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特開2015-190838構造物の非破壊検査装置及び検査システム
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2015-190838(P2015-190838A)
(43)【公開日】2015年11月2日
(54)【発明の名称】構造物の非破壊検査装置及び検査システム
(51)【国際特許分類】
   G01N 25/72 20060101AFI20151006BHJP
   G01N 21/27 20060101ALI20151006BHJP
   G01N 21/359 20140101ALI20151006BHJP
【FI】
   G01N25/72 K
   G01N21/27 B
   G01N21/35 107
   G01N21/27 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
【全頁数】38
(21)【出願番号】特願2014-67908(P2014-67908)
(22)【出願日】2014年3月28日
(71)【出願人】
【識別番号】500171707
【氏名又は名称】株式会社ブイ・テクノロジー
(74)【代理人】
【識別番号】100129425
【弁理士】
【氏名又は名称】小川 護晃
(74)【代理人】
【識別番号】100087505
【弁理士】
【氏名又は名称】西山 春之
(74)【代理人】
【識別番号】100099623
【弁理士】
【氏名又は名称】奥山 尚一
(72)【発明者】
【氏名】梶山 康一
(72)【発明者】
【氏名】小川 吉司
【テーマコード(参考)】
2G040
2G059
【Fターム(参考)】
2G040AA05
2G040AB09
2G040BA16
2G040BA25
2G040CA01
2G040CA12
2G040CA23
2G040DA05
2G040DA10
2G040DA22
2G040DA24
2G040DA25
2G040EA06
2G040EA11
2G040HA05
2G040ZA01
2G059AA05
2G059BB08
2G059EE01
2G059EE02
2G059EE12
2G059FF04
2G059GG01
2G059HH01
2G059HH06
2G059JJ01
2G059JJ11
2G059JJ22
2G059KK01
2G059LL01
2G059MM04
2G059MM14
(57)【要約】
【課題】検査対象の構造物に沿って移動しながら赤外線照射による構造物の温度変化を測定して内部欠陥を検査すると共に、構造物及び正常物質に対する赤外線照射による吸収スペクトルを比較して該構造物の劣化状態を検査する。
【解決手段】検査対象の構造物に加熱用の赤外線を照射する赤外線照射部と、前記加熱用の赤外線照射による構造物の温度変化を測定すると共に前記赤外線照射で加熱された構造物からの赤外線を分光した吸収スペクトルにより構造物の劣化状態を測定する温度変化・劣化状態測定部と、赤外線照射部及び温度変化・劣化状態測定部の駆動制御及びデータ集積を行う駆動制御・集積部とを含む検査装置本体1と、前記検査装置本体を前記構造物に沿って移動可能とする自走機構部2と、前記検査装置本体に同期して移動可能とされ前記構造物の劣化状態測定の基準となる正常物質を収納する校正物質収納体3とを備えたものである。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
検査対象の構造物に加熱用の赤外線を照射する赤外線照射部と、前記赤外線照射部からの赤外線照射による構造物の温度変化を測定すると共に前記赤外線照射で加熱された構造物からの赤外線を分光した吸収スペクトルにより該構造物の劣化状態を測定する温度変化・劣化状態測定部と、前記赤外線照射部及び温度変化・劣化状態測定部の駆動制御及びデータ集積を行う駆動制御・集積部とを含む検査装置本体と、
前記検査装置本体を前記構造物に沿って移動可能とする自走機構部と、
前記検査装置本体に同期して移動可能とされ、前記構造物の劣化状態測定の基準となる正常物質を収納する校正物質収納体と、を備え、
前記検査装置本体を検査対象の構造物に沿って移動させながら、前記構造物に対する加熱用の赤外線照射による構造物の温度変化を測定して該構造物の内部欠陥を検査すると共に、前記検査装置本体に同期して移動する校正物質収納体内の正常物質に対する前記赤外線照射による吸収スペクトルと前記構造物に対する前記赤外線照射による吸収スペクトルとを比較して該構造物の劣化状態を検査することを特徴とする構造物の非破壊検査装置。
【請求項2】
前記赤外線照射部は、加熱レーザ光を発振する赤外線レーザであることを特徴とする請求項1に記載の構造物の非破壊検査装置。
【請求項3】
前記温度変化・劣化状態測定部は、構造物に対して赤外線を照射する光源部と、前記赤外線照射部からの赤外線照射で加熱された構造物に対する前記光源部からの光照射の反射率変化を測定すると共に前記赤外線照射で加熱された構造物からの熱放射光を分光して吸収スペクトルを検出する分光器と、前記光源部及び分光器に入出射する光が構造物表面に焦点が合うようにする自動焦点機能を具備するレンズと、を備えたことを特徴とする請求項1又は2に記載の構造物の非破壊検査装置。
【請求項4】
前記温度変化・劣化状態測定部は、構造物に対して赤外線を照射する光源部と、前記赤外線照射部からの赤外線照射で加熱された構造物に対する前記光源部からの赤外線照射の反射率変化を測定すると共に前記赤外線照射で加熱された構造物に対する前記光源部からの赤外線照射の反射光を分光して吸収スペクトルを検出する分光器と、前記光源部及び分光器に入出射する赤外線が構造物表面に焦点が合うようにする自動焦点機能を具備するレンズと、を備えたことを特徴とする請求項1又は2に記載の構造物の非破壊検査装置。
【請求項5】
前記温度変化・劣化状態測定部は、構造物に対して赤外線を照射する光源部と、前記赤外線照射部からの赤外線照射で加熱された構造物からの熱放射光の変化を測定すると共に前記赤外線照射で加熱された構造物に対する前記光源部からの赤外線照射の反射光を分光して吸収スペクトルを検出する分光器と、前記光源部及び分光器に入出射する赤外線が構造物表面に焦点が合うようにする自動焦点機能を具備するレンズと、を備えたことを特徴とする請求項1又は2に記載の構造物の非破壊検査装置。
【請求項6】
前記温度変化・劣化状態測定部は、前記赤外線照射部からの赤外線照射で加熱された構造物からの熱放射光の変化を測定すると共に前記赤外線照射で加熱された構造物からの熱放射光を分光して吸収スペクトルを検出する分光器と、前記分光器に入射する赤外線が構造物表面に焦点が合うようにする自動焦点機能を具備するレンズと、を備えたことを特徴とする請求項1又は2に記載の構造物の非破壊検査装置。
【請求項7】
前記検査装置本体は、構造物に沿って延びる路面上に設置されたガイドレールの案内により、該検査装置本体の支持部材が路面上を自走可能に構成された自走機構部により前記構造物に沿って移動可能とされ、
前記校正物質収納体は、前記自走機構部のガイドレールと平行に延びる他のガイドレールの案内により、該校正物質収納体の支持部材が路面上を自走可能に構成された、
ことを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の構造物の非破壊検査装置。
【請求項8】
前記検査装置本体は、断面半円弧状の内壁面を有する構造物の前記内壁面に沿うアーチ形に形成されると共に該検査装置本体を保持する可動支持部材を有し、該可動支持部材の両端の台部材が路面上を自走可能に構成された自走機構部により前記構造物に沿って移動可能とされ、
前記校正物質収納体は、前記可動支持部材の両端の台部材のうちいずれか一方側に搭載された、
ことを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の構造物の非破壊検査装置。
【請求項9】
前記検査装置本体は、断面半円弧状の内壁面を有する構造物の一方の側壁底部及び他方の側壁底部の近くにて前記構造物に沿って延びる路面上に対向して2本平行に設置されたガイドレールの案内により、該検査装置本体の支持部材が路面上を自走可能に構成された自走機構部により前記構造物に沿って移動可能に2台設けられ、
前記校正物質収納体は、前記2台の検査装置本体の互いに対向する側面部に内蔵された、
ことを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の構造物の非破壊検査装置。
【請求項10】
前記自走機構部及び校正物質収納体を前記構造物に沿って往復移動可能とし、前記検査装置本体内の少なくとも赤外線照射部及び温度変化・劣化状態測定部は前記往復移動の両方向に対応させて一対設けたことを特徴とする請求項1〜9のいずれか1項に記載の構造物の非破壊検査装置。
【請求項11】
検査対象の構造物に加熱用の赤外線を照射する赤外線照射部と、前記赤外線照射部からの赤外線照射による構造物の温度変化を測定すると共に前記赤外線照射で加熱された構造物からの赤外線を分光した吸収スペクトルにより該構造物の劣化状態を測定する温度変化・劣化状態測定部と、前記赤外線照射部及び温度変化・劣化状態測定部の駆動制御及びデータ集積を行う駆動制御・集積部とを含む検査装置本体と、前記検査装置本体を前記構造物に沿って移動可能とする自走機構部と、前記検査装置本体に同期して移動可能とされ、前記構造物の劣化状態測定の基準となる正常物質を収納する校正物質収納体と、前記駆動制御・集積部で取得した検査データを外部へ送る通信ユニットとを備え、前記検査装置本体を検査対象の構造物に沿って移動させながら、前記構造物に対する加熱用の赤外線照射による構造物の温度変化を測定して該構造物の内部欠陥を検査すると共に、前記検査装置本体に同期して移動する校正物質収納体内の正常物質に対する前記赤外線照射による吸収スペクトルと前記構造物に対する前記赤外線照射による吸収スペクトルとを比較して該構造物の劣化状態を検査する非破壊検査装置と、
