特開2015-186411(P2015-186411A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2015-186411(P2015-186411A)
(43)【公開日】2015年10月22日
(54)【発明の名称】需要家電力マネジメントシステム
(51)【国際特許分類】
   H02J 3/32 20060101AFI20150925BHJP
   H02J 3/00 20060101ALI20150925BHJP
【FI】
   H02J3/32
   H02J3/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2014-63256(P2014-63256)
(22)【出願日】2014年3月26日
(71)【出願人】
【識別番号】000002059
【氏名又は名称】シンフォニアテクノロジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100130498
【弁理士】
【氏名又は名称】佐野 禎哉
(72)【発明者】
【氏名】加藤 忠裕
(72)【発明者】
【氏名】蟹江 広明
【テーマコード(参考)】
5G066
【Fターム(参考)】
5G066AA02
5G066HB06
5G066HB09
5G066JA07
5G066JB03
5G066KB01
(57)【要約】      (修正有)
【課題】自家発電装置及び蓄電池から負荷系統への電力供給を効率的に行い、商用電力消費量の最大値と最小値の差を縮めて、商用電力使用量の平準化を図り、契約アンペア数を下げることが可能な需要家電力マネジメントシステムを提供する。
【解決手段】需要家において実際に使用する商用電力の上限値である商用電力実使用上限値を、予測発電電力と予測需要電力とに基づいて設定する電力マネジメント制御部3を備え、電力マネジメント制御部3によって、予測発電電力が予測需要電力よりも多い第1時間帯の商用電力実使用上限値を、予測発電電力が予測需要電力よりも少ない第2時間帯の商用電力実使用上限値よりも低く設定し、第1時間帯における需要電力に対して発電電力及びバッテリ電力を商用電力よりも優先して供給するように需要電力に対する電力供給配分を制御するように構成した。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
負荷が接続されている電力系統である負荷系統の需要電力に対して、商用電力と、自然エネルギーを利用した自家発電装置の発電電力と、蓄電池の放電であるバッテリ電力とを適宜の配分で供給可能な需要家電力マネジメントシステムであり、
需要家において実際に使用する商用電力の上限値である商用電力実使用上限値を、前記自家発電装置の過去の発電実績に基づいて算出可能な予測発電電力と、前記需要電力の過去の需要実績に基づいて算出可能な予測需要電力とに基づいて設定する電力マネジメント制御部を備え、
当該電力マネジメント制御部が、前記予測発電電力が前記予測需要電力よりも多い時間帯である第1時間帯の前記商用電力実使用上限値を、前記予測発電電力が前記予測需要電力よりも少ない時間帯である第2時間帯の前記商用電力実使用上限値よりも低く設定し、前記第1時間帯における実際の前記需要電力に対して前記発電電力及び前記バッテリ電力を前記商用電力よりも優先して供給するように前記需要電力に対する電力供給配分を制御するものであることを特徴とする需要家電力マネジメントシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気の供給を必要とし、電力会社等から商用電力の供給を受けて使用している需要家の電力を管理するシステムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、自然エネルギを利用する太陽光発電装置(ソーラーシステム)や風力発電装置などの自家発電装置を設置する需要家が増加している。このような需要家にとって経済的なメリットを得ることが可能なシステムとして、負荷が接続されている電力系統(負荷系統)の需要電力(消費電力または使用電力とも称される)の一部を、自家発電装置で発電した電力によって賄い、商用電力系統からの電力(商用電力または受電電力と称される)の供給量を減らすシステムが知られている(例えば下記特許文献1参照)。また、自家発電装置とは別に蓄電池を備え、負荷系統の需要電力が小さくなる夜間に蓄電池を充電状態とし、昼間(日中)に放電状態にすることで、日中の需要電力に対する商用電力の供給量を減らすようにしたシステムも考えられている。
【0003】
このようなシステムでは、商用電力の平均使用値の上限である「設定電力」が予め定められており、負荷系統の需要電力が設定電力よりも大きい場合に、需要電力と設定電力との差分に相当する電力(補助電力)を計算し、自家発電装置や蓄電池から負荷系統に対して供給する電力を「補助電力」として決定するように設定され、商用電力が設定電力よりも大きくならないように抑えられている。ここで、商用電力の平均値の上限である「設定電力」は、需要家において実際に使用する商用電力の上限値であると捉えることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2013−143866号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上述のシステムでは、季節や時間帯に関係なく「設定電力」が常に一定であり、このような設定電力を、例えばある所定値よりも低い固定値に設定した場合、負荷系統の需要電力量が上がる(電力需要が多くなる)時間帯や季節において、負荷系統の需要電力が設定電力を超える量が大きいほど、需要電力に対する自家発電装置や蓄電池から電力供給量も多くなるが、それに見合った十分な電力を自家発電装置や蓄電池から供給できない事態も想定される。このような自家発電装置や蓄電池からの電力供給不足という事態を回避するためには、設定電力をある所定値よりも高い固定値に設定して対処する他ない。すると、負荷系統の需要電力に対して、高い固定値に設定された設定電力を越えるまで商用電力系統からの電力(受電電力)を使用することになり、商用電力の使用量の効果的な削減を見込むことは困難である。
【0006】
さらにまた、上述のシステムは、負荷系統の需要電力に対して、優先的に商用電力を使用し、設定電力を越えた分を自家発電装置や蓄電池からの電力供給で補うように設定されているため、設定電力をある所定値よりも高い固定値に設定すれば、負荷系統の需要電力が比較的高めに設定された設定電力を越えない限り、負荷系統の需要電力に対して自家発電装置や蓄電池から電力が供給されず、自家発電装置や蓄電池に、負荷系統の需要電力に対する供給可能な電力の余裕があっても、その電力を積極的に活用することができず、特に蓄電池に充電された電力が、負荷系統に対して供給されることなく放電されることは、大きな電力ロスであるといえる。
