(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2015-182903(P2015-182903A)
(43)【公開日】2015年10月22日
(54)【発明の名称】亜酸化銅前駆体
(51)【国際特許分類】
C01G 3/00 20060101AFI20150925BHJP
H05K 1/09 20060101ALI20150925BHJP
【FI】
C01G3/00
H05K1/09 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
【全頁数】6
(21)【出願番号】特願2014-58345(P2014-58345)
(22)【出願日】2014年3月20日
(71)【出願人】
【識別番号】000004503
【氏名又は名称】ユニチカ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】山田 宗紀
(72)【発明者】
【氏名】繁田 朗
(72)【発明者】
【氏名】細田 雅弘
(72)【発明者】
【氏名】越後 良彰
【テーマコード(参考)】
4E351
【Fターム(参考)】
4E351BB01
4E351DD33
4E351DD52
4E351EE01
4E351EE20
4E351EE24
4E351GG20
(57)【要約】
【課題】凝集しにくい亜酸化銅粒子分散体が得られる亜酸化銅前駆体を提供する。
【解決手段】フタル酸誘導体構造を有する化合物の1価銅塩からなる亜酸化銅前駆体。例えば、アミド系溶媒中、金属銅とフタル酸誘導体とを反応させることにより得られる。簡便に亜酸化銅粒子分散体を製造することができ、得られた亜酸化銅分散体は、凝集しにくいので、プリンタブルエレクトロニクスの分野で好適に用いることができる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
フタル酸誘導体構造を有する化合物の1価銅塩からなる亜酸化銅前駆体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、亜酸化銅前駆体に関するものである。この亜酸化銅前駆体から凝集しにくい亜酸化銅粒子が得られる。
【背景技術】
【0002】
亜酸化銅前駆体から得られる亜酸化銅粒子は、例えば、この分散体を、インクジェット法等で、基板上に印刷した配線用基板とした後、水素ガス等で還元して銅に変換することにより、配線用基板とすることができるので、プリンタブルエレクトロニクスの分野でその適用が期待されている。このような亜酸化銅粒子分散体の製造方法としては、マイクロエマルジョン法(例えば、特許文献1、2)、液相還元法(例えば、特許文献3、4)等が知られている。
【0003】
前記マイクロエマルジョン法は、酢酸等の1価銅塩を亜酸化銅前駆体として利用し、これに、ベンジルアミン、N−プロピルアミン等のアミンを添加し、これを、エタノール、2−メトキシエタノール等に溶解させて亜酸化銅前駆体溶液を作製し、次いで、界面活性剤と水とが疎水性溶媒中に分散したW/O型のマイクロエマルジョン溶液中で、前記亜酸化銅前駆体溶液を加水分解反応させることにより亜酸化銅粒子分散体を得ようとするものである。
【0004】
また、前記液相還元法は、水溶液中において、2価の銅カルボキシル化合物を亜酸化銅前駆体として利用し、これをヒドラジン等の還元剤を用いて還元して亜酸化銅粒子分散体を得ようとするものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2011−1213号公報
【特許文献2】特開平4−164812号公報
【特許文献3】特開2004−323568号公報
【特許文献4】特許第4716735号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、前記したマイクロエマルジョン法や液相還元法により得られた、酸化銅粒子は凝集しやすいという問題があった。
【0007】
そこで本発明は、上記課題を解決するものであって、凝集しにくい亜酸化銅粒子分散体が得られる亜酸化銅前駆体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
特定のカルボン酸誘導体構造を有する化合物を亜酸化銅前駆体とすることにより、前記課題が解決されることを見出し、本発明の完成に至った。
【0009】
本発明は下記を趣旨とするものである。
