【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明の実施の形態の一例について詳細に説明するが、本発明は、これらに限定されない。なお、本明細書において特記しない限り、数値範囲を表す「A〜B」は、「A以上、B以下」を意味する。
【0031】
〔電気化学デバイス用正極〕
本発明に係る電気化学デバイス用正極は、活物質、導電助剤およびバインダを含む合材、並びに集電体によって構成されている。当該正極に含まれる各材料について説明する。
【0032】
<バインダ>
本発明に係るバインダは、電気化学デバイス用正極の材料である活物質と導電助剤とを連結させるバインダにおいて、アルギン酸を含むものである。
【0033】
本発明に係るバインダは、活物質と導電助剤とを連結させるものであり、活物質と導電助剤とを覆うように存在し、活物質に対して導電助剤を固定するものである。アルギン酸は、β−D−マンヌロン酸と、α−L−グルロン酸とが1,4結合した高分子多糖類の基本分子構造を有するものである。なお、上記アルギン酸は、通常、コンブ、ワカメ、カジメ等の褐藻類植物由来のものである。
【0034】
アルギン酸としては、例えば、架橋されていないアルギン酸(以下、アルギン酸非架橋物ともいう)、架橋されたアルギン酸(以下、アルギン酸架橋物ともいう)が挙げられる。
【0035】
上記アルギン酸非架橋物としては、例えば、イオン化していない遊離アルギン酸、またはアルギン酸一価塩等が挙げられる。上記アルギン酸一価塩としては、アルギン酸リチウム塩、アルギン酸カリウム塩、アルギン酸ナトリウム塩等のアルギン酸アルカリ金属塩;アルギン酸アンモニウム塩等が挙げられる。
【0036】
上記アルギン酸架橋物としては、例えば、遊離アルギン酸またはアルギン酸一価塩と、二価以上の金属イオンとの塩であるアルギン酸多価塩、遊離アルギン酸またはアルギン酸一価塩等を硫酸により架橋したアルギン酸硫酸架橋物等が挙げられる。アルギン酸多価塩としては、例えば、アルギン酸カルシウム塩、アルギン酸マグネシウム塩が挙げられる。
【0037】
アルギン酸は、低分子量である方が、活物質および導電助剤に対してより密着し易く、より均一な合材を形成できると考えられるが、出力特性に寄与する活物質の量を増加させる観点から、ある程度の分子量を有することが好ましい。
【0038】
また、バインダとしての使用の便宜から、上記アルギン酸塩は、当該アルギン酸の1%(g/100ml)水溶液の20℃における粘度が300mPa・s以上、2000mPa・s以下であるものが好ましく、350mPa・s以上、1000mPa・s以下であるものがより好ましい。なお、上記粘度は、回転式粘度計(ブルックフィールド社製)により、RV−1スピンドルを用いて、20℃で回転数60rpm、測定時間1分の条件で測定したときの値である。
【0039】
上記アルギン酸は、アルギン酸一価塩またはアルギン酸多価塩の水溶液を用いて調製されたものが好ましい。また、上記アルギン酸は、0.5重量%以上、5.0重量%以下のアルギン酸一価塩またはアルギン酸多価塩の水溶液を用いて調製されたものであることが好ましく、2.0重量%以上、3.0重量%以下のアルギン酸一価塩またはアルギン酸多価塩の水溶液を用いて調製されたものであることがより好ましい。アルギン酸が0.5重量%以上、5.0重量%以下、より好ましくは2.0重量%以上、3.0重量%以下のアルギン酸一価塩またはアルギン酸多価塩の水溶液を用いて調製されたものであることにより、合材の混合を容易に行うことができる。
【0040】
