【実施例】
【0033】
以下、実施例の絶縁電線、ワイヤーハーネスについて、図面を用いて説明する。
【0034】
(実施例1)
実施例1の絶縁電線について、
図1、
図2を用いて説明する。
図1に示すように、本例の絶縁電線1は、導体2と、導体2の外周に被覆された絶縁体3とを有している。
【0035】
本例では、具体的には、導体2は、複数の素線20が撚り合された撚り線から構成されている。素線20は、軟銅線である。なお、撚り線は、複数の素線20が撚り合された後、導体断面が円形状となるように圧縮されたものを示している。また、電気絶縁性の絶縁体3は、導体の外周に押出被覆されたものである。
【0036】
絶縁電線1において、絶縁体3は、
図1の電線断面で見た場合に、
図2に示されるように、ポリサルホン系樹脂を主成分とする海状部31と、この海状部31に分散されておりポリエステル系エラストマーを主成分とする島状部32とを備える海−島構造30を有している。
【0037】
本例では、具体的には、海状部31は、ポリサルホン系樹脂からなり、島状部32は、ポリエステル系エラストマーからなる。また、島状部31のドメインサイズは、10μm以下である。
【0038】
(実施例2)
実施例2のワイヤーハーネスは、実施例1の絶縁電線を有している。
【0039】
本例では、ワイヤーハーネス(不図示)は、具体的には、複数本の絶縁電線1からなる電線束(不図示)と、この電線束の外周を被覆する保護材(不図示)とを有している。絶縁電線1の電線端末部には、絶縁体3の一部が剥ぎ取られて露出した導体2に端子(不図示)が電気的に接続されている。
【0040】
以下、構成の異なる絶縁電線の試料を複数作製し、各種評価を行った。その実験例について説明する。
【0041】
(実験例)
<材料準備>
絶縁体を構成する樹脂組成物の材料として、以下のものを準備した。
−ポリサルホン系樹脂−
・ポリサルホン(PSU)(ソルベイスペシャルティポリマーズジャパン社製、「ユーデルP−1700NT」)
・ポリエーテルサルホン(PES)(住友化学社製、「スミカエクセル4100G」)
・ポリフェニルサルホン(PPSU)(BASF社製、「ウルトラゾーンP3010」)
−ポリエステル系エラストマー−
・ポリエステル系エラストマー(1)(東レ・デュポン社製、「ハイトレル7247」、メルトフローレート:14g/10分)
・ポリエステル系エラストマー(2)(東レ・デュポン社製、「ハイトレル7277」、メルトフローレート:1.5g/10分)
・ポリエステル系エラストマー(3)(東レ・デュポン社製、「ハイトレル4275」、メルトフローレート:1.0g/10分)
【0042】
<絶縁電線の作製>
後述の表1に示される所定の配合割合にて、上記準備した各材料を二軸混練機により混練し、各樹脂組成物を調製した。この際、ヘッド付近の樹脂組成物の温度が、押出成形に最適な温度となるように混練を行った。なお、本例では、樹脂組成物の混練温度は、約270℃〜330℃程度とした。次いで、混練した各樹脂組成物を、押出成形機を用いて導体の外周に押出被覆し、各絶縁体(厚み0.2mm)を形成した。押出成形では、直径がそれぞれ0.85mmのダイスと0.45mmのニップルとを使用した。また、押出成形は、ダイ付近の樹脂組成物の温度が押出温度に最適な温度となるような温度設定で実施し、押出成形時の線速は50m/分とした。なお、本例では、樹脂組成物の押出温度は、約270℃〜330℃程度とした。導体には、7本の軟銅線が撚り合されるとともに円形圧縮されてなる撚り線を用いた。導体断面積は0.13mm
2である。これにより、試料1〜10の絶縁電線を作製した。なお、作製した絶縁電線は、いずれも自動車用電線である。
【0043】
