特開2015-190068(P2015-190068A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2015-190068(P2015-190068A)
(43)【公開日】2015年11月2日
(54)【発明の名称】繊維製品の処理装置
(51)【国際特許分類】
   D06B 23/00 20060101AFI20151006BHJP
   D06B 3/28 20060101ALI20151006BHJP
【FI】
   D06B23/00 B
   D06B3/28
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2014-66225(P2014-66225)
(22)【出願日】2014年3月27日
(71)【出願人】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000152480
【氏名又は名称】株式会社日阪製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100077012
【弁理士】
【氏名又は名称】岩谷 龍
(72)【発明者】
【氏名】星野 芳哲
(72)【発明者】
【氏名】入佐 剛
(72)【発明者】
【氏名】野村 聡
【テーマコード(参考)】
3B154
【Fターム(参考)】
3B154AB19
3B154AB29
3B154BA08
3B154BB02
3B154BB12
3B154BB32
3B154BB43
3B154BB46
3B154BC03
3B154BC06
3B154BC47
3B154BD01
3B154BE05
3B154BF30
3B154CA09
3B154CA39
3B154DA13
(57)【要約】
【課題】様々な染料の染色温度特性、染色pH特性に逐一対応する必要がなく、繊維製品を均一に染色することが可能な繊維製品の処理装置を提供すること。
【解決手段】染色に必要な染料および各種薬品を含有する染色液を貯留するとともに加熱源を備えた溶解槽1と、無端状に結合した繊維製品を染色液の噴射液流により循環走行させながら染色する染色槽2とを有し、溶解槽1から吐出される染色液と、染色槽3から排出される液体とを混合した染色液を熱交換器17に供給して昇温し、昇温後の染色液を染色槽3に供給し、染色槽3に設けた噴射ノズル20から昇温後の染色液の噴射液流を布帛4に向けて噴射することにより布帛4を染色する。溶解槽1から染色液を吐出する手段として、無脈動ポンプ11aを用いる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
染色に必要な染料および各種薬品を含有する染色液を貯留するとともに加熱源を備えた溶解槽と、無端状に結合した繊維製品を染色液の噴射液流により循環走行させながら染色する染色槽とを有し、上記溶解槽から吐出される染色液と、上記染色槽から排出される液体とを混合した染色液を熱交換器に供給して昇温し、昇温後の染色液を染色槽に供給し、染色槽に設けた噴射ノズルから昇温後の染色液の噴射液流を繊維製品に向けて噴射することにより繊維製品を染色する繊維製品の処理装置において、溶解槽から染色液を吐出する手段として、無脈動ポンプを用いることを特徴とする繊維製品の処理装置。
【請求項2】
無脈動ポンプの吐出量の平均値をM、吐出量の最大値をL、吐出量の最小値をSとした場合、((S−M)/M)以上であって((L−M)/M)以下である無脈動ポンプの脈動率が±5%以下であることを特徴とする請求項1記載の繊維製品の処理装置。
【請求項3】
溶解槽において調製された染色液の容量をv(m)とし、最高染色温度における、繊維製品の走行速度と、繊維製品の種類と、繊維製品の長さと、染料の種類と、染色液の容量とによって決められる目標染色時間をt(分)とした場合、無脈動ポンプから吐出される染色液の流量(m/分)は、「v/t±0.05×(v/t)」の範囲に含まれることを特徴とする請求項1または2記載の繊維製品の処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は繊維製品の処理装置に関し、詳しくは、特に、布帛等の繊維製品を無端状に結合した長尺のものを、液流によって走行させながら染色する装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、粉体の形態で提供される染料と、均染剤や浸透剤のような助剤などの各種薬品とを含む原料を、染色槽の近傍に設けた溶解槽中で溶媒(通常は、水または湯)に溶解させて調製した染色液を染色槽に供給して、その染色槽内を走行する無端状繊維製品が染色されている。
