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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2015-190087(P2015-190087A)
(43)【公開日】2015年11月2日
(54)【発明の名称】書籍用紙
(51)【国際特許分類】
   D21H 21/16 20060101AFI20151006BHJP
   D21H 19/12 20060101ALI20151006BHJP
   B41M 5/00 20060101ALI20151006BHJP
   B41M 5/50 20060101ALI20151006BHJP
   B41M 5/52 20060101ALI20151006BHJP
【FI】
   D21H21/16
   D21H19/12
   B41M5/00 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2014-68894(P2014-68894)
(22)【出願日】2014年3月28日
(71)【出願人】
【識別番号】000183484
【氏名又は名称】日本製紙株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100126169
【弁理士】
【氏名又は名称】小田 淳子
(74)【代理人】
【識別番号】100130812
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 淳
(72)【発明者】
【氏名】荒樋 周
(72)【発明者】
【氏名】久津輪 幸二
【テーマコード(参考)】
2H186
4L055
【Fターム(参考)】
2H186BA11
2H186BB05X
2H186BB10X
2H186BB46X
2H186CA07
2H186CA15
2H186DA14
4L055AA03
4L055AC06
4L055AF09
4L055AG08
4L055AG12
4L055AG48
4L055AG56
4L055AG63
4L055AG71
4L055AG89
4L055AG97
4L055AH09
4L055AH13
4L055AH16
4L055BE08
4L055CD05
4L055CH02
4L055CH11
4L055EA10
4L055EA33
4L055FA15
4L055GA50
(57)【要約】      (修正有)
【課題】オフセット印刷方式の書籍と同等の文字品位と風合いが得られると共に、裏抜けが抑制された、インクジェット印刷方式に適する書籍用紙を提供する。
【解決手段】パルプを含有する原料を抄紙してなり、顔料を含有しないクリア塗工層を有する書籍用紙において、前記クリア塗工層が、水溶性高分子物質及び疎水性高分子のエマルジョンから選ばれる少なくとも1種とサイズ剤とを含有し、前記クリア塗工層の全固形分に対し、サイズ剤が固形分で0.01〜3.0重量%であり、JIS P8122:2004に規定されるステキヒトサイズ度が5秒以下であることを特徴とする書籍用紙。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
パルプを含有する原料を抄紙してなり、顔料を含有しないクリア塗工層を有する書籍用紙において、前記クリア塗工層が、水溶性高分子物質及び疎水性高分子のエマルジョンから選ばれる少なくとも1種とサイズ剤とを含有し、前記クリア塗工層の全固形分に対し、サイズ剤が固形分で0.01〜3.0重量%であり、JIS P8122:2004に規定されるステキヒトサイズ度が5秒以下であることを特徴とする書籍用紙。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、書籍用紙に関するものであり、さらに詳しくは、インクジェット印刷方式に適する書籍用紙に関する。
【背景技術】
【0002】
