【実施例】
【0015】
図1に示すように、実施例に係る断熱カバー10は、矩形箱形のバッテリーBの外形形状に合わせて、上下に開口する角筒状に形成された壁部12を備え、バッテリーBの上方から被せて壁部12で該バッテリーBの周囲を囲うように装着される。また、断熱カバー10は、壁部12の内面に配設されたシール材18を有し、バッテリーBに装着した際に、シール材18がバッテリーBに当接する。このように、エンジンルームに配設される断熱カバー10は、難燃性を有していることが望ましい。
図2に示すようにバッテリーBは、電解液等のバッテリー液を収容した箱状本体B1の上部に、上面にプラス端子やマイナス端子や注液口(何れも図示せず)などを設けた蓋部B2を配設して構成される。なお、バッテリーBへのバッテリー液の補充は、前記注液口から行われる。バッテリーBは、蓋部B2の外周縁が、箱状本体B1の側面より外方へ僅かに延出している。また、バッテリーBは、略トレイ形状の架台Cに載置されている。そして、断熱カバー10は、バッテリーBに装着した際に、壁部12の下端を架台Cに突き当てて、上下方向を位置決めしている。断熱カバー10は、バッテリーBの四方の側面に対応して4面の壁部12を有し、隣り合う壁部12を繋ぐ角部をヒンジとして曲げ伸ばして、角筒状から平板状に折り畳んだ状態にすることができると共に、バッテリーBの形状に追従させることができる。すなわち、断熱カバー10は、同じような大きさのバッテリーBに共通して使用可能である。
【0016】
断熱カバー10の壁部12は、断熱性を有している。
図2に示すように、壁部12は、基層14と、この基層14の両面を覆うよう配設され、基層14を保護する表層16とを備える複層構造であり、基層14と表層16とは接着剤で接着されている。すなわち、壁部12は、バッテリーBに臨む内面が表層16で構成されると共に、外面も表層16で構成される。壁部12は、バッテリーBに装着した際に、四方の壁部12とバッテリーBとの間に空間Gが確保できる寸法に形成される。また、壁部12は、厚み方向(バッテリーBに装着した際に、バッテリーBの側面に対して交差する方向)に変形可能に構成され、バッテリーBに対して装着し易くなっている。また、壁部12におけるバッテリーBの蓋部B2に臨む上部には、壁部12とバッテリーBとの間の空間Gを封止するシール材18が設けられている。ここで断熱カバー10は、基層14および表層16およびシール材18が各厚み方向を揃えて積層される。
【0017】
前記基層14は、ポリウレタンフォーム、メラミンフォーム、ポリエチレンフォーム等のオレフィン系フォームなどの発泡体F(
図4および
図5参照)から構成され、この中でもポリウレタンフォームが好適である。なお、発泡体Fは、軟質または半硬質の何れであってもよく、熱成形性に優れるものや、少なくとも接着剤が含浸可能であることが製造上好ましい。発泡体Fは、通気性が低い独立気泡構造のものが断熱性の観点から好ましく、壁部12を構成する前の非圧縮状態において、その通気性(JIS K 6400−7)が、1.0ml/cm
2・s〜80ml/cm
2・sの範囲にあるものがよい。このような範囲の通気性の発泡体Fから基層14を構成することで、空気の通過に伴う熱移動を抑えることができ、壁部12の断熱性を向上することができる。また、発泡体Fは、壁部12を構成する前の非圧縮状態において、その密度が11kg/m
3〜30kg/m
3の範囲にあるものが好ましく、このような密度範囲の発泡体Fから基層14を構成することで、断熱カバー10の軽量化を図り得る。
【0018】
前記表層16は、不織布や織物などの布、または合成樹脂のフィルム材等の表皮材S(
図4および
図5参照)から構成され、この中でも不織布が好適である。不織布としては、ニードルパンチ法、スパンボンド法およびサーマルボンド法などの何れの方法から得られるものであってもよく、その目付量が50g/m
2〜110g/m
2の範囲にあるものが好ましい。表皮材Sは、壁部12を構成する前の非圧縮状態において、厚み方向に連通する微細な隙間を備えている。
【0019】
