【課題手段】 本発明のカーペット1は、パイル糸21が基布22にタフトされたパイル生機2と、前記生機2の裏面側に設けられたバッキング層3と、を有し、前記パイル生機2のパイル面が、パイル糸21の色彩を呈するパイル色彩領域5と、パイル糸21を染料にて着色することにより形成され且つ前記染料の色彩を呈する染料色彩領域6と、パイル糸21を溶融させることにより形成された凹状の溶融色彩領域7と、を有する。
前記パイル色彩領域と染料色彩領域が隣接した部分を有し、その隣接した部分においてパイル糸の色彩と染料の色彩が混在し、染料色彩領域に近づくに従って染料の色彩が漸次濃くなっている、請求項1乃至3の何れか一項に記載のパイル生機。
パイル糸が基布にタフトされたパイル生機のパイル面の第1の領域を除く第2の領域に、染料を含む着色粘性液を塗布し、前記パイル面の第3の領域に、染料を含む着色粘性液及び染料を含まない非着色粘性液を塗布する工程、
前記各液が塗布されたパイル面を加熱する工程、を有する、パイル生機の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明について、図面を参照しつつ具体的に説明する。
なお本明細書において、「PPP〜QQQ」という表記は、「PPP以上QQQ以下」を意味する。
各平面図において、パイル面の各領域を判りやすく図示するため、便宜上、パイル色彩領域及び縁取り領域に網掛けを付し、染料色彩領域に無数の大ドットを付し、溶融色彩領域に無数の小ドットを付し、混在領域に斜線を付している。また、
図2及び
図3の各端面図に示す各層及びパイル糸は、実際の大きさや状態とは異なっていることに留意されたい。
【0011】
[第1実施形態]
図1乃至
図3において、本発明のカーペット1は、パイル生機2と、前記生機2の裏面側に設けられたバッキング層3と、を有する。前記パイル生機2は、基布22と、基布22にタフトされたパイル糸21と、を有する。
第1実施形態のカーペット1及びパイル生機2は、前記パイル面が、パイル糸21の色彩を呈するパイル色彩領域5と、パイル糸21を染料にて着色することにより形成され且つ前記染料の色彩を呈する染料色彩領域6と、パイル糸21を溶融させることにより形成された溶融色彩領域7と、溶融色彩領域7と染料色彩領域6の境界に沿って帯状に延び且つパイル糸21の色彩を呈する縁取り領域8と、を有する。
以下、具体的に説明する。
【0012】
本発明のカーペット1は、パイル生機2を有する床材であり、このカーペット1には、タイルカーペット及びロールカーペットなどのほか、ラグやマットなどと呼ばれているものも含まれる。特に、本発明のカーペット1は、その複数を様々な配置パターンにて敷設することにより高いデザイン性を表現できるので、タイルカーペットが好ましい。
カーペット全体の平面形状は、特に限定されず、平面視矩形状(正方形状又は長方形状)、長手方向の長さが短手方向よりも十分に長い長方形状などが挙げられる。図示例では、カーペット1は、平面視正方形状である。このような平面視形状のカーペット1は、タイルカーペットの代表例である。
【0013】
前記パイル糸21は、紡糸又は紡績後に着色した糸又はその撚り糸、紡糸前の段階で原料を着色し、その原料を紡糸することにより得られる糸又はその撚り糸などが挙げられる。具体的には、前記パイル糸21としては、原着糸、ベース糸、後染め糸、又は、これらの混合糸などが挙げられる。
前記原着糸は、「原液着色繊維」からなる糸であり、紡糸工程前の段階で着色剤を含む樹脂を溶融紡糸して作られる繊維の糸を言う。
前記ベース糸は、着色剤で着色していない繊維からなる糸である。
