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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2015-183241(P2015-183241A)
(43)【公開日】2015年10月22日
(54)【発明の名称】薄膜製造方法
(51)【国際特許分類】
   C23C 14/40 20060101AFI20150925BHJP
   H01L 21/318 20060101ALI20150925BHJP
【FI】
   C23C14/40
   H01L21/318 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2014-61355(P2014-61355)
(22)【出願日】2014年3月25日
(71)【出願人】
【識別番号】505402581
【氏名又は名称】株式会社イー・エム・ディー
(74)【代理人】
【識別番号】110001069
【氏名又は名称】特許業務法人京都国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】西川 正純
(72)【発明者】
【氏名】江部 明憲
【テーマコード(参考)】
4K029
5F058
【Fターム(参考)】
4K029AA04
4K029AA24
4K029BA58
4K029CA06
4K029CA13
4K029DC03
4K029DC16
4K029DC34
4K029DC35
4K029DC40
5F058BB10
5F058BC02
5F058BC08
5F058BD04
5F058BD10
5F058BF12
5F058BF13
5F058BF15
5F058BJ03
(57)【要約】
【課題】半導体薄膜に与えるダメージを抑えつつ、半導体薄膜の表面に他の材料から成る薄膜をスパッタ法により製膜する方法を提供する。
【解決手段】真空容器11内に、前記半導体薄膜を有する基板SとターゲットTを対向させて配置し、ターゲットTの表面近傍に、高周波アンテナ16による誘導結合プラズマ生成用高周波電磁界を用いて誘導結合プラズマを生成すると共に、基板SとターゲットTの間にバイアス電界を直流電源15により生成する。これにより、従来の方法よりもプラズマ密度を高めることができ、従来と同じ製膜速度でもバイアス電界をより弱くすることができる。そのため、スパッタ粒子や、スパッタターゲットに跳ね返された荷電粒子のエネルギーが小さくなり、それらの粒子が基板Sの半導体薄膜に与えるダメージを抑えることができる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1材料から成る半導体薄膜である第1薄膜上に、該半導体とは異なる第2材料から成る第2薄膜を製造する方法であって、真空容器内に前記第1薄膜と、前記第2材料のスパッタターゲットを対向させて配置したうえで、
a) 前記スパッタターゲットの表面近傍に、誘導結合プラズマ生成用高周波電磁界を用いて誘導結合プラズマを生成し、
b) 前記誘導結合プラズマ中の荷電粒子を前記スパッタターゲットの表面に向けて加速するバイアス電界を前記第1薄膜と該スパッタターゲットの間に生成する
処理を同時に行うことにより、前記スパッタターゲットをスパッタして前記第1薄膜の表面に堆積させるスパッタ製膜工程を有することを特徴とする薄膜製造方法。
【請求項2】
前記誘導結合プラズマ生成用高周波電磁界が、巻数が1回未満の線状導体から成る高周波アンテナにより生成されることを特徴とする請求項1に記載の薄膜製造方法。
【請求項3】
前記高周波アンテナを複数個備えることを特徴とする請求項2に記載の薄膜製造方法。
【請求項4】
更に、前記誘導結合プラズマ生成用高周波電磁界及び前記バイアス電界以外の電界又は磁界を用いて、前記第1薄膜と前記スパッタターゲットの間にプラズマを生成することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の薄膜製造方法。
【請求項5】
前記磁界がマグネトロンスパッタ装置を用いて生成されることを特徴とする請求項1〜3のいずれか4に記載の薄膜製造方法。
【請求項6】
前記マグネトロンスパッタ装置を複数個用いることを特徴とする請求項5に記載の薄膜製造方法。
【請求項7】
前記第1薄膜の表面近傍に、前記誘導結合プラズマ生成用高周波電磁界とは異なる第1薄膜活性化用高周波電磁界を生成することを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の薄膜製造方法。
【請求項8】
