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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2015-182196(P2015-182196A)
(43)【公開日】2015年10月22日
(54)【発明の名称】ボールエンドミル
(51)【国際特許分類】
   B23C 5/10 20060101AFI20150925BHJP
【FI】
   B23C5/10 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2014-61889(P2014-61889)
(22)【出願日】2014年3月25日
(71)【出願人】
【識別番号】000233066
【氏名又は名称】三菱日立ツール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124316
【弁理士】
【氏名又は名称】塩田 康弘
(72)【発明者】
【氏名】居原田 有輝
【テーマコード(参考)】
3C022
【Fターム(参考)】
3C022KK02
3C022KK22
(57)【要約】
【課題】ボールエンドミルにおいて外周刃の区間を円柱形状に近付けることで、切れ刃部の回転時の剛性を高めながら、付加的に切り屑のギャッシュからの排出性を高める。
【解決手段】切れ刃部2をボール刃4が形成されるボール刃部40と、ボール刃4に連続する外周刃5が形成される外周刃部50とに区分し、ボール刃部40にボール刃4の回転方向後方側に互いに異なる面をなしながら、連続して形成される二番面10から四番面12を形成し、外周刃部50に各外周刃5の回転方向後方側に互いに異なる面をなす複数の外周刃逃げ面14a〜14eを形成し、四番面12を回転軸Oに関して外周側に向かって凸の曲面状に形成し、ギャッシュ6の外周刃部50側にギャッシュ6に通じる外周溝9を形成し、ギャッシュ6の溝底61と外周溝9の溝底91に回転軸Oに対して異なる角度α1、α2を持たせる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
工具本体の軸方向先端部側に、複数枚の切れ刃と回転方向に隣接する前記切れ刃間に形成されたギャッシュを有する切れ刃部を備え、この切れ刃部が前記工具本体の軸方向に、ボール刃が形成されるボール刃部と、前記ボール刃に連続する外周刃が形成される外周刃部とに区分されたボールエンドミルであり、
前記ボール刃部は前記ボール刃の回転方向後方側に形成される二番面と、この二番面に回転方向後方側に連続して形成され、前記二番面と異なる面をなす三番面と、この三番面に回転方向後方側に連続して形成され、前記三番面と異なる面をなす四番面を持ち、
前記外周刃部の前記各外周刃の回転方向後方側には互いに異なる面をなす複数の外周刃逃げ面が形成され、
前記四番面は回転軸に関して外周側に向かって凸の曲面状に形成され、
前記ギャッシュの前記外周刃部側に前記ギャッシュに通じる外周溝が形成され、前記ギャッシュの溝底と前記外周溝の溝底は前記回転軸に対して異なる角度をなしていることを特徴とするボールエンドミル。
【請求項2】
前記ボール刃部の回転軸に直交する断面上、前記三番面における前記四番面との境界を通る接線と、前記四番面における前記三番面との境界を通る接線とが前記切れ刃部の断面側になす角度が平角に近いことを特徴とする請求項1に記載のボールエンドミル。
【請求項3】
前記ボール刃部の回転軸に直交する断面上、前記ボール刃のすくい面における前記ボール刃を通る接線と前記ボール刃の逃げ面、もしくは前記ボール刃の逃げ面における前記ボール刃を通る接線とが前記切れ刃部の断面側になす角度が鈍角であることを特徴とする請求項1、もしくは請求項2に記載のボールエンドミル。
【請求項4】
前記ボール刃部の回転軸に直交する断面上、前記ボール刃のすくい面が前記ギャッシュ側へ凸の面をなしていることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載のボールエンドミル。
【請求項5】
前記外周溝の回転方向前方側の面を構成する外周溝面が前記外周刃の最も回転方向後方側に位置する前記外周刃逃げ面と異なる面をなしながら、この外周刃逃げ面に連続し、前記外周刃部の外周刃逃げ面を兼ねていることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれかに記載のボールエンドミル。
【請求項6】
前記ギャッシュの回転方向前方側の面を構成するギャッシュ壁面の前記外周刃部側に、少なくとも前記外周刃の最も回転方向後方側に位置し、前記ギャッシュ壁面と異なる面をなす前記外周刃逃げ面が連続し、前記ギャッシュ壁面に回転方向後方側に連続するギャッシュ底面の前記外周刃部側に、前記ギャッシュ底面と異なる面をなす前記外周刃逃げ面と前記外周溝面が連続していることを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれかに記載のボールエンドミル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は特に高硬度材の加工に適応させるために、切れ刃部の回転時の剛性を高めたボールエンドミルに関するものである。
【背景技術】
【0002】
ボールエンドミルの加工対象である金型や部品の小型化に伴い、微細加工の要求が高まる一方、金型等の寿命を伸ばす目的から、金型等に高硬度材が使用されることが多い。この状況を受け、高硬度材の金型等を加工するための小径工具には被削材に適応した耐摩耗性に加え、高い剛性と高い切り屑排出性が求められる。
【0003】
ボールエンドミル自体の剛性と切り屑排出性は工具本体(ボールエンドミル)の先端部に形成される切れ刃部の形態で決まるが、切れ刃部の回転時の剛性を確保する上では、切れ刃部自体が回転軸を中心とした回転体形状(球体状、あるいは円柱状)に近い立体形状をすることが合理的であるため、切れ刃(ボール刃)の逃げ面を多面体に形成することが適切である(特許文献1〜7参照)。
【0004】
切れ刃部は工具の軸方向にはボール刃の区間(ボール刃部)とそれに連続する外周刃の区間(外周刃部)とに区分され、逃げ面は主にボール刃の区間に形成されるが、ボール刃の区間を球体状に形成し易いことから、逃げ面は四番面まで形成されることが多い(特許文献1〜7)。
【0005】