【0007】
また、蓄電池は過充電や過放電が繰り返されると早期に消耗し、充電能力が低下する等の劣化や、故障・損傷を生じ易い性質があり、上述のシステムでは蓄電池に過度な負担を掛けてしまうという問題もある。
【0008】
このように、上述のシステムは、実際に起きている負荷系統の需要電力の変化という事象に応じて、固定値である設定電力値を越えるまで常に商用電力を優先的に使用する構成であり、負荷系統の需要電力のピーク時における自家発電装置や蓄電池からの電力供給不足とう事態を回避すべく、設定電力を比較的高い固定値に設定すれば、時間帯や季節ごとで変化する商用電力の使用量の山(ピーク:電力需要のピーク時における商用電力の使用量)と谷(ボトム:電力需要がゼロまたはゼロに近い時における商用電力の使用量)の差が拡大し、商用電力使用量の平準化を図ることが極めて困難である。
【0009】
加えて、上述のシステムにおいて設定電力を比較的高い固定値に設定すれば、設定電力を比較的低い固定値に設定した場合と比較して、1日における商用電力の最大使用電力(ピーク時の電力)も高くなる。ここで、商用電力を供給する電力会社と需要家との間では、電力会社から供給される商用電力の電流値に関して契約されており、契約アンペア数が低いほど、電気代における基本料金は安くなる。なお、契約アンペア数を越える電流が需要家の負荷系統に流れようとした場合に、例えばアンペアブレーカ等の装置が自動的に作動して、商用電力の供給は停止されるため、上述のシステムにおける「設定電力」は、契約アンペア数に相当する電力値よりも当然低い電力値に設定される。ところが、設定電力の値が高いということは、すなわち、1日における商用電力の最大使用電力量も高くなることを意味し、契約アンペア数を下げることによる経済的メリットを需要家は実質的に享受することが困難となる。
【0010】
本発明は、このような事態に着目してなされたものであって、主たる目的は、自家発電装置及び蓄電池から負荷系統への電力供給を効率的に行い、商用電力消費量の最大値と最小値の差を縮めて、商用電力使用量の平準化を図り、契約アンペア数を下げることが可能な需要家電力マネジメントシステムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
すなわち本発明は、負荷が接続されている電力系統である負荷系統の需要電力に対して、商用電力と、自然エネルギーを利用した自家発電装置の発電電力と、蓄電池の放電であるバッテリ電力とを適宜の配分で供給可能な需要家電力マネジメントシステムに関するものである。ここで、自然エネルギーを利用した自家発電装置としては、太陽光発電装置、風力発電装置、小規模水力発電装置、地熱発電装置等を挙げることができ、本発明において適用する自家発電装置の種類や数、組み合わせは特に限定されない。また、本発明の需要家電力マネジメントシステムで適用する自家発電装置は、発電した電力を、需要家が利用する負荷が接続されている負荷系統の需要電力に対して供給可能な環境にあればよく、需要家の敷地内に設置されているか否か、需要家の所有物であるか否か等、その他の条件は特に問わない。
【0012】
そして、本発明に係る需要家電力マネジメントシステムは、需要家において実際に使用する商用電力の上限値である商用電力実使用上限値を、自家発電装置の過去の発電実績に基づいて算出可能な予測発電電力と、需要電力の過去の需要実績に基づいて算出可能な予測需要電力とに基づいて設定する電力マネジメント制御部を備え、電力マネジメント制御部によって、予測発電電力が予測需要電力よりも多い時間帯である第1時間帯の商用電力実使用上限値を、予測発電電力が予測需要電力よりも少ない時間帯である第2時間帯の商用電力実使用上限値よりも低く設定するとともに、第1時間帯における実際の需要電力に対して発電電力及びバッテリ電力を商用電力よりも優先して供給するように需要電力に対する電力供給配分を制御していることを特徴としている。
【0013】
このように、本発明に係る需要家電力マネジメントシステムによれば、自家発電装置の予測発電電力と負荷系統の予測需要電力とを比較して、需要電力よりも発電電力が多い時間帯、換言すれば自家発電装置の発電を多く見込める時間帯と、需要電力よりも発電電力が多い時間帯、換言すれば自家発電装置の発電をあまり見込めない時間帯とをそれぞれ第1時間帯、第2時間帯として区別し、第1時間帯の商用電力実使用上限値を第2時間帯の商用電力実使用上限値よりも低く設定し、第1時間帯における需要電力に対して、発電電力及びバッテリ電力を商用電力よりも優先して供給することによって、第1時間帯における商用電力の使用量を効果的に抑えることができ、第2時間帯における商用電力の使用量に対して第1時間帯における商用電力の使用量が格段に増大するという事態を回避して、商用電力使用量の平準化を図ることができる。
【0014】
さらにまた、本発明に係る需要家電力マネジメントシステムであれば、第1時間帯における需要電力に対して、優先的に発電電力及びバッテリ電力を供給し、発電電力及びバッテリ電力で足らない分を商用電力で補うように電力配分を制御することによって、商用電力の使用を控えて、蓄電池に充電された電力(バッテリ電力)を積極的に効率良く活用することができ、従来であれば生じていた不具合、すなわち、蓄電池に充電された電力が需要電力に対して供給されずに放電されるという大きな電力ロスの発生を解消することができる。
【0015】
また、本発明であれば、過充電や過放電を繰り返すことによる蓄電池の劣化や故障・損傷を防止・抑制することができる。
【0016】
特に、本発明に係る需要家マネジメントシステムは、発電電力の予測値と電力需要の予測値とを比較して決定可能な第1時間帯と第2時間帯とで、商用電力実使用上限値を変更し、相対的に低い商用電力実使用上限値を設定する第1時間帯では、電力需要に対して発電電力とバッテリ電力では供給不足になる場合に商用電力を使用するように制御することが可能であるため、上述のように実際に起きている負荷系統の需要電力の変化という事象に応じて、固定値である設定電力値を越えるまで常に商用電力を優先的に使用する構成であれば生じる不具合、すなわち、負荷系統の需要電力のピーク時における自家発電装置や蓄電池からの電力供給不足とう事態を回避すべく、設定電力(本発明の商用電力実使用上限値に相当するもの)を比較的高い固定値に設定すれば、時間帯や季節ごとで変化する商用電力の使用量の山と谷の差が拡大して商用電力使用量の平準化を図ることができないという不具合も解消することができる。