前記第1薄膜活性化用高周波電磁界が、巻数が1回未満の線状導体から成る第2高周波アンテナにより生成されることを特徴とする請求項7に記載の薄膜製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薄膜製造方法に関し、特に、半導体薄膜の表面に他の材料から成る薄膜を作製する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アモルファスシリコンの10倍(10cm2/Vs)以上という高いキャリア移動度を有する半導体薄膜として、アモルファスのIGZO(InGaZnOx、以下では「α-IGZO」とする)が知られている。α-IGZOを薄膜トランジスタ(以下では「α-IGZO-TFT」とする)のチャネルに用いると、消費電力を低くすることができる。また、α-IGZOは可視光に対して透明であるため、α-IGZO-TFTを液晶ディスプレイにおける各画素のON/OFF素子として用いることにより、アモルファスシリコンと比較して開口率が高まり、画面をより明るくすることができると共に、同じ明るさでは画素をより小さくすることができるため、画像をより高精細化することができる。
【0003】
特許文献1にはスパッタ法を用いてα-IGZO薄膜を作製することが記載されている。この方法では、Ar(アルゴン)等をプラズマ化することにより生成される荷電粒子がターゲットに衝突し、それによってターゲットがスパッタされて基板上に堆積することにより、ターゲットと同一組成のα-IGZO薄膜が生成される。これにより、電子ビーム蒸着法やパルスレーザー蒸着法等の方法を用いるよりも、高速で且つ大面積の製膜が可能である。α-IGZO薄膜を作製した後、α-IGZO薄膜を保護するために、その表面にパッシベーション膜を形成する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開WO2010/032386号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の発明では、パッシベーション膜は、CVD法を用いて、窒化シリコン(SiNx)又は酸化シリコン(SiOx)から成るものを形成している。その際、原料としてシラン(SiHx)ガスを用いるため、当該ガスの分子に含有される水素原子がα-IGZO薄膜中に混入し、それにより、α-IGZO-TFTの閾値電圧が設計値からずれてしまう、という問題が生じる。
【0006】
パッシベーション膜をスパッタ法で作製すれば、(i)α-IGZO薄膜と同じ装置で作製することができるうえに、(ii)シランガス等の水素原子を含有するガスを使用する必要が無いためα-IGZO-TFTの特性の低下を防止することができる。しかしながら、窒化シリコンや酸化シリコンをスパッタターゲットとして用いると、単体のシリコンよりもスパッタされ難いためバイアス電圧を高くしなければならない。それによりプラズマ生成ガス由来の荷電粒子や、ターゲットからスパッタされた粒子が有するエネルギーが高くなるため、α-IGZO薄膜にダメージを与えてしまう。一方、スパッタターゲットとして金属シリコンを用い、生じたスパッタ粒子を窒素プラズマと反応させることにより窒化シリコン膜を生成する反応性スパッタを行う場合には、初期の段階では、窒化シリコンのスパッタターゲットをスパッタする場合よりもバイアス電圧を低くすることができる。しかし、徐々にスパッタターゲットが窒化してゆくことによりスパッタターゲットがスパッタされ難くなり、バイアス電圧を高くしなければならなくなる。このため、結局は窒化シリコンのスパッタターゲットを用いる場合と同様の問題が生じる。
【0007】
以上、α-IGZO-TFTに窒化シリコン又は酸化シリコンの薄膜を形成する場合を例として、スパッタ法における問題点を例に説明したが、この問題点は、アモルファスシリコンを用いたTFT等でも同様であり、ダメージに敏感なTFT等の半導体薄膜の表面に他の材料から成るパッシベーション膜等の薄膜をスパッタ法により製膜する際に共通して生じる。
【0008】
本発明が解決しようとする課題は、半導体薄膜に与えるダメージを抑えつつ、半導体薄膜の表面に他の材料から成る薄膜をスパッタ法により製膜する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために成された本発明に係る薄膜製造方法は、第1材料から成る半導体薄膜である第1薄膜上に、該半導体とは異なる第2材料から成る第2薄膜を製造する方法であって、真空容器内に前記第1薄膜と、前記第2材料のスパッタターゲットを対向させて配置したうえで、
