【実施例】
【0058】
本発明の実施例を以下に説明する。
【0059】
高圧噴射処理装置は、硬質球体に対してスラリー溶液噴流を衝突させる方式のスターバーストミニHJP25001(株式会社スギノマシン製)を用いた。噴射圧力は245MPa,噴射流量は1.67×10
−6m
3/s(100mL/min.)とした。
粒径およびゼータ電位測定は、動的光散乱式粒径測定装置 ゼータサイザー ナノZS(MALBERN社製)を用いた。
pH測定は、pHメータ D-51(HORIBA社製)を用いた。
【0060】
実施例1(酸化チタンの微粒化)
原料の酸化チタン(TiO
2)はP25(Evonik Degussa社製)である。
本実施例では、イオン交換水に硝酸を添加し、所定pHの水溶液とした。この水溶液50gに酸化チタン粉末2gを加えて撹拌し、さらに硝酸を添加して再度所定のpHとし、希釈して、2質量%の原料濃度の混合液とし、前記混合液を高圧噴射処理装置のチャンバーノズルから所定圧力で高圧噴射して微粒化し、その高圧噴射処理を10回繰り返し、本発明1の分散液を得た。硝酸を添加しないで、同様に高圧噴射処理を行ったものを比較例1とした。測定結果を次の表1に示す。
【0061】
【表1】
【0062】
表1に示す通り、硝酸を加えてpH4からpH2に調整した混合液を高圧噴射処理した本発明1の分散液のメジアン粒径は122nmとなった。比較例1として硝酸を加えずに高圧噴射処理した分散液のメジアン粒径は1340nmとなった。本実施例によれば、比較例1に対して1/10以下のメジアン粒径の分散液となることが判った。
【0063】
図9は、本発明1の酸化チタンの処理後のSEM像である。
図10は、比較例1の酸化チタンの未処理のSEM像である。未処理の状態では、微粒子が凝集体となっているが(
図10)、硝酸を加えてpH調整し高圧噴射処理することで、微粒化され、粒子が安定して分散していることがわかる(
図9)。
【0064】
酸化チタンの等電点はpH5〜pH7程度である。本実施例によれば、硝酸を加えてpH4からpH2に調整することで、ゼータ電位が3.8mVから40.5mVまで大きくなり、粒子間の静電反発力が強くなりナノ粒子の分散安定性が高くなったことを裏付けている。微粒子の場合、理論的には、ゼータ電位の絶対値が増加すれば、粒子間の反発力が強くなり粒子の安定性が高くなる。よって、酸を加えてpH4からpH2以下に調整することでゼータ電位がある程度以上大きくなり、再凝集が防止されるとともに分散安定性が向上する。または、塩基を加えてpH4からpH14に調整することでゼータ電位の絶対値がある程度以上大きくなり、再凝集が防止されるとともに分散安定性が向上すると考えられる。
【0065】
実施例2(酸化チタンの微粒化)
原料の酸化チタン(TiO
2)はST−01(石原産業株式会社製)である。
本実施例では、イオン交換水に硝酸を添加し、所定pHの水溶液とした。この水溶液50gに酸化チタン粉末2gを加えて撹拌し、さらに硝酸を添加して再度所定のpHとし、希釈して、2質量%の原料濃度の混合液とし、前記混合液を高圧噴射処理装置のチャンバーノズルから所定圧力で高圧噴射して微粒化し、その高圧噴射処理を20回繰り返し、本発明2の分散液を得た。硝酸を添加しないで、同様に高圧噴射処理を行ったものを比較例2とした。測定結果を次の表2に示す。
【0066】
【表2】
【0067】
表2に示す通り、硝酸を加えてpH4からpH2に調整した混合液を高圧噴射処理した本発明2の分散液のメジアン粒径は78nmとなった。比較例2として硝酸を加えずに高圧噴射処理した分散液のメジアン粒径は1660nmとなった。本実施例によれば、比較例2に対して1/20以下のメジアン粒径の分散液となることが判った。
【0068】
実施例3(酸化チタンの微粒化)
原料の酸化チタン(TiO
2)はMT−150A(ティカ株式会社製)である。
