【課題を解決するための手段】
【0008】
第1の態様では、本発明は電気化学セルに関する。この電気化学セルは負極集電体と接触する負極を備え、更に正極集電体と接触する正極を備える。この電気化学セルは更に、負極と正極との間に配置されるセパレータ及び電解質を備える。特に、セパレータは負極と正極との間に挟まれており、負極集電体及び正極集電体は負極及び正極の、それぞれセパレータと反対を向いた側に隣接して配置される。言い換えると、負極はセパレータと負極集電体との間に配置される。これに対応して、正極もセパレータと正極集電体との間に配置される。上述のように、液体、ゲル状又は固体タイプの電解質も設けられ、これは正極と負極との間のセパレータの細孔を効果的に充填する。
【0009】
負極集電体及び正極集電体は、負極、正極及びセパレータの機械的組立体のためのカプセル化ハウジングを形成する。このようにして、電気化学セルの従来のハウジング又はカプセルを、負極及び正極で効果的に置き換えることができる。特に、電気化学セルのハウジングが、相互接続した負極集電体及び正極集電体で構成される。こうして、負極集電体及び正極集電体はその導電性能の他に、電気化学セルに機械的安定性及び機械的保護ももたらす。
【0010】
負極集電体及び正極集電体が電気化学セルのカプセル化ハウジングを直接形成するため、電気化学セルのカプセル化ハウジング内でコネクタタブを負極集電体及び/又は正極集電体と相互接続させる必要はもはや無い。代替として、負極集電体及び正極集電体を各コネクタタブに直接設けてよく、又は各コネクタタブと一体として形成してよい。このようにして、コネクタタブと集電体との相互接続に従来必要であった体積を節約できる。実際にはこれに伴って、電気化学セルの外部寸法を増大させることなく、正極及び負極のサイズを増大させることができる。実際には、電気化学セルの貯蔵性能及びそれに伴ってエネルギ密度を、著しく向上させることができる。
【0011】
更に、電気化学セルのハウジング又はカプセルを負極集電体及び正極集電体で置換することにより、電気化学セル全体の厚さを削減できる。更に、セル全体の厚さを一定とした場合の電気エネルギ密度を更に増大させることができる。しかしながら、厚さの削減は電気化学セルの可撓性の増大を伴い得る。
【0012】
更なる実施形態によると、負極集電体の外側縁部と正極集電体の外側縁部との間に延在する密封材を用いて、負極集電体及び正極集電体を相互に接着する。典型的には、この密封材は負極集電体の外側縁部と正極集電体の外側縁部との間に挟まれるか、又は圧迫される。典型的には、正極集電体及び負極集電体は互いに対して同一平面上にあり、またこれらの間に配置された密封材に対しても同一平面上にあってよい。
【0013】
密封材は、正極集電体と負極集電体を電気的に分離するために、実質的に電気絶縁性の材料からなる。典型的には、密封材は接着剤、例えばポリビニルアセテート(PVA)等のホットメルト接着剤又は同等の接着剤を含む。電気化学セル内に配置された電解質材料の蒸発又は漏れを防止するために、及びセル内に空気が侵入するのを防止するために、密封材並びに集電体及び集電体間の相互接続は気密性及び液密性である。
【0014】
密閉されたカプセル化ハウジングを提供するために、負極集電体及び正極集電体をそれらの外周全体に沿って密封材を用いて相互に接着する。
【0015】
別の実施形態によると、負極集電体及び正極集電体の少なくとも一方は、非晶質金属材料を含む。負極集電体及び正極集電体の両方が非晶質材料を含むことが好ましい。
【0016】
更なる、別の好ましい実施形態では、負極集電体及び正極集電体の少なくとも一方は、少なくとも部分的に非晶質金属材料からなる。負極集電体及び正極集電体の両方の少なくとも一部又は実質的に全体が、非晶質金属材料、好ましくは非晶質金属合金からなることが好ましい。
【0017】
従って、負極集電体及び/又は正極集電体は、大容積の非晶質金属材料を含んでよい。好ましくは、このような非晶質金属材料は10
