【解決手段】リアクトル1は、コイル10と、コイル10が収容されたケース30と、ケース30の内部に充填された注型樹脂40と、を有する。コイル10は、ケース30の底面31に一体的に固定されている。また、注型樹脂40は、厚さを1mmとした際の、波長550nmの光の透過率が85%以上である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のように、リアクトルを構成する注型樹脂にフィラーを混合すると、注型樹脂の熱伝導性を向上させることができるが、多量のフィラーの混合は、注型樹脂の割れにつながる可能性がある。注型樹脂に割れが生じると、コイルの絶縁および放熱の確保といったリアクトルの機能の低下や、外観の悪化につながる。よって、製造されたリアクトルにおいて、注型樹脂に割れが生じていないか、検査する必要がある。割れが注型樹脂の表面に達している場合には、目視による検査が可能であるが、表面に到達しない注型樹脂内部での割れについては、目視による検査では判別できない場合が多い。これは、注型樹脂に多量のフィラーが添加されていると、フィラーによる光吸収や散乱により、注型樹脂の内部を観察することができないからである。また、注型樹脂は、コイル等、リアクトルの構成部材の全部または大半を包囲して充填されることが多く、注型樹脂の割れのみならず、製造ミス等による注型樹脂に被覆された部位における部品欠落や異物混入などの異常も、目視によって発見することができない。また、一般的な非破壊検査の方法として、X線や超音波を使用する方法が広く知られているが、リアクトルは、高密度の金属部材を含む複合製品であるので、これらの手法をリアクトルの検査に適用することは非常に困難である。
【0005】
本発明の解決しようとする課題は、注型樹脂の割れの判定や、注型樹脂に覆われた部位の検査を、目視によって行うことができるリアクトルを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため本発明にかかるリアクトルは、コイルと、前記コイルが収容されたケースと、前記ケースの内部に充填された注型樹脂と、を有し、前記コイルは、前記ケースの底面に一体的に固定され、前記注型樹脂は、厚さを1mmとした際の、波長550nmの光の透過率が85%以上であることを要旨とする。
【0007】
ここで、前記注型樹脂は、50℃において0.2W/m・K以上の熱伝導率を有するとよい。
【発明の効果】
【0008】
上記発明にかかるリアクトルにおいては、注型樹脂が、人間の視感度が特に高いとされる波長550nmの可視光に対して、高い透過率を有している。これにより、注型樹脂の内部を、目視によって観察することができる。従って、注型樹脂内部の割れの有無や、注型樹脂に覆われた部位の構成部材の欠落、異物混入等の判定を、目視にて行うことができる。
【0009】
一方、高い光透過率を与えるためには、注型樹脂は、フィラーを含まないか、含んでも極めて少量であることが必要であり、注型樹脂の熱伝導率は低くなる。しかし、上記発明にかかるリアクトルにおいては、コイルがケースの底面に一体的に固定されており、ケースの底面を介してコイルの放熱が高効率で起こる。よって、リアクトル全体として、コイルの放熱性が確保される。
【0010】
ここで、注型樹脂が、50℃において0.2W/m・K以上の熱伝導率を有する場合には、注型樹脂を介してもコイルからの放熱がある程度起こるので、コイルの放熱性を高めることができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を用いて本発明の実施形態を詳細に説明する。
【0013】
図1および
図2に、本発明の一実施形態にかかるリアクトル1の構成を示す。リアクトル1は、全体の物理的な構造としては、特許文献1に記載されるリアクトルと同様の構造を有し、後述する注型樹脂40の構成に主な特徴を有する。
【0014】
<リアクトルの全体構成>
図1,2に示すように、リアクトル1は、コイル10と磁心20の組合体を、ケース30に収容した構造を基本としてなる。
【0015】
