【解決手段】ステアリングシャフトとピニオンシャフトとの間に生じるトルクを検出するトルクセンサと、トルクセンサが検出した検出トルクTを補正する制御用トルク値設定部26と、制御用トルク値設定部26が補正した制御用トルク値Tcに基づいて基本目標電流を設定する基本目標電流算出部と、制御用トルク値Tcに基づいて目標電流を補正する保舵補助電流を設定する保舵補助電流算出部と、基本目標電流と保舵補助電流とに基づいて目標電流を設定する目標電流決定部と、を備え、制御用トルク値設定部26は、規範ラック軸力算出部262aが算出した規範ラック軸力Frmと実ラック軸力算出部262bが算出した実ラック軸力Fraとの偏差に基づいて検出トルクTを補正する。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、添付図面を参照して、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
図1は、実施の形態に係る電動パワーステアリング装置100の概略構成を示す図である。
電動パワーステアリング装置100(以下、単に「ステアリング装置100」と称する場合もある。)は、車両の進行方向を任意に変えるためのかじ取り装置であり、本実施の形態においては車両の一例としての自動車に適用した構成を例示している。
【0011】
ステアリング装置100は、自動車の進行方向を変えるために運転者が操作する車輪(ホイール)状のステアリングホイール(ハンドル)101と、ステアリングホイール101に一体的に設けられたステアリングシャフト102とを備えている。また、ステアリング装置100は、ステアリングシャフト102と自在継手103aを介して連結された上部連結シャフト103と、この上部連結シャフト103と自在継手103bを介して連結された下部連結シャフト108とを備えている。下部連結シャフト108は、ステアリングホイール101の回転に連動して回転する。
【0012】
また、ステアリング装置100は、転動輪としての左右の前輪150のそれぞれに連結されたタイロッド104と、タイロッド104に連結されたラック軸105とを備えている。また、ステアリング装置100は、ラック軸105に形成されたラック歯105aとともにラック・ピニオン機構を構成するピニオン106aを備えている。ピニオン106aは、ピニオンシャフト106の下端部に形成されている。これらラック軸105、ピニオンシャフト106などが、ステアリングホイール101の回転操作力を前輪150の転動力として伝達する伝達機構として機能する。ピニオンシャフト106は、前輪150を転動させるラック軸105に対して、回転することにより前輪150を転動させる駆動力(ラック軸力)を加える。
【0013】
また、ステアリング装置100は、ピニオンシャフト106を収納するステアリングギヤボックス107を有している。ピニオンシャフト106は、ステアリングギヤボックス107内にてトーションバー112を介して下部連結シャフト108と連結されている。そして、ステアリングギヤボックス107の内部には、下部連結シャフト108とピニオンシャフト106との相対回転角度に基づいて、言い換えればトーションバー112の捩れ量に基づいて、ステアリングシャフト102とピニオンシャフト106との間に作用するトルクを検出するトルク検出手段の一例としてのトルクセンサ109が設けられている。言い換えれば、トルクセンサ109は、トーションバー112にはたらくトルクを検出する。
【0014】
また、ステアリング装置100は、ステアリングギヤボックス107に支持された電動モータ110と、電動モータ110の駆動力を減速してピニオンシャフト106に伝達する減速機構111とを有している。減速機構111は、例えば、ピニオンシャフト106に固定されたウォームホイール(不図示)と、電動モータ110の出力軸に固定されたウォームギヤ(不図示)などから構成される。電動モータ110は、ピニオンシャフト106に回転駆動力を加えることにより、ラック軸105に前輪150を転動させる駆動力(ラック軸力)を加える。本実施の形態に係る電動モータ110は、電動モータ110の回転角度であるモータ回転角度θに連動した回転角度信号θsを出力するレゾルバ120を有する3相ブラシレスモータである。
【0015】
