(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2015-183717(P2015-183717A)
(43)【公開日】2015年10月22日
(54)【発明の名称】ウェイトローラ
(51)【国際特許分類】
F16H 9/12 20060101AFI20150925BHJP
【FI】
F16H9/12 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2014-58624(P2014-58624)
(22)【出願日】2014年3月20日
(71)【出願人】
【識別番号】000103644
【氏名又は名称】オイレス工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104570
【弁理士】
【氏名又は名称】大関 光弘
(72)【発明者】
【氏名】菊池 宏之
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 裕史
(72)【発明者】
【氏名】熊澤 勝利
(72)【発明者】
【氏名】志村 雅生
【テーマコード(参考)】
3J050
【Fターム(参考)】
3J050AA02
3J050BB08
3J050CA02
3J050CD09
3J050DA03
(57)【要約】
【課題】疲労強度に優れたウェイトローラを提供する。
【解決手段】ウェイトローラ1は、Vベルト式自動変速機に用いられるものであり、円筒状のローラ本体2と、ローラ本体2の外周面20を被覆するように配置された円筒状の樹脂系摺動部材3と、を備えている。ローラ本体2は、重りとして機能するものであり、例えば、ステンレス鋼、炭素鋼、銅、銅合金、アルミニウム、アルミニウム合金、焼結金属等の金属で形成される。樹脂系摺動部材3のベース樹脂には、ポリアミド樹脂が用いられ、必要に応じて、PTFE、グラファイト等の滑り特性向上のための潤滑剤が添加される。また、樹脂系摺動部材3の肉厚Tは、0.50mm〜1.15mmに設定されている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
Vベルト式自動変速機に用いられるウェイトローラであって、
重りとして機能するローラ本体と、
前記ローラ本体の外周面を被覆する樹脂系摺動部材と、を有し、
前記樹脂系摺動部材は、
ポリアミド樹脂を含み、肉厚が0.50mm〜1.15mmに設定されている
ことを特徴とするウェイトローラ。
【請求項2】
請求項1に記載のウェイトローラであって、
前記ローラ本体は、金属製である
ことを特徴とするウェイトローラ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Vベルト式自動変速機に用いられるウェイトローラに関する。
【背景技術】
【0002】
自動二輪車等の車両には、エンジンの回転数の変化に応じて可変溝プーリの溝幅を変化させ、この可変溝プーリに掛け渡されたVベルトの巻きかけ径を連続的に変化させることにより、無段階変速を可能にするVベルト式自動変速機が広く使用されている。
【0003】
Vベルト式自動変速機においては、回転軸に固定された固定プーリプレートと、回転軸にその軸心方向に移動自在に配置された可動プーリプレートとによって可変溝プーリが構成されており、可動プーリプレートの背面側に、回転軸に固定され、回転軸の径方向外側に行く程、可動プーリプレートとの間隔が狭くなるランププレートが装備され、このランププレートと可動プーリプレートとの間に、円筒状のウェイトローラが回転軸の径方向に移動自在に配置されている。
【0004】
エンジンの回転数の増加に伴いウェイトローラに作用する遠心力が増大すると、ウェイトローラが回転軸の径方向外側へ移動して、回転軸の軸心方向におけるランププレートと可動プーリプレートとの間を押し広げ、可動プーリプレートを固定プーリプレート側へ押し込む。これにより、回転軸の軸心方向における可動プーリプレートと固定プーリプレートとの間隔、すなわち可変溝プーリの溝幅が小さくなり、Vベルトが回転軸の径方向外側へ移動し、Vベルトの巻きかけ径が大きくなって、変速比(エンジン回転数/タイヤ回転数)が小さくなる。一方、エンジンの回転数の低下に伴いウェイトローラに作用する遠心力が低減すると、ウェイトローラが回転軸の径方向内側へ移動し、可動プーリプレートがランププレート側に押し戻される。これにより、回転軸の軸心方向における可動プーリプレートと固定プーリプレートとの間隔、すなわち可変溝プーリの溝幅が大きくなり、Vベルトが回転軸の径方向内側へ移動し、Vベルトの巻きかけ径が小さくなって、変速比が大きくなる。
