(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2015-187089(P2015-187089A)
(43)【公開日】2015年10月29日
(54)【発明の名称】脂肪代謝改善剤
(51)【国際特許分類】
A61K 36/53 20060101AFI20151002BHJP
A61K 36/00 20060101ALI20151002BHJP
A61K 9/08 20060101ALI20151002BHJP
A61P 3/06 20060101ALI20151002BHJP
A61P 3/04 20060101ALI20151002BHJP
A61K 47/04 20060101ALI20151002BHJP
【FI】
A61K35/78 Q
A61K35/78 Y
A61K9/08
A61P3/06
A61P3/04
A61K47/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
【全頁数】6
(21)【出願番号】特願2014-65037(P2014-65037)
(22)【出願日】2014年3月27日
(71)【出願人】
【識別番号】309015019
【氏名又は名称】地方独立行政法人青森県産業技術センター
(72)【発明者】
【氏名】山口 信哉
(72)【発明者】
【氏名】菊地 徹
(72)【発明者】
【氏名】宮木 博
【テーマコード(参考)】
4C076
4C088
【Fターム(参考)】
4C076AA12
4C076CC21
4C076DD21
4C088AB38
4C088AC05
4C088BA09
4C088CA11
4C088MA17
4C088NA14
4C088ZA70
4C088ZC33
(57)【要約】
【課題】脂肪代謝改善剤について、通常摂食している植物を原料として、簡易な方法で安価に提供する。
【解決手段】植物ペパーミントの葉に水を加え、ペパーミント葉を水に浸漬した後、ペパーミント葉を含む水を冷凍し、次に、解凍することにより得られる水溶性組成物が脂肪代謝改善剤として作用する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
植物ペパーミントの葉に水を加え、ペパーミント葉を水に浸漬した後、ペパーミント葉を含む水を冷凍し、次に、解凍することにより得られる水溶性組成物を含有する脂肪代謝改善剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、肥満を予防し、かつ脂肪を低減するために有効な脂肪代謝改善剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
厚生労働省の調べによると、日本人の男性の30%以上、女性の21%以上が、BMI(ボディマス指数)が25以上の肥満と判定されている。肥満は健康や美容に関して多くの悪影響を及ぼすことから、国民の重大な関心事となっている。
【0003】
肥満の人の細胞には多くの脂肪が蓄積されている。肥満を予防し改善するには、細胞への脂肪の蓄積を防ぐこと、蓄積した脂肪を分解することなどがあげられる。そのため各種薬剤などの医学的療法や運動療法、日常摂取する飲食物による対処などが行われている。医学的療養は費用や通院に難があり、予防には利用できないなどの問題があった。運動は長続きしない人や体力的に合わない人も多く、必然、多くの人が飲食物の摂取による方法を求めている。
【0004】
肥満の予防や改善に効果が高いのは、脂肪の蓄積防止と蓄積した脂肪の分解促進の2つの作用を有する飲食物を摂取することである。脂肪分解作用と脂肪蓄積防止作用の両者の作用を有している飲食物は少なく、両者の作用を有している飲食物としては、甘草(特許文献1参照)やワサビ(特許文献2参照)などがある。甘草は、生育に4年ほどかかることもあり価格が高く、大量摂取では副作用を生じる場合がある。また、ワサビはその辛い味が摂取の障害となっている。各種ハーブの抽出物(特許文献3参照)もあるが、原料となるハーブを乾燥、破断、破砕、細断、または粉末化などの処理が必要であり、振とう、撹拌、還流などの操作のため、専用の機器を必要とする。また、抽出には通常有機溶剤を使用し、コスト高やアレルギーの原因となる。水100%による抽出のときは、低温や室温では抽出効率が悪いため高温で抽出するが、専用の装置を必要とし、エネルギーコストがかかるなど欠点があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開番号WO2008/143182号 公報
