【解決手段】成形装置104に熔融ガラスを流してガラス板を製造するガラス板の製造方法であって、ガラス原料を熔解して熔融ガラスを生成する熔解工程と、熔融ガラスを、供給管105cを通して成形装置104に供給する供給工程と、成形装置104に熔融ガラスを流しつつダウンドロー法により熔融ガラスからガラス板を成形する成形工程と、を備え、供給工程において、供給管105cを熔融ガラスの流れ方向に複数の区部に区分けし、区分ごとに供給管105cの底面を供給管の上面より加熱しながら、熔融ガラスの温度が流れ方向に向かって下がるように熔融ガラスを加熱する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1に開示された技術を用いても、成形装置に流す熔融ガラスの温度が変化すると、脈理の原因となる異質な熔融ガラスが発生し、脈理を抑制できない場合があった。
【0005】
そこで、本発明は、従来の問題点を解決するために、成形装置に流す熔融ガラスの温度を制御することにより、脈理がなく、均一な板厚のガラス板を製造することができるガラス板の製造方法及びガラス板の製造装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様は、成形装置に熔融ガラスを流してガラス板を製造するガラス板の製造方法であって、
ガラス原料を熔解して熔融ガラスを生成する熔解工程と、
前記熔融ガラスを、供給管を通して前記成形装置に供給する供給工程と、
前記成形装置に前記熔融ガラスを流しつつダウンドロー法により前記熔融ガラスからガラス板を成形する成形工程と、を備え、
前記供給工程において、前記供給管を前記熔融ガラスの流れ方向に複数の区部に区分けし、前記区分ごとに前記供給管の底面を前記供給管の上面より加熱しながら、前記熔融ガラスの温度が流れ方向に向かって下がるように前記熔融ガラスを加熱する、
ことを特徴とする。
【0007】
前記供給工程において、前記複数に区分けされた区分における上流から下流への温度勾配を、前記熔融ガラスの流れ方向に向かって小さくする、ことが好ましい。
【0008】
前記供給管の上面にある熔融ガラスの温度は、SiO
2が析出する温度以上であり、
前記供給管の底面にある熔融ガラスの温度は、ZrO
2が析出する温度以上である、ことが好ましい。
【0009】
前記供給管の周りを保温構造体で囲み、前記供給管の上面より下方に位置する面を前記供給管の上面より保温する、ことが好ましい。
【0010】
本発明の他の態様は、成形装置に熔融ガラスを流してガラス板を製造するガラス板の製造装置であって、
ガラス原料を熔解して熔融ガラスを生成する熔解装置と、
前記熔融ガラスを、前記熔解装置から前記成形装置に供給する供給管と、
前記成形装置に前記熔融ガラスを流しつつダウンドロー法により前記熔融ガラスからガラス板を成形する成形装置と、
前記供給管を前記熔融ガラスの流れ方向に複数の区部に区分けし、前記区分ごとに前記供給管の底面を前記供給管の上面より加熱しながら、前記熔融ガラスの温度が流れ方向に向かって下がるように前記熔融ガラスを加熱する加熱装置と、を備える、
ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、成形装置に流す熔融ガラスの温度を制御することにより、脈理がなく、均一な板厚のガラス板を製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本実施形態のガラス板の製造方法、及び、ガラス板の製造装置について説明する。
図1は、本実施形態のガラス板の製造方法の工程の一例を示す図である。
【0014】
(ガラス板の製造方法の全体概要)
ガラス板の製造方法は、熔解工程(ST1)と、清澄工程(ST2)と、均質化工程(ST3)と、供給工程(ST4)と、成形工程(ST5)と、徐冷工程(ST6)と、切断工程(ST7)と、を主に有する。この他に、研削工程、研磨工程、洗浄工程、検査工程、梱包工程等を有し、梱包工程で積層された複数のガラス板は、納入先の業者に搬送される。