ここで、外周刃の区間がボール刃の区間との間で剛性が変化する形状をすれば、剛性の変化箇所が構造上の弱点になり易くなるため、剛性の変化箇所を形成しないようにする上では、外周刃の区間をボール刃の区間に連続した回転体形状(円柱状)に形成することが適切である。外周刃の区間を円柱状に形成するには、外周刃の区間においても逃げ面としての面取り面を複数、形成し、逃げ面を多面体に形成することが有効である(特許文献1)。
【0006】
特許文献1では外周刃5の区間に逃げ面として複数の面取り面を形成することで、外周刃の区間を円柱状に形成し易くなるため、切れ刃部の剛性を高め易くなり、回転時の振動を生じさせにくくすることができると言える。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】実用新案登録第2588580号公報(段落0009〜0011、図1図3
【特許文献2】特開平10−113808号公報(段落0009〜0010、図1図2図4図6
【特許文献3】特開2004−74329号公報(段落0006〜0012、図1図3
【特許文献4】国際公開第2005/102572号(段落0022〜0033、図1図3
【特許文献5】特開2006−15419号公報(段落0012〜0017、図1図2
【特許文献6】特開2008−49404号公報(段落0008、図1図5
【特許文献7】特開2010−201607号公報(段落0013〜0015、図1図5
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1ではその具体例を表した図11に示すように切り屑排出溝(ギャッシュ)であるねじれ溝122を構成する面がボール刃114の区間(ボール刃部110)と外周刃118の区間に連続する曲面をなして形成されているため、外周刃118の区間を回転軸に直交する断面で見たとき、逃げ面124からなる多角形が外周側から半径方向中心側へ切り込まれた形状になる(特許文献1の図2)。この場合、外周刃118の区間に複数の面取り面(逃げ面)120を形成し、外周刃118の区間を多角柱形状に形成しながらも、ねじれ溝122が外周刃118の区間の多角柱を外周側から抉る形になることから、複数の面取り面120を形成することによる、外周刃118の区間を円柱形状に近付ける効果が生かされないため、切れ刃部の回転時の剛性を高める効果は十分に発揮されない。
【0009】
また特許文献1〜7のいずれにおいても、ねじれ溝がボール刃の区間と外周刃の区間に連続した1本の溝状に形成されていることで、ねじれ溝内を通過する切り屑が面取り面側に回り込むことがないため、切り屑をボールエンドミルの回転方向(周方向)に分散させる効果は得にくく、切り屑は主にねじれ溝内を通じて排出されざるを得ない。
【0010】
図8図10は従来のボールエンドミルの製作例を示す。この製作例でもボール刃4の区間にはボール刃4の逃げ面として四番面12まで形成されているが、ボール刃4が外周刃を兼ねる形でシャンク部3側にまで連続し、切り屑排出溝(ギャッシュ6)の底(溝底)が特許文献1等と同様に、切れ刃部2の先端部(回転軸O付近)からシャンク部3にかけて1本の連続した直線状に形成されていることで、図8のA−A線断面図である図9に示すように切り屑排出溝が中心(回転軸O)寄りにまで深く切り込まれた形になっている。切り屑排出溝が中心寄りにまで深く切り込まれた形になることは、切り屑排出溝が切れ刃部の先端部からシャンク部にかけて連続して形成された特許文献1にも言える。図8図10中、31は外周刃の区間の面取り面(逃げ面)以外の円筒面を指す。
【0011】
切り屑排出溝の底が1本の連続した直線状であることで、ボール刃4と外周刃の境界付近から溝底までの距離が最大になるため、必然的にボール刃4と外周刃からの、溝底までの深さが大きくなり、切り屑排出溝が深く切り込まれた形になる。この結果、図8のA−A線断面図である図9とB−B線断面図である図10との対比から分かるように、図9に示すボール刃4の区間の回転軸Oに直交する断面の断面積は図10に示す外周刃の区間の断面積より極端に小さくなるため、ボール刃4の区間と外周刃の区間の剛性の差が大きくなり、両区間の境界部分が構造上の弱点になり易い。
【0012】
本発明は上記背景より、外周刃の区間を円柱形状に近付けることで、切れ刃部の回転時の剛性を高めながら、付加的に切り屑のギャッシュからの排出性を高めたボールエンドミルを提案するものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
請求項1に記載の発明のボールエンドミルは、工具本体の軸方向先端部側に、複数枚の切れ刃と回転方向に隣接する前記切れ刃間に形成されたギャッシュを有する切れ刃部を備え、この切れ刃部が前記工具本体の軸方向に、ボール刃が形成されるボール刃部と、前記ボール刃に連続する外周刃が形成される外周刃部とに区分されたボールエンドミルであり、
前記ボール刃部が前記ボール刃の回転方向後方側に形成される二番面と、この二番面に回転方向後方側に連続して形成され、前記二番面と異なる面をなす三番面と、この三番面に回転方向後方側に連続して形成され、前記三番面と異なる面をなす四番面を持ち、
前記外周刃部の前記各外周刃の回転方向後方側に互いに異なる面をなす複数の外周刃逃げ面が形成され、
前記四番面が回転軸に関して外周側に向かって凸の曲面状に形成され、
前記ギャッシュの前記外周刃部側に前記ギャッシュに通じる外周溝が形成され、前記ギャッシュの溝底と前記外周溝の溝底は前記回転軸に対して異なる角度をなしていることを特徴とする。
【0014】
ボール刃部が各ボール刃の回転方向後方側に二番面から四番面までの4面の逃げ面を持つことは、面数が複数であることで、ギャッシュを除き、ボール刃部自体を球体状に形成し易くする意味がある。外周刃部が各外周刃の回転方向後方側に複数の外周刃逃げ面を持つことも、面数が複数であることで、外周刃部を円柱状に形成し易くする意味がある。ボール刃部と外周刃部のいずれの逃げ面も、ボールエンドミルの回転軸Oを中心とした回転体形状に近い立体形状に切れ刃部を形成し易くし、切れ刃部の剛性を高めることに寄与する。請求項1における「工具本体」はボールエンドミルの本体のことであり、「回転軸」はボールエンドミルの回転軸Oを指す。
【0015】
