【解決手段】ガラス基板を製造するガラス基板の製造方法であって、0.1%〜10%の濃度からなる実質的に有機物を含まないアルカリ性溶液で、ガラス基板の対向する主表面の少なくとも一方を洗浄する洗浄工程、を備え、洗浄工程では、有機物からなる有機物層が主表面に形成されるのを抑制し、有機物層により変化するガラス基板の表面電位を低減する。
【発明を実施するための形態】
【0014】
(1)ガラス基板の製造方法の概略
本発明の実施形態について、図面を参照しながら説明する。本実施形態で用いられるガラス基板の製造方法によって製造されるガラス基板は、フラットパネルディスプレイ用ガラス基板(例えば、液晶ディスプレイ用ガラス基板、プラズマディスプレイ用ガラス基板、有機ELディスプレイ用ガラス基板)、カバーガラスや磁気ディスク用などの強化ガラス用ガラス基板、ロール状に巻き取られるガラス基板、半導体ウエハ等の電子デバイスが積層されたガラス基板が挙げられる。ガラス基板は、例えば、0.2mm〜0.8mmの厚みを有し、かつ、縦680mm〜2200mmおよび横880mm〜2500mmのサイズを有する。なお、この厚み、サイズは、例示であり、任意に変更できる。
【0015】
ガラス基板Gの一例として、以下の組成を有するガラスが挙げられる。
(a)SiO
2:50質量%〜70質量%、
(b)Al
2O
3:10質量%〜25質量%、
(c)B
2O
3:1質量%〜18質量%、
(d)MgO:0質量%〜10質量%、
(e)CaO:0質量%〜20質量%、
(f)SrO:0質量%〜20質量%、
(g)BaO:0質量%〜10質量%、
(h)RO:5質量%〜20質量%(Rは、Mg、Ca、SrおよびBaから選択される少なくとも1種である。)、
(i)R’
2O:0質量%〜2.0質量%(R’は、Li、NaおよびKから選択される少なくとも1種である。)、
(j)SnO
2、Fe
2O
3およびCeO
2から選ばれる少なくとも1種の金属酸化物。
なお、上記の組成を有するガラスは、0.1質量%未満の範囲で、その他の微量成分の存在が許容される。
【0016】
図1は、本実施形態のガラス基板の製造方法の流れを示すフローチャートである。まず、熔融されたガラスが、フロート法およびダウンドロー法等の公知の成形方法により、所定の厚さの帯状ガラスであるガラスシートに成形される(ステップS1)。主として、熔解工程、清澄工程、攪拌工程、成形工程を経て、ガラスシートが成形される。次に、成形されたガラスシートがスクライブおよび切断され、所定のサイズの素板ガラスが得られる(ステップS2)。得られた素板ガラスは、素板ガラスを保護する紙等からなる保護シートと交互に積層された積層体として、素板ガラスを収容して搬送するためのパレットに積載される(ステップS3)。
【0017】
素板ガラスは切断工程に搬送され、ガラス基板と保護シートとを交互に積層した積層体から素板ガラスが取り出される。取り出された素板ガラスはスクライブおよび切断され、製品サイズのガラス基板が得られる(ステップS4)。得られたガラス基板には、端面の研削、研磨およびコーナカットを含む端面加工が行われる(ステップS5)。上記スクライブでは、ダイヤモンドカッター等を用いて、ガラスに微小のスジ状の傷である切り込み線(スクライブ線)が形成される。素板ガラスおよび製品サイズのガラス基板を含むガラス基板の切断は、スクライブ線に沿って機械あるいはマニュアルにより切断される。あるいは、レーザ光によるスクライブおよび熱衝撃によりガラス基板を切断することもできる。
【0018】