前記非破壊検査装置から送られる検査データを受ける中継器と、
前記非破壊検査装置から送られる検査データを受信してデータ処理を行う管理センターと、
前記中継器と管理センターとの間に設けられ、前記検査データを送受信する双方向通信網と、
を備えて成る構造物の検査システム。
【請求項12】
前記中継器により、前記非破壊検査装置から送られる検査データを処理して前記管理センターへ送信することを特徴とする請求項11記載の構造物の検査システム。
【請求項13】
前記非破壊検査装置は検査対象の複数の構造物毎に1個ずつ設置され、これら複数個の非破壊検査装置に対して前記双方向通信網を介して1個の管理センターが設置されることを特徴とする請求項11又は12に記載の構造物の検査システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、検査対象の構造物に赤外線を照射して前記構造物の内部欠陥及び劣化状態を検査する非破壊検査装置に関し、詳しくは、検査装置本体を検査対象の構造物に沿って移動させながら赤外線照射による構造物の温度変化を測定してその内部欠陥を検査すると共に、前記構造物及び検査装置本体に同期移動する正常物質に対する赤外線照射による吸収スペクトルを比較して該構造物の劣化状態を精度良く検査する構造物の非破壊検査装置及び検査システムに係るものである。
【背景技術】
【0002】
従来のこの種の構造物の内部欠陥検査装置は、赤外線を構造物に照射する赤外線光源と、前記赤外線光源に接続された赤外線照射時間制御装置と、前記赤外線照射時間制御装置に接続され、前記赤外線光源により照射された構造物を撮影する撮影器と、前記撮影器に接続され、該撮影器で撮影した画像を蓄積する画像蓄積装置と、前記赤外線照射時間制御装置、画像蓄積装置に夫々接続され、前記画像蓄積装置で蓄積した画像を解析する画像解析装置とを具備して構成されていた(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
また、例えばコンクリート構造物の劣化因子を非破壊、非接触に検出するものとして、測定対象とする構造物のコンクリート面に赤外線を照射し、コンクリート面からの反射光を分光器に入力し、その分光器で反射光の吸収スペクトルから特定の劣化因子を検出するための特定波長の光強度を抽出すると共に、その光強度と前記特定波長における劣化因子以外の影響因子に基づく光強度との差分から劣化因子分の絶対量を検出するコンクリート劣化因子検出方法が提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−201474号公報
【特許文献2】特開2007−078657号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1に記載の構造物の内部欠陥検査装置においては、例えば、検査対象の構造物としてのトンネルの内壁面の劣化を検査する場合、少なくとも前記赤外線光源及び撮影器は移動用車両(搬送用自動車)に搭載し、前記搬送用自動車をトンネル内にて一定速度で移動させながら赤外線光源から赤外線をトンネル内壁面に照射して検査するものであった。この場合は、搬送用自動車をトンネル内で走らせるため、他の自動車等の通行の妨げになる。これを避けるためには、夜間等の通行車両が少ない時間帯を選んだり、トンネル内壁面の欠陥検査をする頻度を下げなければならなかった。また、搬送用自動車の運転者を必要とし、さらに、トンネルの内壁面を全面に亘って検査するためには、赤外線をトンネル内壁面の広い範囲に亘って照射する操作者も必要とし、自動的に検査することはできなかった。
【0006】
また、特許文献2に記載のコンクリート劣化因子の検出においては、例えば、検査対象の構造物としてのトンネル内では自動車の排気ガスや季節の変化等の環境変化が激しいので、水や鉄や塩素等の劣化因子を検出して劣化状態を検査する必要があるが、前記劣化因子分の絶対値は、前記特定の劣化因子を検出する特定波長の光強度と、その特定波長の前後の波長帯域における光強度との差分から求めるものであった。この場合は、実際に現場に設置された構造物の正常物質に対する赤外線照射による反射光の吸収スペクトルと比較しているわけではないので、構造物の設置現場における劣化状態を正常物質で校正しながら検査することはできず、該構造物の劣化状態を精度良く検査することはできなかった。
【0007】
そこで、このような問題点に対処し、本発明が解決しようとする課題は、検査装置本体を検査対象の構造物に沿って移動させながら赤外線照射による構造物の温度変化を測定してその内部欠陥を検査すると共に、前記構造物及び検査装置本体に同期移動する正常物質に対する赤外線照射による吸収スペクトルを比較して該構造物の劣化状態を精度良く検査する構造物の非破壊検査装置及び検査システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するために、第1の発明による構造物の非破壊検査装置は、検査対象の構造物に加熱用の赤外線を照射する赤外線照射部と、前記赤外線照射部からの赤外線照射による構造物の温度変化を測定すると共に前記赤外線照射で加熱された構造物からの赤外線を分光した吸収スペクトルにより該構造物の劣化状態を測定する温度変化・劣化状態測定部と、前記赤外線照射部及び温度変化・劣化状態測定部の駆動制御及びデータ集積を行う駆動制御・集積部とを含む検査装置本体と,前記検査装置本体を前記構造物に沿って移動可能とする自走機構部と,前記検査装置本体に同期して移動可能とされ、前記構造物の劣化状態測定の基準となる正常物質を収納する校正物質収納体と,を備え、前記検査装置本体を検査対象の構造物に沿って移動させながら、前記構造物に対する加熱用の赤外線照射による構造物の温度変化を測定して該構造物の内部欠陥を検査すると共に、前記検査装置本体に同期して移動する校正物質収納体内の正常物質に対する前記赤外線照射による吸収スペクトルと前記構造物に対する前記赤外線照射による吸収スペクトルとを比較して該構造物の劣化状態を検査するものである。
【0009】
また、第2の発明による構造物の検査システムは、検査対象の構造物に加熱用の赤外線を照射する赤外線照射部と、前記赤外線照射部からの赤外線照射による構造物の温度変化を測定すると共に前記赤外線照射で加熱された構造物からの赤外線を分光した吸収スペクトルにより該構造物の劣化状態を測定する温度変化・劣化状態測定部と、前記赤外線照射部及び温度変化・劣化状態測定部の駆動制御及びデータ集積を行う駆動制御・集積部とを含む検査装置本体と,前記検査装置本体を前記構造物に沿って移動可能とする自走機構部と,前記検査装置本体に同期して移動可能とされ、前記構造物の劣化状態測定の基準となる正常物質を収納する校正物質収納体と,前記駆動制御・集積部で取得した検査データを外部へ送る通信ユニットとを備え、前記検査装置本体を検査対象の構造物に沿って移動させながら、前記構造物に対する加熱用の赤外線照射による構造物の温度変化を測定して該構造物の内部欠陥を検査すると共に、前記検査装置本体に同期して移動する校正物質収納体内の正常物質に対する前記赤外線照射による吸収スペクトルと前記構造物に対する前記赤外線照射による吸収スペクトルとを比較して該構造物の劣化状態を検査する非破壊検査装置と;前記非破壊検査装置から送られる検査データを受ける中継器と;前記非破壊検査装置から送られる検査データを受信してデータ処理を行う管理センターと;前記中継器と管理センターとの間に設けられ、前記検査データを送受信する双方向通信網と;を備えて成るものである。
【発明の効果】
【0010】
第1の発明による構造物の非破壊検査装置によれば、赤外線照射部と温度変化・劣化状態測定部と駆動制御・集積部とを含む検査装置本体を、自走機構部により検査対象の構造物に沿って移動させながら、前記構造物に対する加熱用の赤外線照射による構造物の温度変化を測定して該構造物の内部欠陥を検査すると共に、前記検査装置本体に同期して移動する校正物質収納体内の正常物質に対する前記赤外線照射による吸収スペクトルと前記構造物に対する前記赤外線照射による吸収スペクトルとを比較して該構造物の劣化状態を精度良く検査することができる。したがって、構造物の設置現場における劣化状態を正常物質で校正しながら検査することができる。この場合、他の自動車等の通行の妨げにならず、24時間いつでも構造物の非破壊検査をすることができる。また、操作者等の人手を要しないため、検査コストを低減することが可能である。
【0011】