また、ステアリング装置100は、電動モータ110の作動を制御する制御装置10を備えている。制御装置10には、上述したトルクセンサ109からの出力信号が入力される。また、制御装置10には、自動車に搭載される各種の機器を制御するための信号を流す通信を行うネットワーク(CAN)を介して、自動車の移動速度である車速Vcを検出する車速センサ170、ヨーレイトセンサ180などからの出力信号が入力される。
【0016】
以上のように構成されたステアリング装置100は、トルクセンサ109が検出した検出トルクTに基づいて電動モータ110を駆動し、電動モータ110の発生トルクをピニオンシャフト106に伝達する。これにより、電動モータ110の発生トルクが、ステアリングホイール101に加える運転者の操舵力をアシストする。
【0017】
次に、制御装置10について説明する。
図2は、制御装置10の概略構成図である。
制御装置10は、CPU、ROM、RAM、バックアップRAM等からなる算術論理演算回路である。
制御装置10には、上述したトルクセンサ109にて検出された検出トルクTが出力信号に変換されたトルク信号Td、車速センサ170にて検出された車速Vcが出力信号に変換された車速信号v、レゾルバ120からの回転角度信号θsなどが入力される。
【0018】
そして、制御装置10は、電動モータ110に供給する目標電流Itを算出(設定)する目標電流算出部20と、目標電流算出部20が算出した目標電流Itに基づいてフィードバック制御などを行う制御部30とを有している。
また、制御装置10は、電動モータ110のモータ回転角度θを算出するモータ回転角度算出部71と、モータ回転角度算出部71にて算出されたモータ回転角度θに基づいて、モータ回転速度Nmを算出するモータ回転速度算出部72と、ステアリングホイール101の回転角度である舵角Raを算出する舵角算出部73と、を備えている。
【0019】
先ずは、目標電流算出部20について詳述する。
目標電流算出部20は、トルク信号Tdに基づいて電動モータ110の制御用に用いるトルク値である制御用トルク値Tcを設定するトルク補正手段の一例としての制御用トルク値設定部26と、制御用トルク値設定部26が設定した制御用トルク値Tcおよび車速Vcに基づいて電動モータ110に供給する目標電流Itの基本となる基本目標電流Itfを算出(設定)する基本目標電流設定手段の一例としての基本目標電流算出部27と、を備えている。また、目標電流算出部20は、制御用トルク値設定部26が設定した制御用トルク値Tcに基づいてステアリングホイール101の保舵状況に応じたアシスト力を電動モータ110が与えるための電流である保舵補助電流Ihを算出(設定)する保舵補助電流算出部28と、基本目標電流Itfと保舵補助電流Ihとに基づいて最終的に目標電流Itを決定(設定)する目標電流設定手段の一例としての目標電流決定部29と、を備えている。
制御用トルク値設定部26、基本目標電流算出部27、保舵補助電流算出部28および目標電流決定部29については後で詳述する。
【0020】
図3は、制御部30の概略構成図である。
制御部30は、
図3に示すように、電動モータ110の作動を制御するモータ駆動制御部31と、電動モータ110を駆動させるモータ駆動部32と、電動モータ110に実際に流れる実電流Imを検出するモータ電流検出部33とを有している。
モータ駆動制御部31は、目標電流算出部20にて最終的に決定された目標電流Itと、モータ電流検出部33にて検出された電動モータ110へ供給される実電流Imとの偏差に基づいてフィードバック制御を行うフィードバック(F/B)制御部40と、電動モータ110をPWM駆動するためのPWM(パルス幅変調)信号を生成するPWM信号生成部60とを有している。
【0021】
フィードバック制御部40は、目標電流算出部20にて最終的に決定された目標電流Itとモータ電流検出部33にて検出された実電流Imとの偏差を求める偏差演算部41と、その偏差がゼロとなるようにフィードバック処理を行うフィードバック(F/B)処理部42とを有している。
【0022】
フィードバック(F/B)処理部42は、目標電流Itと実電流Imとが一致するようにフィードバック制御を行うものであり、例えば、偏差演算部41にて算出された偏差に対して、比例要素で比例処理し、積分要素で積分処理し、加算演算部でこれらの値を加算する。
