の回転運動をレストパッド84,87で案内しながら安定的に支持することができ、ワーク回転式インターナルタイプのクランクシャフトミラーに好適に用いることができる。
【0053】
また、図8(b)に示されるワークレスト装置70Bにおいては、ワーク62を下側から第1レスト部材71で支えるとともに、砥石63と対向する側からワーク62を第2レスト部材72で支えるようにし、各レスト部材71,72の先端部に粘弾性体73をワーク62の周面に当接可能に装着するようにしたが、これに限定されるものではなく、図10に示されるようなワークレスト装置90を採用してもよい。
ワークレスト装置90は、基端部が枢着されて互いに回動可能な第1レストアーム91および第2レストアーム92を備え、これらレストアーム91,92でワーク62を上下方向からクランプするようにし、各レストアーム91,92の先端部に粘弾性体93をワーク62の周面に当接可能に装着して構成されている。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明のワークレスト装置は、ワークの変形を生じさせることなく支持することができるとともに、ワークの加工時のびびり振動を抑制することができるという特性を有していることから、クランクシャフトミラーやマシニングセンタ、研削盤を始めその他の工作機械の分野において、ワークを変形させることなく補助的に支えてびびり振動を抑制する用途に好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0055】
1 クランクシャフトミラー
20,50,70B,90 ワークレスト装置
26,27,91,92 レストアーム(ワーク補助支持体)
31,31A,31B,31C パッド装置
32,81,84,87 レストパッド
33,82,85,88 パッド支持部材
37,53,73,93 粘弾性体
41 マシニングセンタ
52 ワーククランパ(ワーク補助支持体)
61 研削盤
71,72 レスト部材(ワーク補助支持体)

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11