この後、ガラス基板の洗浄が行われる(ステップS6)。洗浄されたガラス基板はキズ、塵、汚れあるいは光学欠陥を含む傷が無いか、光学的検査が行われる(ステップS7)。検査により品質の適合したガラス基板は、ガラス基板を保護する保護シートと交互に積層された積層体としてパレットに積載されて梱包される(ステップS8)。梱包されたガラス基板は納入先業者に出荷される(ステップS9)。出荷されるガラス基板に挟みこまれてガラス基板の表面を保護する保護シートは、ガラス基板の表面の汚染を防止する観点から、例えば再生紙を含まないパルプ紙が用いられる。
【0019】
なお、素板ガラスは、パレットへの積載(ステップS3)および梱包が行われた後、例えば、数週間から数ヶ月以上の長期間に亘って輸送および保管される場合がある(ステップS10)。保管される素板ガラスの間に挟みこまれて素板ガラスの表面を保護する保護シートは、コストおよび環境保護の観点から例えば再生紙が用いられる。このように長期間に亘って保管された素板ガラスは、その後、上記と同様に切断(ステップS4)から梱包(ステップS8)までの工程を経て、出荷される(ステップS9)。
【0020】
また、ガラス基板は、梱包(ステップS8)が行われた後、例えば、数週間から数ヶ月以上の長期間に亘って輸送および保管される場合がある(ステップS10)。保管されるガラス基板の間に挟みこまれてガラス基板の表面を保護する保護シートは、コストおよび環境保護の観点から例えば再生紙が用いられる。このように長期間に亘って保管されたガラス基板は、素板ガラスと同様に切断(ステップS4)から梱包(ステップS8)までの工程を経て、出荷(ステップS9)される。
【0021】
図2は、パレットに積載されたガラス基板を模式的に示す図である。同図に示すように、素板ガラスおよびガラス基板を含むガラス基板Gは、パレット100の積載部に斜めに立て掛けられた状態で、紙Pと交互に積層される。これによりガラス基板Gの間には、紙Pが挟みこまれた状態になる。このような状態では、パレット100の積載部に先に積載されたガラス基板Gに、後から積載されたガラス基板Gの荷重がかかる。そのため、先に積載されたガラス基板Gほど、紙Pをガラス基板Gに押し付ける荷重が大きくなる。
【0022】
紙Pが再生紙である場合には、再生紙に含まれる例えばインクなどの樹脂成分に由来する粘着性を有する粘着異物が、ガラス基板Gの表裏面に付着する場合がある。そのため、上記のような荷重がかかると、先に積載されたガラス基板Gほど、粘着異物が大きな荷重を受けて、ガラス基板Gの表面に強固に付着する傾向がある。このような荷重を受けてガラス基板Gに付着した異物を、洗浄剤を用いて洗浄することにより除去する。
【0023】
また、上記のような粘着異物が付着したガラス基板Gが、
図1に示すように長期の保管(ステップS10)を経て洗浄される場合には、上記の粘着異物が時間の経過により変質して、粘着性を増し、あるいは固化する。このような粘着異物を、洗浄剤を用いて洗浄することにより除去する。
【0024】
ガラス基板Gのスクライブと切断(ステップS2、S4)、およびガラス基板Gの端面加工(ステップS5)等の機械加工により、ガラスの微小片が発生し、ガラス基板Gの表面に塵となって付着する。あるいは、上記機械加工時に、工具や治具等に付着した汚れがガラス基板Gの表面に付着する場合もある。
【0025】
以上のようなガラス基板Gの表面に付着した塵、汚れ、粘着異物などの公知の汚れを除去するために、ガラス基板Gの洗浄(ステップS6)が行われる。特に、液晶表示装置用ディスプレイに用いられるガラス基板は、表面に半導体素子を形成するため、高い洗浄度が求められる。
【0026】
以下、本実施形態の洗浄工程について、より詳細に説明する。
図3は、本実施形態の洗浄工程の例を説明するフローチャートである。
まず、
