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特開2015-184207車両用センサ信号処理装置および車両用センサ信号処理プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2015-184207(P2015-184207A)
(43)【公開日】2015年10月22日
(54)【発明の名称】車両用センサ信号処理装置および車両用センサ信号処理プログラム
(51)【国際特許分類】
   G01P 21/00 20060101AFI20150925BHJP
   G01P 15/18 20130101ALI20150925BHJP
   G01P 15/00 20060101ALI20150925BHJP
【FI】
   G01P21/00
   G01P15/00 K
   G01P15/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2014-62496(P2014-62496)
(22)【出願日】2014年3月25日
(71)【出願人】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(71)【出願人】
【識別番号】390023711
【氏名又は名称】ローベルト ボツシユ ゲゼルシヤフト ミツト ベシユレンクテル ハフツング
【氏名又は名称原語表記】ROBERT BOSCH GMBH
(74)【代理人】
【識別番号】100106149
【弁理士】
【氏名又は名称】矢作 和行
(74)【代理人】
【識別番号】100121991
【弁理士】
【氏名又は名称】野々部 泰平
(74)【代理人】
【識別番号】100145595
【弁理士】
【氏名又は名称】久保 貴則
(72)【発明者】
【氏名】鵜飼 拡基
(72)【発明者】
【氏名】難波 寧
(57)【要約】
【課題】型式の違いによる感度差や、設置姿勢などの検出条件による感度差の影響を低減することができる車両用センサ信号処理装置を提供する。
【解決手段】車両で用いられ、加速度センサ12と、加速度センサ12が出力した加速度検出値を取得する検出値取得部21と、検出値取得部21が取得した加速度検出値を、実効値をもとにして正規化する加速度補正部22とを備える。加速度センサ12が出力する加速度検出値は、型式の違いによる感度差や、設置姿勢等の検出条件の違いによる感度差の影響を受けた値になっている。しかし、加速度検出値を実効値をもとにして正規化するので、型式の違いによる感度差や、設置姿勢等の検出条件による感度差の影響を低減できる。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両で用いられ、
前記車両で発生する物理量に応じて変化する検出値を出力するセンサ(12)と、
前記センサが出力した検出値を取得する検出値取得部(21)と、
前記検出値取得部が取得した検出値を、前記検出値取得部がそれまでに取得した検出値をもとにして正規化する検出値補正部(22)と、
を備えることを特徴とする車両用センサ信号処理装置(1)。
【請求項2】
前記車両の車室内に設置されて用いられることを特徴とする請求項1に記載の車両用センサ信号処理装置。
【請求項3】
携帯型であり、着脱可能に前記車両の車室内に設置されることを特徴とする請求項2に記載の車両用センサ信号処理装置。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項において、
前記センサは、このセンサの姿勢変化により検出値が変化するセンサであり、
前記検出値補正部は、直流成分を除去する直流成分除去処理を、前記検出値に対して、または、前記検出値を正規化した後の値に対して行うことを特徴とする車両用センサ信号処理装置。
【請求項5】
請求項4において、
前記直流成分除去処理は、前記直流成分除去処理をする前の値をローパスフィルタに通すことで、前記直流成分除去処理をする前の値から前記直流成分を含む低周波成分の信号を生成し、前記直流成分除去処理をする前の値からこの低周波成分の信号を減算する処理であることを特徴とする車両用センサ信号処理装置。
【請求項6】
請求項4または5において、
前記センサは加速度センサであることを特徴とする車両用センサ信号処理装置。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項において、