本実施例では、イオン交換水に硝酸を添加し、所定pHの水溶液とした。この水溶液50gに酸化チタン粉末2gを加えて撹拌し、さらに硝酸を添加して再度所定のpHとし、希釈して、2質量%の原料濃度の混合液とし、前記混合液を高圧噴射処理装置のチャンバーノズルから所定圧力で高圧噴射して微粒化し、その高圧噴射処理を20回繰り返し、本発明3の分散液を得た。硝酸を添加しないで、同様に高圧噴射処理を行ったものを比較例3とした。測定結果を次の表3に示す。
【0069】
【表3】
【0070】
表3に示す通り、硝酸を加えてpH4からpH2に調整した混合液を高圧噴射処理した本発明3の分散液のメジアン粒径は187nmとなった。比較例3として硝酸を加えずに高圧噴射処理した分散液のメジアン粒径は984nmとなった。本実施例によれば、比較例に対して1/5以下のメジアン粒径の分散液となることが判った。
【0071】
実施例4(セルロースの微粒化)
原料のセルロースはKCフロックW−100GK(日本製紙株式会社製)である。
本実施例では、イオン交換水に硝酸(または水酸化ナトリウム)を添加し、所定pHの水溶液とした。この水溶液50gにセルロース粉末2gを加えて撹拌し、さらに硝酸(または水酸化ナトリウム)を添加して再度所定のpHとし、希釈して、2質量%の原料濃度の混合液とし、前記混合液を高圧噴射処理装置のチャンバーノズルから所定圧力で高圧噴射して微粒化し、その高圧噴射処理を20回繰り返し、本発明4−1,本発明4−2の分散液を得た。硝酸や水酸化ナトリウムを添加しないで、同様に高圧噴射処理を行ったものを比較例4とした。測定結果を次の表4に示す。
【0072】
【表4】
【0073】
表4に示す通り、硝酸を加えてpH7からpH2に調整した混合液を高圧噴射処理した本発明4−1の分散液のメジアン繊維径は19400nmとなった。また、水酸化ナトリウムを加えてpH7からpH12に調整した混合液を高圧噴射処理した本発明4−2の分散液のメジアン繊維径は18210nmとなった。比較例4として硝酸や水酸化ナトリウムを加えずに高圧噴射処理した分散液のメジアン粒径は23850nmとなった。本実施例によれば、比較例に対して約18%〜24%小さなメジアン繊維径の分散液となることが判った。
【0074】
実施例5(セルロースの微粒化)
原料のセルロースはKCフロックW−100GK(日本製紙株式会社製)である。
添加剤である高分子分散剤はDISPERBYK−199(BYK−Chemie 社製)である。
本実施例では、イオン交換水にセルロース粉末2gと、高分子分散剤0.66gを加えて撹拌し、希釈して、全体が100gの混合液とし、前記混合液を高圧噴射処理装置のチャンバーノズルから所定圧力で高圧噴射して微粒化し、その高圧噴射処理を10回繰り返し、本発明5の分散液を得た。高分子分散剤を添加しないで、同様に高圧噴射処理を行ったものを比較例5とした。測定結果を次の表5に示す。
【0075】
【表5】
【0076】
表5に示す通り、高分子分散剤を加えて調整した混合液を高圧噴射処理した本発明5の分散液のメジアン繊維径は26102nmとなった。比較例5として分散剤を加えずに高圧噴射処理した分散液のメジアン粒径は32084nmとなった。本実施例によれば、比較例に対して約19%小さなメジアン繊維径の分散液となることが判った。また、本発明5の分散液の粘度は3500cpであり、比較例5の粘度1591cpの約2.2倍となった。メジアン繊維径が小さくなるほど分散液の粘度が高くなる性質があるので、この粘度が増大することからも良好な分散結果となっていることがわかる。
【0077】
本実施例によれば、凝集力の強い粒子間や濡れ性の乏しい粒子であっても、立体障害の作用をする高分子分散剤を加えてから高圧噴射分散処理を行うことで、高圧噴射により微粒化された粒子に立体障害の作用が働くので再凝集が防止されるとともに分散安定性が向上することを裏付けている。
上記実施例では、高分子分散剤を用いた例で説明したが、これに限定されるものではなく、高分子分散剤に代えてイオン性界面活性剤を用いてもよい。イオン性界面活性剤の場合には、粒子に効果的に静電反発の作用が働くこととなる。
【0078】
実施例6(セルロースの微粒化)
原料のセルロースはKCフロックW−100GK(日本製紙株式会社製)である。
