【課題】被検査物の内部の複数の高さに対しても、被検査物の搬送方向に複数並設されたX線ラインセンサからの検出信号に基づいて精度良く検査を行うことができるX線検査装置を提供する。
【解決手段】タイミング遅延部44は、隣接する下流側のX線ラインセンサの検出タイミングを、上流側に隣接するX線ラインセンサに対して遅延させている。遅延時間算出部45は、被検査物Wの検査を所望する複数の高さと、X線ラインセンサおよびX線発生器9の配置と、搬送部の搬送速度とに基づいて、複数の高さのそれぞれに対応する被検査物Wの内部に対して、X線ラインセンサの検出タイミングが一致するようタイミング遅延部44が用いる遅延時間を算出している。
前記遅延時間算出部は、隣接する前記X線ラインセンサの下流側の前記X線ラインセンサの検出タイミングと上流側の前記X線ラインセンサの検出タイミングとが、前記設定操作部で指定された前記複数の高さの1つに対応する前記被検査物の内部に対して一致するよう、前記タイミング遅延部が用いる前記複数の遅延時間の1つを算出することを特徴とする請求項1に記載のX線検査装置。
前記被検査物の高さが外部機器から入力される入力インターフェース(47)を、前記被検査物高さ取得部として備えることを特徴とする請求項3に記載のX線検査装置。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して説明する。まず構成について説明する。
【0019】
搬送部2は、筐体4に対して水平に配置されたベルトコンベアの搬送面(ベルト面)2a上で、被検査物Wを搬送するようになっている。搬送部2は、
図1に示す駆動モータ6の駆動により予め設定された搬送速度で搬入口7から搬入された被検査物Wを搬出口8側(図中X方向)に向けて搬送するようになっている。筐体4内部において搬送面2a上を搬入口7から搬出口8まで貫通する空間は搬送路21を形成している。
【0020】
検出部3は、搬送路21途中の検査空間22の上方に所定高さ離隔して配置されたX線発生源としてのX線発生器9と、このX線発生器9と対向して搬送部2内に配置されたX線検出器10を備えている。検出部3は、搬送路21の途中の検査空間22において、順次搬送される被検査物Wに対し、X線発生器9によりX線を照射するとともに、被検査物Wを透過するX線をX線検出器10により検出するようになっている。
【0021】
X線発生器9は、円筒状のX線管12と、このX線管12を絶縁油に浸漬した状態で収納する金属性の箱体11とを備えており、X線管12の陰極からの電子ビームを陽極のターゲットに照射させてX線を生成するようになっている。
【0022】
X線管12により生成されたX線は、下方のX線検出器10に向けて、図示しないスリットにより略三角形状のスクリーン状となって搬送方向(X方向)を横切るように照射されるようになっている。
【0023】
ここで、X線管12の陽極と陰極との間に流す電流(管電流)に比例して、X線管12が発生するX線の強度は変化する。また、X線管12の陽極と陰極との間に印加する電圧(管電圧)が高くなるに連れて、X線管12が発生するX線の波長が短くなりX線の透過力が強くなる。このため、X線管12の管電流および管電圧は、検出対象とする異物および被検査物Wの種類や搬送速度に応じて調整されるようになっている。
【0024】
X線検出器10は、
図3(a)、
図3(b)に示すように、Y方向に直線状に延在する3つのX線ラインセンサ50、60、70を搬送面2aの下方に備えている。X線ラインセンサ50はX方向上流側に配置され、X線ラインセンサ60はX線ラインセンサ50に対してX方向下流側に隣接して配置され、X線ラインセンサ70はX線ラインセンサ60に対してX方向下流側に隣接して配置されている。X線ラインセンサ50、60、70は、同じエネルギーのX線を検出するシングルエナジーセンサ、または、異なるエネルギーのX線を検出するデュアルエナジーセンサとして構成されている。
【0025】
なお、本実施形態では、説明を簡単にするためX線ラインセンサを3つとして説明するが、さらに複数のX線ラインセンサを搬送面2aの下方に備える構成とすることも可能である。
【0026】
X線ラインセンサ50は、複数のセンサモジュール51、52、53、54をY方向にそれぞれ直線状に接続したものから構成されている。X線ラインセンサ60は、複数のセンサモジュール61、62、63、64をY方向にそれぞれ直線状に接続したものから構成されている。X線ラインセンサ70は、複数のセンサモジュール71、72、73、74をY方向にそれぞれ直線状に接続したものから構成されている。
【0027】
各センサモジュール51、52、53、54、61、62、63、64、71、72、73、74は、それぞれX線検知部51a、52a、53a、54a、61a、62a、63a、64a、71a、72a、73a、74aを基板51b、52b、53b、54b、61b、62b、63b、64b、71b、72b、73b、74b上に実装したものから構成されている。