【0015】
熔解工程(ST1)は熔解槽で行われる。熔解槽では、ガラス原料を、熔解槽に蓄えられた熔融ガラスの液面に投入し、加熱することにより熔融ガラスを作る。さらに、熔解槽の内側側壁の1つの底部に設けられた流出口から下流工程に向けて熔融ガラスを流す。
熔解槽の熔融ガラスの加熱は、熔融ガラス自身に電気が流れて自ら発熱し加熱する方法に加えて、バーナーによる火焔を補助的に与えてガラス原料を熔解することもできる。なお、ガラス原料には清澄剤が添加される。清澄剤として、SnO
2、As
2O
3、Sb
2O
3等が知られているが、特に制限されない。しかし、環境負荷低減の点から、清澄剤としてSnO
2(酸化錫)を用いることができる。
【0016】
清澄工程(ST2)は、少なくとも清澄槽において行われる。清澄工程では、清澄槽内の熔融ガラスが昇温されることにより、熔融ガラス中に含まれるO
2、CO
2あるいはSO
2を含んだ泡が、清澄剤の還元反応により生じたO
2を吸収して成長し、熔融ガラスの液面に泡は浮上して放出される。さらに、清澄工程では、熔融ガラスの温度を低下させることにより、清澄剤の還元反応により得られた還元物質が酸化反応をする。これにより、熔融ガラスに残存する泡中のO
2等のガス成分が熔融ガラス中に再吸収されて、泡が消滅する。清澄剤による酸化反応及び還元反応は、熔融ガラスの温度を制御することにより行われる。なお、清澄工程は、減圧雰囲気の空間を清澄槽につくり、熔融ガラスに存在する泡を減圧雰囲気で成長させて脱泡させる減圧脱泡方式を用いることもできる。なお、清澄工程では、酸化錫を清澄剤として用いた清澄方法を用いる。
【0017】
均質化工程(ST3)では、清澄槽から延びる配管を通って供給された攪拌槽内の熔融ガラスを、スターラを用いて攪拌することにより、ガラス成分の均質化を行う。これにより、脈理等の原因であるガラスの組成ムラを低減することができる。
供給工程(ST4)では、攪拌槽から延びる配管を通して熔融ガラスが成形装置に供給される。
【0018】
成形装置では、成形工程(ST5)及び徐冷工程(ST6)が行われる。成形工程(ST5)では、熔融ガラスをシートガラス(ガラス板)に成形し、シートガラスの流れを作る。成形は、オーバーフローダウンドロー法が用いられる。
徐冷工程(ST6)では、成形されて流れるシートガラスが所望の厚さになり、内部歪が生じないように、さらに、反りが生じないように冷却される。
切断工程(ST7)では、切断装置において、成形装置から供給されたシートガラスを所定の長さに切断することで、板状のガラス板を得る。切断されたガラス板はさらに、所定のサイズに切断され、目標サイズのガラス板が作られる。この後、ガラス板の端面の研削、研磨が行われ、ガラス板の洗浄が行われ、さらに、気泡や脈理等の異常欠陥の有無が検査された後、検査合格品のガラス板が最終製品として梱包される。
【0019】
図2は、本実施形態における熔解工程(ST1)〜切断工程(ST7)を行うガラス板の製造装置の一例を模式的に示す図である。当該装置100は、
図2に示すように、主に熔解槽101と、清澄槽102と、攪拌槽103と、成形装置104と、ガラス供給管105a、105b、105cと、を有する。
【0020】
ガラス板の原料は、まず熔解工程(ステップST1)において、熔解される。原料は、バケット、スクリューフィーダー等を用いて熔解槽101に投入され、熔解されて、熔融ガラスを形成する。熔融ガラスは、第1ガラス供給管105aを通して次の清澄工程(ステップST2)が行われる清澄槽102へ送り込まれる。
【0021】