前記検出値補正部は、高周波ノイズ成分を除去する高周波除去処理を、前記正規化を行う前の値、または、前記正規化をした後の値に対して行うことを特徴とする車両用センサ信号処理装置。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項において、
前記検出値補正部は、前記検出値の代表値を用いて前記正規化を行い、前記代表値は逐次更新することを特徴とする車両用センサ信号処理装置。
【請求項9】
請求項8において、
前記代表値として実効値を用いることを特徴とする車両用センサ信号処理装置。
【請求項10】
コンピュータを、請求項1の前記検出値取得部および前記検出値補正部として機能させる車両用センサ信号処理プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両で用いられて車両に発生する物理量を検出し、検出値に対して信号処理を行う車両用センサ信号処理装置、および、その装置に用いる車両用センサ信号処理プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
車両で用いられて車両に発生する物理量を検出する装置として、たとえば、ドライブレコーダが知られている。ドライブレコーダは車両に発生する物理量として加速度などを検出する。
【0003】
特許文献1には、ドライブレコーダが検出した加速度から、走行路が坂道であることにより生じる加速度や、ドライブレコーダが設置姿勢から傾いたことにより生じる重力加速度を除去する技術が開示されている。具体的には、特許文献1では、加速度データを2回積分して車両の推定位置を求め、この推定位置とGPS測位位置との差から、坂道走行によって加速度センサに加わる加速度などを除去している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2012−215417号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、加速度センサの型式が違う場合には、型式の違いにより加速度に対する感度が異なる。また、設置姿勢それ自体が異なっていても加速度に対する感度は異なる。特許文献1の技術により、坂道走行によって加速度センサに加わる加速度や、設置姿勢から傾いたことにより生じる重力加速度を検出値から除去したとしても、型式の違いによる感度差や、設置姿勢による感度差が除去されていない。
【0006】
型式の違いによる感度差や、設置姿勢などの検出条件による感度差は、加速度センサに限らず、車両で用いられるセンサであれば、他の物理量を検出するセンサでも生じる。なお、設置姿勢以外の検出条件としては、たとえば温度が考えられる。
【0007】
本発明は、この事情に基づいて成されたものであり、その目的とするところは、型式の違いによる感度差や、設置姿勢などの検出条件による感度差の影響を低減することができる車両用センサ信号処理装置、および、車両用センサ信号処理プログラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的は独立請求項に記載の特徴の組み合わせにより達成され、また、下位請求項は、発明の更なる有利な具体例を規定する。また、特許請求の範囲に記載した括弧内の符号は、一つの態様として後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示すものであって、本発明の技術的範囲を限定するものではない。
【0009】
上記目的を達成するための車両用センサ信号処理装置(1)に係る発明は、車両で用いられ、車両で発生する物理量に応じて変化する検出値を出力するセンサ(12)と、センサが出力した検出値を取得する検出値取得部(21)と、検出値取得部が取得した検出値を、検出値取得部がそれまでに取得した検出値をもとにして正規化する検出値補正部(22)と、を備えることを特徴とする。
【0010】
本発明によれば、車両で用いられるセンサは、車両で発生する物理量に応じて変化する検出値を出力する。この検出値は、センサの型式の違いによる感度差や、センサの設置姿勢等の検出条件の違いによる感度差の影響を受けた値になっている。しかし、本発明では、検出値補正部により、検出値を、それまでに取得した検出値をもとにして正規化する。この正規化により、型式の違いによる感度差や、設置姿勢等の検出条件による感度差の影響を低減できる。
【0011】
また、上記目的を達成するための車両用センサ信号処理プログラムに係る発明は、コンピュータを、車両用センサ信号処理装置に係る発明の検出値取得部および検出値補正部として機能させる車両用センサ信号処理プログラムである。