【0028】
X線検知部51a、52a、53a、54a、61a、62a、63a、64a、71a、72a、73a、74aは、検出素子としてのフォトダイオード(図示せず)と、フォトダイオード上に設けられたシンチレータ(図示せず)とから構成されている。X線検知部51a、52a、53a、54a、61a、62a、63a、64a、71a、72a,73a、74aは、X線発生器9から被検査物Wに対してX線が照射されているとき、被検査物Wを透過してくるX線をシンチレータで受けて光に変換するようになっている。また、X線検知部51a、52a、53a、54a、61a、62a、63a、64a、71a、72a,73a、74aは、シンチレータで変換された光をフォトダイオードで受光し、受光した光を電気信号に変換して出力するようになっている。
【0029】
X線検出器10はA/D変換部41を備えており、このA/D変換部41は、X線ラインセンサ50、60、70からの検出信号(輝度値データ)をデジタルデータに変換して検出データ(濃度データ)として出力するようになっている。
【0030】
ここで、X線検出器10がA/D変換部41を備える代わりに、制御部40がA/D変換部41を備えるようにしてもよい。すなわち、X線検出器10から制御部40への出力を、デジタルデータに変換された後の検出データとする代わりに、デジタルデータに変換される前の検出信号をX線検出器10の側で出力し、制御部40の側で検出信号をデジタルデータである検出データに変換するように構成してもよい。
【0031】
図2に示すように、搬送路21の上部空間には被検査物高さ測定センサ81が設けられており、この被検査物高さ測定センサ81は、搬送面2a上を搬送される被検査物Wの高さを非接触で測定するようになっている。
【0032】
被検査物高さ測定センサ81は、
図4に示すように、複数のレーザ光束を照射して反射光を受光することにより、被検査物Wの高さを非接触で測定するようになっており、搬送面2aの上方(本実施の形態では、搬送面2aの搬送方向上流部の上方)に被検査物Wと接触しないよう十分な間隔を隔てて配置されている。被検査物高さ測定センサ81には、このようなレーザ光による2次元変位センサを用いることができ、この2次元センサを用いた場合、被検査物Wの高さだけでなく、検査空間22を通過する被検査物Wの幅、形状および搬送面2a上の位置等を測定することができる。
【0033】
また、
図2に示すように、X線検査装置1は制御部40を備え、この制御部40は、X線検出器10からの検出信号に基づいて被検査物Wの良否判定を行うようになっている。また、制御部40は、被検査物Wの良否判定の他に、X線検査装置1全体の制御を行うようになっている。
【0034】
制御部40は、一時記憶部42と、合成部46と、判定部48と、表示器5と、設定操作部49とを備え、一時記憶部42に記憶されたX線ラインセンサ50、60、70からの検出データを合成部46で合成し、合成画像に基づいて判定部48で被検査物Wの良否を判定し、判定結果を表示器5により表示するようになっている。
【0035】
また、本実施形態では、制御部40は、タイミング遅延部44と、遅延時間算出部45と、入力インターフェース47とを備え、タイミング遅延部44は、遅延時間算出部45により算出された遅延時間を用いて、X線ラインセンサ50、60、70の検出タイミングを調整するようになっている。
【0036】
一時記憶部42は、X線ラインセンサ50、60、70からの検出データを一時的に記憶するようになっており、データを高速に記憶および読み出しが可能な半導体メモリ等のバッファから構成されている。
【0037】
合成部46は、X線ラインセンサ50、60、70の検出データを一時記憶部42から読み出すとともに、読み出した検出データを合成して被検査物Wに対応する画像データとして出力するようになっている。
【0038】
判定部48は、合成部46で合成された検出データに対して被検査物Wと異物との判別を行って異物の混入の有無を判定するようになっている。表示器5は、判定部48による判定結果を表示するようになっている。判定部48は、合成部46で合成された画像データ10dm(検出データ)に基づいて、被検査物Wの中から異物を検出し、異物の混入の有無を判定するようになっている。
【0039】
設定操作部49は、不図示のキーボードおよびタッチパネル等から構成されており、検査を所望する複数の高さの設定、X線発生器9のX線出力の設定、搬送速度等の検査パラメータの設定操作、動作モードの選択操作等が行われるようになっている。
【0040】
