特開2015-189441(P2015-189441A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特開2015-189441車高調整装置、車高調整装置用の制御装置およびプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2015-189441(P2015-189441A)
(43)【公開日】2015年11月2日
(54)【発明の名称】車高調整装置、車高調整装置用の制御装置およびプログラム
(51)【国際特許分類】
   B62K 25/04 20060101AFI20151006BHJP
   B62J 99/00 20090101ALI20151006BHJP
【FI】
   B62K25/04
   B62J99/00 K
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
【全頁数】25
(21)【出願番号】特願2014-70421(P2014-70421)
(22)【出願日】2014年3月28日
(71)【出願人】
【識別番号】000146010
【氏名又は名称】株式会社ショーワ
(74)【代理人】
【識別番号】100104880
【弁理士】
【氏名又は名称】古部 次郎
(74)【代理人】
【識別番号】100125346
【弁理士】
【氏名又は名称】尾形 文雄
(72)【発明者】
【氏名】石川 文明
【テーマコード(参考)】
3D014
【Fターム(参考)】
3D014DD01
3D014DE02
3D014DE22
3D014DF02
3D014DF22
(57)【要約】
【課題】自動二輪車の走行シーンに応じて車高を調整することが可能な車高調整装置等を提供する。
【解決手段】自動二輪車1の車体フレーム11と車輪(前輪14、後輪21)との相対的な位置を変更するフロントフォーク13およびリヤサスペンション22と、フロントフォーク13およびリヤサスペンション22を制御する制御装置50と、を備え、制御装置50は、自動二輪車1の走行シーンを判定するための走行情報に基づき走行シーンを判定する走行シーン判定部と、判定した走行シーンに応じてフロントフォーク13およびリヤサスペンション22を制御する制御部と、を備えることを特徴とする車高調整装置。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の車両本体と車輪との相対的な位置を変更する変更手段と、
前記変更手段を制御する制御手段と、
を備え、
前記制御手段は、
前記車両の走行シーンを判定するための走行情報に基づき、当該走行シーンを判定する走行シーン判定部と、
判定した前記走行シーンに応じて前記相対的な位置を制御する制御部と、
を備えることを特徴とする車高調整装置。
【請求項2】
前記変更手段は、前記車両本体と前輪との相対的な位置である前輪側相対位置を変更する前輪側変更手段と、当該車両本体と後輪との相対的な位置である後輪側相対位置を変更する後輪側変更手段とからなり、
前記制御部は、判定した前記走行シーンに応じて、前記前輪側相対位置及び/又は前記後輪側相対位置を変更する制御を行なうことを特徴とする請求項1に記載の車高調整装置。
【請求項3】
前記走行シーン判定部は、前記車両の移動速度である車速および前記車両本体の左右方向の傾斜角に基づき前記走行シーンを判定することを特徴とする請求項1または2に記載の車高調整装置。
【請求項4】
前記変更手段は、流体の流通経路上に設けられて、供給される電力に応じた開度に制御される電磁弁を有し、
前記制御部は、前記電磁弁の開度を制御することで前記変更手段の前記相対的な位置を制御することを特徴とする請求項1乃至3の何れか1項に記載の車高調整装置。
【請求項5】
車両の走行シーンを判定するための走行情報に基づき、当該走行シーンを判定する走行シーン判定部と、
判定した前記走行シーンに応じて前記車両の車両本体と車輪との相対的な位置を変更する変更手段を制御する制御部と、
を備えることを特徴とする車高調整装置用の制御装置。
【請求項6】
前記制御部は、前記走行シーンに応じて決定され、前記車両本体と前輪との相対的な位置である前輪側相対位置の目標移動量である前輪側目標移動量と当該車両本体と後輪との相対的な位置である後輪側相対位置の目標移動量である後輪側目標移動量とに基づき、当該前輪側相対位置及び/又は当該後輪側相対位置を変更する制御を行なうことを特徴とする請求項5に記載の車高調整装置用の制御装置。
【請求項7】
車高調整装置に用いられるコンピュータに、
車両の走行シーンを判定するための走行情報に基づき、当該走行シーンを判定する機能と、
判定した前記走行シーンに応じて前記車両の車両本体と車輪との相対的な位置を変更する変更手段を制御する機能と、
を実現させるプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動二輪車の車高を調整する車高調整装置、車高調整装置用の制御装置、プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動二輪車等の車高を調整する装置が提案されている。
特許文献1には、緩衝器本体の伸縮動作によって発生した油圧を検出する圧力センサ(油圧検出手段)と、圧力センサによる検出油圧が所定値を超えたとき油圧を開放する電磁弁(油圧開放手段)とを備える車高調整機構が開示されている。
また特許文献2には、車高が目標車高値以上のときは、ピストン下部室および高圧作動油貯蔵室の作動油をリザーバに対して放出する電磁弁を備えた車高調整装置において、電磁弁が目標車高値に対して作動する車高センサーからの入力信号および目標車高を設定する車高設定スイッチの入力信号を演算処理するコントローラの出力信号によって駆動されるものが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−94217号公報
【特許文献2】特開平10−281205号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
自動二輪車の車速に応答して自動的に車高を変える従来の車高調整装置においては、停車時における車高が低い状態と、走行時における車高が高い状態との2つの状態に切り替えることのみが可能であった。
しかしながらこの場合、走行時における車高は高い状態の1つしかなく、自動二輪車の走行シーンに適合したものであるとは、必ずしも言えなかった。
本発明は、自動二輪車の走行シーンに応じて車高を調整することが可能な車高調整装置等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
かかる目的のもと、本発明は、車両の車両本体と車輪との相対的な位置を変更する変更手段と、変更手段を制御する制御手段と、を備え、制御手段は、車両の走行シーンを判定するための走行情報に基づき、走行シーンを判定する走行シーン判定部と、判定した走行シーンに応じて相対的な位置を制御する制御部と、を備えることを特徴とする車高調整装置である。
【0006】
ここで、変更手段は、車両本体と前輪との相対的な位置である前輪側相対位置を変更する前輪側変更手段と、車両本体と後輪との相対的な位置である後輪側相対位置を変更する後輪側変更手段とからなり、制御部は、判定した走行シーンに応じて、前輪側相対位置及び/又は後輪側相対位置を変更する制御を行なうことができる。
また走行シーン判定部は、車両の移動速度である車速および車両本体の左右方向の傾斜角に基づき走行シーンを判定することができる。
さらに変更手段は、流体の流通経路上に設けられて、供給される電力に応じた開度に制御される電磁弁を有し、制御部は、電磁弁の開度を制御することで変更手段の相対的な位置を変更するようにできる。
【0007】
また本発明は、車両の走行シーンを判定するための走行情報に基づき、走行シーンを判定する走行シーン判定部と、判定した走行シーンに応じて車両の車両本体と車輪との相対的な位置を変更する変更手段を制御する制御部と、を備えることを特徴とする車高調整装置用の制御装置である。
【0008】
ここで、制御部は、走行シーンに応じて決定され、車両本体と前輪との相対的な位置である前輪側相対位置の目標移動量である前輪側目標移動量と車両本体と後輪との相対的な位置である後輪側相対位置の目標移動量である後輪側目標移動量とに基づき、前輪側相対位置及び/又は後輪側相対位置を変更する制御を行なうようにすることができる。
【0009】
さらに本発明は、車高調整装置に用いられるコンピュータに、車両の走行シーンを判定するための走行情報に基づき、走行シーンを判定する機能と、判定した走行シーンに応じて車両の車両本体と車輪との相対的な位置を変更する変更手段を制御する機能と、を実現させるプログラムである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、自動二輪車の走行シーンに応じて車高を調整することが可能な車高調整装置等を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施の形態に係る自動二輪車の概略構成を示す図である。