【0003】
本発明の背景技術である従来の染色装置について、図2を用いて説明する。図2において、1は染色のための原料を溶媒に溶解させて調製した染色液2を貯留する溶解槽、3は染色槽であり、後記するノズル20から噴射される染色液の圧力によって、無端状の布帛4は染色槽3から槽外の循環路3aを経て染色槽3に戻るという循環ループを形成する。5は溶解槽1内の染色液2を適切な温度に加熱するために高温蒸気を熱交換器6に供給する蒸気弁であり、図示しない温度センサーを備えている。蒸気弁5から熱交換器6に供給された高温蒸気により、溶解槽1内の染色液2は間接的に加熱される。7は溶解槽1内の染色液2を撹拌する撹拌機である。空気入口8から管路9を経て溶解槽1内に空気が供給されている。この管路9から溶解槽1内に排出される空気の圧力は、管路9の下端と溶解槽1内の染色液2の液面との間の高さにより変わるので、この排出空気の圧力を感知して溶解槽1内の液面の高さを監視することができる液面センサー10が管路9の端部に設置されている。
【0004】
溶解槽1内で所定の組成に調製された染色液2は、ポンプ11により経路12を経て送給される。染色槽3の底部には多孔板13が配置されている。染色槽3内の液体2aは多孔板13の孔部を経て染色槽3の最下端の底部から排出されて、経路12を流通する染色液2と一緒になって経路12a内を矢視方向に送給される。染色槽3の底部には、液体2aの量を適正範囲に調整するために、必要に応じて液体2aを排出するための流量調整弁14a、14bおよび14cが設けられている。
【0005】
経路12a内を流通する染色液は、流量調整弁14a、14bおよび14cから排出される液体と一緒になって経路15を経て、ポンプ16により熱交換器17に送給される。蒸気弁18から供給された高温蒸気により、熱交換器17内の染色液は間接的に加熱される。熱交換器17から排出される染色液はポンプ16により経路19を経て染色槽3に向けて送給され、染色槽3内のノズル20から布帛4に向けて噴射される。主に、ノズル20から噴射される染色液により、布帛4は染色される。21は、染色槽3内に加圧空気を供給する加圧弁である。
【0006】
例えば、特許文献1には、繊維製品の循環回数と薬液注入量との関係を決める基本パターンと、基本の循環時間とを設定する設定器、繊維製品の結合部を検知する継目検知器と、この継目検知器からの信号によって繊維製品の実際の循環時間を算出するとともに、この実際の循環時間と前記基本の循環時間とから薬液注入量の補正値を算出する演算部と、この演算部が算出した補正値に基づいて薬液注入ポンプの回転数を制御する制御部とを具備する、液流処理機の薬液注入装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平7−102468号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1に記載された薬液注入装置によれば、無端状に結合した長尺繊維の走行速度が変化した場合に、実際の長尺繊維の走行速度に応じて薬液注入量を変更させることができるが、染色が進む昇温過程で染料を注入するため、様々な染料の染色温度特性、染色pH特性に逐一対応する必要があり、そのデータ管理が煩雑である。
【0009】
本発明は、前記従来技術の課題を背景になされたもので、様々な染料の染色温度特性、染色pH特性に逐一対応する必要がなく、繊維製品を均一に染色することが可能な繊維製品の処理装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を解決するために本発明は、染色に必要な染料および各種薬品を含有する染色液を貯留するとともに加熱源を備えた溶解槽と、無端状に結合した繊維製品を染色液の噴射液流により循環走行させながら染色する染色槽とを有し、上記溶解槽から吐出される染色液と、上記染色槽から排出される液体とを混合した染色液を熱交換器に供給して昇温し、昇温後の染色液を染色槽に供給し、染色槽に設けた噴射ノズルから昇温後の染色液の噴射液流を繊維製品に向けて噴射することにより繊維製品を染色する繊維製品の処理装置において、溶解槽から染色液を吐出する手段として、無脈動ポンプを用いることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、比較的簡単な構成の設備でありながら、繊維製品を均一に染色することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、本発明の繊維製品の処理装置の概略構成を示す図である。