前記後染め糸は、着色剤で着色していない繊維(ベース糸)を製糸した後、その糸を着色したものである。後染め糸の着色時期は、特に限定されず、ベース糸を製糸した直後で且つ基布にタフトする前又はベース糸を基布にタフトした後に行ってもよい。
従って、少なくとも前記原着糸を用いたパイル糸21は、基布22にタフトする前から所要の色彩に着色されている。
原着糸は、内部に着色剤が包含されている繊維からなるため、汚れ原因物が繊維内に入り難く且つ汚れにくい上、耐候堅牢性、クリーニング堅牢性、耐薬品性などにも優れる。一方、前記後染め糸は、単一のパイル生機2に対して様々な色彩を付与することができので、後染め糸を用いることにより、生産性とデザインの多様性に優れたパイル生機2を構成できる。
前記パイル糸21の材質は、熱可塑性樹脂からなる合成繊維を含んでいれば特に限定されず、例えば、綿、羊毛などの天然繊維と熱可塑性樹脂繊維の混繊、熱可塑性樹脂繊維のみからなるものが挙げられる。前記熱可塑性樹脂繊維の材質は、特に限定されず、例えば、ポリアミド、アクリル、ポリエステル、ポリプロピレン、ポリビニルアルコール、ポリウレタン、セルロース、ポリ塩化ビニルなどが挙げられる。様々な色彩に良好に染色できることから、ポリアミド系樹脂繊維を含むパイル糸又はポリアミド系樹脂繊維のみからなるパイル糸を用いることが好ましい。耐久性及び耐へたり性に優れていることから、ナイロンやポリプロピレンが特に好ましい。なお、パイル糸21の太さは、特に限定されない。
基布22にタフトしたパイル糸21は、パイルと呼ばれるが、そのパイル形状は特に限定されず、カットパイルでもよいし、或いは、ループパイルでもよい。また、パイル高も特に限定されず、例えば、2mm〜10mmであり、好ましくは3mm〜8mmである。
【0014】
前記パイル糸21をタフトする基布22は、特に限定されず、公知の基布を用いることができる。基布22としては、例えば、織布、不織布、編み布などのシート状のものが挙げられる。基布22を構成する繊維の素材としては、例えば、ポリエステル、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリアミドなどの合成繊維;セルロース、ウールなどの天然繊維;レーヨンなどの半合成繊維などが挙げられる。耐久性及び耐へたり性に優れていることから、基布22として、ポリアミドやポリプロピレンを用いることが好ましい。
【0015】
前記バッキング層3は、カーペット1の接地面を構成する層であり、従来公知のバッキング層3を採用できる。
例えば、バッキング層3は、裏面層31と、補強シート32と、裏打ち層33と、を有する。裏面層31は、パイル生機2の、パイル面とは反対側の面である裏面に設けられる。裏打ち層33は、裏面層31の裏面に設けられ、裏打ち層33の裏面が床面に接する。補強シート32は、前記裏面層31と裏打ち層33との中間に設けられる。また、必要に応じて、裏打ち層33の中間に第2の補強シート34を積層してもよい。
【0016】
裏面層31及び裏打ち層33は、公知の合成樹脂によって形成される。例えば、裏面層31及び裏打ち層33の合成樹脂としては、塩化ビニル系樹脂などのPVC系、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体などのEVA系、APP樹脂などのAPP系、ポリウレタンなどのPUR系などが挙げられる。本発明のカーペットをタイルカーペットとする場合には、加工性、耐久性、及びコスト面などから、ポリ塩化ビニル樹脂などのPVC系を用いることが好ましい。
