(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2015-184004(P2015-184004A)
(43)【公開日】2015年10月22日
(54)【発明の名称】放射性セシウム吸着性繊維
(51)【国際特許分類】
G21F 9/12 20060101AFI20150925BHJP
G21F 9/28 20060101ALI20150925BHJP
B01J 20/30 20060101ALI20150925BHJP
B01J 20/02 20060101ALI20150925BHJP
【FI】
G21F9/12 501B
G21F9/28 Z
B01J20/30
B01J20/02 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2014-57626(P2014-57626)
(22)【出願日】2014年3月20日
(71)【出願人】
【識別番号】502355130
【氏名又は名称】二葉商事株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100130513
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 直也
(74)【代理人】
【識別番号】100074206
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 文二
(74)【代理人】
【識別番号】100130177
【弁理士】
【氏名又は名称】中谷 弥一郎
(72)【発明者】
【氏名】福西 興至
【テーマコード(参考)】
4G066
【Fターム(参考)】
4G066AA41B
4G066AA51B
4G066AB07D
4G066AB13D
4G066AC02C
4G066AC26C
4G066BA16
4G066BA36
4G066CA12
4G066CA45
4G066DA07
4G066FA03
4G066FA15
(57)【要約】 (修正有)
【課題】放射性セシウムを効率よく吸着して簡易な処理で回収、減容化処理ができ、しかも回収された放射性セシウムが繊維と確実に一体化されていて脱落しない放射性セシウム吸着性繊維、およびその製造方法を提供する。
【解決手段】天然繊維、再生繊維または合成繊維からなるキレート繊維に配位結合したFe,Co,Ni,Cu,Zn,Ti,Cr、Mnなどの金属イオンを介して、フェロシアン酸金属塩化合物を化合させた状態で担持させ、放射性セシウム吸着性繊維とする。該セシウム吸着性繊維は、キレート化合物を結合した繊維(キレート繊維)に強く配位する金属イオンを介して、繊維とフェロシアン酸金属塩化合物からなる複合材料を形成して製造する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
キレート繊維に配位結合した金属イオンを介してフェロシアン酸金属塩化合物を化合させた状態で担持してなる放射性セシウム吸着性繊維。
【請求項2】
上記金属イオンと配位結合したキレート繊維が、2価または3価の金属イオンと配位結合したキレート繊維である請求項1に記載の放射性セシウム吸着性繊維。
【請求項3】
上記金属イオンが、Fe,Co,Ni,Cu,Zn,Ti,CrまたはMnである請求項2に記載の放射性セシウム吸着性繊維。
【請求項4】
上記金属イオンと配位結合したキレート繊維が、天然繊維、再生繊維または合成繊維からなるキレート繊維である請求項1〜3のいずれかに記載の放射性セシウム吸着性繊維。
【請求項5】
キレート繊維に金属イオンを配位結合させ、次いでフェロシアン酸塩化合物を化合させることにより、キレート繊維に前記金属イオンを介してフェロシアン酸金属塩化合物を担持させることからなる放射性セシウム吸着性繊維の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、放射性核種である放射性セシウムに対して吸着性を有し、水中や土壌などから放射性セシウムイオンを捕集および回収し、その処理を可能にする放射性セシウム吸着性繊維およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