書籍用紙は、主に書籍の本文用紙として用いられる紙であり、現在はオフセット印刷方式で大量印刷される用紙として、出版社や印刷会社などで使用されているが、近年、従来オフセット印刷方式が主流であった分野にも、インクジェット印刷方式が進出してきている。書籍用紙の分野においても、少量の印刷需要に応える形でインクジェット印刷方式が採用されつつある。
オフセット印刷方式では印刷版を製版する必要があるが、インクジェット印刷方式では製版の必要がない。そのため、大量印刷の場合は、製版分を加味してもオフセット印刷方式の方が安価であるが、少量印刷の場合は、製版分の比重が大きいため、インクジェット印刷方式の方が安価となることが多い。また、インクジェット印刷方式は、可変情報の連続印刷が可能である、色調整が容易で印刷機の操作等に熟練する必要がない、使用後の版を廃棄する必要がなく環境に優しい、などのメリットがある。
特に書籍用紙の分野においては、必要な時に必要な分だけ印刷し、滞留在庫と返品処理を削減してコストダウンにつなげる、あるいは、オフセット印刷方式ではコストが合わないような絶版書籍を、要望に応じて少量再版するなど、少ロット対応が容易であるというインクジェット印刷方式の特徴を活かした、各種の試みが行われている。
【0003】
ここで、書籍用紙の分野において、インクジェット印刷方式によりオフセット印刷方式を代替することを考慮すると、従来のオフセット印刷方式の書籍と同等の品質、具体的には文字品位と風合いが、インクジェット印刷方式の書籍にも求められることになる。
一般に、インクジェット印刷方式はオフセット印刷方式と比較して、印刷画像、特に文字の線が太くなるという、いわゆる「線太り」や「文字太り」と呼ばれる現象が発生しやすい。書籍では画数の多い漢字や細かい振り仮名(ルビ)などが多用されることから、特に線太りの抑制が重要となる。
また、長時間文字を読んでも視認性が高く目が疲れにくいように、書籍用紙の面感は光沢がない素の紙に近いものが、色調は白色よりもやや黄が掛かった、クリーム色であることが好まれる。
さらに、インクジェット印刷方式はオフセット印刷方式と比較して、インクが基紙の中まで浸透しやすいため、印刷画像や文字が基紙の反対面に透けて見える、いわゆる「裏抜け」の問題が発生しやすい。書籍では一般に基紙の両面に印刷することから、裏抜けの抑制が重要となる。
しかし、インクの浸透を抑制しすぎると、今度はインクが基紙の表面に長く留まるようになるため、印刷後に重ねると、未乾燥のインクが他の印刷物や基紙に転移して汚してしまう、いわゆる「セットオフ」の問題が発生しやすくなる。インクジェット印刷方式で使用するインク(インクジェットインク)は、通常オフセット印刷方式で使用するインク(インキ)よりも水などの溶媒成分が多いため、インクジェット印刷方式の書籍に使用する書籍用紙では、特にインクの乾燥性を良好として、セットオフを抑制することが重視される。
【0004】
書籍用紙の分野では、機械パルプを使用した基紙にゼオライトを含有させ、低密度化することで、オフセット印刷方式のインクを吸収しやすくして印刷適性を向上させた、印刷用紙が開示されている(特許文献1)。また、ラワン材等のフタバガキ類の広葉樹晒クラフトパルプ(LBKP)を使用した基紙に炭酸カルシウムを含有させ、低密度化することで、印刷活字の裏写りがなく、印刷適性を向上させた書籍用紙が開示されている(特許文献2)。
インクジェット印刷方式において線太りと裏抜けを抑制する方法として、シリカ、酸化アルミニウム(アルミナ)など空隙の多い嵩高な顔料と、ポリビニルアルコール、澱粉などのバインダーとを含有するインク受容層を、基紙上に塗工して設けることは一般に知られている。しかし、書籍用紙において顔料を含有するインク受容層(即ち、顔料塗工層)を設けた場合、従来の顔料塗工層を有さない書籍用紙とは風合いが大きく異なってしまうため、オフセット印刷方式の書籍と同等の品質を得ることができない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−336088号