補強シート32,34も特に限定されず、公知のシートを用いることができる。例えば、補強シート32としては、ガラス、ポリエステル、ポリアミドなどの無機繊維若しくは合成繊維の織布又は不織布などが挙げられる。特に、寸法安定性に優れていることから、補強シート32として、ガラス繊維製の織布又は不織布を用いることが好ましい。また、反り防止効果に優れていることから、第2の補強シート34として、ポリエチレンテレフタレートなどのポリエステル繊維製の織布を用いることが好ましい。
なお、本発明のパイル生機2をロールカーペット、ラグ又はマットの構成要素とする場合、その生機2の裏面に、スチレンブタジエンラバー(SBR)又はアクリル系のラテックスなどの接着層を塗布した後、ジュート又はフェルトなどを貼り付けることが好ましい。
【0017】
パイル生機2のパイル面は、色彩又は外観の異なる複数の領域に区画されている。すなわち、パイル生機2のパイル面は、パイル色彩領域5、染料色彩領域6、溶融色彩領域7及び縁取り領域8に区画されている。これらの領域5,6,7,8は、それぞれ複数設けられている。
前記パイル色彩領域5は、基布22にタフトしたパイル糸21そのものの色彩を呈する領域である。前記染料色彩領域6は、タフト後のパイル糸21をさらに染料にて着色することにより形成される。前記染料は、パイル糸21の色彩とは異なる色彩を呈する着色剤である。染料色彩領域6は、パイル糸21を着色した染料の色彩を呈する領域である。前記溶融色彩領域7は、前記染料色彩領域6を形成した後、パイル糸21を溶融させることにより形成される。溶融色彩領域7は、パイル糸21を溶融させた後の色彩を呈し、さらに、溶融によってパイル状のパイル糸21が塊状に変化するため、光沢のある色彩を呈する。溶融色彩領域7の色彩は、パイル糸21そのものの色彩によっても影響を受けるが、概ね、パイル糸21そのものの色彩の系統の範疇で濃い色彩となる。なお、溶融の度合いが高いほど、前記溶融色彩領域7の色彩は、より濃くなる。例えば、パイル糸21が赤色である場合、溶融色彩領域7は、光沢のある濃赤色(黒みがかった赤色)であり、パイル糸21が灰色である場合、光沢のある濃灰色(ほぼ黒色)である。なお、パイル糸21が黒色の場合には、溶融色彩領域7は、光沢のある黒色となる。前記縁取り領域8は、パイル色彩領域5と同様に、基布22にタフトしたパイル糸21そのものの色彩を呈する領域である。
【0018】
前記パイル色彩領域5、染料色彩領域6及び溶融色彩領域7の平面形状及びそれらの配置は、特に限定されず、適宜に設定できる。
図示例では、前記パイル色彩領域5、染料色彩領域6及び溶融色彩領域7の平面形状は、正方形状を含む略矩形状に形成されている。具体的には、パイル色彩領域5及び溶融色彩領域7は、平面視正方形状に形成され、染料色彩領域6は、平面視長方形状に形成されている。
図示例では、溶融色彩領域7の縁の全部が染料色彩領域6に隣接するように、溶融色彩領域7及び染料色彩領域6が配置されている。換言すると、1つの溶融色彩領域7の周囲が1つ又は複数の染料色彩領域6によって囲われるように、溶融色彩領域7及び染料色彩領域6が配置されている。従って、パイル面は、溶融色彩領域7の縁の全部が染料色彩領域6に隣接した部分を有する。また、パイル色彩領域5の縁の全部が染料色彩領域6に隣接するように、パイル色彩領域5及び染料色彩領域6が配置されている。換言すると、1つのパイル色彩領域5が1つ又は複数の染料色彩領域6によって囲われるように、パイル色彩領域5及び染料色彩領域6が配置されている。