また、試料11、試料12については、後述の表2に示されるように、絶縁体の形成に用いる樹脂組成物を、ポリサルホン系樹脂またはポリエステル系エラストマーのいずれか一方のみとした。また、試料13については、樹脂組成物の混練温度を290℃、樹脂組成物の押出温度を260℃とした。その他は、試料1〜10の絶縁電線と同様にして、試料11〜試料13の絶縁電線を作製した。
【0044】
<海−島構造の観察>
得られた絶縁電線を、電線軸方向と垂直な面にて切断し、切断面における絶縁体を透過型電子顕微鏡にて観察し、海−島構造の有無を確認した。また、海−島構造が確認された場合は、島状部のドメインサイズを測定した。
【0045】
島状部のドメインサイズは、次のようにして求めることができる。すなわち、透過型電子顕微鏡を用いて、絶縁体の厚み方向における中央部、導体近傍、外表面近傍の3点を、視野15μm×15μmにてそれぞれ観察する。そして、
図3に示されるように、各視野Vにおいて、島状部32の四方を包囲し、かつ島状部32がちょうど入る大きさの四角形状のドメインDを設定し、ドメインDの長辺を、各島状部32についてそれぞれ求める。そして、求められた各ドメインDの長辺のうち、最大の値を、海−島構造30における島状部32のドメインサイズとする。なお、
図3では、視野V内に存在する一部の島状部が省略されている。
【0046】
<耐摩耗性>
ISO6722に準拠し、ブレード往復法により、得られた絶縁電線の耐摩耗性を評価した。すなわち、各試料の絶縁電線から長さ600mmの試験片を採取した。次いで、23℃の環境下、軸方向に15mm以上の長さ、毎分60回の速さにて、試験片の絶縁体表面上でブレードを往復させた。この際、ブレードにかかる荷重は7Nとした。そして、ブレードが導体に接するまでの往復回数を測定した。各試験片あたりの試験回数は4回である。試験回数4回で測定されたブレードの往復回数の最小値が150回以上300回未満であった場合を合格として「B」とした。上記最小値が300回以上であった場合を合格として「A」とした。上記最小値が150回未満であった場合を不合格として「C」とした。
【0047】
<柔軟性>
得られた絶縁電線の柔軟性を次のように評価した。
図4(a)に示されるように、絶縁電線1の一端部を固定治具5にセットするとともに、絶縁電線1の他端部に5gの荷重6を針金7によりぶら下げる。この際、絶縁電線1の全長は80mmである。また、絶縁電線1の一端面から中央部に向かって20mmまでが固定治具5により固定されている。また、絶縁電線1の他端面から中央部に向かって10mmの位置に荷重6がぶら下げられている。針金7の長さは20mmである。
【0048】
そして、
図4(b)に示されるように、荷重6をぶら下げたことによって絶縁電線1の他端部が下方にたわむ。このときのたわみ量t(mm)を測定し、柔軟性の指標とした。たわみ量tは、絶縁電線1の柔軟性が高くなるにつれて増大する。
【0049】
表1、表2に、各絶縁電線の絶縁体に用いた樹脂組成物の配合(質量部)、絶縁体における海−島構造の詳細、各評価結果などをまとめて示す。
【0050】
【表1】
【0051】
【表2】
【0052】
表1、表2によれば、次のことがわかる。すなわち、試料11の絶縁電線は、絶縁体がポリサルホン系樹脂のみから構成されており、ポリエステル系エラストマーを含有しておらず、上記特定の海−島構造を有していなかった。そのため、試料11の絶縁電線は、耐摩耗性は良好であるものの、柔軟性に欠ける。
【0053】
試料12の絶縁電線は、絶縁体がポリエステル系エラストマーのみから構成されており、ポリサルホン系樹脂を含有しておらず、上記特定の海−島構造を有していなかった。そのため、試料12の絶縁電線は、柔軟性は良好であるものの、耐摩耗性に欠ける。