第2の発明による構造物の検査システムによれば、前記構造物の非破壊検査装置により、その自走機構部で検査装置本体を検査対象の構造物に沿って移動させながら、前記構造物に対する加熱用の赤外線照射による構造物の温度変化を測定して該構造物の内部欠陥を検査すると共に、前記検査装置本体に同期して移動する校正物質収納体内の正常物質に対する前記赤外線照射による吸収スペクトルと前記構造物に対する前記赤外線照射による吸収スペクトルとを比較して該構造物の劣化状態を精度良く検査して、中継器で前記非破壊検査装置から送られる検査データを受け、前記中継器と管理センターとの間に設けられた双方向通信網により前記検査データを送受信し、管理センターで前記非破壊検査装置から送られる検査データを受信してデータ処理を行うことができる。したがって、構造物の設置現場における劣化状態を正常物質で校正しながら検査することができる。この場合、他の自動車等の通行の妨げにならず、24時間いつでも構造物の非破壊検査をすることができる。また、操作者等の人手を要しないため、検査コストを低減することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】第1の発明による構造物の非破壊検査装置の第1の実施形態を示す概略図である。
図2】第1の実施形態による非破壊検査装置の配置状態を示す概略斜視図である。
図3】前記非破壊検査装置における検査装置本体を移動可能とする自走機構部を、路面上のガイドレールを断面して示す断面説明図である。
図4】前記非破壊検査装置の検査装置本体を示す側面図である。
図5】前記検査装置本体において筐体を外して内部構成を示す拡大側面図である。
図6図5に示す検査装置本体の一半部を拡大して示す要部斜視図である。
図7図6に示す検査装置本体における温度変化・劣化状態測定部の内部構造を示す説明図である。
図8図7に示す温度変化・劣化状態測定部における温度測定分光光学系の内部構成を示すブロック図である。
図9図8に示す温度測定分光光学系におけるAFユニットの自動焦点機能により焦点を合わせる状態を示すグラフである。
図10】前記検査装置本体の赤外線照射部及び温度変化・劣化状態測定部の回転を検出する実施例を示す概略説明図である。
図11】前記検査装置本体の赤外線照射部及び温度変化・劣化状態測定部のトンネルに対する回転角を検出する実施例を示す概略説明図である。
図12】前記検査装置本体の路面上のガイドレールに対する移動位置を検出する実施例を示す概略説明図である。
図13】前記非破壊検査装置の自走可能な校正物質収納体を、路面上のガイドレールを断面して示す断面説明図である。
図14】前記非破壊検査装置の構成及び機能を示すブロック図である。
図15】前記非破壊検査装置の検査原理を示す説明図である。
図16】前記非破壊検査装置の検査原理を示すグラフである。
図17】前記非破壊検査装置の検査において、検査対象の構造物と正常物質とからの反射光量を比較する状態を示すグラフである。
図18】前記非破壊検査装置の検査において、検査対象の構造物又は正常物質に対する赤外線照射による温度変化の測定と劣化状態の測定を一つの分光器で行う状態を示す説明図である。
図19図18において検査対象の構造物及び正常物質に対する赤外線照射の反射光により反射率変化と吸収スペクトルを計測して前記構造物の温度変化の測定と劣化状態の測定を行う状態を示すグラフである。
図20図6に示す検査装置本体における温度変化・劣化状態測定部の内部構造の他の実施例を示す説明図である。
図21図20に示す温度変化・劣化状態測定部における温度測定分光光学系の内部構成の他の実施例を示すブロック図である。
図22図20に示す温度変化・劣化状態測定部を備えた非破壊検査装置の構成及び機能を示すブロック図である。
図23】第1の発明による構造物の非破壊検査装置の第2の実施形態を示す概略図である。
図24図23の側面図である。
図25】第2の実施形態による非破壊検査装置の配置状態を示す概略斜視図である。
図26】前記非破壊検査装置における検査装置本体を移動可能とする自走機構部の構造を示す斜視図である。
図27】第1の発明による構造物の非破壊検査装置の第3の実施形態を示す概略図である。
図28】第2の発明による構造物の検査システムの実施形態を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態を添付図面に基づいて説明する。
図1は、第1の発明による構造物の非破壊検査装置の第1の実施形態を示す概略図である。この非破壊検査装置は、検査対象の構造物(例えば、トンネル又は高架橋等の構造物)に赤外線を照射して前記構造物の内部欠陥及び劣化状態を検査するもので、検査装置本体1と、自走機構部2と、校正物質収納体3とを備えて成る。なお、符号4は、本発明の非破壊検査装置が配置された検査対象の構造物としてのトンネルを示し、符号Rは、前記トンネル4の外部から内部へ延びる道路を示している。
【0014】
前記検査装置本体1は、構造物としてのトンネル4の内壁面に加熱用の赤外線を照射し、その赤外線照射によりトンネル4の内壁面の温度が変化するのを測定すると共に、前記赤外線照射により加熱された構造物からの赤外線を分光した吸収スペクトルにより該トンネル4の劣化状態を測定し、データ集積を行うものである。
【0015】
また、自走機構部2は、前記検査装置本体1を前記トンネル4に沿って一方向又は往復方向に移動可能とするものである。
【0016】
そして、校正物質収納体3は、前記検査装置本体1に同期して移動可能とされ、前記トンネル4の劣化状態測定の基準となる正常物質を収納するものである。この場合、校正物質収納体3は、前記検査装置本体1の自走機構部2と同様に構成された他の自走機構部2aにより、移動可能とすればよい。
【0017】
図2は、図1に示す非破壊検査装置の配置状態を示す概略斜視図である。なお、図2においては、校正物質収納体3は図示省略している。
前記自走機構部2は、検査装置本体1を前記トンネル4に沿って移動可能とするもので、該トンネル4に沿って延びる道路Rの中央部に設置され中央分離帯となるガイドレール6を利用して、図3に示すように、前記検査装置本体1の筐体5の支持部材7を保持している。上端部に筐体5が取り付けられた支持部材7の下端部は道路Rの路面に向けて延び、その下端には駆動車輪8が設けられている。前記ガイドレール6の下端部には膨らみ部が形成されており、この膨らみ部内に前記駆動車輪8が配置されて、電気モータ9により回転される。この駆動車輪8が回転することで、ガイドレール6の案内により前記支持部材7が路面上を一方向又は往復方向に自走可能とされている。すなわち、自走機構部2は、前記支持部材7と、電気モータ9と、駆動車輪8とを備えて、トンネル4に沿って往復移動可能に構成されている。なお、前記電気モータ9に対する電力の供給は、ガイドレール6の内部空間を利用して送電配線をし、地下鉄電車と同様に前記送電配線に受電器をスライド接触させて行えばよい。
【0018】
前記自走機構部2により、検査装置本体1がトンネル4に沿って移動可能に支持されている。この検査装置本体1は、構造物としてのトンネル4の内壁面に加熱用の赤外線を照射し、その赤外線照射によりトンネル4の内壁面の温度が変化するのを測定すると共に、前記赤外線照射により加熱された構造物からの赤外線を分光した吸収スペクトルにより該トンネル4の劣化状態を測定し、データ集積を行うもので、図4に示すように、ガイドレール6に保持された支持部材7の上端部に筐体5が取り付けられている。この筐体5は、例えば円筒状に形成され、その内部に後述の赤外線照射部12、温度変化・劣化状態測定部13及び駆動制御・集積部14等を収容するものである。そして、前記筐体5は、支持部材7の上端部の2箇所で固定バンド10a,10bにより取り付けられる。図4では、検査装置本体1は、図3に示す自走機構部2により矢印A,B方向に往復移動可能とされている。
【0019】
図5は、前記検査装置本体1において筐体5を外して内部構成を示す拡大側面図である。この実施例では、基盤部材11の上面にてその長手方向の一半部に第1検査部1aが、他半部に第2検査部1bが一列状に設けられている。第1検査部1aと第2検査部1bとは、検査装置本体1が往復移動する際にそれぞれの進行方向に沿って構造物の内部欠陥及び劣化状態を検査するように一対で設けられている。図5においては、第1検査部1aは図の左方向(矢印A方向)へ移動する際に検査し、第2検査部1bは図の右方向(矢印B方向)へ移動する際に検査するようになっている。ここでは、代表的に第1検査部1aについて説明する。なお、第2検査部1bは、第1検査部1aと全く同じ構成のものとされる。また、検査装置本体1が矢印A方向又はB方向の一方にのみ移動しながら検査する場合は、第1検査部1a又は第2検査部1bの一方だけを備えていればよい。その場合は、検査のために矢印A方向又はB方向に移動した後の帰りは、何も動作しないで検査装置本体1を元の位置に帰還させることになる。
【0020】
図5において、第1検査部1aは、赤外線照射部12と、温度変化・劣化状態測定部13と、駆動制御・集積部14と、監視カメラ15とを含んでいる。ここで、駆動制御・集積部14は、第1検査部1aと第2検査部1bとに共通のものとして、両者の中間部位に設けられている。なお、前記赤外線照射部12より赤外線を照射することから、前記基盤部材11は、下方への赤外線の照射を遮るために赤外線を遮蔽する材料から成ることが望ましい。
【0021】
前記赤外線照射部12は、検査対象の構造物に加熱用の赤外線を照射するもので、例えば加熱レーザ光を発振する赤外線レーザを備えており、波長が1.5μm程度でビーム径が0.010m程度の加熱レーザ光を発振するようになっている。この加熱レーザ光の照射により、構造物の表面が加熱される。この赤外線照射部12は、図6に示すように、水平方向の回転軸を有する第1ドラム16aの外周面に1個又は複数個の赤外線レーザチップ17を有しており、前記第1ドラム16aは、その回転軸に連結された電気モータ18により回転される。そして、前記第1ドラム16aの外方には、断面形がカマボコ形で第1ドラム16aを覆うように半円弧状に形成された集光レンズ19が、図示省略の支持金具で配設されている。この集光レンズ19により、前記照射された加熱レーザ光がビーム状に集光され、そのビームレーザ光が構造物の表面をスキャンする。なお、前記赤外線レーザチップ17は、受発光素子とレーザチップから成る。
