(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2015-189958(P2015-189958A)
(43)【公開日】2015年11月2日
(54)【発明の名称】固体燃料の製造方法及び固体燃料
(51)【国際特許分類】
C10L 5/44 20060101AFI20151006BHJP
C10B 53/02 20060101ALI20151006BHJP
【FI】
C10L5/44
C10B53/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
【全頁数】6
(21)【出願番号】特願2014-70579(P2014-70579)
(22)【出願日】2014年3月28日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成23〜24年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「バイオマスエネルギー技術研究開発/戦略的次世代バイオマスエネルギー利用技術開発事業(実用化技術開発)/石炭火力微粉炭ボイラーに混焼可能な新規バイオマス固形燃料の研究開発」に係る共同研究、産業技術強化法第19条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】000183484
【氏名又は名称】日本製紙株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100126169
【弁理士】
【氏名又は名称】小田 淳子
(74)【代理人】
【識別番号】100130812
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 淳
(72)【発明者】
【氏名】新倉 宏
(72)【発明者】
【氏名】川真田 友紀
(72)【発明者】
【氏名】小野 裕司
【テーマコード(参考)】
4H012
4H015
【Fターム(参考)】
4H012JA03
4H012JA06
4H015AA13
4H015AB01
4H015BA01
4H015BB03
4H015CB01
(57)【要約】
【課題】 木質系バイオマスを原料として、物質収率及び熱量収率が高く、石炭と同等の粉砕性を有し石炭と混合して粉砕処理して微粉炭ボイラーの燃料として使用できる固体燃料の製造方法を提供する。
【解決手段】 サイズが5〜60mmである木質系バイオマス粉砕物を、嵩密度(JIS K 2151の6「かさ密度試験方法」に従って測定)0.5g/cm
3以上に高密度化処理し、続いて酸素濃度10%以下で、かつ温度170〜350℃の条件下で焙焼することによって固体燃料を製造する。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
サイズが5〜60mmである木質系バイオマス粉砕物を、嵩密度(JIS K 2151の6「かさ密度試験方法」に従って測定)0.5g/cm3以上に高密度化処理し、続いて酸素濃度10%以下で、かつ温度170〜350℃の条件下で焙焼することを特徴とする固体燃料の製造方法。
【請求項2】
サイズが5〜60mmである木質系バイオマス粉砕物を、嵩密度(JIS K 2151の6「かさ密度試験方法」に従って測定)0.5g/cm3以上に高密度化処理し、酸素濃度10%以下で、かつ温度170〜350℃の条件下で焙焼することによって得られる固体燃料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、木質系バイオマスを焙焼(torrefaction)することによって得られる固体燃料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、化石燃料の枯渇化及びCO
2排出による地球温暖化への対策として、バイオマスを原料とする燃料の利用が検討されている。一般にバイオマスとは、エネルギー源又は工業原料として利用することのできる生物体をいい、代表的なものは木材、建築廃材、農産廃棄物等である。従来よりバイオマスを有効利用する方法が各種提案されている。その中でも、バイオマスを低コストで以って高付加価値物に転換できる有用な方法として、バイオマスを炭化して固体燃料を製造する方法がある。これは、バイオマスを炭化炉に投入して酸素欠乏雰囲気下で所定時間加熱して炭化処理し、固体燃料を製造するものである。
【0003】
このようにして製造された固体燃料は、発電設備や焼却設備等の燃焼設備の燃料に用いられるが、この場合、燃焼効率を向上させるために固体燃料を細かく粉砕して微粉燃料として用いることがある。固体燃料は単独で、あるいは石炭と混合して粉砕されるが、バイオマスのうち木質系バイオマスは大部分が繊維質であるため、粉砕性が悪く、燃焼効率の低下、粉砕機の運転性低下等の問題があった。
【0004】