【0005】
このように、ウェイトローラは、エンジンの回転数の増加に伴い、遠心力の作用で回転軸の半径方向外側に移動するとき、ウェイトローラの外周面が、回転軸に固定されたランププレートと摺接することから、ある程度の重量があり、かつ滑り特性および耐摩耗性に優れていることが要求される。このため、通常、ウェイトローラは、重りとして機能する金属製のローラ本体の表面を、ポリアミド樹脂をベース樹脂とする樹脂系摺動部材で被覆している(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2001−343055号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、ウェイトローラには、エンジンからの衝撃的な繰り返しの振動応力が作用するため、疲労強度に優れていることも要求される。ローラ本体の表面がポリアミド樹脂をベース樹脂とする樹脂系摺動部材で被覆された従来のウェイトローラにおいて、樹脂系摺動部材の肉厚(径方向の厚さ)は、1.5mm程度に設定されている。しかし、この肉厚だと、変速比に与える影響等の観点から樹脂系摺動部材が許容される摩耗量まで摩耗する前に、エンジンからの衝撃的な繰り返しの振動応力により疲労破壊することがあった。
【0008】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、疲労強度に優れたウェイトローラを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明は、重りとして機能するローラ本体の外周面を、ポリアミド樹脂を含む樹脂系摺動部材で被覆したウェイトローラにおいて、樹脂系摺動部材の肉厚を0.50mm〜1.15mmに設定した。
【0010】
ここで、ローラ本体は、金属製であることが好ましい。また、ウェイトローラは、予め円筒状に形成された樹脂系摺動部材にローラ本体を圧入嵌合して形成してもよく、あるいは、インサート成形により、ローラ本体の表面に樹脂系摺動部材を一体的に形成するようにしてもよい。
【発明の効果】
【0011】
本発明者は、ローラ本体の表面を被覆する樹脂系摺動部材として、ポリアミド樹脂を含む樹脂系摺動部材を用いた場合、樹脂系摺動部材の肉厚を薄くするほど、疲労強度が向上することを見出した。特に、樹脂系摺動部材の肉厚を1.15mm以下にすることで、この肉厚が1.5mm程度に設定されている従来品に比べて、疲労強度が飛躍的に向上することが分かった。なお、一般に、樹脂系摺動部材に許容される摩耗量は、変速比に対する影響等を考慮して、0.50mm程度に設定される。したがって、樹脂系摺動部材の肉厚は、樹脂系摺動部材に許容される摩耗量の観点から0.50mm以上とすることが好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1(A)は、本発明の一実施の形態に係るウェイトローラ1の正面図であり、
図1(B)は
図1(A)に示すウェイトローラ1のA−A断面図である。
【
図2】
図2は、疲労試験を説明するための図である。
【
図3】
図3は、表2に示す試験体4A〜4Cに対して、表1に示す条件にて行った疲労試験の試験結果を示す図である。
【
図4】
図4は、CAE解析を説明するための図である。
【
図5】
図5は、表2に対する試験体4A、4Cに対して、表3に示す条件にて行ったCAE解析の解析結果を示す図である。
【
図6】
図6(A)は、表2に示す試験体4A、4Cに対して、表3に示す条件にて行ったCAE解析における最大主応力の発生箇所を説明するための図であって、樹脂系摺動部材3の斜視図であり、
図6(B)は、最大主応力の発生メカニズムを説明するための図であって、
図6(A)に示す樹脂系摺動部材3のB−B断面の部分図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に、本発明の一実施の形態について説明する。