【0017】
そして、本発明の需要家電力マネジメントシステムによれば、商用電力使用量の平準化を図ることができることによって、1日における商用電力の最大使用量も低くすることが可能になり、電気契約に基本料金を規定する一要因である契約アンペア数を下げることができ、需要家は経済的メリットを享受できる。
【0018】
さらに、需要家における1日における商用電力の最大使用量を低減することが可能な本発明の需要家電力マネジメントシステムを採用することによって、需要電力が特に多くなることが経験上または予測上把握可能な時間帯や季節(冬や夏)において、電力会社から供給する商用電力が不足する事態を防止・抑制することが期待できる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、自然エネルギーの発電電力と負荷の需要電力とをそれぞれ予測し、相互に比較して、自然エネルギーの発電が多く見込める時間帯と自然エネルギーの発電が見込めない時間帯とで商用電力実使用上限値を調整し、発電が多く見込める時間帯では自然エネルギーの発電電力及び蓄電池の電力(放電)を需要電力に対して積極的に供給するように計画し、各時間帯で需要電力に対する自然エネルギーの発電電力、蓄電池の電力、商用電力の供給配分を適正に割り当てることで、商用電力使用量の最高値(ピーク値)と最低値の差を縮めて商用電力使用量の平準化を図ることができるとともに、契約アンペア数を下げることが可能な需要家電力マネジメントシステムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の一実施形態に係る需要家電力マネジメントシステムの全体構成図。
図2】同実施形態の電力予測システムにおける予測データ範囲を示す図。
図3】同実施形態に係る需要家電力マネジメントシステムによる時間帯毎の商用電力実使用上限値の一例を示す図。
図4】同実施形態に係る需要家電力マネジメントシステムを適用しなかった場合の各電力データを示す図。
図5】同実施形態に係る需要家電力マネジメントシステムを適用した場合の各電力データを示す図。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の一実施形態を、図面を参照して説明する。
【0022】
本実施形態に係る需要家電力マネジメントシステムXは、図1に示すように、負荷Lが接続されている電力系統である負荷系統の需要電力(以下では「負荷Lの需要電力」と称す)に対して、商用電力系統Cからの電力である受電電力(以下では「商用電力」と称す)、自然エネルギーを利用した自家発電装置Nの発電電力、及び蓄電池Bの電力(放電)であるバッテリ電力を適宜の配分で供給可能なシステムである。自家発電装置Nとしては、太陽光発電装置、風力発電装置、小規模水力発電装置等を挙げることができ、本実施形態では、これら自家発電装置Nで発電した電力や、蓄電池Bのバッテリ電力を、共通のインバータIを介して負荷系統の需要電力に対して供給するように構成している。なお、商用電力は、インバータIを介さずに負荷Lに対して供給される。また、需要家電力マネジメントシステムXを適用する自家発電装置Nの種類や数、組み合わせは特に限定さない。以下の説明では、「需要電力」の同義としてや「使用電力」という表現を用いる場合がある。なお「使用電力」は「消費電力」と同義である。
【0023】
本実施形態の需要家電力マネジメントシステムXは、自家発電装置Nの発電電力、蓄電池Bのバッテリ電力、及び商用電力Cを負荷Lへ供給可能な環境下にある需要家において実際に使用する商用電力Cの上限値である商用電力実使用上限値を、需要電力の過去の実績(使用電力実績)に基づいて算出可能な予測需要電力と、自家発電装置Nの過去の発電実績に基づいて算出可能な予測発電電力とに基づいて設定している。なお、本実施形態における需要家は、平日が電力消費の多い通常営業日(普段日)であり、土日祝日が休業日(休日)である事業所を想定し、例示している。
【0024】
本実施形態では、図1に示すように、電力実績データベース11に蓄積されている電力実績データと、気象実績データベース12に蓄積されている気象実績データと、インターネット網を通じて入手可能な気象予報データとを利用して、電力予測数式モデルを作成し、電力予測計算を行う電力予測部2によって、予測需要電力と予測発電電力を算出している。なお、図1に示すように、電力実績データベース11、気象実績データベース12、及び後述する電力予測データベース13は、まとまったデータベース群1として需要家電力マネジメントシステムX下で管理可能に構成されている。
【0025】
電力予測部2は、予測式モデル作成部21と、予測演算部22とを備えている。予測式モデル作成部21は、過去の使用電力と、過去の発電電力と、過去の気候をもとに、時系列分析と重回帰分析とにより、電力と気候との関係をモデル化するものである。また、予測演算部22は、予測式モデル作成部21で作成した予測式モデルを用いて、気象予報データを変数として、未来の使用電力と発電電力(予測需要電力と予測発電電力)を導き出すものである。本実施形態の電力予測部2で使用する実績データ(過去の使用電力、過去の発電電力、過去の気候)の範囲は、過去2週間分のデータとしているが、過去2週間以外の期間を実績データの範囲に設定することも可能である。
【0026】
本実施形態では、電力予測部2により、毎日0:00に予測式モデルを導き、予測需要電力と予測発電電力を算出する。また、電力予測部2による予測需要電力と予測発電電力の予測電力範囲は、適宜の範囲に設定することができ、本実施形態では、図2に示すように、実際に電力予測を行う予測処理実施日の翌日を予測対象日に設定し、予測対象日の24時間(0:00(ただし0:00は含まない)〜24:00)を予測電力範囲に設定している。電力予測部2は、予測電力範囲における1時間単位の予測電力を計算し、その計算結果である予測電力を電力予測データベース13に登録する(図1参照)。したがって、本実施形態の電力予測部2によれば、予測対象日1日につき24点の予測電力値(予測電力データ)を計算して、電力予測データベース13に登録することができる。
電力予測部2において、予測需要電力と予測発電電力を算出する際に変数として用いる気象予報データとしては、温度、風速、日射量等を挙げることができる。気象予報データは、インターネット網を通じて入手可能なものを利用することができ、電力予測部2による予測結果に影響を及ぼすデータである。電力予測部2によって予測需要電力を算出する場合、需要家において電力を最も消費する「負荷L」は冷暖房機であり、冷暖房機の使用頻度が温度によって変化することから、電力需要の要因となる気象データとして少なくとも「温度」を利用している。