このように溶融色彩領域7の縁の全部が染料色彩領域6に隣接した部分を有するパイル面は、さらに、その隣接した部分において溶融色彩領域7と染料色彩領域6の境界に縁取り領域8を有する。この縁取り領域8は、パイル色彩領域5と同様に、パイル糸21そのものの色彩を呈し、前記境界に沿って帯状に延びている。図示例では、帯状の縁取り領域8が溶融色彩領域7を囲繞しており、従って、縁取り領域8は、無端帯状(リング状)を成している。縁取り領域8の幅8Wは、特に限定されないが、例えば、0.5mm〜3mmであり、好ましくは1mm〜2.5mmである。
なお、パイル色彩領域5、染料色彩領域6及び縁取り領域8は、パイル糸21がパイルのままであるので、弾力性を有するが、溶融色彩領域7は、パイル糸21が溶融しているので、パイルほどの弾力性がなく、さらに、パイル色彩領域5、染料色彩領域6及び縁取り領域8よりも下方に凹んだ凹状となっている(
図2参照)。
【0019】
染料色彩領域6の色彩は、パイル色彩領域5及び縁取り領域8の色彩であるパイル糸21の色彩と異なることを条件にして特に限定されない。比較的落ち着いたデザインとなることから、染料色彩領域6の色彩は、パイル糸21の色彩と同系統であることが好ましく、さらに、パイル糸21の色彩と同系統で且つそれよりも濃い色彩がより好ましい。例えば、パイル糸21が赤色の場合には、染料色彩領域6は、それよりも濃い赤色とする。なお、パイル糸21を溶融させて形成される溶融色彩領域7は、通常、パイル糸21の色彩及び染料色彩領域6の色彩よりも濃くなる。
【0020】
上記カーペット1は、溶融色彩領域7において凹状に凹んでいるので、溶融色彩領域7とこれ以外の領域との間に高低差が生じる。このため、カーペット1のパイル面に凹凸模様が表れる。さらに、パイル色彩領域5、染料色彩領域6及び溶融色彩領域7のそれぞれが異なる色彩を呈するので、前記凹凸模様と相乗して、デザイン性の高いカーペット1を構成できる。本発明によれば、パイル色彩領域5、染料色彩領域6及び溶融色彩領域7などの平面形状や配置を適宜設定することにより、デザイン性の高い様々な図柄のカーペット1を提供できる。
特に、溶融色彩領域7と染料色彩領域6の境界に沿って縁取り領域8が形成されており、縁取り領域8は、溶融色彩領域7及び染料色彩領域6の色彩よりも淡色であるので、溶融色彩領域7及び染料色彩領域6の境界が際立つデザインのカーペット1を構成できる。
また、本発明のカーペットは、特にタイルカーペットとして好適に利用できる。本発明のタイルカーペットは、パイル色彩領域5、染料色彩領域6及び溶融色彩領域7のそれぞれの色彩と凹凸模様とが相乗して高いデザイン性を有する。さらに、敷設後のタイルカーペットのパイル面に光が当たると、溶融色彩領域7の陰影が表れるので、視覚的効果も高まるようになる。
また、本発明のタイルカーペットは、前記のようにデザイン性が高いので、そのカーペット自体のデザインと様々な配置パターンを組み合わせることによって高い意匠性を表現できる。具体的には、例えば、タイルカーペットを床面に敷設する方式として従来から知られている、いわゆる流し貼りや市松貼りのような敷設方法との組み合わせにより、さらに、バリエーションに富んだデザインを表現できるようになる。
【0021】
なお、
図1に示す例では、溶融色彩領域7の縁の全部が染料色彩領域6に隣接しているが、例えば、
図4に示すように、パイル面が、溶融色彩領域7の縁の一部が染料色彩領域6に隣接した部分を有し、その隣接した部分において溶融色彩領域7と染料色彩領域6の境界に縁取り領域8が設けられていてもよい。
図4に示すカーペット1のパイル面は、向かい合った染料色彩領域6の間に溶融色彩領域7が配置され、その境界に沿って帯状の縁取り領域8が設けられている。また、溶融色彩領域7の他の縁に隣接してパイル色彩領域5が配置されている。かかるカーペット1も縁取り領域8が設けられているので、溶融色彩領域7及び染料色彩領域6の境界が際立つようになる。