図2】リヤサスペンションの断面図である。
図3】(a)および(b)は、後輪側液体供給装置の作用を説明するための図である。
図4】(a)および(b)は、後輪側相対位置変更装置による車高調整を説明するための図である。
図5】車高が維持されるメカニズムを示す図である。
図6】フロントフォークの断面図である。
図7】(a)および(b)は、前輪側液体供給装置の作用を説明するための図である。
図8】(a)および(b)は、前輪側相対位置変更装置による車高調整を説明するための図である。
図9】車高が維持されるメカニズムを示す図である。
図10】(a)は、前輪側電磁弁の概略構成を示す図であり、(b)は、後輪側電磁弁の概略構成を示す図である。
図11】制御装置のブロック図である。
図12】本実施の形態に係る電磁弁制御部のブロック図である。
図13】走行シーン判定部が車速および傾斜角に基づいて自動二輪車の走行シーンを判定する手順について説明したフローチャートである。
図14】走行シーン判定部が判定した自動二輪車の走行シーンと、前輪側の車高および後輪側の車高との関係について示した表である。
図15】(a)は、車速と前輪側目標移動量との相関関係を示す図である。(b)は、車速と後輪側目標移動量との相関関係を示す図である。
図16】ユーザが、自動二輪車の走行シーンを設定する入力装置の外観図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、添付図面を参照して、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
図1は、実施の形態に係る自動二輪車1の概略構成を示す図である。
自動二輪車1は、本実施の形態では車両の一例である。自動二輪車1は、図1に示すように、車体フレーム11と、この車体フレーム11の前端部に取り付けられているヘッドパイプ12と、このヘッドパイプ12に設けられた2つのフロントフォーク13と、この2つのフロントフォーク13の下端に取り付けられた前輪14と、を有している。2つのフロントフォーク13は、前輪14の左側と右側にそれぞれ1つずつ配置されている。図1では、右側に配置されたフロントフォーク13のみを示している。このフロントフォーク13の具体的構成については後で詳述する。
また、自動二輪車1は、フロントフォーク13の上部に取り付けられたハンドル15と、車体フレーム11の前上部に取り付けられた燃料タンク16と、この燃料タンク16の下方に配置されたエンジン17および変速機18と、を有している。
【0013】
また、自動二輪車1は、車体フレーム11の後上部に取り付けられたシート19と、車体フレーム11の下部にスイング自在に取り付けられたスイングアーム20と、このスイングアーム20の後端に取り付けられた後輪21と、スイングアーム20の後部(後輪21)と車体フレーム11の後部との間に取り付けられた1つ又は2つのリヤサスペンション22と、を有している。1つ又は2つのリヤサスペンション22は、後輪21の左側と右側にそれぞれ1つずつ配置されている。図1では、右側に配置されたリヤサスペンション22のみを示している。このリヤサスペンション22の具体的構成については後で詳述する。
【0014】
また、自動二輪車1は、ヘッドパイプ12の前方に配置されたヘッドランプ23と、前輪14の上部を覆うようにフロントフォーク13に取り付けられたフロントフェンダ24と、シート19の後方に配置されたテールランプ25と、このテールランプ25の下方に後輪21の上部を覆うように取り付けられたリヤフェンダ26と、を有している。また、自動二輪車1は、前輪14の回転を停止するブレーキ27を有している。
【0015】
また、自動二輪車1は、前輪14の回転角度を検出する前輪回転検出センサ31と、後輪21の回転角度を検出する後輪回転検出センサ32と、を有している。また、自動二輪車1は、自動二輪車1の左右方向の傾斜角(バンク角)を検出する傾斜角センサ33を有している。
また、自動二輪車1は、フロントフォーク13の後述する前輪側電磁弁270およびリヤサスペンション22の後述する後輪側電磁弁170の開度を制御する制御手段の一例としての制御装置50を備えている。制御装置50は、後述する前輪側電磁弁270および後輪側電磁弁170の開度を制御することで自動二輪車1の車高を制御する。制御装置50には、上述した前輪回転検出センサ31、後輪回転検出センサ32、傾斜角センサ33などからの出力信号が入力される。
【0016】
詳しくは後述するが、フロントフォーク13、リヤサスペンション22、および制御装置50は、車高調整装置として把握することができる。
【0017】
次に、リヤサスペンション22について詳述する。
図2は、リヤサスペンション22の断面図である。
リヤサスペンション22は、自動二輪車1の車両本体の一例としての車体フレーム11と後輪21との間に取り付けられている。そして、リヤサスペンション22は、自動二輪車1の車重を支えて衝撃を吸収する後輪側懸架スプリング110と、後輪側懸架スプリング110の振動を減衰する後輪側ダンパ120と、を備えている。また、リヤサスペンション22は、後輪側懸架スプリング110のバネ力を調整することで車体フレーム11と後輪21との相対的な位置である後輪側相対位置を変更可能な後輪側相対位置変更装置140と、この後輪側相対位置変更装置140に液体を供給する後輪側液体供給装置160と、を備えている。また、リヤサスペンション22は、このリヤサスペンション22を車体フレーム11に取り付けるための車体側取付部材184と、リヤサスペンション22を後輪21に取り付けるための車軸側取付部材185と、車軸側取付部材185に取り付けられて後輪側懸架スプリング110における中心線方向の一方の端部(図2においては下部)を支持するばね受け190と、を備えている。リヤサスペンション22は、車体フレーム11と車輪の一例としての後輪21との相対的な位置を変更する変更手段、および後輪側変更手段の一例として機能する。
【0018】
後輪側ダンパ120は、図2に示すように、薄肉円筒状の外シリンダ121と、外シリンダ121内に収容される薄肉円筒状の内シリンダ122と、円筒状の外シリンダ121の円筒の中心線方向(図2では上下方向)の一方の端部(図2では下部)を塞ぐ底蓋123と、内シリンダ122の中心線方向の他方の端部(図2では上部)を塞ぐ上蓋124と、を有するシリンダ125を備えている。以下では、外シリンダ121の円筒の中心線方向を、単に「中心線方向」と称す。
【0019】
また、後輪側ダンパ120は、中心線方向に移動可能に内シリンダ122内に挿入されたピストン126と、中心線方向に延びるとともに中心線方向の他方の端部(図2では上部)でピストン126を支持するピストンロッド127と、を備えている。ピストン126は、内シリンダ122の内周面に接触し、シリンダ125内の液体(本実施の形態においてはオイル)が封入された空間を、ピストン126よりも中心線方向の一方の端部側の第1油室131と、ピストン126よりも中心線方向の他方の端部側の第2油室132とに区分する。ピストンロッド127は、円筒状の部材であり、その内部に後述するパイプ161が挿入されている。なお、本実施の形態においてはオイルが作動油の一例として機能する。
【0020】
また、後輪側ダンパ120は、ピストンロッド127における中心線方向の他方の端部側に配置された第1減衰力発生装置128と、内シリンダ122における中心線方向の他方の端部側に配置された第2減衰力発生装置129とを備えている。第1減衰力発生装置128および第2減衰力発生装置129は、後輪側懸架スプリング110による路面からの衝撃力の吸収に伴うシリンダ125とピストンロッド127との伸縮振動を減衰する。第1減衰力発生装置128は、第1油室131と第2油室132との間の連絡路として機能するように配置されており、第2減衰力発生装置129は、第2油室132と後輪側相対位置変更装置140の後述するジャッキ室142との間の連絡路として機能するように配置されている。
【0021】
後輪側液体供給装置160は、シリンダ125に対するピストンロッド127の伸縮動によりポンピング動作して後輪側相対位置変更装置140の後述するジャッキ室142内に液体を供給する装置である。
後輪側液体供給装置160は、後輪側ダンパ120の上蓋124に中心線方向に延びるように固定された円筒状のパイプ161を有している。パイプ161は、円筒状のピストンロッド127の内部であるポンプ室162内に同軸的に挿入されている。
【0022】
また、後輪側液体供給装置160は、シリンダ125およびパイプ161に進入する方向のピストンロッド127の移動により加圧されたポンプ室162内の液体を後述するジャッキ室142側へ吐出させる吐出用チェック弁163と、シリンダ125およびパイプ161から退出する方向のピストンロッド127の移動により負圧になるポンプ室162にシリンダ125内の液体を吸い込む吸込用チェック弁164とを有する。
【0023】