PWM信号生成部60は、フィードバック制御部40からの出力値に基づいて電動モータ110をPWM(パルス幅変調)駆動するためのPWM信号を生成し、生成したPWM信号を出力する。
【0023】
モータ駆動部32は、所謂インバータであり、例えば、スイッチング素子として6個の独立したトランジスタ(FET)を備え、6個の内の3個のトランジスタは電源の正極側ラインと各相の電気コイルとの間に接続され、他の3個のトランジスタは各相の電気コイルと電源の負極側(アース)ラインと接続されている。そして、6個の中から選択した2個のトランジスタのゲートを駆動してこれらのトランジスタをスイッチング動作させることにより、電動モータ110の駆動を制御する。
モータ電流検出部33は、モータ駆動部32に接続されたシャント抵抗の両端に生じる電圧から電動モータ110に流れる実電流Imの値を検出する。
【0024】
モータ回転角度算出部71(
図2参照)は、レゾルバ120からの回転角度信号θsに基づいてモータ回転角度θを算出する。
モータ回転速度算出部72(
図2参照)は、モータ回転角度算出部71が算出したモータ回転角度θに基づいて電動モータ110のモータ回転速度Nmを算出する。
【0025】
舵角算出部73(
図2参照)は、ステアリングホイール101、減速機構111などが機械的に連結されているためにステアリングホイール101の回転角度(舵角Ra)と電動モータ110のモータ回転角度θとの間に相関関係があることに鑑み、モータ回転角度算出部71にて算出されたモータ回転角度θに基づいて舵角Raを算出する。舵角算出部73は、例えば、モータ回転角度算出部71にて定期的(例えば1ミリ秒毎)に算出されたモータ回転角度θの前回値と今回値との差分の積算値に基づいて舵角Raを算出する。
【0026】
次に、基本目標電流算出部27について詳述する。
図4は、基本目標電流算出部27の概略構成図である。
基本目標電流算出部27は、基本目標電流Itfを設定する上でベースとなるベース電流Ibを算出するベース電流算出部21と、電動モータ110の慣性モーメントを打ち消すためのイナーシャ補償電流Isを算出するイナーシャ補償電流算出部22と、電動モータ110の回転を制限するダンパー補償電流Idを算出するダンパー補償電流算出部23とを備えている。また、基本目標電流算出部27は、ベース電流算出部21、イナーシャ補償電流算出部22、ダンパー補償電流算出部23にて算出された値に基づいて基本目標電流Itfを決定する基本目標電流決定部25を備えている。
なお、目標電流算出部20には、制御用トルク値設定部26が設定した制御用トルク値Tc、車速センサ170にて検出された車速Vc、モータ回転速度算出部72にて算出されたモータ回転速度Nmの情報などが入力される。
【0027】
図5は、制御用トルク値Tcおよび車速Vcとベース電流Ibとの対応を示す制御マップの概略図である。
ベース電流算出部21は、制御用トルク値設定部26が設定した制御用トルク値Tcと、車速センサ170にて検出された車速Vcとに応じたベース電流Ibを算出する。ベース電流算出部21は、例えば、予め経験則に基づいて作成しROMに記憶しておいた、制御用トルク値Tcおよび車速Vcとベース電流Ibとの対応を示す
図5に例示した制御マップに、制御用トルク値Tcおよび車速Vcを代入することによりベース電流Ibを算出する。
【0028】
イナーシャ補償電流算出部22は、制御用トルク値設定部26が設定した制御用トルク値Tcと、車速センサ170にて検出された車速Vcとに応じた電動モータ110およびシステムの慣性モーメントを打ち消すためのイナーシャ補償電流Isを算出する。イナーシャ補償電流算出部22は、例えば、予め経験則に基づいて作成しROMに記憶しておいた、制御用トルク値Tcおよび車速Vcとイナーシャ補償電流Isとの対応を示す制御マップに、制御用トルク値Tcおよび車速Vcを代入することによりイナーシャ補償電流Isを算出する。
【0029】
ダンパー補償電流算出部23は、制御用トルク値設定部26が設定した制御用トルク値Tcと、車速センサ170にて検出された車速Vcと、モータ回転速度算出部72にて算出されたモータ回転速度Nmとに応じた、電動モータ110の回転を制限するダンパー補償電流Idを算出する。ダンパー補償電流算出部23は、例えば、予め経験則に基づいて作成しROMに記憶しておいた、制御用トルク値Tc、車速Vcおよびモータ回転速度Nmと、ダンパー補償電流Idとの対応を示す制御マップに、制御用トルク値Tc、車速Vcおよびモータ回転速度Nmを代入することによりダンパー補償電流Idを算出する。
