【課題】保存安定性に優れ長期間に亘って析出等を生じにくい上、特にデキャップタイムにインクジェットプリンタのノズルで目詰まりを生じにくい有機溶剤リッチのヒートレスタイプのインクジェットインクを提供する。
【解決手段】炭素数1〜4のアルコール、当該アルコールと相溶性を有する高沸点溶剤、および油溶性染料に、さらにアミノカルボン酸の塩であってカルボン酸基以外に少なくとも1つの水酸基を有するキレート剤を配合した。
【背景技術】
【0002】
例えばプラスチックフィルム等の非吸収性の被印刷体の表面に、インクジェット印刷法によって印刷をする場合は、印刷したインクジェットインクを加熱して乾燥させるのが一般的である。
しかし近時、溶剤として炭素数1〜4のアルコールなどの有機溶剤のみを使用するか、もしくは溶剤として水を併用する場合は水より有機溶剤を多くすることで、いわゆる有機溶剤リッチの状態として速乾性を付与して加熱乾燥工程を省略可能とした、HEATLESSINK(登録商標)等のインクジェットインクについて種々検討されている。
【0003】
しかし有機溶剤リッチのインクジェットインクは保存時の安定性が低く析出を生じやすい、印刷のデキャップタイムにインクジェットプリンタのノズルで目詰まりを生じて印刷再開時にかすれ等を生じやすいといった問題がある。
これは、有機溶剤リッチのインクジェットインクが上記のように速乾性であることや、あるいは着色剤として使用する油溶性染料等の有機溶剤可溶の染料の多くが金属元素を含み、かかる金属元素が乾燥などによって析出しやすいことが原因と考えられる。
【0004】
なおデキャップタイムとは、インクジェットプリンタに複数設けられたノズルのうち、印刷パターンに応じてインクが吐出されない待機状態とされたノズル内のインクジェットインクが外気にさらされている時間を指す。
インクジェットプリンタには通常、その運転停止時にノズル内のインクジェットインクが外気にさらされることで乾燥して目詰まり等を生じたりしないように、ノズルを閉じる(キャップする)機能が付与されているのが一般的である。
【0005】
しかし印刷時にはかかるキャップは解除されているため、待機状態のノズルは次にインクが吐出されるまでの間、ノズルが閉じられない状態(デキャップの状態)が続き、その間、ノズル内のインクジェットインクは外気とさらされ続けることになるため、かかる時間、つまりデキャップタイムが長いほど目詰まり等を生じやすくなる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明は、炭素数1〜4のアルコール、および当該アルコールと相溶性を有する高沸点溶剤の2種の溶剤、油溶性染料、ならびにアミノカルボン酸の塩であってカルボン酸基以外に少なくとも1つの水酸基を有するキレート剤を含むインクジェットインクである。
〈キレート剤〉
キレート剤としては、上記のようにアミノカルボン酸の塩であってカルボン酸基以外に少なくとも1つの水酸基を有するキレート剤が選択して使用される。
【0013】
かかるキレート剤としては、例えば式(1):
【0015】
〔式中、R
1〜R
3のうちの1つまたは2つ式(a):
−C
rH
2rCOOM (a)
(式中Mはアルカリ金属を示し、rは1〜10の数を示す。)
で表される同一または異なるカルボン酸塩基、他は式(b):
−C
nH
2nOH (b)
(式中nは1〜10の数を示す。)
で表される同一または異なるヒドロキシアルキル基を示す。〕
で表される化合物、
および式(2):
【0017】
〔式中、R
4〜R
7のうちの1つ、2つ、または3つは前記式(a)で表される同一または異なるカルボン酸塩基、他は前記式(b)で表される同一または異なるヒドロキシアルキル基を示し、mは1〜5の数を示す。〕
で表される化合物からなる群より選ばれた少なくとも1種が好適に使用される。
上記式(1)、式(2)のキレート剤において、式(a)中のMに相当するアルカリ金属としてはLi、Na、Kが挙げられ、特にNaが好ましい。
【0018】