図3(a)および図3(b)は、後輪側液体供給装置160の作用を説明するための図である。
以上のように構成された後輪側液体供給装置160は、自動二輪車1が走行してリヤサスペンション22が路面の凹凸により力を受けると、ピストンロッド127がシリンダ125およびパイプ161に進退する伸縮動によりポンピング動作する。このポンピング動作により、ポンプ室162が加圧されると、ポンプ室162内の液体が吐出用チェック弁163を開いて後輪側相対位置変更装置140のジャッキ室142側へ吐出され(図3(a)参照)、ポンプ室162が負圧になると、シリンダ125の第2油室132内の液体が吸込用チェック弁164を開いてポンプ室162に吸い込まれる(図3(b)参照)。
【0024】
後輪側相対位置変更装置140は、後輪側ダンパ120のシリンダ125の外周を覆うように配置されて後輪側懸架スプリング110における中心線方向の他方の端部(図3では上部)を支持する支持部材141と、シリンダ125における中心線方向の他方の端部側(図3では上側)の外周を覆うように配置されて支持部材141とともにジャッキ室142を形成する油圧ジャッキ143とを有している。ジャッキ室142内にシリンダ125内の液体が充填されたり、ジャッキ室142内から液体が排出されたりすることで、支持部材141が油圧ジャッキ143に対して中心線方向に移動する。そして、油圧ジャッキ143には、上部に車体側取付部材184が取り付けられており、支持部材141が油圧ジャッキ143に対して中心線方向に移動することで後輪側懸架スプリング110のバネ力が変わり、その結果、後輪21に対するシート19の相対的な位置が変わる。
【0025】
また、後輪側相対位置変更装置140は、ジャッキ室142と油圧ジャッキ143に形成された液体溜室143aとの間の流体の流通経路上に設けられて、ジャッキ室142に供給された液体をジャッキ室142に溜めるように閉弁するとともに、ジャッキ室142に供給された液体を、油圧ジャッキ143に形成された液体溜室143aに排出するように開弁する電磁弁(ソレノイドバルブ)である後輪側電磁弁170を有している。後輪側電磁弁170については後で詳述する。なお、液体溜室143aに排出された液体は、シリンダ125内に戻される。
【0026】
図4(a)および図4(b)は、後輪側相対位置変更装置140による車高調整を説明するための図である。
後輪側電磁弁170が全開状態から少しでも閉じた状態のときに、後輪側液体供給装置160によりジャッキ室142内に液体が供給されるとジャッキ室142内に液体が充填され、支持部材141が油圧ジャッキ143に対して中心線方向の一方の端部側(図4(a)では下側)に移動し、後輪側懸架スプリング110のバネ長が短くなる(図4(a)参照)。他方、後輪側電磁弁170が全開になるとジャッキ室142内の液体は液体溜室143aに排出され、支持部材141が油圧ジャッキ143に対して中心線方向の他方の端部側(図4(b)では上側)に移動し、後輪側懸架スプリング110のバネ長が長くなる(図4(b)参照)。
【0027】
支持部材141が油圧ジャッキ143に対して移動することで後輪側懸架スプリング110のバネ長が短くなると、支持部材141が油圧ジャッキ143に対して移動する前と比べて後輪側懸架スプリング110が支持部材141を押すバネ力が大きくなる。その結果、車体フレーム11から後輪21側へ力が作用したとしても両者の相対位置を変化させない初期荷重が切り替わる。かかる場合、車体フレーム11(シート19)側から中心線方向の一方の端部側(図4(a)および図4(b)では下側)に同じ力が作用した場合には、リヤサスペンション22の沈み込み量(車体側取付部材184と車軸側取付部材185との間の距離の変化)が小さくなる。それゆえ、支持部材141が油圧ジャッキ143に対して移動することで後輪側懸架スプリング110のバネ長が短くなると、支持部材141が油圧ジャッキ143に対して移動する前と比べて、シート19の高さが上昇する(車高が高くなる)。つまり、後輪側電磁弁170の開度が小さくなることで車高が高くなる。
【0028】
他方、支持部材141が油圧ジャッキ143に対して移動することで後輪側懸架スプリング110のバネ長が長くなると、支持部材141が油圧ジャッキ143に対して移動する前と比べて後輪側懸架スプリング110が支持部材141を押すバネ力が小さくなる。かかる場合、車体フレーム11(シート19)側から中心線方向の一方の端部側(図4(a)および図4(b)では下側)に同じ力が作用した場合には、リヤサスペンション22の沈み込み量(車体側取付部材184と車軸側取付部材185との間の距離の変化)が大きくなる。それゆえ、支持部材141が油圧ジャッキ143に対して移動することで後輪側懸架スプリング110のバネ長が長くなると、支持部材141が油圧ジャッキ143に対して移動する前と比べて、シート19の高さが下降する(車高が低くなる)。つまり、後輪側電磁弁170の開度が大きくなるに応じて車高が低くなる。
なお、後輪側電磁弁170は、制御装置50によりその開度が制御される。
また、後輪側電磁弁170が開いたときに、ジャッキ室142に供給された液体を排出する先は、シリンダ125内の第1油室131および/または第2油室132であってもよい。
【0029】
また、図2に示すように、シリンダ125の外シリンダ121には、支持部材141が油圧ジャッキ143に対して中心線方向の一方の端部側(図2では下側)に予め定められた限界位置まで移動したときに、ジャッキ室142内の液体をシリンダ125内まで戻す戻し路121aが形成されている。
図5は、車高が維持されるメカニズムを示す図である。
戻し路121aにより、後輪側電磁弁170が全閉しているときにジャッキ室142内に液体が供給され続けても、供給された液体がシリンダ125内に戻されるので油圧ジャッキ143に対する支持部材141の位置、ひいてはシート19の高さ(車高)が維持される。
【0030】
なお、以下では、後輪側電磁弁170が全開となり、支持部材141の油圧ジャッキ143に対する移動量が最小(零)であるときのリヤサスペンション22の状態を最小状態、後輪側電磁弁170が全閉となり、支持部材141の油圧ジャッキ143に対する移動量が最大となったときのリヤサスペンション22の状態を最大状態と称す。
【0031】
また、リヤサスペンション22は、後輪側相対位置検出部195(図11参照)を有している。後輪側相対位置検出部195としては、油圧ジャッキ143に対する支持部材141の中心線方向への移動量、言い換えれば車体側取付部材184に対する支持部材141の中心線方向への移動量を検出する物であることを例示することができる。具体的には、支持部材141の外周面にコイルを巻くとともに、油圧ジャッキ143を磁性体とし、油圧ジャッキ143に対する支持部材141の中心線方向への移動に応じて変化するコイルのインピーダンスに基づいて支持部材141の移動量を検出する物であることを例示することができる。
【0032】
次に、フロントフォーク13について詳述する。
図6は、フロントフォーク13の断面図である。
フロントフォーク13は、車体フレーム11と前輪14との間に取り付けられている。そして、フロントフォーク13は、自動二輪車1の車重を支えて衝撃を吸収する前輪側懸架スプリング210と、前輪側懸架スプリング210の振動を減衰する前輪側ダンパ220と、を備えている。また、フロントフォーク13は、前輪側懸架スプリング210のバネ力を調整することで車体フレーム11と前輪14との相対的な位置である前輪側相対位置を変更可能な前輪側相対位置変更装置240と、この前輪側相対位置変更装置240に液体を供給する前輪側液体供給装置260と、を備えている。また、フロントフォーク13は、このフロントフォーク13を前輪14に取り付けるための車軸側取付部285と、フロントフォーク13をヘッドパイプ12に取り付けるためのヘッドパイプ側取付部(不図示)と、を備えている。フロントフォーク13は、車体フレーム11と車輪の一例としての前輪14との相対的な位置を変更する変更手段、および前輪側変更手段の一例として機能する。
【0033】
前輪側ダンパ220は、図6に示すように、薄肉円筒状の外シリンダ221と、円筒状の外シリンダ221の中心線方向(図6では上下方向)の他方の端部(図6では上部)から一方の端部(図6では下部)が挿入された薄肉円筒状の内シリンダ222と、外シリンダ221の中心線方向の一方の端部(図6では下部)を塞ぐ底蓋223と、内シリンダ222の中心線方向の他方の端部(図6では上部)を塞ぐ上蓋224と、を有するシリンダ225を備えている。内シリンダ222は、外シリンダ221に対して摺動可能に挿入されている。
【0034】
また、前輪側ダンパ220は、中心線方向に延びるように底蓋223に取り付けられたピストンロッド227を備えている。ピストンロッド227は、中心線方向に延びる円筒状の円筒状部227aと、円筒状部227aにおける中心線方向の他方の端部(図6では上部)に設けられた円板状のフランジ部227bとを有する。