特にボール刃部の四番面を回転軸Oに関して外周側(表面側)に向かって凸の曲面状に形成することで(請求項1)、図1のX−X線の矢視図である図2、及び図1のA−A線の断面図である図6に示すようにギャッシュ6を除き、ボール刃部40を一層、球体状に近付けることが可能になり、ボール刃部40の体積が増すため、ボール刃部40の剛性を上昇させることが可能になる。「曲面状」は曲面と多面体を含む。
【0016】
また図1に示すようにギャッシュ6の外周刃部50側にギャッシュ6に通じる外周溝9が形成され、ギャッシュ6の溝底61と外周溝9の溝底91が回転軸Oに対して異なる角度α1、α2をなしていることで、ギャッシュ6の溝底61の、回転軸Oに直交する平面からの傾斜を外周溝9の溝底91の傾斜より緩くし、ギャッシュ6の溝底61の、ボール刃4からの深さを小さく抑えることが可能になる。外周溝9は切れ刃部2の周方向には各外周刃5の最も回転方向後方側に位置する外周刃逃げ面14eの回転方向後方側で、外周刃5の回転方向前方側に形成される。
【0017】
「外周溝9がギャッシュ6に通じる」とは、特許文献1のねじれ溝のように回転軸O方向に連続した1本の溝をなすように外周溝9がギャッシュ6に連続することを除外する趣旨であり、ギャッシュ6を構成する面(ギャッシュ壁面6aとギャッシュ底面6b及びボール刃4のすくい面7)と外周溝9を構成する面(外周溝面9aと外周刃5のすくい面8)が回転軸O方向に不連続な面をなして隣接することを意味する。ギャッシュ6の溝底61は図1に示すようにボール刃4のすくい面7とギャッシュ底面6bとの境界を指し、外周溝9の溝底91は外周刃5のすくい面8と外周溝面9aとの境界を指す。
【0018】
「ギャッシュ6の溝底61と外周溝9の溝底91が回転軸Oに対して異なる角度α1、α2をなす」とは、ギャッシュ6の溝底61と回転軸Oとがなす角度α1と、外周溝9の溝底91と回転軸Oとがなす角度α2が相違することである。ここで言う溝底61、91と回転軸Oとがなす角度α1、α2は図1に示すようにボール刃4のすくい面7と外周刃5のすくい面8が正面に位置するように切れ刃部2を半径方向(回転軸Oに直交する方向)に見たときの角度を言う。ボール刃4のすくい面7と外周刃5のすくい面8が正面に位置するように切れ刃部2を半径方向に見たときの角度が、溝底61、91と回転軸Oとがなす傾斜角度を正確に表示していると言えるからである。
【0019】
角度α1と角度α2が相違することで、切れ刃部2を半径方向に見たときに、ギャッシュ6の溝底61と回転軸Oとがなす角度α1を外周溝9の溝底91と回転軸Oとがなす角度α2より大きくすることができる。このことはギャッシュ6の溝底61の、回転軸Oに直交する平面からの傾斜を緩く(小さく)しながら、外周溝9の溝底91の、回転軸Oに直交する平面からの傾斜を大きくすることであり、結果的にギャッシュ6の溝底61がシャンク部3側にまで直線的に連続する図8図10に示す例、並びに特許文献1との対比ではギャッシュ6の溝底61の回転軸Oからの距離が大きくなるため、ギャッシュ6の溝底61の、ボール刃4からの深さを小さく抑えることが可能になる。
【0020】
ギャッシュ6の溝底61の深さが小さく抑えられることで、図8図10に示す従来例と異なり、図6に示すようにボール刃部40の回転軸Oに直交する断面上、ギャッシュ6は切れ刃部2の中心(回転軸O)寄りにまで深く切り込まれた、図9に示すような形にはならなくなる。「ギャッシュ6の溝底61と外周溝9の溝底91が回転軸Oに対して異なる角度α1、α2をなすこと」は、ギャッシュ6の溝底61と外周溝9の溝底91が連続した直線や曲線を描かず、互いに異なる不連続な直線や曲線を描くことでもある。但し、溝底61、91は図示するように凹の稜線のように明確な線として表れるとは限らず、凹曲面をなしていることもあるため、線として表れないこともある。
【0021】
ギャッシュ6が切れ刃部2の中心寄りにまで深く切り込まれた形にならないことで、図6に示すようにボール刃部40の回転軸Oに直交する断面上、ギャッシュ6の回転方向後方側の面をなすボール刃4のすくい面7におけるボール刃4を通る接線7Aとボール刃4の逃げ面10、もしくはボール刃4の逃げ面10におけるボール刃4を通る接線10Aとが切れ刃部2の断面側(回転軸O側)になす角度θ1を鈍角にすることが可能である(請求項3)。
【0022】
この場合には、四番面12が回転軸Oに関して外周側(表面側)に向かって凸の曲面状であることと併せ、これらの要件を備えない図8図10に示す例との対比では、ボール刃部40の回転軸Oに直交する断面積、すなわちボール刃部40の体積を増大させることができるため、切れ刃部2の剛性をより高めることが可能である。角度θ1はボール刃部40を回転軸Oに直交する断面で見たときのすくい面7とボール刃4の逃げ面10とのなす角度とも言えるが、すくい面7と逃げ面10が曲面である場合もあるため、接線7A、10Aを用いて角度θ1を特定している。
【0023】
またギャッシュ6が切れ刃部2の中心寄りにまで深く切り込まれた形にならないことで、ボール刃部40の四番面12を回転軸Oに関して外周側に向かって凸の曲面状に形成することと併せ、ボール刃部40の回転軸Oに直交する断面上、三番面11における四番面12との境界(境界線)を通る接線11Aと、四番面12における三番面11との境界(境界線)を通る接線12Aとが切れ刃部2の断面側(回転軸O側)になす角度θ2を平角に近付けることが可能になる(請求項2)。「平角に近付ける」とは、具体的にはθ2を150〜180°程度の角度にすることであるが、図示する例では165°程度になっている。角度θ2はボール刃部40を回転軸Oに直交する断面で見たときの三番面11と四番面12とのなす角度とも言えるが、四番面12は曲面であり、三番面11が曲面の場合もあるため、接線11A、12Aを用いて角度θ2を特定している。
【0024】
更にギャッシュ6が切れ刃部2の中心寄りにまで深く切り込まれた形にならないことで、ギャッシュ6の回転方向前方側の面をなすギャッシュ壁面6aにおける四番面12との境界線68を通る接線6Aと、その回転方向前方側に連続する四番面12におけるギャッシュ壁面6aとの境界線68を通る接線12Bとが切れ刃部2の断面側(回転軸O側)になす角度θ3を鈍角にすることも可能になる。このことと、三番面11における四番面12との境界(境界線)を通る接線11Aと、四番面12における三番面11との境界(境界線)を通る接線12Aとが切れ刃部2の断面側(回転軸O側)になす角度θ2を平角に近付けることが可能であることで(請求項2)、ボール刃部40の回転軸Oに直交する断面上、ボール刃部40の断面積(体積)を増大させることが可能になり、切れ刃部2の剛性を更に高めることが可能になる。