前記シール材18は、壁部12におけるバッテリーBに臨む内面を構成する表層16に接着剤で接合され、バッテリーBに装着した際に該バッテリーBに当接する。実施例のシール材18は、表層16におけるバッテリーBの蓋部B2に臨む上部に水平方向に延在して設けられ、蓋部B2の側面全周を囲い、壁部12とバッテリーBとの間の前記空間Gを封止する。このバッテリーBに当接するシール材18により、バッテリーBに装着した断熱カバー10の水平方向の位置決めがなされる。シール材18は、ポリウレタンフォーム、メラミンフォーム、ポリエチレンフォーム等のオレフィン系フォームなどから構成され、この中でもポリエチレンフォームが好適である。シール材18は、連続気泡体または独立気泡体の何れであってもよく、接着剤が含浸可能なものが好ましい。実施例のシール材18は、厚み方向に弾性変形可能に構成され、断熱カバー10をバッテリーBに装着した際に、バッテリーBに対して弾性的に当接する。このシール材18は、発泡体Fと表皮材Sとシール材18とを重ねて圧縮成形する際(
図4および
図5参照)に圧力や熱を掛けても、物性が変化しない程度の、圧力や熱に対する耐性を備えている。また、シール材18は、バッテリー液に対して変性しない耐薬品性を有することが望ましい。また、シール材18は、非圧縮状態の発泡体Fよりも柔らかいことが製造上好ましい。なお、実施例ではシール材18として、連続気泡体であるポリエチレンフォーム(例えば、株式会社イノアックコーポレーション、商品名:P・E−ライト、品番:RP−300S)を用いている。
【0020】
前記基層14および表層16を接着する接着剤や、表層16およびシール材18を接着する接着剤としては、これらを接着可能であればよく、熱硬化性接着剤やホットメルト接着剤のような加熱により接着力を呈するものが好ましい。また接着剤は、硬化する前の状態で流動性を有することが製造上好ましい。
【0021】
図2および
図3に示すように、前記壁部12には、基層14と表層16とを接着する接着剤が硬化して形成される硬化層22が形成されると共に、シール材18を接着する接着剤が表層16を介して基層14に含浸して硬化した補強部20が形成される。硬化層22は、壁部12の内面を構成する表皮材Sに覆われた基層14の内面側と、壁部12の外面を構成する表皮材Sに覆われた基層14の外面側とに、該基層14における表皮材Sとの境界位置に略一定の厚さで形成される。補強部20は、基層14におけるシール材18の配設位置に対応して、基層14のシール材18が接着された表層16に覆われた範囲に形成される。また、実施例では、シール材18を接着する接着剤が、表皮材Sにおけるシール材18が接着された範囲にも含浸して補強部20を形成する。この補強部20は、硬化層22に比べて、壁部12に厚く形成される。このため、壁部12におけるシール材18を積層した部位では、シール材18が積層されていない他の部位に比べて壁部12の剛性が高くなっている。
【0022】
次に、実施例に係る断熱カバー10の製造方法について説明する。なお以下では、
図4および
図5に示すように、壁部12の外面側を成形する第1型26と、壁部12の内面側を成形する第2型28とからなる成形型24を上下に配置し、シール材18、壁部12の内面を構成する表層16、基層14および壁部12の外面を構成する表層16をこの順序で下から上に積層する例を挙げて説明する。実施例の第2型28は、シール材18の外形に合わせて形成されて、シール材18の厚みの一部を収容する凹部30を備えている。また、実施例では接着剤として、1価および多価フェノールからなる熱硬化性タイプのレゾルシノール系樹脂(DFK樹脂)を用いている。接着剤は、硬化する前の状態で表皮材Sや非圧縮状態の発泡体Fに含浸可能な流動性を有し、硬化した後は、発泡体Fよりも硬くなる。
【0023】
図4(a)および(b)に示すように、板状に形成された発泡体Fの上下の両面に、接着面に接着剤を付したシート状の表皮材Sを夫々重ね合わせると共に、下側の表皮材Sに対して接着剤を含浸させたシール材18を重ね合わせて成形型24にセットする。成形型24にセットした際には、発泡体Fおよび表皮材Sおよびシール材18は、重ねただけであり未接着である。なお、実施例では、表皮材Sとして、DFK樹脂が含浸されたPET不織布(例えば、有限会社デーエフケー、商品名:メーユカペーパー、タイプ名:XP30215−1(NP80−35))を用いている。
【0024】
前記シール材18への接着剤の含浸量は、形成する補強部20に応じて決定する。また、