【0030】
基本目標電流決定部25は、ベース電流算出部21にて算出されたベース電流Ib、イナーシャ補償電流算出部22にて算出されたイナーシャ補償電流Isおよびダンパー補償電流算出部23にて算出されたダンパー補償電流Idに基づいて基本目標電流Itfを決定する。基本目標電流決定部25は、例えば、ベース電流Ibに、イナーシャ補償電流Isを加算するとともにダンパー補償電流Idを減算して得た電流を基本目標電流Itfとして決定する。
【0031】
次に、保舵補助電流算出部28について詳述する。
図6は、保舵補助電流算出部28の概略構成図である。
保舵補助電流算出部28は、制御用トルク値設定部26が設定した制御用トルク値Tcなどに基づいて、横断勾配の傾斜角度Asを検出する傾斜角度検出部281と、車速センサ170からの車速信号v(車速Vc)に基づいて傾斜角度Asに対する不感帯領域を設定するためのオフセット量Asoを設定するオフセット量設定部282とを備えている。また、保舵補助電流算出部28は、傾斜角度検出部281にて算出された傾斜角度Asからオフセット量設定部282にて設定されたオフセット量Asoを減算する減算部283と、傾斜角度Asとオフセット量Asoとの減算値に基づいて保舵補助電流Ihのベースとなる保舵補助ベース電流Ihbを算出する保舵補助ベース電流算出部284とを備えている。また、保舵補助電流算出部28は、車速Vcに応じて保舵補助ベース電流Ihbを補正するための電流補正係数Kcを設定する補正係数設定部285と、保舵補助ベース電流算出部284が算出した保舵補助ベース電流Ihbと、補正係数設定部285が設定した電流補正係数Kcとを乗算することにより保舵補助電流Ihを算出する乗算部286とを備えている。
【0032】
先ずは、傾斜角度検出部281について詳述する。
図7は、傾斜角度検出部281の概略構成図である。
傾斜角度検出部281は、傾斜角度Asのベース値であるベース傾斜角度Asbを算出するベース傾斜角度算出部281aと、車速Vcに基づいて傾斜角度補正係数Kaを設定する傾斜角度補正係数設定部281bと、ベース傾斜角度Asbと傾斜角度補正係数Kaとを乗算するベース傾斜角度補正部281cと、を備えている。
また、傾斜角度検出部281は、横断勾配のある道路を走行しているか否かを判定する横断勾配走行判定部281dと、横断勾配走行判定部281dからの出力に基づいて傾斜角度Asを設定する傾斜角度設定部281eと、を備えている。
【0033】
ベース傾斜角度算出部281aは、制御用トルク値設定部26が設定した制御用トルク値Tcおよび目標電流算出部20が算出した目標電流Itに基づいてベース傾斜角度Asbを算出する。例えば、ベース傾斜角度算出部281aは、制御用トルク値設定部26が設定した制御用トルク値Tcと目標電流Itによって電動モータ110が発生するアシストトルクとを加算した合計トルクTaに応じたベース傾斜角度Asbを算出する。合計トルクTaに基づいてベース傾斜角度Asbを算出するのは、横断勾配がある路面では、車両の直進状態は、電動モータ110によるアシストトルクと、ステアリングシャフト102とピニオンシャフト106との間に作用するトルク(保舵状態においては主に運転者の操舵トルク)の両方で維持されるためである。
【0034】
図8は、合計トルクTaとベース傾斜角度Asbとの対応を示す制御マップの概略図である。
図8に示した制御マップは、車速Vcがある特定の車速である場合の制御マップの概略図である。
ベース傾斜角度算出部281aは、例えば、予め経験則に基づいて作成しROMに記憶しておいた、合計トルクTaとベース傾斜角度Asbとの対応を示す
図8に例示した制御マップに、目標電流算出部20が算出した目標電流Itにより電動モータ110が発生するアシストトルクを推定するとともに、推定したアシストトルクと制御用トルク値設定部26が設定した制御用トルク値Tcとを加算した合計トルクTaを算出して代入することによりベース傾斜角度Asbを算出する。
【0035】
傾斜角度補正係数設定部281bは、ベース傾斜角度算出部281aにて算出されたベース傾斜角度Asbに対して車速Vcに応じた補正を行うための傾斜角度補正係数Kaを設定する。
図9は、傾斜角度補正係数Kaと車速Vcとの対応を示す制御マップの概略図である。