図2図2は、従来の染色装置の概略構成を示す図である。
図3図3は、本発明の繊維製品の処理装置を用いて布帛を染色した場合の一実施例における染色工程中の染色槽内の液体の昇温の様子を示す図である。
図4図4、本発明の繊維製品の処理装置を用いて布帛を染色した場合の別の実施例における染色工程中の染色槽内の液体の昇温の様子を示す図である。
図5図5は、本発明の繊維製品の処理装置を用いて布帛を染色した場合の比較例の染色工程中の染色槽内の液体の昇温の様子を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に本発明の好ましい実施の形態について説明する。
(1)染色液の濃度の均一性
繊維製品を均一に染色するためには、染料および各種薬品を含有する染色液中に染料が均一に分散していることが非常に重要である。そのための染色液の吐出手段として、実質的に単位時間当たりの吐出量が変化せずに、定量連続流を実現することができる無脈動ポンプを用いることが好ましい。
【0014】
(2)染色液の温度およびpH値
繊維製品を目標とする色に染色するためには、染色液の温度および染色液のpHが重要である。染料の種類によって染着温度(繊維製品が均一に染色されるために必要な下限温度)は異なるが、各染料の染色温度に適合するように段階的に昇温する方法は効率的でない。そこで、染色液に含まれる染料の染色温度の中の最高染色温度で染色することにより、繊維製品を効率的に均一に染色することができる。染色液のpHが適正数値であることも繊維製品を目標とする色に染色するための重要な条件であり、昇温前の所定の組成の染色液を染色に適したpH値に調整することができる。また、所定の組成の染色液の昇温過程において染色に適したpH値に調整することもできる。
【0015】
(3)染色液の温度
繊維製品が熱により変形しないようにするためには、染色液の温度は急激に上げないことが好ましい。具体的には、染色液の昇温速度は10℃/分以下であることが好ましく、5℃/分以下であることがより好ましい。
【0016】
(4)染色液の噴射流量
繊維製品に噴射される染色液の流量は、繊維製品を均一に染色するための重要な要素である。染色に必要な染料および各種薬品を含有する染色液の容量をv(m)とし、この染色液を用いて繊維製品を染色するに要する時間である染色時間をt(分)とした場合、染色時間tは、繊維製品の種類と、繊維製品の長さと、染料の種類と、染色液の容量と、繊維製品の走行速度とからなる要因によって変動する。例えば、繊維製品の走行速度が速い場合、染色液の噴射流量を現在より多くし、繊維製品の走行速度が遅い場合、染色液の噴射流量を現在より少なくすることにより、繊維製品を均一に染色することが可能である。繊維製品の走行速度と、繊維製品の種類と、繊維製品の長さと、染料の種類と、染色液の容量とによって決められる目標染色時間t(分)で染色液の容量v(m)を除した値であるv(m)/t(分)が染色液の噴射流量に相当する。繊維製品を均一に染色するためには、v(m)/t(分)からなる染色液の流量変化は少ないことが好ましい。
【0017】
次に、図1に示す本発明の繊維製品の処理装置を用いて布帛を染色する場合について説明する。図2に示す装置との違いは、染色液を吐出するポンプ11aとして、定量連続流を実現することができる無脈動ポンプ(例えば、(株)タクミナ社製の型式「TPL1M」または「TPL2M」)を使用することと、染色槽3のノズル20の近傍に温度センサー22を有する点である。
【0018】
[溶解槽における染色液の調製]
溶解槽1に染色のための原料(染料および必要な各種薬品)を投入して溶媒(水または湯)に溶解させて染色液2の成分を調製し、蒸気弁5を開弁して熱交換器6に高温蒸気を供給することによって染色液2を加熱する。また、攪拌機7を撹拌させて染色液2の温度を一様に上昇させる。このようにして、染色液2の温度を適正な初期温度(約30〜95℃程度)にする。
【0019】
[染色槽内の液体の昇温と染色槽内の加圧]
