特開2015-185703(P2015-185703A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2015-185703(P2015-185703A)
(43)【公開日】2015年10月22日
(54)【発明の名称】リアクトル
(51)【国際特許分類】
   H01F 37/00 20060101AFI20150925BHJP
   H01F 41/12 20060101ALI20150925BHJP
【FI】
   H01F37/00 J
   H01F37/00 G
   H01F37/00 M
   H01F41/12 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2014-61198(P2014-61198)
(22)【出願日】2014年3月25日
(71)【出願人】
【識別番号】395011665
【氏名又は名称】株式会社オートネットワーク技術研究所
(71)【出願人】
【識別番号】000183406
【氏名又は名称】住友電装株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100095669
【弁理士】
【氏名又は名称】上野 登
(72)【発明者】
【氏名】高田 崇志
【テーマコード(参考)】
5E044
【Fターム(参考)】
5E044AC01
5E044AD01
5E044CB08
(57)【要約】      (修正有)
【課題】ケースとの界面において注型樹脂に割れが発生するのが抑制されたリアクトルを提供する。
【解決手段】リアクトル1は、コイル10と、コイル10が収容されたケース30と、ケース30の内部に充填された硬化性樹脂を含んでなる注型樹脂40と、を有する。ケース30の内壁面32aには、離型剤が存在している。または、ケース30の内壁面32aと注型樹脂40の間の50℃における剪断接着力が15MPa未満とされている。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コイルと、前記コイルが収容されたケースと、前記ケースの内部に充填された硬化性樹脂を含んでなる注型樹脂と、を有し、
前記ケースの内壁面には、離型剤が存在していることを特徴とするリアクトル。
【請求項2】
前記ケース内壁面と前記注型樹脂の間に、空隙を有することを特徴とする請求項1に記載のリアクトル。
【請求項3】
コイルと、前記コイルが収容されたケースと、前記ケースの内部に充填された硬化性樹脂を含んでなる注型樹脂と、を有し、
前記ケースの内壁面と前記注型樹脂の間の50℃における剪断接着力が15MPa未満であることを特徴とするリアクトル。
【請求項4】
前記ケースの内壁面は、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、芳香族ナイロン樹脂、液晶ポリマーのいずれかよりなることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載のリアクトル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リアクトルに関し、さらに詳しくは、コイルが収容されたケースに注型樹脂が注入されたリアクトルに関する。
【背景技術】
【0002】
ハイブリッド自動車や、電気自動気車、燃料電池自動車等の車両に搭載されるDC−DCコンバータ等の電力変換装置には、コイルを備えてなるリアクトルが用いられる。リアクトルの構造は、例えば特許文献1に開示されている。この種の従来一般のリアクトルにおいては、磁心(コア)を挿通されたコイルがケースの中に収容され、ケース内部の空間には、注型樹脂(封止樹脂)が充填されている。注型樹脂は、コイルの絶縁を維持する役割に加え、通電時に発熱するコイルの放熱(冷却)を促進するという役割を有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2012−253384号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のようなリアクトルにおいては、注型樹脂が硬化性樹脂より構成されることが多く、この場合には、ケースの壁面と注型樹脂の間に接着が生じやすい。すると、注型樹脂の硬化収縮や、低温または冷熱衝撃のような周辺環境熱の影響によって、ケースとの界面から、注型樹脂に割れが生じやすくなる。注型樹脂の割れは、絶縁保持等、注型樹脂の機能を低下させる可能性があり、さらに、リアクトルの外観も損なう。