【0022】
[第2実施形態]
図5において、第2実施形態のカーペット1は、パイル糸の色彩を呈するパイル色彩領域5と、パイル糸を染料にて着色することにより形成され且つ前記染料の色彩を呈する染料色彩領域6と、パイル糸を溶融させることにより形成された溶融色彩領域7と、を有する。
第2実施形態のカーペット1は、縁取り領域が設けられていないこと並びにパイル色彩領域、染料色彩領域及び溶融色彩領域の配置が異なることを除いて、第1実施形態のカーペットと同様である。同様の構成については、重複するので、それらの説明は省略する。
【0023】
本実施形態のカーペット1は、溶融色彩領域7の縁の全部がパイル色彩領域5に隣接するように、溶融色彩領域7及びパイル色彩領域5が配置されている。換言すると、1つの溶融色彩領域7の周囲が1つ又は複数のパイル色彩領域5によって囲われるように、溶融色彩領域7及びパイル色彩領域5が配置されている。従って、パイル面は、溶融色彩領域7の縁の全部がパイル色彩領域5に隣接した部分を有する。また、染料色彩領域6の縁の全部がパイル色彩領域5に隣接するように、パイル色彩領域5及び染料色彩領域6が配置されている。換言すると、1つの染料色彩領域6が1つ又は複数のパイル色彩領域5によって囲われるように、パイル色彩領域5及び染料色彩領域6が配置されている。
このように溶融色彩領域7の縁の全部がパイル色彩領域5に隣接した部分を有するパイル面は、その隣接した部分において縁取り領域が生じない。すなわち、パイル色彩領域と縁取り領域は同じ色彩であるため、前記パイル面は、外見上、縁取り領域とパイル色彩領域とを区別できない。
本実施形態においてもパイル面に表れる凹凸模様と相乗して、デザイン性の高いカーペット1を構成できる。
【0024】
なお、
図5に示す例では、溶融色彩領域7の縁の全部がパイル色彩領域5に隣接しているが、例えば、
図4に示すように、パイル面が、溶融色彩領域7の縁の一部がパイル色彩領域5に隣接した部分を有していてもよい。
【0025】
[第3実施形態]
図6において、第3実施形態のカーペット1は、パイル糸の色彩を呈するパイル色彩領域5と、パイル糸を染料にて着色することにより形成され且つ前記染料の色彩を呈する染料色彩領域6と、パイル糸を溶融させることにより形成された溶融色彩領域7と、パイル糸の色彩と染料の色彩が混在した混在領域4と、を有する。
第3実施形態のカーペット1は、前記混在領域4が設けられていることを除いて、第1又は第2実施形態のカーペットと同様である。同様の構成については、重複するので、それらの説明は省略する。
【0026】
本実施形態におけるカーペット1のパイル面は、パイル色彩領域5と染料色彩領域6とが隣接した部分を有し、その隣接した部分においてパイル糸の色彩と染料の色彩が混在した混在領域4が設けられている。混在領域4は、パイル色彩領域5と染料色彩領域6の間の中間色的な領域であり、染料色彩領域6に近づくに従って染料の色彩が漸次濃くなり、反対に、パイル色彩領域5に近づくに従ってパイル糸の色彩が漸次濃くなっている。従って、本実施形態では、パイル色彩領域5と染料色彩領域6との間に、外見上明確な境界が存在していない。
本実施形態のカーペット1は、前記混在領域4が設けられているので、パイル色彩領域5の色彩が染料色彩領域6の色彩へと序々に変化し、全体として、滑らかなグラデーションのデザインを有する。そして、パイル色彩領域5、混在領域4及び染料色彩領域6にかけての滑らかなグラデーションと前記凹凸模様とが相乗して、実際の凹凸の高さ以上の立体感を有し、変化に富んだデザイン性の高いカーペット1を構成できる。
【0027】