図4(b)に示すように、成形型24にシール材18をセットする際、シール材18は、前記第2型28に設けた凹部30に、表皮材Sに対する積層方向の厚みの一部を収容した状態とする。すなわち、成形型24にセットした際に、シール材18は、表皮材Sとの接着面の反対側である下部が、厚さD1だけ凹部30に収容され、表皮材Sに接着される上部が、厚さD2だけ凹部30から出た状態となる。なおシール材18は、シール材18における凹部30に収容される部分の外形に合わせて形成された凹部30により、位置決めされた状態で成形型24にセットされる。
【0025】
図4(b)〜
図5(b)に示すように、成形型24にセットした状態で、発泡体Fと表皮材Sとシール材18とを、加熱しつつ上下方向に力を掛けて圧縮する。なお、実施例では、180℃〜200℃で30秒〜60秒圧縮する。
図4(b)に示すように、圧縮を開始すると、シール材18より硬い発泡体Fにシール材18が押圧され、シール材18が優先的に圧縮される。この際、シール材18における凹部30から出た上部(残部)が圧縮され、シール材18を凹部30の厚みD1まで圧縮する。シール材18を圧縮することで、シール材18に含浸させた接着剤を、シール材18から染み出させる。そして、シール材18から染み出させた接着剤を、表皮材Sを介して発泡体Fに含浸させる。この際、発泡体Fに比べてシール材18を大きく圧縮することで、シール材18に接着剤が残らないようコントロールする。なお接着剤は、表皮材Sの前記隙間から発泡体Fに含浸する。このように、発泡体Fにおけるシール材18を積層した部位の表皮材Sとの接着面側に、シール材18に含浸させた接着剤が染み出して含浸した領域を形成する。また、発泡体Fにおける表皮材Sとの境界位置である上面部および下面部には、表皮材Sに付した接着剤が付着する。
【0026】
図5(a)および(b)に示すように、更に加熱しつつ圧縮することで、発泡体Fを元の厚みより薄く圧縮する(発泡体の圧縮前の厚さを
図5(b)に二点鎖線で示す)。実施例では、発泡体Fを、圧縮前の厚みの約3分の2まで圧縮する。そして、接着剤を硬化させて、発泡体Fおよび表皮材Sと、表皮材Sおよびシール材18とを接着する。また、発泡体Fにおける表皮材Sとの境界位置である上面部および下面部の接着剤を硬化させて、略一定の厚みの硬化層22を形成すると共に、シール材18から染み出させて発泡体Fに含浸させた接着剤を硬化させて、硬化層22よりも厚い補強部20を形成する。
【0027】
図5(c)に示すように、成形型24を開いて、発泡体Fからなる基層14と表皮材Sからなる表層16とが接着剤で接着されると共に、表層16に接着剤でシール材18が接着され、更に、補強部20および硬化層22が形成された壁部12が得られる。なお、成形型24を開放して圧縮をやめると、シール材18は厚さD1に圧縮された状態から、圧縮前の元の厚さに回復する。最後に、シール材18が内側になるように、壁部12を筒状に成形する。これにより、発泡体Fからなる基層14と、壁部12の内面を構成する表皮材Sからなる表層16と、シール材18を接着する接着剤が表層16を介して基層14に含浸して硬化してシール材18の配設位置に対応して形成された補強部20とを備えた壁部12が形成された断熱カバー10が得られる。なお、断熱カバー10は、互いに重ね合わせた壁部12の両端を超音波溶着などで接着固定したり、壁部12の一方の端部に形成したスリットに他方の壁部12の端部に形成した爪を引っ掛けるなどにより筒状成形される。
【0028】
このように構成された断熱カバー10は、バッテリーBに対して上方から被せて、バッテリーBを内側に収容するように装着する。断熱カバー10は、基層14に形成された補強部20によって、壁部12の剛性を向上できる。これにより、断熱カバー10をバッテリーBに装着した際に、壁部12の外側に広がるような変形を防止して、バッテリーBとシール材18とを密着させることができる。このため、断熱カバー10は、シール材18によりバッテリーBおよび壁部12の間の空間Gと外方との間の空気の流通を抑制することで、所要の断熱性能を確保できる。また、断熱カバー10は、バッテリーBとシール材18とを密着させることができるので、バッテリーBの上部からの液漏れを阻むことができる。更に断熱カバー10は、補強部20がシール材18を表層16に接着する接着剤から形成されるので、シール材18の配設位置に対応する、壁部12の剛性が要求される部位だけに、補強部20を適切に設けることができる。このため、補強部20により、壁部12の断熱性能が大きく低下したり、断熱カバー10をバッテリーBに装着し難くなることはなく、補強部20が、壁部12におけるシール材18の配設されていない他の部位に影響を与えない。更に、断熱カバー10は、シール材18が接着剤で表層16に接着されているから、両面テープでシール材18を貼り付ける場合と比較して、表層16とシール材18との密着力が高く、長期に亘って接着力を維持できる。