セシウム(Cs)は、自然界では多くの同位体を有し、その大半は放射性を示さないものであるが、原子力発電の燃料に使うウランなどが核分裂反応を起こして生成される放射性セシウムと呼ばれるセシウム134および137は、長い半減期(それぞれ2年、30年)に応じて放射線を放出し続けて人体に悪影響を及ぼすため、生活環境から排除する必要がある。
【0003】
フェロシアン酸金属塩化合物の一つであるフェロシアン化鉄(III)は、このような放射性セシウムに対する吸着性を有する物質として知られており、近年、原子力発電所の放射能漏れ事故によって放出された放射性セシウムの結合剤(体外除去剤)としても知られている。
【0004】
また、このフェロシアン化鉄(III)は、青色の無機の顔料であって、紺青、プロシアンブルー、ミロリブルー、ベルリンブルーなど多くの慣用名があり、古くから藍色、紺色の顔料として塗料、印刷インキ、絵具に使用されてきた一般的な物質でもある。
【0005】
フェロシアン酸金属塩化合物を担体に固定する態様については、イオン交換樹脂上への固定が知られており(非特許文献1)、またアクリル繊維上にフェロシアン酸塩化合物を生成させることが知られている(特許文献1、2)。
【0006】
また、ポリアクリルニトリル上(非特許文献2)や羊毛繊維(特許文献3)、カチオン基を形成させたナイロン繊維(特許文献4)にイオン結合を介してフェロシアン酸塩化合物を繊維上に固定することが知られている。
また、キレート化剤を用いて高分子樹脂(非特許文献3)あるいはガラス(非特許文献4)上に固定してセシウムイオンを分離可能にすることが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特公平2−62032号公報
【特許文献2】特公平7−22699号公報
【特許文献3】特開2013−61220号公報
【特許文献4】特開2013−140031号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】H.J.Won, J.K.Moon, C.H.Jung, and W.Y.Chung, Nucl.Eng.& Tech., 40, 489(2008); K.Watari, K.Imai, Y.Ohmomo, Y.Muramatsu, Y.Nishimura, M.Izawa, and L.R.Baules, J.Nucl.Sci.Tech., 25, 5(1988)
【非特許文献2】H.H.Someda, A.A.EIZahhar, M.K.Shehata, and H.A.EI-Nagger, Separation and Purification Tech., 29, 1(2002)
【非特許文献3】T.D.Clarke and C.M.Wai, Anal.Chem.,1998, 70(17), pp3708-3711;
【非特許文献4】Chunqing Liu, Yongqing Huang, Nathaniel Naismith, and James Economy, Environ.Sci. Technol., 2003,37(18), pp4261-4268
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、上記した放射性セシウムイオンの分離・回収方法である凝集沈殿法、無機担体による吸着法では、被吸着物であるセシウムイオン本体以外の狭雑物が大量に発生して、その二次廃棄物の処理方法の複雑さにより高コストになる。すなわち、現場で操作する際の薬剤の処理、汚泥の処理、吸着担体の分離、回収が容易ではないことおよびそれらの減容化の困難さに起因する問題点がある。
【0010】