【0005】
本発明の解決しようとする課題は、ケースとの界面において注型樹脂に割れが発生するのが抑制されたリアクトルを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため本発明にかかる第一のリアクトルは、コイルと、前記コイルが収容されたケースと、前記ケースの内部に充填された硬化性樹脂を含んでなる注型樹脂と、を有し、前記ケースの内壁面には、離型剤が存在していることを要旨とする。
【0007】
ここで、前記リアクトルは、前記ケース内壁面と前記注型樹脂の間に、空隙を有することが好ましい。
【0008】
本発明にかかる第二のリアクトルは、コイルと、前記コイルが収容されたケースと、前記ケースの内部に充填された硬化性樹脂を含んでなる注型樹脂と、を有し、前記ケースの内壁面と前記注型樹脂の間の50℃における剪断接着力が15MPa未満であることを要旨とする。
【0009】
上記第一のリアクトルおよび第二のリアクトルにおいて、前記ケースの内壁面は、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、芳香族ナイロン樹脂、液晶ポリマーのいずれかよりなることが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
上記発明にかかる第一のリアクトルにおいては、ケースの内壁面に離型剤が存在していることにより、ケースの内壁面と硬化性を有する注型樹脂との間の接着が弱められている。特に、ケース内壁面と注型樹脂の間に空隙を有する場合には、両者の間に接着が形成されていない。また、上記発明にかかる第二のリアクトルにおいては、ケース内壁面と注型樹脂の間の剪断接着力が所定値未満に制限されている。これらの効果により、注型樹脂とケース内壁面の界面に、注型樹脂の硬化に伴う硬化収縮応力や、ケースと注型樹脂の線膨張係数の差による応力が印加されにくいため、硬化収縮や周辺環境熱に起因する注型樹脂の割れが起こりにくくなっている。
【0011】
ここで、ケースの内壁面が、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、芳香族ナイロン樹脂、液晶ポリマーのいずれかよりなる場合には、ケースが高い耐熱性と機械強度を有する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の一実施形態にかかるリアクトルを示す斜視図である。注型樹脂は除いて示している。
図2】上記リアクトルの断面図である(断面を示すハッチングは適宜省略している)。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を用いて本発明の実施形態を詳細に説明する。
【0014】
図1および図2に、本発明の一実施形態にかかるリアクトル1の構成を示す。リアクトル1は、全体の物理的な構造としては、特許文献1に記載されるリアクトルと同様の構造を有し、ケース30の側壁面32と注型樹脂40の界面の構成に特徴を有する。
【0015】
<リアクトルの全体構成>
図1,2に示すように、リアクトル1は、コイル10と磁心20の組合体を、ケース30に収容した構造を基本としてなる。
【0016】
コイル10は、導体線の外周を絶縁被覆層によって被覆した素線を、螺旋状に巻き回したものである。コイル10は、2本の直線部10a,10aを、巻き回し方向を揃えて2本並べた全体形状を有している。導体線は、例えば、銅または銅合金、アルミニウムまたはアルミニウム合金等の金属よりなる。絶縁被覆層は、例えば、ポリアミドイミドに代表されるエナメル材よりなる。また、素線の形状としては、放熱(冷却)性を上げ、また巻き回しの密度を高める観点から、平角線であることが好ましい。そして、コイル10は、固定の容易性等の観点から、角柱の角を丸めた形状を有する角型コイルとして形成されることが好ましい。
【0017】
コイル10は、各直線部10aの中空部に磁心20が挿入された組合体とされ、ケース30中に収容される。磁心20は、例えば、磁性材料よりなるコア部21と非磁性材料よりなるギャップ部22が交互に接続された構造を有する。組合体においては、さらに、コイル10と磁心20の間に適宜インシュレータが介在されてもよい(不図示)。