【0022】
温度変化・劣化状態測定部13は、前記加熱用の赤外線照射(加熱レーザ光)による構造物の温度変化を測定すると共に、前記赤外線照射により加熱された構造物からの赤外線を分光した吸収スペクトルにより該構造物の劣化状態を測定するものである。この温度変化・劣化状態測定部13は、図6に示すように、水平方向の回転軸を有する第2ドラム16bの外周面に複数個の温度測定分光光学系20を有しており、前記第2ドラム16bは、その回転軸に連結された電気モータ21により回転される。そして、前記第2ドラム16bの外方には、断面形がカマボコ形で第2ドラム16bを覆うように半円弧状に形成された集光レンズ(図示省略;前記赤外線照射部12の集光レンズ19と同じもの)が配設されている。この場合も、その集光レンズで前記照射された赤外線がビーム状に集光され、そのビーム光が構造物の表面をスキャンする。
【0023】
図7は、図6に示す検査装置本体1における温度変化・劣化状態測定部13の内部構造を示す説明図であり、第2ドラム16bの一方の側面板を外して内部を示す側面図である。この温度変化・劣化状態測定部13は、前記第2ドラム16bの回転中心側から半径方向に向かって放射状に延びる、例えば4個の温度測定分光光学系20を備えている。なお、温度測定分光光学系20は、4個に限られず、1個又は適宜の複数個であってもよい。
【0024】
図8は、図7に示す温度変化・劣化状態測定部13における温度測定分光光学系20の内部構成を示すブロック図である。この温度測定分光光学系20は、構造物に対して光を照射する光源部20aと、前記赤外線照射部12からの赤外線照射で加熱された構造物に対する光源部20aからの光照射の反射率変化を測定すると共に前記赤外線照射で加熱された構造物からの熱放射光を分光して吸収スペクトルを検出する分光器20bと、前記光源部20a及び分光器20bに入出射する赤外線が構造物表面に焦点が合うようにする自動焦点機能を具備するレンズ20cとを有している。なお、符号20dはレンズ20cの焦点を合わせる自動焦点(AutoFocus:AF)の機能を発揮するAFユニットを示し、符号20eはハーフミラーを示している。
【0025】
前記光源部20aから矢印Dのように照射された光は、ハーフミラー20eで反射されてレンズ20cに入射する。レンズ20cは、入射した赤外線をビーム状に集光して矢印Dのように構造物に向けて射出すると共に、構造物からの反射赤外線を矢印Eのように入射してハーフミラー20eへ送る。ハーフミラー20eでは、レンズ20cから送られた反射光はそのまま透過して分光器20bに入射する。このとき、レンズ20cは、AFユニット20dの自動焦点機能により光源部20aから出射する光が構造物表面に焦点が合うように調節される。すなわち、図8において、分光器20bでレンズ20cから入射した光(赤外線)を検出し、その検出信号をAFユニット20dへ送り、AFユニット20dは前記検出信号の大小によりレンズ20cの位置を調節して焦点が合うようにフィードバック制御する。この場合、光源部20a内の発光点と分光器20b内の受光点とを共役な関係(物体と像の位置関係)とし、図9に示すように、検出光量のピークP1のレンズ位置L1を検出する。このように、前記分光器20bの出力最大時に光源部20aからの出射光が構造物(トンネル4)の壁面に焦点が合う(レンズ位置L1)ことになる。なお、符号P2及びL2は、構造物の壁面の他の点に対して焦点が合った場合を示している。
【0026】
前記光源部20aは、構造物に対して光を照射するもので、例えば半導体レーザを備えており、波長が0.5μm程度でビーム径が0.001m程度の光を発振するようになっている。また、分光器20bは、前述のように、赤外線照射部12からの赤外線照射で加熱された構造物に対する光源部20aからの光照射の反射率の時間変化により温度変化を測定すると共に、前記赤外線照射で加熱された構造物からの熱放射光を分光して熱放射光量の波長依存性により吸収スペクトルを検出する。前記分光器20bによる温度変化の測定は、赤外線照射で加熱された構造物に対する光照射の反射率の時間変化により、物質の光反射率の温度依存性を利用して熱伝導率の変化を測定することで可能となる。このような検査原理は、「光加熱サーモリフレクタンス法」と呼ばれる。
【0027】
なお、前記赤外線照射部12及び温度変化・劣化状態測定部13の配置は、赤外線照射部12により構造物に加熱用の赤外線を照射した後に、温度変化・劣化状態測定部13で前記光照射により構造物の温度が変化するのを測定することから、図5に示すように、赤外線照射部12が移動方向の前方側に位置する。
【0028】
また、前記赤外線照射部12及び温度変化・劣化状態測定部13は、水平方向の回転軸周りにそれぞれ独立に回転可能とされている。すなわち、図6において、赤外線照射部12の第1ドラム16aの回転軸に連結された電気モータ18、及び温度変化・劣化状態測定部13の第2ドラム16bの回転軸に連結された電気モータ21は、それぞれ独立に回転制御される。
【0029】
この場合、前記赤外線照射部12及び温度変化・劣化状態測定部13の回転は、図10に示すようにして検出される。例えば、赤外線照射部12及び温度変化・劣化状態測定部13が取り付けられた基盤部材11の上面に高反射率部材22を設け、図6に示す赤外線レーザチップ17及び温度測定分光光学系20から照射された光の反射光を受光して、赤外線レーザチップ17及び温度測定分光光学系20が回転しているかどうか、回転角度はどのくらいかを検出する。なお、これに限られず、第1ドラム16a又は第2ドラム16bの回転軸にエンコーダを設け、従来公知の方法で回転を検出してもよい。
【0030】
また、前記赤外線照射部12及び温度変化・劣化状態測定部13のトンネル4の内壁面に対する回転角は、図11に示すようにして検出される。例えば、トンネル4の内壁面の特定位置又は一定間隔をおいた位置に高反射率部材23を設け、それぞれ赤外線レーザチップ17及び温度測定分光光学系20から照射された光の反射光を受光して、赤外線レーザチップ17及び温度測定分光光学系20の回転角度はどのくらいかを検出する。このとき、前記高反射率部材23が取り付けられた特定位置を、赤外線レーザチップ17及び温度測定分光光学系20の回転角度のゼロ点位置とすればよい。なお、前記高反射率部材23は、赤外線照射部12からの加熱用の赤外線の吸収による温度上昇はないものとする。
【0031】
駆動制御・集積部14は、図5において、前記赤外線照射部12及び温度変化・劣化状態測定部13の駆動制御及びデータ集積を行うもので、赤外線レーザチップ17及び温度測定分光光学系20を駆動する電源回路、電気モータ18,21を駆動する電源回路、赤外線照射部12及び温度変化・劣化状態測定部13の動作により取得した検査データを集積するデータ集積転送回路等を含んでいる。
【0032】
監視カメラ15は、検査装置本体1の移動方向前方を監視するためのもので、例えば円筒状に形成された筐体5の前端部又は後端部にて移動方向前方にレンズを向けて取り付けられている。この監視カメラ15により、検査装置本体1の移動方向前方の状況や、障害物等の監視が行える。また、魚眼レンズを用いることによりトンネル4の内壁面も確認できるようになっている。
【0033】
そして、このような構成の検査装置本体1のガイドレール6に対する移動位置は、図12に示すようにして検出される。例えば、ガイドレール6の特定位置又は一定間隔をおいた位置に高反射率部材24を設け、検査装置本体1の支持部材7の一部に前記高反射率部材24に向けて発光すると共にその反射光を受光する受発光部25を設け、前記高反射率部材24からの反射光を検出して、検査装置本体1がガイドレール6の長手方向においてどの位置にいるかを検出する。これにより、検査装置本体1が検査対象の構造物に沿って移動している位置を検出することができる。なお、前記高反射率部材24の替わりにその部位に貫通孔をあけて、その貫通孔を透過する光により受発光部25が位置を検出するようにしてもよい。
【0034】
図1に示すトンネル4の内壁面の一方の側壁底部の近傍には、校正物質収納体3が配備されている。この校正物質収納体3は、前記検査装置本体1に同期して移動可能とされ、構造物(トンネル4)の劣化状態測定の基準となる正常物質を収納するもので、図2に示す検査装置本体1の自走機構部2のガイドレール6と平行に延びる他のガイドレール6aの案内により、該校正物質収納体3の支持部材が道路Rの路面上を自走可能に構成されている。
【0035】
すなわち、図1に示すように、トンネル4の一方の側壁底部の近傍に、前述の検査装置本体1の自走機構部2(図3参照)と同様に構成された他の自走機構部2aが設けられている。この自走機構部2aは、図13に示すように、校正物質収納体3を前記トンネル4に沿って移動可能とするもので、該トンネル4に沿って延びる道路Rの一方の側部に設置されたガイドレール6aを利用して、前記校正物質収納体3の支持部材7aを保持している。上端部に校正物質収納体3が取り付けられた支持部材7aの下端部は道路Rの路面に向けて延び、その下端には駆動車輪8aが設けられている。前記ガイドレール6aの下端部には膨らみ部が形成されており、この膨らみ部内に前記駆動車輪8aが配置されて、電気モータ9aにより回転される。この駆動車輪8aが回転することで、ガイドレール6aの案内により前記支持部材7aが路面上を一方向又は往復方向に自走可能とされている。すなわち、自走機構部2aは、トンネル4に沿って往復移動可能に構成されている。なお、前記電気モータ9aに対する電力の供給は、ガイドレール6aの内部空間を利用して送電配線をし、地下鉄電車と同様に前記送電配線に受電器をスライド接触させて行えばよい。