【0012】
この車両用センサ信号処理プログラムを、コンピュータとセンサとを備えた装置のコンピュータで実行することにより、コンピュータとセンサとを備えた装置を、車両用センサ信号処理装置とすることができる。
【0013】
近年、タブレット型コンピュータや、スマートフォンと呼ばれる多機能携帯電話機は、センサを内蔵していることが多い。よって、本発明の車両用センサ信号処理プログラムを用いれば、タブレット型コンピュータや多機能携帯電話機を、車両用センサ信号処理装置とすることができる。
【0014】
タブレット型コンピュータや多機能携帯電話機を、車両用センサ信号処理装置とする場合、それらに内蔵されているセンサは型式が様々である。また、これらタブレット型コンピュータや多機能携帯電話機は携帯型であることから、車両に設置するごとに、設置姿勢が変化する可能性が高い。よって、検出値補正部により検出値を正規化する意義が大きい。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の車両用センサ信号処理装置の実施形態となるスマートフォン1が車室内に設置されている状態を示す図である。
図2】スマートフォン1の構成を示すブロック図である。
図3】制御部20のCPUが、ドライブレコーダプログラム16a、車両用センサ信号処理プログラム16bを実行するときの処理を示すフローチャートである。
図4】スマートフォン1が内蔵している加速度センサ12のy軸が鉛直方向になるようにスマートフォン1が設置された状態を示す図である。
図5】スマートフォン1が傾いて設置された状態を示す図である。
図6】車両の減速により、図5の姿勢からさらにスマートフォン1が傾いた状態を示す図である。
図7図4の加速度リアルタイム補正処理を詳しく示すフローチャートである。
図8図7のステップS41で取得する加速度検出値、および、ステップS43の処理で得られる加速度交流成分AACの波形を例示する図である。
図9】ステップS46の処理で得られた波形の一例を示す図である。
図10】変形例1における効果を説明するグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。本発明の車両用センサ信号処理装置の実施形態となるスマートフォン1は、たとえば、図1に示す位置に設置される。図1では、スマートフォン1は、車室内に設置されている。より詳しくは、スマートフォン1は、ダッシュボード100の上面であって、車幅方向中央に設置されている。図示していないが、スマートフォン1は、周知のスマートフォン用車載ホルダーにより、ダッシュボード100に着脱可能に設置されている。
【0017】
図2は、スマートフォン1の構成を示している。なお、スマートフォン1は、多機能携帯電話機とも呼ばれ、電話機能も備えているが、図2には、本実施形態を説明するのに必要ない構成は省略している。
【0018】
図2に示すように、スマートフォン1は、カメラ11、加速度センサ12、位置センサ13、表示部14、入力部15、記憶部16、通信部17、制御部20を備えている。
【0019】
カメラ11は、スマートフォン1の背面に設置されており、図1に示す状態では、このカメラ11は車両前方を撮像する。加速度センサ12は、本実施形態では、3軸の加速度センサであるとする。加速度センサ12は、これら3軸それぞれの加速度の検出値である加速度検出値Ax、Ay、Azを制御部20に出力する。なお、3軸の加速度検出値を区別する必要がないときは単に加速度検出値Aと記載する。
【0020】
位置センサ13は、本実施形態では、GNSS(Global Navigation Satellite System)が備える衛星からの電波を受信するGNSS受信装置を備えている。このGNSS受信装置が受信した信号に基づいて、現在位置を逐次検出する。
【0021】
表示部14は、たとえば液晶ディスプレイであり、スマートフォン1でドライブレコーダ機能を実行させるための操作画面が表示される。また、ドライブレコーダ機能を実行中には、カメラ11が撮像した画像などが表示される。
【0022】
入力部15は、表示部14の表示画面に積層されるタッチパネルを備える。ユーザは、ドライブレコーダ機能など、種々の機能をスマートフォン1に実行させる際、この入力部15を操作する。
【0023】