また金属元素を捕捉する機能を向上することを考慮すると、式(a)中のr、式(b)中のn、および式(2)中のmは、それぞれの範囲でも小さいほど好ましい。
また炭素数1〜4のアルコールに対する溶解性を向上することを考慮すると、式(1)のキレート剤においては、式(b)のヒドロキシアルキル基の数が1つよりも2つが好ましい。
【0019】
式(1)のキレート剤の具体例としては、例えば下記式(3)および(4)で表される化合物のうちの少なくとも一方が挙げられる。
【0021】
また式(2)のキレート剤の具体例としては、例えば下記式(5)で表される化合物が挙げられる。
【0023】
このうち溶剤に対する溶解性の点で、式(3)で表されるジヒドロキシエチルグリセリンのナトリウム塩(DHEG・Na)が好ましい。
すなわち式(4)で表されるヒドロキシエチルイミノジ酢酸のナトリウム塩(HIDA・Na)、および式(5)で表されるヒドロキシエチルエチレンジアミントリ酢酸のナトリウム塩(HEDTA・Na)は、炭素数1〜4のアルコールには直接に溶解できないものの、水に溶解した状態で炭素数1〜4のアルコールを加えると、析出(白濁)せずに溶解した状態を維持できる溶解性を有している。
【0024】
これに対し式(3)のDHEG・Naは、炭素数1〜4のアルコールに直接に溶解できる高い溶解性を有している。
式(3)のDHEG・Naと式(4)のHIDA・Naの溶解性の相違は、先に説明したように式(b)のヒドロキシアルキル基の数に由来する。
上記キレート剤はいずれか1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0025】
キレート剤の配合割合は、インクジェットインクの総量中の0.05質量%以上、特に0.1質量%以上であるのが好ましく、5質量%以下、特に3質量%以下であるのが好ましい。
キレート剤の配合割合がこの範囲未満では、当該キレート剤を配合することによる、保存安定性を向上して長期間に亘って析出等を生じにくくしたり、特にデキャップタイムにインクジェットプリンタのノズルで目詰まりを生じにくくしたりする効果が十分に得られないおそれがある。
【0026】
一方、キレート剤の配合割合が上記の範囲を超える場合には、有機溶剤リッチとしているにも拘らずインクジェットインクの乾燥性が低下するおそれがある。
〈溶剤〉
溶剤としては炭素数1〜4のアルコール、および当該アルコールと相溶性を有する高沸点溶剤の2種を併用する(2種以上のアルコールおよび/または2種以上の高沸点溶剤を併用する場合を含む)。さらに水を加えて3種の併用系としてもよい。多くのインクジェットプリンタのノズルは親水加工が施されているため、インクジェットインクに少量の水を配合して水性を帯びさせることにより、かかる親水加工を施したノズルからの吐出を安定させることができる。
【0027】
(炭素数1〜4のアルコール)
炭素数1〜4のアルコールとしては、例えばメタノール、エタノール、1−プロパノール(n−プロピルアルコール)、2−プロパノール(イソプロピルアルコール)、1−ブタノール(n−ブチルアルコール)、2−ブタノール(sec−ブチルアルコール)、イソブチルアルコール、およびtert−ブチルアルコールからなる群より選ばれた少なくとも1種が挙げられる。特に汎用性や安全性、あるいは環境に対する負荷を低減する効果の点でエタノールが好ましい。
【0028】
(高沸点溶剤)
高沸点溶剤としては、上記炭素数1〜4のアルコールと相溶性を有し、かつ当該アルコールよりも沸点の高い溶剤がいずれも使用可能である。特に沸点が120℃以上、200℃以下程度の溶剤が高沸点溶剤として好ましい。
かかる高沸点溶剤を配合することでインクジェットインクの乾燥速度や粘度等を、インクジェット印刷に適した範囲に調整できる。
【0029】
高沸点溶剤としては、例えばシクロヘキサノン等のケトン類、ジメチルスルホキシド、ベンジルアルコール、グリコールエーテル、アルキルジオール、ピロリドン等の1種または2種以上が挙げられる。
(配合割合)