【0036】
なお、ここで言う「正常物質」とは、例えばコンクリート構造物において劣化物質(水や鉄や塩素等)が析出していない物質のことであり、トンネル又は高架橋等の構造物をそれぞれの現場で施工した実際のコンクリート片等を検査試料(サンプル)として保管しておき、その検査試料を「正常物質」として用いるのが望ましい。すなわち、ある構造物について所定期間経過後にその内部欠陥及び劣化状態等の非破壊検査をする際に、各構造物ごとに保管してある該当の検査試料を取り出して、それを「正常物質」として前記校正物質収納体3内に収納すればよい。
【0037】
図14は、以上のように構成された非破壊検査装置の構成及び機能を示すブロック図である。この非破壊検査装置は、検査装置本体1と、自走機構部2と、校正物質収納体3とを備えている。なお、図14では、検査装置本体1として、図5に示す第1検査部1aの部分だけを図示しており、第2検査部1bの部分は図示省略している。第2検査部1bは、駆動制御・集積部14を共通にして、その他の部分は図14に示す第1検査部1aと同じ構成及び機能のブロック図となる。
【0038】
まず、検査装置本体1は、赤外線照射部12と、温度変化・劣化状態測定部13と、駆動制御・集積部14と、監視カメラ15と、カメラ電源ユニット26と、通信ユニット27とを含んでいる。前記赤外線照射部12は、検査対象の構造物に加熱用の赤外線を照射するもので、例えば加熱レーザ光を発振する高出力の赤外線レーザを備えており、波長が1.5μm程度の加熱レーザ光を矢印Cのように発振する。
【0039】
温度変化・劣化状態測定部13は、前記赤外線照射部12からの赤外線照射(加熱レーザ光)による構造物の温度変化を測定すると共に、前記赤外線照射で加熱された構造物からの赤外線を分光した吸収スペクトルにより該構造物の劣化状態を測定するもので、図8に示す温度測定分光光学系20の内部構成となる光源部20aと、分光器20bとを有して成る。なお、図14では、図8に示すレンズ20c、AFユニット20d及びハーフミラー20eは図示省略している。前記光源部20aからは、構造物(トンネル4)に向けて矢印Dのように赤外線を照射する。構造物から反射された光は、矢印Eのように分光器20bへ入射する。
【0040】
駆動制御・集積部14は、前記赤外線照射部12及び温度変化・劣化状態測定部13の駆動制御及びデータ集積を行うもので、赤外線照射部12の赤外線レーザや、温度変化・劣化状態測定部13の光源部20a及び分光器20bを駆動するための電源回路を有すると共に、赤外線照射部12及び温度変化・劣化状態測定部13で収集したデータを集積する検査用ロジック回路等を備えている。
【0041】
監視カメラ15は、検査装置本体1の移動方向前方を監視するためのもので、カメラ電源ユニット26から電力を供給されて撮影を行い、その撮影データを収集する。
【0042】
通信ユニット27は、前記駆動制御・集積部14で取得した検査データ、及び監視カメラ15で収集しカメラ電源ユニット26を介して転送された撮影データを外部(例えば、図28に示す中継器51等)へ送るもので、自走機構部2の電源回路から電力を供給されて動作する。
【0043】
自走機構部2は、前記検査装置本体1を前記構造物(トンネル4)に沿って移動可能とするもので、図3に示す電気モータ9を備え、外部から供給される電力をその電気モータ9に対して送り、駆動車輪8の回転制御を行う回路を備えている。また、前記駆動制御・集積部14、カメラ電源ユニット26及び通信ユニット27に対して電力を送る電源回路も備えている。
【0044】
校正物質収納体3は、前記検査装置本体1に同期して移動可能とされ、前記構造物の劣化状態測定の基準となる正常物質を収納するもので、収納箱内に正常物質3aと、通信ユニット3bとが収納されている。正常物質3aは、例えばコンクリート構造物において劣化物質(水や鉄や塩素等)が析出していない物質のことであり、トンネル又は高架橋等の構造物をそれぞれの現場で施工した実際のコンクリート片等を検査試料(サンプル)として保管してあるものを用いる。通信ユニット3bは、校正物質収納体3を図1に示す検査装置本体1に同期して移動可能とするため、該検査装置本体1に内蔵の通信ユニット27と位置情報を送受信するもので、後述の他の自走機構部2aの電源回路から電力を供給されて動作する。
【0045】
他の自走機構部2aは、前記校正物質収納体3を構造物(トンネル4)に沿って検査装置本体1に同期して移動可能とするもので、前述の図13に示すような構造とされている。そして、検査装置本体1に内蔵の通信ユニット27と送受信する通信ユニット3bから位置情報を得て、前記検査装置本体1に同期して移動するように動作する。なお、校正物質収納体3と検査装置本体1の移動動作の同期は、前記通信ユニット3bと通信ユニット27との間の位置情報の送受信に限られず、図12に示すと同様に、図13に示すガイドレール6aの特定位置又は一定間隔をおいた位置に高反射率部材24を設け、校正物質収納体3の支持部材7aの一部に前記高反射率部材24に向けて発光すると共にその反射光を受光する受発光部25を設け、前記高反射率部材24からの反射光を検出し、校正物質収納体3がガイドレール6aの長手方向においてどの位置にいるかを検出して、検査装置本体1の位置と同期させるようにしてもよい。
【0046】
このような構成及び機能により、前記自走機構部2で検査装置本体1を検査対象の構造物に沿って移動させながら、前記赤外線照射部12、温度変化・劣化状態測定部13及び駆動制御・集積部14により、構造物に対する加熱用の赤外線照射(加熱レーザ光)による構造物の温度変化を測定して該構造物の内部欠陥を検査すると共に、前記検査装置本体1に同期して移動する校正物質収納体3内の正常物質3aに対する前記赤外線照射による吸収スペクトルと、前記構造物に対する前記赤外線照射による吸収スペクトルとを比較して該構造物の劣化状態を検査する。
【0047】
次に、第1の発明の非破壊検査装置の検査原理を説明する。図15はその非破壊検査装置の検査原理を示す説明図であり、図16は前記非破壊検査装置の検査原理を示すグラフである。この検査原理は、ある構造物に光を照射してその反射光を測定し、物質の光反射率の温度依存性を利用して熱伝導率を測定するもので、「光加熱サーモリフレクタンス法」と呼ばれる。この検査原理を利用して、検査対象の構造物の反射光測定位置の光反射率を計測し、その過渡特性から局所的熱伝導率を求め、マッピングすることで構造物内部のクラックや空隙を発見することができる。
【0048】
図15(a)において、検査対象の構造物30の内部にクラック31又は空隙があるとする。まず、この構造物30の表面に赤外線照射部12から加熱レーザ光を矢印Cのように照射する(時刻T0)。このとき、加熱レーザ光(C)のビーム径は0.010m程度とし、後述の測定レーザ光のビーム径の約10倍の領域幅とする。構造物30の表面にて加熱レーザ光(C)が当たった部位32は温度が上昇して、その熱が周囲に拡散して行く。その後、図15(b)において、温度変化・劣化状態測定部13から前記構造物30の表面に対して測定レーザ光を矢印Dのように照射すると共に、矢印Eのように反射する反射光を測定する(時刻T1)。このとき、測定レーザ光(D)のビーム径は0.001m程度とされ、前記加熱レーザ光(C)のビーム径の約1/10の領域幅とされる。前記加熱レーザ光(C)が当たった部位32はその間の時間経過に伴って熱拡散して、拡散領域33のように熱が周囲に拡がっている。さらにその後、図15(c)において、温度変化・劣化状態測定部13から次なる測定レーザ光を矢印Dのように照射すると共に、矢印Eのように反射する反射光を測定する(時刻T2)。このとき、時刻T0で加熱レーザ光(C)が当たった部位32はその後の時間経過に伴って更に熱拡散して、拡散領域34のように熱が周囲に拡がっている。
【0049】
以後、前記と同様にして、所定の時間間隔で時刻T1から時刻T10まで、構造物30の表面の加熱部位32に対して測定レーザ光を矢印Dのように照射すると共に、矢印Eのように反射する反射光を測定する。このような測定結果をまとめたのが、図16のグラフである。図16は横軸を時刻とし縦軸をレーザ反射光の強度としたグラフで、時刻T0で構造物30の表面に加熱レーザ光を照射して部位32を加熱し、時刻T1から時刻T10まで前記構造物30の加熱部位32に対して測定レーザ光を照射すると共にその反射光を測定し、図15(b),(c)に示す拡散領域33,34のように熱が拡散している部位の反射光の変化の状態を表したものである。この場合は、時刻T0で照射した加熱レーザ光(C)のビーム幅内で、時刻T1から時刻T10の10回に分けて測定レーザ光(D)を照射してその反射光を測定している。
【0050】
図16のように反射光を測定することで、前記構造物30の表面の加熱部位32の反射率を測定することができる。ここで、前述の「光加熱サーモリフレクタンス法」によれば、物質の光反射率の温度依存性を利用して熱伝導率を測定することができる。そこで、図16に示す反射光測定のグラフを測定部位に応じて位置をずらして並べて行き、周囲の部位と測定結果が変化するところが現れたらその部位の熱伝導率が変化していることが分かり、そこにクラック31又は空隙が存在することが発見できる。
