【実施例】
【0038】
以下に実施例を示して本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらによって何ら制限されるものではない。なお、実施例中にて示す「部」及び「%」は重量に基づくものである。
【0039】
小粒子径スチレン−ブタジエンゴムラテックスの製造
10リットルの耐圧容器の内部を窒素で置換後、1,3−ブタジエン95重量部、スチレン5重量部、n−ドデシルメルカプタン0.23重量部、過硫酸カリウム0.29重量部、不均化ロジン酸ナトリウム1.98重量部(固形分)、水酸化ナトリウム0.05重量部(固形分)、脱イオン水158重量部を仕込み、攪拌しつつ69℃で8時間反応させた。その後、不均化ロジン酸ナトリウム0.24重量部(固形分)、水酸化ナトリウム0.08重量部(固形分)及び脱イオン水7重量部を添加した。さらに温度を69℃に維持しながら5時間攪拌を継続して反応を終了した。その後、減圧して残存している1,3−ブタジエンを除去し、小粒子径スチレン−ブタジエンゴムラテックスを得た。得られた小粒子径スチレン−ブタジエンゴムラテックスを、四酸化オスミウム(OsO
4)で染色し、乾燥後に透過型電子顕微鏡で写真撮影した。画像解析処理装置(装置名:旭化成(株)製 IP−1000PC)を用いて800個のゴム粒子の面積を計測し、その円相当径(直径)を求め、重量平均粒子径を算出した結果、99nmであった。
【0040】
凝集肥大化スチレン−ブタジエンゴムラテックス(a−1)の製造
10リットルの耐圧容器に、脱イオン水177重量部、小粒子径スチレン−ブタジエンゴムラテックス100重量部(固形分)、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム0.022重量部(固形分)を添加して8分間攪拌混合した後、5%リン酸水溶液18重量部を8分間にわたり添加した。次いで10%水酸化カリウム水溶液9重量部を添加し、凝集肥大化スチレン−ブタジエンゴムラテックス(a−1)を得た。
上述の方法で、凝集肥大化スチレン−ブタジエンゴム(a−1)の重量平均粒子径を算出した結果、425nmであった。
【0041】
凝集肥大化スチレン−ブタジエンゴムラテックス(a−2)の製造
10リットルの耐圧容器に、脱イオン水192重量部、小粒子径スチレン−ブタジエンゴムラテックス100重量部(固形分)、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム0.052重量部(固形分)を添加して8分間攪拌混合した後、5%リン酸水溶液18重量部を7分間にわたり添加した。次いで10%水酸化カリウム水溶液9重量部を添加し、凝集肥大化スチレン−ブタジエンゴムラテックス(a−2)を得た。
上述の方法で、凝集肥大化スチレン−ブタジエンゴム(a−2)の重量平均粒子径を算出した結果、267nmであった。
【0042】
スチレン−ブタジエンゴムラテックス(a−3)の製造
10リットルの耐圧容器の内部を窒素で置換後、1,3−ブタジエン95重量部、スチレン5重量部、n−ドデシルメルカプタン0.25重量部、過硫酸カリウム0.33重量部、不均化ロジン酸ナトリウム0.25重量部(固形分)、水酸化ナトリウム0.12重量部(固形分)、脱イオン水67重量部を仕込み、攪拌しつつ65℃で反応させた。11時間目、22時間目、33時間目、44時間目にそれぞれ不均化ロジン酸ナトリウム0.33重量部(固形分)、水酸化ナトリウム0.11重量部(固形分)及び脱イオン水7.7重量部を添加し51時間反応させた。その後、不均化ロジン酸ナトリウム0.19重量部(固形分)、水酸化ナトリウム0.1重量部(固形分)及び脱イオン水4重量部を添加した。さらに温度を70℃に維持しながら8時間攪拌を継続して反応を終了した。その後、減圧して残存している1,3−ブタジエンを除去し、スチレン−ブタジエンゴムラテックス(a−3)を得た。上述の方法で、重量平均粒子径を算出した結果、435nmであった。
【0043】
グラフト共重合体(A−1)の製造