【0027】
ここで、電力予測数式モデルの算出手順(データフロー)を以下の式1に示すとともに、当該電力予測式モデルの成分、パラメータ、目的変数と説明変数をそれぞれ表1、表2、表3に示す。
【0028】
【数1】
【0029】
【表1】
【0030】
【表2】
【0031】
【表3】
【0032】
上記式1に示すように、本実施形態では、「前処理」と呼ばれる処理を実行し、傾向成分(時系列を構成する成分のひとつであり、経年的に増加傾向にあるのか減少傾向にあるのかを意味するものであり、トレンドを示す)、時刻に依存する周期パターン(時刻成分又は周期成分と同義であり、時刻による変動の高低を示し、時系列を構成する成分のひとつである。本実施形態では、時刻成分の拡張として、曜日ごとの成分を加えている)、及び残りの成分暫定値(傾向成分及び時刻成分を除いた電力に影響を及ぼす成分の暫定値)を過去の実績データ(実績値)より求め、そのうち残りの成分暫定値に対して重回帰分析(幾つかの変数に基づいて別の変数を予測する式を導き分析することであり、本実施形態では気象データをいくつかの変数として用いる)を実行して残り成分を求め、最後にそれらの成分より、電力の予測値を求めるように設定している。
【0033】
本実施形態の電力予測部2は、このような多変量解析による電力予測数理モデルに基づいて、電力予測式を立て、温度を変数として、予測需要電力を算出している。なお、予測発電電力の計算に用いる予測式モデルは、予測需要電力の計算に用いる予測式モデルと同じアルゴリズムを使用して立てることができる。予測発電電力を算出する場合、自家発電装置Nが太陽光発電装置であれば、自家発電装置Nの発電量は日射量に大きく依存することから、発電での要因となる気象データとして「日射量」を利用することが好ましく、また、自家発電装置Nが風力発電装置や水力発電装置であれば、自家発電装置Nの発電量はそれぞれ風量や降雨量に大きく依存することから、発電での要因となる気象データとして「風量」や「降雨量」を利用することが好ましい。
【0034】
このように、電力予測部2では、電力実績データ及び気象実績データに基づいて、電力量の傾向(トレンド、パターン)成分、電力量の時刻ごとの傾向成分、重回帰分析成分(原因と結果から得られる成分)を用いた計算式(数理モデル)を作り、その計算式から予測対象日の所定時間単位(本実施形態では、1時間単位)の需要電力予測値と発電電力予測値とを算出することができる。このような電力予測部2は、例えば所定の情報処理装置にアプリケーションとしてインストールすることができ、そのアプリケーションにて電力予測処理を実行することが可能である。
【0035】
なお、電力予測部2で利用する気象データ(気象予報データ、気象実績データ)は、インターネット上において無料で提供されているもの、又は有料で提供されているもの、これら何れであってもよく、提供元などが異なる複数の気象データから電力予測部2で利用する気象予報データを選択するポイントとしては、需要家の所在地の気象データが提供されているか否か、何時間ごとの気象データが提供されているか否か(更新頻度)、気象データがソフトウェアで利用可能なデータ形体をなしているか否か(気象データがソフトウェアで利用不能な場合は、気象データを手動又は適宜の手段で入力・編集して気象実績テータベースに登録する必要があり、入力ミスが発生する可能性を否めない)、ランニングコスト等を挙げることができる。
【0036】
本実施形態の需要家電力マネジメントシステムXは、電力予測部2によって求めた電力予測値を利用して商用電力実使用上限値を設定するものであるため、電力予測部2の予測精度が所定の許容範囲を超えている場合には、後述する電力マネジメント制御部33で設定する商用電力実使用上限値が適切な値ではなくなることも想定される。
【0037】
そこで、上述の電力予測部2による1年間の電力予測値を解析し、1年間における使用電力の実績値と、電力予測部2で予測した需要電力予測値とを比較して評価した。具体的には、実績に対する予測の精度を評価するため、実績を100%とし、それに対し予測と実績の差の割合を示す相対誤差を算出した。相対誤差が小さいほど(0%に近いほど)予測と実績の差が小さいので、予測精度が高いと言える。計算方法は以下の式2の通りである。
相対誤差(%)=((使用電力実績値―需要電力予測値)/使用電力実績値)×10…式2
【0038】
そして、予測精度の評価として、母集団である全体件数における各相対誤差を以下の式3の計算方法で算出した。
相対誤差の割合(%)=(ある割合の相対誤差総数/母集団)×100…式3
【0039】
すると、需要電力予測値の相対誤差の割合は、±20%以内の相対誤差割合が全体の80%であり、±30%以内の相対誤差割合が全体の90%であった。また、相対誤差が極端に大きく、100%越えたもの(以下「外れ値」と称す)が55件(全体の0.6%)存在した。外れ値10件のデータを参照すると、全て連休中及び連休明けに発生していることが判明した。
【0040】
このような結果を招来する要因を特定すべく、検討を重ねたところ、需要電力予測値が使用電力実績値より高い外れ値が連休中に発生している点、需要電力予測値が使用電力実績値より低い外れ値が連休明け又は連休末日で発生している点、以上の2点が明らかになった。そして、前者について、使用電力予測は、過去の実績もパラメータとして使用するが、休日は普段日より電力使用量(使用電力実績値)が少ないため、過去の普段日の使用電力実績値に影響を受け、休日も普段日に近い電力使用量を予測してしまい、その結果、需要電力予測値に対し使用電力実績値が低く、連休中の使用電力予測に大きな誤差が発生してしまうことがわかった。また、後者についても、前者の理由と同じように、使用電力予測は、過去の実績もパラメータとして使用するので、連休中の使用電力実績値が低かったために、連休中の使用電力実績値に影響を受け、連休中の使用電力実績値に近い電力使用量を予測してしまい、その結果、需要電力予測値に対し使用電力実績値が高く、連休明け又は連休末日の使用電力予測に大きな誤差が発生してしまうことがわかった。
【0041】
このように、電力予測部2が、過去の使用電力実績の傾向を予測のパラメータとして使用しているため、休日と普段日の傾向が大きく異なると、それに連動して予測が大きく外れてしまう点に着目し、本実施形態では、連休日を通常の電力予測では大きな誤差が生じる特異日として「重み付け」を行うことで、普段日と同じ予測式で精度高く予測できるように設定した。具体的には、電力の利用率(電力使用量)が異なることで使用電力予測が外れ易い連休中の区間、及び連休明けの日をそれぞれ特異日に設定して、連休中の区間に該当する特異日は、需要電力予測値にマイナスの重みを付け、連休明けの日に該当する特異日は、需要電力予測値にプラスの重みを付ける。なお、連休中や連休明け以外にも、電力使用量の増加が見込まれる日(例えば、クリスマスやバレンタインデー等の国民的イベントの日、年末年始)を、特異日に設定して適宜の重み付けを行うようにすることもできる。