コイル10は、導体線の外周を絶縁被覆層によって被覆した素線を、螺旋状に巻き回したものである。コイル10は、2本の直線部10a,10aを、巻き回し方向を揃えて2本並べた全体形状を有している。導体線は、例えば、銅または銅合金、アルミニウムまたはアルミニウム合金等の金属よりなる。絶縁被覆層は、例えば、ポリアミドイミドに代表されるエナメル材よりなる。また、素線の形状としては、放熱(冷却)性を上げ、また巻き回しの密度を高める観点から、平角線であることが好ましい。そして、コイル10は、固定の容易性等の観点から、角柱の角を丸めた形状を有する角型コイルとして形成されることが好ましい。
【0016】
コイル10は、各直線部10aの中空部に磁心20が挿入された組合体とされ、ケース30中に収容される。磁心20は、例えば、磁性材料よりなるコア部21と非磁性材料よりなるギャップ部22が交互に接続された構造を有する。組合体においては、さらに、コイル10と磁心20の間に適宜インシュレータが介在されてもよい(不図示)。
【0017】
ケース30は、コイル10と磁心20の組合体が載置され、固定される底面31と、底面31の外周に立設された側壁面32を有し、底面31と対向する側壁面32の上部には、開口部33が設けられている。底面31は、高い熱伝導性を有し、コイル10の放熱(冷却)を促進できるように、アルミニウムまたはアルミニウム合金等の金属よりなることが好ましい。一方、側壁面32は、絶縁性等の観点から、樹脂材料よりなることが好ましい。底面31と側壁面32の間には、注型樹脂40の漏出を防止するパッキン(不図示)が適宜設けられる。
【0018】
コイル10と磁心20の組合体は、開口部33からケース30に収容され、底面31上に載置されて、底面31に対して一体的に固定される。底面31へのコイル10の固定は、接着性を有する絶縁性樹脂材料を含んでなる接合層(不図示)を介して行われる。つまり、コイル10は、接着層を介して、底面31に直接接触しており、コイル10と底面31の間に、注型樹脂40は介在しない。このように、コイル10がケース30の底面31に一体的に固定されることで、コイル10が通電によって発熱しても、ケース30の底面31を介して、効率的に放熱(冷却)が行われる。接合層は、コイル10と底面31との間の絶縁を保持しながら、コイル10を底面31に一体的に固定できるものであれば、どのような樹脂組成物よりなってもよく、2層以上からなってもよい。例えば、接合層を、コイル10側に配置される接着層と底面31側に配置される放熱層から構成する形態が挙げられる。接着層は、エポキシ系接着剤、アクリル系接着剤等、高い絶縁性と接着性を有する樹脂材料より構成すればよく、放熱層は、金属または金属酸化物、炭化物、窒化物等、高い熱伝導率を有する無機化合物より構成すればよい。
【0019】
コイル10と磁心20の組合体を収容したケース30の内部の空間には、注型樹脂40が充填されている。注型樹脂40は、コイル10とケース30の側壁面32の間の空間を満たすとともに、コイル10のコイルターン(螺旋の各ピッチ)の間の空間を満たしている。注型樹脂40は、コイル10の絶縁を保つ役割を果たす。ここで、コイル10の絶縁とは、コイル10全体の外部に対する絶縁のみならず、コイルターン間の絶縁も含むものである。また、注型樹脂40は、コイル10の放熱(冷却)を促進する役割も果たし、コイル10の放熱(冷却)は、上記のようにケース30の底面31を介して進行するとともに、注型樹脂40を介しても進行する。
【0020】
リアクトル1は他に、端子81、各種センサ82等、運転および制御に必要な部材を適宜備える。組み上げられたリアクトル1は、ケース30の底面31にて、DC−DCコンバータ中等、所定の取付部位に固定される。底面31と接触する取付部位には、適宜、水冷機構等の冷却機構が設けられてもよい。この場合、コイル10は、底面31を介して、冷却機構によって積極的に冷却されることになる。
【0021】
<注型樹脂の構成>
本実施形態にかかるリアクトル1において用いられる注型樹脂40は、絶縁性の樹脂組成物よりなる。
【0022】
注型樹脂40は、可視光線に対して高い透明性を有し、厚さ1mmのシートに切り出した状態において、波長550nmの光に対して、85%以上の透過率を有する。光の透過率は、(透過光の強度)/(入射光の強度)×100%として規定される。