a) 前記スパッタターゲットの表面近傍に、誘導結合プラズマ生成用高周波電磁界を用いて誘導結合プラズマを生成し、
b) 前記誘導結合プラズマ中の荷電粒子を前記スパッタターゲットの表面に向けて加速するバイアス電界を前記第1薄膜と該スパッタターゲットの間に生成する
処理を同時に行うことにより、前記スパッタターゲットをスパッタして前記第1薄膜の表面に堆積させるスパッタ製膜工程を有することを特徴とする。
【0010】
本願において、「スパッタターゲットの表面近傍」とは、第1薄膜とスパッタターゲットの間の空間のうち、第1薄膜の表面よりもターゲットの表面に近い領域をいう。また、「第1薄膜の表面近傍」(後述)とは、第1薄膜とスパッタターゲットの間の空間のうち、スパッタターゲットの表面よりも第1薄膜の表面に近い領域をいう。
【0011】
スパッタ法を用いて薄膜を製造する際には一般に、スパッタターゲットと基板の間にバイアス電界を生成する。このバイアス電界は、プラズマを該スパッタターゲットの表面に引き込むと共に、プラズマを生成するための電界としての役割も有する。それに対して、本発明に係る薄膜製造方法では、バイアス電界に加えて、スパッタターゲットの表面近傍に誘導結合プラズマ生成用高周波電磁界を用いて誘導結合プラズマを生成することにより、プラズマの密度を従来よりも高くすることができる。そのため、従来と同じ速度で第2材料のターゲット薄膜を堆積させる場合には、従来よりも弱いバイアス電界でスパッタターゲットをスパッタすることができる。そうすると、スパッタ粒子や、スパッタターゲットに跳ね返された荷電粒子のエネルギーが小さくなるため、それらの粒子が第1薄膜に衝突する際に該第1薄膜が受けるダメージを小さくすることができる。
【0012】
また、製膜中のプラズマ密度が高まることで、十分な量のスパッタ粒子を第1薄膜上に供給することができるため、第1薄膜の結晶性が向上する(格子欠陥が生じ難くなる)と共に、第1薄膜を緻密化することができる。
【0013】
さらに、本発明では誘導結合プラズマ生成用高周波電磁界を用いることにより、スパッタターゲット表面近傍だけではなく、第1薄膜の表面近傍におけるプラズマ密度も高めることができる。これにより、第1薄膜及び該第1薄膜上に製膜中の第2薄膜の表面が活性化され、それら表面へのスパッタ粒子の付着を促進することができる。
【0014】
バイアス電界には、直流電界、交流(正弦波)電界、パルス電界など、従来のスパッタ法において用いられている電界と同様のものを用いることができる。
【0015】
前記誘導結合プラズマ生成用高周波電磁界は、巻数が1回未満の線状導体から成る高周波アンテナを用いて生成することが望ましい。このような高周波アンテナは、巻数が1回以上である通常のコイルよりもインダクタンスが小さいことから、同じ大きさの電圧でより大きい電流を流すことができるため、より高密度のプラズマを生成することができる。また、高周波アンテナは複数個用いることが望ましい。これにより、プラズマの密度を一層高めることができ、第1薄膜が受けるダメージを小さくすることができると共に、より面積が大きい薄膜を製造することができる。
【0016】
本発明に係る薄膜製造方法において更に、前記誘導結合プラズマ生成用高周波電磁界及び前記バイアス電界以外の電界又は磁界を用いて、前記第1薄膜と前記スパッタターゲットの間にプラズマを生成してもよい。その中でも特に、高速でスパッタを行うことができるという点において、電界と静磁界を組み合わせたマグネトロンスパッタ装置を用いることが望ましい。なお、マグネトロンスパッタ装置において生成される電界は、前記バイアス電界を兼ねるものであってもよいし、前記バイアス電界以外の電界であってもよい。
【0017】
さらに、前記バイアス及び前記誘導結合プラズマ生成用高周波電磁界とは別に、前記第1薄膜の表面近傍に、該表面近傍におけるプラズマ密度を高める第1薄膜活性化用高周波電磁界を生成してもよい。これにより、第1薄膜の表面が活性化され、該表面へのスパッタ粒子の付着を促進することができる。第1薄膜活性化用高周波電磁界も、巻数が1回未満の線状導体を用いて生成することが望ましい。
【0018】
本発明では、第1材料にはIGZOの材料を、第2材料には窒化シリコン又は酸化シリコンの材料を、それぞれ用いることができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明により、第1材料から成る第1薄膜に与えるダメージを抑えつつ、第1薄膜の表面に、第2材料から成る薄膜をスパッタ法により高速で製膜することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明に係る薄膜製造方法を実施するために使用する薄膜製造装置の一例を示す縦断面図。