【0025】
同時に、図1のA−A線の断面図である図6とB−B線の断面図である図7との対比から分かるように、ボール刃部40と外周刃部50の断面積(剛性)の差を小さくすることが可能になるため、図8図10に示す例のようにボール刃部40と外周刃部50間の境界部分が構造上の弱点になり易くなることがなくなる。
【0026】
また図6に示すようにボール刃部40の回転軸Oに直交する断面上、ボール刃4のすくい面7がギャッシュ6側へ凸の面をなしている場合(請求項4)には、すくい面7においてもボール刃部40の断面積(体積)が増すため、切れ刃部2の剛性が更に高まることになる。すくい面7がなす凸の面は曲面と多面体がある。
【0027】
ボール刃4のすくい面7がギャッシュ6側へ凸の面をなすことは、図2に示すようにボール刃4のすくい面7とギャッシュ底面6bとの境界61がボール刃部40を先端部側からシャンク部3(工具本体)の軸方向(回転軸O方向)に見たときにギャッシュ壁面6a側へ突出している状態にあることでもある。この場合、ボール刃4のすくい面7がギャッシュ壁面6a側へ突出することで、ギャッシュ6内の切り屑を回転方向前方側へ押し出すように作用し、ギャッシュ6内での切り屑の貯留が生じにくくなるため、ギャッシュ6からの切り屑排出性が向上する利点も得られる。
【0028】
特にボール刃4のすくい面7とギャッシュ底面6bとの境界61の半径方向中間部が最も回転方向前方側へ突出している場合には、すくい面7が切り屑をギャッシュ壁面6a側へ向けて放射状に分散させるようにも作用するため、切り屑のギャッシュ6内での一部への集中と停滞が生じにくくなる。ボール刃4のすくい面7をボール刃4に直交する断面で見たときには、図6に示すようにギャッシュ底面6bにおけるすくい面7との境界67を通る接線6Bとすくい面7におけるギャッシュ底面6bとの境界67を通る接線7Bとがギャッシュ6側(回転軸Oの反対側)になす角度θ4を鈍角にすることができるため、ギャッシュ6内での、特にすくい面7とギャッシュ底面6bとの間での切り屑の詰まりを発生しにくくすることができる。
【0029】
前記のように切れ刃部2の内、外周刃部50においては各外周刃5の最も回転方向後方側に位置する外周刃逃げ面14eの回転方向後方側に、ギャッシュ6の外周刃部50側に通じる外周溝9が形成される。ここで、図3図4に示すように外周溝9の回転方向前方側の面を構成する外周溝面9aが外周刃5の最も回転方向後方側に位置する外周刃逃げ面14eと異なる面をなしながら、この外周刃逃げ面14eに連続し、外周刃部50の外周刃逃げ面を兼ねている場合(請求項5)には、図7に示すように外周刃部50を円柱形状に近付け得る多角柱状に形成することが可能になり、ボール刃部40の剛性に加え、外周刃部50の剛性も高めることが可能になる。
【0030】
図面では外周刃部50の外周刃逃げ面14a〜14eを5面、形成しているが、外周刃逃げ面14a〜14eの数は任意であり、5面には限定されない。只、外周刃逃げ面14a〜14eの数を多くする程、多角柱状の側面の数が多くなるため、外周刃部50を円柱形状に近付けることが可能である。外周刃逃げ面14a〜14eは平面の場合と曲面の場合があり、回転軸Oに関して外周側に向かって凸の曲面をなす場合には外周刃部50の体積が増すため、剛性も上昇する。外周刃逃げ面14a〜14eは回転軸Oに関して外周側に向かって凹の曲面であることもある。
【0031】
図1図5に示すようにギャッシュ6は切れ刃部2の内、ボール刃部40の四番面12の回転方向後方側と、その側に隣接するボール刃4の回転方向前方側との間に、ボール刃4が切削した切り屑を排出するために形成される。ギャッシュ6は前記の通り、シャンク部3の軸方向(ボールエンドミル1の回転軸O方向)には外周刃部50の切り屑排出用の溝である外周溝9に通じる。ギャッシュ6は四番面12の回転方向後方側に形成されるギャッシュ壁面6aとその回転方向後方側に連続するギャッシュ底面6b、及びその回転方向後方側に連続するボール刃4のすくい面7から構成される。外周溝9は図3に示すように外周刃5の最も回転方向後方側に位置する外周刃逃げ面14eの回転方向後方側に連続する外周溝面9aと、その回転方向後方側に位置する外周刃5のすくい面8から構成される。
【0032】
請求項5における「外周溝面9aが外周刃5の外周刃逃げ面を兼ねる」とは、図7に示すように外周刃部50を回転軸Oに直交する断面で見たとき、互いに角度が付いて形成される外周刃5の外周刃逃げ面14a〜14eの周方向に隣接する外周刃逃げ面14a、14b(14b、14c等)間の関係と同様に、外周溝面9aが外周刃5の最も回転方向後方側に位置する外周刃逃げ面14eとの間で互いに角度をなしながら、この外周刃逃げ面14eに連なることを言う。結果として外周溝面9aは見かけ上、外周刃逃げ面14eに隣接する外周刃逃げ面(14f)として形成され、外周溝面9aは外周刃逃げ面14a〜14eと共に多角柱形状の1面を構成する。
【0033】
前記のように外周刃逃げ面14a〜14eは平面の場合と曲面状の場合があるため、外周溝面9aも平面の場合と曲面状の場合があり、曲面状は曲面と多面体がある。外周溝面9aは外周溝9を構成するため、基本的には回転軸Oに関して外周側に向かって凹の曲面であるが、周方向に連続する外周刃5のすくい面8が凹の曲面状であれば、外周溝面9aが凹の曲面状である必要はない。
【0034】
外周溝9を構成する外周溝面9aが外周刃5の外周刃逃げ面(14f)を兼ねる形で形成されることで、外周刃5の回転方向後方側に形成される外周刃逃げ面の数を一外周刃5当たり、実際の形成数より1面、多く形成したことと同等になり、図示するように外周刃5が2枚であれば、外周刃逃げ面を実際の形成数より2面、多く形成したことになる。但し、外周刃5は2枚とは限らない。
【0035】
外周溝面9aの回転方向後方側には周方向に隣接し、外周溝面9aと共に外周溝9を構成する外周刃5のすくい面8が連続するが、この外周刃5の回転方向後方側にも複数の外周刃逃げ面14a〜14eが連なるため、外周溝面9aが外周刃5の外周刃逃げ面を兼ねることで、外周刃部50は図7に示すように周方向には外周刃5のすくい面8以外の面において多面体を構成し得る立体形状になる。結果として外周刃部50が外周刃5のすくい面8を除き、外周溝9の部分においても多角柱状を形成することになるため、外周刃部50を円柱形状に近付けることが可能になり、外周刃部50の剛性が高められる。