【0023】
注型樹脂が可視域の光に対してこのように高い透過率を有することにより、注型樹脂40がケース30中に充填された状態で、注型樹脂40自体の内部の状態、および充填された注型樹脂40に被覆された部位に存在するリアクトル1の構成部材の状態を、目視によって観察することができる。
【0024】
このように、注型樹脂40が可視光に対して高い透過率を有し、ケース30内部の状態を視認することができるので、注型樹脂40に割れ等の異常が発生していた場合に、その異常が注型樹脂40の表面にまで到達していなくても、リアクトル1上面(開口部33を臨む面)からの目視によって発見することができる。また、注型樹脂40に覆われた領域の構成部材に、異常があった場合にも、リアクトル1上面からの目視によって発見することができる。この種の異常としては、製造ミスによる部材(例えばセンサ82としてのサーミスタ)の欠落や異物の混入を挙げることができる。これにより、注型樹脂40や構成部材に異常があるリアクトル1を製造後の目視検査で容易に発見し、出荷停止等の措置を講じることができる。注型樹脂40に割れ等の異常があれば、コイル10の絶縁や放熱(冷却)等、注型樹脂40の機能が低下する可能性がある。また、部品の欠落や異物混入等、構成部材の異常があれば、リアクトル1の運転自体に支障をきたす可能性がある。
【0025】
注型樹脂40の光透過率を、550nmとの波長で規定しているのは、この波長が人間にとって最も視感度が高いとされているからである。550nm以外にも、可視光領域全体にわたり、注型樹脂40が高い光透過率を有していれば、リアクトル1内部の観察の精度および簡便性が一層高くなる。例えば、厚さ1mmのシートに切り出した状態で、太陽光あるいはそれに近い波長分布をもつ可視光全体に対する透過率(全光線透過率)が、85%以上であることが好ましい。注型樹脂40の光透過率は、紫外−可視分光光度計を用いる方法等、公知の方法にて評価することができる。
【0026】
リアクトル1の内部を観察する手段として、目視以外に、自動機を用いることもできる。つまり、可視光を光源としてリアクトル1を上面から撮像し、画像解析を行うことで、注型樹脂40や構成部材の異常の有無を判定することができる。この種の自動機は、異物検査装置等として、広く用いられている。
【0027】
注型樹脂40の光透過率を高めるためには、注型樹脂40におけるフィラーの含有量を少なくすることが必要である。一般に、注型樹脂40の熱伝導率や機械的強度の向上を目的として混合されるフィラーは、金属酸化物、窒化物、炭化物等、絶縁性で非磁性の無機化合物の粒子であり、可視光をよく吸収、散乱する。よって、注型樹脂40に多量のフィラーを混合すると、注型樹脂40の可視光透過率が低下してしまう。厚さ1mmのシートで波長550nmの光に対して85%以上の透過率を実現するためには、注型樹脂40にフィラーを全く含有させないか、含有しても非常に少量とすることになる。あるいは、注型樹脂40の光学特性にほとんど影響を与えないような種類のフィラーを選択することになる。
【0028】
フィラーは注型樹脂40の熱伝導率の向上に大きな効果を有するので、光透過率を高める目的でフィラーを全く、あるいは少量しか含有させなかった場合に、注型樹脂40の熱伝導率を高めることができず、注型樹脂40を介したコイル10の放熱(冷却)の効率が悪くなる。しかし、本リアクトル1においては、上記のように、コイル10が、ケース30の底面31に一体的に固定され、ケース30の底面31を介して、コイル10の放熱(冷却)が高い効率で行われる。よって、注型樹脂40が高い熱伝導率を有していなくても、リアクトル1全体として、コイル10の放熱(冷却)性を確保することができる。
【0029】