【0042】
さらにまた、相対誤差が大きかった外れ値のデータ10件を参照すると、全て冬期の連休中及び連休明けに発生し、冬期(1月から3月)の相対誤差の割合が冬期以外の季節(春夏秋)と比較して、全体で約10%から20%低いことが判明した。
【0043】
この点については、冬期が1年を通して最も気温が低いため、暖房の使用率が一番多くなり、需要電力(使用電力実績値)も一番多くなる季節であり、普段日と連休で使用電力実績値の差が大きくなり、その分、相対誤差も大きくなることが判明した。
【0044】
そこで、季節によって使用電力実績値の差が大きい場合、具体的には、暖房の需要電力が大きいため他の季節より電力の消費量が多くなる冬期には、使用電力実績値が季節に影響を受けるため、使用電力を予測する計算に、過去のシーズン傾向(過去の冬期)をパラメータとして取り込む「シーズン傾向」を導入することで、季節によって使用電力実績値の差が大きくなる事態を防止・抑制することができる。
【0045】
このような「特異日」を導入したり、あるいは特異日に加えて「シーズン傾向」を導入することによって、±20%以内の相対誤差割合を全体の90%に近付けることができ、次に説明する電力マネジメント制御部3で使用可能な精度の高い電力予測を行うことができる。
【0046】
本実施形態に係る需要家電力マネジメントシステムXは、このような電力予測部2を利用(応用)して構築したものであり、電力予測部2で算出した需要電力予測値と発電電力予測値を比較して、商用電力実使用上限値の調整を行うものである。すなわち、本実施形態の需要家電力マネジメントシステムXは、商用電力実使用上限値の調整を行う電力マネジメント制御部3を備え、この電力マネジメント制御部3によって、予測発電電力(発電電力予測値)が予測需要電力(需要電力予測値)よりも多い時間帯である第1時間帯の商用電力実使用上限値を、予測発電電力が予測需要電力よりも少ない時間帯である第2時間帯の商用電力実使用上限値よりも低く設定するように、商用電力実使用上限値の調整を行うものである。また、本実施形態に係る需要家電力マネジメントシステムXは、電力マネジメント制御部3によって、商用電力実使用上限値が相対的に低い第1時間帯では、負荷Lの需要電力に対して自家発電装置Nの発電電力と蓄電池Bのバッテリ電力を商用電力Cよりも優先して供給するように制御するとともに、商用電力実使用上限値が相対的に高い第2時間帯では、負荷Lの需要電力に対して商用電力Cを自家発電装置Nの発電電力と蓄電池Bのバッテリ電力よりも優先して供給するように制御する。このように、電力マネジメント制御部3は、電力予測部2による予測値に基づいて第1時間帯、第2時間帯における商用電力実使用上限値を設定し、各時間帯において負荷Lが使用する電力(負荷Lに供給する電力)を制御するものである。ここで、本実施形態の需要家電力マネジメントシステムXは、電力マネジメント制御部3と、上述の電力予測部2とで構成されるコントローラXCを有するものと捉えることができる(図1参照)。なお、本実施形態における蓄電池Bは、商用電力Cや自家発電装置Nの発電電力によって充電可能に設定されている。
【0047】
本実施形態の電力マネジメント制御部3は、まず、商用電力実使用上限値を決定するパラメータである予測発電電力と予測需要電力を参照する。本実施形態では、第1時間帯1日を日中と夜間の2つの時間帯に区分し、日中の時間帯を第1時間帯とし、夜間の時間帯を第2時間帯としている。したがって、電力マネジメント制御部3は、昼の商用電力実使用上限値と、夜の商用電力実使用上限値とをそれぞれ決めるため、予測発電電力と予測需要電力を1日に2回参照するように設定している。
【0048】
具体的に、電力マネジメント制御部3は、電力予測部2で算出されて電力予測データベース13に登録されている電力予測データ(需要電力予測値及び発電電力予測値)を参照し、参照した需要電力予測値及び発電電力予測値を比較して、未来の需要電力の不足分を算出し、需要電力予測値が発電電力予測値よりも大きい場合は、蓄電池Bの蓄電量(バッテリ残量)から放電に回すことが可能な電力(バッテリ電力)を計算し、最後に、発電電力予測値に蓄電池Bのバッテリ電力を足した電力(説明の便宜上「加算電力」と称す)と、需要電力予測値とを比較し、需要電力予測値に対して加算電力が不足している分だけ商用電力Cを使用するように商用電力実使用上限値を決定する。
【0049】
ここで、本実施形態における商用電力実使用上限値は、発電電力予測値から需要電力予測値を引いて余った電力分に応じて、デフォルト商用電力実使用上限値よりも下げた値として決定されるものである。より具体的に、本実施形態の電力マネジメント制御部3では、商用電力実使用上限値を設定する対象の時間帯の合計時間を分母(分数の除数)とし、その合計時間における発電電力予測値の合計から、同時間における需要電力予測値の合計を減算した値を分子(分数の被除数)として算出した値を「減らす商用電力実使用上限値」とし、この「減らす商用電力実使用上限値」を、該当する時間帯におけるデフォルト商用電力実使用上限値から減算した値を「商用電力実使用上限値」として算出するように設定している。ただし、発電電力予測値が需要電力予測値よりも小さい場合(発電電力予測値から需要電力予測値を減算するとマイナスになる場合)は、商用電力実使用上限値の変更を行わない。また、発電を見込めない第2時間帯におけるデフォルト商用電力実使用上限値を、第1時間帯におけるデフォルト商用電力実使用上限値よりも予め高く設定しておくことも可能である。
【0050】
本実施形態では、このような電力マネジメント制御部3による商用電力実使用上限値の算出処理・調整処理を、図3に示すように、上述した第1時間帯(図示例では9:00から17:00)と第2時間帯(17:00から9:00)の2つの時間帯に分けて行う。なお、同図では商用電力実使用上限値を太い実線で示している。また、第1時間帯から第2時間帯に移行する際、及び第2時間帯から第1時間帯に移行する際、それぞれの時間帯単位で調整した商用電力実使用上限値を急激に変化させると、システムに意図しない負担(負荷)が作用するため、第1時間帯の商用電力実使用上限値から第2時間帯の商用電力実使用上限値への切替、及び第2時間帯の商用電力実使用上限値から第1時間帯の商用電力実使用上限値への切替を徐々に行うように設定している。なお、季節ごとに太陽の日照時間が異なるため、第1時間帯及び第2時間帯は季節に応じて変動する。