また、前輪側ダンパ220は、内シリンダ222における中心線方向の一方の端部側(図6では下部側)に固定されるとともに、ピストンロッド227の円筒状部227aの外周に対して摺動可能なピストン226を備えている。ピストン226は、ピストンロッド227の円筒状部227aの外周面に接触し、シリンダ225内の液体(本実施の形態においてはオイル)が封入された空間を、ピストン226よりも中心線方向の一方の端部側の第1油室231と、ピストン226よりも中心線方向の他方の端部側の第2油室232とに区分する。なお、本実施の形態においてはオイルが作動油の一例として機能する。
【0035】
また、前輪側ダンパ220は、ピストンロッド227の上方に設けられてピストンロッド227の円筒状部227aの開口を覆う覆い部材230を備えている。覆い部材230は、前輪側懸架スプリング210における中心線方向の一方の端部(図6では下部)を支持する。そして、前輪側ダンパ220は、内シリンダ222内における覆い部材230よりも中心線方向の他方の端部側の空間およびピストンロッド227の円筒状部227aの内部の空間に形成された油溜室233を有している。油溜室233は、常に第1油室231および第2油室232と連通している。
【0036】
また、前輪側ダンパ220は、ピストン226に設けられた第1減衰力発生部228と、ピストンロッド227に形成された第2減衰力発生部229とを備えている。第1減衰力発生部228および第2減衰力発生部229は、前輪側懸架スプリング210による路面からの衝撃力の吸収に伴う内シリンダ222とピストンロッド227との伸縮振動を減衰する。第1減衰力発生部228は、第1油室231と第2油室232との間の連絡路として機能するように配置されており、第2減衰力発生部229は、第1油室231、第2油室232と油溜室233との間の連絡路として機能するように形成されている。
【0037】
前輪側液体供給装置260は、内シリンダ222に対するピストンロッド227の伸縮動によりポンピング動作して前輪側相対位置変更装置240の後述するジャッキ室242内に液体を供給する装置である。
前輪側液体供給装置260は、前輪側ダンパ220の覆い部材230に中心線方向に延びるように固定された円筒状のパイプ261を有している。パイプ261は、後述する前輪側相対位置変更装置240の支持部材241の下側円筒状部241aの内部であるポンプ室262内に同軸的に挿入されている。
【0038】
また、前輪側液体供給装置260は、内シリンダ222に進入する方向のピストンロッド227の移動により加圧されたポンプ室262内の液体を後述するジャッキ室242側へ吐出させる吐出用チェック弁263と、内シリンダ222から退出する方向のピストンロッド227の移動により負圧になるポンプ室262に油溜室233内の液体を吸い込む吸込用チェック弁264とを有する。
【0039】
図7(a)および図7(b)は、前輪側液体供給装置260の作用を説明するための図である。
以上のように構成された前輪側液体供給装置260は、自動二輪車1が走行してフロントフォーク13が路面の凹凸により力を受けて、ピストンロッド227が内シリンダ222に進退すると、パイプ261が前輪側相対位置変更装置240の支持部材241に進退することによりポンピング動作する。このポンピング動作により、ポンプ室262が加圧されると、ポンプ室262内の液体が吐出用チェック弁263を開いて前輪側相対位置変更装置240のジャッキ室242側へ吐出され(図7(a)参照)、ポンプ室262が負圧になると、油溜室233内の液体が吸込用チェック弁264を開いてポンプ室262に吸い込まれる(図7(b)参照)。
【0040】
前輪側相対位置変更装置240は、前輪側ダンパ220の内シリンダ222内に配置されるとともに、円板状のスプリング受け244を介して前輪側懸架スプリング210における中心線方向の他方の端部(図7では上部)を支持する支持部材241を備えている。支持部材241は、中心線方向の一方の端部側(図7では下側)において円筒状に形成された下側円筒状部241aと、中心線方向の他方の端部側(図7では上側)において円筒状に形成された上側円筒状部241bとを有している。下側円筒状部241aには、パイプ261が挿入される。
【0041】
また、前輪側相対位置変更装置240は、支持部材241の上側円筒状部241b内に嵌め込まれて支持部材241とともにジャッキ室242を形成する油圧ジャッキ243を有している。ジャッキ室242内にシリンダ225内の液体が充填されたり、ジャッキ室242内から液体が排出されたりすることで、支持部材241が油圧ジャッキ243に対して中心線方向に移動する。そして、油圧ジャッキ243には、上部にヘッドパイプ側取付部(不図示)が取り付けられており、支持部材241が油圧ジャッキ243に対して中心線方向に移動することで前輪側懸架スプリング210のバネ力が変わり、その結果、前輪14に対するシート19の相対的な位置が変わる。
【0042】
また、前輪側相対位置変更装置240は、ジャッキ室242と油溜室233との間の流体の流通経路上に設けられて、ジャッキ室242に供給された液体をジャッキ室242に溜めるように閉弁するとともに、ジャッキ室242に供給された液体を油溜室233に排出するように開弁する電磁弁(ソレノイドバルブ)である前輪側電磁弁270を有している。前輪側電磁弁270については後で詳述する。
【0043】
図8(a)および図8(b)は、前輪側相対位置変更装置240による車高調整を説明するための図である。
前輪側電磁弁270が全開状態から少しでも閉じた状態のときに、前輪側液体供給装置260によりジャッキ室242内に液体が供給されるとジャッキ室242内に液体が充填され、支持部材241が油圧ジャッキ243に対して中心線方向の一方の端部側(図8(a)では下側)に移動し、前輪側懸架スプリング210のバネ長が短くなる(図8(a)参照)。他方、前輪側電磁弁270が全開になるとジャッキ室242内の液体は油溜室233に排出され、支持部材241が油圧ジャッキ243に対して中心線方向の他方の端部側(図8(b)では上側)に移動し、前輪側懸架スプリング210のバネ長が長くなる(図8(b)参照)。
【0044】
支持部材241が油圧ジャッキ243に対して移動することで前輪側懸架スプリング210のバネ長が短くなると、支持部材241が油圧ジャッキ243に対して移動する前と比べて前輪側懸架スプリング210が支持部材241を押すバネ力が大きくなる。その結果、車体フレーム11から前輪14側へ力が作用したとしても両者の相対位置を変化させない初期荷重が切り替わる。かかる場合、車体フレーム11(シート19)側から中心線方向の一方の端部側(図8(a)および図8(b)では下側)に同じ力が作用した場合には、フロントフォーク13の沈み込み量(ヘッドパイプ側取付部(不図示)と車軸側取付部285との間の距離の変化)が小さくなる。それゆえ、支持部材241が油圧ジャッキ243に対して移動することで前輪側懸架スプリング210のバネ長が短くなると、支持部材241が油圧ジャッキ243に対して移動する前と比べて、シート19の高さが上昇する(車高が高くなる)。つまり、前輪側電磁弁270の開度が小さくなることで車高が高くなる。
【0045】
他方、支持部材241が油圧ジャッキ243に対して移動することで前輪側懸架スプリング210のバネ長が長くなると、支持部材241が油圧ジャッキ243に対して移動する前と比べて前輪側懸架スプリング210が支持部材241を押すバネ力が小さくなる。かかる場合、車体フレーム11(シート19)側から中心線方向の一方の端部側(図8(a)および図8(b)では下側)に同じ力が作用した場合には、フロントフォーク13の沈み込み量(ヘッドパイプ側取付部(不図示)と車軸側取付部285との間の距離の変化)が大きくなる。それゆえ、支持部材241が油圧ジャッキ243に対して移動することで前輪側懸架スプリング210のバネ長が長くなると、支持部材241が油圧ジャッキ243に対して移動する前と比べて、シート19の高さが下降する(車高が低くなる)。つまり、前輪側電磁弁270の開度が大きくなるに応じて車高が低くなる。
なお、前輪側電磁弁270は、制御装置50によりその開度が制御される。
また、前輪側電磁弁270が開いたときに、ジャッキ室242に供給された液体を排出する先は、第1油室231および/または第2油室232であってもよい。
【0046】
図9は、車高が維持されるメカニズムを示す図である。
油圧ジャッキ243の外周面には、図9に示すように、支持部材241が油圧ジャッキ243に対して中心線方向の一方の端部側(図8(a)および図8(b)では下側)に予め定められた限界位置まで移動したときに、ジャッキ室242内の液体を油溜室233内まで戻す戻し路(不図示)が形成されている。
戻し路により、前輪側電磁弁270が閉弁しているときにジャッキ室242内に液体が供給され続けても、供給された液体が油溜室233内に戻されるので油圧ジャッキ243に対する支持部材241の位置、ひいてはシート19の高さ(車高)が維持される。
【0047】