【0054】
試料13の絶縁電線は、絶縁体が、ポリエステル系エラストマーからなる海状部と、海状部に浮かぶように存在する巨大なポリサルホン系樹脂からなる島状部とからなる海−島構造を有していた。海状部は、絶縁体の機械的特性、特に、耐摩耗性と深くかかわる部分である。試料13の絶縁電線は、この海状部が柔軟なポリエステル系エラストマーから構成されているため、耐摩耗性に欠ける。
【0055】
これらに対し、試料1の絶縁電線は、電線断面で見た場合に、絶縁体3が、ポリサルホン系樹脂を主成分とする海状部31と、この海状部31に分散されておりポリエステル系エラストマーを主成分とする島状部32とを備える海−島構造30を有していた。また、試料2〜試料10の絶縁電線も、同様に、絶縁体が上記と同様の海−島構造を有していた。そのため、これら絶縁電線の絶縁体によれば、ポリサルホン系樹脂による耐摩耗性が維持されたまま、ポリエステル系エラストマーによる柔軟性が付与されることがわかる。それ故、これら絶縁電線は、耐摩耗性と柔軟性との両方を兼ね備えることが可能なことが確認された。
【0056】
また、試料1〜試料10の絶縁電線を比較すると、次のことがわかる。すなわち、試料3の絶縁電線は、ポリエステル系エラストマーのメルトフローレートが3g/10分を上回っている。そのため、試料3の絶縁電線は、ポリエステル系エラストマーのメルトフローレートが3g/10分以下である試料1、試料2、試料4の絶縁電線に比べ、耐摩耗性が若干低かった。この結果から、ポリエステル系エラストマーのメルトフローレートを3g/10分以下とすることにより、絶縁体の耐摩耗性を向上させることができるといえる。これは、ポリサルホン系樹脂とポリエステル系エラストマーとの相溶性が向上し、上記海−島構造をとりやすくなるためである。
【0057】
また、試料5の絶縁電線は、ポリサルホン系樹脂としてポリサルホンを用いている。そのため、試料5の絶縁電線は、ポリサルホン系樹脂としてポリエーテルサルホンやポリフェニルサルホンを用いている試料1、試料2、試料4の絶縁電線に比べ、耐摩耗性が若干低かった。この結果から、ポリサルホン系樹脂として、ポリエーテルサルホンおよび/またはポリフェニルサルホンを用いた場合には、絶縁体の耐摩耗性をより向上させることができるといえる。これは、ポリエーテルサルホンおよび/またはポリフェニルサルホンは、ポリサルホンに比べ、ポリエステル系エラストマーとの相溶性が高く、上記海−島構造となりやすいためである。
【0058】
また、試料8の絶縁電線は、島状部のドメインサイズが10μmを上回っている。そのため、試料8の絶縁電線は、島状部のドメインサイズが10μm以下である試料1、試料2、試料4の絶縁電線に比べ、耐摩耗性が若干低かった。この結果から、島状部のドメインサイズが10μmである場合には、耐摩耗性の維持をより確実なものとしやすくなるといえる。
【0059】
また、試料9、試料10の絶縁電線は、絶縁体中に含まれるポリマー成分100質量部中におけるポリサルホン系樹脂とポリエステル系エラストマーとの質量比が99:1〜60:40の範囲内にない。そのため、試料9の絶縁電線は、上記質量比の範囲内にある試料1、試料2、試料4、試料6および試料7の絶縁電線に比べ、柔軟性が若干低かった。また、試料10の絶縁電線は、上記質量比の範囲内にある試料1、試料2、試料4、試料6および試料7の絶縁電線に比べ、耐摩耗性が若干低かった。この結果から、上記質量比を採用することにより、耐摩耗性と柔軟性とのバランスに優れた絶縁電線を得やすくなることが確認された。
【0060】
以上、本発明の実施例について詳細に説明したが、本発明は上記実施例に限定されるものではなく、本発明の趣旨を損なわない範囲内で種々の変更が可能である。