【0018】
ケース30は、コイル10と磁心20の組合体が載置される底面31と、底面31の外周に立設された側壁面32を有し、底面31と対向する側壁面32の上部には、開口部33が設けられている。底面31は、高い熱伝導性を有し、コイル10の放熱(冷却)を促進できるように、アルミニウムまたはアルミニウム合金等の金属よりなることが好ましい。一方、側壁面32は、絶縁性等の観点から、樹脂材料よりなることが好ましい。具体的な樹脂種としては、高い耐熱性と機械的強度を有するという観点から、ポリフェニレンサルファイド(PPS)樹脂、ポリブチレンテレフタレート(PBT)樹脂、芳香族ナイロン(Ny)樹脂、液晶ポリマー(LCP)等を挙げることができる。これらの中で、特に高い耐熱性と機械的強度を有する点において、PPS樹脂が特に好ましい。底面31と側壁面32は、適宜パッキンを介して、接着剤やボルト等によって、相互に固定されている。
【0019】
コイル10と磁心20の組合体は、開口部33からケース30に収容され、底面31上に載置される。コイル10は、底面31に対して一体的に固定されていることが好ましい。この場合、底面31へのコイル10の固定は、接着性を有する絶縁性樹脂材料を含んでなる接合層(不図示)を介して行われる。つまり、コイル10は、接合層を介して、底面31に直接接触し、コイル10と底面31の間に、注型樹脂40は介在しない。このように、コイル10がケース30の底面31に一体的に固定されることで、コイル10が通電によって発熱しても、ケース30の底面31を介して、効率的に放熱(冷却)が行われる。
【0020】
コイル10と磁心20の組合体を収容したケース30の内部の空間には、注型樹脂40が充填されている。注型樹脂40は、後述する離型剤および空隙Gが占める部位を除いて、コイル10とケース30の側壁面32の間の空間を満たすとともに、コイル10のコイルターン(螺旋の各ピッチ)の間の空間を満たしている。注型樹脂40は、コイル10の絶縁を保つ役割を果たす。ここで、コイル10の絶縁とは、コイル10全体の外部に対する絶縁のみならず、コイルターン間の絶縁も含むものである。
【0021】
注型樹脂は、硬化性樹脂を主成分としてなっている。硬化性樹脂としては、熱硬化性樹脂、光硬化性樹脂、湿気硬化性樹脂、二液反応硬化性樹脂等を挙げることができる。特に、硬化の容易性の観点から、熱硬化性樹脂を用いることが好ましい。また、樹脂種としては、特に限定されないが、シリコーン樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、フェノール樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリウレア樹脂などを挙げることができる。これらは単独で用いてもよいし、2種以上組み合わせて用いてもよい。注型樹脂40は、樹脂成分に加え、フィラー、着色用顔料、粘度調整剤、老化防止剤、保存安定剤、分散剤などの添加剤を適宜添加されてもよい。
【0022】
リアクトル1は他に、端子81、各種センサ82等、運転および制御に必要な部材を適宜備える。組み上げられたリアクトル1は、ケース30の底面31にて、DC−DCコンバータ中等、所定の取付部位に固定される。底面31と接触する取付部位には、適宜、水冷機構等の冷却機構が設けられてもよい。この場合、コイル10は、底面31を介して、冷却機構によって積極的に冷却されることになる。
【0023】
<ケース側壁面と注型樹脂の界面の構成>
本実施形態にかかるリアクトル1においては、ケース30の側壁面32の内側面32aと注型樹脂40との界面において、接着の状態が制御されている。
【0024】
ケース30の側壁面32の内側面32aには、離型剤(不図示)が塗布、散布等されて、存在している。離型剤は、樹脂製品の成形時に、型から樹脂製品を取出しやすくするために用いられる物質であり、型に対する樹脂の接着力を弱める働きをする。
【0025】
