(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2015-184218(P2015-184218A)
(43)【公開日】2015年10月22日
(54)【発明の名称】接触燃焼式ガスセンサ
(51)【国際特許分類】
G01N 27/16 20060101AFI20150925BHJP
【FI】
G01N27/16 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2014-62679(P2014-62679)
(22)【出願日】2014年3月25日
(71)【出願人】
【識別番号】000190301
【氏名又は名称】新コスモス電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】特許業務法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 洋
【テーマコード(参考)】
2G060
【Fターム(参考)】
2G060AA02
2G060AB17
2G060AE19
2G060AF07
2G060BA03
2G060BB03
2G060BB17
(57)【要約】
【課題】ガス感応部の耐久性を向上させた接触燃焼式ガス検知素子を提供する。
【解決手段】被検知ガスと感応する検出素子10を備えた接触燃焼式ガスセンサにおいて、検出素子10は、貴金属線材11を覆い、被検知ガスと接触するガス感応部12を有し、ガス感応部12は、被検知ガスに対して活性を有する貴金属の第一触媒を担持する第一触媒担体を備えた外層12Aと、被検知ガスに対して第一触媒より高い活性を有する貴金属の第二触媒を担持する第二触媒担体を備えた内層12Bと、を形成してある。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検知ガスと感応する検出素子を備えた接触燃焼式ガスセンサにおいて、
前記検出素子は、貴金属線材を覆い、被検知ガスと接触するガス感応部を有し、
前記ガス感応部は、被検知ガスに対して活性を有する貴金属の第一触媒を担持する第一触媒担体を備えた外層と、
被検知ガスに対して前記第一触媒より高い活性を有する貴金属の第二触媒を担持する第二触媒担体を備えた内層と、を形成してある接触燃焼式ガスセンサ。
【請求項2】
前記外層の平均粒子径が20〜100nmであり、前記内層の平均粒子径が200〜1000nmである請求項1に記載の接触燃焼式ガスセンサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被検知ガスと感応する検出素子を備えた接触燃焼式ガスセンサに関する。
【背景技術】
【0002】
接触燃焼式ガス検知素子は、アルミナ等の金属酸化物焼結体に白金等の貴金属触媒を担持したガス感応部としての燃焼触媒部を、白金等の貴金属線に設けてある。当該燃焼触媒部において検知対象となる被検知ガスを貴金属触媒と接触・燃焼させ、燃焼の際に生じる温度変化を貴金属線の抵抗値の変化として検出する。被検知ガスの燃焼熱は被検知ガスの濃度に比例し、貴金属線の抵抗値は燃焼熱に比例するため、被検知ガスの燃焼による貴金属線の抵抗の変化値を測定することによって被検知ガスの濃度を測定することができる。
【0003】
尚、本発明における従来技術となる接触燃焼式ガス検知素子は、一般的な技術であるため、特許文献等の従来技術文献は示さない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の接触燃焼式ガス検知素子では、上述の通り、ガス感応部において被検知ガスの燃焼に伴う温度変化(貴金属線の抵抗値の変化)を検出するものであるため、貴金属触媒の活性は低下し易く、これによってガス感応部は劣化し易くなっていた。
【0005】
従って、本発明の目的は、ガス感応部の耐久性を向上させた接触燃焼式ガス検知素子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するための本発明に係る接触燃焼式ガスセンサは、被検知ガスと感応する検出素子を備えた接触燃焼式ガスセンサであって、その第一特徴構成は、前記検出素子は、貴金属線材を覆い、被検知ガスと接触するガス感応部を有し、前記ガス感応部は、被検知ガスに対して活性を有する貴金属の第一触媒を担持する第一触媒担体を備えた外層と、被検知ガスに対して前記第一触媒より高い活性を有する貴金属の第二触媒を担持する第二触媒担体を備えた内層と、を形成した点にある。
【0007】