【特許文献2】特開平10−204790号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで本発明は、オフセット印刷方式の書籍と同等の文字品位と風合いが得られると共に、裏抜けとセットオフが抑制された、インクジェット印刷方式に適する書籍用紙を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を鋭意検討した結果、顔料を含有しないクリア塗工層を有する書籍用紙において、クリア塗工層にバインダーと特定量のサイズ剤を含有させると共に、ステキヒトサイズ度を小さくしてインクの吸収性を高めることで、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、パルプを含有する原料を抄紙してなり、顔料を含有しないクリア塗工層を有する書籍用紙において、前記クリア塗工層が、水溶性高分子物質及び疎水性高分子のエマルジョンから選ばれる少なくとも1種とサイズ剤とを含有し、前記クリア塗工層の全固形分に対し、サイズ剤が固形分で0.01〜3.0重量%であり、JIS P8122:2004に規定されるステキヒトサイズ度が5秒以下であることを特徴とする書籍用紙である。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、オフセット印刷方式の書籍と同等の文字品位と風合いが得られると共に、裏抜けとセットオフが抑制された、インクジェット印刷方式に適する書籍用紙が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
【0010】
本発明の書籍用紙は、パルプを含有する原料を抄紙してなり、顔料を含有しないクリア塗工層を有する書籍用紙であって、該クリア塗工層が、水溶性高分子物質及び疎水性高分子のエマルジョンから選ばれる少なくとも1種とサイズ剤とを含有し、該クリア塗工層の全固形分に対し、サイズ剤が固形分で0.01〜3.0重量%であり、JIS P8122:2004に規定されるステキヒトサイズ度が5秒以下であることを特徴としている。
本発明の書籍用紙は、単行本(ハードカバー)、新書、文庫(ソフトカバー)、漫画(コミック)、参考書等の学術書などの各種書籍に用いることができる。
【0011】
本発明の書籍用紙は顔料を含有しないクリア塗工層を有するため、従来のオフセット印刷方式の書籍と同等の風合い(光沢がない素の紙に近いもの)が得られる。また、クリア塗工層に水溶性高分子物質及び疎水性高分子のエマルジョンから選ばれる少なくとも1種のバインダーとサイズ剤とを含有させ、クリア塗工層の全固形分に対し、サイズ剤を固形分で0.01〜3.0重量%として、インクジェットインクの基材表面での拡散と基材の中への浸透を適度に抑制することにより、文字太りが発生せず良好な文字品位が得られると共に、裏抜けが抑制される。クリア塗工層の全固形分に対し、サイズ剤が固形分で0.01重量%未満であると、インクの基材表面での拡散と基材の中への浸透を抑制することができないため、文字品位と裏抜けが劣る。一方、3.0重量%を超えると、インクの基材表面での拡散と基材の中への浸透が過度に抑制されるため、特に画数の多い漢字や細かい振り仮名(ルビ)では文字の縁における毛羽立ち(フェザリング)が目立ち、文字品位が低下する。
さらに、本発明の書籍用紙はJIS P8122:2004に規定されるステキヒトサイズ度を5秒以下に調整して、インクジェットインクが基紙の表面に長く留まりすぎないようにすることで、インクの乾燥性が良好となり、セットオフが抑制される。ステキヒトサイズ度が5秒より高いと、インクの基材の中への浸透が抑制されるため、裏抜けは良好であるが、インクの乾燥性が不十分となりセットオフが劣る。ステキヒトサイズ度は3秒以下が好ましく、1秒以下がより好ましい。
【0012】
[パルプ]
本発明の書籍用紙は、パルプを含有する原料を抄紙してなる。パルプとしては、公知のものが使用可能であり特に制限されないが、価格や入手が安易であることから、木材パルプを主成分とすることが好ましい。
木材パルプとしては、針葉樹の晒クラフトパルプ(NBKP)、未晒クラフトパルプ(NUKP)、広葉樹の晒クラフトパルプ(LBKP)、未晒クラフトパルプ(LUKP)等の化学パルプ、グランドパルプ(GP)、リファイナグランドパルプ(RGP)、セミケミカルパルプ(SCP)、ケミグランドパルプ(CGP)、サーモメカニカルパルプ(TMP)等の機械パルプ、脱墨パルプ(DIP)などを例示することが可能である。これらのパルプは単独または任意の割合で混合して使用することができる。