次の清澄工程(ステップST2)では、熔融ガラスが清澄される。具体的には、清澄槽102において熔融ガラスが所定の温度まで加熱されると熔融ガラス中に含まれるガス成分は、気泡を形成し、あるいは、気化して熔融ガラスの外へ抜け出る。清澄された熔融ガラスは、第2ガラス供給管105bを通して次の工程である均質化工程(ステップST3)が行われる攪拌槽103へ送り込まれる。
【0022】
次の均質化工程(ステップST3)では、熔融ガラスが均質化される。具体的には、熔融ガラスは、攪拌槽103において、攪拌槽103が備える攪拌翼(図示せず)により撹拌されることにより均質化される。攪拌槽103に送り込まれる熔融ガラスは、所定の温度範囲になるように加熱される。均質化された熔融ガラスは、攪拌槽103から第3ガラス供給管105cへ送り込まれる。
【0023】
次の供給工程(ステップST4)では、熔融ガラスは、第3ガラス供給管105cにおいて成形するのに適した温度になるように冷却され、次の成形工程(ステップST5)が行われる成形装置104へ送り込まれる。供給工程(ステップST4)では、上流から下流に向かって、熔融ガラスを徐々に冷却するが、後述する電気加熱装置を用いて加熱も行っているため、熔融ガラスを成形するのに適した温度になるように加熱するとも記載する。
【0024】
次の成形工程(ステップST5)、徐冷工程(ステップST6)では、熔融ガラスが板状のガラスに成形され、徐冷される。本実施形態では、熔融ガラスは、オーバーフローダウンドロー法により連続的にリボン状に成形される。次の切断工程(ステップST7)では、成形、徐冷されたリボン状のガラス(シートガラス)は、切断装置(図示せず)により所定のサイズに切断され、ガラス板となる。
【0025】
次に、成形装置104に熔融ガラスを供給する供給工程について詳細に説明する。
【0026】
供給工程(ステップS104)では、上述のとおり熔融ガラスを成形工程(ステップST5)に適する温度に冷却する工程である。供給工程(ステップST4)において、熔融ガラスの温度は、少なくとも150℃下げられることが好ましい。例えば、上記の組成を有するフラットパネルディスプレイ用のガラス基板の場合、均質化工程(ステップS103)では、例えば、1440℃〜1500℃の熔融ガラスが、供給工程(ステップS104)において、約1200℃まで冷却される。しかし、熔融ガラスの均質性を保つために、熔融ガラスの冷却は、所定の冷却率になるように調整しながら行なうことが好ましい。そのため、供給工程が行われる第3ガラス供給管105cは、第3ガラス供給管105cの中を通る熔融ガラスの温度、粘性を細かく制御できるようになっていることが好ましい。なお、第3ガラス供給管105cは、高温である熔融ガラスとの接触に耐えられるような耐火金属からなることが好ましく、さらに好ましくは白金又は白金合金からなることが好ましい。
【0027】
図3は、成形装置104に熔融ガラスを供給する第3ガラス供給管の一例を示す図である。本実施形態にかかる第3ガラス供給管105cには、同図に示すように、複数の給電端子201が備え付けられている。給電端子201は、フランジとフランジから引き出された電極とからなる。2つの隣り合う給電端子201は、1つの電気加熱装置202を構成する。隣り合う2つの電気加熱装置202は、1つの給電端子201を共有する。すなわち、n+1個の給電端子201は、n個の電気加熱装置202を構成する。第3ガラス供給管105cは、n+1個の給電端子201により、上流端から下流端に向けて順に第1セクションSC1、第2セクションSC2、・・・、第nセクションSCnというふうにn個のセクションに分けられる。例えば、9の給電端子201は、8個の電気加熱装置202を構成し、第3ガラス供給管105cを8個のセクション(区分)に分ける。そして、各電気加熱装置202は、各セクションの両端に設けられた2つの給電端子201から構成されるので、電気加熱装置202は、各セクションに1つ備えられていることになる。なお、電気加熱装置202は、少なくとも第3ガラス供給管105cの上流端と下流端に1つずつ、及び、当該両端の間に少なくとも1つ設けられていることが好ましい。すなわち、第3ガラス供給管105cは、少なくとも上流端と下流端、及び、当該両端の間の3つのセクションに分けられ、各セクションに1つずつ電気加熱装置202が設けられていることが好ましい。これにより、第3ガラス供給管105cの中を通る熔融ガラスの温度を細かく制御できる。