-5Ω・mの最大電気抵抗率を有する。更に、この最大電気抵抗率は10
-6Ω・mの範囲でさえあってよい。結果として、非晶質金属材料は良好な、又は極めて優れてさえいる導電性を提供できる。更に、非晶質金属材料は、結晶質金属材料に比べて高いレベルの可撓性を特徴とする。特に、非晶質金属材料の弾性限界は一般に、結晶質金属材料の弾性限界に比べて極めて大きい。典型的には、非晶質金属材料の弾性限界は、結晶質金属材料の弾性限界の2〜4倍である。
【0018】
従って、非晶質金属材料を含む、又は非晶質金属材料からなる集電体を用いることにより、負極集電体及び正極集電体に優れた弾性特性を与える。
【0019】
更に好ましい実施形態によると、負極集電体及び正極集電体の少なくとも一方は、25μm未満、15μm未満、更には10μm未満の厚さを有する。集電体を比較的薄くできるにも関わらず、これら集電体はなお、電気化学セルのための比較的堅固なカプセル化ハウジングを形成するのに十分な機械的安定性を示す。更に、集電体の厚さは典型的には集電体及び電気化学セルの可撓性に影響する。更に、集電体の厚さが限定されることにより、小型化することができ、かつ空間を節約できる電気化学セルの設計が可能となる。
【0020】
更なる実施形態によると、非晶質金属材料はNi、Cr、Fe、Si、C、Bの合金を含む。更に又は代替として、非晶質金属材料は以下の材料:Ti、Zr、Cu、Mn、V、W、Alの少なくとも1つ又は複数を含んでよい。
【0021】
好ましい実施形態では、合金は7〜19重量%のCr、4〜5重量%のFe、4.5〜7.5重量%のSi、0.1重量%未満のC、1.4〜4.0重量%のB、及び71〜92重量%のNiを含む。非晶質金属材料の典型的な実施形態は、80.74重量%のNi、7.0重量%のCr、4.5重量%のFe、4.5重量%のSi、0.06重量%のC及び3.2重量%のBを含む。
【0022】
更なる態様、すなわち別の実施形態によると、負極集電体及び正極集電体の少なくとも一方は繊維補強プラスチック材料を含む。負極集電体及び正極集電体の両方が繊維補強プラスチック材料を含むことが好ましい。典型的には、負極集電体及び正極集電体は一種の炭素繊維補強ポリマー箔を含む。特に、繊維補強プラスチック材料は、熱安定性エポキシ樹脂系に含浸させた一方向炭素繊維テープを含んでよい。この繊維は例えばToray T800Hであるが、これと同等のいずれのタイプの繊維も使用可能である。このような繊維補強プラスチック材料の単位面積あたりの繊維重量は、25〜300g/m
2であってよい。更に、標準繊維含有量は60〜65重量%であってよい。繊維補強プラスチック材料の曲げ弾性率の平均値は2000〜5000MPaであってよく、約3500MPaであることが好ましい。曲げ強度の平均値は80〜180MPaであってよく、約130MPaであることが好ましい。更に、最大荷重における変形の平均値は約5〜10%であってよく、約7%であることが好ましい。
【0023】
例えば[0°/90°/0°]積層物に対応する、一方向薄片を互いに直交するように配向したもの等、このような一方向テープを3重に積層したものを用いるのがよい。従って、このような3層積層物の単位面積あたりの密度は75〜900 g/m
2となるが、150g/m
2未満であるのがよい。このような3重積層物の最大荷重における変形は約2.5%である。
【0024】
更なる好ましい実施形態では、繊維補強プラスチック材料製の少なくとも1つの集電体は、100μm未満、50μm未満、好ましくは45μm未満の厚さを有する。このようにして繊維補強材料を、機械的強度と高いレベルの可撓性とを共にもたらす比較的薄い箔として提供する。
【0025】
更に、別の実施形態によると、繊維補強プラスチック材料を金属層で少なくとも部分的にコーティングする。この金属層は結晶質金属構造又は非晶質金属構造を備えてよい。金属層の材料としてNiを用いる場合、金属層の厚さは典型的には1μm未満であり、200〜400nmであることが好ましい。