【0013】
[填料]
本発明の上記原料には、白色度や不透明度を向上させるために、填料を添加することが望ましい。填料としては、公知のものが使用可能であり特に制限されないが、例えば、重質炭酸カルシウムや軽質炭酸カルシウムなどの炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸バリウム、酸化亜鉛、酸化珪素、水酸化カルシウム、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、水酸化亜鉛、カオリン、焼成カオリン、デラミネートカオリン、クレー、タルク、シリカ、非晶質シリカ、酸化チタン、ベントナイト等の無機填料、尿素−ホルマリン樹脂、ポリスチレン樹脂、メラミン樹脂、フェノール樹脂、微小中空粒子等の有機填料などを例示することが可能である。また、製紙スラッジや脱墨フロス等を原料とした再生填料も使用することができる。これらの填料は単独または適宜2種類以上を組み合わせて使用することができる。
本発明では、安価であり、且つ白色度や不透明度の向上効果が高いため、炭酸カルシウムを使用することが好ましい。また、特開2003−212539号公報あるいは特開2005−219945号公報に記載の軽質炭酸カルシウム−シリカ複合物などの、炭酸カルシウム複合填料を使用することも好ましい。
【0014】
本発明において、填料の添加量は特に制限されるものではないが、書籍用紙の絶乾重量に対し、灰分が3〜35重量%となるように添加することが好ましく、8〜30重量%となるように添加することがより好ましい。
書籍用紙の灰分とは、書籍用紙に含まれる無機物の量を示し、基本的には上記原料に添加した填料の量を反映するが、DIP等のパルプから持ち込まれる填料等に由来する無機物も含まれる。DIPから持ち込まれる無機物は炭酸カルシウムが主体であるが、DIPの原料となる新聞古紙や雑誌古紙等の古紙の種類や回収状況などにより、炭酸カルシウム以外の無機物を含有することもある。
なお、書籍用紙の灰分は、JIS P 8251に規定される、紙および板紙の灰分試験方法に準拠し、燃焼温度を525±25℃に設定した方法で測定される。
【0015】
[助剤]
本発明において、上記原料には、本発明の効果を損なわない範囲で、通常抄紙工程で使用される公知の助剤、例えば、ポリアクリルアミド系高分子、ポリビニルアルコール系高分子、カチオン性澱粉、各種変性澱粉、尿素・ホルマリン樹脂、メラミン・ホルマリン樹脂等の乾燥紙力剤、ポリアミドポリアミンエピクロロヒドリン樹脂等の湿潤紙力剤、ロジン系サイズ剤、アクリルケテンダイマー(AKD)系サイズ剤、アルケニル無水コハク酸(ASA)系サイズ剤、石油系サイズ剤等のサイズ剤、硫酸バンド、色味染料、色味顔料、蛍光増白剤、嵩高剤、歩留向上剤、濾水性向上剤、凝結剤、消泡剤、pH調整剤、紫外線防止剤、退色防止剤、ピッチコントロール剤、スライムコントロール剤などを添加することが可能である。これらの助剤は、要求される品質に応じて、単独または適宜2種類以上を組み合わせて使用することができる。
本発明の書籍用紙は、JIS P8122:2004に規定されるステキヒトサイズ度を5秒以下に調整するため、上記原料に添加するサイズ剤は、パルプの固形分に対し、サイズ剤が固形分で0.2重量%以下となるように添加することが好ましく、0.05重量%以下となるように添加することがより好ましく、サイズ剤を添加しないことが特に好ましい。
【0016】
[抄紙]
本発明において、上記原料を抄紙する際のpHは、酸性、中性、アルカリ性のいずれでも良い。また、抄紙方法は特に限定されるものではなく、長網抄紙機、ギャップフォーマー、オントップフォーマー等のツインワイヤー抄紙機、ギャップフォーマー抄紙機、ヤンキー抄紙機、円網抄紙機、これらの併用抄紙機などを用いることができる。
【0017】
[クリア塗工層]