【0028】
なお、第3ガラス供給管105cを分けるセクション(区分)数は、8に限定されず、3、5、10等、任意である。多数のセクションに区切ることにより、第3ガラス供給管105cの中を通る熔融ガラスの温度を細かく制御できる。また、各セクションの長さは任意であり、例えば、各セクションを同一の長さにすることもでき、また、第1セクションSC1が最も長く、下流のセクションに向かうにつれて、セクションの長さを徐々に短くすることもできる。熔融ガラスの温度を細かく制御したい位置によって、セクションの数、長さを任意に設定することができる。
【0029】
各セクションにおいては、1つの電気加熱装置202を構成する2つの給電端子201間で当該セクションの耐火金属製の第3ガラス供給管105c自体を通電し、第3ガラス供給管105c自体をジュール熱により発熱させ、第3ガラス供給管105cの中の熔融ガラスを加熱する。各電気加熱装置202は、個別に電圧及び電流の強弱を制御可能となっていることが好ましい。すなわち、電気加熱装置202が設置されているセクションごとに第3ガラス供給管105cの温度、粘性を制御できるようになっていることが好ましい。これにより、第3ガラス供給管105cの中を通る熔融ガラスの温度、粘性を細かく制御できる。
【0030】
また、各セクションにおいて、熔融ガラスの粘性、温度を測定する測定装置203(203a〜203h)が設けられている。測定装置203は、例えば、細管に測定する試料を通し、流体が流れる時間(流量)と細管の両端の圧力差から粘度を測定する細管式粘度計、回転体が流体から受ける抵抗(粘性抵抗)を回転トルクなどから読み取ることにより粘度を測定する回転式粘度計、温度測定器等から構成され、第3ガラス供給管105cの中を通る熔融ガラスの粘性、温度を測定する。第3ガラス供給管105cの中を通る熔融ガラスの粘性、温度は、上流側の第1セクションと下流側の第nセクション(例えば、第8セクション)とでは異なる。また、同一セクションにおいても、管の径方向における、上面側(天井側)付近と底面側付近とでは、熔融ガラスの粘性、温度が異なる。この粘性、温度の違いがガラス板の脈理の原因となっている。より具体的には、熔融ガラスの粘性を上げていく、又は、熔融ガラスの温度を下げていく供給工程(ST4)においては、熔融ガラスの流速が遅いと、その部分での上流からの熔融ガラスの持ち込み顕熱が低下し、温度が下がる。温度が下がると熔融ガラスの粘性が上昇するため、さらに流速が下がる。この悪循環を防ぐには、第3ガラス供給管105cの中を通る熔融ガラスの粘性、温度を制御して、流速の遅いよどみ点をつくらないことが重要である。熔融ガラスの流速が低下した付近に、停留が発生すると、異質な熔融ガラスが生じ、この異質な熔融ガラスが成形装置104で成形するガラス板に入り込むと、スジ、脈理等が発生する原因となる。この脈理は、所定の幅においてガラス板の厚み(高さ)が変動した歪みの一種であり、ガラス板の搬送方向に筋状に連続的に発生する。例えば、SiO
2は軽く、第3ガラス供給管105cの上面側(上部)に留まりやすく、ZrO
2は重く、第3ガラス供給管105cの底面側(下部)に留まりやすい。第3ガラス供給管105c内において、熔融ガラス中にこれらのような成分の不均一性が生じ、脈理の原因となる。なお、ここで、上面側(上部)とは、第3ガラス供給管105cの径中心より上側の部分をいい、また、熔融ガラスの主成分より軽い成分が留まりやすい部分である。また、底面側(下部)とは、第3ガラス供給管105cの径中心より下側の部分をいい、また、熔融ガラスの主成分より重い成分が留まりやすい部分である。