炭素数1〜4のアルコールと高沸点溶剤の2種の併用系では、高沸点溶剤の配合割合は、上記2種の溶剤の総量中の1質量%以上、特に3質量%以上であるのが好ましく、15質量%以下、特に12質量%以下であるのが好ましい。
【0030】
高沸点溶剤の配合割合がこの範囲未満では、当該高沸点溶剤を配合することによる、先に説明したインクジェットインクの乾燥速度や粘度等をインクジェット印刷に適した範囲に調整する効果が十分に得られないおそれがある。
一方、高沸点溶剤の配合割合が上記の範囲を超える場合には、相対的に炭素数1〜4のアルコールの割合が少なくなって、インクジェットインクの速乾性が低下するおそれがある。
【0031】
一方、炭素数1〜4のアルコール、高沸点溶剤、および水の3種の併用系では、有機溶剤リッチのインクジェットインクとするため、水の配合割合は、上記3種の溶剤の総量中の25質量%以下であるのが好ましい。
水の配合割合がこの範囲を超える場合には、インクジェットインクの乾燥性が低下するおそれがある。また油溶性染料の溶解性が低下してインクジェットインクの保存安定性が低下するおそれもある。これに対し水の配合割合を25質量%以下とすることにより、インクジェットインクの乾燥性、保存安定性を向上できる。
【0032】
なお、かかる効果をさらに向上することを考慮すると、水の配合割合は、上記の範囲でも10質量%以下、特に5質量%以下であるのが好ましい。
ただし水を配合することによる、先に説明した、インクジェットインクに水性を帯びさせて、親水加工を施したノズルからの吐出を安定させる効果を良好に発現させることを考慮すると、当該水の配合割合は、上記の範囲でも1質量%以上であるのが好ましい。
【0033】
また高沸点溶剤の配合割合は、上記3種の溶剤の総量中の5質量%以上、特に8質量%以上であるのが好ましく、15質量%以下、特に12質量%以下であるのが好ましい。
高沸点溶剤の配合割合がこの範囲未満では、当該高沸点溶剤を配合することによる、先に説明したインクジェットインクの乾燥速度や粘度等をインクジェット印刷に適した範囲に調整する効果が十分に得られないおそれがある。
【0034】
一方、高沸点溶剤の配合割合が上記の範囲を超える場合には、相対的に炭素数1〜4のアルコールの割合が少なくなって、有機溶剤リッチであるにも拘らずインクジェットインクの速乾性が低下するおそれがある。
〈油溶性染料〉
油溶性染料としては、炭素数1〜4のアルコールに対する溶解性を有する種々の油溶性染料が使用可能である。
【0035】
油溶性染料は、インクジェットインクの色目および色濃度に応じて1種または2種以上を適宜の割合で用いることができる。
油溶性染料の具体例としては、下記の各種染料が挙げられる。
(イエロー)
C.I.ソルベントイエロー2、14、15、16、21、56、79、151;保土谷化学工業(株)製のAIZEN(登録商標)シリーズのうちS.B.N. Yellow 543、SPILON(登録商標) Yellow C−GNH、SPILON Yellow C−2GH;オリエント化学工業(株)製のOplas(登録商標)Yellow 140;中央合成化学(株)製のAlcohol Yellow Y−10、Oil Yellow CH;三菱化学(株)製のDIARESIN(登録商標)Yellow L3G
(マゼンタ)
C.I.ソルベントレッド1、3、8、23、24、25、27、49、91、122、124、218、C.I.ディスパーズレッド9;オリエント化学工業(株)製のOrient Oil Pink OP、SPIRIT Red 102、VALIFAST(登録商標)シリーズのうちRed 1308、Red 1355、Red 2303;保土谷化学工業(株)製のAIZENシリーズのうちSPILONFiery Red BH(C.I.ソルベントレッド81)、SPILON Red C−GH、SPILON Red C−BH、SPILON Pink BH(C.I.ソルベントレッド82)、SPILON Violet ECH(C.I.ソルベントバイオレット27);中央合成化学(株)製のAL Red 2308、Alcohol Pink P−30