傾斜角度補正係数設定部281bは、車速Vcに基づいて傾斜角度補正係数Kaを設定する。傾斜角度補正係数設定部281bは、例えば、予め経験則に基づいて作成しROMに記憶しておいた、傾斜角度補正係数Kaと車速Vcとの対応を示す
図9に例示した制御マップに、車速Vcを代入することにより傾斜角度補正係数Kaを算出する。
【0036】
ベース傾斜角度補正部281cは、ベース傾斜角度算出部281aにて算出されたベース傾斜角度Asbと傾斜角度補正係数設定部281bにて設定された傾斜角度補正係数Kaとを乗算することにより補正後ベース傾斜角度Asbc算出する(Asbc=Asb×Ka)。
図9においては、車速Vcが大きくなるに従ってセルフアライニングトルクが大きくなることに鑑み、車速Vcが大きくなるに従って傾斜角度補正係数Kaが小さくなるように設定されている。そして、ベース傾斜角度補正部281cは、この傾斜角度補正係数Kaをベース傾斜角度Asbに乗算することにより、同じ傾斜角度Asでありながら、車速Vcが大きくなるほど傾斜角度Asが大きくなるように算出してしまうのを防止し、セルフアライニングトルクの成分を除去した傾斜角度Asを設定するために補正する。なお、
図9においては、
図8の制御マップの基となっている特定の車速Vcである場合の傾斜角度補正係数Kaが1である。
【0037】
横断勾配走行判定部281dは、横断勾配のある道路を走行しているか否かを判定する。例えば、横断勾配走行判定部281dは、所定値以上の操舵トルクを発生させた状態で、車両が所定速度以上で直進走行し、かつその走行が所定時間以上連続したときに横断勾配のある道路を走行していると判定する。つまり、横断勾配走行判定部281dは、車速センサ170にて検出された車速Vcが所定速度以上であり、かつヨーレイトセンサ180にて検出されたヨーレイトyの絶対値が所定ヨーレイト以下であり、かつトルクセンサ109にて検出された検出トルクTが所定トルク以上である走行状態が所定時間以上続いたときに横断勾配のある道路を走行していると判定する。
【0038】
傾斜角度設定部281eは、横断勾配走行判定部281dが横断勾配のある道路を走行していると判定した場合には、ベース傾斜角度補正部281cが算出した補正後ベース傾斜角度Asbcを傾斜角度Asとして設定し、横断勾配走行判定部281dが横断勾配のある道路を走行していると判定していない場合には、傾斜角度Asとして零を設定する。
【0039】
次に、オフセット量設定部282について詳述する。
図10は、オフセット量Asoと車速Vcとの対応を示す制御マップの概略図である。
オフセット量設定部282は、車速センサ170にて検出された車速Vcに基づいてオフセット量Asoを設定する。オフセット量設定部282は、例えば、予め経験則に基づいて作成しROMに記憶しておいた、オフセット量Asoと車速Vcとの対応を示す
図10に例示した制御マップに、車速Vcを代入することによりオフセット量Asoを算出する。
なお、オフセット量Asoは、車速センサ170にて検出された車速Vcに基づいて傾斜角度Asに対する不感帯領域を設定するための値である。
【0040】
減算部283は、傾斜角度設定部281eが設定した傾斜角度Asからオフセット量Asoを減算することにより偏差角度ΔAsを算出する。
保舵補助ベース電流算出部284は、減算部283が算出した偏差角度ΔAsが零よりも大きい場合に、偏差角度ΔAsに応じた補助操舵トルクを付与するための保舵補助電流Ihのベースとなる保舵補助ベース電流Ihbを設定する。
【0041】
図11は、保舵補助ベース電流Ihbと偏差角度ΔAsとの対応を示す制御マップの概略図である。
保舵補助ベース電流算出部284は、減算部283が算出した偏差角度ΔAsに応じた保舵補助ベース電流Ihbを設定する。保舵補助ベース電流算出部284は、例えば、予め経験則に基づいて作成しROMに記憶しておいた、保舵補助ベース電流Ihbと偏差角度ΔAsとの対応を示す
図11に例示した制御マップに、偏差角度ΔAsを代入することにより保舵補助ベース電流Ihbを算出し、これを保舵補助ベース電流Ihbとして設定する。
【0042】
他方、保舵補助ベース電流算出部284は、減算部283が算出した偏差角度ΔAsが零よりも大きくない場合には、保舵補助ベース電流Ihbとして零を設定する。つまり、保舵補助ベース電流算出部284は、傾斜角度設定部281eが設定した傾斜角度Asがオフセット量Asoよりも小さい場合には保舵補助ベース電流Ihbとして零を設定する。