【0036】
なお、外周刃部50において周方向に隣接する外周刃逃げ面14a、14b(14b、14c)間等の凸の稜線は回転軸Oに平行な直線を描く場合と、図1に示すように切れ刃部2の先端側からシャンク部3側へかけて回転方向後方側へ傾斜する直線、もしくは曲線を描く場合があるため、外周刃逃げ面14a〜14eは正多角柱(直角柱)形状を形成する場合と斜角柱形状を形成する場合がある。
【0037】
前記のようにギャッシュ6の外周刃部50側には外周溝9が通じるが、図3に示すようにギャッシュ6の回転方向前方側の面を構成するギャッシュ壁面6aの外周刃部50側に、少なくとも外周刃5の最も回転方向後方側に位置し、ギャッシュ壁面6aと異なる面をなす外周刃逃げ面14eを連続(位置)させ、ギャッシュ壁面6aに回転方向後方側に連続するギャッシュ底面6bの外周刃部50側に、ギャッシュ底面6bと異なる面をなす外周刃逃げ面14eと外周溝面9aを連続(位置)させれば(請求項6)、ボール刃4が発生させ、ギャッシュ6内に入り込んだ切り屑を外周刃部50から周方向(回転方向)に複数の面に分散させて排出させることが可能になる。
【0038】
この場合、ギャッシュ壁面6aの外周刃部50側(回転軸O方向)に外周刃逃げ面14eがギャッシュ壁面6aと異なる面をなして連続し、ギャッシュ底面6bの外周刃部50側に外周刃逃げ面14eと外周溝面9aがギャッシュ底面6bと異なる面をなして連続することで、図3に示すように最も回転方向後方側に位置する外周刃逃げ面14eは周方向(回転方向)にギャッシュ壁面6aとギャッシュ底面6bに跨り、ギャッシュ底面6bは最も回転方向後方側に位置する外周刃逃げ面14eと外周溝面9aに跨る。請求項6における「少なくとも最も回転方向後方側の外周刃逃げ面14eを連続させ、」とは、ギャッシュ壁面6aの外周刃部50側に2面以上の外周刃逃げ面14e、14dが連続する場合があることを言う。
【0039】
ギャッシュ底面6bが周方向に最も回転方向後方側に位置する外周刃逃げ面14eと外周溝面9aに跨ることで、ボール刃4が発生させ、ギャッシュ6に入り込んだ切り屑は周方向に外周刃逃げ面14eと外周溝面9aとに分散して排出されることになる。また最も回転方向後方側に位置する外周刃逃げ面14eが周方向にギャッシュ壁面6aとギャッシュ底面6bに跨ることで、ギャッシュ6内においてギャッシュ壁面6aに反射した切り屑も外周刃逃げ面14eと外周溝面9aとに分散して排出されることになる。
【0040】
ギャッシュ6に入り込んだ切り屑が少なくとも最も回転方向後方側に位置する外周刃逃げ面14eと外周溝面9aとに分散して排出されることで、ギャッシュ6を経由する切り屑がギャッシュ6から外周溝9へ排出させられる分と、各外周刃5の回転方向後方側に位置する1面以上の外周刃逃げ面14eへ排出させられる分とに周方向(回転方向)に分散するため、ボール刃4が生成した切り屑がギャッシュ6内で貯留(停滞)しにくくなり、ギャッシュ6内からの切り屑の排出性が向上する。
【0041】
またギャッシュ壁面6aと共にギャッシュ6を構成し、ギャッシュ底面6bに連続するボール刃4のすくい面7とギャッシュ底面6bとの境界61が、外周溝9を構成する外周刃5のすくい面8に入り込んでいる場合には、ボール刃4から外周刃5に移行する区間の刃(ボール刃4と外周刃5)が発生させた切り屑を直接、外周溝9へ排出させる分と、ギャッシュ6を経由させてから外周溝9へ排出させる分とに分散させることができるため、ギャッシュ6と外周溝9内での切り屑排出性が更に向上する。
【0042】
「ボール刃4のすくい面7とギャッシュ底面6bとの境界61」は凹の稜線である場合のように境界線として明確に表れる場合と、凹曲面をなす場合のように境界線として明確に表れない場合がある。すくい面7とギャッシュ底面6bが互いに異なる面を形成する場合には境界61は境界線として明確に表れるが、すくい面7とギャッシュ底面6bが、曲率が連続的に変化する曲面のように連続した曲面を形成している場合には境界線は表れない。同様にギャッシュ壁面6aとギャッシュ底面6bとの境界67も凹の稜線である場合のように境界線として明確に表れる場合と、凹曲面をなす場合のように境界線として明確に表れない場合がある。
【0043】
「ボール刃4のすくい面7とギャッシュ底面6bとの境界61が外周刃5のすくい面8に入り込んでいること」は図3に示すように「ボール刃4のすくい面7と外周刃5のすくい面8との境界線62と、外周刃5のすくい面8とギャッシュ底面6bとの境界線63の交点64が、境界線62とボール刃4との交点65、及びすくい面8と外周溝面9aとの境界91とギャッシュ底面6bとの交点66よりシャンク部3側に入り込んで(位置して)いる」と言い換えられる。すくい面8と外周溝面9aとの境界91も凹の稜線である場合のように境界線として明確に表れる場合と、凹曲面をなす場合のように境界線として明確に表れない場合がある。
【0044】
ボール刃4のすくい面7とギャッシュ底面6bとの境界61が外周刃5のすくい面8に入り込んでいることで、ギャッシュ6を構成するすくい面7とギャッシュ底面6bが外周溝9にギャッシュ6側からシャンク部3側に向かって食い込んでいる状態になる。
【0045】
請求項7ではボール刃4のすくい面7とギャッシュ底面6bとの境界61が外周刃5のすくい面8に入り込むことで、ボール刃4と外周刃5が発生させた切り屑がギャッシュ6と外周溝9のいずれか一方に集中することがなくなるため、いずれかの溝内での切り屑の詰まり(停滞)が生じにくくなる結果として、ギャッシュ6と外周溝9内での切り屑排出性が向上することになる。
【発明の効果】
【0046】
切れ刃部が、ボール刃が形成されるボール刃部と、ボール刃に連続する外周刃が形成される外周刃部とに区分され、ボール刃部がボール刃の回転方向後方側に互いに異なる面をなしながら、連続して形成される二番面から四番面を持ち、外周刃部が各外周刃の回転方向後方側に互いに異なる面をなす複数の外周刃逃げ面を持つため、ボール刃部を球体状に形成し易くし、外周刃部を円柱状に形成し易くすることができる。その上で、ボール刃部の四番面を回転軸に関して外周側に向かって凸の曲面状に形成することで、ギャッシュを除き、ボール刃部を一層、球体状に近付け、ボール刃部の体積を増大させることができるため、ボール刃部及び切れ刃部の剛性を上昇させることができる。