ガラスリアクターに、凝集肥大化スチレン−ブタジエンゴムラテックス(a−1)50重量部(固形分)を仕込み窒素置換を行った。窒素置換後、槽内を昇温し62.5℃に到達したところで、アクリロニトリル0.5重量部、スチレン5.5重量部とラクトース0.2重量部、ピロリン酸四ナトリウム0.1重量部及び硫酸第1鉄7水塩0.007重量部を脱イオン水17重量部に溶解した水溶液を添加した。70℃に到達後、アクリロニトリル12.0重量部、スチレン32重量部、ターシャリードデシルメルカプタン0.07重量部の混合液及び脱イオン水20重量部にオレイン酸カリウム1.1重量部(固形分)、t-ブチルハイドロパーオキサイド0.13重量部(固形分)を溶解した乳化剤水溶液を4.5時間かけて連続的に滴下した。滴下後、3.3時間保持してグラフト共重合体ラテックス(A−1)を得た。その後、キレート剤であるエチレンジアミン四酢酸二ナトリウム(二水和物)0.1部添加後、表1に示した凝固剤、洗浄水量、遠心脱水回数で脱水、乾燥し、グラフト重合体(A−1)のパウダーを得た。
【0044】
グラフト共重合体(A−2)の製造
ガラスリアクターに、凝集肥大化スチレン−ブタジエンゴムラテックス(a−1)40重量部(固形分)を仕込み窒素置換を行った。窒素置換後、槽内を昇温し66℃に到達したところで、アクリロニトリル1.0重量部、スチレン6.0重量部、を添加した。70℃に到達後、過硫酸ナトリウム0.23部添加し、アクリロニトリル17.0重量部、スチレン36重量部、および脱イオン水20重量部にオレイン酸カリウム0.82重量部(固形分)を溶解した乳化剤水溶液を3.3時間かけて連続的に滴下した。滴下後、4.2時間保持してグラフト共重合体ラテックス(A−2)を得た。その後、表1に示した凝固剤、洗浄水量、遠心脱水回数で脱水、乾燥し、さらに除鉄機を用いてパウダー中の鉄分を除去し、グラフト重合体(A−2)のパウダーを得た。
【0045】
グラフト共重合体(A−3)の製造
ガラスリアクターに、凝集肥大化スチレン−ブタジエンゴムラテックス(a−1)60重量部(固形分)を仕込み窒素置換を行った。窒素置換後、槽内を昇温し60℃に到達したところで、スチレン3重量部とラクトース0.22重量部、ピロリン酸四ナトリウム0.11重量部及び硫酸第1鉄7水塩0.021重量部を脱イオン水14重量部に溶解した水溶液を添加した。69℃に到達後、アクリロニトリル12.0重量部、スチレン25重量部、ターシャリードデシルメルカプタン0.13重量部の混合液および脱イオン水17重量部にオレイン酸カリウム0.95重量部(固形分)、t-ブチルハイドロパーオキサイド0.22重量部(固形分)を溶解した乳化剤水溶液を3.7時間かけて連続的に滴下した。滴下後、2.9時間保持してグラフト共重合体ラテックス(A−3)を得た。その後、キレート剤であるエチレンジアミン四酢酸二ナトリウム(二水和物)0.05部添加後、表1に示した凝固剤、洗浄水量、遠心脱水回数で脱水、乾燥し、グラフト重合体(A−3)のパウダーを得た。
【0046】
グラフト共重合体(A−4)の製造
ガラスリアクターに、凝集肥大化スチレン−ブタジエンゴムラテックス(a−1)50重量部(固形分)を仕込み窒素置換を行った。窒素置換後、槽内を昇温し63.5℃に到達したところで、スチレン5重量部とラクトース0.18重量部、ピロリン酸四ナトリウム0.05重量部及び硫酸第1鉄7水塩0.013重量部を脱イオン水15重量部に溶解した水溶液を添加した。70℃に到達後、アクリロニトリル15重量部、スチレン30重量部、ターシャリードデシルメルカプタン0.22重量部の混合液および脱イオン水15重量部にオレイン酸カリウム1.25重量部(固形分)、t-ブチルハイドロパーオキサイド0.32重量部(固形分)を溶解した乳化剤水溶液を4.25時間かけて連続的に滴下した。滴下後、3.2時間保持してグラフト共重合体ラテックス(A−4)を得た。その後、キレート剤であるエチレンジアミン四酢酸二ナトリウム(二水和物)0.1部添加後、表1に示した凝固剤、洗浄水量、遠心脱水回数で脱水、乾燥し、グラフト重合体(A−4)のパウダーを得た。
【0047】
グラフト共重合体(A−5)の製造