【0014】
図1(A)は、本実施の形態に係るウェイトローラ1の正面図であり、
図1(B)は
図1(A)に示すウェイトローラ1のA−A断面図である。
【0015】
本実施の形態に係るウェイトローラ1は、Vベルト式自動変速機に用いられるものであり、図示するように、円筒状のローラ本体2と、ローラ本体2の外周面20を被覆するように配置された円筒状の樹脂系摺動部材3と、を備え、樹脂系摺動部材3にローラ本体2を圧入嵌合することにより作製される。
【0016】
ローラ本体2は、重りとして機能するものであり、例えば、ステンレス鋼、炭素鋼、銅、銅合金、アルミニウム、アルミニウム合金、焼結金属等の金属で形成される。金属は、比重が大きいのでウェイトローラ1の重量を高めることができ、遠心力により移動するウェイトローラ1本来の機能を高めることができる。
【0017】
樹脂系摺動部材3は、その両端部30に、それぞれ、内周面31からウェイトローラ1の軸心O方向内側に向かって突出した環状の凸部32が形成されている。樹脂系摺動部材3にローラ本体2を圧入嵌合することにより、凸部32がローラ本体2の端部21と接触して、樹脂系摺動部材3がローラ本体2の外周面20を被覆するように固定される。また、樹脂系摺動部材3のベース樹脂には、ポリアミド樹脂が用いられ、必要に応じて、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)、グラファイト(黒鉛)等の滑り特性向上のための潤滑剤が添加される。
【0018】
本発明者は、樹脂系摺動部材3の肉厚T(樹脂系摺動部材3の径方向の厚さ:
図1(B)参照)の異なるウェイトローラ1の試験体4A〜4Cを、それぞれ複数個作製し、これらの試験体4A〜4Cに対して、以下の表1に示す条件において疲労試験を行って、疲労破壊(クラック)の発生時期および発生場所を観察した。
【0020】
疲労試験では、
図2に示すように、シャフト5が挿入された試験体4A〜4Cを相手材(治具プレート)6上に配置するとともに、表1に示す周波数で相手材6をW方向に往復運動させ、これにより表1に示す負荷荷重の範囲内で試験体4A〜4Cに加えるW方向の荷重Nを周期的に変化させて、試験体4A〜4Cの疲労破壊を観察している。
【0021】
作製した試験体4A〜4Cは、以下の表2のとおりである。ここで、試験体4Aは、本実施の形態に係るウェイトローラ1の性能を確認するための比較例であり、樹脂系摺動部材3の肉厚Tは、従来品と同じ1.5mmに設定されている。一方、試験体4B、4Cは、樹脂系摺動部材3の肉厚Tが、それぞれ従来品より薄い1.15mm、1.0mmに設定されている。また、すべての試験体4A〜4Cにおいて、樹脂系摺動部材3の凸部32の肉厚Hを同じにするとともに、同じ締め代δで樹脂系摺動部材3にローラ本体2を圧入嵌合している。
【0023】
図3は、表2に示す試験体4A〜4Cに対して、表1に示す条件にて行った疲労試験の試験結果を示す図である。ここで、縦軸は相手材6の往復運動累積回数を示している。また、棒グラフ40A〜40Cは、試験体4A〜4Cが疲労破壊するまでに要した相手材6の往復運動累積回数を示している。なお、試験体4A〜4Cは、それぞれ複数個作製され、棒グラフ40A〜40Cは、それぞれ複数個作製された試験体4A〜4Cの試験結果の平均値を示している。
【0024】
図示するように、疲労破壊するまでに要した相手材6の往復運動累積回数は、多いものから試験体4C、4B、4Aの順番となっており、樹脂系摺動部材3の肉厚Tを薄くするほど、疲労強度が向上することが分かった。また、試験体4B、4Cは、比較例の試験体4Aに比べて、疲労破壊するまでに要した相手材6の往復運動累積回数が急増しており、疲労強度が飛躍的に向上することが分かった。なお、疲労破壊(クラック)の発生場所は、いずれの試験体4A〜4Cにおいても、樹脂系摺動部材3の端部30であった。
【0025】
つぎに、本発明者は、上述の疲労試験の試験結果の整合性を確認するため、以下の表3に示す条件においてCAE(Computer Aided Engineering)解析を行って、上述の表2に示す試験体4A、4Cの樹脂系摺動部材3の最大主応力値およびその発生箇所を調べた。なお、CAE解析では、試験体4A、4Cの締め代δを「0」に設定している。