【0026】
金属層又は金属コーティングを用いて繊維補強プラスチック材料を少なくとも部分的にコーティングすることで、集電体の導電性を高めることができる。更に、金属層によって各集電体の透過性を実質的に無くすことができ、これによって電解質の漏れ又は蒸発及びセル内への空気の拡散を防止できる。
【0027】
別の態様によると、負極集電体又は正極集電体の材料の選択に関わらず、負極集電体及び正極集電体の少なくとも一方は弾性変形可能である。本明細書の文脈において弾性変形とは、各集電体の、復元力の作用に対向するような一時的な変形を意味する。各集電体に対する外力の影響が存在しなくなると、各集電体を形成する材料の弾性特性によって復帰力又は復元力が即座に発生し、これを用いて各集電体の初期形状及び初期構成を得ることができる。
【0028】
集電体又は電気化学セル全体に関して考えられるいずれの変形又は屈曲も、集電体を形成する材料の弾性限界を超えないことが特に有利である。各集電体の表面又は構造を劣化させないまま、そしてセルの機能を保持したまま、集電体及び電気化学セル全体を繰り返し屈曲又は折り畳み操作に供することができるようになるのは、集電体の弾性特性のためである。負極集電体及び/又は正極集電体を形成できる繊維補強プラスチック材料及び非晶質金属材料の両方は、500回又はそれ以上にも及ぶ屈曲又は折り畳み動作の後でも、実質的に劣化しない構造又は表面を提供できる。
【0029】
更に好ましい実施形態によると、負極集電体及び正極集電体の少なくとも一方は、20mm、15mm、更には10mm以下の曲げ半径まで、実質的にねじれることなく屈曲させることができる。このような比較的小さい曲げ半径は特に、負極集電体及び/又は正極集電体の材料として使用される、上述の非晶質金属材料又は繊維補強プラスチック材料を用いて得ることができる。
【0030】
これらの特定の材料はほぼねじれることなく屈曲させることができるため、集電体の弾性特性又は電気的特性にいずれの損耗又は測定可能な劣化をもたらすことなく、屈曲及び折り畳み動作を複数回繰り返して実施できる。ねじれがないことによって得られる極めて好都合な結果は、電気化学セルの内部層が完全な状態に保たれることである。ねじれは、曲げ半径が局所的に極めて小さくなることと考えることができ、これは正極層及び負極層を劣化させることになる。
【0031】
別の実施形態によると、電気化学セルは更に、負極コネクタタブ及び正極コネクタタブを備える。ここで、負極コネクタタブ及び正極コネクタタブの少なくとも一方は、それぞれ負極集電体又は正極集電体と一体として形成される。集電体は電気化学セルのカプセル化ハウジングを形成するため、電気化学セルのハウジング内でコネクタタブと集電体を別個に相互接続する必要はもはや無い。更に、コネクタタブを各集電体と一体化することによって、電気化学セルの、相当な空間を節約できる構成及び直感的で容易な組み立てをもたらすことができる。
【0032】
別の実施形態では、負極と正極との間に配置されたセパレータは、負極及び/又は正極の外側縁部を越えて延在する外側縁部を備える。セパレータはその外側縁部によって、密封材並びに/又は負極集電体及び正極集電体の少なくとも一方と係合し得るか、又は相互接続され得る。密封材と、負極集電体又は正極集電体の一方との間でセパレータが圧迫される又は締め付けられるのが好ましい。このようにして、セパレータの組み付け及び固定を、密封材を用いた負極集電体及び正極集電体との相互組み付け及び相互接続と共に、1つのステップで得ることができる。
【0033】
更なる実施形態では、電気化学セルを一次バッテリ又は二次バッテリとして設計する。電気化学セルを特に、様々な応用目的で設計してよい。特に、電気化学セルは時計若しくは腕時計、スマートカード、又は携帯電話に応用できるものであってよい。
【0034】
以下、本発明の実施形態を図面を参照して説明する。