ガラスリアクターに、凝集肥大化スチレン−ブタジエンゴムラテックス(a−2)50重量部(固形分)を仕込み窒素置換を行った。窒素置換後、槽内を昇温し60℃に到達したところで、スチレン6重量部とラクトース0.25重量部、ピロリン酸四ナトリウム0.09重量部及び硫酸第1鉄7水塩0.012重量部を脱イオン水16重量部に溶解した水溶液を添加した。70℃に到達後、アクリロニトリル15重量部、スチレン29重量部、ターシャリードデシルメルカプタン0.25重量部の混合液および脱イオン水16重量部にオレイン酸カリウム1.05重量部(固形分)、t-ブチルハイドロパーオキサイド0.39重量部(固形分)を溶解した乳化剤水溶液を4.0時間かけて連続的に滴下した。滴下後、4.0時間保持してグラフト共重合体ラテックス(A−5)を得た。その後、キレート剤であるエチレンジアミン四酢酸二ナトリウム(二水和物)0.001部添加後、表1に示した凝固剤、洗浄水量、遠心脱水回数で脱水、乾燥し、グラフト重合体(A−5)のパウダーを得た。
【0048】
グラフト共重合体(A−6)の製造
ガラスリアクターに、スチレン−ブタジエンゴムラテックス(a−3)50重量部(固形分)を仕込み窒素置換を行った。窒素置換後、槽内を昇温し66℃に到達したところで、スチレン5重量部とラクトース0.31重量部、ピロリン酸四ナトリウム0.14重量部及び硫酸第1鉄7水塩0.019重量部を脱イオン水17重量部に溶解した水溶液を添加した。71℃に到達後、アクリロニトリル12.5重量部、スチレン32.5重量部、ターシャリードデシルメルカプタン0.14重量部の混合液および脱イオン水18重量部にオレイン酸カリウム1.15重量部(固形分)、t-ブチルハイドロパーオキサイド0.25重量部(固形分)を溶解した乳化剤水溶液を4.5時間かけて連続的に滴下した。滴下後、3.5時間保持してグラフト共重合体ラテックス(A−6)を得た。その後、表1に示した凝固剤、洗浄水量、遠心脱水回数で脱水、乾燥し、グラフト重合体(A−6)のパウダーを得た。
【0049】
グラフト共重合体(A−7)の製造
ガラスリアクターに、スチレン−ブタジエンゴムラテックス(a−3)40重量部(固形分)を仕込み窒素置換を行った。窒素置換後、槽内を昇温し67℃に到達したところで、スチレン3重量部とラクトース0.29重量部、ピロリン酸四ナトリウム0.11重量部及び硫酸第1鉄7水塩0.099重量部を脱イオン水16重量部に溶解した水溶液を添加した。70℃に到達後、アクリロニトリル15重量部、スチレン42重量部、ターシャリードデシルメルカプタン0.18重量部の混合液および脱イオン水18重量部にオレイン酸カリウム1.0重量部(固形分)、t-ブチルハイドロパーオキサイド0.27重量部(固形分)を溶解した乳化剤水溶液を5.5時間かけて連続的に滴下した。滴下後、4.2時間保持してグラフト共重合体ラテックス(A−7)を得た。その後、表1に示した凝固剤、洗浄水量、遠心脱水回数で脱水、乾燥し、グラフト重合体(A−7)のパウダーを得た。
【0050】
グラフト共重合体(A−8)の製造
ガラスリアクターに、スチレン−ブタジエンゴムラテックス(a−3)60重量部(固形分)を仕込み窒素置換を行った。窒素置換後、槽内を昇温し67℃に到達したところで、スチレン8重量部とラクトース0.25重量部、ピロリン酸四ナトリウム0.12重量部及び硫酸第1鉄7水塩0.021重量部を脱イオン水17重量部に溶解した水溶液を添加した。70℃に到達後、アクリロニトリル12重量部、スチレン20重量部、ターシャリードデシルメルカプタン0.17重量部の混合液および脱イオン水17重量部にオレイン酸カリウム1.0重量部(固形分)、t-ブチルハイドロパーオキサイド0.31重量部(固形分)を溶解した乳化剤水溶液を5.0時間かけて連続的に滴下した。滴下後、4.0時間保持してグラフト共重合体ラテックス(A−8)を得た。その後、表1に示した凝固剤、洗浄水量、遠心脱水回数で脱水、乾燥し、グラフト重合体(A−8)のパウダーを得た。
【0051】
グラフト共重合体(A−9)の製造
ガラスリアクターに、凝集肥大化スチレン−ブタジエンゴムラテックス(a−2)40重量部(固形分)を仕込み窒素置換を行った。窒素置換後、槽内を昇温し65℃に到達したところで、スチレン5重量部、ラクトース0.21重量部、ピロリン酸四ナトリウム0.15重量部及び硫酸第1鉄7水塩0.018重量部を脱イオン水15重量部に溶解した水溶液を添加した。68℃に到達後、アクリロニトリル15重量部、スチレン40重量部、ターシャリードデシルメルカプタン0.23重量部の混合液および脱イオン水15重量部にオレイン酸カリウム1.0重量部(固形分)、t-ブチルハイドロパーオキサイド0.33重量部(固形分)を溶解した乳化剤水溶液を6.0時間かけて連続的に滴下した。滴下後、3.5時間保持してグラフト共重合体ラテックス(A−9)を得た。その後、表1に示した凝固剤、洗浄水量、遠心脱水回数で脱水、乾燥し、グラフト重合体(A−9)のパウダーを得た。