添加剤である高分子分散剤はDISPERBYK−199(ビックケミー社製)である。
本実施例では、イオン交換水にセルロース粉末2gと、高分子分散剤0.22gを加えて撹拌し、希釈して、全体が99.56gの混合液とし、前記混合液を高圧噴射処理装置のチャンバーノズルから所定圧力で高圧噴射して微粒化し、その高圧噴射処理を5回繰り返し、引き続き、高分子分散剤0.44gを加えて撹拌し、全体が100gの混合液とし、前記混合液を高圧噴射処理装置のチャンバーノズルから所定圧力で高圧噴射して微粒化し、その高圧噴射処理を5回繰り返し、本発明6の分散液を得た。すなわち、本発明6は、合計で、高圧噴射処理を10回行っていることとなる。測定結果を次の表6に示す。
【0079】
【表6】
【0080】
表6に示す通り、高分子分散剤を最初に0.22g添加して5回高圧噴射処理した後に、高分子分散剤を0.44g添加して5回高圧噴射処理した本発明6の分散液のメジアン繊維径は19200nmとなった。上述の本発明5として高分子分散剤を最初に0.66g添加して10回高圧噴射処理した分散液のメジアン粒径は26102nmとなったので、本発明6によれば、本発明5に対して約26%小さなメジアン繊維径の分散液が得られたことになる。また、本発明6の分散液の粘度は4200cpであり、上述の本発明5の粘度3500cpの1.2倍となった。メジアン繊維径が小さくなるほど粘度が高くなる性質があるので、この粘度が増大することからも良好な分散結果となっていることがわかる。
【0081】
本実施例によれば、適時、必要な分だけ高分子分散剤を添加することができ、より効果的に粒子に静電反発または立体障害の作用が働くこととなる。
【0082】
実施例7(セルロースの微粒化)
原料のセルロースはKCフロックW−100GK(日本製紙株式会社製)である。
添加剤である高分子分散剤はDISPERBYK−199(BYK−Chemie 社製)である。
本実施例では、イオン交換水に高分子分散剤0.66gを加えて撹拌し、それを高圧噴射処理装置のチャンバーノズルから所定圧力で高圧噴射して微粒化し、その高圧噴射処理を5回繰り返し、そして引続き、イオン交換水にセルロース粉末2gと、さきほど微粒化した高分子分散剤を0.66g加えて撹拌し、希釈して、全体が100gの混合液とし、前記混合液を高圧噴射処理装置のチャンバーノズルから所定圧力で高圧噴射し、その高圧噴射処理を10回繰り返し、本発明7の分散液を得た。測定結果を次の表7に示す。
【0083】
【表7】
【0084】
表7に示す通り、高分子分散剤を予め微粒化したものを0.66g添加して10回高圧噴射処理した本発明7の分散液のメジアン繊維径は23000nmとなった。上述の本発明5として高分子分散剤を最初に0.66g添加して10回高圧噴射処理した分散液のメジアン粒径は26102nmとなったので、本発明7によれば、本発明5に対して約12%小さなメジアン繊維径の分散液が得られたことになる。また、本発明7の分散液の粘度は4200cpであり、上述の本発明5の粘度3500cpの1.2倍となった。メジアン繊維径が小さくなるほど粘度が高くなる性質があるので、この粘度が増大することからも良好な分散結果となっていることがわかる。
【0085】
本実施例によれば、予め、高分子分散剤を高圧噴射処理装置のチャンバーノズルから所定圧力で高圧噴射し微粒化してから添加することで分散効果を示す最適な分子量領域での添加が容易となる。
【0086】
実施例8(カーボンナノチューブの微粒化)
原料のカーボンナノチューブは多層CNT(和光純薬工業株式会社製)である。
添加剤である高分子分散剤はDISPERBYK−199(BYK−Chemie 社製)である。
本実施例では、イオン交換水に多層CNT粉末0.5gを加えて撹拌し、それを高圧噴射処理装置のチャンバーノズルから所定圧力で高圧噴射して微粒化し、その高圧噴射処理を10回繰り返し、そして引続き、高分子分散剤を0.5g加えて撹拌し、希釈して、全体が50gの混合液とし、前記混合液を高圧噴射処理装置のチャンバーノズルから所定圧力で高圧噴射し、その高圧噴射処理を20回繰り返し、本発明8−1の分散液を得た。