本構成によれば、接触燃焼式ガスセンサを起動して暫くの間(例えば外層の第一触媒が劣化するまでの時間)は、被検知ガスはガス感応部の表面付近を構成する外層を拡散する。即ち、外層において第一触媒が加熱されて被検知ガスと燃焼反応する。第一触媒は(第二触媒よりも)活性が低いため、被検知ガスの燃焼反応はそれほど鋭敏には行われない。一方、雰囲気中に存在する有機シリコーンガスや硫黄等の干渉ガスは、通常、第一触媒において被検知ガスよりも燃焼反応し易いと考えられる。そのため、当該干渉ガスは、外層においてその大部分が燃焼して除去される。
【0008】
接触燃焼式ガスセンサを起動してある程度の時間(例えば外層の第一触媒が劣化する程度の時間)が経過すれば、被検知ガスは外層を通過して内層に到達する。内層に到達する被検知ガスは、外層で反応しなかった被検知ガスである。内層においては、第二触媒が加熱されて被検知ガスと燃焼反応する。第二触媒は第一触媒よりも活性が高いため、高感度で被検知ガスと燃焼反応する。また、干渉ガスは外層において大部分が燃焼するため、内層に到達し難くなり、第二触媒は干渉ガスの影響を受け難い。
【0009】
従って、接触燃焼式ガスセンサを起動した初期においては、被検知ガスの燃焼反応を外層にて行わせることができるとともに、干渉ガスを除去することができる。その後、内層においては、概ね被検知ガスの燃焼反応のみを行わせることができる。そのため、内層の第二触媒の劣化を抑制することができるため、ガス感応部の耐久性を向上させることができる。
【0010】
また、経時的には、ガス感応部の表面に形成された外層の第一触媒から劣化していくが、第一触媒が劣化したとしても、外層の粒子構造は維持される。よって、外層は干渉ガスに対してフィルタ層としての役割を果たすことができるため、長期的なスパンを考慮した場合であっても、内層における第二触媒は干渉ガスの影響を受け難くなり、第二触媒の劣化を長期に亘って抑制することができるため、ガス感応部の耐久性をより向上させることができる。
【0011】
また、外層の第一触媒が劣化したとしても、内層においては活性の高い第二触媒を備えるため、被検知ガスの燃焼反応を効率よく行わせることができる。
【0012】
従って、本発明の接触燃焼式ガスセンサは、検出素子が外層および内層を形成したガス感応部を有することで、干渉ガスの影響を少なくした状態で、被検知ガスに対して安定した感度を有するものとなる。
【0013】
本発明に係る接触燃焼式ガスセンサの第二特徴構成は、前記外層の平均粒子径を20〜100nmとし、前記内層の平均粒子径を200〜1000nmとした点にある。
【0014】
本構成によれば、外層は粒径の細かい緻密な層とし、内層は粒径が大きい材料で形成されたポーラス構造の層となっているため、外層および内層においてガスが拡散するスピードを異ならせるように制御することができる。そのため、例えば干渉ガスは外層を緩やかに拡散し、外層においてその大部分を確実に燃焼させることができるため、当該干渉ガスを確実に除去することができる。また、被検知ガスが内層を拡散するスピードは比較的速いため、内層において効率よく被検知ガスと燃焼反応させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図5】メタンガスに対するガス感度特性を調べた結果を示したグラフである。
【
図6】検出素子の劣化率を算出した結果を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
図1,2に示すように、本発明の接触燃焼式ガスセンサXは、被検知ガス(水素ガスやメタンなどの可燃性ガス)と感応する検出素子10と、環境の変化等、被検知ガスの燃焼以外の温度変化に基づく検出素子10の抵抗値の変化を補正する温度補償素子20と、固定抵抗R1,R2と、をブリッジ回路に組み込んで構成してある。ブリッジ回路は、電源Eによって常時約90〜120mAの電流を供給し、検出素子10を被検知ガスが接触燃焼し易い温度に保持してある。
【0017】
検出素子10は、コイル状の貴金属線材11を覆い、被検知ガスと接触するガス感応部12を有する。検出素子10は、被検知ガス中に置かれたとき、通電により発熱することで自身が備える触媒が加熱されて被検知ガスと反応し、その反応熱に応じて(被検知ガスの濃度に応じて)出力値が変化する。貴金属線11において、材質、線径、コイル径、コイル巻数等は、従来の接触燃焼式ガス検知素子に使用するものと同様で、特に限定されない。貴金属線11の材質としては白金等を適用できる。
【0018】
ガス感応部12は、被検知ガスに対して活性を有する貴金属の第一触媒を担持する第一触媒担体を備えた外層12Aと、被検知ガスに対して第一触媒より高い活性を有する貴金属の第二触媒を担持する第二触媒担体を備えた内層12Bと、を形成してある。