なお、以下では、前輪側電磁弁270が全開となり、支持部材241の油圧ジャッキ243に対する移動量が最小(零)であるときのフロントフォーク13の状態を最小状態、前輪側電磁弁270が全閉となり、支持部材241の油圧ジャッキ243に対する移動量が最大となったときのフロントフォーク13の状態を最大状態と称す。
【0048】
また、フロントフォーク13は、前輪側相対位置検出部295(図11参照)を有している。前輪側相対位置検出部295としては、油圧ジャッキ243に対する支持部材241の中心線方向への移動量、言い換えればヘッドパイプ側取付部に対する支持部材241の中心線方向への移動量を検出する物であることを例示することができる。具体的には、半径方向の位置では内シリンダ222の外周面であって、中心線方向の位置では支持部材241に対応する位置にコイルを巻くとともに、支持部材241を磁性体とし、油圧ジャッキ243に対する支持部材241の中心線方向への移動に応じて変化するコイルのインピーダンスに基づいて支持部材241の移動量を検出する物であることを例示することができる。
【0049】
次に、前輪側相対位置変更装置240の前輪側電磁弁270および後輪側相対位置変更装置140の後輪側電磁弁170の概略構成について説明する。
図10(a)は、前輪側電磁弁270の概略構成を示す図であり、図10(b)は、後輪側電磁弁170の概略構成を示す図である。
前輪側電磁弁270は、いわゆるノーマルオープンタイプの電磁弁であり、図10(a)に示すように、コイル271を巻いたボビン272と、ボビン272の中空部272aに固定された棒状の固定鉄心273と、コイル271とボビン272と固定鉄心273を支持するホルダ274と、固定鉄心273の先端(端面)に対応して配置され、固定鉄心273に吸引される略円板状の可動鉄心275と、を備えている。また、前輪側電磁弁270は、可動鉄心275の先端中央に固定された弁体276と、ホルダ274と組み合わされるボディ277と、ボディ277に形成され、弁体276が配置される弁室278と、ボディ277に形成された開口部を覆うとともにボディ277と協働して弁室278を形成する覆い部材279と、弁体276と覆い部材279との間に配置されたコイルスプリング280と、を備えている。また、前輪側電磁弁270は、ボディ277に形成され、弁体276に対応して弁室278に配置された弁座281と、ボディ277に形成され、ジャッキ室242(図9参照)から弁室278に流体を導入する導入流路282と、ボディ277に形成され、弁室278から弁座281を経由して油溜室233の方へ流体を導出する導出流路283と、を備えている。なお、前輪側電磁弁270は、ノーマルクローズタイプの電磁弁であってもよい。
【0050】
後輪側電磁弁170は、いわゆるノーマルオープンタイプの電磁弁であり、図10(b)に示すように、コイル171を巻いたボビン172と、ボビン172の中空部172aに固定された棒状の固定鉄心173と、コイル171とボビン172と固定鉄心173を支持するホルダ174と、固定鉄心173の先端(端面)に対応して配置され、固定鉄心173に吸引される略円板状の可動鉄心175と、を備えている。また、後輪側電磁弁170は、可動鉄心175の先端中央に固定された弁体176と、ホルダ174と組み合わされるボディ177と、ボディ177に形成され、弁体176が配置される弁室178と、ボディ177に形成された開口部を覆うとともにボディ177と協働して弁室178を形成する覆い部材179と、弁体176と覆い部材179との間に配置されたコイルスプリング180と、を備えている。また、後輪側電磁弁170は、ボディ177に形成され、弁体176に対応して弁室178に配置された弁座181と、ボディ177に形成され、ジャッキ室142(図5参照)から弁室178に流体を導入する導入流路182と、ボディ177に形成され、弁室178から弁座181を経由して液体溜室143aの方へ流体を導出する導出流路183と、を備えている。なお、後輪側電磁弁170は、ノーマルクローズタイプの電磁弁であってもよい。
【0051】
このように構成された前輪側電磁弁270,後輪側電磁弁170は、コイル271,171に通電されない非通電時には、コイルスプリング280,180によって可動鉄心275,175が図中下方へ付勢されるので、可動鉄心275,175の先端(端面)に固定されている弁体276,176が弁座281,181に当接しない。このため、前輪側電磁弁270および後輪側電磁弁170は、導入流路282,182と導出流路283,183との間が連通され、弁開状態となる。一方、前輪側電磁弁270,後輪側電磁弁170は、コイル271,171に通電される通電時には、コイル271,171が通電により励磁されるときの固定鉄心273,173の吸引力とコイルスプリング280,180の付勢力との釣り合いにより可動鉄心275,175が変位する。前輪側電磁弁270および後輪側電磁弁170は、弁座281,181に対する弁体276,176の位置、すなわち弁の開度が調整されるようになっている。この弁の開度は、コイル271,171に供給される電力(電流・電圧)を変えることにより調整される。
【0052】
<第1の実施形態>
次に、制御装置50について説明する。ここでは、まず制御装置50の第1の実施形態について説明を行なう。
図11は、制御装置50のブロック図である。
制御装置50は、CPUと、CPUにて実行されるプログラムや各種データ等が記憶されたROMと、CPUの作業用メモリ等として用いられるRAMと、不揮発性メモリであるEEPROMと、を備えている。制御装置50には、上述した前輪回転検出センサ31、後輪回転検出センサ32、前輪側相対位置検出部295および後輪側相対位置検出部195などからの出力信号が入力される。
【0053】
制御装置50は、前輪回転検出センサ31からの出力信号を基に前輪14の回転速度を演算する前輪回転速度演算部51と、後輪回転検出センサ32からの出力信号を基に後輪21の回転速度を演算する後輪回転速度演算部52と、を備えている。これら前輪回転速度演算部51、後輪回転速度演算部52は、それぞれ、センサからの出力信号であるパルス信号を基に回転角度を把握し、それを経過時間で微分することで回転速度を演算する。
【0054】
制御装置50は、前輪側相対位置検出部295からの出力信号を基に前輪側相対位置変更装置240(図8(a)および図8(b)参照)の支持部材241の油圧ジャッキ243に対する移動量である前輪側移動量Lfを把握する前輪側移動量把握部53を備えている。また、制御装置50は、後輪側相対位置検出部195からの出力信号を基に後輪側相対位置変更装置140の支持部材141の油圧ジャッキ143に対する移動量である後輪側移動量Lrを把握する後輪側移動量把握部54を備えている。前輪側移動量把握部53および後輪側移動量把握部54は、例えば、予めROMに記憶された、コイルのインピーダンスと、前輪側移動量Lfまたは後輪側移動量Lrとの相関関係に基づいて、それぞれ前輪側移動量Lf、後輪側移動量Lrを把握することができる。
【0055】
また、制御装置50は、前輪回転速度演算部51が演算した前輪14の回転速度および/または後輪回転速度演算部52が演算した後輪21の回転速度を基に自動二輪車1の移動速度である車速Vcを把握する車速把握部56を備えている。車速把握部56は、前輪回転速度Rfまたは後輪回転速度Rrを用いて前輪14または後輪21の移動速度を演算することにより車速Vcを把握する。前輪14の移動速度は、前輪回転速度Rfと前輪14のタイヤの外径とを用いて演算することができ、後輪21の移動速度は、後輪回転速度Rrと後輪21のタイヤの外径とを用いて演算することができる。そして、自動二輪車1が通常の状態で走行している場合には、車速Vcは、前輪14の移動速度および/または後輪21の移動速度と等しいと解することができる。また、車速把握部56は、前輪回転速度Rfと後輪回転速度Rrとの平均値を用いて前輪14と後輪21の平均の移動速度を演算することにより車速Vcを把握してもよい。
【0056】
また、制御装置50は、車速把握部56が把握した車速Vcに基づいて、前輪側相対位置変更装置240の前輪側電磁弁270の開度および後輪側相対位置変更装置140の後輪側電磁弁170の開度を制御する電磁弁制御部57を有している。この電磁弁制御部57については、後で詳述する。
【0057】
次に、制御装置50の電磁弁制御部57について詳しく説明する。
図12は、本実施の形態に係る電磁弁制御部57のブロック図である。
電磁弁制御部57は、自動二輪車1の走行シーンを判定するための走行情報に基づき、自動二輪車1の走行シーンを判定する走行シーン判定部560を有している。また電磁弁制御部57は、前輪側移動量Lfの目標移動量である前輪側目標移動量を決定する前輪側目標移動量決定部571と、後輪側移動量Lrの目標移動量である後輪側目標移動量を決定する後輪側目標移動量決定部572と、を有する目標移動量決定部570を有している。さらに、電磁弁制御部57は、前輪側相対位置変更装置240の前輪側電磁弁270および後輪側相対位置変更装置140の後輪側電磁弁170に供給する目標電流を決定する目標電流決定部510と、目標電流決定部510が決定した目標電流に基づいてフィードバック制御などを行う制御部520とを有している。