(シアン)
C.I.ソルベントブルー5、11、12、38、44、55、70、73、オリエント化学工業(株)製のOrient Oil Blue 603、VALIFAST Blue 2604、保土谷化学工業(株)製のAIZENシリーズのうちSPILON Blue C−RH、GNH、S.P.T. Blue 121;中央合成化学(株)のAlcohol Blue B−10
(ブラック)
C.I.ソルベントブラック3、5、7、27、28、29
(オレンジ)
C.I.ソルベントオレンジ1、2、5、6、11、14、41、45、62
(グリーン)
C.I.ソルベントグリーン3
(ブラウン)
C.I.ソルベントブラウン3
(バイオレット)
保土谷化学工業(株)製のAIZENシリーズのうちSPILON Violet C−RH
〈フッ素系界面活性剤〉
本発明のインクジェットインクには、さらにフッ素系界面活性剤を配合してもよい。フッ素系界面活性剤を配合することで、インクジェットインクの、プラスチックフィルム等の非吸収性の被印刷体の表面に対する濡れ性、親和性を調整したり、インクジェットプリンタのノズルに対する濡れ性を調整したりできる。
【0036】
フッ素系界面活性剤としては、フッ素系アニオン系界面活性剤、およびフッ素系ノニオン系界面活性剤からなる群より選ばれた少なくとも1種が挙げられる。
このうちフッ素系アニオン系界面活性剤としては、例えばデュポン(株)製のゾニールFSE、FSP、TBS、FS−62、FSA等の1種または2種以上が挙げられる。中でも特にゾニールFSEが好ましい。
【0037】
またフッ素系ノニオン系界面活性剤としては、例えばデュポン(株)製のゾニールFS−300、FSO、FSN等の1種または2種以上が挙げられる。中でも特にゾニールFS−300が好ましい。
フッ素系界面活性剤の配合割合は、インクジェットインクの総量中の0.1質量%以上であるのが好ましく、1質量%以下であるのが好ましい。
【0038】
〈その他の成分〉
本発明のインクジェットインクには、さらに従来公知の各種添加剤を配合してもよい。かかる添加剤としては、例えば防かび剤、殺生剤等が挙げられる。その配合割合は、それぞれインクジェットインクの総量中の0.1質量%以上であるのが好ましく、1質量%以下であるのが好ましい。
【0039】
本発明のインクジェットインクは、例えばサーマル方式、ピエゾ方式等の、いわゆるオンデマンド型のインクジェットプリンタに好適に使用できる他、インクを循環させながらインク滴を形成して印刷をする、いわゆるコンティニュアス型のインクジェットプリンタにも使用可能である。
特に、上記各種方式のインクジェットプリンタを用いたインクジェット印刷により、プラスチックフィルム等の非吸収性の被印刷体の表面に印刷するために好適に用いることができる。
【0040】
そしてかかる非吸収性の被印刷体の表面に、乾燥性や密着性に優れた文字や図柄等を印刷することができる。
【実施例】
【0041】
〈実施例1〉
キレート剤としては、式(3)で表されるDHEG・Naを用いた。また溶剤としては、アルコールのうちエタノール、高沸点溶剤としてのシクロヘキサノン、および超純水を用いた。さらに油溶性染料としてはC.I.ソルベントブラック29を用い、フッ素系界面活性剤としてはフッ素系アニオン系界面活性剤であるデュポン(株)製のゾニールFSEを用いた。
【0042】
上記の各成分を下記の質量部で配合したのち、5μmのメンブランフィルタを用いてろ過してインクジェットインクを調製した。
【0043】
【表1】
【0044】
〈実施例2〉
油溶性染料として、C.I.ソルベントブラック29に代えて4質量部のC.I.ソルベントブルー5を配合するとともに、エタノールの量を82.5質量部としたこと以外は実施例1と同様にしてインクジェットインクを調製した。
〈実施例3〉
フッ素系界面活性剤として、フッ素系アニオン系界面活性剤に代えてフッ素系ノニオン系界面活性剤としてのデュポン(株)製のゾニールFS−300を同量配合したこと以外は実施例1と同様にしてインクジェットインクを調製した。