なお、本実施形態において、第1実施形態のように、溶融色彩領域7の縁の全部又は一部が染料色彩領域6に隣接するように、溶融色彩領域7と染料色彩領域6を配置し、溶融色彩領域7と染料色彩領域6の境界に縁取り領域8を設けてもよい。なお、
図6では、溶融色彩領域7の縁の一部が染料色彩領域6に隣接し、その境界に縁取り領域8が設けられた場合を例示している。
本実施形態のカーペット1に、さらに縁取り領域8を設けることにより、パイル色彩領域5と染料色彩領域6との境界が不明確である一方で、溶融色彩領域7と染料色彩領域6との境界が明確になり、より変化に富んだデザインを有するカーペット1を構成できる。
【0028】
[カーペットの製造方法]
上記カーペットは、パイル糸が基布にタフトされたパイル生機のパイル面の第1の領域を除く第2の領域に染料を含む着色粘性液を塗布し、前記パイル面の第3の領域に、染料を含まない非着色粘性液を塗布する工程、そのパイル面を加熱する工程、を経て得ることができる。また、必要に応じて、その他の工程を適宜行ってもよい。
【0029】
(準備工程)
従来公知の方法に従い、パイル糸を基布にタフトしてパイル生機を得る。なお、そのパイル生機の裏面にバッキング層を形成した後、後述する塗布工程を行ってもよい。
なお、製造段階においては、長尺状の基布が用いられる。長尺状の基布は、長手方向の長さが短手方向よりも十分に長い長方形状であり、例えば、長さ10m以上、好ましくは長さ100m以上である。後述する各工程を行った後に切断することにより、平面視正方形状などの所要の平面視形状のカーペットを得ることができる。
【0030】
(粘性液の塗布工程)
前記処理前のパイル生機のパイル面のうち、第1の領域を除いて、第2の領域に着色粘性液を塗布し、第3の領域に非着色粘性液を塗布する。以下、単に「粘性液」という記載は、着色粘性液及び非着色粘性液の包括概念である。
前記第1の領域は、加熱後に、上記溶融色彩領域となる領域であり、第2の領域は、加熱後に、上記染料色彩領域となる領域であり、第3の領域は、加熱後に、上記パイル色彩領域となる領域である。なお、第3実施形態のカーペットを作製する場合には、前記第2の領域と第3の領域の間の領域が、上記混在領域となる領域である。
着色粘性液は、染料及び糊剤が溶媒に溶解又は分散された液であり、必要に応じて、増粘剤や助剤を混合してもよい。染料は、パイル糸を所要の色彩に染色できるものであれば特に限定されない。また、糊剤は、着色粘性液の粘度を調整し、染料をパイル糸に付着させるために用いられる。糊剤は、特に限定されないが、水溶性の糊剤が好ましく、例えば、ポリビニルアルコール系の糊剤を用いることができる。溶媒は、特に限定されないが、パイル糸を浸食しないことから、水又は低濃度のアルコール水を用いることが好ましい。
前記着色粘性液の粘度は、特に限定されないが、塗布した範囲から不必要に拡がり難くなることから、400mPa〜1300mPaが好ましく、さらに、600mPa〜1100mPaがより好ましい。ただし、前記粘度は、JIS K 7117−1に従って、23℃で測定できる。本発明では、23℃で、B型粘度計(株式会社アタゴ製の型式「BASE L」、ローターNO.3、回転数60RPM)を用いて測定される。
非着色粘性液は、糊剤が溶媒に溶解又は分散された液であり、必要に応じて、増粘剤や助剤を混合してもよい。非着色粘性液は、染料を含まないことを除いて、前記着色粘性液と同様のものを用いることができる。
【0031】