【0047】
またギャッシュの溝底と外周溝の溝底が回転軸に対して異なる角度をなすことで、ギャッシュの溝底の、回転軸に直交する平面からの傾斜を外周溝の溝底の傾斜より緩くすることができるため、ギャッシュの溝底の、ボール刃からの深さを小さく抑えることができ、ギャッシュを切れ刃部の中心寄りにまで深く切り込まれた形にすることがなくなる。この結果、ボール刃部の回転軸に直交する断面上、三番面における四番面との境界を通る接線と、四番面における三番面との境界を通る接線とが切れ刃部の断面側になす角度を平角に近付けると共に、ボール刃のすくい面におけるボール刃を通る接線とボール刃の逃げ面とが切れ刃部の断面側になす角度を鈍角にすることができ、四番面が回転軸に関して外周側に向かって凸の曲面状であることと併せ、ボール刃部の回転軸に直交する断面積(体積)を増大させることができるため、切れ刃部の剛性をより高めることができる。
【0048】
加えてボール刃部と外周刃部の断面積(剛性)の差を小さくすることができるため、ボール刃部と外周刃部間の境界部分を構造上の弱点になりにくくすることができる。
【0049】
更にギャッシュの回転方向前方側の面を構成するギャッシュ壁面の外周刃部側に、少なくとも外周刃の最も回転方向後方側に位置し、ギャッシュ壁面と異なる面をなす外周刃逃げ面を連続させ、ギャッシュ壁面に回転方向後方側に連続するギャッシュ底面の外周刃部側に、ギャッシュ底面と異なる面をなす外周溝面を外周刃逃げ面と共に外周溝面を連続させた場合には、ボール刃が発生させ、ギャッシュ内に入り込んだ切り屑を周方向に複数の面に分散させて排出させることができる。この結果、ギャッシュを経由する切り屑がギャッシュから外周溝へ排出させられる分と、回転方向後方側に位置する1面以上の外周刃逃げ面へ排出させられる分とに周方向に分散するため、ボール刃が生成した切り屑がギャッシュ内で貯留しにくくなり、ギャッシュ内からの切り屑の排出性が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0050】
図1】ボール刃部のすくい面と四番面が正面に位置するように切れ刃部を半径方向に見たときの本発明のボールエンドミルを示した側面図である。
図2】ボール刃部を先端側から見たときの様子を示した図1のX−X線の矢視図である。
図3】ギャッシュのギャッシュ底面が正面に位置するように切れ刃部を半径方向に見たときの本発明のボールエンドミルを示した側面図である。
図4】外周溝の外周溝面が正面に位置するように切れ刃部を半径方向に見たときの本発明のボールエンドミルを示した側面図である。
図5】ギャッシュのギャッシュ底面とギャッシュ壁面が正面に位置するようにき切れ刃部を半径方向と回転軸方向に対して傾斜した方向から見たときの本発明のボールエンドミルを示した斜視図である。
図6図1のA−A線の断面図である。
図7図1のB−B線の断面図である。
図8図1に示す本発明のボールエンドミルに至る前段階に位置付けられる従来のボールエンドミルを示した側面図である。
図9図8のA−A線断面図である。
図10図8のB−B線線断面図である。
図11】特許文献1の具体例を表した切れ刃部を半径方向に見たときのボールエンドミルの側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0051】
図1は工具本体(シャンク部3)の軸方向先端部側に、複数枚の切れ刃20と回転方向に隣接する切れ刃20、20間に形成されたギャッシュ6を有する切れ刃部2を備え、切れ刃部2が工具本体(シャンク部3)の軸方向(回転軸O方向)に、ボール刃4が形成されるボール刃部40と、ボール刃4に連続する外周刃5が形成される外周刃部50とに区分されたボールエンドミル1の側面を示す。ボールエンドミル1のシャンク部3の外径は1mm前後程度である。
【0052】
切れ刃部2は主に立方晶窒化硼素(CBN)焼結体から製作され、シャンク部3は主に超硬合金から製作されるが、各部の材料は問われない。切れ刃部2は超硬合金やセラミックから製作されることもある。図面では切れ刃20が2枚の場合の例を示しているが、切れ刃20は2枚である必要はない。
【0053】
図4に示す外周刃5のねじれ角β1は20°〜30°程度が妥当である。20°未満では切削効率が低下する一方、30°を超えると刃先強度が低下することによる。ボール刃4のねじれ角β2は外周刃5のねじれ角より1°〜5°程度、小さいことが妥当である。ねじれ角β2とねじれ角β1との差が1°未満では再研磨時のボール刃4の形状が安定せず、形状の再現性が低下する一方、5°を超えると被削材加工面の面品位が低下することによる。またボール刃4の軸方向すくい角γ1は−15°〜−25°程度、図2に示す径方向すくい角γ2は−20°〜−30°程度が妥当である。これらの範囲を外れるとボールエンドミル1の剛性と刃先強度が低下することによる。
【0054】
ボール刃部40においては、各ボール刃4の回転方向後方側に、ボール刃4の逃げ面としての二番面10が形成され、二番面10の回転方向後方側に、二番面10と異なる面をなす三番面11が連続して形成され、三番面11の回転方向後方側に、三番面11と異なる面をなす四番面12が連続して形成される。四番面12は図1のA−A線の断面図である図6に示すように回転軸Oに関して外周側(表面側)に向かって凸の曲面状に形成される。隣接する二番面10と三番面11、及び三番面11と四番面12は互いに異なる面をなすため、隣接する面の境界には凸の稜線が境界線として表れる。
【0055】
四番面12の回転方向後方側には四番面12と異なる面をなし、ギャッシュ6を構成するギャッシュ壁面6aが連続し、ギャッシュ壁面6aの回転方向後方側にギャッシュ壁面6aと異なる面をなすか、またはギャッシュ壁面6aと共に連続した曲面をなすギャッシュ底面6bが連続する。ギャッシュ底面6bの回転方向後方側にギャッシュ底面6bと異なる面をなすか、またはギャッシュ底面6bと共に連続した曲面をなすボール刃4のすくい面7が連続する。ギャッシュ6はギャッシュ壁面6aとギャッシュ底面6b、及びボール刃4のすくい面7から構成される。
【0056】
ギャッシュ壁面6aとギャッシュ壁面6aが異なる面をなす場合、ギャッシュ壁面6aとギャッシュ底面6bとの境界67は境界線(凹の稜線)として明確に表れるが、連続した曲面をなす場合には境界線としては明確に表れない。同様にギャッシュ底面6bとボール刃4のすくい面7が異なる面をなす場合、ギャッシュ底面6bとボール刃4のすくい面7との境界61(ギャッシュ6の溝底)は境界線(凹の稜線)として明確に表れるが、連続した曲面をなす場合には境界線としては明確に表れない。四番面12とギャッシュ壁面6aは異なる面をなすため、両者間の境界線68は凸の稜線として表れる。