特許文献1には、材廃材、間伐材、庭木、建築廃材等の木質系バイオマスを240℃以上300℃以下の温度で、15分以上90分以下の時間で熱分解した後に粉砕する方法が開示されている。加熱温度が240℃より低い温度であると破砕性、粉砕性が向上せず、300℃よりも高い温度であると破砕、粉砕時にサブミクロンオーダーの微粉量が増大して粉体トラブルを生じ易くなるため好ましくないとしている。
【0005】
また、特許文献2には穀類、実、種子を含むバイオマスを酸素濃度1〜5%、処理温度350〜400℃で30〜90分加熱して炭化処理することで、石炭と同等の粉砕性を有する固体燃料を製造する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−26474号公報
【特許文献2】特開2009−191085号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記方法で製造された炭化物は、物質収率及び熱量収率が低く、石炭に比較すると粉砕性が不十分であり、石炭と混合して粉砕処理して微粉炭ボイラーの燃料として使用することが困難である。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は、上記課題を解決するため鋭意検討した結果、サイズが5〜60mmである木質系バイオマス粉砕物を、嵩密度(JIS K 2151の6「かさ密度試験方法」に従って測定)0.5g/cm
3以上に高密度化処理し、続いて酸素濃度10%以下で、かつ温度170〜350℃の条件下で焙焼(torrefaction)することによって、石炭と同等の粉砕性を有する固体燃料が製造できることを見出した。
【発明の効果】
【0009】
本発明の製造方法にて得られる固形燃料は、物質収率、熱量収率が高く、さらに石炭と同等の粉砕性を有し、高密度であるため、石炭と混合して粉砕処理して微粉炭ボイラーの燃料として高い比率で混炭して使用することできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明において、原料として木質系バイオマスを使用する。木質系バイオマスとしては、木材チップ、樹皮(バーク)、おが屑、鋸屑等が挙げられる。これらの木質系バイオマスはあまり利用されることなく、廃棄されることが多いのが現状である。特に、樹皮を原料として焙焼した場合、木部のチップと比較して良好な性質を有する固形燃料が得られることが判明した。樹皮は木部と比較するとヘミセルロースの含有量が少ないので、焙焼した後の物質収率が高くなる。樹種は広葉樹、針葉樹のいずれも使用できる。
【0011】
しかしながら、木質系バイオマスの粉砕物を原料とした場合、炭化炉入口のロータリーバルブが詰まること等の搬送性の問題や、乾燥機後のサイクロンでリジェクト分が過大となることによる詰まり等が発生することがあった。これは木質系バイオマスの粉砕物の嵩密度が低いこと、微細分が多いことが原因と考えられた。
【0012】
本発明において、木質系バイオマスは5〜60mmのサイズに粉砕された粉砕物を使用することが必須で、10〜50mmのサイズのものを使用することがさらに好ましい。なお、本発明において、木質系バイオマス粉砕物のサイズとは、篩い分け器の円形の穴の大きさによって篩い分けされたものである。すなわち、5mm以上のサイズの木材チップとは、直径5mmの穴を通過しないもので、60mm以下のサイズの木材チップとは直径60mmの穴を通過するものである。木質系バイオマスを5mm未満のサイズに粉砕するためには粉砕に要する電力消費量が過大となる。木質系バイオマスのサイズが60mmを超えると、後工程の高密度化処理が困難となる。木質系バイオマスを粉砕するための装置としては、ナイフ切削型バイオマス燃料用チッパーで粉砕処理することが好ましい。
【0013】
本発明における高密度化とは、木質系バイオマス粉砕物をブリケットやペレット状に成型する処理のことを意味する。成型処理を行うことによって、嵩密度を大幅に高めることができる。高密度化する前の木質系バイオマス粉砕物の嵩密度は0.01g/cm
3〜0.3g/cm
3程度であるが、高密度化処理後の嵩密度は0.5g/cm
3〜1.0g/cm
3である。
【0014】
高密度化処理後の木質系バイオマス粉砕物の嵩密度は、0.5g/cm
3以上とすることが必要で、好ましくは0.6g/cm
3以上にすることが好ましい。嵩密度が0.55g/cm
3未満であると固体燃料を燃料として微粉炭ボイラーで燃焼させる際、微粉炭ミルの粉砕室中の容積が大きくなり、粉砕室からこぼれ落ちるため、石炭との混合比率をあまり大きくすることが不可能なため、本発明の効果を最大限に得ることができない。
【0015】
本発明における高密度化を行う前に、樹皮粉砕物の水分を10〜50%とすることが必要である。水分が10%より少ないとブリケッターやペレタイザーの内部で閉塞が発生し、安定した成型物の製造ができない。水分が50%を超えると成型できず、粉体状またはペースト状で排出される。
【0016】