【0051】
また、本実施形態の需要家電力マネジメントシステムXは、電力予測部2によって取得した電力予測値を利用した電力マネジメント制御部3の制御によって、蓄電池Bの運用効率を向上させることができる。すなわち、本実施形態の電力マネジメント制御部3は、発電電力予測値が需要電力予測値よりも大きい場合、換言すれば、負荷Lの需要電力(使用電力)が少ない場合には、余った発電電力を蓄電池Bに蓄電するように制御する一方で、発電電力予測値が需要電力予測値よりも小さい場合、換言すれば、負荷Lの需要電力(使用電力)が多い場合には、蓄電池Bの放電を可能な限り長時間実施して、蓄電池Bの放電量に応じて商用電力Cの使用量を少なくするように制御する。
【0052】
本実施形態の需要家電力マネジメントシステムXでは、電力マネジメント制御部3による具体的な制御内容として以下の制御内容を採用している。
【0053】
本実施形態では、蓄電池Bの運用モードを、「通常モード」、「放電モード」、「充電モード」に区別し、各モードにおける諸条件によって、負荷Lに対して供給する電力(具体的には上述のインバータIが負荷Lに供給する電力)を決定している。ここで、蓄電池Bの運用モードは、基本的に通常モードに設定されており、通常モード時に負荷Lの需要電力(使用電力)量が所定の閾値を越えた場合に放電モードへ移行することで、バッテリ電力を負荷Lに供給可能な状態にするとともに、放電モード時に負荷Lの需要電力(使用電力)量が所定の閾値を下回った場合に、負荷Lの需要電力に対する電力供給に余裕があることから放電モードを解除して通常モードに移行し、負荷Lに対して無条件にバッテリ電力を供給する状態を解除する。
【0054】
一方、通常モード時に負荷Lの需要電力(使用電力)量が所定の閾値を下回った場合に、充電モードに移行することで、蓄電池Bを充電することができ、充電モード時に負荷Lの需要電力(使用電力)量が所定の閾値を越えた場合に通常モードへ移行することで、蓄電池Bの充電を停止し、バッテリ電力を負荷Lに供給可能な状態にする。なお、本実施形態では、電力予測部2によって取得した電力予測値に基づく商用電力実使用上限値の変更は、蓄電池Bが通常モード時に行われるように設定している。
【0055】
そして、本実施形態では、蓄電池Bの運用モードが「通常モード」である場合において、商用電力実使用上限値が負荷Lの需要電力以上であれば(条件A)、インバータIは、最大放電電力を発電電力よりも優先して負荷Lの需要電力に対して供給し、最大放電電力で足りない分だけ発電電力を負荷Lの需要電力に対して供給し、さらに、「通常モード」において上述の条件Aを満たす場合において、負荷Lの需要電力よりも最大放電電力が大きければ、負荷Lの需要電力の全てをバッテリ電力で賄う(バッテリ電力を負荷Lの需要電力に供給する)と同時に、発電電力で蓄電池Bを充電する。すなわち、蓄電池Bは、充放電状態となる。
【0056】
また、蓄電池Bの運用モードが「通常モード」である場合において、負荷Lの需要電力が商用電力実使用上限値よりも大きく、且つ負荷Lの需要電力から商用電力実使用上限値を引いた値が、発電電力と蓄電池Bの最大放電電力の合計値よりも大きければ、負荷Lに対してインバータIが発電電力及び蓄電池Bの最大放電電力を供給する。また、蓄電池Bの運用モードが「通常モード」である場合において、負荷Lの需要電力が商用電力実使用上限値よりも大きく、且つ負荷Lの需要電力から商用電力実使用上限値を引いた値が、発電電力と蓄電池Bの最大放電電力の合計値よりも小さければ、負荷Lの需要電力から商用電力実使用上限値を引いた値に応じて必要な分だけ、インバータIが発電電力及び蓄電池Bの最大放電電力を負荷Lに対して供給する。
【0057】
本実施形態では、蓄電池Bの運用モードが「放電モード」である場合において、発電電力が負荷Lの需要電力以上であれば、発電電力が負荷Lの需要電力に対して余裕があることから、負荷Lに対してインバータIが発電電力のみを供給する。また、蓄電池Bの運用モードが「放電モード」である場合において、負荷Lの需要電力が発電電力よりも大きく且つ発電電力と蓄電池Bの最大放電電力(バッテリ電力の最大値)が負荷Lの需要電力よりも小さければ、負荷Lに対してインバータIが発電電力及び蓄電池Bの最大放電電力を供給する。さらにまた、蓄電池Bの運用モードが「放電モード」である場合において、負荷Lの需要電力が発電電力よりも大きく且つ発電電力と蓄電池Bの最大放電電力が負荷Lの需要電力以上であれば、負荷Lの需要電力に応じて(換言すれば、負荷Lが必要とする分だけ)インバータIが発電電力及び蓄電池Bの最大放電電力を負荷Lに対して供給する。
【0058】
このように、本実施形態では、蓄電池Bの運用モードが「通常モード」である場合、負荷Lの需要電力のうち発電電力を越えた分に応じてバッテリ電力を負荷Lの需要電力に対して供給する一方で、蓄電池Bの運用モードが「放電モード」である場合、蓄電池Bの放電電力(バッテリ電力)を負荷Lの需要電力に対して供給する制御を採用している。
【0059】
なお、蓄電池Bの運用モードが「充電モード」である場合は、無条件で蓄電池Bを充電し、発電電力から蓄電池Bの最大充電電力を引いた分の電力(すなわち発電電力の一部)を負荷Lに対してインバータIが供給する。
【0060】
また、蓄電池Bの運用モードが何れのモードであっても、発電電力や蓄電池Bの放電電力の各電力または各電力の合計値が負荷Lの需要電力よりも小さい場合には、その不足分に応じて商用電力Cを負荷Lに供給する。
【0061】
本実施形態の電力マネジメント制御部3として、蓄電池Bの運用モード毎に応じた制御に加えて、又は代えて、或いは相互に矛盾しない範囲において、以下の制御を実行可能なものを採用することも可能である。例えば、蓄電池Bの充電量が所定の閾値に達した時に、負荷Lの需要電力の増減少を確認し、蓄電池Bの放充電の判断を行う電力マネジメント制御部3を採用することができる。蓄電池Bの充電量が、閾値として設定した所定の下限値と上限値の間であれば「中レベル」とし、閾値の下限値よりも低ければ「小レベル」とし、閾値の上限値よりも高ければ「大レベル」とする。そして、電力マネジメント制御部3は、蓄電池Bの充電量及び電力予測値に基づいて以下のように蓄電池Bの運用計画を実施・制御している。なお、蓄電池Bの充電量が所定の閾値に達しない時間が所定時間以上継続した場合には、所定時間毎(例えば1時間毎)に蓄電池Bの運用変更を行うように設定することもできる。また、以下の説明における負荷制御とは、発電電力が不足している場合に蓄電池Bの蓄電残量に応じて負荷Lを段階的に遮断する制御であり、負荷制御レベル1が最も低い負荷制限状態であり、負荷制御レベル3が最も高い負荷制限状態である。
【0062】