染色槽3内の水に染料以外の必要な各種薬品を添加して、流量調整弁14a、14bおよび14cを閉じ、水を主として含む液体2aを経路12aおよび15を経てポンプ16により熱交換器17に送給する。蒸気弁18を開弁して熱交換器17に高温蒸気を供給することによって、染色槽3から供給される水を主として含む液体を加熱する。熱交換器17内で加熱された液体をポンプ16により所定の圧力で経路19を経て染色槽3に設けたノズル20に向けて送給する。ノズル20から噴射される加圧液体の圧力によって布帛4は矢示方向に移動し、染色槽3から槽外の循環路3aを経て染色槽3に戻るという循環ループを形成する。
【0020】
上記したように、布帛を目標とする色に染色するためには染色液のpHは重要であるが、染色液を昇温する前の染色液の調製段階でpHを調整しておいてもよいし、染色液の昇温過程でpHを調整してもよい。
【0021】
布帛4が染色槽3内で移動を開始すると、加圧弁21を開弁して加圧空気を染色槽3内に導入して染色槽3内の圧力を徐々に上昇させる。このようにして、染色槽3内の水を主として含む液体2aは、経路12a、経路15、熱交換器17、経路19およびノズル20を経て染色槽3に戻る順路を循環することによって徐々に加温される。一方、加圧弁21から染色槽3内に導入される加圧空気と温度に対応した蒸気圧力により、染色槽3内の圧力は徐々に上昇する。
【0022】
[染色槽への染色液の供給]
そして、染色槽3内の圧力が1気圧以上に上昇して、染色槽3内の液体2aの温度が、溶解槽1に投入される染料の種類によって決まる所定の染色温度(染色液に含まれる染料の染色温度の中の最高染色温度、一概に決められないが、例えば、135℃)に達した時点で、無脈動ポンプ11aを駆動させる。この染色液の温度は温度センサー22によって感知することができる。無脈動ポンプ11aは定量連続流を実現することができるポンプであり、設備仕様によって決められる最高吐出圧の範囲内の吐出圧の下、最大吐出量を超えない吐出量を一定にすることができる性能を備えている。無脈動ポンプ11aは、吐出量(L/min)の平均値をMとし、吐出量(L/min)の最大値をL、最小値をSとした場合、脈動率((L−M)/M)の比率が5%以下であり、脈動率((S−M)/M)の比率が−5%以下である性能を備えている。
【0023】
無脈動ポンプ11aから吐出される染色液2は経路12を経て、染色槽3の最下端の底部から排出される液体2aと一緒になって、経路12aおよび経路15を経て熱交換器17に供給される。必要に応じて流量調整弁14a、14bおよび14cを経て染色槽3内の液体2aが排出されて、経路15を流通する染色液に混合される。無脈動ポンプ11aから吐出される染色液2の流量は実質的に変化せず一定であるから、染色槽3から排出される液体2aと混合された後の染色液中の染料の濃度に濃淡ができにくく、染料の濃度が均一な(染料が均一に分散している)染色液を得ることが可能である。
【0024】
かくして、均一濃度の染色液は熱交換器17で加熱された後、ポンプ16により所定の圧力で経路19を経て染色槽3に設けたノズル20に向けて送給される。ノズル20から噴射される染色液によって布帛4は所定の色に染色される。ノズル20から噴射される染色液は加圧されているから、その圧力によって、布帛4は、染色槽3から槽外の循環路3aを経て染色槽3に戻るという循環ループを形成する。
【0025】
また、溶解槽1は液面センサー10を備えており、液面センサー10により感知された溶解槽1内の液面高さが所定の高さより低ければ、無脈動ポンプ11aから吐出される染色液の流量が多いということであり、一方、液面センサー10により感知された溶解槽1内の液面高さが所定の高さより高ければ、無脈動ポンプ11aから吐出される染色液の流量が少ないということである。そこで、液面センサー10によって感知される液面高さによって、無脈動ポンプ11aから吐出される染色液の流量を制御することが可能である。
【0026】
しかしながら、無脈動ポンプ11aから吐出される染色液の流量が大きく変化することは、繊維製品を均一に染色することの妨げになる。そこで、当初溶解槽1において調製された染色液の容量をv(m)とし、最高染色温度における、繊維製品の走行速度と、繊維製品の種類と、繊維製品の長さと、染料の種類と、染色液の容量とによって決められる目標染色時間をt(分)とした場合、無脈動ポンプ11aから吐出される染色液の流量(m/分)は、「v/t±0.05×(v/t)」の範囲に含まれることが好ましい。
【0027】
[染色槽内の液体量の調整]