【0029】
実施例の断熱カバー10の製造方法によれば、発泡体Fと表皮材Sとシール材18とを成形型24で圧縮成形することで、発泡体Fからなる基層14と表皮材Sからなる表層16とを接着剤で接着した壁部12を成形するのと同時に、表層16にシール材18を接着できる。そして、壁部12の成形および表皮層へのシール材18の接着と同時に、シール材18を表層16に接着する接着剤を発泡体Fに含浸させて補強部20を形成するので、補強部20を有する断熱カバー10を効率よく簡単に得ることができる。
【0030】
実施例の断熱カバー10の製造方法では、シール材18をその厚みの一部を凹部30に収容した状態で成形型24にセットし、シール材18における凹部30から出た残部を圧縮するので、凹部30の厚みによって発泡体Fへの接着剤の含浸量を調節できる。このため、要求される剛性に応じた補強部20を簡単に形成できる。また、シール材18の外形に合わせて形成された凹部30にシール材18を収容することで、シール材18を位置決めすることができ、シール材18を成形型24にセットし易く、シール材18を成形型24で圧縮した際の位置ズレを防止できる。実施例の断熱カバー10の製造方法では、圧縮する前の発泡体Fより柔らかいシール材18を用いたので、成形型24で圧縮する際に、シール材18を発泡体Fで押圧して発泡体Fに優先させてシール材18を大きく圧縮することができ、シール材18から接着剤を染み出させ易く、また染み出させた接着剤を発泡体Fに含浸させ易い。このように、シール材18から接着剤を染み出させ易くしたから、接着剤によるシール材18の硬化は抑制される。なお、表皮材Sとして不織布を採用した場合、シール材18から染み出させた接着剤を通す表皮材Sは、圧縮成形により緻密化して、これにより断熱カバー10の表層16が、所要の撥水性や耐摩耗性を得るようにできる。また、実施例の断熱カバー10の製造方法では、接着剤をシール材18に含浸させるので、補強部20を形成する接着剤をシール材18に多く担持でき、壁部12の剛性を高め易い。更に、実施例の断熱カバー10の製造方法では、熱硬化性樹脂からなる接着剤を採用することで、加熱により接着剤を硬化して補強部20を形成できる。このため、発泡体Fへの接着剤の含浸量や範囲をコントロールし易く、要求される剛性に応じた補強部20を簡単に形成できる。
【0031】
(変更例)
前述した実施例に限定されず、以下のように変更することもできる。
(1) 実施例では、基層の両面が表層で覆われた断熱カバーを例に挙げて説明したが、少なくとも基層の内面が表層で覆われていればよい。
(2) シール材は、バッテリーの蓋部に当接すると共に該蓋部の上面まで延在するものであってもよい。また、シール材は、バッテリーの箱状本体に当接するものであってもよい。
(3) 成形型は、第1型と第2型が左右の位置に配置されるものであってもよい。成形型の凹部は、シール材の厚みの一部を収容し得るものであればよく、シール材の外形より大きいものであってもよい。また、凹部のない成形型で成形してもよい。
(4) 実施例では、基層および表層と、シール材および表層とを同一の接着剤で接着するが、夫々を異なる接着剤で接着してもよい。また、シール材と表層とを接着する接着剤は、加熱により接着力を呈するものに限られず、成形型で圧縮した際に、表皮材を介して発泡体へ含浸させ得るもので、硬化して発泡体に補強部を形成するものであればよい。
(5) 実施例では、シール材に接着剤を含浸させたが、これに限られず、接着剤はシール材に付与されていればよい。例えば、シール材における表皮材に相対する接着面に接着剤を塗布したり、シール材と表皮材との間にシート状の接着剤を挟んだりしてもよい。
(6) 実施例では、発泡体および表皮材を接着する壁部の成形と、補強部の形成とを同時に行う例を挙げて説明したが、壁部成形時の圧縮によりシール材に付与した接着剤を発泡体に含浸させる工程を備えていればよい。例えば、発泡体と表皮材とを接着した後に、発泡体に含浸した接着剤を硬化して補強部を形成してもよい。
(7) 断熱カバーを装着する断熱対象物としては、車載置用のバッテリーに限られず、家庭用のバッテリーであってもよい。また、温水器などのその他の機器に装着する断熱カバーであってもよい。