図3に示す希釈液を生成する工程(ステップS61)において、ガラス基板用の洗浄剤を水によって希釈して希釈液を生成する。ガラス基板用の洗浄剤としては、アルカリ系の洗浄剤を用いる。この洗浄剤を用いる場合、洗浄剤を例えば0.1wt%から10wt%の範囲の濃度になるように水で希釈して希釈液であるアルカリ性溶液を生成する。ここで、アルカリ性溶液とは、KOH、NaOH、TMAH(水酸化テトラメチルアンモニウム)等のアルカリ成分を含む水溶液をいう。アルカリ性溶液に界面活性剤、キレート剤などの有機化合物を添加した液が、アルカリ性洗浄液となる。
【0027】
洗浄剤を希釈する水は、イオン交換処理、EDI(Electrodeionization)処理、逆浸透膜によるフィルタ処理、及び脱炭酸ガス装置を通した脱炭酸ガス処理を施した純水または超純水であることが、ガラス基板の表面を清浄に保つ点で好ましい。溶解性異物の除去には、さらに活性炭を通すことが好ましい。具体的には、フィルタを用いて微粒子等の異物を水から除去し、この後、活性炭を透過させて、有機物を除去した後、イオン交換処理、EDI(Electrodeionization)処理、逆浸透膜によるフィルタ処理、及び脱炭酸ガス装置を通した脱炭酸ガス処理を施すことが好ましい。これは、洗浄液を用いてガラス基板を洗浄することにより、ガラス基板に付着した付着物を除去できるが、洗浄剤に有機物が含まれていると、この有機物がガラス基板に付着する可能性があるためである。ガラス基板に有機物が付着することにより、ガラス基板の静電容量、表面電位が変化して、ガラス基板同士の張り付きや、剥離帯電の原因となる。
【0028】
イオン交換処理では、水に含まれるイオン性物質、例えば、塩素イオンやナトリウムイオン等を、イオン交換樹脂膜を用いて水から除去する。EDI処理では、イオン交換樹脂膜を用い、かつ電極に電位を与えて形成された電位勾配を利用して、水からイオン性物質をより精度良く除去する。さらに、逆浸透膜(RO膜)によるフィルタ処理では、イオン性物質、塩類、あるいは有機物を水から除去する。さらに、脱炭酸ガス処理では、脱炭酸ガス装置を用いて炭酸ガスを水から除去する。
【0029】
上記のように水で希釈して生成したアルカリ性溶液のアルカリ成分の濃度は、水酸化カリウム(KOH)の濃度に換算して、例えば、0.1wt%から10wt%程度になる。
図3に示すように、本実施形態では、希釈液に、KOH、NaOH、TMAH(水酸化テトラメチルアンモニウム)、Na
4P
2O
7、K
4P
2O
7から選択される1種以上のアルカリ成分を濃度の合計が0.1wt%以上になるように添加してアルカリ性溶液を生成する(ステップS62)。上記のアルカリ成分は、その他のアルカリ成分と比較して、ガラスのエッチング性が高く、かつ溶解性に優れている。特に、エッチング性と溶解性、およびガラス基板に形成される薄膜トランジスタに対する悪影響を防止する観点から、上記のアルカリ成分としてKOH、NaOH、TMAHを単独で用いることが好ましい。KOH、NaOH及びTMAHは、その他のアルカリ成分と比較して、排水処理の点で有利である。アルカリ性溶液は、実質的に有機物を含まない。ここで、実質的にとは、10ppb(parts per billion)以下の範囲で、その他の微量成分(不純物、有機物)の存在が許容されることを意味する。また、有機物とは、炭素を含む化合物であり、静電容量を変化させる物質又は新たな静電容量を持つ微量の有機物残渣である。また、微量の有機物残渣とは、有機物の層を形成する物質であり、具体的には、界面活性剤、キレート剤等がガラス基板に付着することにより形成されるものである。また、微量とは、ガラス基板の表面清浄性に問題のない残渣量、例えばガラス表面の接触角が3.5度以下を維持できる量である。ガラス基板に微量の有機物残渣が付着すると、ガラス基板の静電容量、表面電位が変化して、ガラス基板同士の張り付きや、剥離帯電の原因となるため、本実施形態にかかるアルカリ性溶液は、実質的に有機物を含んでいない。
【0030】