【0031】
上述したように、脈理を防止するために、熔融ガラスの温度、粘性を制御する。第3ガラス供給管105c自体を通電し、第3ガラス供給管105c自体をジュール熱により発熱させ、第3ガラス供給管105cの中の熔融ガラスを加熱することにより、熔融ガラスの温度、粘性を制御している。また、第3ガラス供給管105cにおいて、上流から下流に向かって、熔融ガラスの温度が徐々に下がるように、成形装置104に流す熔融ガラスの温度を制御している。供給工程(ST4)においては、第3ガラス供給管105cを流れる熔融ガラスを放熱しつつ、加熱するため、熔融ガラスの温度が所定の冷却率になるように調整することが困難である。このため、第3ガラス供給管105cの各セクションにおいて、熔融ガラスの温度、粘性を厳密に制御している。電気加熱装置202は、測定装置203が測定した結果に基づいて、熔融ガラスの温度が後述する温度変化になるよう加熱量を制御する。
【0032】
図4は、第3ガラス供給管105cを流れる熔融ガラスの温度変化の一例を示す図である。電気加熱装置202(202a〜202h)は、給電端子201(201a〜201i)に電流を流すことにより、第3ガラス供給管105cを流れる熔融ガラスを加熱する。電気加熱装置202は、同図に示すように、第1セクションSC1から第3セクションSC3を流れる熔融ガラスの温度が、第4セクションSC4から第6セクションSC6を流れる熔融ガラスの温度より高くなるように、熔融ガラスの温度を制御し、さらに、第1セクションSC1から第3セクションSC3における熔融ガラスの上流から下流への温度勾配が、第4セクションSC4から第6セクションSC6における熔融ガラスの上流から下流への温度勾配より大きくなるように、熔融ガラスを冷却(加熱)する。また、電気加熱装置202は、第4セクションSC4から第6セクションSC6を流れる熔融ガラスの温度が、第7セクションSC7から第8セクションSC8を流れる熔融ガラスの温度より高くなるように、熔融ガラスの温度を制御し、さらに、第4セクションSC4から第6セクションSC6における熔融ガラスの上流から下流への温度勾配が、第8セクションSC8から第9セクションSC9における熔融ガラスの上流から下流への温度勾配より大きくなるように、熔融ガラスを加熱する。つまり、第3ガラス供給管105cを流れる熔融ガラスにおいて、上流ほど温度が高く、下流に向かうほど温度が下がり、また、上流ほど温度変化が大きく、下流に向かうほど温度変化が小さくなる。上流ほど熔融ガラスの温度を高くして、熔融ガラスの粘性を下げて流速を速めることにより、熔融ガラス中の一部の成分が、第3ガラス供給管105cの上面側、底面側に留まりにくくなり、成分の不均一性によって発生する脈理を抑制することができる。また、第3ガラス供給管105cを流れる熔融ガラスを、上流から下流まで停留することなく、成形装置104に供給できるため、成形装置104において、均一な板厚のガラス板を製造することができる。
【0033】
また、電気加熱装置202は、上流ほど熔融ガラスの温度勾配が大きくなるように、熔融ガラスを加熱している。ここで、成形装置104においてガラス板を成形するためには、ガラス板を成形するのに適した粘性の熔融ガラスを、第3ガラス供給管105cから成形装置104に供給する必要がある。具体的には、第3ガラス供給管105cから成形装置104に供給される熔融ガラスの粘性を、5450Pa・s以下、より好ましくは3300Pa・sから5450Pa・sの範囲内となるよう制御する必要がある。このため、攪拌槽103から第3ガラス供給管105cに供給された熔融ガラスの温度を徐々に下げることにより、また、熔融ガラスの粘性を徐々に上げることにより、成形装置104に供給する温度、粘性を制御する。