【特許文献2】特開2007−84535号 公報
【特許文献3】特開2006−16312号 公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記課題を鑑み、本発明は、摂食しやすい植物を原料として、簡易な方法でかつ安価に製造できる、脂肪蓄積防止と脂肪分解促進の両者の作用を有する脂肪代謝改善剤を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の脂肪代謝改善剤は、植物ペパーミントに水を加え、ペパーミントを水に浸漬した後、ペパーミントを含む水を冷凍し、次に、解凍することにより得られる水溶性組成物を有効成分とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明により、簡易な方法でかつ安価な脂肪代謝改善剤を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明についてその好ましい様態をあげ、より具体的に述べる。以下に示す実施の形態は、本発明の技術的思想を具体化するための脂肪代謝改善剤を示すものであって、特許請求の範囲に記載された請求項が規定する技術的範囲内において、種々の変更を加えることができる。
【0010】
脂肪代謝改善剤として、その効果は、脂肪蓄積抑制と脂肪分解促進の2つの作用を有する。
【0011】
ペパーミント(学名:Mentha x piperita L.)は、シソ科ハッカ属のハーブである。新鮮なペパーミントの葉を含む部位を集め、水を加え、浸漬する。新鮮なペパーミントをあらかじめ冷凍保存しておいたものを用いてもよい。また、ペパーミントの葉を裁断しておいてもよい。水の量は、概ねペパーミントの重量の2倍〜200倍量である。ペパーミントの葉は完全に水に浸したほうがよく、葉が水面から浮かび上がる場合は、落とし蓋などを用いてもよい。次にこのペパーミントの葉を含む水を冷凍する。冷凍する温度は、冷凍で通常用いられる温度でよい。また、冷凍時間は、水の中心部が冷凍されてから数十分以上であれば制限がないが、長時間冷凍する場合は、密封容器に入れたほうが好ましい。解凍は、自然解凍、流水による解凍などあるが、熱湯による解凍は避けたほうが好ましい。解凍後、葉と水溶液を分別するが、分別はろ過など当業者が通常用いる方法により行われる。分別して得られた水溶液に含まれる組成物が、脂肪代謝改善剤である。この水溶液は、減圧蒸留などで濃縮してもよいし、また、噴霧乾燥や凍結乾燥、流動乾燥など当業者が通常行う方法により粉末化することを拒むものでない。
【0012】
以下に実施例を示して本発明を具体的に説明するが、これは単に例示の目的で述べるものであり、本発明はこれらの実施例に限定されるものでない。
【実施例1】
【0013】
(脂肪代謝改善剤の製造)
市販の新鮮な葉を含むペパーミント(有限会社種市水耕農場産)を冷水で軽く洗浄し、ペパーミント葉32.8gをプラスチック容器に入れ、水を98.4mL加え、完全に水中に浸漬し、蓋で密封し、-20℃で冷凍した。3日後に、流水中で解凍した。解凍した後、ペパーミント葉をガーゼでろ過することにより分別し、脂肪代謝改善剤となる水溶液94mLを得た。
【0014】
この水溶液から49mL取り出し、凍結乾燥したところ、0.36gの乾燥物が得られた。
【実施例2】
【0015】
(脂肪蓄積抑制作用)
実施例1で製造された水溶液を試験液として用いて、動物細胞を使用して脂肪蓄積抑制試験を行った。細胞は、マウス前駆脂肪細胞 3T3-L1(ディーエス ファーマ バイオメディカル社)を用いた。細胞を増殖培地にて3×10
4 cells/0.1mL/ウェルとなるよう96ウェルプレートに播種し、炭酸ガスインキュベーター内(5%炭酸ガス、37℃)で3日間培養した。播種から4日目に、試験液を含む分化誘導培地に交換し、播種から7日目、9日目、11日目に試験液を含む分化維持培地に交換して培養した。増殖培地は、10%FBS(セル カルチャー バイオサイエンス社)と1%ペニシリンーストレプトマイシン(ナカライテスク社)を含むDMEM培地(ナカライテスク社)を用いた。分化誘導培地は、増殖培地に終濃度10μg/mLインシュリン、500μM3-イソブチル-1-メチルキサンチン、1μMデキサメタゾンになるように加えた。分化維持培地は、10μg/mLインシュリンを含むDMEM培地(ナカライテスク社)を用いた。インシュリン、3-イソブチル-1-メチルキサンチン、デキサメタゾンは、アディポリシス アッセイ キット(ケイマン ケミカル社)の付属のものを用いた。測定数n=5で行った。