本発明の書籍用紙は、水溶性高分子物質及び疎水性高分子のエマルジョンから選ばれる少なくとも1種とサイズ剤とを含有するクリア塗工層を有する。本発明のクリア塗工層は、顔料を含有しない、即ち、シリカ、酸化アルミニウム(アルミナ)等の無機顔料、あるいはポリスチレン樹脂、微小中空粒子等の有機顔料を含有しない塗工層である。
【0018】
[水溶性高分子物質]
水溶性高分子物質としては、例えば、澱粉、酵素変性澱粉、熱化学変性澱粉、酸化澱粉、エステル化澱粉、アルデヒド化澱粉、ヒドロキシエチル化澱粉、ヒドロキシプロピル化澱粉、カチオン化澱粉等の澱粉類、ポリビニルアルコール、完全ケン化ポリビニルアルコール、部分ケン化ポリビニルアルコール、カルボキシ変性ポリビニルアルコール、シラノール変性ポリビニルアルコール、カチオン変性ポリビニルアルコール、末端アルキル変性ポリビニルアルコール等のポリビニルアルコール類、ポリアクリルアミド、カチオン性ポリアクリルアミド、アニオン性ポリアクリルアミド、両性ポリアクリルアミド等のポリアクリルアミド類等、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、メチルセルロース等のセルロース誘導体などを例示することが可能である。これらの水溶性高分子物質は、要求される品質に応じて、単独または適宜2種類以上を組み合わせて使用することができる。
【0019】
[疎水性高分子のエマルジョン]
疎水性高分子のエマルジョンとしては、例えば、スチレン・ブタジエン共重合体、ポリ酢酸ビニル、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリアクリル酸エステルなどのエマルジョンなどを例示することが可能である。これらの疎水性高分子のエマルジョンは、要求される品質に応じて、単独または適宜2種類以上を組み合わせて使用することができる。
【0020】
[サイズ剤]
サイズ剤としては、例えば、アクリルケテンダイマー(AKD)系サイズ剤、アルケニル無水コハク酸(ASA)系サイズ剤、スチレン−マレイン酸系共重合体樹脂、スチレン−アクリル酸系共重合体樹脂、α−オレフィン−マレイン酸系共重合体樹脂、アクリル酸エステル−アクリル酸系共重合体樹脂、アルキル(メタ)アクリレート系樹脂、スチレン−アクリレート系共重合体樹脂などを例示することが可能である。これらのサイズ剤は、要求される品質に応じて、単独または適宜2種類以上を組み合わせて使用することができる。
【0021】
[助剤]
本発明において、クリア塗工層には、本発明の効果を損なわない範囲で、更に耐水化剤、分散剤、増粘剤、可塑剤、pH調整剤、消泡剤、保水剤、防腐剤、色味染料、色味顔料、蛍光増白剤、紫外線防止剤、退色防止剤等の各種助剤を含有させてもよい。
【0022】
[塗工]
本発明の書籍用紙がクリア塗工層を有する場合、上記原料を抄紙してなる基紙の片面あるいは両面に、水溶性高分子物質及び疎水性高分子のエマルジョンから選ばれる少なくとも1種とサイズ剤とを含有するクリア塗工層用塗工液を、塗工あるいは含浸させ、乾燥してクリア塗工層が形成される。
クリア塗工層用塗工液の塗工方法は特に限定されるものではなく、ポンド式2ロールサイズプレス、ロッドメタリングサイズプレス、ゲートロールコーター、カーテンコーター、スプレーコーターなどの各種装置が使用可能である。また、クリア塗工層用塗工液の固形分濃度は、組成や塗工方法などにより適宜調整されるが、通常5〜15重量%程度である。
クリア塗工層の塗工量は、書籍用紙の片面あたり固形分で0.1〜3.0g/mであることが好ましく、片面あたり0.3〜1.5g/mであることがより好ましい。片面あたり0.1g/m未満であると、クリア塗工層を有する効果が十分に得られない可能性がある。また、片面あたり3.0g/mを超えると、ステキヒトサイズ度を5秒以下に調整することが困難となる可能性がある。
【0023】
[カレンダー処理]
本発明の書籍用紙は、要求される品質に応じて表面をカレンダー処理してもよい。カレンダー処理を行う場合の処理方法及び処理条件は特に限定されるものではなく、金属ロールからなるチルドカレンダー、樹脂ロールからなるソフトニップカレンダー、高温ソフトニップカレンダー等の各種公知の装置が使用可能であり、制御可能な範囲内で処理条件を設定すればよい。