【0057】
ここで、ボールエンドミル1の先端側の端面図である図2において二番面10と三番面11との交線上のギャッシュ6寄りの点をP、三番面11と四番面12との交線が四番面12とギャッシュ壁面6aとの境界線68と交わる(ギャッシュ6に面する)点をQとしたとき、ボールエンドミル1の心厚を一定以上に確保する上では、目安として線分OP/線分OQが1/3〜1/2程度であることが適切である。
【0058】
ボール刃4のすくい面7は図2図6に示すようにボール刃部40を先端部側から工具本体(シャンク部3)の軸方向(回転軸O方向)に見たとき、またはボール刃部40の回転軸Oに直交する断面で見たとき、ギャッシュ6側へ凸の面をなすように形成される。具体的には前記のようにボール刃4の径方向すくい角γ2が−20°〜−30°程度に設定される関係から、ボール刃部40を先端部側から見たとき、ギャッシュ底面6bとすくい面7との境界(境界線)61は回転軸O寄りの位置から、ボール刃4よりギャッシュ壁面6a側へ向かった後に外周刃5側へ向かう曲線を描き、境界61の軌跡の中間部がギャッシュ壁面6aに最も接近する。境界61は全体としては図2図5に示すように回転軸O寄りの始点からシャンク部3側へかけて一旦、ギャッシュ壁面6aに接近した後にギャッシュ壁面6aから遠ざかる曲線を描く。
【0059】
すくい面7がギャッシュ6側へ凸の面をなすように形成されることには、ボール刃部40の回転軸Oに直交する断面上、ボール刃部40の断面積(体積)を増し、ボール刃部40を含む切れ刃部2の剛性を高めることと、ボール刃4が生成した切り屑を境界61の各部に垂直な方向(放射方向)に分散させながら、ギャッシュ壁面6a側へ押し出し、切り屑の排出性を高めることの2通りの意味がある。
【0060】
外周刃部50においては、各外周刃5の回転方向後方側に、外周刃5の逃げ面としての、互いに異なる面をなす複数の外周刃逃げ面14a〜14eが形成される。図面では外周刃逃げ面14a〜14eを5面、形成しているが、外周刃逃げ面14a〜14eの数は特定されない。図1、及びそのB−B線の断面図である図7に示すように隣接する各外周刃逃げ面14a、14b間等の境界には境界線が凸の稜線として表れる。
【0061】
各外周刃5の最も回転方向後方側に位置する外周刃逃げ面14eの回転方向後方側には外周溝9が形成される。外周溝9はギャッシュ6の外周刃部50側に、ギャッシュ6に不連続な状態で通じる(連通する)。「不連続な状態で通じる」とは、図1図3図4に示すようにギャッシュ6を構成する各面と外周溝9を構成する各面が回転軸O方向に連続した面(曲面)を形成せず、またギャッシュ6の溝底61と外周溝9の溝底91が連続した直線、もしくは曲線を描かず、不連続であることを言う。
【0062】
外周溝9は各外周刃5の最も回転方向後方側に位置する外周刃逃げ面14eの回転方向後方側に連続し、外周刃逃げ面14eと異なる面をなす外周溝面9aと外周刃5のすくい面8から構成される。ここで、「外周溝9を構成する各面がギャッシュ6を構成する各面と連続した面を形成しない」とは、ギャッシュ壁面6aとギャッシュ底面6bが外周溝面9aと連続した面(曲面)を形成せず、ボール刃4のすくい面7が外周刃5のすくい面8と連続した面(曲面)を形成しないことを言う。外周刃逃げ面14eと外周溝面9aは互いに異なる面をなすため、両面間の境界には境界線が凸の稜線として表れる。外周溝面9aと外周刃5のすくい面8が異なる面をなす場合、外周溝面9aとすくい面8との境界91(外周溝9の溝底)は境界線(凹の稜線)として表れるが、連続した曲面をなす場合には境界線としては表れない。
【0063】
図1図3に示すように四番面12とギャッシュ壁面6aとの境界線68と、ギャッシュ壁面6aとギャッシュ底面6bとの境界67は外周刃5の最も回転方向後方側に位置する外周刃逃げ面14eのボール刃部40側の境界線141に交わる。外周刃逃げ面14eとギャッシュ壁面6a及びギャッシュ底面6bとの間に凸の境界線141が表れるため、外周刃逃げ面14eはギャッシュ壁面6aとは異なる面をなし、ギャッシュ底面6bとも異なる面をなす。
【0064】
またギャッシュ底面6bとボール刃4のすくい面7との境界61(ギャッシュ6の溝底)は外周刃5のすくい面8のすくい面7側の境界線62とギャッシュ底面6b側の境界線63に交わる。境界線62はボール刃4のすくい面7と外周刃5のすくい面8との境界線であり、境界線63は外周刃5のすくい面8とギャッシュ底面6bとの境界線である。境界61は両境界線62、63の交点64に交わる。
【0065】
この結果、ギャッシュ壁面6aの外周刃部50側に少なくとも外周刃5の最も回転方向後方側に位置する外周刃逃げ面14eが連続し、ギャッシュ底面6bの外周刃部50側に外周刃逃げ面14eと外周溝面9aが連続する。外周刃逃げ面14eは境界線141を挟んでギャッシュ壁面6aとギャッシュ底面6bに切れ刃部2の周方向に跨り、ギャッシュ底面6bは境界線141と境界線63を挟んで外周刃逃げ面14eと外周溝面9aに切れ刃部2の周方向に跨る。境界61が境界線62、63の交点64に交わることで、ギャッシュ底面6bは境界線63を挟んで外周溝面9aと外周刃5のすくい面8にも跨る。「少なくとも外周刃逃げ面14e」であるから、ギャッシュ壁面6aの外周刃部50側には2面以上の外周刃逃げ面14e、14dが連続することもある。
【0066】
ボール刃4のすくい面7と外周刃5のすくい面8との境界線62は図3に示すようにボール刃4との交点65からシャンク部3側へ向かい、外周刃5のすくい面8とギャッシュ底面6bとの境界線63は境界91とギャッシュ底面6bとの交点66からシャンク部3側へ向かうため、境界線62と境界線63の交点64はギャッシュ6側から外周刃5のすくい面8側へ入り込んだ位置にある。境界線62と境界線63の交点64がすくい面8側へ入り込んだ状態にあることで、交点64には前記のようにボール刃4のすくい面7とギャッシュ底面6bとの境界61が交わり、ボール刃4のすくい面7が面するため、ボール刃4と外周刃5の少なくともいずれかが発生させた切り屑を直接、外周溝9へ排出させる分と、ギャッシュ6を経由させてから外周溝9へ排出させる分とに分散させることができる利点がある。