図2図1に示した薄膜製造装置における真空室の上面を下方から見た図。
図3図1に示した薄膜製造装置で使用する高周波アンテナの概略構成図。
図4】(a), (b)本実施例、及び(c)比較例(誘導結合プラズマ生成用高周波電磁界を使用せず)におけるバイアス電圧とターゲット電流の関係を測定した結果を示すグラフ。
図5】(a)本実施例、及び(b)比較例における窒化シリコン薄膜の製膜速度を測定した結果を示すグラフ。
図6】(a)本実施例、及び(b)比較例(プラズマCVD法)で作製した窒化シリコン薄膜の赤外吸収スペクトルの測定結果を示すグラフ。
図7】マグネトロンスパッタ装置を複数個用いる例を示す概略構成図。
図8】第1薄膜活性化用高周波電磁界を生成する第2高周波アンテナを用いる例を示す縦断面図。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明に係る薄膜製造方法の実施例を、図1図8を用いて説明する。ここでは、第1薄膜であるα-IGZO薄膜の表面に、第2薄膜である窒化シリコンの薄膜を形成する場合を例として説明する。ただし、この第1薄膜と第2薄膜の組み合わせはあくまでも一例であって、第1薄膜であるα-IGZO薄膜の表面に窒化シリコン以外の酸化シリコン等の第2薄膜を形成する場合や、α-IGZO薄膜以外の第1薄膜の表面に種々の第2薄膜を形成する場合にも、本実施例の方法を適用することができる。
【実施例】
【0022】
本実施例の薄膜製造方法では、図1図3に示すDCマグネトロンスパッタ型の薄膜製造装置10を用いた反応性スパッタリングを行う。薄膜製造装置10は、真空ポンプ(図示せず)により内部を真空にすることが可能な真空容器11と、真空容器11の真空室111内にプラズマ生成ガスを導入するプラズマ生成ガス導入管17と、真空容器11の天井に取り付けられたマグネトロンスパッタ用磁石12及びターゲットホルダ13と、真空室111内にターゲットホルダ13に対向して設けられた基板ホルダ14と、ターゲットホルダ13に電気的に接続された直流電源(バイアス電界生成部)15と、ターゲットホルダ13の側方に設けられた高周波アンテナ16を有する。
【0023】
マグネトロンスパッタ用磁石12には、従来のマグネトロンスパッタ装置で用いられている、永久磁石から成るものをそのまま適用している。このマグネトロンスパッタ用磁石12の下面(真空室111側の面)に、円板状のスパッタターゲット(以下、「ターゲット」と略記する)Tを取り付けるターゲットホルダ13が設けられている。直流電源15は、ターゲットホルダ13に、接地に対して500Vの負の直流電圧を印加するように接続されている。これらマグネトロンスパッタ用磁石12と直流電源15を合わせたものが、プラズマを生成する装置として機能する。また、直流電源15は、バイアス電界を生成する装置としても機能する。基板ホルダ14は真空容器11の壁を介して接地されている。
【0024】
高周波アンテナ16は上記誘導結合プラズマ生成用高周波電磁界を生成するためのものであり、図3に示すようにU字形の線状導体から成る。この線状導体のうち「U」の字における縦の棒に相当する部分(2箇所)は、真空容器11の壁に設けられたフィードスルー161を介して、真空容器11の外まで延びている。真空容器11の外において、線状導体の一方の端は整合器162Aを介して高周波電源162に接続され、他方の端は接地(図示せず)されている。また、線状導体のうち「U」の字の底部に相当する部分及び前記の縦の棒の一部は、真空室111内に配置されている。これらの部分は、高周波電源162から高周波電流が供給されることによってターゲットTの近傍に誘導結合プラズマ生成用高周波電磁界を生成する部分である。以下では、真空室111内に配置された当該部分を「作用部16A」と呼ぶ。作用部16Aの周囲には、セラミックス製の保護管163が設けられている。高周波アンテナ16は、作用部16AがターゲットTを挟んで対向するように、横方向に2個(1対)設けられている。このようなU字形の高周波アンテナ16は、巻数が1回未満のコイルに相当し、巻数が1回以上である場合よりもインダクタンスが小さいため、所定の高周波電力を供給した際に高周波アンテナ16に発生する電圧を小さくすることができる。本実施例では、1個の高周波アンテナ16に対して1000Wの高周波電力を供給する。
【0025】
薄膜製造装置10の各部位の位置や寸法について述べる。真空室111は円筒状であり、直径が300mm、高さが141mmである。ターゲットホルダ13には、直径76.2mm(3インチ)の円板状のターゲットTが取り付けられる。2個の高周波アンテナ16は、互いに横方向に180mm離間するように配置されており、作用部16Aの長さは100mmである。また、作用部16AとターゲットTの高さ方向の距離は21mm、作用部16Aと基板ホルダ14の高さ方向の距離は55mmである。