【0024】
本発明の書籍用紙は、坪量が40〜130g/mであることが好ましい。坪量が130g/mより高いと、得られた書籍の重量が重くなりすぎることがある。
【実施例】
【0025】
以下、実施例にて本発明を例証するが本発明を限定することを意図するものではない。なお、説明中、部及び%はそれぞれ有効分での重量部及び重量%を示す。また、塗工量は片面あたりの固形分である。
パルプの濾水度(カナダ標準濾水度、以下「CSF」という。)はJIS P8121に準じて測定した。
【0026】
[実施例1]
パルプ原料としてCSF340mlの広葉樹晒クラフトパルプ(LBKP)100部を使用し、パルプ100部に対して、紙力増強剤(カチオン化澱粉)0.6部、硫酸アルミニウム0.7部を配合し、更に基紙の灰分が18%となるように軽質炭酸カルシウムを配合した原料を、ツインワイヤー抄紙機を用いて速度800m/分で抄紙して坪量71.6g/mの基紙を得た。
次いで、上記基紙の両面に、水溶性高分子物質(酸化澱粉、日本食品化工社製、商品名:MS#3800)を9.2%及びサイズ剤(スチレン−アクリル酸系共重合体樹脂、ハリマ化成社製、商品名:KN−630)を0.05%含有するクリア塗工層用塗工液を、塗工量が1.2g/m(両面での塗工量が2.4g/m)となるようにゲートロールコーターで塗工、乾燥してクリア塗工層を形成し、ソフトニップカレンダーで表面を処理して、坪量74.0g/mの書籍用紙を得た。
この書籍用紙のJIS P8122:2004に規定されるステキヒトサイズ度は0秒であり、クリア塗工層の全固形分に対するサイズ剤は固形分で0.5%であった。
【0027】
[実施例2]
パルプ原料としてCSF340mlのLBKP100部を使用し、パルプ100部に対して、紙力増強剤(カチオン化澱粉)0.6部、硫酸アルミニウム0.7部、サイズ剤(アルキルケテンダイマー、星光PMC社製、商品名:AD1604)0.02部を配合し、更に基紙の灰分が18%となるように軽質炭酸カルシウムを配合した原料を、ツインワイヤー抄紙機を用いて速度800m/分で抄紙して坪量71.6g/mの基紙を得た。
次いで、上記基紙の両面に、水溶性高分子物質(酸化澱粉、日本食品化工社製、商品名:MS#3800)を9.2%及びサイズ剤(スチレン−アクリル酸系共重合体樹脂、ハリマ化成社製、商品名:KN−630)を0.07%含有するクリア塗工層用塗工液を、塗工量が1.2g/m(両面での塗工量が2.4g/m)となるようにゲートロールコーターで塗工、乾燥してクリア塗工層を形成し、ソフトニップカレンダーで表面を処理して、坪量74.0g/mの書籍用紙を得た。
この書籍用紙のJIS P8122:2004に規定されるステキヒトサイズ度は1秒であり、クリア塗工層の全固形分に対するサイズ剤は固形分で0.8%であった。
[実施例3]
基紙の坪量を71.6g/mとして、水溶性高分子物質(酸化澱粉、日本食品化工社製、商品名:MS#3800)を5.2%及びサイズ剤(スチレン−アクリル酸系共重合体樹脂、ハリマ化成社製、商品名:KN−630)を0.07%含有するクリア塗工層用塗工液を、塗工量が1.2g/m(両面での塗工量が2.4g/m)となるようにゲートロールコーターで塗工、乾燥してクリア塗工層を形成した以外は、実施例2と同様にして坪量74.0g/mの書籍用紙を得た。
この書籍用紙のJIS P8122:2004に規定されるステキヒトサイズ度は2秒であり、クリア塗工層の全固形分に対するサイズ剤は固形分で1.3%であった。
[実施例4]
基紙の坪量を71.6g/mとして、水溶性高分子物質(酸化澱粉、日本食品化工社製、商品名:MS#3800)を2.5%及びサイズ剤(スチレン−アクリル酸系共重合体樹脂、ハリマ化成社製、商品名:KN−630)を0.07%含有するクリア塗工層用塗工液を、塗工量が1.2g/m(両面での塗工量が2.4g/m)となるようにゲートロールコーターで塗工、乾燥してクリア塗工層を形成した以外は、実施例2と同様にして坪量74.0g/mの書籍用紙を得た。
この書籍用紙のJIS P8122:2004に規定されるステキヒトサイズ度は5秒であり、クリア塗工層の全固形分に対するサイズ剤は固形分で2.7%であった。