本実施形態では、希釈液に上記アルカリ成分を添加したアルカリ性溶液と、アルカリ性溶液に界面活性剤、キレート剤などの有機化合物を添加したアルカリ性洗浄剤とを明確に区別している。
【0031】
なお、本実施形態のアルカリ性溶液、アルカリ性洗浄剤の上記アルカリ成分の濃度の合計は、できるだけ高い方が、粘着異物を除去する洗浄力の点で好ましい。しかし、上記アルカリ成分の濃度が高くなりすぎると、装置を腐食させたり、アルカリ性溶液、アルカリ性洗浄剤中で結晶が生成されたりするなどの問題がある。そのため、アルカリ性溶液、アルカリ性洗浄剤の上記アルカリ成分の濃度の合計は10wt%を超えないことが好ましい。また、洗浄液の取り扱いを容易にして装置に負担をかけないために、アルカリ性溶液、アルカリ性洗浄剤の上記アルカリ成分の濃度の合計が5wt%を超えないことがより好ましい。また、アルカリ性溶液、アルカリ性洗浄剤に含まれるアルカリ成分は任意である。
上記のように生成したアルカリ性洗浄剤は、
図3に示すブラシ洗浄(ステップS63)およびスポンジ洗浄(ステップS64)を含むガラス基板Gの枚葉洗浄において用いられる。枚葉洗浄については、公知の方法を適用でき、例えば、特開2013−203647号公報に記載される内容を含み、当該内容が参酌される。
【0032】
枚葉洗浄後、搬出されたガラス基板Gは、
図3に示すバッチ洗浄(ステップS65)を行うバッチ洗浄システムに送られる。バッチ洗浄(ステップS65)では、複数枚のガラス基板Gがカセットに収容されて、複数の液槽に、順次、浸漬されて洗浄される。
なお、枚葉洗浄システムの構成によっては、バッチ洗浄(ステップS65)を行わない場合もある。その場合、ガラス基板Gはエアーナイフまたは加熱乾燥工程を経て乾燥され、
図1に示す検査(ステップS7)へと送られる。また、洗浄方式は、バッチ式、枚葉式、ワンバス式などが適用できるが、ここでは、バッチ式で説明する。
【0033】
図4は、ガラス基板Gを洗浄するバッチ洗浄システムにおける複数の液槽のうちの1つを概念的に示す断面図である。バッチ洗浄システムは、
図4に示す液槽300を複数備えるとともに、複数のガラス基板Gを収容したカセット200を搬送する搬送機構を備えている。各液槽300は、必要に応じて、ガラス基板Gを液体Lに浸漬した状態で超音波により洗浄する超音波洗浄機構、及び、液体Lの温度を調節する温度調節機構を備えている。また、バッチ洗浄システムは、各液槽300に液体Lを供給するタンクを備えている。
【0034】
複数のガラス基板Gを収容したカセット200は、搬送設備によって搬送され、液槽300に貯留されたアルカリ性洗浄液、酸性洗浄液、アルカリ性溶液、純水、超純水などの液体Lに、順次、浸漬されて洗浄される。各液槽300に貯留される酸性洗浄液としては、例えば、シュウ酸、酒石酸、フッ化水素(HF)の溶液を用いることができる。酸性洗浄液は、ガラス基板用の洗浄剤を水で希釈した希釈液に、シュウ酸、酒石酸、クエン酸等の多価有機酸やフッ化水素から選択される1種以上の酸性成分を添加して、酸性洗浄液を生成する。アルカリ性溶液としては、上述した、希釈液に、KOH、NaOH、TMAH(水酸化テトラメチルアンモニウム)等を添加した濃度0.1wt%〜10wt%程度の洗浄液を用いることができる。
【0035】
バッチ洗浄システムにおいて、ガラス基板Gが浸漬される液体Lの種類および順序は、アルカリ性洗浄液及び/又は酸性洗浄液を用い、その後、アルカリ性溶液を用いる。一例として、1から2番目にアルカリ性洗浄液及び/又は酸性洗浄液、3から4番目に純水、5番目にアルカリ性溶液、6から7番目に純水を用いて、ガラス基板Gを洗浄することができる。
【0036】