セシウムイオンを吸着するフェロシアン化鉄(III)に代表されるフェロシアン酸金属塩化合物は、非常に細かな微粒子であるので、セシウムイオンの吸着後に水中などから分離・回収するのは容易なことではない。
【0011】
フェロシアン化鉄(III)微粒子による水中のセシウムの吸着は効果的に進むが、吸着後のフェロシアン化鉄(III)の回収方法としては、無機凝集剤、高分子凝集剤を併用して共沈作用によって分離する方法が採用されるが、水含有率の高い汚泥(二次破棄物)の処理、減容化の問題があって好ましくない。
【0012】
放射性セシウムイオンの除去に無機担体であるゼオライトが使われる場合もあるが、イオン種に対する選択性がなく、また処理対象の水が大量である場合には、放射性物質の吸着したゼオライト廃棄物(二次廃棄物)の量が膨大になる。
【0013】
このように放射性セシウムイオン吸着後の処理担体の排水中からの回収、脱落した放射能を含む微粒子の回収、および放射性セシウムを含む二次廃棄物を減容化する必要性などに多くの問題点がある。
【0014】
この解決法として、前述のようにフェロシアン化鉄(III)(プロシアンブルー)を不織布や無機担体に担持させて放射性セシウムイオンの除去に使う技術も知られている(特許文献1、2等)が、その堅ろう性に問題があり、使用時に脱落の危険性がある。
【0015】
セシウムの吸着担体であるフェロシアン酸金属塩化合物は化学構造的には中性で、水に不溶の微粒子であるが、繊維素材や無機担体に対して何らの化学的な相互作用を持たないので、摩擦や洗浄により処理水中に容易に脱落すると思われる。
【0016】
ここで、有機の繊維素材に限定して述べれば、フェロシアン酸金属塩化合物の先駆体である水溶性のフェロシアン酸イオン([Fe(CN)
6]
4-)を カチオン化した繊維に、予め化合させ、その後、金属イオンと処理することにより不溶性のフェロシアン酸金属塩化合物を繊維上に形成させる技術が開示されている(特許文献3、4)。
【0017】
しかしながら、その場合には、フェロシアン酸金属塩化合物の生成と同時に繊維との化学的な結合の寄与が喪失して、摩擦や洗浄により放射性セシウムを吸着したフェロシアン酸金属塩化合物の脱落が起こりやすい。
【0018】
そこで、この発明の課題は、上記した問題点を解決して、排水中や土壌水中から放射性セシウムを効率よく簡便に安全に回収できる吸着性材料とし、回収されたものの減容性にも優れたものとし、すなわち、放射性セシウムを効率よく吸着して簡易な処理で回収、減容化処理ができ、しかも回収された放射性セシウムが繊維と確実に一体化されていて脱落しない放射性セシウム吸着性繊維とし、またはその製造方法とすることである。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本願の発明者らは、フェロシアン酸金属塩化合物が、放射性セシウムイオンを選択的に効率よく吸着して、系外に分離・回収でき、簡便なプロセスで処理できる可能性のある点に着目し、研究を重ねた結果、自由に変形可能で表面積が広く、しかも水の通過が容易で、しかも種々の形態形成可能な繊維素材を選択し、この繊維にフェロシアン酸金属塩化合物を結合させ、セシウムイオンを含む流体中に浸漬して当該イオンを吸着させた後、繊維を排水中から回収することにより、上記の問題点を解決できることを見出したのである。
【0020】
すなわち、上記した課題を解決するために、この発明では、キレート繊維に配位結合した金属イオンを介してフェロシアン酸金属塩化合物を化合させた状態で担持してなる放射性セシウム吸着性繊維としたのである。
【0021】
上記したように構成されるこの発明の放射性セシウム吸着性繊維は、繊維上に金属イオンを安定的に結合するキレート化(配位結合)可能な繊維(キレート繊維)を用いて含金属イオン繊維を調製し、その際、繊維に強く配位した金属イオンと水溶性のフェロシアン化塩化合物を作用させることによって、金属イオンを介して繊維に強固に結合した状態で、フェロシアン酸金属塩化合物を担持させているので、セシウムを吸着したフェロシアン酸化合物が繊維から脱落し難い。