【0026】
なお、この薄膜製造装置10ではバイアス電界を生成する装置として、プラズマを生成するためのDCスパッタリングにおける直流電界用の直流電源15を用いたが、その代わりに、(高周波アンテナ16に電流を供給する高周波電源とは別の)高周波電源を用いてもよい。また、この薄膜製造装置10では誘導結合プラズマ生成用高周波電磁界を生成する装置として、U字形の高周波アンテナ16を用いたが、半円形の高周波アンテナも、巻数が1周未満の低インダクタンス高周波アンテナとして好適に用いることができる。
【0027】
以下、この薄膜製造装置10を用いた本実施例の薄膜製造方法の操作を説明する。まず、ターゲットホルダ13に、板状のシリコン(電気抵抗率1000Ωcm)から成るターゲットTを取り付ける。また、基板ホルダ14に、パッシベーション膜が形成される前のα-IGZO薄膜が露出したα-IGZO-TFT(上記「第1薄膜」に相当。以下、「基板S」と呼ぶ。)を載置する。
【0028】
次に、アルゴンと窒素の混合ガスから成るプラズマ生成ガスをプラズマ生成ガス導入管17から真空室111内に導入する。なお、プラズマ生成ガスにおけるアルゴンと窒素の混合比については、図5を用いて後述する。続いて高周波電源162から高周波アンテナ16に高周波電力を供給することにより、ターゲットTの表面近傍に誘導結合プラズマ生成用高周波電磁界を形成する。それと共に、直流電源15によってターゲットTと基板Sの間に、ターゲットT側を負とする電圧500Vの直流電界(バイアス電界)を形成する。
【0029】
この誘導結合プラズマ生成用高周波電磁界及び直流電界により、プラズマ生成ガス中のガス分子(アルゴン原子、窒素分子)が陽イオンと電子に電離してプラズマが形成される。このように生成された電子が、該直流電界及びマグネトロンスパッタ用磁石12により生成された磁界から受ける力によりサイクロイド運動又はトロコイド運動をすることにより、ガス分子の電離を更に促進する。そして、これらの作用によって生成された陽イオンは該直流電界によってターゲットTの方に向けて加速され、ターゲットTの表面に衝突することにより、ターゲットTの表面からシリコンのスパッタ粒子が飛び出す。このシリコンのスパッタ粒子と窒素プラズマが反応して基板Sの表面に付着することにより、窒化シリコンから成るパッシベーション膜が基板Sの表面に形成される。ここまでに述べた直流電界及び磁界による作用は、従来のDCマグネトロンスパッタ装置によるものと同様である。
【0030】
本実施例では更に、ターゲットTの表面近傍に誘導結合プラズマ生成用高周波電磁界を形成することにより、ガス分子の電離が促進され、それによりプラズマ密度が一層高められる。そのため、直流電界(バイアス電界)のみを用いていた従来のマグネトロンスパッタ装置と比較して、直流電界の強さが同じであれば単位時間当たりにターゲットTの表面に衝突する陽イオンの数が増加しているため、該表面から飛び出すスパッタ粒子が増加して製膜速度が高まる。そして、従来のマグネトロンスパッタ装置と同じ製膜速度で製膜するならば、直流電界を従来よりも弱くすることができる。そうすると、スパッタ粒子や、ターゲットTに跳ね返された陽イオンのエネルギーが小さくなるため、それらの粒子が基板Sに衝突する際に、基板Sの表面に露出したα-IGZO薄膜が受けるダメージを小さくすることができる。
【0031】
次に、本実施例の薄膜製造方法に関する実験を行った結果を示す。まず、本実施例の薄膜製造方法によって窒化シリコンから成るパッシベーション膜を作製した際の、バイアス電界の電圧(以下、「バイアス電圧」とする)と、ターゲットに流れる電流(以下、「ターゲット電流」とする)の強度の関係を測定した結果を図4に示す。ここでターゲット電流は、ターゲットに入射した陽イオンの数に比例するため、同じバイアス電圧で比較すると、ターゲット電流が大きいほど製膜速度が速いことを意味する。この実験では、高周波アンテナに供給する電力を(a)2kW、(b)1kW、(c)0kW((c)は比較例)とした。この実験結果から、同じバイアス電圧では比較例よりも本実施例の方がターゲット電流が大きく、すなわち製膜速度が速くなるといえる。
【0032】