【0052】
グラフト共重合体(A−10)の製造
ガラスリアクターに、凝集肥大化スチレン−ブタジエンゴムラテックス(a−2)60重量部(固形分)を仕込み窒素置換を行った。窒素置換後、槽内を昇温し65℃に到達したところで、スチレン5重量部とラクトース0.21重量部、ピロリン酸四ナトリウム0.15重量部、過硫酸カリウム0.2重量部及び硫酸第1鉄7水塩0.034重量部を脱イオン水15重量部に溶解した水溶液を添加した。69℃に到達後、アクリロニトリル12重量部、スチレン23重量部、ターシャリードデシルメルカプタン0.18重量部の混合液および脱イオン水15重量部にオレイン酸カリウム1.1重量部(固形分)、t-ブチルハイドロパーオキサイド0.24重量部(固形分)を溶解した乳化剤水溶液を3.8時間かけて連続的に滴下した。滴下後、3.5時間保持してグラフト共重合体ラテックス(A−10)を得た。その後、表1に示した凝固剤、洗浄水量、遠心脱水回数で脱水、乾燥し、グラフト重合体(A−10)のパウダーを得た。
【0053】
共重合体(B)
公知の塊状重合法により、スチレン70部、アクリロニトリル30部からなるスチレンーアクリロニトリル共重合体(B)を得た。この共重合体(B)の鉄イオン、カリウムイオン、ナトリウムイオン、マグネシウムイオン、カルシウムイオン及び硫酸イオン含有量は0ppmであった。
【0054】
表1
【0055】
<実施例1〜5及び比較例1〜5>
表2に示すグラフト共重合体(A)、共重合体(B)を混合した後、東芝TEM−35B二軸押出機を用いて240℃にて溶融混練して実施例1〜5及び比較例1〜5のペレットを得た。各実施例及び比較例で得られたペレットを用いて以下の分析、評価に供した。その結果を表2に示す。
【0056】
鉄イオンの定量方法
サンプルを灰化し、酸溶解後、ICP発光分光分析法により鉄を定量した。
【0057】
カリウムイオン、ナトリウムイオン、マグネシウムイオン及びカルシウムイオンの定量方法
サンプルを灰化し、酸溶解後、フレーム原子吸光分光法によりカリウムイオン、ナトリウムイオン、マグネシウムイオン及びカルシウムイオンを定量した。
【0058】
硫酸イオンの定量方法
サンプルを加圧熱水抽出し、イオンクロマト法により硫酸イオンを定量した。
【0059】
外観評価
十分乾燥させた上記ペレット70〜90gを2枚のステンレス板ではさみ、これを230℃に加熱した熱プレス機に設置し、圧力がかからない程度まで熱プレス機の熱板を近づけ6分間予熱する。予熱完了後、プレス圧力を9.8MPaまで上昇させ、ステンレス板の間よりはみ出してくる溶融樹脂を手で掴み、ゆっくり破れないようにフィルム状に約1m引き出す(フィルムの厚さは約0.01〜0.10mm)。
フィルム上に直径10cmの円を3箇所描き、それぞれの円内の焼け樹脂によるブツを数え(直径約0.2mm以上のもの)、平均した数値を用いる。
◎:0〜5個
○:6〜10個
△:11〜20個
×:21個以上
【0060】
酸化発熱開始温度の測定
示差走査熱量計(日立ハイテクサイエンス(株)製 DSC7020)を用いて酸化発熱開始温度を測定した。
酸化発熱開始温度が高い方が焼け樹脂の発生が抑制され、かつ滞留熱安定性にも優れる。
◎:220℃以上
○:210℃以上220℃未満
△:200℃以上210℃未満
×:200℃未満
【0061】
表2
【0062】
表2に示すように、実施例1〜5は本発明の熱可塑性樹脂組成物の例であり、焼け樹脂発生及び滞留熱安定性の指標である酸化発熱開始温度が高く、焼け樹脂によるブツ発生も少なく、良好な外観であった。
【0063】
表2に示すように、比較例1は、熱可塑性樹脂組成物中の鉄イオン含有量が本発明の規定量より多く、比較例2は、比較例1よりもさらに鉄イオン含有量が多い。比較例3は、鉄イオン以外のイオン含有量の合計が本発明の規定量の下限より少なく、比較例4は、鉄イオン以外のイオン含有量の合計が本発明の規定量の上限より多い。比較例5は、鉄イオン含有量が本発明の規定量より多くさらに鉄イオン以外のイオン含有量の合計が本発明の規定量の上限より多い。そのため、焼け樹脂発生及び滞留熱安定性の指標である酸化発熱開始温度が低く、焼け樹脂によるブツ発生が多く、外観に劣るものであった。