【0051】
図17は、「光加熱サーモリフレクタンス法」により、検査対象の構造物(トンネル4)と校正物質収納体3内の正常物質3aとからの反射光量を比較する状態を示すグラフである。このグラフは、図16に示すグラフと同じく、反射光を測定して物質の光反射率の温度依存性を利用して熱伝導率を測定するもので、実線が正常物質3aからの反射光量の変化を示し、破線が異常のある構造物からの反射光量の変化を示している。そのカーブの立ち上がりの傾きやピーク値等を比較して、構造物にクラックや空隙等の異常が有るか否かを計測することができる。
【0052】
図18は、検査対象の構造物(トンネル4)又は校正物質収納体3内の正常物質3aに対する赤外線照射による温度変化の測定と劣化状態の測定を一つの分光器20bで行う状態を示す説明図である。この場合、赤外線照射部12から加熱用の赤外線(加熱レーザ光)をトンネル4又は正常物質3aに照射し、トンネル4又は正常物質3aの加熱された表面からの赤外線反射光を分光器20bで受光して分光し、前記トンネル4又は正常物質3aの反射率変化と吸収スペクトルを計測する。
【0053】
図19は、図18において検査対象の構造物(トンネル4)及び正常物質3aに対する光照射の反射光により反射率変化と熱放射の吸収スペクトルを計測して前記構造物の温度変化の測定と劣化状態の測定を行う状態を示すグラフである。図19は、赤外線照射で加熱して一定時間経過後の分光器20bの出力を、横軸を波長とし縦軸を検出光量として表したグラフで、図19(a)は正常物質3aからの熱放射光及びサーモリフレクタンス法で計測した反射光(破線p)を合わせた出力(実線r1)を示し、図19(b)は構造物からの熱放射光に劣化因子による吸収(破線q)が存在し、この吸収とサーモリフレクタンス法で測定した反射のピーク(破線p)と波長が近い場合に両者が補完して劣化が認識できないときの出力(実線r2)を示し、図19(c)は図19(a)の出力と図19(b)の出力との差分(r1−r2)をとった出力(実線r3)を示している。この場合、差分の出力(実線r3)のピークが出る波長Wから構造物の劣化により析出した物質を特定できる。また、差分r3のピークの高さから前記構造物の劣化具合を推定できる。
【0054】
図19に示すように、熱放射光及びサーモリフレクタンス法で計測した反射光の出力について、正常物質3aからの出力と構造物からの出力の差分を見ているので、構造物の劣化状態の測定と構造物の温度変化の測定とにおいて受光素子を共用することができる。すなわち、一つの分光器20bだけで構造物の劣化状態の測定と構造物の温度変化の測定(内部欠陥の検査)とが可能となり、計測デバイスを減らして検査装置を小型化できる。
さらに、構造物の劣化による物質の析出は、測定時間に比べて長い時間をかけて生じると考えられるから、r3の時間変化から、構造物の劣化による物質の析出とそれ以外の要素の切り分けを行うことが可能となる。例えば、数秒でr3のピークの高さが大きく変動する場合、r3のピークは構造物の劣化による物質の析出ではなく、何らかのノイズであると考えられる。
【0055】
以上のような検査対象の構造物の温度変化及び吸収スペクトルの測定はその構造物について毎日又は所定期間をおいて定期的に行い、日時の経過に従って以前の測定データと異なる測定データが得られたときに、その構造物の表面又は内部において今までと違う状態が発生したことが分かり、構造物の内部欠陥及び劣化状態を検査することができる。
【0056】
次に、このように構成された非破壊検査装置の使用及び動作について説明する。まず、図1及び図2において、検査対象の構造物としての例えばトンネル4内にて、道路Rに設置されたガイドレール6を利用して自走機構部2を組み合わせ、検査装置本体1をトンネル4内の道路R上の中央にセットする。また、前記トンネル4内にて、前記検査装置本体1の自走機構部2のガイドレール6と平行に延びる他のガイドレール6aを利用して他の自走機構部2aを組み合わせ、校正物質収納体3をトンネル4内の道路R上の一方の側壁底部の近傍にセットする。
【0057】
この状態で自走機構部2に外部から電源を供給して、図4図5に示す赤外線照射部12及び温度変化・劣化状態測定部13を駆動し、図6に示す第1ドラム16a及び第2ドラム16bをそれぞれ独立に回転させて赤外線レーザチップ17及び温度測定分光光学系20を回転させながら、トンネル4の内壁面に対して加熱レーザ光を発振したり、赤外線を照射する。同時に、図3に示す自走機構部2の電気モータ9を駆動して駆動車輪8を回転させ、図4に示すように、検査装置本体1をガイドレール6に沿って矢印A方向又はB方向に一定速度で移動させ、トンネル4の全長に亘って片道又は往復移動させる。なお、前記温度測定分光光学系20の回転は、加熱用の赤外線レーザチップ17の回転よりも速くするのが望ましい。
【0058】
前記赤外線照射部12の赤外線レーザチップ17及び温度変化・劣化状態測定部13の温度測定分光光学系20自体の回転及び回転角度は、図10に示す基盤部材11の上面に取り付けた高反射率部材22からの反射光を受光して検出される。また、前記赤外線照射部12及び温度変化・劣化状態測定部13のトンネル4の内壁面に対する回転角度は、図11に示すトンネル4の内壁面の特定位置又は一定間隔をおいた位置に設けた高反射率部材23からの反射光を受光して検出される。さらに、前記検査装置本体1のガイドレール6に対する移動位置は、図12に示すガイドレール6の特定位置又は一定間隔をおいた位置に設けた高反射率部材24からの反射光を受光して検出される。これにより、検査装置本体1が検査対象のトンネル4に沿って移動している位置を検出する。
【0059】
このような動作により、前記赤外線照射部12及び温度変化・劣化状態測定部13から照射されるレーザ光のトンネル4の内壁面に対する位置が特定され、検査装置本体1がガイドレール6に沿って移動する位置が特定されて、前述の図13図19の動作をすることで、トンネル4の内壁面を万遍なく、かつ自動的に検査できる。この場合、他の自動車等の通行の妨げにならず、24時間いつでもトンネル4の非破壊検査をすることができる。また、操作者等の人手を要しないため、検査コストを低減することが可能である。
【0060】
以上の説明は、図8に示され、請求項3に記載した温度変化・劣化状態測定部13における温度測定分光光学系20について述べたものであるが、以下、請求項4,5に記載の温度変化・劣化状態測定部13における温度測定分光光学系20について、共通の構成ブロック図である図8を参照して説明する。
【0061】
まず、請求項4に記載の温度変化・劣化状態測定部13における温度測定分光光学系20は、図8に示すと同様に、構造物に対して赤外線を照射する光源部20aと、前記赤外線照射部12からの赤外線照射で加熱された構造物に対する光源部20aからの赤外線照射の反射率変化を測定すると共に前記赤外線照射で加熱された構造物に対する光源部20aからの赤外線照射の反射光を分光して吸収スペクトルを検出する分光器20bと、前記光源部20a及び分光器20bに入出射する赤外線が構造物表面に焦点が合うようにする自動焦点機能を具備するレンズ20cとを有している。
【0062】
前記光源部20aは、構造物に対して赤外線を照射するもので、請求項3に記載のものと同様である。また、分光器20bは、上述のように、赤外線照射部12からの赤外線照射で加熱された構造物に対する光源部20aからの赤外線照射の反射率の時間変化により温度変化を測定すると共に、前記赤外線照射で加熱された構造物に対する光源部20aからの赤外線照射の反射光を分光してその反射率の波長依存性により吸収スペクトルを検出する。前記分光器20bによる温度変化の測定も、請求項3と同様に、赤外線照射で加熱された構造物に対する赤外線照射の反射率の時間変化により、物質の光反射率の温度依存性を利用して熱伝導率の変化を測定することで可能となる(光加熱サーモリフレクタンス法)。
【0063】
次に、請求項5に記載の温度変化・劣化状態測定部13における温度測定分光光学系20は、図8に示すと同様に、構造物に対して赤外線を照射する光源部20aと、前記赤外線照射部12からの赤外線照射で加熱された構造物からの熱放射光の変化を測定すると共に前記赤外線照射で加熱された構造物に対する光源部20aからの赤外線照射の反射光を分光して吸収スペクトルを検出する分光器20bと、前記光源部20a及び分光器20bに入出射する赤外線が構造物表面に焦点が合うようにする自動焦点機能を具備するレンズ20cとを有している。
【0064】
前記光源部20aは、構造物に対して赤外線を照射するもので、請求項3に記載のものと同様である。また、分光器20bは、上述のように、赤外線照射部12からの赤外線照射で加熱された構造物からの熱放射光の時間変化を測定すると共に、前記赤外線照射で加熱された構造物に対する光源部20aからの赤外線照射の反射光を分光してその反射率の波長依存性により吸収スペクトルを検出する。前記分光器20bによる温度変化の測定は、赤外線照射で加熱された構造物からの熱放射光量の時間変化により測定できる(サーモグラフィ法)。
【0065】
図20は、図6に示す検査装置本体1における温度変化・劣化状態測定部13の内部構造の他の実施例を示す説明図であり、第2ドラム16bの一方の側面板を外して内部を示す側面図である。この図20は、請求項6に記載の温度変化・劣化状態測定部13を示しており、図7に示すと同様に、第2ドラム16bの回転中心側から半径方向に向かって放射状に延びる、例えば4個の温度測定分光光学系20’を備えている。なお、温度測定分光光学系20’は、4個に限られず、1個又は適宜の複数個であってもよい。