【0022】
上記金属イオンと配位結合したキレート繊維としては、2価または3価の金属イオンと配位結合したキレート繊維であるものを用いて好ましい結果が得られている。
また、上記金属イオンとしては、Fe,Co,Ni,Cu,Zn,Ti,CrまたはMnを用いることが、上記配位結合およびフェロシアン酸塩化合物の化合に適切である。
また、上記金属イオンと配位結合したキレート繊維としては、天然繊維、再生繊維または合成繊維のいずれの素材を用いてもよい。
【0023】
この発明の放射性セシウム吸着性繊維を製造するには、キレート繊維に金属イオンを配位結合させ、次いでフェロシアン酸塩化合物を化合させることにより、キレート繊維に前記金属イオンを介してフェロシアン酸金属塩化合物を担持させることによって放射性セシウム吸着性繊維を製造することができる。
【発明の効果】
【0024】
この発明の放射性セシウム吸着性繊維は、繊維に強く配位した金属イオンとフェロシアン化塩化合物を化合させることによって金属イオンを介して繊維に強固に結合した状態でフェロシアン酸金属塩化合物を担持させているので、放射性セシウムを効率よく吸着して、簡易な処理で回収、減容化処理ができ、しかも回収された放射性セシウムが繊維と確実に一体化されていて脱落しない放射性セシウム吸着性繊維になるという利点がある。
【0025】
このような利点のある放射性セシウム吸着性繊維を効率よく製造でき、このセシウム吸着性繊維の製造およびその適用により従来の方法に比して、放射性セシウムの高い吸着能力、処理方法の簡便さ、繊維の焼却による容易な減容化を可能にして、実用面で優れた効果を発揮することができる。
【発明を実施するための形態】
【0026】
実施形態の放射性セシウム吸着性繊維は、キレート繊維に金属イオンを配位結合させ、次いでフェロシアン酸塩化合物を化合させることにより、キレート繊維に前記金属イオンを介してフェロシアン酸金属塩化合物を担持させたものである。
【0027】
キレート繊維は、水酸基やアミノ基等の反応性官能基を分子中に有する繊維に、キレート形成官能基を有する化合物を反応させて、繊維にキレート形成性官能基を導入したものである。
【0028】
すなわち、キレート化可能な繊維とは天然繊維、再生繊維(再生セルロース繊維、再生ポリエステル繊維など)、合成繊維にキレート化剤を化学的に結合させたもので、金属イオンの分析を目的に環境化学の分野、あるいは排水中の重金属イオンの回収などに適用される繊維素材でもある。
【0029】
具体的には、例えば、天然繊維又は再生繊維に、反応性二重結合とグリシジル基を分子中に有する2官能性化合物(メタクリル酸グリシジル、アクリル酸グリシジル、アリルグリシジルエーテルなど)を介して、グリシジル基との反応性を有する金属キレート化剤(イミノジ酢酸、エチレンジアミン二酢酸、エチレンジアミン三酢酸、チオグリコール酸、チオリンゴ酸、リン酸など)が結合しているキレート繊維の製造ができる。
【0030】
さらには、合成繊維に対して、放射線照射によるラジカル生成、上記2官能性化合物によるグラフト重合、これに続く金属キレート化剤との反応によるキレート繊維の製造も可能である。なお、市販品としては、キレスト社製のキレート繊維も挙げられる。
【0031】
これらのキレート繊維は2価あるいは3価の金属イオンと配位結合を介して強固に結合して特有の色に着色した繊維を与える。金属イオンとしては、Fe,Co,Ni,Cu,Zn,Ti,Cr,などの金属イオンを用いることができるが、これらに限定されず、他の周知な金属イオンも使用可能である。
【0032】
この発明に用いるフェロシアン酸塩化合物は、一般式が、以下のように表わされ、水に不溶の微粒子である。
XY[Fe(CN)
6]
n
(式中、XはNH
4,NaまたはKであり、YはFe,Cu,Ni,CoまたはZnであり、n=1〜3である。)
【0033】
そのうち、一般的な化合物であるフェロシアン化鉄(III)、またはプロシアンブルーは(NH
4)Fe[Fe(CN)