【0045】
〈実施例4〉
DHEG・Naの量を0.05質量部とするとともに、エタノールの量を81.45質量部としたこと以外は実施例1と同様にしてインクジェットインクを調製した。
〈実施例5〉
DHEG・Naの量を0.1質量部とするとともに、エタノールの量を81.4質量部としたこと以外は実施例1と同様にしてインクジェットインクを調製した。
【0046】
〈実施例6〉
DHEG・Naの量を3質量部とするとともに、エタノールの量を78.5質量部としたこと以外は実施例1と同様にしてインクジェットインクを調製した。
〈実施例7〉
DHEG・Naの量を5質量部とするとともに、エタノールの量を76.5質量部としたこと以外は実施例1と同様にしてインクジェットインクを調製した。
【0047】
〈実施例8〉
超純水を配合せず、かつフッ素系アニオン系界面活性剤に代えてフッ素系ノニオン系界面活性剤としてのデュポン(株)製のゾニールFS−300を同量配合するとともに、エタノールの量を82.5質量部としたこと以外は実施例1と同様にしてインクジェットインクを調製した。
【0048】
〈実施例9〉
超純水の量を10質量部とするとともに、エタノールの量を72.5質量部としたこと以外は実施例1と同様にしてインクジェットインクを調製した。
〈実施例10〉
超純水の量を20質量部とするとともに、エタノールの量を62.5質量部としたこと以外は実施例1と同様にしてインクジェットインクを調製した。
【0049】
〈実施例11〉
DHEG・Naに代えて式(4)で表されるHIDA・Naを使用し、1質量部のHIDA・Naをまず5質量部の超純水に溶解したのち77.5質量部のエタノールを加えたところ析出(白濁)せずに溶解した状態を維持することができた。次いでこの溶液に10質量部のシクロヘキサノン、6質量部のC.I.ソルベントブラック29、および0.5質量部の、実施例1で使用したのと同じフッ素系アニオン系界面活性剤を配合してインクジェットインクを調製した。
【0050】
〈実施例12〉
DHEG・Naに代えて式(5)で表されるHEDTA・Naを使用し、1質量部のHEDTA・Naをまず5質量部の超純水に溶解したのち77.5質量部のエタノールを加えたところ、やはり析出(白濁)せずに溶解した状態を維持することができた。次いでこの溶液に10質量部のシクロヘキサノン、6質量部のC.I.ソルベントブラック29、および0.5質量部の、実施例1で使用したのと同じフッ素系アニオン系界面活性剤を配合してインクジェットインクを調製した。
【0051】
〈比較例1〉
DHEG・Naを配合せず、かつエタノールの量を81.5質量部としたこと以外は実施例1と同様にしてインクジェットインクを調製した。
〈比較例2〉
DHEG・Naに代えて、同量のジヒドロキシエチルグリセリン(Na塩になっていないもの、DHEG)を配合したが、当該DHEGは炭素数1〜4のアルコールに対する溶解性を有しない、すなわち炭素数1〜4のアルコールには直接に溶解できない上、水に溶解した状態で炭素数1〜4のアルコールを加えると析出(白濁)して溶解した状態を維持できないものであるため、インクジェットインクを調製することはできなかった。
【0052】
〈比較例3〉
DHEG・Naに代えて、同量のEDTAを配合したが、当該EDTAも、上記DHEGと同様に炭素数1〜4のアルコールに対する溶解性を有しないものであるため、インクジェットインクを調製することはできなかった。
〈比較例4〉
油溶性染料に代えて、粒状で溶剤に不溶のレーキ染料(食用青色2号)7質量部を配合するとともに、DHEG・Naを配合しなかったこと以外は実施例1と同様にしてインクジェットインクを調製した。
【0053】
〈保存安定性評価〉
上記実施例1〜12、比較例1、2で調製したインクジェットインクを60℃で1週間保管したのち状態を観察して、下記の基準で保存安定性を評価した。
○:析出は全く見られなかった。保存安定性良好。
×:析出が見られた。保存安定性不良。