蓄電池Bの充電量が小レベルの時に、需要電力が発電電力以上であると予測される場合、その時点における負荷制御レベルが2又は3であれば、負荷制御レベルを1つ下げ、負荷制御レベルが1であれば、そのレベルを維持する。また、蓄電池Bの充電量が小レベルの時に、発電電力が需要電力よりも大きいと予測される場合、その時点における負荷制御レベルが2又は3であれば、充電量が閾値に達していなくても発電電力による充電を開始し、負荷制御レベルが1であれば、そのレベルを維持する。
【0063】
蓄電池Bの充電量が中レベルの時に、需要電力が発電電力以上であると予測される場合、その時点における負荷制御レベルが2又は3であれば、負荷制御レベルを1つ下げ、負荷制御レベルが1であれば、充電量が閾値に達していなくても放電を開始する。また、蓄電池Bの充電量が中レベルの時に、発電電力が需要電力よりも大きいと予測される場合、その時点における負荷制御レベルが2又は3であれば、充電量が閾値に達していなくても発電電力による充電を開始し、負荷制御レベルが1であれば、そのレベルを1つ上げてレベル2にする。
【0064】
蓄電池Bの充電量が大レベルの時に、需要電力が発電電力以上であると予測される場合、その時点における負荷制御レベルが2又は3であれば、負荷制御レベルを1つ下げ、負荷制御レベルが1であれば、充電量が閾値に達していなくても放電を開始する。また、蓄電池Bの充電量が大レベルの時に、発電電力が需要電力よりも大きいと予測される場合、負荷制御レベルが3であれば、そのレベルを維持し、負荷制御レベルが1又は2であれば、負荷制御レベルを1つ又は2つ上げる。
【0065】
また、夜間は商用電力Cを使用して蓄電池Bの充電を行うように設定している。このような蓄電池Bの運用を採用することによって、積極的にバッテリ電力(放電)を使用して発電電力の無駄を無くし、バッテリ電力及び発電電力を効率良く使用して、商用電力の平準化を図ることができる。
【0066】
以下に、本実施形態に係る需要家電力マネジメントシステムXを適用してテスト(実証実験)を行い、そのテストを通じて実際に得た各電力データの変遷に基づき、本実施形態に係る需要家電力マネジメントシステムXの有用性を検証する。
【0067】
本実施形態の需要家電力マネジメントシステムXを適用していない場合、図4に示すように、商用電力実使用上限値(同図において相対的に太い実線で示す)は固定値(図中では1.5kW)に設定されており、特に、1日目に相当する同図における紙面左半分の時間帯において、日中の自家発電装置N(自然エネルギー)による発電電力の変動分を補うために、商用電力Cが使用されていることが把握できる。なお、同図の2日目は、発電電力が同図の1日目の発電電力よりも多く、それに伴って昼間の時間帯における商用電力の使用量が、1日目の同時間帯における商用電力の使用量よりも少なくなっていることが同図から分かる。
【0068】
これに対して、本実施形態の需要家電力マネジメントシステムXを適用した場合、電力予測部2による予測値に基づき、図5に示すように、電力マネジメント制御部3によって、自家発電装置Nの発電が期待できる時間帯、すなわち、予測発電電力(発電電力予測値)が予測需要電力(需要電力予測値)よりも多い時間帯である第1時間帯の商用電力実使用上限値(同図において相対的に太い実線で示す)を、デフォルト商用電力実使用上限値よりも下げた。なお、同図では、デフォルト商用電力実使用上限値を相対的に太い破線で示している。同図に示すケースでは、電力マネジメント制御部3によって、第1時間帯の商用電力実使用上限値を、デフォルト商用電力実使用上限値(本実証現場では、需要家電力マネジメントシステムXを適用していない場合の固定値と同じ値)である1.5kWから726Wに変更した。なお、図4図5に示す各電力データは、相互に異なる日における電力データであるものの、何れも同じ季節の日における電力データである。
【0069】
そして、これら図4及び図5から把握できるように、本実施形態の電力マネジメント制御部3によって、自家発電装置Nによる多くの発電を見込める第1時間帯では、需要家電力マネジメントシステムXを適用していない場合に比べて、商用電力実使用上限値を低く設定して、負荷Lの需要電力に対する自家発電装置Nの発電電力及び蓄電池Bのバッテリ電力(放電)の供給配分を多くすることができ、商用電力Cの使用量を効果的に抑制することができた。また、商用電力Cの使用量を抑えた分に応じて蓄電池Bのバッテリ電力(放電)を負荷Lの需要電力に対して供給することによって、蓄電池Bに充電された発電電力を積極的に効率良く活用することができる。このことは、図5に示す第1時間帯において、負荷Lの需要電力が多くなる時間帯に、商用電力Cの使用量がゼロ又はゼロ付近になっている点、及び蓄電池Bのバッテリ残量が減少し続けている点、これらの点に着目すれば容易に把握することができる。図5に示す2日間において、第1時間帯に相当する日中の負荷Lの需要電力に対するバッテリ電力の供給量(使用量)は、1日目が10kWhであり、2日目が5kWhであった。このバッテリ電力の供給量は、需要家電力マネジメントシステムXを適用しない場合であれば、同じ時間帯に使用した商用電力Cの削減量であると言える。
【0070】
また、自家発電装置Nによる多くの発電を見込めない第2時間帯では、本実施形態の電力マネジメント制御部3によって、商用電力実使用上限値をデフォルト商用電力実使用上限値よりも高く設定した。つまり、第2時間帯の商用電力実使用上限値は、第1時間帯の商用電力実使用上限値よりも高く設定された値である。このような商用電力実使用上限値が設定された第2時間帯では、負荷Lの需要電力に対して商用電力Cを供給する。また、第2時間帯では、割安な料金設定がされていることが多いこの時間帯(夜間)の商用電力Cを蓄電池Bの充電に使用することで、蓄電池Bの充電量を増やすことができる。なお、図5では、第2時間帯から第1時間帯に切り替わる時刻(図示例では9:00)を挟んだ前後数時間に渡って、自家発電装置Nの発電電力の増加に伴い、蓄電池Bのバッテリ残量が増加している。これは、この時間帯に発電電力を蓄電池Bに充電していることを意味する。
【0071】
このように、本実施形態に係る需要家電力マネジメントシステムXを適用することによって、一日のうち負荷Lの電力使用量(負荷Lの需要電力)が増大する日中における商用電力Cの使用量を下げることができ、商用電力Cの平準化を実現できた。さらにまた、商用電力Cが平準化されることにより、一日における商用電力Cの最大使用電力も低くなる。これに伴って、電気契約の基本料金の「契約アンペア数」を下げることができる。
【0072】