【0027】
CAE解析では、
図4に示すように、試験体4A、4Cのローラ本体2を完全固定し、相手材6を試験体4A、4Cに押し当てることにより、表3に示す負荷荷重Nを試験体4A、4Cに加えて、最大主応力の応力値および発生箇所を解析している。
【0028】
図5は、表2に示す試験体4A、4Cに対して、表3に示す条件にて行ったCAE解析の解析結果を示す図である。ここで、左の縦軸は最大主応力の応力値を示しており、右の縦軸は最大主応力発生箇所における変位量を示している。また、棒グラフ41A、42Aは、試験体4Aの樹脂系摺動部材3の最大主応力値および最大主応力発生箇所での変位量を示しており、棒グラフ41C、42Cは、試験体4Cの樹脂系摺動部材3の最大主応力値および最大主応力発生箇所での変位量を示している。また、
図6(A)は、表2に示す試験体4A、4Cに対して、表3に示す条件にて行ったCAE解析における最大主応力の発生箇所を説明するための図であって、樹脂系摺動部材3の斜視図であり、
図6(B)は、最大主応力の発生メカニズムを説明するための図であって、
図6(A)に示す樹脂系摺動部材3のB−B断面の部分図である。
【0029】
図5に示すように、試験体4Cは、比較例の試験体4Aに比べて、樹脂系摺動部材3の最大主応力値および変位量が減少しており、樹脂系摺動部材3の肉厚Tを薄くするほど、疲労強度上有利であることを示している。また、
図6(A)に示すように、樹脂系摺動部材3と相手材6との接触領域Cにおける両端部30(凸部32)において、樹脂系摺動部材3の最大主応力が発生している。これは、
図6(B)に示すように、樹脂系摺動部材3と相手材6との接触領域Cにおいて、樹脂系摺動部材3が相手材6の押圧力によって肉厚Tが圧縮される方向に変位し(変位P)、その結果、長さLが伸張する方向に樹脂系摺動部材3が変位して(変位E)、樹脂系摺動部材3の両端部30に形成された凸部32のS部に引張応力が発生したためである。この引張応力が最大主応力となっている。
【0030】
このCAE解析により、上述の疲労試験の試験結果の整合性、すなわち、ローラ本体2の表面20を被覆する樹脂系摺動部材3として、ポリアミド樹脂をベース樹脂とする樹脂系摺動部材3を用いた場合、樹脂系摺動部材3の肉厚Tを薄くするほど、疲労強度が向上することが確認された。
【0031】
このCAE解析の解析結果は、直径Dが20mmの試験体4A、4Cに対するものである。しかし、樹脂系摺動部材3の肉厚Tを薄くするほど、疲労強度が向上する傾向は、ウェイトローラ1の直径Dに依存せず、他の直径D(例えば15mm〜75mm)のウェイトローラ1に対するCAE解析においても、同様の解析結果が得られた。
【0032】
なお、一般に、樹脂系摺動部材3に許容される摩耗量は、Vベルト式自動変速機の変速比に対する影響等を考慮して、0.50mm程度に設定される。したがって、樹脂系摺動部材3の肉厚Tは、樹脂系摺動部材3に許容される摩耗量の観点から0.50mm以上とすることが好ましい。
【0033】
以上、本発明の一実施の形態について説明した。
【0034】
本実施の形態によれば、樹脂系摺動部材3の肉厚Tを0.50mm〜1.15mmに設定することにより、樹脂系摺動部材3に許容される一般的な摩耗量に対応できる疲労強度に優れたウェイトローラ1を提供することができる。
【0035】
なお、本実施の形態では、円筒状に形成された樹脂系摺動部材3にローラ本体2を圧入嵌合することにより、ウェイトローラ1を形成しているが、本発明はこれに限定されない。インサート成形により、ローラ本体2の表面20に樹脂系摺動部材3を一体的に形成して、ウェイトローラ1を作製してもよい。上述のCAE解析では、締め代δを「0」に設定した試験体4A、4Cにおいて、樹脂系摺動部材3の肉厚Tを薄くするほど疲労強度が向上する効果を確認した。したがって、締め代δのないインサート成形により形成されたウェイトローラ1においても、同様の効果を期待できる。
【符号の説明】
【0036】
1:ウェイトローラ、 2:ローラ本体、 3:樹脂系摺動部材、 20:ローラ本体の外周面、 21:ローラ本体の端部、 30:樹脂系摺動部材の端部、 31:樹脂系摺動部材の内周面、 32:樹脂系摺動部材の凸部