ここで、検査を所望する高さの設定は、搬送面2aからの高さ、被検査物Wの上面からの距離、被検査物Wの上面を100%としたときの搬送面2aからの比率、などの設定が可能である。また、検査を所望する高さの設定の最大数は、X線ラインセンサの数で決まる。本実施形態では、説明を簡単にするためX線ラインセンサを3つとしているので検査を所望する高さは2つとなる。さらに複数のX線ラインセンサを搬送面2aの下方に備える構成とした場合、1つX線ラインセンサを追加するごとに設定可能な検査を所望する高さが1つ増え、被検査物Wの高さ方向に対する分解能を上げることができる。
【0041】
入力インターフェース47は、前段の検査装置等としての外部機器82に接続されており、この外部機器82から被検査物Wの高さを取得するようになっている。外部機器82には、前述の2次元変位センサのように被検査物Wの高さを測定するセンサが設けられている。
【0042】
タイミング遅延部44は、隣接するX線ラインセンサの下流側のX線ラインセンサの検出タイミングを、上流側に隣接するX線ラインセンサの検出タイミングに対して、遅延時間算出部45で算出された複数の遅延時間を用いて遅延させるようになっている。
【0043】
X線ラインセンサ60の検出タイミングは上流側に隣接するX線ラインセンサ50の検出タイミングに対して遅延時間算出部で算出された遅延時間を用いて遅延され、X線ラインセンサ70の検出タイミングは上流側に隣接するX線ラインセンサ60の検出タイミングに対して遅延時間算出部で算出された遅延時間を用いて遅延される。ここで、X線ラインセンサ50、60、70の検出タイミングとは、X線ラインセンサ50、60、70の蓄積(蓄光)開始のタイミングである。
【0044】
遅延時間算出部45は、タイミング遅延部44が用いる複数の遅延時間を算出するようになっている。遅延時間算出部45には、操作設定部49から入力された検査を所望する複数の高さ、入力インターフェース47から入力(取得)された被検査物Wの高さ、または被検査物高さ測定センサ81で測定(取得)された被検査物Wの高さが入力されるようになっている。
【0045】
遅延時間算出部45は、検査を所望する高さと、取得された被検査物Wの高さと、X線ラインセンサ50、60、70およびX線発生器9の配置と、搬送部2の搬送速度とに基づいて、隣接するX線ラインセンサの下流側のX線ラインセンサの検出タイミングと、上流側に隣接するX線ラインセンサの検出タイミングとが一致するよう、遅延時間を算出するようになっている。
【0046】
ここで、X線ラインセンサ50、60、70およびX線発生器9の配置とは、
図5(a)に示すように、X線ラインセンサ50とX線ラインセンサ60との間隔d1、X線ラインセンサ60とX線ラインセンサ70との間隔d2および、X線発生器9と搬送面2aとの距離H1、および、X線発生器9とX線ラインセンサ50、60、70との距離H2のことである。
【0047】
換言すると、X線ラインセンサ50、60、70およびX線発生器9の配置とは、X線検査装置1の構成に関する既知の値である。なお、X線ラインセンサ50とX線ラインセンサ60との間隔d1、X線ラインセンサ60とX線ラインセンサ70との間隔d2と、X線発生器9とX線ラインセンサ50、60、70との距離H2に代えて、X線発生器9から照射されるX線の拡大率を用いてもよい。
【0048】
遅延時間算出部45は、検査を所望する複数の高さの前記被検査物Wの内部に対して、隣接するX線ラインセンサの下流側のX線ラインセンサの検出タイミングと、上流側に隣接するX線ラインセンサの検出タイミングとが一致するよう、タイミング遅延部44が用いる複数の遅延時間を算出するようになっている。
【0049】
遅延時間t1は、X線ラインセンサ50、60が設けられた平面に対しては、t1=d1/Vの数式から求まり、高さp1に対しては、X線の拡大効果があるため、次に示す数式から算出される。
【0050】
t1={(H1−p1)/H2}・(d1/V)
【0051】
同様に、遅延時間t2は、X線ラインセンサ60、70が設けられた平面に対しては、t2=d2/Vの数式から求まり、高さp2に対しては、X線の拡大効果があるため、次に示す数式から算出される。
【0052】
t2={(H1−p2)/H2}・(d2/V)
【0053】
タイミング遅延部44は、遅延時間算出部45により算出された遅延時間を用いて、
図5(b)に示すように、X線ラインセンサ60の検出タイミングは上流側に隣接するX線ラインセンサ50の検出タイミングに対して遅延時間算出部で算出された遅延時間t1を用いて遅延され、X線ラインセンサ70の検出タイミングは上流側に隣接するX線ラインセンサ60の検出タイミングに対して遅延時間算出部で算出された遅延時間t2を用いて遅延される。
【0054】
次に動作例を説明する。この動作例では検査を所望する高さとして、搬送面2aから被検査物Wの高さの2/3の位置と、1/3の位置とが設定されるものとする。
【0055】
まず、不図示のキーボードおよびタッチパネル等から構成される設定操作部49より、検査を所望する高さとして、搬送面2aから被検査物Wの高さの2/3の位置と、1/3の位置が入力される。そして制御部40は、所定搬送速度Vで搬送部2を駆動して被検査物Wを搬送するとともに、予め設定された強度でX線発生器9から被検査物WにX線を照射する。