【0058】
走行シーン判定部560は、車速把握部56(図11参照)が把握した車速Vcおよび傾斜角センサ33により検出された自動二輪車1の左右方向の傾斜角Bcに基づいて自動二輪車1の走行シーンを判定する。即ち、走行情報として、車速Vcと傾斜角Bcを使用する。なおここで走行シーンとは、例えば、自動二輪車1の走行時の場所や、自動二輪車1の走行時の状態などを意味している。
【0059】
図13は、走行シーン判定部560が車速Vcおよび傾斜角Bcに基づいて自動二輪車1の走行シーンを判定する手順について説明したフローチャートである。
ここでは、走行シーン判定部560は、自動二輪車1の走行シーンとして、「市街地」、「ワインディング」、「高速道路」の3通りについて判定する場合を示している。
まず走行シーン判定部560は、車速Vcを参照し、車速Vcが「低速」であるか否かを判定する(ステップ101)。そして低速であった場合(ステップ101でYes)、走行シーン判定部560は、自動二輪車1の走行シーンが「市街地」であると判定する(ステップ102)
【0060】
一方、低速でなかった場合(ステップ102でNo)、走行シーン判定部560は、傾斜角Bcを参照し、傾斜角Bcが、予め定められた範囲を超える場合があるかを判定する(ステップ103)。そして傾斜角Bcが予め定められた範囲を超える場合があるとき(ステップ103でYes)、走行シーン判定部560は、自動二輪車1の走行シーンが「ワインディング」であると判定する(ステップ104)。
【0061】
対して、傾斜角Bcが予め定められた範囲を超える場合がないとき(ステップ103でNo)、走行シーン判定部560は、車速Vcを参照し、車速Vcが「高速」であるか否かを判定する(ステップ105)。そして車速Vcが「高速」でなかったとき、つまりこの場合は、「低速」と「高速」の間の「中速」であったとき(ステップ105でNo)、走行シーン判定部560は、自動二輪車1の走行シーンが「ワインディング」であると判定する(ステップ104)。
【0062】
一方、車速Vcが「高速」でだったとき(ステップ105でYes)、走行シーン判定部560は、車速Vcを参照し、車速Vcの変化が小さいか否かを判定する(ステップ106)。車速Vcの変化が小さいか否かは、車速Vcの変化が予め定められた範囲内に入っているか否かで判定することができる。そして車速Vcの変化が小さいとき(ステップ106でYes)、走行シーン判定部560は、自動二輪車1の走行シーンが「高速道路」であると判定する(ステップ107)。
【0063】
対して、車速Vcの変化が小さくなかったとき(ステップ106でNo)、走行シーン判定部560は、自動二輪車1の走行シーンが「ワインディング」であると判定する(ステップ104)。
【0064】
なお上記の説明で、車速Vcが、「低速」、「中速」、「高速」であるか否かは、「低速」、「中速」、「高速」の速度域を予め定めておき、車速Vcが、どの速度域に入っているか否かで判定を行なう。なおこの判定は、所定時間内の車速Vcの平均速度を基に行なってもよく、所定時間内に何れの速度域に車速Vcが最も多く入っているかで行なってもよい。
【0065】
図13で説明した例では、ステップ101において、走行シーン判定部560は、車速Vcが、「低速」であるか否かで、自動二輪車1の走行シーンが、「市街地」であるか、その他の場合であるかを判定する。つまり自動二輪車1の走行シーンが、「ワインディング」または「高速道路」である場合は、車速Vcの速度域は、通常「中速」または「高速」となるため、自動二輪車1の走行シーンが、「市街地」であるか、その他の場合であるかを判定することができる。
【0066】
またステップ103において、走行シーン判定部560は、傾斜角Bcが、予め定められた範囲を超える場合があるか否かで、自動二輪車1の走行シーンが、「ワインディング」であるか、「高速道路」であるかを判定する。つまり「ワインディング」の場合、曲線が多く存在し、曲線を「中速」または「高速」で走行する場合は、傾斜角Bcを大きくして走行する必要がある。そのため傾斜角Bcが、予め定められた範囲を超える場合がある場合、自動二輪車1の走行シーンが、「ワインディング」であると判定できる。なおこの判定は、傾斜角Bcの所定時間内の平均値を基に行なってもよく、所定時間内に傾斜角Bcが予め定められた範囲を超える回数を基に行なってもよい。
【0067】
さらにステップ105およびステップ106において、走行シーン判定部560は、車速Vcが、「高速」であり、かつ車速Vcの変化が小さい場合は、自動二輪車1の走行シーンが、「高速道路」であると判定し、その他の場合は、「ワインディング」であると判定する。つまり走行シーンが「高速道路」であるときは、車速Vcの速度域は、通常「高速」であり、ほぼ一定の車速Vcを保持するのが一般的である。よってこの2つの条件を満たす場合は、走行シーン判定部560は、自動二輪車1の走行シーンが、「高速道路」であると判定する。対して自動二輪車1の走行シーンが、「ワインディング」である場合、車速Vcの速度域は、曲線を走行する関係上、通常「中速」である場合が多く、また曲線を走行する場合は車速Vcを落とし、直線を走行する場合は、車速Vcを上げるのが一般的である。そのため車速Vcの変化は大きくなる。よってこの何れかを満たす場合、走行シーン判定部560は、自動二輪車1の走行シーンが、「ワインディング」であると判定する。
【0068】
目標移動量決定部570は、走行シーン判定部560が判定した自動二輪車1の走行シーンに基づいて目標移動量を決定する。
【0069】
図14は、走行シーン判定部560が判定した自動二輪車1の走行シーンと、前輪側の車高および後輪側の車高との関係について示した表である。
【0070】
ここでは、前輪側の車高および後輪側の車高は、「高」(高い位置)、「中」(標準の位置)、「低」(低い位置)の3段階で設定するものとする。またこのとき対応する目標移動量は、「大」(目標移動量が大きい)、「中」(目標移動量が中程度)、「小」(目標移動量が小さいまたは零)の3段階で設定できる。具体的には、前輪側の車高および後輪側の車高が、「高」のときは、目標移動量は、「大」となる。同様に、前輪側の車高および後輪側の車高が、「中」のときは、目標移動量は、「中」となり、前輪側の車高および後輪側の車高が、「低」のときは、目標移動量は、「小」となる。
【0071】
つまり前輪側の車高が、「高」の位置では、前輪側電磁弁270が閉じ、図8(a)で説明したように、前輪側液体供給装置260によりジャッキ室242内に液体が供給され、支持部材241が油圧ジャッキ243に対して中心線方向の一方の端部側に移動し、前輪側懸架スプリング210のバネ長が短くなる状態となる。また後輪側の車高が、「高」の位置では、後輪側電磁弁170が閉じ、図4(a)で説明したように、後輪側液体供給装置160によりジャッキ室142内に液体が供給され、支持部材141が油圧ジャッキ143に対して中心線方向の一方の端部側に移動し、後輪側懸架スプリング110のバネ長が短くなる状態となる。その結果、ユーザがシート19に乗った場合でもフロントフォーク13やリヤサスペンション22の沈み込み量が小さくなり、車高が高くなる。これは目標移動量が、「大」のときの動作となる。
【0072】
一方、前輪側の車高が、「低」の位置では、図8(b)で説明したように、前輪側電磁弁270が全開になり、ジャッキ室242内の液体は油溜室233に排出され、支持部材241が油圧ジャッキ243に対して中心線方向の他方の端部側に移動し、前輪側懸架スプリング210のバネ長が長くなる状態となる。また後輪側の車高が、「低」の位置では、図4(b)で説明したように、後輪側電磁弁170が全開になり、ジャッキ室142内の液体は液体溜室143aに排出され、支持部材141が油圧ジャッキ143に対して中心線方向の他方の端部側に移動し、後輪側懸架スプリング110のバネ長が長くなる状態となる。その結果、ユーザがシート19に乗った場合、フロントフォーク13やリヤサスペンション22の沈み込み量が大きくなり、車高が低くなる。これは目標移動量が、「小」のときの動作となる。
【0073】
さらに前輪側の車高が、「中」の位置では、前輪側電磁弁270の開度を調整することで、前輪側の車高を、「低」と「高」の間の「中」の状態とすることができる。同様に後輪側の車高が、「中」の位置では、後輪側電磁弁170の開度を調整することで、後輪側の車高を、「低」と「高」の間の「中」の状態とすることができる。これは目標移動量が、「中」のときの動作となる。
【0074】
図示するように走行シーンが、「市街地」である場合は、前輪側の車高および後輪側の車高を共に「中」とする。または前輪側の車高および後輪側の車高を共に「低」としてもよい。このようにすることで、前輪側懸架スプリング210や後輪側懸架スプリング110のバネ長が比較的長くなるため、前輪側懸架スプリング210や後輪側懸架スプリング110が動作しやすくなり、ユーザに対して、軽快な乗り心地を与えることができる。
【0075】