しかし、熔融ガラスの温度が急激に下がると、熔融ガラスの停留、よどみが発生する場合があり、脈理の発生原因となる。そこで、熔融ガラスの温度が高いうちに、熔融ガラスの温度勾配を大きくして、成形装置104に供給するのに適した温度に近づける。具体的には、第1セクションSC1から第3セクションSC3における熔融ガラスの温度勾配を、第4セクションSC4から第6セクションSC6における熔融ガラスの温度勾配より大きくなるように、また、第4セクションSC4から第6セクションSC6における熔融ガラスの温度勾配が、第8セクションSC8から第9セクションSC9における熔融ガラスの温度勾配より大きくなるように、熔融ガラスを冷却(加熱)する。上流側である第1セクションSC1から第3セクションSC3を流れる熔融ガラスの温度は、下流側である第4セクションSC4から第8セクションSC8を流れる熔融ガラスの温度より高いため、上流からの熔融ガラスの持ち込み顕熱量は大きい。これに対し、下流側の第7セクションSC7から第8セクションSC8の熔融ガラスの温度は、成形装置104に供給するのに適した温度に近づいているため、熔融ガラスの流速がすでに遅くなっており、その部分での上流からの熔融ガラスの持ち込み顕熱が低下し、熔融ガラスの温度が下がる。温度が下がると熔融ガラスの粘性が上昇するため、さらに流速が下がる、という悪循環が生じやすい。このため、熔融ガラスの温度が高い上流側において、下流側より温度勾配を大きくし、熔融ガラスの温度を、成形装置104に供給するのに適した温度に近づけつつ、熔融ガラスの停留、よどみの発生を抑制することができる。
【0034】
なお、熔融ガラスの温度勾配を、各セクションで変えることもできる。例えば、第1セクションSC1の温度勾配を−30℃/m、第2セクションSC2の温度勾配を−28℃/m、第3セクションSC3の温度勾配を−26℃/m、・・・、第8セクションSC8の温度勾配を−16℃/mというように、各セクションにおいて温度勾配を変更することもできる。また、第7セクションSC7や第8セクションSC8の温度勾配をプラス(例えば、5℃/m)にすることもできる。各セクションにおいて温度勾配を変更することにより、熔融ガラスの停留を抑え、成分の不均一性によって発生する脈理を抑制することができる。
【0035】
電気加熱装置202は、上述した温度制御、粘性制御に加えて、第3ガラス供給管105cの径方向における熔融ガラスの温度、粘性を制御する。
図5は、第3ガラス供給管105cの径方向における熔融ガラスの温度変化の一例を示す図である。同図に示すように、電気加熱装置202は、第3ガラス供給管105cを流れる熔融ガラスの温度を、上面側106aより底面側106bにおいて、高くなるよう制御する。成形装置104が成形するガラス板に脈理が発生する原因の一つとして、攪拌槽103から供給される熔融ガラスに、撹拌不足等によって生じた異質な熔融ガラスが含まれる場合がある。この異質な熔融ガラスが、第3ガラス供給管105cの底面側106bに溜り、均質化されずに成形装置104に供給されると、脈理が発生する可能性がある。このため、電気加熱装置202は、第3ガラス供給管105cを流れる熔融ガラスにおいて、底面側106bの温度を、上面側106aの温度より高くなるように制御する。底面側106bに溜まる異質な熔融ガラスの温度を高めることにより、他の良質な熔融ガラスと混ざり、熔融ガラスが均質化することにより、脈理の発生を抑制することができる。上面側106aの温度は、例えば、1100℃〜1500℃であり、底面側106bの温度のより低く、上面側106aに留まりやすい、SiO
2を熔解する温度、又は、SiO
2結晶の晶出(析出)が開始する温度(熔融ガラスMGが失透する温度)以上である。また、底面側106bの温度は、例えば、1100℃〜1500℃であり、上面側106aの温度のより低く、底面側106bに留まりやすい、ZrO
2を熔解する温度、又は、ZrO