次に、本実施例の薄膜製造方法において高周波アンテナに供給する電力を2kWとした場合における、窒化シリコンから成るパッシベーション膜を作製した際の製膜速度を測定した(図5(a))。比較のために、薄膜製造装置10において前記誘導結合プラズマ生成用高周波電磁界を形成しない(高周波アンテナ16に高周波電力を供給しない従来の方式である)点を除いて本実施例と同様の操作を行った場合についても、製膜速度を測定した(図5(b))。図5には、プラズマ生成ガス中の窒素ガスの混合比(流量比)が異なる複数の実験結果を示した。これらの実験の結果、窒素ガスの混合比がいずれの値の場合にも、比較例(b)よりも本実施例(a)の方が、製膜速度が2倍以上速くなった。ここでは本実施例、比較例共にバイアス電圧を同じ値としたが、この実験結果から、本実施例では、比較例と同程度の製膜速度で実施する場合には、バイアス電圧を本実験よりも弱くできるといえる。
【0033】
また、この実験から、プラズマ生成ガス中の窒素ガスの混合比は、高すぎる(本実施例における混合比100%)と製膜速度が低下し、低すぎる(本実施例では混合比6%以下、比較例では混合比14%以下)と窒化シリコン膜に濁りが生じることが明らかになった。ここで窒化シリコン膜の濁りは、膜中の窒素原子の欠陥によるものであり、窒素プラズマから窒化シリコン膜に供給される窒素原子の量が不十分であることを意味している。
【0034】
次に、本実施例で得られた窒化シリコン膜の赤外吸収スペクトルを測定した結果を、図6(a)を用いて説明する。比較例として、(図5で示した比較例とは異なる膜である)プラズマCVD法で作製した窒化シリコン膜の赤外吸収スペクトルを図6(b)に示す。本実施例、比較例共に、波数830cm-1付近に吸収スペクトルが見られる。この吸収スペクトルは、窒化シリコンのSi原子とN原子の結合(Si-N結合)における伸縮振動に起因したものである。一方、比較例では1180cm-1付近、2000cm-1付近及び3250cm-1付近にも吸収スペクトルが見られるのに対して、本実施例ではこれらの吸収スペクトルは見られない。これら比較例の吸収スペクトルのうち1180cm-付近のものはN-H結合の変角振動に起因し、2000cm-1付近のものはSi-H結合の伸縮振動に起因し、3250cm-1付近のものはN-H結合の伸縮振動に起因している。すなわち、比較例で作製した窒化シリコン膜には水素原子が混入しているのに対して、本実施例で作製した窒化シリコン膜には測定精度の範囲内では水素原子の混入が見られない。このように、本実施例の方法により、従来のプラズマCVD法では作製することができなかった、水素原子がほとんど混入していない窒化シリコンから成るパッシベーション膜を作製することができるため、パッシベーション膜中の水素原子がα-IGZO薄膜内に混入して特性が低下することを防止することができる。
【0035】
本発明は上記実施例には限定されない。
例えば、上記実施例ではマグネトロンスパッタ用磁石12を1組のみ用いたが、図7に示すように、マグネトロンスパッタ用磁石12を複数組用いてもよい。この場合、各マグネトロンスパッタ用磁石12にターゲットホルダ13を設け、各ターゲットホルダ13の側方に高周波アンテナ16を設けることが望ましい。これにより、高密度且つ均一なプラズマを広い領域に亘って形成することができるため、より大面積の製膜が可能になる。
【0036】
また、ターゲットTの表面近傍に形成する誘導結合プラズマ生成用高周波電磁界とは別に、図8に示すように、第2高周波アンテナ26を用いて、基板Sの近傍に第1薄膜活性化用高周波電磁界を形成してもよい。この第1薄膜活性化用高周波電磁界は、基板S(第1薄膜)の表面を活性化させ、該表面へのスパッタ粒子の付着を促進させる役割を有する。第2高周波アンテナ26には、上記高周波アンテナ16と同様に、U字形のものを好適に用いることができる。
【0037】
ここまではDCマグネトロンスパッタ法を用いて基板S(第1薄膜)とターゲットTの間にプラズマを生成する例を示したが、高周波マグネトロンスパッタ法を用いてもよい。また、マグネトロンを使用しないDCスパッタ法や高周波スパッタ法で用いられている方法によりプラズマを生成してもよい。その場合、バイアス電界がそのまま、プラズマを生成するための電界として機能するため、誘導結合プラズマ生成用高周波電磁界を生成する手段及びバイアス電界を生成する手段のみを用いればよい。
【符号の説明】
【0038】
10…薄膜製造装置
11…真空容器
111…真空室
12…マグネトロンスパッタ用磁石
13…ターゲットホルダ
14…基板ホルダ
15…直流電源
16…高周波アンテナ
161…フィードスルー
162…高周波電源
162A…整合器
163…保護管
16A…作用部
17…プラズマ生成ガス導入管
26…第2高周波アンテナ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8