記憶部16は、フラッシュメモリなどの書き換え可能な記憶部であり、ドライブレコーダプログラム16a、車両用センサ信号処理プログラム16bなど、スマートフォン1に種々の機能を実行させるためのプログラムが記憶されている。ドライブレコーダプログラム16aは、スマートフォン1をドライブレコーダとして機能させるためのプログラムである。車両用センサ信号処理プログラム16bは、上記ドライブレコーダプログラムとともに用いられ、加速度センサ12が出力した加速度検出値Aの補正を行うプログラムである。
【0024】
また、記憶部16には、動画データ16cや車両挙動データ16dも記憶される。動画データ16cは、カメラ11により撮像された車両前方の動画を示すデータである。車両挙動データ16dは、その動画データ16cを撮像中に検出あるいは演算された車両挙動を示すデータである。これら動画データ16c、車両挙動データ16dは、ドライブレコーダプログラムが実行されているときに記憶部16に記憶される。
【0025】
通信部17は、公衆電話回線網を介して、他のスマートフォンと通信を行う。また、端末間で直接通信を行う近距離無線通信機能を備えていてもよい。
【0026】
制御部20は、CPU、ROM、RAM等を備えたコンピュータであり、CPUが、RAMの一時記憶機能を利用しつつ、ROMあるいは記憶部16に記憶されているプログラムを実行することで、種々の機能を実行する。
【0027】
一例としては、CPUが、記憶部16に記憶されているドライブレコーダプログラム16a、車両用センサ信号処理プログラム16bを実行することで、制御部20は、検出値取得部21、加速度補正部22、急加速判定部23、急減速判定部24、バンプ地点判定部25、急旋回判定部26、速度算出部27、履歴保存処理部28などとして機能する。加速度補正部22は請求項の検出値補正部に相当する。なお、制御部20が実行する機能の一部または全部を、一つあるいは複数のIC等によりハードウェア的に構成してもよい。
【0028】
図3は、制御部20のCPUが、ドライブレコーダプログラム16a、車両用センサ信号処理プログラム16bを実行するときの処理を示すフローチャートである。この図3の処理のうち、ステップS4の処理は図7に詳しく示しており、この図7の処理が、車両用センサ信号処理プログラム16bを実行することで行われる処理である。
【0029】
ステップS1〜S3、S6は、検出値取得部21、速度算出部27、履歴保存処理部28が実行する処理である。ステップS4は加速度補正部22が実行する処理であり、ステップS5は、急加速判定部23、急減速判定部24、バンプ地点判定部25、急旋回判定部26が実行する処理である。
【0030】
ステップS1では、ドライブレコーダ機能の利用を開始する操作がされたか否かを判断する。たとえば表示部14に予めドライブレコーダ機能の開始アイコンが表示されており、タッチパネルにおいて、その開始アイコンに対応する位置がタッチ操作されたことにより、ステップS1の判断がYESになる。ステップS1の判断がYESになるとステップS2へ進む。ステップS1の判断がNOであればステップS1の判断を繰り返す。
【0031】
ステップS2では、ドライブレコーダ機能を開始する。具体的には、カメラ11により連続的に画像を撮影する。撮影した画像はRAMに一時的に保存する。RAMに最新の画像を保存することに合わせて、RAMに保存している画像のうち最も古い画像を消去する。これにより、RAMには、ドライブレコーダ機能を実行中は、最新の一定期間の動画データが保存される。
【0032】
また、加速度センサ12から一定周期で加速度検出値Aを取得する。加速度検出値Aの取得は検出値取得部21が行う。加速度検出値Aの取得周期は、たとえば、100msecである。速度算出部27は、位置センサ13が逐次検出した位置の時間変化から、車両の速度を逐次算出する。
【0033】
ステップS1〜S3、S6のうち、その他の処理は、履歴保存処理部28が行う。履歴保存処理部28は、加速度検出値Aも、上記一定期間分を一時的に、RAMの所定の加速度検出値保存領域に保存する。また、速度算出部27が算出した速度も、上記一定期間分をRAMに保存する。また、表示部14にドライブレコーダ機能の実行時の画面を表示する。この画面には、機能終了ボタンが表示されている。また、カメラ11が撮影した画像が表示されるようになっていてもよい。
【0034】
ステップS3では、ドライブレコーダ機能の利用を終了する操作がされたか否かを判断する。この操作は、たとえば、タッチパネルにおいて、前述した機能終了ボタンに対応する位置をタッチする操作である。ステップS3の判断がYESであれば、図3の処理を終了する。ステップS3の判断がNOであればステップS4に進む。
【0035】