【0066】
図21は、図20に示す温度変化・劣化状態測定部13における温度測定分光光学系20’の内部構成(請求項6に対応)を示すブロック図である。この温度測定分光光学系20’は、前記赤外線照射部12からの赤外線照射で加熱された構造物からの熱放射光の変化を測定すると共に前記赤外線照射で加熱された構造物からの熱放射光を分光して吸収スペクトルを検出する分光器20bと、前記分光器20bに入射する赤外線が構造物表面に焦点が合うようにする自動焦点機能を具備するレンズ20cとを有している。なお、符号20dはレンズ20cの焦点を合わせる自動焦点(AutoFocus:AF)の機能を発揮するAFユニットを示している。すなわち、光源部20aとハーフミラー20eとを備えていない点が、図8と異なる。
【0067】
前記赤外線照射部12からの赤外線照射で加熱された構造物からの反射赤外線は、レンズ20cに矢印Eのように入射してそのまま分光器20bに入射する。このとき、レンズ20cは、AFユニット20dの自動焦点機能によりレンズ20cへ入射する反射赤外線が分光器20bの受光点に焦点が合うように調節される。すなわち、図21において、分光器20bでレンズ20cから入射した光(赤外線)を検出し、その検出信号をAFユニット20dへ送り、AFユニット20dは前記検出信号の大小によりレンズ20cの位置を調節して焦点が合うようにフィードバック制御する。
【0068】
図22は、図20に示す温度変化・劣化状態測定部13を備えた非破壊検査装置の構成及び機能を示すブロック図である。この非破壊検査装置は、温度変化・劣化状態測定部13の内部構造が図20及び図21に示す温度測定分光光学系20’(請求項6に対応)を備えたものであり、その他の構成及び動作は、図14に示すものと同じである。
【0069】
図23は、第1の発明による構造物の非破壊検査装置の第2の実施形態を示す概略図であり、図24は、その側面図である。なお、図23及び図24においては、検査装置本体1及び校正物質収納体3の配置状態を示しており、トンネル4は図示省略している。
【0070】
この第2の実施形態においては、前記検査装置本体1は、断面半円弧状の内壁面を有する構造物(トンネル4)の前記内壁面に沿うアーチ形に形成されると共に該検査装置本体1を保持する可動支持部材41を有し、該可動支持部材41の両端の台部材42が道路Rの路面上を自走可能に構成された自走機構部40により前記構造物に沿って移動可能とされ、前記校正物質収納体3は、前記可動支持部材41の両端の台部材42のうちいずれか一方側に搭載されている。その他の構成は、前述の第1の実施形態と基本的に同様である。
【0071】
図25は、第2の実施形態における自走機構部40を示す概略斜視図である。この実施形態では、検査装置本体1の筐体5(図3参照)を移動可能に支持する自走機構部40が、可動支持部材41と台部材42とを有している。なお、図25においては、校正物質収納体3は図示省略している。
【0072】
前記可動支持部材41は、図26に示すように、中央に位置するアーチ形の第1支持部材41aと、その前後に所定間隔をおいて位置するアーチ形の第2支持部材41bと、第3支持部材41cとを有している。第1支持部材41aの半円弧状の中央部下面には、図25に示すように、吊下げ支持具43が取り付けられており、この吊下げ支持具43の下端部に、図4及び図5に示すと同様に構成された検査装置本体1が支持されている。このとき、検査装置本体1の図4に示す赤外線照射部12及び温度変化・劣化状態測定部13は、図26に示すように、第1支持部材41aと第2支持部材41bとの間の離間部、及び第1支持部材41aと第3支持部材41cとの間の離間部に位置するように配置して支持されている。これは、前記赤外線照射部12及び温度変化・劣化状態測定部13から照射され、トンネル4の内壁面から反射されるレーザ光や赤外線が可動支持部材41によって光路を妨げられないようにするためである。
【0073】
前記可動支持部材41のアーチ形の両端には、台部材42,42が設けられている。この台部材42は、可動支持部材41を道路Rの路面上にて自走可能とするもので、図26に示すように、第2支持部材41bから第3支持部材41cまで横長に延びる台箱46を有し、この台箱46の内部に駆動車輪8が一列状に複数個設けられている。この駆動車輪8は、前記台箱46の内部に設置された電気モータ(図示省略)により回転される。前記駆動車輪8を備えた台部材42は、アーチ形の可動支持部材41の両端に設けられているので、両方の台部材42により下端部を支えた状態で可動支持部材41が設置面上に立って置かれる。そして、前記駆動車輪8が回転することで、前記可動支持部材41の全体が路面上を一方向又は往復方向に自走可能とされている。すなわち、この実施形態の自走機構部40は、前記可動支持部材41と、台部材42と、電気モータと、駆動車輪8とを備えて成る。
【0074】
なお、図25及び図26において、符号44はカメラユニットを示している。このカメラユニット44は、図26に示すように、第2支持部材41b及び第3支持部材41cを利用してそのアーチ形の形状に沿って移動可能とされ、カメラのレンズ面が図25に示すトンネル4の内壁面に向けて設けられている。これにより、前記カメラユニット44でトンネル4の内壁面に異常個所があれば、それを撮影することができる。
【0075】
この状態で、図25に示すように、トンネル4の内壁面に沿わせてアーチ形の可動支持部材41が位置するようにし、その両端部の台部材42,42がトンネル4内部の道路Rの両側部に位置するようにして、自走機構部40をトンネル4内に挿入することで、該トンネル4に沿って往復移動可能に構成されている。なお、前記電気モータに対する電力の供給は、蓄電池を利用するなどの従来公知の電力供給手段を用いればよい。
【0076】
なお、図23に示すように、前記校正物質収納体3は、可動支持部材41の両端の台部材42,42のうちいずれか一方側に搭載されているので、前記自走機構部40の全体がトンネル4に沿って移動することで、検査装置本体1に同期して移動することとなる。
【0077】
第2の実施形態の場合も、検査装置本体1の動作は前述と全く同じである。ただし、第2の実施形態の自走機構部40において検査装置本体1の赤外線照射部12及び温度変化・劣化状態測定部13(図4図6参照)の回転を検出するには、図23及び図24において、検査装置本体1が支持された第1支持部材41aの下端部が連結された一方の台部材42の上面に高反射率部材(図示省略)を設け、それぞれ赤外線照射部12の赤外線レーザチップ17及び温度変化・劣化状態測定部13の温度測定分光光学系20から照射されたレーザ光、赤外線の反射光を受光して、赤外線レーザチップ17及び温度測定分光光学系20が回転しているかどうか、回転角度はどのくらいかを検出する。この場合、前記第1支持部材41aのアーチ形状は、トンネル4の内壁面に沿うアーチ形に形成されているので、前記高反射率部材が取り付けられた位置を赤外線レーザチップ17及び温度測定分光光学系20の回転角度のゼロ点位置とすれば、前記赤外線照射部12及び温度変化・劣化状態測定部13のトンネル4の内壁面に対する回転角を擬似的に検出することができる。なお、前記高反射率部材は、赤外線照射部12からの加熱用の赤外線の吸収による温度上昇はないものとする。
【0078】
そして、第2の実施形態における検査装置本体1のトンネル4の長手方向に対する移動位置は、例えば図11に示す高反射率部材23をトンネル4の長手方向に沿って連続線状、又は一定間隔をおいて設け、前記赤外線照射部12又は温度変化・劣化状態測定部13から照射されたレーザ光、赤外線の前記高反射率部材23からの反射光を検出して、検査装置本体1がトンネル4の長手方向においてどの位置にいるかを検出すればよい。これにより、検査装置本体1が検査対象のトンネル4に沿って移動している位置を検出することができる。この場合も、前記高反射率部材23は、赤外線照射部12からの加熱用の赤外線の吸収による温度上昇はないものとする。
【0079】
第2の実施形態の自走機構部40を備えた非破壊検査装置の使用及び動作については、第1の実施形態の自走機構部2を備えた非破壊検査装置の使用及び動作と基本的には同じであり、単に、第2の実施形態の自走機構部40の移動動作が異なるだけである。図23及び図25に示す第2の実施形態の自走機構部40を備えた場合は、検査対象のトンネル4の内部の道路Rに第1の実施形態の自走機構部2(図1及び図2参照)を保持するためのガイドレール6を予め設置する必要がないので、本発明による非破壊検査装置を導入するのが容易である。また、第2の実施形態の自走機構部40のアーチ形が検査対象のトンネル4の内壁面の形状に合う限り、既存のトンネル4に対してこの非破壊検査装置を導入することが可能である。
【0080】
図27は、第1の発明による構造物の非破壊検査装置の第3の実施形態を示す概略図である。この第3の実施形態においては、検査装置本体1は、断面半円弧状の内壁面を有する構造物(トンネル4)の一方の側壁底部及び他方の側壁底部の近くにて前記構造物に沿って延びる道路Rの路面上に対向して2本平行に設置されたガイドレール6,6の案内により、該検査装置本体1の支持部材が路面上を自走可能に構成された自走機構部2,2により前記構造物に沿って移動可能に2台設けられ、前記校正物質収納体3は、前記2台の検査装置本体1,1の互いに対向する側面部に内蔵されている。なお、各検査装置本体1に内蔵された校正物質収納体3は、例えば図6に示すように、温度変化・劣化状態測定部13を構成する第2ドラム16bを回転させる電気モータ21の台座の側面部、又は前記電気モータ21の筐体側面部などに設ければよい。