本発明に係るバインダはアルギン酸を含んでいればよいが、バインダにおけるアルギン酸の含有率は、50重量%以上、100重量%以下であることが好ましく、70重量%以上、100重量%以下であることがより好ましく、90重量%以上、100重量%以下であることが特に好ましく、100重量%であることが最も好ましい。アルギン酸の含有率が100重量%未満の場合、アルギン酸以外のバインダ成分としては、ポリフッ化ビニリデン(PVdF);PVdFとヘキサフルオロプロピレン(HFP)との共重合体、パーフルオロメチルビニルエーテル(PFMV)とテトラフルオロエチレン(TFE)との共重合体などのPVdF共重合体樹脂;ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、フッ素ゴムなどのフッ素系樹脂;スチレン−ブタジエンラバー(SBR)、エチレン−プロピレンゴム(EPDM)、スチレン−アクリロニトリル共重合体などのポリマーが挙げられ、カルボキシメチルセルロース(CMC)等の多糖類、ポリイミド樹脂等の熱可塑性樹脂などを併用することができるが、特に限定されるものではない。
【0041】
また、合材における活物質、導電助剤およびバインダの含有比(重量%)は、特に限定されるものではないが、例えば、活物質:導電助剤:バインダ=80〜97:4〜10:2〜15とすることができる。なお、活物質、導電助剤およびバインダの含有比の合計は100である。すなわち、合材から得られた電気化学デバイス用正極におけるバインダの配合率は、2重量%以上、15重量%以下であることが好ましい。また、より好ましくは、5重量%以上、10重量%以下である。2重量%以上であれば、活物質、導電助剤およびバインダが均一に混合された合材を作製することが容易となり、15重量%以下であれば、バインダの配合率の増加に伴う活物質の配合率の低下を防ぐことができる。
【0042】
上記合材は、活物質、導電助剤およびアルギン酸を混合することにより得られる。アルギン酸は水溶液の状態で配合してもよい。また、粘度調整のため、合材に水等を添加してもよい。本発明に係るバインダは活物質および導電助剤との親和性が高く、非常に均一な合材が得られる点が特徴であり、意匠的にも優れた電極が得られる。
【0043】
<活物質>
正極における活物質としては、リチウムイオンの挿入または脱離が可能であるものであれば、特に制限されることはない。例えば、CuO、Cu
2O、MnO
2、MoO
3、V
2O
5、CrO
3、MoO
3、Fe
2O
3、Ni
2O
3、CoO
3等の遷移金属酸化物;Li
xCoO
2、Li
XNiO
2、Li
XMn
2O
4、LiFePO
4等のリチウムと遷移金属とを含むリチウム複合酸化物;TiS
2、MoS
2、NbSe
3等の金属カルコゲン化物;ポリアセン、ポリパラフェニレン、ポリピロール、ポリアニリン等の導電性高分子化合物等が挙げられる。
【0044】
上記の中でも、一般に高電圧系と呼ばれる、コバルト、ニッケル、マンガン等の遷移金属から選ばれる1種以上とリチウムとの複合酸化物がリチウムイオンの放出性や、高電圧が得られ易い点で好ましい。コバルト、ニッケル、マンガンとリチウムとの複合酸化物の具体例としては、LiCoO
2、LiMnO
2、LiMn
2O
4、LiNiO
2、LiNi
XCo
(1−X)O
2、LiNi
XMn
(2−X)O
4、LiMn
aNi
bCo
cO
2(a+b+c=1)等が挙げられる。
【0045】
また、これらのリチウム複合酸化物に、少量のフッ素、ホウ素、アルミニウム、クロム、ジルコニウム、モリブデン、鉄等の元素をドープしたものや、リチウム複合酸化物の粒子表面を、炭素、MgO、Al
2O
3、SiO
2等で表面処理したものも使用できる。上記活物質は単独で使用してもよいし、2種類以上を併用することも可能である。
【0046】
<導電助剤>