【0016】
試験液は分化誘導培地及び分化維持培地に、終濃度5.0%、1.0%、0.5%、0.1%、0.01%になるように加えた。陰性対照は試験液無添加培地、陽性対照は25mM塩化リチウム(和光純薬工業社)を同様に用いた。脂肪細胞分化の対照として、増殖培地で培養した未分化3T3-L1細胞を試験に用いた。
【0017】
細胞内の脂肪滴の量は以下の方法で定量した。細胞を増殖培地にて96ウェルプレートに播種してから13日目に、細胞を10%ホルムアルデヒドで固定した後、0.17%のオイルレッドO(シグマアルドリッチ社)溶液で細胞を染色し、染色された細胞からイソプロパノールにてオイルレッドを抽出し、520nmの波長で吸光度を測定した。
【0018】
未分化3T3-L1細胞区、試験液無添加区の520nmの吸光度は、0.026±0.007、0.260±0.01であった。試験液最終濃度5.0%区、1.0%区、0.5%区、0.1%区、0.01%区の吸光度はそれぞれ、0.084±0.007、0.187±0.006、0.229±0.005、0.249±0.009、0.256±0.013であった。陽性対照の25mM塩化リチウム区の吸光度は、0.034±0.009であった。t検定の結果、試験液終濃度5%区と1%区では1%水準で無添加に対して有意差があり、試験液終濃度0.5%区では5%水準で無添加に対して有意差があった。
【0019】
この結果から、本製造法により得られた脂肪代謝改善剤は、脂肪蓄積抑制作用を有していた。
【実施例3】
【0020】
(細胞毒性試験)
試験を行うにあたって細胞毒性試験を行った。すなわち、3T3-L1細胞を増殖培地で同様に培養し、その後試験液を終濃度5.0%、1.0%、0.5%、0.1%、0.01%で含む分化維持培地に交換して3日間培養し、生細胞数測定試薬SF(ナカライテスク社)により生細胞数を算出した。試験液の終濃度5.0%、1.0%、0.5%、0.1%、0.01%では、生細胞数は試験液無添加と同程度であり、細胞毒性はないことを確認した。
【実施例4】
【0021】
(脂肪分解促進作用)
実施例1で製造された水溶液を試験液として用いて、動物細胞を使用して脂肪分解促進試験を行った。細胞は、マウス前駆脂肪細胞 3T3-L1(ディーエス ファーマ バイオメディカル社)を用いた。細胞を増殖培地にて3×10
4 cells/0.1mL/ウェルとなるよう96ウェルプレートに播種し、炭酸ガスインキュベーター内(5%炭酸ガス、37℃)で3日間培養した。播種から4日目に培地を分化誘導培地に交換し、播種から7日目、9日目に分化維持培地に交換して培養した。播種から11日目に試験液を含む分化維持培地に交換し、培養した。24時間後、培養上清を回収し、脂肪の加水分解により生じた上清中の遊離グリセロールの量を定量した。増殖培地、分化誘導培地、分化維持培地は、実施例2と同じ培地を用いた。測定数n=5で行った。
【0022】
試験液は11日目の分化維持培地に、終濃度5.0%、1.0%、0.5%、0.1%、0.01%になるように加えた。陰性対照は試験液無添加培地、陽性対照は10μMイソプレテレノール(アディポリシス アッセイ キット(ケイマン ケミカル社)の付属)を用いた。
【0023】
遊離グリセロールの量は、以下の方法で定量した。アディポリシス アッセイ キット(ケイマン ケミカル社)を用い、酵素グリセロールキナーゼ、グリセロールフォスフェイトオキシダーゼ、パーオキシダーゼによりグリセロールを処理し生じたキノンイミン ダイを520nmの波長で吸光度を測定した。予め標準グリセロールで検量線を作成し、上清に濃度が既知の標準グリセロールを添加し、検量線から上清中の遊離グリセロール量を求めた。
【0024】
陰性対照の試験液無添加区の遊離グリセロール量は11.397±0.533μg/mLであった。試験液最終濃度5.0%区、1.0%区、0.5%区、0.1%区、0.01%区の遊離グリセロール量はそれぞれ、15.852±0.697μg/mL、17.765±1.143μg/mL、15.523±1.497μg/mL、13.909±1.256μg/mL、10.471±0.376μg/mLであった。陽性対照の10μMイソプレテレノール区の遊離グリセロール量は、53.370±1.896μg/mLであった。t検定の結果、試験液終濃度5%区と1%区は、1%水準で無添加に対して有意差があり、試験液終濃度0.5%区は、5%水準で無添加に対して有意差があった。
【0025】
この結果から、本製造法により得られた脂肪代謝改善剤は、脂肪分解促進作用を有していた。