着色粘性液は、第2の領域に塗布され、非着色粘性液は、第3の領域に塗布される。例えば、第1及び第2実施形態のカーペットを得る場合には、染料色彩領域に対応する範囲に着色粘性液を塗布し、パイル色彩領域に対応する範囲に非着色粘性液を塗布する。なお、第1の領域には、粘性液を塗布しない。第3実施形態のカーペットを得る場合には、染料色彩領域に対応する範囲に着色粘性液を塗布し、パイル色彩領域に対応する範囲に非着色粘性液を塗布し、混在領域に対応する範囲に着色粘性液及び非着色粘性液を塗布する。前記混在領域に対応する範囲においては、着色粘性液及び非着色粘性液の合計の単位面積当たりの塗布量を、染料色彩領域に対応する範囲に塗布する着色粘性液の単位面積当たりの塗布量と略同量とし、染料色彩領域に近づくに従って着色粘性液の塗布割合を増やし且つ非着色粘性液の塗布割合を減らし、反対に、パイル色彩領域に近づくに従って着色粘性液の塗布割合を減らし且つ非着色粘性液の塗布割合を増やす。このように粘性液を塗布することにより、混在領域を容易に形成できる。着色粘性液が塗布された範囲のパイル糸は、染料によって着色され、タフト前の色彩から変化する。
前記着色粘性液及び非着色粘性液の塗布方法は、特に限定されず、例えば、ジェットプリント、スクリーンプリントなどが挙げられる。
【0032】
(加熱工程)
前記各粘性液を塗布したパイル生機のパイル面を加熱する。加熱温度は、パイル糸が溶融する温度以上であり、例えば、パイル糸がポリアミド系樹脂繊維を含む場合には、250℃以上であり、好ましくは250℃〜350℃である。
加熱手段は、特に限定されず、遠赤外線ヒーター、バーナー、熱風などが挙げられ、取り扱いが容易で且つ熱効率も良いことから、遠赤外線ヒーターを用いることが好ましい。これらの加熱手段であれば、熱源をパイル面に直接的に接触させないで加熱でき、良好な溶融色彩領域を形成できる。もっとも、バーナーの炎をパイル面に直接的に当てて加熱してもよい。
【0033】
パネル面を加熱すると、着色粘性剤及び非着色粘性剤が塗布された範囲内のパイル糸は、粘性液の溶媒が吸熱するので溶融せず、その結果、パイルの状態のままの染料色彩領域及びパイル色彩領域が形成される。他方、粘性液が塗布されていない範囲のパイル糸は、熱によって高温となるので溶融して凹み、その結果、凹状の溶融色彩領域が形成される。
また、加熱時間などを調整することにより、粘性液が塗布された範囲に隣接し且つ粘性液が塗布されていない部分のパイル糸が溶融しないようにすることができる。詳しくは、粘性液が塗布された範囲に隣接する部分におけるパイル糸には粘性液が付着していないが、そのパイル糸は、隣接する粘性液によって急激な温度上昇が抑制される。そのため、加熱時間を比較的短くすることにより、粘性液が塗布された範囲に隣接する部分におけるパイル糸の溶融を防止できる。その結果、着色粘性液が塗布された範囲に隣接して、パイル糸が溶融しない帯状の範囲を形成できる。このパイル糸が溶融しない帯状の範囲は、縁取り領域となる。なお、同様に、非着色粘性液が塗布された範囲に隣接して、パイル糸が溶融しない帯状の範囲が生じるが、この帯状の範囲とパイル色彩領域は、いずれも、パイル糸が溶融せず且つパイル糸そのものの色彩であるので、外見上区別できず、その意味で、縁取り領域を視認できない。
【0034】
(後処理工程)
前記加熱したパイル生機は、必要に応じて、そのパイル面にスチームを当てることよって、染料を定着させることが好ましい。スチームを当てることにより、染料色彩領域が色落ちし難くなる。
さらに、必要に応じて、パイル面を洗浄することが好ましい。洗浄によって、残存する粘性液を除去することができる。洗浄液は、残存粘性液を除去できるものであれば特に限定されないが、例えば、水又は低濃度のアルコール水などが挙げられる。洗浄液の温度は、通常、5℃〜50℃程度である。洗浄方法としては、特に限定されず、例えば、吐出ノズルからパイル面に洗浄液を吹き付ける方法、洗浄液が満たされた浴中にパイル生機を通す方法などが挙げられる。