導電助剤としては、電池性能に悪影響を及ぼさない電子伝導性材料であれば使用することができる。通常、アセチレンブラック、ケッチェンブラック等のカーボンブラックが使用されるが、天然黒鉛(鱗状黒鉛、鱗片状黒鉛、土状黒鉛等)、人造黒鉛、カーボンウイスカー、炭素繊維粉末、金属(銅、ニッケル、アルミニウム、銀、金等)粉末、金属繊維、導電性セラミックス材料等の導電性材料を使用してもよい。これらは単独で用いてもよく、2種類以上の混合物として用いることができる。
【0047】
<集電体>
本発明に係る電気化学デバイス用正極は、上記活物質、導電助剤、及びバインダ等からなる塗工液を集電体に塗布することにより製造することができる。
【0048】
正極用集電体として、構成された電池において悪影響を及ぼさない電子伝導体を使用可能である。例えば、アルミニウム、チタン、ステンレス鋼、ニッケル、焼成炭素、導電性高分子、導電性ガラス等を挙げることができる。接着性、導電性、耐酸化性等の向上の目的で、アルミニウム等の表面を、カーボン、ニッケル、チタンまたは銀等で処理した正極用集電体を用いてもよい。
【0049】
これらの正極用集電体の表面を酸化処理することも可能である。また、正極用集電体の形状については、フォイル状の他、フィルム状、シート状、ネット状、パンチ又はエキスパンドされた物、ラス体、多孔質体、発泡体等の成形体であってもよい。厚みは特に限定されないが、1μm以上、100μm以下のものが通常用いられる。
【0050】
<電極の作製方法>
正極を得る一例を説明すると、正極用の塗工液は正極用集電体にそれぞれ所望の厚さにて塗布される。塗布法として、集電体に塗工液を塗布し、ドクターブレードにより余分な塗工液を除去する方式、集電体に塗工液を塗布し、ローラにより塗工液を圧延する方式等の公知の塗布法が挙げられる。
【0051】
塗工液を乾燥する温度は特に限定されず、塗工液中の各材料の配合率により適宜変更すればよいが、通常、70℃以上、100℃以下である。また、得られた正極の厚さは、電気化学デバイスの用途により適宜変更すればよい。
【0052】
〔電気化学デバイス〕
本発明に係る電気化学デバイスは、正極および負極を備え、正極と負極との間には、電解液を含んでいる。そして、当該正極は上述した本発明に係る電気化学デバイス用正極である。また、電気化学デバイスには、正極と負極との短絡を防止するために、正極と負極との間にセパレータが配置されている。正極および負極にはそれぞれ集電体が備えられており、両集電体は電源に接続されている。この電源の操作によって充放電の切り替えがなされる。
【0053】
なお、上記〔電気化学デバイス用正極〕にて既に説明した事項については、以下では説明を省略する。
【0054】
本発明に係る電気化学デバイスの例としては、電気化学キャパシタ、リチウムイオン二次電池等が挙げられ、さらには非リチウムイオン電池、リチウムイオンキャパシタ、色素増感型太陽電池等も包含される。当該電気化学デバイスは、高性能であり、且つ安全性の高い蓄電デバイスとして利用できる。よって、本発明に係る電気化学デバイスは、携帯電話機器、ノートパソコン、携帯情報端末(PDA)、ビデオカメラ、デジタルカメラ等の小型電子機器;電動自転車、電動自動車、電車等の移動用機器(車両);火力発電、風力発電、水力発電、原子力発電、地熱発電等の発電用機器に搭載されてもよい。
【0055】
<電気化学デバイス用負極>
電気化学デバイス用負極は、上述した電気化学デバイス用正極と同様に、活物質、導電助剤およびバインダを含む合材、並びに集電体によって構成されている。当該負極に含まれる各材料について説明する。
【0056】
活物質としては、金属リチウムまたはリチウムイオンを挿入または脱離することができるものであれば特に制限されることはない。たとえば、天然黒鉛、人造黒鉛、難黒鉛化炭素、易黒鉛化炭素等の炭素材料が挙げられる。また、金属リチウムや合金、スズ化合物等の金属材料;リチウム遷移金属窒化物;結晶性金属酸化物;非晶質金属酸化物;ケイ素材料;導電性ポリマー等も挙げられる。
【0057】