また走行シーンが、「ワインディング」である場合は、前輪側の車高を「中」とし、後輪側の車高を「高」とする。このようにすることで、自動二輪車1の重心が上がり、自動二輪車1の挙動がクイックになる。またフロントフォーク13のキャスター角が小さくなり、自動二輪車1の旋回性が向上する。
【0076】
さらに走行シーンが、「高速道路」である場合は、前輪側の車高を「高」とし、後輪側の車高を「中」とする。このようにすることで、フロントフォーク13のキャスター角が大きくなり、自動二輪車1の直進安定性が向上する。
【0077】
なお自動二輪車1の停車中は乗り降りを楽にするために車高を低くする(前輪側の車高および後輪側の車高を共に「低」とする)ようにし、図14で説明した車高の調整は、自動二輪車1の走行開始後に行なうことが好ましい。
【0078】
図15(a)は、車速Vcと前輪側目標移動量との相関関係を示す図である。図15(b)は、車速Vcと後輪側目標移動量との相関関係を示す図である。
目標移動量決定部570は、自動二輪車1が走行開始後、車速把握部56が把握した車速Vcが予め定められた上昇車速Vuよりも小さいときには目標移動量を零に決定し、車速Vcが上昇車速Vuより小さい状態から上昇車速Vu以上となった場合には、目標移動量を、自動二輪車1の走行シーンに応じて予め定められた値に決定する。より具体的には、前輪側目標移動量決定部571は、図15(a)に示すように、車速Vcが上昇車速Vuより小さい状態から上昇車速Vu以上となった場合には、前輪側目標移動量を、自動二輪車1の走行シーンに応じて予め定められた所定前輪側目標移動量Lf0に決定する。他方、後輪側目標移動量決定部572は、図15(b)に示すように、車速Vcが上昇車速Vuより小さい状態から上昇車速Vu以上となった場合には、後輪側目標移動量を、自動二輪車1の走行シーンに応じて予め定められた所定後輪側目標移動量Lr0に決定する。以降、車速把握部56が把握した車速Vcが上昇車速Vu以上である間は、前輪側目標移動量決定部571,後輪側目標移動量決定部572は、前輪側目標移動量,後輪側目標移動量を、所定前輪側目標移動量Lf0,所定後輪側目標移動量Lr0に決定する。自動二輪車1の走行シーンと、これに応じた所定前輪側目標移動量Lf0,所定後輪側目標移動量Lr0との関係は、予めROMに記憶しておく。前輪側移動量Lfと後輪側移動量Lrとに応じて自動二輪車1の車高が定まることから、自動二輪車1の走行シーンに応じて自動二輪車1の車高の目標値である目標車高を定め、この目標車高に応じた所定前輪側目標移動量Lf0,所定後輪側目標移動量Lr0を予め定め、ROMに記憶しておくことを例示することができる。
【0079】
他方、目標移動量決定部570は、自動二輪車1が上昇車速Vu以上で走行している状態から予め定められた下降車速Vd以下となった場合には目標移動量を零に決定する。つまり、前輪側目標移動量決定部571,後輪側目標移動量決定部572は、前輪側目標移動量,後輪側目標移動量を零に決定する。なお、上昇車速Vuは10km/h、下降車速Vdは8km/hであることを例示することができる。
また、目標移動量決定部570は、車速把握部56が把握した車速Vcが下降車速Vdよりも大きい場合であっても、急ブレーキなどで自動二輪車1が急減速した場合には、目標移動量を零に決定する。つまり、前輪側目標移動量決定部571,後輪側目標移動量決定部572は、前輪側目標移動量,後輪側目標移動量を零に決定する。自動二輪車1が急減速したかどうかは、車速把握部56が把握した車速Vcの単位時間当たりの減少量が予め定められた値以下であるか否かで把握することができる。
【0080】
目標電流決定部510は、前輪側目標移動量決定部571が決定した前輪側目標移動量に基づいて前輪側電磁弁270の目標電流である前輪側目標電流を決定する前輪側目標電流決定部511と、後輪側目標移動量決定部572が決定した後輪側目標移動量に基づいて後輪側電磁弁170の目標電流である後輪側目標電流を決定する後輪側目標電流決定部512と、を有している。
前輪側目標電流決定部511は、例えば、予め経験則に基づいて作成しROMに記憶しておいた、前輪側目標移動量と前輪側目標電流との対応を示すマップに、前輪側目標移動量決定部571が決定した前輪側目標移動量を代入することにより前輪側目標電流を決定する。
後輪側目標電流決定部512は、例えば、予め経験則に基づいて作成しROMに記憶しておいた、後輪側目標移動量と後輪側目標電流との対応を示すマップに、後輪側目標移動量決定部572が決定した後輪側目標移動量を代入することにより後輪側目標電流を決定する。
【0081】
なお、前輪側目標電流決定部511,後輪側目標電流決定部512は、前輪側目標移動量,後輪側目標移動量が零の場合には、前輪側目標電流,後輪側目標電流を零に決定する。また、前輪側目標電流決定部511,後輪側目標電流決定部512は、前輪側目標移動量,後輪側目標移動量が零であり、前輪側目標電流,後輪側目標電流を零に決定している状態から、前輪側目標移動量決定部571,後輪側目標移動量決定部572が決定した前輪側目標移動量,後輪側目標移動量が零以外の値に変わった場合には、言い換えれば、車高を高めていない状態から高め始める場合には、一定時間、前輪側目標電流,後輪側目標電流を予め定められた最大電流に決定する。そして、前輪側目標電流決定部511,後輪側目標電流決定部512は、一定時間経過後に、前輪側目標移動量決定部571,後輪側目標移動量決定部572が決定した前輪側目標移動量,後輪側目標移動量に応じた、前輪側目標電流,後輪側目標電流に決定する。
【0082】
また、前輪側目標電流決定部511は、前輪側目標移動量決定部571が決定した前輪側目標移動量に基づいて前輪側目標電流を決定する際、一定期間経過後は、前輪側目標移動量決定部571が決定した前輪側目標移動量と、前輪側移動量把握部53が把握した実際の前輪側移動量Lfとの偏差に基づいてフィードバック制御を行い、前輪側目標電流を決定してもよい。同様に、後輪側目標電流決定部512は、後輪側目標移動量決定部572が決定した後輪側目標移動量に基づいて後輪側目標電流を決定する際、一定期間経過後は、後輪側目標移動量決定部572が決定した後輪側目標移動量と、後輪側移動量把握部54が把握した実際の後輪側移動量Lrとの偏差に基づいてフィードバック制御を行い、後輪側目標電流を決定してもよい。
【0083】
制御部520は、前輪側電磁弁270の作動を制御する前輪側作動制御部530と、前輪側電磁弁270を駆動させる前輪側電磁弁駆動部533と、前輪側電磁弁270に実際に流れる実電流を検出する前輪側検出部534とを有している。また、制御部520は、後輪側電磁弁170の作動を制御する後輪側作動制御部540と、後輪側電磁弁170を駆動させる後輪側電磁弁駆動部543と、後輪側電磁弁170に実際に流れる実電流を検出する後輪側検出部544とを有している。
【0084】
前輪側作動制御部530は、前輪側目標電流決定部511が決定した前輪側目標電流と、前輪側検出部534が検出した実際の電流(前輪側実電流)との偏差に基づいてフィードバック制御を行う前輪側フィードバック(F/B)制御部531と、前輪側電磁弁270をPWM制御する前輪側PWM制御部532とを有している。
後輪側作動制御部540は、後輪側目標電流決定部512が決定した後輪側目標電流と、後輪側検出部544が検出した実際の電流(後輪側実電流)との偏差に基づいてフィードバック制御を行う後輪側フィードバック(F/B)制御部541と、後輪側電磁弁170をPWM制御する後輪側PWM制御部542とを有している。
【0085】
前輪側フィードバック制御部531は、前輪側目標電流と、前輪側検出部534が検出した前輪側実電流との偏差を求め、その偏差がゼロとなるようにフィードバック処理を行う。後輪側フィードバック制御部541は、後輪側目標電流と、後輪側検出部544が検出した後輪側実電流との偏差を求め、その偏差がゼロとなるようにフィードバック処理を行う。前輪側フィードバック制御部531,後輪側フィードバック制御部541は、例えば、前輪側目標電流と前輪側実電流との偏差,後輪側目標電流と後輪側実電流との偏差に対して、比例要素で比例処理し、積分要素で積分処理し、加算演算部でこれらの値を加算するものであることを例示することができる。あるいは、前輪側フィードバック制御部531,後輪側フィードバック制御部541は、例えば、目標電流と実電流との偏差に対して、比例要素で比例処理し、積分要素で積分処理し、微分要素で微分処理し、加算演算部でこれらの値を加算するものであることを例示することができる。
【0086】
前輪側PWM制御部532は、一定周期(T)のパルス幅(t)のデューティ比(=t/T×100(%))を変え、前輪側電磁弁270の開度(前輪側電磁弁270のコイルに印加される電圧)をPWM制御する。PWM制御が行われると、前輪側電磁弁270のコイルに印加される電圧が、デューティ比に応じたパルス状に印加される。このとき、前輪側電磁弁270のコイル271に流れる電流は、コイル271のインピーダンスにより、パルス状に印加される電圧に追従して変化することができずになまって出力され、前輪側電磁弁270のコイルを流れる電流は、デューティ比に比例して増減される。そして、前輪側PWM制御部532は、例えば、前輪側目標電流が零である場合にはデューティ比を零に設定し、前輪側目標電流が上述した最大電流である場合にはデューティ比を100%に設定することを例示することができる。