6]のような化学構造を持ち、その粒子サイズは、0.05〜0.1μmである。
【0034】
水溶性のフェロシアン酸イオン([Fe(CN)
6]
4-)と繊維と結合している金属イオンとの反応によって形成されるフェロシアン酸金属塩化合物は配位結合をした金属イオンを介して繊維に強く結合していると考えられるので繊維からの脱落は防止される。
【0035】
このようなフェロシアン化鉄(III)((NH
4)Fe[Fe(CN)
6])によるセシウムイオン(Cs
+)の吸着機構はフェロシアン化鉄(III)のNH
4+イオン(上式)とイオン交換で置き換わるのか、またはフェロシアン化鉄の結晶構造の空孔の中に選択的に取り込まれるのか、未だ充分に明確に説明することは困難である。
しかしながら、後述する試験結果や水処理実験、医薬品としての除去効果からセシウムイオンがフェロシアン化鉄(III)に取り込まれる事実は明らかである。
【0036】
このようなフェロシアン酸金属塩化合物を担持できる材質としては、キレート化できる有機性の繊維であればよく、天然繊維(植物繊維、動物繊維)、再生繊維、合成繊維などからなる材料で繊維の種類は問わない。また、それらから想起される綿、フェルト、パイル、不織布、糸、布帛などその形態は問わない。
【0037】
この発明の放射性セシウム吸着性繊維によれば、セシウムイオンを含む環境中に、フェロシアン酸金属塩化合物を担持した繊維を配置することによって、セシウムイオンを捕集することができる。繊維は、自由に変形可能であり、また、切断も可能であるので、水中、土壌中、地表面など目的に応じた材料が可能である。
【0038】
そして、放射性セシウムイオンを選択的に吸着するフェロシアン酸金属塩化合物を結合させた繊維を、セシウムを含む環境中(排水、土壌、地表面など)に置くことにより、セシウムイオンを吸着して分離し、セシウムを含む繊維全体を回収することにより上記した問題を解決できる。分離・回収された繊維は、燃焼させて減量(減容)化することができ、その際に生じた放射性セシウムを含む焼却灰は、別途安全に保管される。
【実施例】
【0039】
[実施例1]
セルロース繊維粉末(長さ0.5mm, 太さ30〜40μm)からなるキレート繊維(キレスト社製:キレストファイバー)2.0g を塩化第二鉄水和物0.5gを溶かした100ml水溶液に入れ、0.5h室温下で撹拌、ろ過し、精製水による洗浄を行なった。
得られたこの茶褐色に着色した粉末状Fe/キレート繊維をフェロシアン化ナトリウム水和物0.6g,塩化アンモニウム0.6gの水溶液100mlに混入すると、速やかに濃紺に発色したセシウム吸着用セルロース繊維を得た。
【0040】
[比較例1]
リント布(セルロース繊維)20gをカチオン化剤(グリシジルトリメチルアンモニュームクロリド)22.5gを溶解した水溶液に入れ、振盪させながら10%苛性ソーダを加えた。その後、80℃、1時間加温した。充分に水洗して、カチオン化セルロース繊維を得た。
【0041】
このカチオン化セルロース繊維をフェロシアン化ナトリウム10水和物28.9gの水溶液に入れ、振盪させながら80℃、1時間加温処理を行ない、遠心脱水処理を行なってフェロシアン酸イオンを結合したセルロース繊維を調製し、次いで、この処理布を硫酸鉄(II)7水和物5g、硫酸アンモニウム5gを溶解した水溶液に入れ、ゆっくりと加温すると、繊維上に緑あるいは紺色に着色したフェロシアン酸鉄塩化合物を担持したセルロース繊維を得た。
【0042】
以上のようにして得られたセシウム吸着用繊維の堅牢性を、以下の見かけの退色試験によって比較した。
[セシウム吸着用繊維の堅ろう性試験]
実施例1または比較例1のセシウム吸着用繊維0.5gを0.1%界面活性剤水溶液50mlに入れ、30℃または70℃での加温処理を行ない、0.5時間後の紺色色素の退色状況を比較し、その結果を表1中に示した。
【0043】
【表1】
【0044】