本発明において、バインダーを0〜50重量部添加してもよい。バインダーは特に限定されていないが、有機高分子(リグニンなど)、無機高分子(アクリル酸アミドなど)、農業残渣(ふすま(小麦粉製造時に発生する残渣)など)等が望ましい。樹皮を効率よく有効利用することを目的としている観点から、バインダー添加部数は少ない方が望ましく、0〜50重量部、より好ましくは0〜20重量部が望ましい。ただし、50重量部以上添加しても高密度化が不可能であるというわけではない。
【0017】
本発明において高密度化処理を行うための装置は特に限定されていないが、ブリケッター(北川鉄工所(株)製)、リングダイ式ペレタイザー(CPM(株)製、(株)御池鉄工所製)、フラットダイ式ペレタイザー(ダルトン(株)製)等が望ましい。
【0018】
本発明における焙焼(torrefaction)とは、低酸素雰囲気下で、所謂炭化処理よりも低い温度で加熱する処理のことである。通常の木材の炭化処理の温度は400〜700℃であるが、焙焼はより低い温度で行われる。焙焼を行うことによって、その出発原料よりも高いエネルギー密度を有する固体燃料が得られる。
【0019】
本発明における焙焼の処理条件は、酸素濃度10%以下で、温度170〜350℃である。酸素濃度が10%を超えると物質収率、熱量収率が低下する。また、温度が170℃未満では後述する粉砕性が不十分であり、350℃を超えると物質収率、熱量収率が低下する。温度は200〜320℃がさらに好ましく、さらに240〜300℃がさらに好ましい。ヘミセルロースは270℃付近で熱分解が顕著になるのに対して、セルロースは355℃付近、リグニンは365℃付近で熱分解が顕著になるので、焙焼時の処理温度を170〜350℃とすることで、ヘミセルロースを優先的に熱分解して、物質収率と粉砕性を両立できる固体燃料を製造することが可能になると推察される。
【0020】
本発明において、焙焼処理を行うための装置は特に限定されないが、炭化炉として通常使用されるロータリーキルン、竪型炉が好ましい。なお、酸素濃度を10%以下に調整するため装置内を窒素等の不活性ガスで置換することが好ましい。処理時間は15〜180分が好ましい。
【0021】
本発明で得られる固体燃料は原料の樹皮に対して物質収率で60〜90%、熱量収率で70〜95%である。また、粉砕性の指標であるJIS M 8801:2004に規定のハードグローブ粉砕性指数(HGI)は30〜70が好ましく、40〜60がさらに好ましい。HGIが高くなるほど、粉砕され易いことを示している。HGIが30〜70の範囲であれば、石炭と混合して粉砕処理することが可能となる。石炭のHGIは通常40〜70であるので、本発明で得られた固体燃料は石炭と同等の粉砕性を有している。
【実施例】
【0022】
以下に実施例にて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0023】
[実施例1]
杉のチップをナイフ切削型バイオマス燃料用チッパー(緑産(株)製、Wood Hacker MEGA360DL)にて、サイズが5〜10mmとなるように粉砕処理した。この粉砕処理に要した消費電力は50kWh/tであった。
得られた杉の粉砕物を原料として、乾燥機で120℃、10分間乾燥処理を行った。得られた生成物の水分を12%に調整し、リングダイ式ペレタイザー((株)御池鉄工所、MIIKE多目的造粒機ペレットミルSPM−500型)にてダイ穴直径6mm、ダイ厚さ36mmのリングダイを用いて高密度化処理を行い、嵩密度0.60g/cm
3のペレットを得た。
このペレットを原料として、乾燥機で120℃、10分間乾燥処理を行った。続いて大型キルン型炭化炉を用い、窒素パージして、炭化炉入口温度310℃、炭化炉出口温度310℃、滞留時間30分で焙焼を行って固体燃料を得た。
【0024】
[実施例2]
杉のチップをサイズが5〜7mmとなるように粉砕処理した以外は、実施例1と同様にして固体燃料を得た。この粉砕処理に要した消費電力は70kWh/tであった。
【0025】
[実施例3]
杉のチップをサイズが5〜7mmとなるように粉砕処理した以外は、実施例1と同様にして固体燃料を得た。この粉砕処理に要した消費電力は70kWh/tであった。
【0026】
[比較例1]
杉のチップをサイズが2mm以下となるように粉砕処理した以外は、実施例1と同様にして固体燃料を得た。この粉砕処理に要した消費電力は160kW/hであった。
【0027】
[比較例2]
杉のチップをサイズが2mm以下となるように粉砕処理した以外は、実施例1と同様にして固体燃料を得た。この粉砕処理に要した消費電力は280kW/hであった。
【0028】
実施例1〜3、比較例1、2で得られた生成物について下記の項目について評価し、結果を表1に示した。
・粉砕性:試料をボールミルで200rpm、4分間粉砕し、200メッシュをパスしたものの重量を測定し、石炭の粉砕性の指標であるハードグローブ粉砕性指数(HGI)の値から換算して、試料のHGIとした。
【0029】
【表1】
【0030】
表1に示されるように、実施例1〜3では、杉のチップの粉砕処理に要した消費電力が少ないが、得られた固体燃料のHGIが30を超えており、粉砕性も良好である。一方、比較例1〜2では、杉のチップの粉砕処理に要した消費電力が過大となった。