ステップS4では、加速度リアルタイム補正処理を行う。この処理は前述したように、車両用センサ信号処理プログラム16bを実行することで行われる処理である。車両用センサ信号処理プログラム16bは、たとえば、割り込み処理により、ドライブレコーダプログラム16aと並列的に実行する。
【0036】
加速度リアルタイム補正処理は、加速度センサ12が出力する加速度検出値Aを逐次補正する処理である。この加速度リアルタイム補正処理の詳細を説明する前に、加速度センサ12が出力する加速度検出値Aを補正する必要がある理由を説明する。
【0037】
図4は、スマートフォン1が内蔵している加速度センサ12のy軸が鉛直方向になるように、そのスマートフォン1が設置された場合を概念的に示している。なお、図示していないが、加速度センサ12のx軸方向は車両幅方向と平行になっている。この場合、図4に示すように、加速度センサ12のz軸方向は、車両前後方向に平行になっており、かつ、水平軸110とも平行である。スマートフォン1がこの図4に示す姿勢であれば、加速度センサ12が検出するz軸方向の加速度検出値Azは、そのまま、このスマートフォン1が設置されている車両の前後方向の加速度となる。
【0038】
しかし、実際には、スマートフォン1が図4の姿勢で設置されることは少なく、図4の姿勢に対して傾いた姿勢で設置される。図5の例では、スマートフォン1は、上端が下端よりも車両前側になる姿勢になっている。そのため、加速度センサ12のy軸は、鉛直方向に対してθ1だけ傾いている。これに伴い加速度センサ12のz軸も水平軸110に対して傾いており、水平軸110とz軸との間の角度はθ1となる。
【0039】
ここで、重力加速度をgとする。なお、gは約9.8m/sである。図5の姿勢の場合、加速度センサ12のz軸が水平軸110に対して傾いているため、車両が水平な地面の上で静止していても、加速度センサ12が検出するz軸方向の加速度検出値Azはgsinθ1となり、0にはならない。このように、加速度センサ12は姿勢変化により検出値が変化するセンサである。
【0040】
さらに、車両が加速や減速をする場合、車体が路面に対して傾く。したがって、車室内に設置されているスマートフォン1の水平軸110に対する傾きも変化する。図6は、減速時のスマートフォン1の傾きの一例を説明する図である。図6において、一点鎖線は、図4におけるスマートフォン1の姿勢を示し、二点鎖線は図5におけるスマートフォン1の姿勢を示している。実線は、減速時のスマートフォン1の傾きの一例である。
【0041】
減速により、車両には、車両前後方向にαの加速度が生じる。しかし、減速により、車両は車両前端が車両後端に対して下がる。そのため、スマートフォン1の姿勢は、図5よりもさらに、上端が下がる姿勢になる。図6における加速度センサ12のy軸方向と鉛直方向の角度をθ2とすると、θ2>θ1である。
【0042】
この姿勢においては、加速度センサ12が検出するz軸方向の重力加速度成分は、図6に示すようにgsinθ2となり、静止時に検出する値であるgsinθ1よりも大きい。また、減速時には、減速により生じる加速度が、加速度センサ12のz軸の加速度検出値Azに含まれる。図6の例では、加速度センサ12のz軸は水平軸110に対してθ2傾いていることから、減速により加速度αが車両に生じた場合、加速度センサ12のz軸には、αcosθ2の加速度が生じる。
【0043】
このように、車両の減速時には、加速度センサ12のz軸には、車両の傾きと重力加速度に起因してgsinθ2が生じ、車両に生じる減速度に起因してαcosθ2が生じる。したがって、車両の減速時、加速度センサ12が検出するz軸の加速度検出値Azは、gsinθ2とαcosθ2に、ノイズN加わった値、すなわち、gsinθ2+αcosθ2+Nになる。この値は、減速により車両に生じる加速度αが同じであっても、θ2により変化する。したがって、そのままの値で、急加速や急減速などの判定を行うべきではない。そこで、加速度センサ12が出力した加速度検出値Aから、スマートフォン1の姿勢により生じる影響を除去するために、加速度リアルタイム補正を行うのである。
【0044】
なお、図4図6の説明は、加速度センサ12のz軸に生じる加速度を例にして説明したが、スマートフォン1の姿勢が変化することにより、検出する加速度が変化することは、加速度センサ12のx軸、y軸でも同じである。したがって、加速度センサ12のx軸、y軸の加速度検出値Aに対しても、加速度リアルタイム補正処理を行う。
【0045】
図7に、加速度リアルタイム補正処理を示している。なお、図7の処理は、加速度センサ12の3軸の加速度検出値Aに対して別々に行う。