側壁面32の内側面32aに離型剤が存在していることにより、離型剤がない場合と比べ、側壁面32と注型樹脂40の間の接着力が弱められている。離型剤が存在しない場合には、側壁面32に注型樹脂40が強固に接着する。これにより、注型樹脂40の硬化時に、注型樹脂40が自由に収縮することができず、側壁面32との界面に硬化収縮応力が残存し、この界面において、注型樹脂40の割れを引き起こすことがある。また、硬化収縮応力によって割れが発生しなかった場合にも、周辺環境熱の影響によって、つまり、低温環境や、低温と高温が繰り返される冷熱衝撃を経た際に、側壁面32と注型樹脂40の線膨張係数の差によって、側壁面32との界面において、注型樹脂40に割れが生じる場合がある。これに対し、離型剤によって側壁面32と注型樹脂40の間の接着力が弱められていることによって、硬化収縮応力および線膨張係数差に起因する側壁面32との界面における注型樹脂40の割れが抑制される。注型樹脂40の割れが抑制されることで、絶縁保持、熱伝導等、注型樹脂40の役割が維持されやすい。また、注型樹脂40の割れによるリアクトル1の外観の悪化も抑制される。
【0026】
ここで、離型剤によってケース30の側壁面32と注型樹脂40の間の接着力が弱められているとは、側壁面32と注型樹脂40の間に接着が形成されず、空隙Gが存在している場合と、離型剤を介して注型樹脂40が側壁面32に弱く接着している場合の両方を指す。図2に示したのは、側壁面32と注型樹脂40の間に接着が形成されていない場合である。図2では、分かりやすいように空隙Gを大きく示してあるが、実際には、空隙Gは、目視されるような大きさ(幅)を有する空隙である必要はなく、側壁面32と注型樹脂40が直接接着されず、外気(空気)が介在可能である程度の狭い空隙Gが間に存在するだけでよい。この場合には、注型樹脂40が側壁面32に対して自由に変位、変形可能であり、硬化収縮や温度変化を受けた際に、注型樹脂40と側壁面32の界面に応力が印加されないので、注型樹脂40に割れが発生することが抑制される。なお、空隙Gが存在する場合に、注型樹脂40と側壁面32の界面とは、空隙Gを介した注型樹脂40側の界面を指す。
【0027】
一方、離型剤を介して注型樹脂40が側壁面32に弱く接着している場合にも、その接着が弱くなっていることで、注型樹脂40と側壁面32の界面に、応力が印加されにくいため、注型樹脂40の割れが起こりにくくなる。例えば、注型樹脂40と側壁面32の間の剪断接着力が、50℃において15MPa未満であれば、注型樹脂40の割れを効果的に抑制することができる。このように、リアクトル1の製造直後の状態では、注型樹脂40と側壁面32が離型剤を介して弱く接着していても、リアクトル1の使用時、例えば使用の初期に温度変化を受けた際に、注型樹脂40と側壁面32の界面に応力が印加されることで、注型樹脂40に割れが発生するよりも早期に、注型樹脂40が側壁面32から剥離される(接着が解消される)場合がある。すると、注型樹脂40の割れを抑制する効果が、接着が解消された後に、一層大きく発揮されるようになる。上記のように、50℃における剪断接着力が15MPa未満であれば、注型樹脂40に応力が印加された際に、注型樹脂40において、凝集破壊ではなく界面破壊が起こりやすいので、注型樹脂40の割れが発生する前に、注型樹脂40を側壁面32から剥離させやすい。なお、剪断接着力は、JIS K6850に準拠する方法等、公知の方法にて評価することができる。
【0028】
離型剤の種類は、特に限定されず、樹脂の成形用に汎用されているような離型剤を用いればよい。この種の離型剤としては、例えば、シリコーン樹脂、フッ素樹脂、フッ素化合物等を主成分とするものが挙げられる。また、離型剤は、ケース30の側壁面32の内側面32aの全体、あるいは注型樹脂40の接着力を十分弱められるように一部を覆って、塗布、散布等すればよい。一方、離型剤は、ケース30の底面31には塗布、散布されない方が好ましい。これは、注型樹脂40を底面31に強固に接着して、底面31を介したコイル10の放熱(冷却)を促進するため、またリアクトル1の取り扱い性を高めるためである。
【0029】
注型樹脂40に割れが形成されているかどうかは、リアクトル1の表面観察および断面観察によって確認すればよい。断面観察に際し、目視観察以外に、蛍光色素を使用する方法をとることができる。つまり、蛍光色素を含有する包埋樹脂によってリアクトル1を固め、その断面を、蛍光励起波長を有する光を照射して観察すれば、注型樹脂40中の割れに浸透した包埋樹脂が蛍光を発する。この際、側壁面32と注型樹脂40の界面に空隙Gが形成されているかどうかも、同時に確認することができる。
【0030】