染色槽3内の液体2aの量をほぼ一定にして、布帛4を図1に示すような形態(布帛4の一部が液体2aに浸漬されて、蛇腹状を呈する状態)にするために、流量調整弁14a、14bおよび14cの開度が適宜調整されて、染色槽3の最下端の底部のみならず、流量調整弁14a、14bおよび14cを経由して染色槽3内の液体2aが必要に応じて排出される。染色槽3内の液体2aの量が少なすぎると、布帛4が均一に染色されにくくなる。一方、液体2aの量が多すぎると、布帛4を移動させるための抵抗力が過大となって、ノズル20から噴射される染色液の圧力だけでは、布帛4が循環ループを形成するためのエネルギーとして不足する。
【0028】
[染色液のpH調整]
布帛を目標とする色に染めるためには、染料の種類によって決まる染色液の温度が非常に重要であるが、染色液のpHも非常に重要な要素である。染料の種類によっては、弱酸性が最適な場合や弱アルカリ性が最適な場合がある。そこで、染色槽3内の液体2aのpHは最初に適正な数値に調整しておいてもよいし、液体2aの昇温過程において適正なpH値に調整してもよく、いずれにしても、適正なpH値の最高染色温度の染色液を布帛に噴射することにより布帛を均一に染色することができる
【実施例】
【0029】
以下、本発明の繊維製品の処理装置を用いて布帛を実際に染色した場合の実施例に基づいて本発明を説明するが、本発明の技術的範囲を逸脱しない範囲において様々な変更や修正が可能であることは言うまでもない。
【0030】
《実施例1》
以下の表1に示す組成の染料を溶解槽1に投入して、溶解槽1内の水に溶解させ、蒸気弁5を開弁して熱交換器6に高温蒸気を供給することによって染色液2を加熱した。そして、攪拌機7を撹拌させて染色液2の温度を約70℃に昇温した。染色液2の温度は蒸気弁5が備えている温度センサーで感知した。以下の表1、表4および表8において、%owfとは、布帛重量に対する染料の重量比率を示す。
【0031】
【表1】
【0032】
染色槽3内の水に以下の表2に示す組成の薬品を添加した。そして、流量調整弁14a、14bおよび14cを閉じ、水を主として含む液体2aを経路12aおよび15を経てポンプ16により熱交換器17に送給した。そして、蒸気弁18を開弁して熱交換器17に高温蒸気を供給することによって、染色槽3から供給された水を主として含む液体を加熱した。熱交換器17内で加熱された液体をポンプ16により、経路19を経て染色槽3に設けたノズル20に向けて送給した。ノズル20から噴射される加圧液体の圧力によってポリエステルフィラメント100%織物(経糸50デニール、緯糸75デニール)からなる布帛4は、染色槽3から槽外の循環路3aを経て染色槽3に戻るという循環ループを形成した。
【0033】
【表2】
【0034】
布帛4が染色槽3内で移動を開始すると、加圧弁21を開弁して加圧空気を染色槽3内に導入して染色槽3内の圧力を徐々に上昇させた。このようにして、染色槽3内の水を主として含む液体は、経路12a、経路15、熱交換器17、経路19およびノズル20を経て染色槽3に戻る順路を循環することによって徐々に加温された。一方、加圧弁21から染色槽3内に導入された加圧空気と温度に対応した蒸気圧力により、染色槽3内の圧力は徐々に上昇した。
【0035】
そして、温度センサー22によって感知した染色槽3内の液体2aの温度が、溶解槽1に投入された染料によって決まる所定の染色温度(染色液に含まれる染料の染色温度の中の最高染色温度、この場合は135℃)に達した時点で、無脈動ポンプ11aを駆動させた。無脈動ポンプ11は定量連続流を実現することができるポンプであるが、この実施例においては、吐出圧が0.5MPaで、吐出量は4(L/min)の一定値である。
【0036】
無脈動ポンプ11aから吐出された染色液2は経路12を経て、染色槽3から排出される液体と一緒になるが、無脈動ポンプ11aから吐出される染色液2の流量は実質的に変化せず一定であるから、染料の濃度が均一な染色液が熱交換器17に供給された。
【0037】
かくして、均一濃度の染色液は熱交換器17内で加熱された後、ポンプ16により経路19を経て染色槽3に設けたノズル20に向けて供給され、布帛4は、染色槽3から槽外の循環路3aを経て染色槽3に戻るという循環ループを形成した。溶解槽1において当初調製された染色液2の全量を染色槽3から排出された液体に混合してなる染色液を30分間ノズル20から噴射した後、蒸気弁18を閉じて、15分間かけて、染色槽3内の高温の液体を70℃まで冷却した後、布帛4を染色槽3から取り出した。135℃の染色液をノズル20から30分間噴射する際に、温度センサー22によって感知され染色液の温度を135℃に保持するように、蒸気弁18から熱交換器17に供給する高温蒸気の量を制御した。染色槽3から取り出した布帛4を観察すると、布帛4の全長は、目視で青色に均一に染色されたことを確認した。そして、布帛4の長手方向におけるL値、a値、b値および色差(△E)を、分光測色計を用いて測定した。その結果を、以下の表3に示す(以下の表3、表7および表10に示すL値、a値、b値は、国際照明委員会(CIE)で規格化されたCIELABより求められる値であり、△L、△a、△bは、0m地点の測色データを基準色とした場合の差を示す)。