【0046】
ステップS41では、最新の加速度検出値A、および過去1分間分の加速度検出値Aを、RAMの加速度検出値保存領域から取得する。すなわち、最新の時点から1分前までの加速度検出値Aを取得する。図8に示す破線の波形は、RAMに記憶されているz軸の加速度検出値Azの一例である。なお、1分は一例であり、1分よりも長い時間、あるいは1分よりも短い時間の加速度検出値Aを取得してもよい。
【0047】
ステップS42では、ステップS41で取得した加速度検出値Aをローパスフィルタに通すことで、ステップS41で取得した加速度検出値Aから低周波成分Grav(n)を抽出する。この処理は請求項の直流成分除去処理に相当する。
【0048】
このステップS42における処理は、たとえば、下記式1を行う処理である。なお、式1において、nは信号取得毎に値が1ずつ変化する整数である。
【0049】
(式1) Grav(n)=A(n)×0.1+Grav(n−1)×0.9
このステップS42で抽出できる低周波成分Grav(n)は、車両の傾きと重力加速度に起因して加速度センサ12に生じている加速度とみなすことができる。図8に示す一点鎖線の波形は、図8の破線の波形に、このステップS42を実行することで得られる低周波成分Grav(n)を示している。
【0050】
ステップS43では、ステップS41で取得した加速度検出値Aから、ステップS42で抽出した低周波成分Gravを減算する。減算した値を、加速度交流成分AACと呼ぶことにする。図8に示す実線の波形は、この加速度交流成分AACの波形を示している。ステップS43の処理により、最新の1分間分の加速度交流成分AACが得られる。
【0051】
ステップS44では、加速度交流成分AACの実効値AACe(n)を更新する。以下では、実効値AACe(n)の(n)は省略する。この実効値AACeは二乗平均平方根ともいい、一定期間の加速度交流成分AACの二乗平均平方根を算出する。この実効値AACeの算出に、直前のステップS43で算出した最新の過去1分間分の加速度交流成分AACを用いる。式2は、実効値AACeを算出する式の一例である。
【数1】
【0052】
続くステップS45では、最新の加速度交流成分AACに対して正規化を行う。具体的には、最新の加速度交流成分AACをステップS44で更新した実効値AACeで割る。
【0053】
続くステップS46では、今回のステップS45の処理で得た値および過去のステップS45の処理で得た値からなる波形に対して、ハイカットフィルタ処理を行って、高周波ノイズ成分を除去する。このステップS46の処理は、請求項の高周波除去処理に相当する。図9に実線で示す波形は、このステップS46の処理で得られた波形の一例である。なお、図9において、破線の波形、一点鎖線の波形は、図8と同じである。
【0054】
ステップS47では、ステップS46の処理で得た波形における最新の値を、補正後加速度として、急加速判定部23、急減速判定部24、バンプ地点判定部25、急旋回判定部26に出力する。
【0055】
急加速判定部23、急減速判定部24、バンプ地点判定部25、急旋回判定部26は、それぞれ、急加速、急減速、バンプ地点、急旋回と判定するための閾値を備えている。
【0056】
図3のステップS5では、これら急加速判定部23、急減速判定部24、バンプ地点判定部25、急旋回判定部26が、予め設定されている閾値と、ステップS4で決定された補正後加速度とを比較する。なお、急加速判定部23、急減速判定部24は、z軸の補正後加速度を閾値と比較し、バンプ地点判定部25はy軸の補正後加速度を閾値と比較し、急旋回判定部26は、x軸、軸の補正後加速度を閾値と比較する。比較の結果、急加速判定部23、急減速判定部24、バンプ地点判定部25、急旋回判定部26の少なくとも一つが、補正後加速度が閾値を超えていると判断した場合には、ステップS5の判断がYESになる。ステップS5の判断がYESであればステップS6に進み、NOであればステップS3に戻る。
【0057】
ステップS6では、RAMに記憶されている動画データから、予め設定された期間分の動画データを記憶部16に保存する。この期間は、たとえば、ステップS6の判断がYESになった時点を基準として前後20秒などである。また、RAMに記憶されている車両挙動データから、動画データと同じ期間のデータも、動画データと関連付けて記憶部16に保存する。車両挙動は、ここでは、加速度と速度である。ステップS6の処理を実行後は、ステップS3に戻る。
【0058】
<変形例1>