上記のように、ケース30の側壁面32の内側面32aに離型剤を存在させることで、側壁面32と注型樹脂40の間に空隙Gを形成し、あるいは注型樹脂40が側壁面32に弱く接着している状態を形成すれば、注型樹脂40の割れを抑制することができるが、両者の間に空隙Gを形成し、または弱い接着状態を形成できるのであれば、その方法は、側壁面32の内側面32aに離型剤を用いる方法に限られない。例えば、側壁面32の内側に、空隙Gに相当する厚さを有するスペーサを介在させた状態で注型樹脂40をケース30内に充填し、硬化させた後、スペーサを除去すれば、空隙Gを側壁面32と注型樹脂40の間に形成することができる。この場合、スペーサの表面には、離型剤を塗布、散布等しておくことが望ましい。
【0031】
また、離型剤を用いずに、側壁面32と注型樹脂40の間に弱い接着を形成する方法としては、側壁面32の内側面32aを表面処理することや、側壁面32との間に小さい剪断接着力を与えるような注型樹脂40を選定することが考えられる。実施例に示すように、注型樹脂40の樹脂種の選択により、側壁面32との界面にける剪断接着力を、例えば50℃で15MPa未満とすることができる。
【実施例】
【0032】
以下に本発明の実施例、比較例を示す。なお、本発明はこれら実施例によって限定されるものではない。
【0033】
<試験試料の作製>
図1のような構造を有するリアクトルを作製した。ケースの側壁面は、PPS製とした。そして、表1に示す剪断接着力をPPS表面との間に50℃で有するエポキシ系注型樹脂をそれぞれケース内に注入し、硬化させて、実施例1,2および比較例1にかかるリアクトルとした。ここで、実施例2にかかるリアクトルについては、注型樹脂を注入する前に、ケースの側壁面内側に離型剤(ダイキン工業社製「ダイフリーGA−7500」)を塗布しておいた。
【0034】
<試験方法>
[空隙および割れの評価]
各リアクトルに対して、−40℃と150℃にて、各1.5時間の通電を行うサイクルを500回繰り返すことで、冷熱衝撃を与えた。その後、注型樹脂の表面状態を観察し、割れが発生しているかどうかを確認した。その後、各リアクトルを蛍光着色された包埋樹脂で固めてから切断し、蛍光励起波長を有する光を照射して、断面の観察を行った。蛍光を検出することで、ケースの側壁面と注型樹脂の間に空隙が形成されているか、そして注型樹脂内部に割れが発生しているかを確認した。本試験は、実施例、比較例のそれぞれについて、複数のリアクトル個体を作製して実施した。
【0035】
<試験結果>
表1に、各実施例および比較例にかかるリアクトルについての評価結果を示す。
【0036】
【表1】
【0037】
試験結果によると、注型樹脂とケース側壁面の間の剪断接着力が15MPaであり、離型剤が使用されていない比較例1にかかるリアクトルにおいては、注型樹脂とケース側壁面の界面に空隙が生じていない一方、注型樹脂に割れが生じている。これは、注型樹脂がケースの側面に強固に接着しているために注型樹脂とケース側面の界面に空隙が形成されず、これにより、注型樹脂の硬化時あるいは冷熱衝撃印加時に注型樹脂に応力が印加され、割れに至ったものと解釈される。
【0038】
一方、注型樹脂とケース側壁面の間の剪断接着力が15MPa未満である実施例1,2にかかるリアクトルにおいては、注型樹脂とケース側壁面の界面に空隙が生じており、注型樹脂に割れが生じていない。注型樹脂がケースの側面に接着していないか、弱くしか接着していないことにより、注型樹脂の硬化時あるいは冷熱衝撃印加時に注型樹脂とケース側面の界面に、空隙が形成されたと考えられる。そして注型樹脂とケース側壁面の間の剪断接着力が小さいこと、界面に空隙が形成されたことの効果により、注型樹脂の硬化時および冷熱衝撃印加時に注型樹脂に応力が印加されにくかったものと解釈される。
【0039】
以上、本発明の実施の形態について詳細に説明したが、本発明は上記実施の形態および実施例に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の改変が可能である。また、注型樹脂の割れを抑制するために、注型樹脂とケース部材との間に離型剤を介在させたり、剪断接着力を制限したりする構成は、リアクトル以外にも、種々の注型樹脂を有する電気電子機器に応用することができる。
【符号の説明】
【0040】
10 コイル
20 磁心
30 ケース
31 底面
32 側壁面
32a 側壁面の内側面
40 注型樹脂
G 空隙
図1
図2