【0038】
【表3】
【0039】
布帛4の長手方向に100m毎に分光測色計(コニカミノルタ社製 2600-d)で測色したところ、表3に示すように、色差を示す△Eは0.3以内であることから、全長に渡って均一に染色されていることが確認できた。図3は、この染色工程中の染色槽内の液体の昇温の様子を示す図であり、横軸は時間(分)、縦軸は温度(℃)である。
【0040】
また、この染色工程中において、染色槽3内の染色液2aの量をほぼ一定にして、布帛4を図1に示すような形態にするために、流量調整弁14a、14bおよび14cの開度を適宜調整して、染色槽3の最下端の底部のみならず、流量調整弁14a、14bおよび14cを経由して液体2aが必要に応じて排出されるようにした。
【0041】
《実施例2》
以下の表4に示す組成の染料を溶解槽1に投入して、溶解槽1内の水に溶解させ、蒸気弁5を開弁して熱交換器6に高温蒸気を供給することによって染色液2を加熱した。そして、攪拌機7を撹拌させて染色液2の温度を約30℃に昇温した。染色液2の温度は蒸気弁5が備えている温度センサーで感知した。
【0042】
【表4】
【0043】
染色槽3内の水に以下の表5に示す組成の薬品を添加した。流量調整弁14a、14bおよび14cを閉じ、水を主として含む液体2aを経路12aおよび15を経てポンプ16により熱交換器17に送給した。そして、蒸気弁18を開弁して熱交換器17に高温蒸気を供給することによって、染色槽3から供給された水を主として含む液体を加熱した。熱交換器17内で加熱された液体をポンプ16により、経路19を経て染色槽3に設けたノズル20に向けて送給した。ノズル20から噴射される加圧液体の圧力によってナイロンフィラメント100%織物(経糸20デニール、緯糸20デニール)からなる布帛4は、染色槽3から槽外の循環路3aを経て染色槽3に戻るという循環ループを形成した。
【0044】
【表5】
【0045】
布帛4が染色槽3内で移動を開始すると、加圧弁21を開弁して加圧空気を染色槽3内に導入して染色槽3内の圧力を徐々に上昇させた。このようにして、染色槽3内の水を主として含む液体は、経路12a、経路15、熱交換器17、経路19およびノズル20を経て染色槽3に戻る順路を循環することによって徐々に加温された。一方、加圧弁21から染色槽3内に導入された加圧空気と温度に対応した蒸気圧力により、染色槽3内の圧力は徐々に上昇した。
【0046】
そして、温度センサー22によって感知した染色槽3内の液体2aの温度が、溶解槽1に投入された染料によって決まる所定の染色温度(染色液に含まれる染料の染色温度の中の最高染色温度、この場合は95℃)に達した時点で、無脈動ポンプ11aを駆動させた。無脈動ポンプ11は定量連続流を実現することができるポンプであるが、この実施例においては、吐出圧が0.5MPaで、吐出量は1.6L/minの一定値である。
【0047】
無脈動ポンプ11aから吐出された染色液2は経路12を経て、染色槽3から排出される液体と一緒になるが、無脈動ポンプ11aから吐出される染色液2の流量は実質的に変化せず一定であるから、染料の濃度が均一な染色液が熱交換器17に供給された。
【0048】
かくして、均一濃度の染色液は熱交換器17内で加熱された後、ポンプ16により経路19を経て染色槽3に設けたノズル20に向けて供給され、布帛4は、染色槽3から槽外の循環路3aを経て染色槽3に戻るという循環ループを形成した。溶解槽1において当初調製された染色液2の全量を染色槽3から排出された液体に混合してなる染色液を60分間ノズル20から噴射した後、蒸気弁18を閉じて、10分間かけて、染色槽3内の高温の液体を70℃まで冷却した後、染色槽3内の染色液を廃液した。そして、染色槽3内に60℃の温水を供給し、この温水に以下の表6に示す組成のFix剤を添加し、染色工程時と同様に昇温した。95℃の染色液をノズル20から60分間噴射する際に、温度センサー22によって感知され染色液の温度を95℃に保持するように、蒸気弁18から熱交換器17に供給する高温蒸気の量を制御するとともに、Fix工程における染色液の温度を80℃に保持するように、蒸気弁18から熱交換器17に供給する高温蒸気の量を制御した。染色槽3から取り出した布帛4を観察すると、布帛4の全長は、目視で黒色に均一に染色されたことを確認した。そして、布帛4の長手方向におけるL値、a値、b値および色差(△E)を、分光測色計を用いて測定した。その結果を、以下の表7に示す。