2結晶の晶出(析出)が開始する温度(熔融ガラスMGが失透する温度)以上である。なお、底面側106bを上面側106aより加熱する、高温にする方法は任意であり、例えば、給電端子201の底面側を流れる電流量を増加する方法、第3ガラス供給管105cの底面側106bの保温材を、上面側106aより厚くする方法等が挙げられる。具体的には、第3ガラス供給管105cの周りを、耐火物材で構成された保温構造体で囲み、第3ガラス供給管105cの上面側106aより下方に位置する、底面側106b、側面側の面において、第3ガラス供給管105cの上面側106aより、保温構造体を厚くする、断熱性の高い耐火物材を用いる。これにより、第3ガラス供給管105cの上面側106aより下方に位置する面を、上面側106aより保温することができる。
【0036】
なお、第3ガラス供給管105cの径方向における熔融ガラスの温度勾配を、各セクションで変更することもできる。例えば、第1セクションSC1における上面側106aから底面側106bへの温度勾配を1.0℃/m、第2セクションSC2における上面側106aから底面側106bへの温度勾配を0.6℃/m、第8セクションSC8における面側106aから底面側106bへの温度勾配を0℃/mとすることもできる。各セクションにおいて第3ガラス供給管105cの径方向における温度勾配を変更することにより、熔融ガラスを均質化することができる。また、管の径方向における熔融ガラスの温度勾配を、第1ガラス供給管105a、第2ガラス供給管105b、清澄槽102において、実現することもできる。
【0037】
第3ガラス供給管105cを流れる熔融ガラスの温度変化の冷却率は、第1セクションSC1から第8セクションSC8まで流れる間に平均30℃/m以下であることが好ましい。例えば、1500℃の熔融ガラスが全長約10mの第3ガラス供給管105cの上流端から下流端まで流れる場合、この間に最大でも300℃だけ冷却されて、1200℃以上の熔融ガラスとなって成形装置104へ流れ出ることが好ましい。また、熔融ガラスは、成形装置104に流れ出る直前では、できるだけ緩やかに冷却されたほうが、より好ましい。また、第3ガラス供給管105cの上流では、30℃/mよりも速い割合で冷却しても構わない。すなわち、第3ガラス供給管105cに入ってから流れ出るまでの間に熔融ガラスが冷却される割合が、平均で30℃/m以下になるのであれば、熔融ガラスを、例えば50℃/m以上の割合で、速く冷却した後、それよりも緩やかな割合で冷却してもよい。
【0038】
(ガラス板の特性、適用)
本実施形態のガラス板をフラットパネルディスプレイ用ガラス板に用いる場合、以下のガラス組成を有するようにガラス原料を混合するものが例示される。
SiO
2:50〜70質量%、
Al
2O
3:0〜25質量%、
B
2O
3:1〜15質量%、
MgO:0〜10質量%、
CaO:0〜20質量%、
SrO:0〜20質量%、
BaO:0〜10質量%、
RO:5〜30質量%(ただし、RはMg、Ca、Sr及びBaの合量)、
を含有する無アルカリガラス。
なお、本実施形態では無アルカリガラスとしたが、ガラス板はアルカリ金属を微量含んだアルカリ微量含有ガラスであってもよい。アルカリ金属を含有させる場合、R’
2Oの合計が0.10質量%以上0.5質量%以下、好ましくは0.20質量%以上0.5質量%以下(ただし、R’はLi、Na及びKから選ばれる少なくとも1種であり、ガラス板が含有するものである)含むことが好ましい。勿論、R’
2Oの合計が0.10質量%より低くてもよい。
また、本発明のガラス板の製造方法を適用する場合は、ガラス組成物が、上記各成分に加えて、SnO
2:0.01〜1質量%(好ましくは0.01〜0.5質量%)、Fe
2O
3:0〜0.2質量%(好ましくは0.01〜0.08質量%)を含有し、環境負荷を考慮して、As
2O
3、Sb
2O
3及びPbOを実質的に含有しないようにガラス原料を調製しても良い。