洗浄工程において、ガラス基板Gを、アルカリ性洗浄液及び/又は酸性洗浄液を用いて洗浄する。アルカリ性洗浄液及び/又は酸性洗浄液による洗浄は、公知の洗浄方法を用いることができ、洗浄回数は任意である。ガラス基板Gの表裏面、端面には、再生紙由来の有機物からなる粘着異物や、時間の経過により変質した粘着異物が付着する。アルカリ性洗浄液、酸性洗浄液で洗浄することにより、付着した粘着異物等の公知の汚れを除去し、ガラス基板Gの洗浄度を高めるために、アルカリ性溶液を用いてさらに洗浄を行う。
【0037】
次に、純水を用いてガラス基板Gを洗浄する。純水による洗浄は、公知の洗浄方法を用いることができ、洗浄回数は任意である。なお、アルカリ性溶液のみによる洗浄により、ガラス基板Gの表面に付着していた塵、汚れ、粘着異物などの公知の汚れを除去できる場合には、アルカリ性洗浄液、酸性洗浄液、純水による洗浄は不要であり、バッチ洗浄システムにおける1番目から4番目の洗浄は不要となる。
【0038】
次に、アルカリ性溶液を用いてガラス基板Gを洗浄する。アルカリ性溶液による洗浄は、公知の洗浄方法を用いることができ、洗浄回数は任意である。アルカリ性溶液により、有機物を含む洗浄液を用いることにより洗浄時に再付着する微量の有機物残渣を除去する。
図5(a)は、洗浄後の有機物再付着である微量の有機物残渣Gaが付着したガラス基板Gの模式図であり、(b)は、有機物残渣Gaが除去されたガラス基板Gの模式図である。再付着した微量有機物残渣Gaは、アルカリ性溶液により溶解され、微量の有機物残渣(有機物層)Gaとガラス基板Gとの間にアルカリ性溶液が浸透することにより、微量の有機物残渣(有機物層)Gaを除去する。洗浄に用いる一般的なアルカリ性洗浄液には、界面活性剤、キレート剤等が一般的に添加されている。ここで、界面活性剤とは、分子内に水になじみやすい部分(親水基)と、油になじみやすい部分(親油基・疎水基)を持つ物質であり、表面張力を弱める作用を持つ物質である。界面活性剤を洗浄液に添加することにより、洗浄能力を向上させることができる。アルカリ性洗浄液により、ガラス基板Gを洗浄することにより、ガラス基板Gに付着していた塵、汚れ、粘着異物などを除去することができるが、アルカリ性洗浄液には界面活性剤、キレート剤等の有機物が含まれているため、アルカリ性洗浄液による洗浄時に、この有機物がガラス基板Gに付着して、ガラス基板G同士の張り付きや、剥離帯電の原因となる。このため、実質的に有機物を含んでいないアルカリ性溶液を用いて、別途、微量の有機物残渣(有機物層)Gaを除去するための洗浄を行う。
【0039】
ガラス基板Gの表面電位Vは、式1:V=Q/Cにより求められる。ここで、Qは、ガラス基板Gの表面に蓄積される電荷量であり、Cは、ガラス基板Gの静電容量である。ガラス基板Gの表面電位Vは、剥離帯電によって蓄積された静電気に起因するものであり、この表面電位Vを低下させることにより、ガラス基板G同士が張り付くことを防ぎ、ガラス基板Gの素子形成表面に形成された半導体素子等の破壊を抑制できる。ガラス基板Gの板厚と面積が一定である場合、ガラス基板Gに帯電した時に発生する電荷量Qは同じになる。つまり、同一板厚、同一サイズのガラス基板Gの表面電位Vは、式1により、ガラス基板Gの静電容量Cによって大小が決定される。このため、ガラス基板Gの静電容量Cを変更することにより、ガラス基板Gの表面電位Vを制御できる。
【0040】
図5(a)に示すように、ガラス基板Gのみの静電容量をC0、ガラス基板Gの主表面に付着した有機物残渣Gaの静電容量をCcとすると、有機物残渣Gaとガラス基板Gとを併せたガラス基板全体の静電容量C1は、C1=1/(1/C0+1/Cc)=(C0・Cc)/(C0+Cc)となる。これは、ガラス基板Gに有機物残渣Gaが積層されて、静電容量C0、Ccが直列に接続されているとみなすことができるためである。
これに対し、
図5(b)に示すように、ガラス基板Gに有機物残渣Gaが付着していない場合のガラス基板全体の静電容量C2は、C2=C0となる。