また、洗浄後、パイル生機を乾燥する。乾燥方法は、特に限定されず、自然乾燥、温風を用いた乾燥などが挙げられる。
このようにして、バッキング層を有さないパイル生機を得ることができる。
【0035】
(バッキング層の形成工程)
前記後処理後のパイル生機の裏面にバッキング層を形成する。バッキング層の形成は、従来公知な方法によって行うことができる。
バッキング層を形成した後のパイル生機を、所要の形状に裁断することにより上記第1乃至第3実施形態に示すようなカーペットが得られる。
なお、上記製造方法では、準備工程、粘性液の塗布工程、加熱工程、後処理工程、バッキング層の形成工程、所要の形状に裁断する裁断工程をこの順で行ってカーペットを製造しているが、この順序に限定されず、これらの工程の順序を適宜変更してもよい。例えば、準備工程、バッキング層の形成工程、粘性液の塗布工程、加熱工程、後処理工程、裁断工程の順で行ってもよい。
【0036】
このように、本発明の製造方法によれば、2種類の色彩を呈する従来のカーペットを製造できる既存の設備を用いて、3種類以上の色彩を呈するパイル生機及びカーペットを容易に製造することができ、パイル生機及びカーペットのデザインを飛躍的に向上させることができる。
そして、本発明によれば、着色粘性液及び非着色粘性液の2種類の液を適宜塗り分けることによって、様々なデザインのパイル生機及びカーペットを容易に製造できる。
【実施例】
【0037】
以下、実施例を示し、本発明を更に詳述する。但し、本発明は、下記実施例に限定されるものではない。
【0038】
[実施例]
(準備工程)
約2,000デニールのナイロン未着色フィラメント(ベース糸)を捲縮及び混繊加工し、その糸をポリエチレンテレフタレート製不織布(目付量約100g/m
2)にタフティングした。パイルは、カットパイルとし、目付量約1000g/m
2、パイル長約6mmとした。このパイル生機のパイル面全体を、赤系統の色彩に反染めし、前記ベース糸を後染めした。後染め後、染料を乾燥し、前記パイル生機の裏面に、ガラス不織布を補強シートとして埋設した塩化ビニル樹脂を積層することによりバッキング層を形成した。このバッキング層を形成したパイル生機を、50cm角に裁断し、処理前のカーペット基材を得た。
【0039】
(粘性液の塗布工程)
前記カーペット基材をジェットプリント加工装置に投入し、着色粘性液と非着色粘性液をデザインデータに基づき塗り分けた。
非着色粘性液は、合成糊、水及びクエン酸を含み、粘度700mPa・sに調整した。着色粘性液は、前記非着色粘性液に濃赤の色彩の染料を0.1質量%配合した。
なお、粘度の測定は、上記に記載した通りである。
【0040】
(加熱工程)
各粘性液を塗布したカーペット基材のパイル面を、パイル面の温度が約270℃となるように、約60秒間、遠赤ヒーターで加熱した。
加熱によって、各粘性液が塗布されていない領域が溶融した。また、この温度及び時間にて加熱すると、粘性液が塗布された範囲に隣接した部分であって粘性液が塗布されていない部分のパイル糸が溶融しなくなり、溶融色彩領域の縁に沿って帯状の縁取り領域が形成された。
【0041】
(後処理工程)
加熱後のカーペット基材を、スチーマーに曝して染料をパイル糸に定着させた後、水で洗浄し、95℃のオーブンにて約15分間乾燥することにより、本発明のカーペットを得た。
得られたカーペットは、
図1に示すような図柄であり、溶融色彩領域が黒くなって凹み、さらに、染料色彩領域、パイル色彩領域及び縁取り領域が明瞭に視認できた。