本実施例では、イオン交換水に多層CNT粉末0.5gと、高分子分散剤0.5gを加えて撹拌し、希釈して、全体が50gの混合液とし、前記混合液を高圧噴射処理装置のチャンバーノズルから200MPaの圧力で高圧噴射して微粒化し、その高圧噴射処理を20回繰り返し、本発明8−2の分散液を得た。
本実施例では、イオン交換水に多層CNT粉末0.5gと、高分子分散剤0.17gを加えて撹拌し、希釈して、全体が49.67gの混合液とし、前記混合液を高圧噴射処理装置のチャンバーノズルから所定圧力で高圧噴射して微粒化し、その高圧噴射処理を10回繰り返し、引き続き、高分子分散剤0.33gを加えて撹拌し、全体が50gの混合液とし、前記混合液を高圧噴射処理装置のチャンバーノズルから所定圧力で高圧噴射して微粒化し、その高圧噴射処理を10回繰り返し、本発明8−3の分散液を得た。すなわち、本発明8−3は、合計で、高圧噴射処理を20回行っていることとなる。そして、高分子分散剤を添加しないで、同様に高圧噴射処理を行ったものを比較例8とした。測定結果を次の表8に示す。
【0087】
【表8】
【0088】
表8に示す通り、原料を高圧噴射処理してから高分子分散剤を加えて調整した混合液を高圧噴射処理した本発明8−1の分散液のメジアン径は150nmとなった。また、高分子分散剤を最初に加えて調整した混合液を高圧噴射処理した本発明8−2の分散液のメジアン径は351nmとなった。そして、高分子分散剤を最初に適量加えて調整した混合液を高圧噴射処理し、引き続き、高分子分散剤を適量加えて調整した混合液を高圧噴射処理した本発明8−3の分散液のメジアン径は291nmとなった。比較例8として分散剤を加えずに高圧噴射処理した分散液のメジアン粒径は4808nmである。本発明8−1、本発明8−2、本発明8−3によれば、比較例8に対して1/10以下であるか、1/30以下の小さなメジアン径の分散液が得られたことになる。特に、本発明8−1が良好な結果となっており、このことは、ナノ粒子の凝集体に対して、高圧噴射処理することでナノ粒子全体の表面積を増大させて高分子分散剤の吸着面を増やすこととなり、立体障害の作用をする高分子分散剤を加えてから高圧噴射分散処理を行うことで、高圧噴射により微粒化されたナノ粒子に立体障害の作用が効率的に働くので再凝集が防止されるとともに分散安定性が向上することを裏付けている。
【0089】
本発明は上述した実施の形態に限定されるものではない。上述の酸化チタンの微粒化は一例であって、チタン酸バリウム、フェライト、アルミナ、シリカ、その他既知の金属酸化物微粒子の凝集体に適用できる。上述の多層CNTの微粒化は一例であって、CNT全般に対して有効である。高分子分散剤を用いた微粒化は、バイオマスナノファイバーの凝集体やCNTの凝集体のみならず、既知の金属酸化物微粒子の凝集体に適用できる。各種実施例は、適宜組み合わせて使用することが可能である。
【0090】
本発明は上述した実施例に限定されるものではない。例えば、前記微粒子に対して少なくとも静電反発または立体障害の作用をする添加剤を、そのまま添加する場合と、微粒化してから添加する場合がある。例えば、前記微粒子に対して少なくとも静電反発または立体障害の作用をする添加剤を、原料液に加えて高圧噴射処理装置のチャンバーノズルから所定圧力で高圧噴射する場合と、原料液を高圧噴射処理装置のチャンバーノズルから所定圧力で高圧噴射したものに加える場合と、原料液に加えて高圧噴射処理装置のチャンバーノズルから所定圧力で高圧噴射したものに加えてさらに高圧噴射処理装置のチャンバーノズルから所定圧力で高圧噴射する場合がある。そして、段階的に前記添加剤を加えながら前記高圧噴射分散処理を行うことで、より効果的に粒子に静電反発または立体障害の作用が働くこととなる。このように、本発明は、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更が可能であることは言うまでもない。