このように、オフセット量Asoは、保舵補助電流Ihを決定するにあたっての不感帯領域を定める。そして、
図10に示した制御マップにおいては、車速Vcが大きいほどオフセット量Asoを小さくし、不感帯領域を小さくしている。
【0043】
図12は、車速Vcと電流補正係数Kcとの対応を示す制御マップの概略図である。
補正係数設定部285は、車速Vcに応じた電流補正係数Kcを設定する。補正係数設定部285は、例えば、予め経験則に基づいて作成しROMに記憶しておいた、車速Vcと電流補正係数Kcとの対応を示す
図12に例示した制御マップに、車速Vcを代入することにより電流補正係数Kcを算出し、これを電流補正係数Kcとして設定する。
【0044】
乗算部286は、保舵補助ベース電流算出部284にて設定された保舵補助ベース電流Ihbと補正係数設定部285が設定した電流補正係数Kcとを乗算することにより保舵補助電流Ihを算出し、出力する。
【0045】
以上、説明したように、保舵補助電流算出部28は、横断勾配のある道路で車両を直進する際に、ステアリングホイール101の舵角Raを横断勾配に基づいて定められる保舵角に保持するための保舵アシスト力を電動モータ110に付与させる保舵補助電流Ihを算出する。そして、この保舵補助電流Ihが目標電流Itに加味されることにより、横断勾配のある道路を直進する際の操舵負担が軽減される。
【0046】
そして、目標電流決定部29は、RAMなどの記憶領域に記憶された、基本目標電流算出部27が算出した基本目標電流Itfと保舵補助電流算出部28が算出した保舵補助電流Ihとを加算した値を目標電流Itとして決定する。
上述したように、保舵補助電流Ihは、目標電流Itを補正する補正電流の一例であり、保舵補助電流算出部28は、補正電流設定手段の一例として機能する。
【0047】
次は、制御用トルク値設定部26について詳述する。
図13は、制御用トルク値設定部26の概略構成図である。
制御用トルク値設定部26は、トルクセンサ109にて検出された検出トルクTの位相を補償する位相補償部261と、制御用トルク値Tcを補正するための補正トルク値Tfを設定する補正トルク値設定部262と、を備えている。また、制御用トルク値設定部26は、位相補償部261にて位相が補償された補償検出トルクT´と補正トルク値設定部262が設定した補正トルク値Tfとに基づいて制御用トルク値Tcを決定する制御用トルク値決定部263を備えている。
【0048】
補正トルク値設定部262は、ラック軸105に生じる規範となる軸力である規範ラック軸力Frmを算出する規範ラック軸力算出部262aと、ラック軸105に生じる実際の軸力である実ラック軸力Fraを算出する実ラック軸力算出部262bと、を備えている。また、補正トルク値設定部262は、規範ラック軸力算出部262aが算出した規範ラック軸力Frmと実ラック軸力算出部262bが算出した実ラック軸力Fraとの偏差であるラック軸力偏差ΔFrを算出するラック軸力偏差算出部262cと、ラック軸力偏差算出部262cが算出したラック軸力偏差ΔFrに基づいて補正トルク値Tfのベースとなるベース補正トルク値Tfbを設定するベース補正トルク値設定部262dと、を備えている。また、補正トルク値設定部262は、車速Vcに基づいて補正トルク値Tfを補正するための車速補正係数Kvを設定する車速補正係数設定部262eと、モータ回転速度Nmに基づいて補正トルク値Tfを補正するための回転速度補正係数Kmを設定する回転速度補正係数設定部262fと、を備えている。また、補正トルク値設定部262は、ベース補正トルク値設定部262dが設定したベース補正トルク値Tfbと、車速補正係数設定部262eが設定した車速補正係数Kvと、回転速度補正係数設定部262fが設定した回転速度補正係数Kmとに基づいて補正トルク値Tfを決定する補正トルク値決定部262gを備えている。
【0049】
規範ラック軸力算出部262aは、舵角算出部73にて算出された舵角Raと車速センサ170にて検出された車速Vcとに基づいて規範ラック軸力Frmを算出する。つまり、規範ラック軸力算出部262aは、舵角Raと車速Vcとに応じた規範ラック軸力Frmを算出する。なお、規範ラック軸力算出部262aは、例えば、予め経験則に基づいて作成しROMに記憶しておいた、舵角Raおよび車速Vcと規範ラック軸力Frmとの対応を示す制御マップ又は算出式に、舵角Raおよび車速Vcを代入することにより規範ラック軸力Frmを算出する。