上記実施形態では、加速度検出値Aから低周波成分Gravを減算して加速度交流成分AACを求め(S43)、その加速度交流成分AACの実効値AACeにより加速度検出値Aを正規化していた(S44、S45)。しかし、先に正規化を行い、次いで、低周波成分Gravの減算を行ってもよい。すなわち、低周波成分Gravを減算する前の加速度検出値Aの実効値Aeを更新し、その実効値Aeで加速度検出値Aを正規化した後、正規化後の低周波成分Gravを求め、その低周波成分Gravを正規化後の値から減算してもよい。正規化と、低周波成分Gravの減算の順序を入れ替えても、前述の実施形態と同じ効果が得られる。
【0059】
図10は、この変形例1における効果を説明するグラフである。このグラフは、同一の車両に、機種の異なる2つのスマートフォン1を設置して、同時に加速度検出値Azを検出した結果、および、その加速度検出値Azを補正した補正後加速度を示している。
【0060】
図10の上段は、z軸の加速度検出値Azと、加速度検出値Azをその加速度検出値Azの実効値で正規化した正規化加速度の変化を示すグラフである。下段は、その正規化加速度、正規化加速度の低周波成分GravZ、補正後加速度の変化を示すグラフである。上段、下段とも、右側のグラフと左側のグラフは、互いにスマートフォン1の機種が異なる。
【0061】
上段の左右のグラフを比較すると分かるように、同じ車両において同時に測定しているにもかかわらず、z軸の加速度検出値Azは、左のグラフではピーク値が10を越えているのに対して、右のグラフではピーク値は9程度である。すなわち、ピーク値が異なっている。また、これらのピーク値を検出している時間Tも異なっている。この相違が生じている第1の理由は、スマートフォン1の設置姿勢が異なるためである。第2の理由は、スマートフォン1の機種により用いられている加速度センサ12の型式が異なり、加速度センサ12の型式が異なると、同じ加速度に対する感度が異なるためである。第3の理由は、スマートフォン1が異なれば、混入するノイズが異なるからである。
【0062】
しかし、下段のグラフに示すように、変形例1では、この加速度検出値Azを、実効値で正規化して正規化加速度とし、さらに、この正規化加速度の低周波成分GravZを抽出している。そして、正規化加速度から低周波成分GravZを減算して求めた補正後加速度は、左右のグラフでほぼ同じ波形となっている。そして、ピーク値は左右のグラフとも約5.5になっており、また、そのピーク値になっている時間Tもほぼ同じになっている。
【0063】
<実施形態、変形例1の効果>
以上、説明した実施形態、変形例1によれば、加速度センサ12は、車両に生じる加速度により変化する加速度検出値Aを出力する。この加速度検出値Aは、加速度センサ12の型式の違いによる感度差や、スマートフォン1の設置姿勢の違いによる感度差の影響を受けた値になっている。しかし、上述した実施形態や変形例1では、加速度補正部22が、加速度検出値Aを、過去1分間の加速度検出値Aから演算した実効値AACeで割ることにより正規化する。この正規化により、型式の違いによる感度差や、設置姿勢等の検出条件による感度差の影響を低減できる。
【0064】
また、前述の実施形態では、加速度検出値Aから低周波成分Gravを除去している(S42、S43)。これにより、補正後加速度(S47)は、スマートフォン1の設置姿勢の影響がより低減された値となる。なお、この効果は、実施形態とは、正規化と、低周波成分Gravの減算の順序を入れ替えた変形例1でも得られる。
【0065】
また、前述の実施形態では、加速度検出値Aから低周波成分Gravを除去する処理として、加速度検出値Aから低周波成分Gravを減算している(S43)。これにより、よりスマートフォン1の設置姿勢の影響を低減できる。この処理は変形例1でも行っているので、図10を例にして、スマートフォン1の設置姿勢の影響を低減できていることを説明する。
【0066】
加速度検出値Aをハイパスフィルタに通しても、低周波成分Gravはある程度は除去できる。しかし、この場合には、加速度検出値Aの波形が鈍るのみで、波形のレベルが、図10の補正後加速度のレベルまで低下しない可能性がある。波形のレベルが、図10の補正後加速度のレベルまで低下しないことは、低周波成分Gravの影響を十分に除去できていないことを意味する。これに対して、前述の実施形態のように、加速度検出値Aから低周波成分Gravを減算すれば、低周波成分Gravの影響を十分に除去できる。その結果、図10に示すように、左右のグラフで加速度検出値Azの波形は大きく相違しているにも関わらず、補正後加速度の波形は、左右のグラフでほぼ形状が一致するようになる。