【0049】
【表6】
【0050】
【表7】
【0051】
布帛4の長手方向に100m毎に分光測色計(コニカミノルタ社製 2600-d)で測色したところ、表7に示すように、色差を示す△Eは0.3以内であることから、全長に渡って均一に染色されていることが確認できた。図4は、この染色工程中の染色槽内の液体の昇温の様子を示す図であり、横軸は時間(分)、縦軸は温度(℃)である。
【0052】
また、この染色工程中において、染色槽3内の染色液2aの量をほぼ一定にして、布帛4を図1に示すような形態にするために、流量調整弁14a、14bおよび14cの開度を適宜調整して、染色槽3の最下端の底部のみならず、流量調整弁14a、14bおよび14cを経由して液体2aが必要に応じて排出されるようにした。
【0053】
《比較例》
上記実施例において、染色工程中の染色槽内の液体の温度を図5に示すように昇温させた点と、昇温前に染色槽3内の水に、表8に示す組成の染料と表9に示す組成の薬品を添加した点を除けば、実施例1と同じようにポリエステルフィラメント100%織物(経糸50デニール、緯糸75デニール)からなる布帛4を染色した。図5の横軸は時間(分)、縦軸は温度(℃)である。
【0054】
【表8】
【0055】
【表9】
【0056】
この比較例においては、温度センサー22によってノズル20から噴射される染色液の温度を監視して、蒸気弁18から熱交換器17に供給する高温蒸気の量を制御することで、図5に示すように昇温をした、そして、ノズル20から噴射される染色液の温度を30分間、135℃に保持するように、蒸気弁18から熱交換器17に供給する高温蒸気の量を制御した。その後、蒸気弁18を閉じて、15分間かけて、染色槽3内の高温の液体を70℃まで冷却した後、布帛4を染色槽3から取り出した。
【0057】
染色槽3から取り出した布帛4を観察すると、青色を基調としていたが、ところどころに目視で青味の部分と黄味の部分が見られた。そして、布帛4の長手方向におけるL値、a値、b値および色差(△E)を、分光測色計を用いて測定した。その結果を、以下の表10に示す。
【0058】
【表10】
【0059】
布帛4の長手方向に100m毎に分光測色計(コニカミノルタ社製 2600-d)で測色したところ、表10に示すように、色差を示す△Eには最大約0.5の差が見られ、青味、黄味を示す△bについても、最大0.46の差が確認された。また、比較例の布帛4の全長における染色均一性は実施例1および2に比べて劣っていた。この原因としては、比較例は120℃および130℃の温度保持工程を有しており、比較例は、実施例1および2に比べて複雑な昇温工程となっているため、染色液の温度制御が十分できず、±5℃程度の温度ばらつきがあったことによると思われる。
【0060】
実施例1の染色時間(冷却工程を含む)は、90分(10分+35分+30分+15分)であり、実施例2の染色時間(冷却工程を含む)は、100分(10分+20分+60分+10分)であり、比較例の染色時間(冷却工程を含む)は、130分(10分+30分+10分+10分+15分+10分+30分+15分)である。このように、上記実施例1および2の染色方法によれば、比較例のように段階的に昇温しながら染色する方法に比べて、生産性を向上することが可能であり、上記比較例と比べると、約1.30〜1.44倍生産性を向上することができた。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明は、あらゆる繊維製品を均一に効率的に染色することができる、産業上極めて有用な発明である。
【符号の説明】
【0062】
1 溶解槽
2 染色液
2a 液体
3 染色槽
4 布帛
5 蒸気弁
6 熱交換器
7 撹拌機
8 空気入口
9 管路
10 液面センサー
11 ポンプ
11a 無脈動ポンプ
12、12a 経路
13 多孔板
14a、14b、14c 流量調整弁
15 経路
16 ポンプ
17 熱交換器
18 蒸気弁
19 経路
20 ノズル
21 加圧弁
22 温度センサー
図1
図2
図3
図4
図5