【0056】
次いで、被検査物Wの高さが、入力インターフェース47から入力、または、被検査物高さ測定センサ81により測定される。
【0057】
次いで、遅延時間算出部45は、設定操作部49より入力された検査を所望する高さと取得された被検査物Wの高さより、搬送面2aからの検査を所望する高さp1、p2を算出し、続いて設定制御部X線ラインセンサ50、60、70およびX線発生器9の配置と、搬送部2の搬送速度とに基づいて、検査を所望する高さp1、p2に応じた遅延時間t1、t2を算出する。
【0058】
タイミング遅延部44は、遅延時間算出部45により算出された遅延時間を用いて、X線ラインセンサ60の検出タイミングを上流側に隣接するX線ラインセンサ50の検出タイミングに対して遅延時間算出部で算出された遅延時間t1だけ遅延させ、X線ラインセンサ70の検出タイミングを上流側に隣接するX線ラインセンサ60の検出タイミングに対して遅延時間算出部で算出された遅延時間t2だけ遅延させる。
【0059】
次いで、制御部40は、X線検出器10から出力されるX線ラインセンサ50の検出データとX線ラインセンサ60の検出データとX線ラインセンサ70の検出データとを一時記憶部42に記憶する。
【0060】
次いで、制御部40は、合成部46により、
図6(a)に示すように、X線ラインセンサ50,60の検出データの合成を行って、搬送面2aから高さp1の被検査物Wの形状に対応する画像データとして出力する。同様に
図6(b)に示すように、X線ラインセンサ60,70の検出データの合成を行って、搬送面2aから高さp2の被検査物Wの形状に対応する画像データとして出力する。
【0061】
図6(a)において、タイミング遅延部44により検出タイミングが調整されたX線ラインセンサ50、60からの検出データ50d、60dは、合成部46により合成(重ね合わせ)されるとともに搬送面2aから高さp1の被検査物Wの形状に対応する画像データ10dm1(検出データ)として出力されている。同様に
図6(b)において、タイミング遅延部44により検出タイミングが調整されたX線ラインセンサ60、70からの検出データ60d、70dは、合成部46により合成(重ね合わせ)されるとともに搬送面2aから高さp2の被検査物Wの形状に対応する画像データ10dm2(検出データ)として出力されている。
【0062】
次いで、制御部40は、判定部48により、合成部46で合成された画像データ10dm1、10dm2に基づいて、被検査物Wの中から異物を検出し、異物の混入の有無を判定し、合成部46で合成された画像データとともに表示器5に表示する。
【0063】
ここで、異物が搬送面2aから高さp2の近くにあったと仮定する。この場合、搬送面2aから高さp1の被検査物Wの形状に対応する画像データ10dm1では異物は低コントラストとなり異物の検出が困難となる可能性があるが、搬送面2aから高さp2の被検査物Wの形状に対応する画像データ10dm2では異物は高コントラストとなり異物の検出は容易である。つまり、搬送面2aから複数の高さの被検査物Wの形状に対応する画像データを用いて判定することにより精度良く検査を行うことができる。
【0064】
なお、X線ラインセンサ50,60の検出タイミングが調整されていない場合、
図6(c)に示すように、合成部46が出力する画像データ10dm1は、X線ラインセンサ50の検出データ50dに基づく被検査物Wの画像の境界と、X線ラインセンサ60の検出データ60dに基づく被検査物Wの画像の境界とが一致しないものとなる。図示しないが、X線ラインセンサ60,70の検出タイミングが調整されていない場合も同様である。
【0065】
なお、本動作例では、X線ラインセンサを3つとし説明したがが、さらに複数のX線ラインセンサを搬送面2aの下方に備える構成とすることも可能であり、X線ラインセンサを追加するごとに設定可能な検査を所望する高さが1つ増え、被検査物Wの高さ方向に対する分解能を上げることができる。また、検査を所望する高さを被検査物Wの上面までの搬送面2aからの比率として設定したが、被検査物Wの上面の高さの情報を用いず、搬送面2aからの高さとして設定することも可能である。
【0066】
また、X線の照射方向は図のような鉛直下方向のみに限定せず、左右方向、鉛直上方向であってもよい。つまり、X線源(X線発生器9)とX線ラインセンサ50、60、70を搬送面2aの上方と下方にそれぞれ配置してX線を上方から下方に向かって照射する構成だけでなく、X線源とX線ラインセンサ50、60、70を搬送面2aの下方と上方にそれぞれ配置してX線を下方から上方に向かって照射したり、X線を搬送面2aの幅方向一端側と他端側に配置してX線を横向きに一端側から他端側に向かって照射するように構成してもよい。