【0050】
実ラック軸力算出部262bは、トルクセンサ109にて検出された検出トルクTと、モータ回転角度算出部71にて算出されたモータ回転角度θと、モータ電流検出部33にて検出された実電流Imとに基づいて実ラック軸力Fraを算出する。
ここで、実ラック軸力Fraは、本実施の形態に係るステアリング装置100がピニオン型の装置であることから、ピニオンシャフト106から与えられる軸力に等しいとして、ピニオンシャフト106に加えられたピニオントルクTpに基づいて算出する。実ラック軸力Fraは、ピニオントルクTpをピニオン106aのピッチ円半径rpで除算した値である(Fra=Tp/rp)。
【0051】
ピニオントルクTpは、ステアリングシャフト102とピニオンシャフト106との間に作用するトルク(検出トルクT)と電動モータ110の出力軸トルクToから加えられるモータトルクTmとを加算したトルクと推定することができる(Tp=T+Tm)。
【0052】
モータトルクTmは、出力軸トルクToに減速機構111の減速比(ギア比)Nを乗算した値である(Tm=To×N)。
出力軸トルクToは、モータ回転角度算出部71にて算出されたモータ回転角度θおよびモータ電流検出部33にて検出された実電流Imを、予めROMに記憶しておいた算出式に代入することにより算出することができる。なお、モータ回転角度算出部71にて算出されたモータ回転角度θを用いる代わりに、モータ逆起電力から所定の式により算出したモータ回転角度θを用いてもよい。
【0053】
ラック軸力偏差算出部262cは、実ラック軸力算出部262bが算出した実ラック軸力Fraから規範ラック軸力算出部262aが算出した規範ラック軸力Frmを減算することによりラック軸力偏差ΔFrを算出する(ΔFr=Fra−Frm)。
【0054】
ベース補正トルク値設定部262dは、ラック軸力偏差算出部262cが算出したラック軸力偏差ΔFrにピニオン106aのピッチ円半径rpを乗算することにより得た値をベース補正トルク値Tfbとして設定する(Tfb=ΔFr×rp)。
【0055】
図14は、車速補正係数Kvと車速Vcとの対応を示す制御マップの概略図である。
車速補正係数設定部262eは、車速センサ170にて検出された車速Vcに基づいて車速補正係数Kvを設定する。車速補正係数設定部262eは、例えば、予め経験則に基づいて作成しROMに記憶しておいた、車速補正係数Kvと車速Vcとの対応を示す
図14に例示した制御マップに、車速Vcを代入することにより車速補正係数Kvを算出する。
【0056】
図15は、回転速度補正係数Kmとモータ回転速度Nmの絶対値との対応を示す制御マップの概略図である。
回転速度補正係数設定部262fは、モータ回転速度算出部72にて算出されたモータ回転速度Nmの絶対値に基づいて回転速度補正係数Kmを設定する。回転速度補正係数設定部262fは、例えば、予め経験則に基づいて作成しROMに記憶しておいた、回転速度補正係数Kmとモータ回転速度Nmの絶対値との対応を示す
図15に例示した制御マップに、モータ回転速度Nmの絶対値を代入することにより回転速度補正係数Kmを算出する。
【0057】
補正トルク値決定部262gは、ベース補正トルク値設定部262dが設定したベース補正トルク値Tfbと、車速補正係数設定部262eが設定した車速補正係数Kvと、回転速度補正係数設定部262fが設定した回転速度補正係数Kmとを乗算することにより得た値を補正トルク値Tfとして決定する(Tf=Tfb×Kv×Km)。
【0058】
制御用トルク値決定部263は、位相補償部261にて位相が補償された補償検出トルクT´と補正トルク値設定部262が設定した補正トルク値Tfとを加算することにより得た値を制御用トルク値Tcとして決定する(Tc=T´+Tf)。
【0059】
以上説明したように、本実施の形態に係る目標電流算出部20においては、制御用トルク値設定部26が、舵角Raと車速Vcとに基づいて算出された規範ラック軸力Frmと実ラック軸力Fraとの偏差に基づいてトルクセンサ109にて検出された検出トルクTを補正した制御用トルク値Tcを設定する。そして、制御用トルク値設定部26が設定した制御用トルク値Tcに基づいて、基本目標電流算出部27が目標電流Itの基本となる基本目標電流Itfを設定し、保舵補助電流算出部28が保舵補助電流Ihを設定する。そして、目標電流決定部29が基本目標電流Itfと保舵補助電流Ihとを加算することにより得た値を目標電流Itとして設定する。