【0019】
第一触媒は、被検知ガスに対して活性を有する貴金属の触媒であればよく、白金(Pt)や白金・パラジウム(PtPd)などを使用することができる。第一触媒担体は第一触媒を担持するものであれば特に限定されるものではないが、例えばアルミナ、シリカアルミナ等の金属酸化物焼結体を適用することができる。
【0020】
第二触媒は、被検知ガスに対して第一触媒より高い活性を有する貴金属であればよく、例えば第一触媒が白金や白金・パラジウムである場合は第二触媒をパラジウム(Pd)とすることができる。第二触媒担体は第二触媒を担持するものであれば特に限定されるものではないが、例えばアルミナ、シリカアルミナ等の金属酸化物焼結体を適用することができる。
【0021】
また、上述したように第一触媒および第二触媒において異なる種類の貴金属とせずに、同じ種類の貴金属とする場合であっても、担持量を異ならせる(第一触媒の担持量<第二触媒の担持量)ことで、活性を異ならせる(第一触媒の活性<第二触媒の活性)ことができる。
【0022】
また、ガス感応部12においては、外層12Aの平均粒子径を20〜100nmとし、内層12Bの平均粒子径を200〜1000nmとしてある。即ち、本構成では、外層12Aを粒径の細かい材料を用いて緻密な層とし、内層12Bを粒径が大きい材料を用いて外層12Aよりも粒子間の隙間が大きいポーラス構造とすることにより、ガス感応部12における各層のガス拡散を制御する構造となっている
【0023】
各層の平均粒子径粒子径は、金属酸化物焼結体に貴金属触媒を混合した状態で焼結する際の温度を変更することで制御することができる。
外層12Aの平均粒子径を20〜100nmとするには、第一触媒を担持する第一触媒担体を1100〜1150℃程度で焼成すればよい。また、内層12Bの平均粒子径を200〜1000nmとするには、第二触媒を担持する第二触媒担体を1175〜1500℃程度で焼成すればよい。
【0024】
本構成では、接触燃焼式ガスセンサXを起動して暫くの間(例えば外層12Aの第一触媒が劣化するまでの時間)は、被検知ガス(メタンガス)はガス感応部12の表面付近を構成する外層12Aを拡散する(
図3)。即ち、外層12Aにおいて第一触媒が加熱されて被検知ガスと燃焼反応する。このとき、外層12Aは粒径の細かい緻密な層であるため、被検知ガスが外層12Aを拡散するスピードは比較的緩やかとなる。第一触媒は(第二触媒よりも)活性が低いため、被検知ガスの燃焼反応はそれほど鋭敏には行われない。一方、雰囲気中に存在する有機シリコーンガスや硫黄等の干渉ガスは、通常、第一触媒において被検知ガスよりも燃焼反応し易いと考えられる。そのため、当該干渉ガスは、外層12Aを緩やかに拡散して外層12Aにおいてその大部分が燃焼して除去される。
【0025】
接触燃焼式ガスセンサXを起動してある程度の時間(例えば外層12Aの第一触媒が劣化する程度の時間)が経過すれば、被検知ガスは外層12Aを通過して内層12Bに到達する。内層12Bに到達する被検知ガスは、外層12Aで反応しなかった被検知ガスである。内層12Bにおいては、第二触媒が加熱されて被検知ガスと燃焼反応する。第二触媒は第一触媒よりも活性が高いため、高感度で被検知ガスと燃焼反応する。また、干渉ガスは外層12Aにおいて大部分が燃焼するため、内層12Bに到達し難くなり、第二触媒は干渉ガスの影響を受け難い。内層12Bは粒径が大きい材料で形成されたポーラス構造の層となっているため、被検知ガスが内層12Bを拡散するスピードは比較的速い。そのため、内層12Bにおいて効率よく被検知ガスと燃焼反応させることができる。
【0026】
従って、接触燃焼式ガスセンサXを起動した初期においては、被検知ガスの燃焼反応を外層12Aにて行わせることができるとともに、干渉ガスを除去することができる。その後、内層12Bにおいては、概ね被検知ガスの燃焼反応のみを行わせることができる。そのため、内層12Bの第二触媒の劣化を抑制することができるため、ガス感応部の耐久性を向上させることができる。
【0027】
また、経時的には、ガス感応部12の表面に形成された外層12Aの第一触媒から劣化していくが(
図4)、第一触媒が劣化したとしても、外層12Aの緻密な粒子構造は維持される。よって、外層12Aは干渉ガスに対してフィルタ層としての役割を果たすことができるため、長期的なスパンを考慮した場合であっても、内層12Bにおける第二触媒は干渉ガスの影響を受け難くなり、第二触媒の劣化を長期に亘って抑制することができるため、ガス感応部の耐久性をより向上させることができる。
【0028】