有機物残渣Gaの静電容量Ccは、0より大きいため、静電容量C1と静電容量C2とを比較すると、C1<C2=C0となる。つまり、ガラス基板Gに有機物残渣Gaがあると、ガラス基板全体の静電容量C1は、有機物残渣Gaがないガラス基板Gの静電容量C2(C0)より、小さくなる。式1より、静電容量Cが小さくなるにつれて、ガラス基板Gの表面電位Vは大きくなる。この表面電位Vが大きくなると、剥離帯電の原因、ガラス基板Gの素子形成表面に形成される半導体素子等を破壊する原因となる。このため、ガラス基板G全体の静電容量C1を小さくする、つまり、有機物残渣Gaを除去することにより、剥離帯電等を防止することができる。なお、ガラス基板Gの主表面だけでなく裏面に有機物残渣Gaがある場合でも、静電容量C1と静電容量C2とを比較すると、C1<C2=C0となるため、ガラス基板Gに付着した有機物残渣Gaを除去する必要がある。
【0041】
実質的に有機物を含んでいないアルカリ性溶液を用いて、ガラス基板Gを洗浄することにより、ガラス基板Gに再付着した洗浄後の微量の有機物残渣を除去しつつ、洗浄液からガラス基板Gに有機物が付着することを抑制することができる。アルカリ性溶液を用いた洗浄後に、純水を用いてガラス基板Gをさらに洗浄することにより、ガラス基板Gの洗浄度を高めることができる。洗浄工程後、検査工程において、ガラス基板Gの端面および主表面の検査が行われて、その後、ディスプレイ用ガラス基板、強化ガラス用ガラス基板として、パネルメーカーなどに出荷される。
【0042】
以上説明したように、本実施形態のガラス基板の製造方法によれば、ガラス基板の表面の帯電を抑制して、ガラス基板同士の張り付きや剥離帯電を防止することができる。また、ガラス基板の切断時に付着するガラス屑や再生紙に含まれる例えばインクなどの樹脂成分に由来する粘着性を有する粘着異物等の汚れを除去でき、ガラス基板の洗浄度を高めることができる。
【0043】
以上、本発明のガラス板の製造方法について詳細に説明したが、本発明は上記実施形態に限定されず、本発明の主旨を逸脱しない範囲において、種々の改良や変更をしてもよいのはもちろんである。
【0044】
なお、本発明は上記の実施形態に限定されず、種々の変形及び応用が可能である。
【0045】
洗浄回数、洗浄時の温度は、洗浄液の濃度によって任意に変更することができる。例えば、アルカリ性溶液のみによる洗浄により、ガラス基板Gの表面に付着していた塵、汚れ、粘着異物などを除去できる場合には、アルカリ性洗浄液、酸性洗浄液、純水による洗浄は不要であり、アルカリ性洗浄液、酸性洗浄液、純水による洗浄回数を任意に変更できる。アルカリ性洗浄液による洗浄をなくすことにより、アルカリ性洗浄液に含まれる有機物がガラス基板Gに付着することを防止でき、有機物がガラス基板Gに再付着することによるガラス基板Gの表面電位を抑制することができる。
【0046】
また、ガラス基板Gの表面を粗面化処理したガラス基板Gを、アルカリ性溶液にて洗浄することもできる。ガラス基板Gの表面の粗面化処理については、公知の方法を適用でき、例えば、特願2013−204641号、特願2013−153851号に記載される内容を含み、当該内容が参酌される。ガラス基板Gの表面を粗面化処理したガラス基板Gには、ガラス基板Gの静電容量を変化させる有機物、粘着異物、汚れ等が付着しやすくなる。有機物を含むアルカリ性洗浄液を用いてガラス基板Gを洗浄すると、洗浄前からガラス基板Gに付着していた汚れを除去できるが、アルカリ性洗浄液に含まれる有機物がガラス基板Gに再付着する場合がある。このため、アルカリ性溶液を用いてガラス基板Gを洗浄することにより、洗浄前に付着していた汚れを除去しつつ、洗浄によってガラス基板Gに有機物等が再付着することを抑制することができる。