【0039】
また、近年フラットパネルディスプレイの画面表示のさらなる高精細化を実現するために、a−Si(アモルファスシリコン)・TFTではなく、p−Si(低温ポリシリコン)・TFTや酸化物半導体を用いたディスプレイが求められている。ここで、p−Si(低温ポリシリコン)TFTや酸化物半導体の形成工程では、a−Si・TFTの形成工程よりも高温な熱処理工程が存在する。このため、p−Si・TFTや酸化物半導体が形成されるガラス板には、熱収縮率が小さいことが求められている。熱収縮率を小さくするためには、歪点を高くすることが好ましいが、歪点が高いガラスは、上述したように液相温度が高く、液相粘度が低くなる傾向にある。すなわち、上記液相粘度は、成形工程における熔融ガラスの適正な粘度に近づく。このため、失透を抑制するためには、成形装置104に熔融ガラスを供給する第3ガラス供給管105cにおいて熔融ガラスの流れを停留させないことがより強く求められる。本実施形態では、熔融ガラスの流れが停留し難い。したがって、本発明のガラス板の製造方法は、例えば歪点が655℃以上のガラスを用いたガラス板にも適用できる。特に、p−Si・TFTや酸化物半導体に好適な歪点が655℃以上、歪点が680℃以上、さらには、歪点が690℃以上のガラスを用いたガラス板にも、本発明のガラス板の製造方法は適用でき、失透は生じ難い。
また、液相粘度が6000Pa・s以下のガラス、さらには、液相粘度が5000Pa・s以下のガラス、特に、液相粘度が4500Pa・s以下のガラスを用いたガラス板にも本発明のガラス板の製造法を適用でき、失透は生じ難い。
【0040】
歪点が655℃以上あるいは液相粘度が4500Pa・s以下のガラスをガラス板に用いる場合、ガラス組成としては、例えば、ガラス板が質量%表示で、以下の成分を含むものが例示される。
SiO
2:52〜78質量%、
Al
2O
3:3〜25質量%、
B
2O
3:3〜15質量%、
RO(但し、RはMg、Ca、Sr及びBaから選ばれる、ガラス板が含有する全ての成分であって、少なくとも1種である)3〜20質量%、を含み、
質量比(SiO
2+Al
2O
3)/B
2O
3は7〜20の範囲にある無アルカリガラスまたはアルカリ微量含有ガラスであることが、好ましい。
さらに、歪点をより上昇するために、質量比(SiO
2+Al
2O
3)/ROは7.5以上であることが好ましい。さらに、歪点を上昇させるために、β−OH値を0.1〜0.3mm
−1とすることが好ましい。さらに、高い歪点を実現しつつ液相粘度の低下を防止するためにCaO/ROは0.65以上とすることが好ましい。環境負荷を考慮して、As
2O
3、Sb
2O
3及びPbOを実質的に含有しないようにガラス原料を調製してもよい。
【0041】
さらに、上述した成分に加え、本実施形態のガラス板に用いるガラスは、ガラスの様々な物理的、熔融、清澄、および、成形の特性を調節するために、様々な他の酸化物を含有しても差し支えない。そのような他の酸化物の例としては、以下に限られないが、SnO
2、TiO
2、MnO、ZnO、Nb
2O
5、MoO
3、Ta
2O
5、WO
3、Y
2O
3、および、La
2O
3が挙げられる。ここで、液晶ディスプレイや有機ELディスプレイなどのフラットパネルディスプレイ用ガラス板は、泡に対する要求が特に厳しいので、上記酸化物の中では清澄効果が大きいSnO
2を少なくとも含有することが好ましい。
【0042】
上記ROの供給源には、硝酸塩や炭酸塩を用いることができる。なお、熔融ガラスの酸化性を高めるには、ROの供給源として硝酸塩を工程に適した割合で用いることがより望ましい。
【0043】
以上、本発明のガラス板の製造方法、ガラス板の製造装置について詳細に説明したが、本発明は上記実施形態に限定されず、本発明の主旨を逸脱しない範囲において、種々の改良や変更をしてもよいのはもちろんである。