フタル酸誘導体構造を有する化合物の1価銅塩からなる亜酸化銅前駆体。
【発明の効果】
【0010】
本発明の亜酸化銅前駆体により、簡便に亜酸化銅粒子分散体を製造することができる。得られた亜酸化銅分散体は、凝集しにくいので、プリンタブルエレクトロニクスの分野で好適に用いることができる。
【0011】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0012】
本発明の亜酸化銅前駆体は、フタル酸誘導体構造を有する化合物(以下、「フタル酸誘導体」と略記することがある)の1価銅塩からなるものである。
【0013】
ここで、フタル酸誘導体とは、フタル酸類(フタル酸、テトラヒドロフタル酸、ヘキサヒドロフタル酸、フタル酸モノエステル、フタル酸モノアミド、テトラヒドロフタル酸モノエステル、テトラヒドロフタル酸モノアミド、ヘキサヒドロフタル酸モノエステル、ヘキサヒドロフタル酸モノアミド等)、芳香族テトラカルボン酸、芳香族テトラカルボン酸ジエステル、芳香族テトラカルボン酸ジアミド等を言う。これらのフタル酸誘導体は、フタル酸骨格の水素の一部がメチル基のようなアルキル基で置換されていてもよい。 前記フタル酸類のモノエステルとしては、前記フタル酸類のメチルエステル、エチルエステル、イソプロピルエステル等を挙げることができ、前記フタル酸類のフタル酸モノアミドとしては、前記フタル酸類のメチルアミド、エチルアミド、イソプロピルアミド等を挙げることができる。芳香族テトラカルボン酸としては、ピロメリット酸、3,3′,4,4′−ビフェニルテトラカルボン酸、3,3′,4,4′−ベンゾフェノンテトラカルボン酸、3,3′,4,4′−ジフェニルスルホンテトラカルボン酸、3,3′,4,4′−ジフェニルエーテルテトラカルボン酸、2,3,3′,4′−ベンゾフェノンテトラカルボン酸、2,3,6,7−ナフタレンテトラカルボン酸、1,4,5,7−ナフタレンテトラカルボン酸、1,2,5,6−ナフタレンテトラカルボン酸、3,3′,4,4′−ジフェニルメタンテトラカルボン酸、2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン、3,4,9,10−テトラカルボキシペリレン、2,2−ビス[4−(3,4−ジカルボキシフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2−ビス[4−(3,4−ジカルボキシフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン等を挙げることができる。芳香族テトラカルボン酸ジエステルとしては、前記芳香族テトラカルボン酸の二無水物1モルとアルコール2モルとを反応させて得られるテトラカルボン酸ジメチルエステル、テトラカルボン酸ジエチルエステル、テトラカルボン酸ジイソプロピルエステル、テトラカルボン酸ジフェニルエステル等を挙げることができる。芳香族テトラカルボン酸ジアミドとしては、テトラカルボン酸二無水物1モルと一級アミン2モルとを反応させて得られるテトラカルボン酸ジメチルアミド、テトラカルボン酸ジエチルアミド、テトラカルボン酸ジイソプロピルアミド、テトラカルボン酸ジフェニルアミド等を挙げることができる。また、例えば芳香族テトラカルボン酸と、ジアミンやジアルコールとを反応させて得られるポリアミック酸やポリエステル酸等のポリマやオリゴマもフタル酸誘導体として用いることができる。
前記したフタル酸誘導体は、単体もしくは混合物として用いることができ、フタル酸メチルエステル、フタル酸エチルエステル、ピロメリット酸ジメチルエステル、ピロメリット酸ジフェニルアミド、3,3′,4,4′−ビフェニルテトラカルボン酸ジメチルエステル、3,3′,4,4′−ビフェニルテトラカルボン酸ジフェニルアミドを好ましく用いることができる。
【0014】
本発明のフタル酸誘導体の銅塩は、例えば、アミド系溶媒中、金属銅とフタル酸誘導体とを反応させることにより得られる。反応に際しては、金属銅の使用量は、フタル酸誘導体に対し、塩を形成するための化学量論よりも大過剰とすることが好ましい。このようにすると、未反応の銅が反応系内に残留するが、濾別によりに反応系外に除去すればよい。
【0015】
前記アミド系溶媒としては、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)等を用いることができ、これらの中で、NMPが好ましい。
【0016】