【0054】
〈吐出性評価〉
上記実施例1〜12、比較例1、2で調製したインクジェットインクをサーマル方式のインクジェットプリンタ〔ヒューレットパッカード社製のDeskJet(登録商標)6127〕に使用して、インク滴が吐出されない状態でノズル内のインクジェットインクが外気にさらされているデキャップタイムの長さを変えながら、当該デキャップタイムの終了直後にノズルの目詰まり等を生じることなく明瞭な印刷が可能であったか否かを監察して、下記の基準で吐出性を評価した。
【0055】
○:デキャップタイムが10分間以上でも明瞭な印刷が可能であった。吐出性良好。
△:デキャップタイムが1分間以上、10分間未満であれば明瞭な印刷が可能であった。吐出性通常レベル。
×:デキャップタイムが1分間未満でないと明瞭な印刷ができなかった。吐出性不良。
〈乾燥性評価〉
上記実施例1〜12、比較例1、2で調製したインクジェットインクをサーマル方式のインクジェットプリンタ〔ヒューレットパッカード社製のDeskJet(登録商標)6127〕に使用してナイロンフィルムの表面に印刷をし、直後に紙で押さえたのち引き離した状態を観察して、下記の基準で乾燥性を評価した。
【0056】
○:紙に色移りはしていなかった。また印刷にも影響は見られなかった。乾燥性良好。
△:ごく僅かに、紙に色移りが見られたが。印刷には影響は見られなかった。乾燥性通常レベル。
×:大幅に紙に色移りしており、印刷にも影響が見られた。乾燥性不良。
〈密着性評価〉
上記実施例1〜12、比較例1、2で調製したインクジェットインクをサーマル方式のインクジェットプリンタ〔ヒューレットパッカード社製のDeskJet(登録商標)6127〕に使用してナイロンフィルムの表面に印刷をして1日静置した後、印刷上にセロハンテープを貼り付けたのち引き剥がした状態を監察して、下記の基準で密着性を評価した。
【0057】
○:印刷は剥離しなかった。密着性良好。
×:印刷は剥離した。密着性不良。
以上の結果を表2〜表4に示す。
【0058】
【表2】
【0059】
【表3】
【0060】
【表4】
【0061】
表2〜表4の実施例1〜12、比較例1〜3の結果より、炭素数1〜4のアルコールを含む有機溶剤リッチのヒートレスタイプのインクジェットインクに、上記アルコールに対する溶解性を有する特定のキレート剤を配合することで、かかるインクジェットインクの保存安定性を向上して長期間に亘って析出等を生じにくくできるとともに、デキャップタイムにインクジェットプリンタのノズルでの目詰まりを生じにくくできることが判った。
【0062】
また実施例1〜12、比較例4の結果より、保存安定性や非吸収性の被印刷体に対する密着性に優れた印刷をするためには、染料として油溶性染料を用いる必要があることが判った。
実施例1、4〜7の結果より、上記特定のキレート剤の配合割合は、インクジェットインクの総量中の0.05質量%以上、特に0.1質量%以上であるのが好ましく、5質量%以下、特に3質量%以下であるのが好ましいことが判った。
【0063】
実施例1、8の結果より、上記特定のキレート剤を用いると、溶剤として水を含む系、含まない系のいずれでも同等の効果が得られることが判った。
実施例1、9、10の結果より、溶剤として水を含む3種の溶剤の併用系では、当該水の配合割合は、3種の溶剤の総量中の25質量%以下、中でも10質量%以下、特に5質量%以下であるのが好ましく、1質量%以上であるのが好ましいことが判った。
【0064】
さらに実施例1、2の結果より、油溶性染料としては任意の色味の油溶性染料が使用可能であること、実施例1、3の結果より、界面活性剤としてはアニオン系界面活性剤、ノニオン系界面活性剤がいずれも使用可能であることが判った。
そして実施例1、11、12の結果より、キレート剤としては、式(3)〜(5)で表される化合物がいずれも使用可能であること、中でも式(3)で表されるDHEG・Naが、溶剤に対する溶解性の点で好ましく、保存安定性を向上したり、水の量を少なくして乾燥性や密着性を向上したりできることが判った。