【0067】
前記のようにギャッシュ底面6bとボール刃4のすくい面7との境界61はギャッシュ6の溝底を形成し、外周溝面9aと外周刃5のすくい面8との境界91は外周溝9の溝底を形成する。このギャッシュ6の溝底61と外周溝9の溝底91は図1に示すようにボール刃4のすくい面7と外周刃5のすくい面8が正面に位置するように切れ刃部2を半径方向(回転軸Oに直交する方向)に見たときに、それぞれ回転軸Oに対して異なる角度α1、α2をなす。溝底61と回転軸Oとがなす角度α1は溝底91と回転軸Oとがなす角度α2より大きく、回転軸Oに直交する平面に対する溝底61の傾斜は溝底91の傾斜より緩くなっている。
【0068】
回転軸Oに直交する平面に対する溝底61の傾斜が溝底91の傾斜より緩いことで、図8図10に示す例よりボール刃4からのギャッシュ6の溝底61までの深さの最大値を小さくすることができている。この結果、図6に示すようにボール刃部40の回転軸Oに直交する断面で見たとき、ボール刃4のすくい面7におけるボール刃4を通る接線7Aとボール刃4の逃げ面10におけるボール刃4を通る接線10Aとが切れ刃部2の断面側(回転軸O側)になす角度θ1を鈍角にすることが可能になっている。同時に、ボール刃部40の四番面12が回転軸Oに関して外周側に向かって凸の曲面状に形成されることもあって、回転軸Oに直交する断面上、三番面11における四番面12との境界を通る接線11Aと、四番面12における三番面11との境界を通る接線12Aとが切れ刃部2の断面側(回転軸O側)になす角度θ2を平角に近付けることが可能になっている。
【0069】
また溝底61の傾斜が溝底91の傾斜より緩いことで、図6に示すように回転軸Oに直交する断面上、ギャッシュ壁面6aと四番面12におけるギャッシュ壁面6aとの境界を通る接線12Bとが切れ刃部2の断面側(回転軸O側)になす角度θ3を鈍角にすることも可能になっている。
【0070】
ボール刃部40における角度θ1が鈍角であることと、三番面11と四番面12とがなす角度θ2が平角に近いこと、並びに四番面12とギャッシュ壁面6aとがなす角度θ3が鈍角であることは、回転軸Oに直交する断面上、ボール刃部40の断面積(体積)を増大させ、ボール刃部40の剛性を高めることに寄与している。
【0071】
図面ではまた、図2図4に示すように回転軸Oに直交する断面上、ボール刃4のすくい面7をギャッシュ6側へ凸の面をなすように形成しているため、図6に示すようにギャッシュ底面6bにおけるすくい面7との境界を通る接線6Bとすくい面7におけるギャッシュ底面6bとの境界を通る接線7Bとがギャッシュ6側(回転軸Oの反対側)になす角度θ4が鈍角になっている。このギャッシュ底面6bとすくい面7とがなす角度θ4が鈍角であることは、ギャッシュ6内においてギャッシュ底面6bとすくい面7との間での切り屑の詰まりを発生しにくくする意味がある。
【0072】
外周溝9の回転方向前方側の面を構成する外周溝面9aは図3図5図7に示すように外周刃5の最も回転方向後方側に位置する外周刃逃げ面14eと異なる面をなしながら、外周刃逃げ面14eに連続することで、外周刃部50の外周刃逃げ面を兼ね、複数の外周刃逃げ面14a〜14eと共に、外周刃部50を回転軸Oに直交する断面上、多角柱状に形成する役目を果たしている。この点で、外周溝面9aが外周刃部50の外周刃逃げ面を兼ねることには、外周刃部50を側面数の多い多角柱形状に形成して円柱形状に近付け、外周刃部50と切れ刃部2の剛性を増す意味がある。
【符号の説明】
【0073】
1……ボールエンドミル、
2……切れ刃部、3……シャンク部、
O……回転軸、
40……ボール刃部、50……外周刃部、
20……切れ刃、4……ボール刃、5……外周刃、
6……ギャッシュ、6a……ギャッシュ壁面、6b……ギャッシュ底面、
61……ボール刃4のすくい面7とギャッシュ底面6bとの境界(ギャッシュ6の溝底)、
62……ボール刃4のすくい面7と外周刃5のすくい面8との境界線、
63……外周刃5のすくい面8とギャッシュ底面6bとの境界線、
64……境界線62と境界線63の交点、
65……境界線62とボール刃4との交点、
66……境界91とギャッシュ底面6bとの交点、
67……ギャッシュ壁面6aとギャッシュ底面6bとの境界、
68……四番面12とギャッシュ壁面6aとの境界線、
7……ボール刃のすくい面、8……外周刃のすくい面、
9……外周溝、9a……外周溝面、
91……すくい面8と外周溝面9aとの境界(外周溝9の溝底)、
α1……切れ刃部2を半径方向に見たときのギャッシュ6の溝底61と回転軸Oとがなす角度、
α2……切れ刃部2を半径方向に見たときの外周溝9の溝底91と回転軸Oとがなす角度、
10……ボール刃4の二番面、11……ボール刃4の三番面、12……ボール刃4の四番面、
6A……ギャッシュ壁面6aにおける四番面12との境界を通る接線、
6B……ギャッシュ底面6bにおけるすくい面7との境界を通る接線、
7A……ボール刃4のすくい面7におけるボール刃4を通る接線、
7B……すくい面7におけるギャッシュ底面6bとの境界を通る接線、
10A……ボール刃4の逃げ面10におけるボール刃4を通る接線、
11A……三番面11における四番面12との境界を通る接線、
12A……四番面12における三番面11との境界を通る接線、
12B……四番面12におけるギャッシュ壁面6aとの境界を通る接線、
θ1……接線7Aとボール刃4の逃げ面10、もしくは接線10Aとが切れ刃部2の断面側(回転軸O側)になす角度、
θ2……接線11Aと接線12Aとが切れ刃部2の断面側(回転軸O側)になす角度、
θ3……ギャッシュ壁面6aと接線12Bとが切れ刃部2の断面側(回転軸O側)になす角度、
θ4……すくい面7とギャッシュ底面6bとがギャッシュ6側(回転軸Oの反対側)になす角度、
13……外周刃の二番面、
14a〜14e……外周刃逃げ面、
141……外周刃逃げ面14eのボール刃部40側の境界線、
β1……外周刃5のねじれ角、β2……ボール刃4のねじれ角、
γ1……ボール刃4の軸方向すくい角、γ2……ボール刃4の径方向すくい角、
P……二番面10と三番面11との交線がギャッシュ6に面する点、
Q……三番面11と四番面12との交線が四番面12とギャッシュ壁面6aとの境界線68と交わる点。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11