このように、本リアクトル1においては、注型樹脂40の熱伝導率が低くても、リアクトル1全体として十分な放熱(冷却)性を確保することができるが、注型樹脂40が50℃において0.2W/m・K以上の熱伝導率を有していれば、その熱伝導率に応じて、注型樹脂40を介したコイル10の放熱(冷却)が、底板31を介したコイル10の放熱(冷却)に加えて進行する。これにより、リアクトル1において、コイル10の放熱(冷却)性を一層高めることができる。注型樹脂40の熱伝導率は、レーザーフラッシュ法、熱線法、ホットディスク法等、公知の方法にて評価することができる。
【0030】
注型樹脂40の具体的な組成は、厚さ1mmに切り出した状態で波長550nmの光に対して85%以上の透過率を有するものであれば、特に限定されない。しかし、注型樹脂40を構成する樹脂成分としては、流動性の高い状態で、コイル10とケース30の側壁面32の間の空間や、コイルターン間の空間に、隙間なく浸透させて充填してから、固化させられる点において、硬化性樹脂を用いることが好ましい。硬化性樹脂としては、熱硬化性樹脂、光硬化性樹脂、湿気硬化性樹脂、二液反応硬化性樹脂等を挙げることができる。特に、ケース30中に充填した注型樹脂40を容易に硬化させられる点において、熱硬化性樹脂を用いることが好ましい。また、樹脂種としては、シリコーン樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、フェノール樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリウレア樹脂などを挙げることができる。これらは単独で用いてもよいし、2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0031】
注型樹脂40は、上記の光透過率を確保できるかぎりにおいて、樹脂成分に加え、フィラーや、粘度調整剤、老化防止剤、保存安定剤、分散剤など他の添加剤を適宜添加されてもよい。
【実施例】
【0032】
以下に本発明の実施例、比較例を示す。なお、本発明はこれら実施例によって限定されるものではない。
【0033】
<試験試料の作製>
図1のような構造を有するリアクトルを作製した。そして、表1に示した各注型樹脂をケース内に注入し、硬化させて、実施例1〜4および比較例1〜3にかかるリアクトルとした。この際、以下の3種の異常を模した構造を導入し、各実施例、比較例について、3種の試料を作製した。
・異物混入:注型樹脂を注入する前に、ケースの端部近傍から、ケース底面に達するように、ワッシャーを投入した。
・部材の欠落:コイルのないリアクトルとした。
・注型樹脂の内部の割れ:注型樹脂を注入する前に、透明耐熱フィルムをケースの底面に立てて設置し、フィルムが動かないようにしながら注型樹脂を注入することで、割れを模した構造を注型樹脂の内部に作製した。
【0034】
<試験方法>
[注型樹脂の物性評価]
各リアクトルに用いた注型樹脂を厚さ1mmのシート状に切り出し、紫外−可視分光光度計を用いて、波長550nmの光に対する透過率を測定した。また、各注型樹脂の熱伝導率を常法にて測定した。
【0035】
[目視検査]
各リアクトルについて、目視にて、3種の異常を確認できるかを判定した。3種全ての異常が確認できたものを合格「○」とし、いずれか1種でも異常が確認できなかったものを不合格「×」とした。各異常の判定基準は以下のとおりである。
・異物混入:ワッシャーを視認できるか。
・部材の欠落:コイルが存在しないことが確認できるか。
・注型樹脂の内部の割れ:透明耐熱フィルムを視認できるか。
【0036】
<試験結果>
各実施例および比較例にかかるリアクトルについて、注型樹脂の種類および物性と、目視検査の結果を、下の表1にまとめて示す。
【0037】
【表1】
【0038】
試験結果によると、実施例1〜4にかかるリアクトルにおいては、注型樹脂が85%以上の高い光透過率を有していることと対応して、目視検査にて、3種全ての異常を発見することができている。これに対し、比較例1〜3にかかるリアクトルにおいては、注型樹脂の光透過率が低いことと対応して、目視検査にて、3種の異常を発見できていない。
【0039】
以上、本発明の実施の形態について詳細に説明したが、本発明は上記実施の形態および実施例に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の改変が可能である。