【0060】
そして、本実施の形態に係る制御用トルク値設定部26においては、ラック軸105に生じる実ラック軸力Fraが規範ラック軸力Frmよりも大きくなるほど、補正トルク値Tfが大きくなり、制御用トルク値Tcが大きくなるように設定される。そして、制御用トルク値Tcが大きくなると、基本目標電流Itfおよび保舵補助電流Ihが大きくなるように設定され、目標電流Itが増大する。他方、ラック軸105に生じる実ラック軸力Fraが規範ラック軸力Frmよりも小さい場合は、実ラック軸力Fraが規範ラック軸力Frmよりも小さくなるほど、補正トルク値Tfが小さくなり、制御用トルク値Tcが小さくなるように設定される。そして、制御用トルク値Tcが小さくなると、基本目標電流Itfおよび保舵補助電流Ihが小さくなるように設定され、目標電流Itが減少する。
【0061】
このように、本実施の形態に係る目標電流算出部20によれば、路面の変化などによる外乱が入力した場合もその外乱入力を考慮した制御用トルク値Tcが設定され、外乱入力による影響を抑制するような基本目標電流Itfおよび保舵補助電流Ihが設定される。そして、このような外乱入力による影響の抑制を、基本目標電流算出部27および保舵補助電流算出部28が制御用の電流を設定するのに用いる制御用トルク値Tcを設定することのみで行うのでより効率的である。
以上説明したように、本実施の形態に係るステアリング装置100によれば、トルクセンサ109にて検出された検出トルクTに基づいて基本目標電流Itfおよび保舵補助電流Ihを設定する構成において外乱入力による影響を抑制することをより効率的に行うことができる。
【0062】
なお、上述した実施の形態においては、基本目標電流Itfに加減算することで目標電流Itを補正する補正電流としてステアリングホイール101の保舵状況に応じたアシスト力を与えるための電流である保舵補助電流Ihを例示したが、特にかかる電流に限定されない。目標電流Itを補正する補正電流であればいかなる電流であってもよく、かかる補正電流を設定する際に制御用トルク値Tcに基づいて設定することで外乱入力による影響を抑制することをより効率的に行うことができる。
【0063】
<プログラムの説明>
また以上説明した制御装置10が行なう処理は、ソフトウェアとハードウェア資源とが協働することにより実現することができる。この場合、制御装置10に設けられた制御用コンピュータ内部のCPUが、制御装置10の各機能を実現するプログラムを実行し、これらの各機能を実現させる。
【0064】
よって制御装置10が行なう処理は、コンピュータに、車両のステアリングホイール101に連動して回転するステアリングシャフト102と転動輪を転動させるラック軸105に軸方向の力を付与するピニオンシャフト106との間に生じるトルクの検出値である検出トルクTを補正するトルク補正機能と、トルク補正機能が補正した補正後の検出トルクTである補正後トルクに基づいて電動モータ110に供給する目標電流Itの基本となる基本目標電流Itfを設定する基本目標電流設定機能と、補正後トルクに基づいて目標電流Itを補正する補正電流の一例としての保舵補助電流Ihを設定する補正電流設定機能と、基本目標電流Itfと保舵補助電流Ihとに基づいて目標電流Itを設定する目標電流設定機能と、を備え、トルク補正機能は、ステアリングホイール101の回転角度である舵角Raと車両の移動速度である車速Vcとに基づいてラック軸105に生じる軸力の規範となる規範ラック軸力Frmを算出する規範ラック軸力算出機能と、ラック軸105に生じる実際の軸力である実ラック軸力Fraを算出する実ラック軸力算出機能と、を有し、規範ラック軸力算出機能が算出した規範ラック軸力Frmと実ラック軸力算出機能が算出した実ラック軸力Fraとの偏差に基づいて検出トルクTを補正することを実現させるプログラムとして捉えることもできる。
【0065】
なお、本実施の形態を実現するプログラムは、通信手段により提供することはもちろん、CD−ROM等の記録媒体に格納して提供することも可能である。