前記金属銅の形状は、粒子状、箔状、線状等制限はないが、粒子状の金属銅が好ましく用いられる。粒子状の金属銅の粒径としては、体積基準の平均粒径で50〜500μm程度が好ましく、形状は球状であることが好ましい。
【0017】
前記した金属銅とフタル酸誘導体とを反応させる際の反応温度としては、100℃以上が好ましく、150℃以上とすることがより好ましい。
【0018】
アミド系溶媒中、金属銅とフタル酸誘導体構造を有する化合物とを100℃以上の温度で反応させると、フタル酸誘導体中のカルボン酸の作用で金属銅がイオン化され、本発明のフタル酸誘導体の1価銅塩が形成される。ここで、さらに、反応を続けると、フタル酸誘導体が、水やアルコールを発生しつつ環化して、フタル酸無水物、フタル酸のイミド誘導体、芳香族テトラカルボン酸二無水物、芳香族テトラカルボン酸のジイミド誘導体に変換され、アミド溶媒中に溶解するとともに、銅塩中の銅イオンは、微粒子状の亜酸化銅に変換され、アミド溶媒中に凝集することなく分散された状態となり、亜酸化銅粒子分散体が得られる。ここで、生成した銅粒子が凝集しているか否かは、例えば、走査型電子顕微鏡(SEM)や透過型電子顕微鏡(TEM)で観察することにより確認することができる。なお、このプロセスにおいては、フタル酸誘導体は、これが環化した際、アミド系溶媒に溶解するようなフタル酸誘導体を用いることが好ましい。
【0019】
前記の如くして得られた亜酸化銅粒子の粒径としては、体積基準の平均粒径で200nm以下であることが好ましく、100nm以下であることがさらに好ましい。ここで、体積基準の平均粒径は、例えば、レーザ回折を利用した粒度分布計で確認することができる。
【0020】
前記のようにして得られた亜酸化銅粒子分散体は、これを濾別して乾燥することにより亜酸化銅粒子とすることもできる。
【0021】
以上述べたように、本発明の亜酸化銅前駆体からは、簡単なプロセスで、凝集しにくい亜酸化銅粒子分散体が得られる。
【実施例】
【0022】
以下、実施例に基づき本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0023】
[実施例1]
平均粒径が70μmの球状銅粒子10gとフタル酸メチルエステル5gとを100ccの脱水したNMPに分散させた。これを、乾燥窒素ガス雰囲気下、撹拌しつつ、150℃で2時間反応させて、1価銅塩を生成させた。これを更に190℃で3時間反応させることにより、フタル酸メチルエステルを無水フタル酸に変換させるとともに、亜酸化銅粒子を形成させた。冷却後、未反応で残っている球状銅粒子を濾別して、レーザ回折法で測定した平均粒径が80nmの亜酸化銅粒子のNMP分散体を得た。この分散体をガラスプレートに滴下してSEM像を観察した所、粒子が凝集性の低いものであることを確認した。
【0024】
[実施例2]
フタル酸メチルエステル5gをピロメリット酸ジフェニルアミド5gとしたこと以外は、実施例1と同様にして反応させることにより、ピロメリット酸ジフェニルアミドをピロメリット酸ジフェニルイミドに変換させるとともに、亜酸化銅粒子を形成させ、平均粒径が120nmの凝集性が低い亜酸化銅粒子のNMP分散体を得た。
【0025】
[実施例3]
フタル酸ジメチルエステル5gを3,3′,4,4′−ビフェニルテトラカルボン酸ジメチルエステル5gとしたこと以外は、実施例1と同様にして平均粒径が150nmの凝集性が低い亜酸化銅粒子のNMP分散体を得た。
【0026】
[比較例1]
フタル酸メチルエステル5gをイソフタル酸ジメチルエステル5gとしたこと以外は実施例1と同様に行ったが、亜酸化銅粒子のNMP分散体を得ることはできなかった。
【0027】
[比較例2]
フタル酸メチルエステル5gをテレフタル酸ジメチルエステル5gとしたこと以外は実施例1と同様に行ったが、亜酸化銅粒子のNMP分散体を得ることはできなかった。
【0028】
[比較例3]
フタル酸メチルエステル5gをイソフタル酸5gとしたこと以外は、実施例1と同様に行ったが、亜酸化銅粒子分散体を粉体として得ることはできなかった。
【0029】
[比較例4]
フタル酸メチルエステル5gを安息香酸メチルエステル5gとしたこと以外は、実施例1と同様に行ったが、亜酸化銅粒子分散体を粉体として得ることはできなかった。
【0030】
実施例で示した様に、本発明の亜酸化銅前駆体を用いることにより、簡単なプロセスで容易に凝集しにくい亜酸化銅粒子分散体を得ることができる。