また、外層12Aの第一触媒が劣化したとしても、内層12Bにおいては活性の高い第二触媒を備えるため、被検知ガスの燃焼反応を効率よく行わせることができる。
【0029】
従って、本発明の接触燃焼式ガスセンサXは、検出素子10が外層12Aおよび内層12Bを形成したガス感応部12を有することで、干渉ガスの影響を少なくした状態で、被検知ガスに対して安定した感度を有するものとなる。
【0030】
温度補償素子20は、検知素子10と同様に可燃性ガス中に置かれて通電されることで、検知素子10の温度補償を行うための素子であり、検知素子10が有する触媒による燃焼熱に応じた出力値の変化分のみ取り出すために用いられる。
温度補償素子20は、例えば検出素子10と同等の貴金属線材の表面をアルミナ等の金属酸化物焼結体で被覆することにより形成されている。温度補償素子20は触媒を有しておらず、触媒反応による可燃性ガスの燃焼が生じないため、被検出ガスに対して不活性とされる。当該温度補償素子20は、通電されることにより発熱してその周囲を覆うアルミナ等の金属酸化物焼結体を加熱するものであり、熱により自らの抵抗値が変化する。
【0031】
通常、接触燃焼式ガスセンサXは、可燃性ガスが検出素子10の触媒に接触した際に生じる燃焼反応の発熱により高温となった検出素子10と、被検出ガスによる燃焼反応が発生せず検出素子10よりも低温の温度補償素子20との間に電気抵抗値の差が生ずることを利用し、雰囲気温度による電気抵抗値の変化分を相殺して可燃性ガスの濃度を検出することができる。
【0032】
温度補償素子20は、周囲温度の変化の影響を相殺するために使用する。すなわち、センサ素子のガスとの反応による温度変化は数10℃程度と小さく、周囲温度が例えば0℃〜40℃の範囲で変化すると、ガスとの反応によるセンサ出力変化と周囲温度の変化によるセンサ出力変化が区別できないため、検出素子10と同程度の抵抗値を有し周囲温度に対して同じような抵抗変化をする温度補償素子20を検出素子10と並列に接続して、検出素子10の検出電圧に周囲温度の影響が現れないようにしている。
【実施例】
【0033】
〔実施例1〕
本発明の実施例について説明する。
本発明の接触燃焼式ガスセンサXにおける検出素子10を従来公知の手法により作製した。即ち、貴金属線材11として白金または白金合金をコイル状に加工したものに、内層12Bとしてアルミナ(第二触媒担体)にパラジウム(第二触媒)を10wt%担持し、外層12Aとしてアルミナ(第一触媒担体)に白金或いは白金・パラジウム(第一触媒)をそれぞれ10wt%担持したガス感応部12を、素子径が0.2mm程度(内層12Bの粒子径0.17mm)の略球形となるようにした。外層12Aは、1150℃で焼成して平均粒子径を20〜100nmとし、内層12Bは1300℃で焼成して平均粒子径を200〜1000nmとした。
【0034】
このようにして作製した検出素子10をブリッジ回路に組み込み、メタンガス(25%LEL)に対するガス感度特性を調べた。本発明例1では外層12Aの第一触媒を白金・パラジウムとし、本発明例2では外層12Aの第一触媒を白金とした。
比較例として、検出素子のガス感応部を一層構造としたものを使用した。比較例1のガス感応部は、アルミナに白金・パラジウムを10wt%担持させたもの(1150℃で焼成)とし、比較例2のガス感応部は、アルミナにパラジウムを10wt%担持させたもの(1300℃で焼成)とした。
結果を
図5に示した。
【0035】
この結果、本発明例1,2は、100日経過後のガス感度が7mV以上であり、比較例1,2は100日経過後のガス感度が6mV以下であった。そのため、ガス感応部12が二層で形成される本発明例1,2は、ガス感応部12が一層で形成される比較例1,2より優れたガス感度を有しているものと認められた。
【0036】
このガス感度の結果に基づいて、検出素子10の劣化率を算出した。劣化率は、経過日数0日のガス感応部の劣化率を0%として算出した。結果を
図6に示した。
【0037】
この結果、本発明例1,2は100日経過後の劣化率が45〜55%程度であり、比較例1,2は100日経過後の劣化率が75〜95%以下程度であった。そのため、ガス感応部12が二層で形成される本発明例1,2は、ガス感応部12が一層で形成される比較例1,2より優れた耐久性を有しているものと認められた。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明は、被検知ガスと感応する検出素子を備えた接触燃焼式ガスセンサに利用できる。
【符号の説明】
【0039】
X 接触燃焼式ガスセンサ
10 検出素子
11 貴金属線材
12 ガス感応部
12A 外層
12B 内層