[実施例5]
基紙の坪量を68.0g/mとして、水溶性高分子物質(酸化澱粉、日本食品化工社製、商品名:MS#3800)を9.2%及びサイズ剤(スチレン−アクリル酸系共重合体樹脂、ハリマ化成社製、商品名:KN−630)を0.07%含有するクリア塗工層用塗工液を、塗工量が3.0g/m(両面での塗工量が6.0g/m)となるようにゲートロールコーターで塗工、乾燥してクリア塗工層を形成した以外は、実施例2と同様にして坪量74.0g/mの書籍用紙を得た。
この書籍用紙のJIS P8122:2004に規定されるステキヒトサイズ度は5秒であり、クリア塗工層の全固形分に対するサイズ剤は固形分で0.8%であった。
【0028】
[比較例1]
パルプ原料のパルプ100部に対して、サイズ剤(アルキルケテンダイマー、星光PMC社製、商品名:AD1604)を0.2部配合した以外は実施例2と同様にして書籍用紙を得た。 この書籍用紙のJIS P8122:2004に規定されるステキヒトサイズ度は20秒であり、クリア塗工層の全固形分に対するサイズ剤は固形分で0.8%であった。
[比較例2]
基紙の坪量を68.0g/mとして、水溶性高分子物質(酸化澱粉、日本食品化工社製、商品名:MS#3800)を7.2%及びサイズ剤(スチレン−アクリル酸系共重合体樹脂、ハリマ化成社製、商品名:KN−630)を0.07%含有するクリア塗工層用塗工液を、塗工量が3.0g/m(両面での塗工量が6.0g/m)となるようにゲートロールコーターで塗工、乾燥してクリア塗工層を形成した以外は、実施例2と同様にして書籍用紙を得た。
この書籍用紙のJIS P8122:2004に規定されるステキヒトサイズ度は7秒であり、クリア塗工層の全固形分に対するサイズ剤は固形分で1.0%であった。
[比較例3]
基紙の坪量を71.6g/mとして、水溶性高分子物質(酸化澱粉、日本食品化工社製、商品名:MS#3800)を2.2%及びサイズ剤(スチレン−アクリル酸系共重合体樹脂、ハリマ化成社製、商品名:KN−630)を0.07%含有するクリア塗工層用塗工液を、塗工量が1.2g/m(両面での塗工量が2.4g/m)となるようにゲートロールコーターで塗工、乾燥してクリア塗工層を形成した以外は、実施例2と同様にして書籍用紙を得た。
この書籍用紙のJIS P8122:2004に規定されるステキヒトサイズ度は7秒であり、クリア塗工層の全固形分に対するサイズ剤は固形分で3.1%であった。
[比較例4]
基紙の坪量を71.6g/mとして、水溶性高分子物質(酸化澱粉、日本食品化工社製、商品名:MS#3800)を9.2%含有するクリア塗工層用塗工液を、塗工量が1.2g/m(両面での塗工量が2.4g/m)となるようにゲートロールコーターで塗工、乾燥してクリア塗工層を形成した以外は、実施例2と同様にして書籍用紙を得た。
この書籍用紙のJIS P8122:2004に規定されるステキヒトサイズ度は0秒であり、クリア塗工層の全固形分に対するサイズ剤は固形分で0%であった。
[比較例5]
基紙の坪量を69.0g/mとして、クリア塗工層用塗工液を下記配合の顔料塗工液に代え、塗工量が2.5g/m(両面での塗工量が5.0g/m)となるようにゲートロールコーターで塗工、乾燥して顔料塗工層を形成した以外は実施例2と同様にして坪量74.0g/mの書籍用紙を得た。
この書籍用紙のJIS P8122:2004に規定されるステキヒトサイズ度は5秒であった。
<顔料塗工液>
重質炭酸カルシウム(ファイマテック社製、商品名:FMT−90) 56.3部
スチレン・ブタジエン共重合体ラテックス(JSR社製、
商品名:NP−150B) 3.8部
澱粉(敷島スターチ社製、商品名:マーメイド210) 1.0部
水 91.7部
【0029】
以上のようにして得た書籍用紙について以下の評価を行った。
<発色性>
作製した書籍用紙について、市販の顔料インクジェットプリンター(製品名:CM8060 ColorMFP、ヒューレット・パッカード社製、印字条件:つや消し/ブローシャモード)を使用して、ブラック、シアン、マゼンタ、イエローのベタ印字(大きさ:縦2cm×横3cm)を行った。1日後にマクベス濃度計(Gretag Macbeth RD−19)を用いて各色の印字濃度を測定し、4色の合計値で発色性を評価した。