【0087】
同様に、後輪側PWM制御部542は、デューティ比を変え、後輪側電磁弁170の開度(後輪側電磁弁170のコイルに印加される電圧)をPWM制御する。PWM制御が行われると、後輪側電磁弁170のコイル171に印加される電圧がデューティ比に応じたパルス状に印加され、後輪側電磁弁170のコイル171を流れる電流がデューティ比に比例して増減する。そして、後輪側PWM制御部542は、例えば、後輪側目標電流が零である場合にはデューティ比を零に設定し、後輪側目標電流が上述した最大電流である場合にはデューティ比を100%に設定することを例示することができる。
【0088】
前輪側電磁弁駆動部533は、例えば、電源の正極側ラインと前輪側電磁弁270のコイルとの間に接続された、スイッチング素子としてのトランジスタ(FET)を備えている。そして、このトランジスタのゲートを駆動してこのトランジスタをスイッチング動作させることにより、前輪側電磁弁270の駆動を制御する。後輪側電磁弁駆動部543は、例えば、電源の正極側ラインと後輪側電磁弁170のコイルとの間に接続されたトランジスタを備えている。そして、このトランジスタのゲートを駆動してこのトランジスタをスイッチング動作させることにより、後輪側電磁弁170の駆動を制御する。
前輪側検出部534は、前輪側電磁弁駆動部533に接続されたシャント抵抗の両端に生じる電圧から前輪側電磁弁270に流れる実電流の値を検出する。後輪側検出部544は、後輪側電磁弁駆動部543に接続されたシャント抵抗の両端に生じる電圧から後輪側電磁弁170に流れる実電流の値を検出する。
【0089】
このように制御部520は、自動二輪車1の車体フレーム11と車輪(前輪14、後輪21)との相対的な位置を変更するフロントフォーク13およびリヤサスペンション22を制御し、車体フレーム11の高さである車高を、判定した走行シーンに応じて調整する。
【0090】
<第2の実施形態>
第1の実施形態では、走行シーン判定部560が、車速Vcおよび傾斜角Bcに基づいて、いわば自動的に自動二輪車1の走行シーンを判定し、これに基づき目標移動量決定部570が目標移動量を決定したが、これに限られるものではない。つまりユーザが、自動二輪車1の走行シーンを設定し、これに基づき目標移動量決定部570が目標移動量を決定してもよい。以下、第2の実施形態としてこの事項について説明を行なう。
【0091】
図16は、ユーザが、自動二輪車1の走行シーンを設定する入力装置34の外観図である。
入力装置34は、例えば、図16に示すように、ダイヤル式のスイッチであり、ユーザがつまみを回転させることにより、「自動」、「市街地」、「ワインディング」、「高速道路」の4通りの何れかを選択できるように構成されている。入力装置34は、例えばスピードメータの近傍に設けられている。
【0092】
ユーザが、この4通りの何れを選択したかの選択情報は、走行シーン判定部560に送られ、走行シーン判定部560は、この選択情報に従い、自動二輪車1の走行シーンを判定する。
ユーザが、「自動」を選択した場合は、第1の実施形態と同様に、走行シーン判定部560が、車速Vcおよび傾斜角Bcに基づいて、自動二輪車1の走行シーンを判定する処理を行なう。一方、ユーザが、「市街地」、「ワインディング」、「高速道路」の何れかを選択した場合、走行シーン判定部560は、選択された「市街地」、「ワインディング」、「高速道路」の何れかを、自動二輪車1の走行シーンであると判定する。
【0093】
なお電磁弁制御部57において、目標移動量決定部570、目標電流決定部510、制御部520の動作については、第1の実施形態と同様となる。
【0094】
上述した第1の実施形態および第2の実施形態によれば、走行シーン判定部560が行なう走行シーンについての判定は、予め定められた期間毎に繰り返し実行される。ただしこの期間が短すぎる場合、自動二輪車1の車高が頻繁に変更されやすくなり、ユーザが違和感や不安を感じることがある。そのためこの期間としては、ある程度長い期間を設定することが好ましい。より具体的には、走行シーン判定部560は、例えば、10分毎に走行シーンについての判定を行なう。
【0095】
以上のように構成された自動二輪車1においては、自動二輪車1の走行シーンに合せて、前輪14側および後輪21側のそれぞれの車高を調整することが可能である。そのため自動二輪車1の操作性が向上すると共に、走行シーンに応じた乗り心地、快適性とすることができる。
【0096】
以上説明したように、制御装置50は、自動二輪車1の走行シーンを判定し、判定した走行シーンに応じて、自動二輪車1の車体フレーム11と車輪(前輪14、後輪21)との相対的な位置を変更するフロントフォーク13およびリヤサスペンション22を制御することで車高を調整する。この制御は、判定した走行シーンに応じ、フロントフォーク13とリヤサスペンション22をそれぞれ制御することで行なわれる。
【0097】
またこの制御は、ソフトウェアとハードウェア資源とが協働することにより実現することができる。この場合、制御装置50に設けられた制御用コンピュータ内部のCPUが、ROMやEEPROMに記憶された制御装置50の各機能を実現するプログラムをRAMにロードして実行することで、これらの各機能を実現させる。
【0098】
よって制御装置50が行なう処理は、車高調整装置に用いられるコンピュータに、自動二輪車1の走行シーンを判定するための走行情報に基づき、走行シーンを判定する機能と、判定した走行シーンに応じて自動二輪車1の車体フレーム11と車輪(前輪14、後輪21)との相対的な位置を変更するフロントフォーク13およびリヤサスペンション22を制御する機能と、を実現させるプログラムとして捉えることもできる。
【0099】
なお、本実施の形態を実現するプログラムは、通信手段により提供することはもちろん、CD−ROM等の記録媒体に格納して提供することも可能である。
【0100】
なお上述した例では、自動二輪車1の走行シーンとして、「市街地」、「ワインディング」、「高速道路」の3通りの場合を説明したが、これに限られるものではない。例えば、他の走行シーンとして、「サーキット」、「コンフォートモード」等を挙げることができる。
自動二輪車1の走行シーンが、「サーキット」の場合は、前輪側の車高および後輪側の車高を共に「中」とする。即ち、サーキットは、安定した路面を有し、前輪側の車高および後輪側の車高は共に標準的であることが好ましい。
また「コンフォートモード」の場合は、前輪側の車高および後輪側の車高を共に「低」とする。これにより前輪側懸架スプリング210や後輪側懸架スプリング110のバネ長がより長くなるため、前輪側懸架スプリング210や後輪側懸架スプリング110がさらに動作しやすくなり、ユーザに対して、より快適な乗り心地を与えることができる。
【0101】
また上述した例では、走行情報として自動二輪車1の移動速度である車速Vcおよび車体フレーム11の左右方向の傾斜角Bcを使用し、これに基づき走行シーンを判定していた。そして自動二輪車1の走行シーンを判定するためのセンサとして、前輪回転検出センサ31、後輪回転検出センサ32、および傾斜角センサ33を使用していた。しかしこれに限られるものではなく、例えば、フロントフォーク13やリヤサスペンション22のストローク量を検出するセンサ、アクセルの開度を検出するセンサ、ブレーキ27のブレーキ圧を検出するセンサ、自動二輪車1の加速度を検出するセンサ、自動二輪車1のヨーレートを検出するセンサなども使用することができる。
例えば、フロントフォーク13やリヤサスペンション22のストローク量の変化量が大きければ、自動二輪車1の走行シーンが、「ワインディング」であり、小さければ、「市街地」または「高速道路」と考えられる。またアクセルの開度、ブレーキ27のブレーキ圧、自動二輪車1の加速度、自動二輪車1のヨーレートが頻繁に変化すれば、「市街地」または「ワインディング」であり、あまり変化しなければ、「高速道路」と考えられる。
【0102】
さらに上述した例では、車両として自動二輪車1を例示して説明を行なったが、これに限られるものではなく、四輪車、三輪車など他の車両の場合にも適用可能である。
【符号の説明】
【0103】
1…自動二輪車、11…車体フレーム、13…フロントフォーク、14…前輪、21…後輪、22…リヤサスペンション、33…傾斜角センサ、50…制御装置、57…電磁弁制御部、140…後輪側相対位置変更装置、160…後輪側液体供給装置、170…後輪側電磁弁、240…前輪側相対位置変更装置、260…前輪側液体供給装置、270…前輪側電磁弁、520…制御部、560…走行シーン判定部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16