表1に示された結果からも明らかなように、カチオン化セルロース繊維を経由して調製された比較例1のセシウム吸着繊維は、30℃の水を用いた場合にはある程度の堅牢性は認められるが、70℃の温水を用いて行う場合には堅牢性が充分になかった。
これに対して、フェロシアン酸金属塩化合物を担持した実施例1のキレートセルロース繊維は、上澄みは無色透明であり、紺色顔料粒子の脱落は起きておらず、70℃の温水を用いて行う場合にも充分な堅牢性のあることが認められた。
【0045】
[実施例2]
実施例1において、塩化第二鉄の代わりに硫酸コバルトに代えたこと以外は同様にして、ピンク色に着色したCoイオンを吸着したCo/キレートセルロース繊維を得た。このものにフェロシアン化ナトリウムを加えて、褐色(あるいはくすんだ緑)の(フェロシアン酸コバルト塩化合物を担持した)セシウム吸着用繊維を得た。
【0046】
[実施例3、4]
実施例1、2での鉄イオン、コバルトイオンの場合と同様にして、キレート繊維に対して実施例3ではニッケルイオンまたは実施例4では銅イオンで処理し、それぞれ青緑色または青色の金属イオンと配位結合した繊維を得た。
次に、このように着色された繊維をフェロシアン化ナトリウム水溶液中に浸漬し、青緑色(実施例3)、または茶褐色(実施例4)に着色されたセシウム吸着用セルロース繊維を得た。
【0047】
[実施例5]
硫酸第一鉄アンモニウムと過酸化水素によるラジカル開始により、メタクリル酸グリシジルがグラフト重合したセルロース繊維からなる綿布を調製した。
次に、イミノジ酢酸を処理してキレート繊維を得て、これに銅イオンを配位した青色の繊維10.0gを、フェロシアン化ナトリウム水和物5.0g、硫酸アンモニウム5.0gを含有する100ml水溶液に混ぜ入れることにより、速やかに茶褐色に発色したフェロシアン酸銅塩化合物を担持したセシウム吸着用繊維(綿布)を得た。
【0048】
[実施例6]
ナイロン繊維を窒素雰囲気下でガンマ線照射を行なって、メタクリル酸グリシジルのグラフト重合したナイロン繊維を調製し、次に、この繊維にイミノジ酢酸ナトリウムを処理
してキレート繊維を得た。
【0049】
これに銅イオンを配位した青色の繊維10.0gを、フェロシアン化ナトリウム水和物5.0g,硫酸アンモニウム5.0gの100ml水溶液に混ぜ入れることにより、速やかに茶褐色に発色した(フェロシアン酸銅塩化合物を担持した)セシウム吸着用ナイロン繊維を得た。
【0050】
キレート繊維にフェロシアン酸金属塩化合物を担持した短繊維をコロイダルシリカ分散液で処理し、任意のパイル長、パイル繊度、パイル直径の植毛用パイルを得た(パイルカット)。
【0051】
次に、ナイロン基材にプライマ(トルエン92%、塩素化PP2%、アクリル樹脂5%含有)を処理し、80℃、30分間乾燥させた。その後、当該基材にアクリル系エマルジョン接着剤を塗布し、上記で得られたパイルに3万Vの電圧をかけ、静電植毛し(電着処理)、80℃、30分間乾燥させて(フェロシアン酸金属塩化合物を担持した)放射性セシウム吸着用繊維からなる植毛製品を得た。
【0052】
実施例1〜4で得られたフェロシアン酸金属塩化合物を担持したキレートセルロース繊維粉末によるセシウムの吸着試験を、以下のように行なった。
【0053】
[セシウムの吸着性能の確認試験]
実施例1〜4の金属イオン配位セシウム吸着繊維粉末2.0gをPP製ねじ口瓶にそれぞれ計り取り、非放射性の塩化セシウム (CsCl) 水溶液(セシウムとして10.0mg/L)50mlを加え、密栓後、室温下で良く振り混ぜた。1時間後、この上澄み液を10倍に希釈した後、ICP質量分析装置にて測定を行なった(測定質量数(m/z):Cs(133))、内部標準元素:In(115)Cs)。
得られた測定値を、各上澄み液中のセシウム濃度に換算し、以下の表2中に示した。
【0054】
【表2】
【0055】
表2の結果からも明らかなように、鉄、コバルト、ニッケルまたは銅からなる金属イオンを介してフェロシアン酸金属塩化合物を化合させた状態で担持した実施例1〜4の放射性セシウム吸着性繊維は、いずれも99.6%以上の優れたセシウム吸着率を示した。