【0030】
<文字品位(線太り率)>
作製した書籍用紙について、市販の顔料インクジェットプリンター(製品名:CM8060 ColorMFP、ヒューレット・パッカード社製、印字条件:つや消し/ブローシャモード)及び電子写真用レーザープリンター(製品名:LP−S7100、セイコーエプソン社製、印字条件:きれいモード)を使用して、ブラックでそれぞれ幅0.3mmの直線画像を印字した。
電子写真用レーザープリンターで印字した直線画像の幅と顔料インクジェットプリンターで印字した直線画像の幅から、下記式にて線太り率を算出し、文字品位を評価した。
線太り率(%)=(顔料インクジェットプリンターで印字した直線画像の幅/
電子写真用レーザープリンターで印字した直線画像の幅)×100
【0031】
<裏抜け>
作製した書籍用紙について、市販の顔料インクジェットプリンター(製品名:CM8060 ColorMFP、ヒューレット・パッカード社製、印字条件:つや消し/ブローシャモード)を使用して、ブラックのベタ印字(大きさ:縦2cm×横3cm)を行った。
1日後に印字面とは反対の面から、黒ベタの濃度をマクベス濃度計(Gretag Macbeth RD−19)を用いて測定し、以下の基準で裏抜けを評価した。評価は◎、○、△であれば実用上問題はない。
◎:濃度が0.10未満である。
○:濃度が0.10以上0.15未満である。
△:濃度が0.15以上0.20未満である。
×:濃度が0.20以上である。
【0032】
<セットオフ(インク乾燥性)>
作製した書籍用紙について、市販の顔料インクジェットプリンター(製品名:CM8060 ColorMFP、ヒューレット・パッカード社製、印字条件:つや消し/ブローシャモード)を使用して、ブラックのベタ印字(大きさ:縦2cm×横3cm)を行った。
印字10秒後に印字面の上に坪量80g/mの上質紙1枚を重ね、直径10cm、幅13cm、重量2.7kgのゴムローラーで1回加圧した後、上質紙に転写された黒ベタの濃度をマクベス濃度計(Gretag Macbeth RD−19)を用いて測定し、以下の基準で評価した。評価は◎、○であれば実用上問題はない。
◎:上質紙に転写された黒ベタの濃度が0.10未満である。
○:上質紙に転写された黒ベタの濃度が0.10以上0.15未満である。
△:上質紙に転写された黒ベタの濃度が0.15以上0.20未満である。
×:上質紙に転写された黒ベタの濃度が0.20以上である。
【0033】
<風合い>
作製した書籍用紙について、表面の面感を目視にて下記の基準で評価した。
○:オフセット印刷方式の書籍の風合いが得られている。
×:オフセット印刷方式の書籍の風合いが得られない。
【0034】
実施例及び比較例で得られた書籍用紙の紙質及び評価結果を表1に示す。
【0035】
【表1】
【0036】
表1から明らかなように、顔料を含有しないクリア塗工層を有し、該クリア塗工層が、水溶性高分子物質及び疎水性高分子のエマルジョンから選ばれる少なくとも1種とサイズ剤とを含有し、前記クリア塗工層の全固形分に対し、サイズ剤が固形分で0.01〜3.0重量%であり、JIS P8122:2004に規定されるステキヒトサイズ度が5秒以下である各実施例の場合、インクジェット印刷方式により印刷した場合の発色性が良好であり、オフセット印刷方式の書籍と同等の文字品位と風合いが得られると共に、裏抜けとセットオフが抑制された書籍用紙が得られた。
一方、ステキヒトサイズ度が5秒を超える比較例1〜3の場合、文字品位(線太り率)は良好であるが、インクの乾燥性が不十分でありセットオフが劣る。特にステキヒトサイズ度が5秒を大きく超える比較例1の場合、セットオフが大きく劣った。
また、クリア塗工層にサイズ剤を含有しない比較例4は、インクの乾燥性が良好でありセットオフは抑制されるが、発色性、文字品位(線太り率)が劣り、特に裏抜けが大きく劣った。
顔料塗工層を有する比較例5の場合、発色性は良好であるが、オフセット印刷方式の書籍と同等の風合いを得ることができない。