【0081】
第3の実施形態の場合は、対向配置された2台の検査装置本体1,1を、それらの自走機構部2,2により同期して移動させることで、お互いの校正物質収納体3を相手の検査装置本体1に同期して移動することができる。この場合、図14又は図22に示す検査装置本体1内の通信ユニット27同士で位置情報を送受信すればよい。この実施形態では、対向配置された2台の検査装置本体1,1により、自己の正面側に位置するトンネル4の内壁の領域(約1/2ずつ)をカバーして構造物の内部欠陥及び劣化状態を検査することができる。
【0082】
なお、前記検査装置本体1を検査対象の構造物に沿って移動可能とする自走機構部は、第1及び第3の実施形態の自走機構部2又は第2の実施形態の自走機構部40の構成に限られず、トンネル4の内壁面にトンネル長手方向にレールを敷設してモノレールのような構成のものとしてもよい。また、第1の実施形態において校正物質収納体3を前記検査装置本体1に同期して移動可能とする他の自走機構部2aも、同様に、トンネル4の内壁面にトンネル長手方向にレールを敷設してモノレールのような構成のものとしてもよい。
【0083】
図28は、第2の発明による構造物の検査システムの実施形態を示すブロック図である。この検査システムは、検査対象の構造物(例えば、トンネル又は高架橋等の構造物)に赤外線を照射して前記構造物の内部欠陥及び劣化状態を検査するもので、非破壊検査装置50と、中継器51と、管理センター52と、双方向通信網53とを備えて成る。なお、符号4は、非破壊検査装置50が配置された検査対象の構造物としてのトンネルを示している。
【0084】
前記非破壊検査装置50は、前述の第1の発明による非破壊検査装置であり、図1図23及び図27に示すように構成され、例えばトンネル4内に配置されている。この非破壊検査装置50は、例えば図14又は図22に示すように、検査対象の構造物(トンネル4)に加熱用の赤外線を照射する赤外線照射部12と、前記赤外線照射部からの赤外線照射による構造物の温度変化を測定すると共に前記赤外線照射で加熱された構造物からの赤外線を分光した吸収スペクトルにより該構造物の劣化状態を測定する温度変化・劣化状態測定部13と、前記赤外線照射部12及び温度変化・劣化状態測定部13の駆動制御及びデータ集積を行う駆動制御・集積部14とを含む検査装置本体1と、前記検査装置本体1を前記構造物に沿って移動可能とする自走機構部2と、前記検査装置本体1に同期して移動可能とされ、前記構造物の劣化状態測定の基準となる正常物質3aを収納する校正物質収納体3と、前記駆動制御・集積部14で取得した検査データを外部へ送る通信ユニット27とを備えている。そして、前記検査装置本体1を検査対象の構造物(トンネル4)に沿って移動させながら、前記構造物に対する加熱用の赤外線照射による構造物の温度変化を測定して該構造物の内部欠陥を検査すると共に、前記検査装置本体1に同期して移動する校正物質収納体3内の正常物質3aに対する前記赤外線照射による吸収スペクトルと前記構造物に対する前記赤外線照射による吸収スペクトルとを比較して該構造物の劣化状態を検査するようになっている。
【0085】
中継器51は、前記検査対象のトンネル4の終端部(例えば、トンネル入口又は出口)に設置され、前記非破壊検査装置50から送られる検査データを受けるもので、受信したデータを双方向通信網53へ送るデータ通信部を備えている。なお、中継器51は、トンネル4の終端部に限られず、トンネル4の中央部又はトンネル4を出てすぐの場所に設置してもよい。
【0086】
管理センター52は、前記非破壊検査装置50から送られる検査データを受信してデータ処理を行うもので、中央処理装置(CPU)等のデータ処理部を備えている。さらに、図28に示すように、複数個の非破壊検査装置50を管理する場合は、ホスト電子計算機を備えている。
【0087】
双方向通信網53は、前記中継器51と管理センター52との間に設けられ、前記検査データを送受信するもので、公知の双方向ネットワークを備えて検査データを遣り取りするようになっている。
【0088】
なお、前記非破壊検査装置50と、中継器51と、双方向通信網53と、管理センター52との間の通信は、有線でも無線でもよい。また、前記検査データの処理を行うデータ処理部を前記中継器51に設けて、該中継器51により、前記非破壊検査装置50から送られる検査データを処理して前記管理センター52へ送信するようにしてもよい。
【0089】
そして、この検査システムは、一つの検査対象の構造物(トンネル4)に非破壊検査装置50を設置し、この非破壊検査装置50に対して中継器51及び双方向通信網53を介して管理センター52に接続してもよいが、図28に示すように、前記非破壊検査装置50を検査対象の複数の構造物(トンネル4)毎に1個ずつ設置し、これら複数個の非破壊検査装置50に対して前記双方向通信網53を介して1個の管理センター52を設置して双方向通信可能に接続してもよい。
【0090】
次に、このように構成された第2の発明による検査システムの使用及び動作について説明する。非破壊検査装置50自体の使用及び動作については、前述の第1の発明について説明した通りである。まず、前記非破壊検査装置50では、校正物質収納体3内の正常物質3aに対する赤外線照射による吸収スペクトルを計測して校正用のデータを取得する。例えば、図6に示す温度変化・劣化状態測定部13の第2ドラム16bのn回転(nは自然数)につき1回の割合で吸収スペクトルを計測する。その後、前記取得した校正用のデータを図14又は図22に示す通信ユニット27を介して、トンネル4の入口又は出口に設置された中継器51に送る。
【0091】
次に、検査装置本体1を検査対象の構造物(トンネル4)に沿って移動させながら、前記構造物に対する赤外線照射による構造物の温度変化を測定して該構造物の内部欠陥を検査すると共に、前記構造物に対する赤外線照射による吸収スペクトルを計測して検査用のデータを取得する。このとき、計測開始時と終了時で計測環境(温度・湿度)が変化している可能性がある。その後、前記取得した検査用のデータを図14又は図22に示す通信ユニット27を介して前記中継器51に送る。
【0092】
前記取得された校正用のデータ及び検査用のデータは、前記中継器51から双方向通信網53を介して管理センター52へ送られる。管理センター52は、各トンネル4内に設置された非破壊検査装置50から送られた校正用のデータと検査用のデータを受信してデータ処理を行い、そのデータ処理後の検査データを蓄積しておく。このとき、前記中継器51では、正常物質3aについての校正用のスペクトルデータと構造物についての検査用のスペクトルデータとを比較して、図19に示す波長Wから特定された析出物質の量が所定の閾値を超えたら、管理センター52へ構造物の劣化による異常発生を通知する。
【0093】
なお、前記構造物の劣化による異常発生の検知は、前記中継器51から校正用のデータ及び検査用のデータを管理センター52へ送ってから、該管理センター52において、正常物質についての校正用のスペクトルデータと構造物についての検査用のスペクトルデータとを比較して異常発生を検知するようにしてもよい。また、正常物質3aについての校正用のデータの取得と、構造物についての検査用のデータの取得とは、上記の順序に限られず、構造物についての検査用のデータの取得を先に行ってもよい。
【0094】
前記トンネル4の内壁面についての検査は、毎日又は所定期間をおいて定期的に行い、日時の経過に従って以前の検査データと異なる検査結果が得られたときに、そのトンネル4の表面又は内部において今までと違う状態が発生したことが分かり、構造物の内部欠陥及び劣化状態を検査することができる。なお、前述のように、中継器51に検査データの処理を行うデータ処理部を設けて、該中継器51により、前記非破壊検査装置50から送られる検査データを処理して前記管理センター52へ送信するようにした場合は、管理センター52に大規模なデータ処理部を設けることなく、トンネル4毎の中継器51に小規模なデータ処理部を設けるだけで実施できる。
【0095】
このような検査システムの動作により、複数個のトンネル4の内壁面を万遍なく、かつ自動的に検査できる。この場合、他の自動車等の通行の妨げにならず、24時間いつでもトンネル4の非破壊検査をすることができる。また、操作者等の人手を要しないため、検査コストを低減することが可能である。
【符号の説明】
【0096】
1…検査装置本体
1a…第1検査部
1b…第2検査部
2,2a…自走機構部
3…校正物質収納体
3a…正常物質
3b…通信ユニット
4…トンネル(検査対象の構造物)
5…筐体
6…ガイドレール
7…支持部材
8…駆動車輪
9…電気モータ
12…赤外線照射部
13…温度変化・劣化状態測定部
14…駆動制御・集積部
17…赤外線レーザチップ
18,21…電気モータ
20,20’…温度測定分光光学系
20a…光源部
20b…分光器
20c…レンズ
20d…AFユニット
26…カメラ電源ユニット
27…通信ユニット
30…構造物
31…クラック
40…自走機構部
41…可動支持部材
42…台部材
43…吊下げ支持具
50…非破壊検査装置
51…中継器
52…管理センター
53…双方向通信網
図1
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