【実施例】
【0047】
以下に、実施例により本発明をより詳細に説明する。なお、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0048】
(実施例1)
洗浄液でガラス基板を洗浄した後、ガラス基板の静電容量を測定した。洗浄条件は、洗浄液温度を60℃、洗浄液浸水時間を150秒として、ガラス基板を洗浄した。ガラス基板は、実施形態に記載したガラス組成からなるガラス基板を、10cm平方にカットしたものを用いた。また、ガラス基板の洗浄工程で使用した11の洗浄液を以下に示す。
(1)濃度0.1wt% KOH
(2)濃度1.0wt% KOH
(3)濃度2.0wt% KOH
(4)濃度10.0wt% KOH
(5)濃度0.1wt% TMAH
(6)濃度1.0wt% TMAH
(7)濃度2.0wt% TMAH
(8)濃度10.0wt% TMAH
(9)濃度0.5wt% KOH+濃度0.5wt% TMAH
(10)濃度1.0wt% KOH+界面活性剤(横浜油脂工業株式会社製のセミクリーンKG)
(11)濃度1.0wt% TMAH+界面活性剤(関東化学株式会社製品のクレア635N)
上記の11のそれぞれの洗浄液を用いて、ガラス基板を洗浄した後、ガラス基板の静電容量を測定した。静電容量の測定方法は、ガラス基板をイオナイザ(静電気除去器)で除電した後、−20kVに設定した直流電源装置に接続した帯電ガンからガラス基板に電圧を印加した。電圧を印加後、ガラス基板を静電気センサで測定し、ガラス基板の表面電位Vが安定した後に、ガラス基板をファラデーゲージに投入した。ファラデーゲージ内のガラス基板について、ナノクーロンメータを用いてガラス基板の表面に蓄積された電荷量Qを測定し、静電容量C=電荷量Q/表面電位Vにより、ガラス基板の静電容量Cを測定した。ガラス基板の静電容量を測定比較した結果を表1に示す。なお、表1において、ガラス基板を洗浄せずに測定したガラス基板の静電容量を「(0)基準」として示している。
【0049】
【表1】
【0050】
表1に示すように、界面活性剤を含まないアルカリ性溶液で洗浄したガラス基板の静電容量は、基準の静電容量と比較して大きくなっていた。濃度が0.1wt%〜10.0wt%の洗浄液で洗浄したガラス基板の静電容量は、基準の静電容量に対して5〜6倍の容量を持っていた。これは、ガラス基板に付着していた再生紙に含まれる粘着異物等の公知の汚れを除去しつつ、さらに、界面活性剤等の有機物がガラス基板に付着していないことを示している。つまり、ガラス基板の静電容量が大きくなるほど、ガラス基板の表面電位は小さくなるため、この表面電位に起因して発生する剥離帯電を抑制できることがわかった。これに対し、界面活性剤を含んだ洗浄液、すなわちアルカリ性洗浄液で洗浄したガラス基板の静電容量は、基準の静電容量に対して、1.5〜2倍程度であり、アルカリ性溶液で洗浄したガラス基板の静電容量に対して、1/4〜1/3倍程度であった。ガラス基板の静電容量が約1/3倍になると、ガラス基板の表面電位は約3倍になる。つまり、界面活性剤を含んだアルカリ性溶液で洗浄したガラス基板は、界面活性剤を含まないアルカリ性溶液で洗浄したガラス基板より、剥離帯電が発生しやすいことがわかった。さらに、アルカリ性洗浄液による洗浄後、追加で表1に示す洗浄剤(3)のアルカリ性溶液で洗浄し、ガラス基板の静電容量を測定したところ、基準の静電容量に対して5倍程度の値が得られ、アルカリ性溶液によってガラス表面に再付着した微量有機物残渣が除去されて、静電容量が増大したことがわかった。
【0051】
以上の結果から、濃度0.1wt%〜10.0wt%の界面活性剤等の有機物を含まないアルカリ性溶液で、ガラス基板を洗浄することにより、ガラス基板の表面電位の上昇を防ぎ、剥離帯電を抑制できることがわかった。