【0067】
このように、前述の実施形態や変形例1によれば、よりスマートフォン1の設置姿勢の影響を低減できる。スマートフォン1は、携帯型の装置であることから、着脱可能に車室内に設置される。このため、スマートフォン1は、設置姿勢の変化が使用ごとに異なる可能性が高い。したがって、前述の実施形態や変形例1のようにして設置姿勢の影響を低減する意義が大きい。
【0068】
また、前述の実施形態では、ハイカットフィルタ処理(S46)を行っているため、加速度検出値Aから高周波ノイズも除去される。
【0069】
以上、本発明の実施形態を説明したが、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、次の変形例も本発明の技術的範囲に含まれ、さらに、下記以外にも要旨を逸脱しない範囲内で種々変更して実施することができる。
【0070】
<変形例2>
たとえば、前述の実施形態では、センサとして加速度センサ12を例示したが、本発明が適用できるセンサは加速度センサに限られない。たとえば、物理量として角速度を検出する角速度センサを用いることもできる。角速度センサを用いる場合、バンプ地点判定部25、急旋回判定部26は、前述の実施形態や変形例1と同様にして補正した角速度を補正後加速度にとともに用いて、あるいは、補正後加速度に代えて用いて判定を行う。また、加速度センサ12、角速度センサ以外のセンサ、たとえば、ジャイロセンサなどを用いることもできる。
【0071】
<変形例3〜5>
前述の実施形態では、車両用センサ信号処理装置としてスマートフォン1を例示したが、ドライブレコーダを車両用センサ信号処理装置として用いてもよい。このドライブレコーダは、車室内に、車両のユーザが設置するものでもよく(変形例3)、また、荷室など、車両内の車室外の部分に、車両出荷時に設置されているものでもよい(変形例4)。なお、前者の場合には、設置姿勢が車両ごとに異なる可能性が高いので、本発明を適用する意義が大きい。
【0072】
また、タブレット型コンピュータを車両用センサ信号処理装置として用いてもよい(変形例5)。なお、タブレット型コンピュータやスマートフォン1は、ユーザがプログラムをインストールすることで種々の機能を実現できる。したがって、車両用センサ信号処理プログラム16bをインストールすれば、種々の機種のタブレット型コンピュータやスマートフォン1を車両用センサ信号処理装置として用いることができる。しかし、これらタブレット型コンピュータやスマートフォン1に内蔵されている加速度センサ等のセンサは型式が様々である可能性が高い。また、車両で用いられる際の設置姿勢も、車両に設置するごとに変化する可能性が高い。よって、型式の違いによる感度差や、設置姿勢等の検出条件による感度差の影響を低減できる本発明を適用する意義が特に大きい。
【0073】
<変形例6>
前述の実施形態では、ハイカットフィルタ処理(S45)を、正規化した後の値に対して行っていたが、ハイカットフィルタ処理を正規化の前に行ってもよい。
【0074】
<変形例7>
前述の実施形態では、正規化(S44)は、実効値を用いて行っていたが、実効値以外の代表値を、実効値に代えて用いて正規化を行ってもよい。実効値以外の代表値としては、たとえば、中央値、最頻値、平均値などがある。
【0075】
<変形例8>
前述の実施形態では、式1により、加速度検出値Aから低周波成分Grav(n)を抽出していたが、フーリエ変換などの周波数解析手法により、低周波成分Grav(n)を抽出してもよい。
【0076】
<変形例9>
前述の実施形態では、低周波成分Gravの除去と、ハイカットフィルタ処理とを別々に行っていたが、バンドパスフィルタを使って、低周波成分および高周波成分を同時に除去してもよい。
【符号の説明】
【0077】
1:スマートフォン、 11:カメラ、 12:加速度センサ、 13:位置センサ、 14:表示部、 15 :入力部、 16:記憶部、 16a:ドライブレコーダプログラム、 16b:車両用センサ信号処理プログラム、 16c:動画データ、 16d:車両挙動データ、 17:通信部、 20:制御部、 21:検出値取得部、 22:加速度補正部、 23:急加速判定部、 24:急減速判定部、 25:バンプ地点判定部、 26:急旋回判定部、 27:速度算出部、 28:履歴保存処理部、 100:ダッシュボード、 110:水平軸
図1
図2
図3
図4
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図10