以上の結果から、本実施形態に係る需要家電力マネジメントシステムXを適用することによって、一日の商用電力の平準化を図ることができるとともに、電気契約の基本料金の契約アンペア数を一段下げることができることが判明した。
【0073】
なお、図5に示す電力データを得た今回の実証実験(テスト)では、第2時間帯の商用電力実使用上限値が決定される時間と、自家発電装置Nの発電がほとんどできなくなる時間が重なり、商用電力実使用上限値が、第2時間帯の商用電力実使用上限値から第1時間帯の商用電力実使用上限値に上がった時に、商用電力Cが商用電力実使用上限値を超えてしまっている。そのため、商用電力実使用上限値の設定に余裕を持たせる必要があると考えられる。このような課題があるものの、上述した効果を奏する需要家電力マネジメントシステムXの有用性及び実用性は高いものであると言える。
【0074】
このように、本実施形態に係る需要家電力マネジメントシステムXによれば、自家発電装置Nの予測発電電力と負荷Lの予測需要電力とを比較して、需要電力よりも発電電力が多い時間帯、換言すれば自家発電装置Nの発電を多く見込める時間帯と、需要電力よりも発電電力が多い時間帯、換言すれば自家発電装置Nの発電をあまり見込めない時間帯とをそれぞれ第1時間帯、第2時間帯として区別し、第1時間帯の商用電力実使用上限値を第2時間帯の商用電力実使用上限値よりも低く設定し、第1時間帯における負荷Lの需要電力に対して、発電電力及びバッテリ電力を商用電力Cよりも優先して供給することによって、第1時間帯における商用電力Cの使用量を効果的に抑えることができ、第2時間帯における商用電力Cの使用量に対して第1時間帯における商用電力Cの使用量が格段に増大するという事態を回避して、商用電力Cの平準化を図ることができる。
【0075】
さらにまた、本実施形態に係る需要家電力マネジメントシステムXであれば、第1時間帯における需要電力に対して、優先的に発電電力及びバッテリ電力を供給し、発電電力及びバッテリ電力で足らない分を商用電力Cで補うように電力配分を制御することによって、商用電力Cの使用を控えて、蓄電池Bに充電された電力(バッテリ電力)を積極的に効率良く活用することができ、従来であれば生じていた不具合、すなわち、蓄電池Bに充電された電力が需要電力に対して供給されずに放電されるという大きな電力ロスの発生を解消することができる。さらに、蓄電池Bの過充電や過放電による早期消耗や故障等も防止することが可能である。
【0076】
特に、本実施形態に係る需要家マネジメントシステムは、発電電力の予測値と電力需要の予測値とを比較して決定可能な第1時間帯と第2時間帯とで、商用電力実使用上限値を変更し、相対的に低い商用電力実使用上限値を設定する第1時間帯では、電力需要に対して発電電力とバッテリ電力では供給不足になる場合に商用電力Cを使用するように制御することが可能であるため、上述のように実際に起きている負荷系統の需要電力の変化という事象に応じて、固定値である設定電力値を越えるまで常に商用電力Cを優先的に使用する構成であれば生じる不具合、すなわち、負荷系統の需要電力のピーク時における自家発電装置Nや蓄電池Bからの電力供給不足とう事態を回避すべく、設定電力(本発明の商用電力実使用上限値に相当するもの)を比較的高い固定値に設定すれば、時間帯や季節ごとで変化する商用電力Cの使用量の最大値と最小値の差が拡大して商用電力使用量の平準化を図ることができないという不具合も解消することができる。
【0077】
そして、本実施形態の需要家電力マネジメントシステムXによれば、商用電力使用量の平準化を図ることができることによって、1日における商用電力Cの最大使用量も低くすることが可能になり、電気契約に基本料金を規定する一要因である契約アンペア数を下げることができ、需要家は経済的メリットを享受できる。
【0078】
さらに、需要家における1日における商用電力Cの最大使用量を低減することが可能な本実施形態の需要家電力マネジメントシステムXを採用することによって、需要電力が特に多くなることが経験上または予測上把握可能な時間帯や季節(冬や夏)において、電力会社から供給する商用電力が不足する事態を防止・抑制することが期待できる。
【0079】
なお、本発明は上述した実施形態に限定されるものではない。例えば、負荷や蓄電池それぞれの数、種類、組み合わせは本発明の需要家電力マネジメントシステムの適用対象となる需要家単位で異なっていてもよいし、同じであってもよい。
【0080】
また、第1時間帯の中でさらに細かい時間帯(小時間帯)を区別し、予測発電電力と予測需要電力とに基づいて各時間帯における商用電力実使用上限値を設定することも可能である。同様に、第2時間帯の中でさらに細かい時間帯(小時間帯)を区別し、予測発電電力と予測需要電力とに基づいて各時間帯における商用電力実使用上限値を設定することも可能である。なお、第1時間帯の中で区別した小時間帯で設定した全ての商用電力実使用上限値が、第2時間帯の中で区別した小時間帯で設定した全ての商用電力実使用上限値よりも低いことが条件とされる。
【0081】
また、本発明の需要家電力マネジメントシステムの適用対象となる需要家は、事業所に限らず、種々の施設(例えば病院や福祉施設、図書館、運動施設)や一般家庭等であってもよく、普段日と休日とで需要電力が大きく異ならない需要家や、一日の需要電力がある程度平均化されているような需要家(夜間も稼動している工場や店舗等)であっても構わない。また、日時単位ではなく季節単位や年単位で需要電力が大きく異なる需要家であってもよい。
【0082】
発電電力や需要電力を予測する方法もまた、上述の電力予測方法に限定されず、例えば、気象データを変数とした重回帰分析を用いずに、傾向成分と時刻成分だけを利用して各電力を予測することも可能である。この場合、重回帰分析を用いる場合と比較して予測精度は劣るものの、適宜の処理で精度を高めれば、電力マネジメント制御部において好適に用いることができる予測値となり得る。
【0083】
また、発電電力予測値や需要電力予測値が、1時間単位以外(例えば30分単位や2時間単位等)の予測値であっても構わない。
【0084】
また、電力予測で用いる気象データ(気象予報データ、気象実績データ)については、気象データの提供元から提供される気象データを、需要家よりも上位に設けた気象情報サーバで一旦受け取り、気象情報サーバから需要家ごとにその気象データを提供するように構成することも可能である。
【0085】
その他、各部の具体的構成についても上記実施形態に限られるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形が可能である。
【符号の説明】
【0086】
3…電力マネジメント制御部
B…蓄電池
C…商用電力
L…負荷
N…自家発電装置
X…需要家電力マネジメントシステム
図1
図2
図3
図4
図5