上記活物質は単独で使用してもよいし、2種類以上を併用することも可能である。活物質の量は、その用途等により異なり、特に限定されないが、通常、活物質、導電助剤およびバインダの総重量に対して、80重量%以上、100重量%以下である。
【0058】
本明細書において、活物質として炭素材料を90重量%以上、100重量%以下含む負極を炭素負極と称する。炭素負極は汎用性が高いため、作製が容易である。
【0059】
導電助剤としては、上述の電気化学デバイス用正極における導電助剤と同様のものを用いることができるが具体的に限定されるものではない。また、導電助剤の添加量は負極全重量に対して1重量%以上、20重量%以下であることが好ましく、2重量%以上、10重量%以下であることがより好ましい。
【0060】
負極に含まれるバインダとしては、ポリフッ化ビニリデン(PVdF);PVdFとヘキサフルオロプロピレン(HFP)との共重合体、パーフルオロメチルビニルエーテル(PFMV)とテトラフルオロエチレン(TFE)との共重合体等のPVdF共重合体樹脂;ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、フッ素ゴム等のフッ素系樹脂;スチレン−ブタジエンラバー(SBR)、エチレン−プロピレンゴム(EPDM)、スチレン−アクリロニトリル共重合体等のポリマーが挙げられ、カルボキシメチルセルロース(CMC)等の多糖類、ポリイミド樹脂等の熱可塑性樹脂等を併用することができるが、負極のバインダはこれらの具体例に限定されるものではない。
【0061】
また、負極に含まれるバインダは、電気化学デバイス用正極と同様に、アルギン酸を含んでいてもよい。アルギン酸としては、上述の電気化学デバイス用正極におけるアルギン酸と同様のものを用いることができる。負極のバインダがアルギン酸を含んでいる場合、当該バインダは、活物質および導電助剤と親和性が高く、これを用いた電気化学デバイス用負極から活物質および導電助剤の剥離が生じ難い。このため、当該負極を備える電気化学デバイスでは電極が劣化し難く、サイクル耐久性に優れた電気化学デバイスを提供できる。
【0062】
また、上記バインダは、活物質および導電助剤との親和性に優れるため、当該負極を備える電気化学デバイスでは、電極における各材料間の界面抵抗が従来の電極よりも低い。このため、当該負極を備える電気化学デバイスは、出力特性も優れている。
【0063】
<電解液>
電解液は公知のものを用いればよく特に限定されるものではないが、非水系電解液を用いることができる。非水系電解液は、従来公知の電気化学デバイスに用いられる非水系電解液であればよく、イオン液体を用いることもできる。
【0064】
ここでいう「イオン液体」とは、室温でも液体で存在する塩を意味する。このイオン液体のカチオンとしては、例えば、イミダゾリウム、ピリジニウム、ピロリジニウム、ピペリジニウム、テトラアルキルアンモニウム、ピラゾリウム、又はテトラアルキルホスホニウム等が挙げられる。
【0065】
上記イミダゾリウムとしては、例えば、1−エチル−3−メチルイミダゾリウム、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウム、1−エチル−2,3−ジメチルイミダゾリウム、1−アリル−3−メチルイミダゾリウム、1−アリル−3−エチルイミダゾリウム、1−アリル−3−ブチルイミダゾリウム、1,3−ジアリルイミダゾリウム等が挙げられる。
【0066】
また、上記ピリジニウムとしては、例えば、1−プロピルピリジニウム、1−ブチルピリジニウム、1−エチル−3−(ヒドロキシメチル)ピリジニウム、1−エチル−3−メチルピリジニウム等が挙げられる。
【0067】
上記ピロリジニウムとしては、例えば、N−メチル−N−プロピルピロリジニウム、N−メチル−N−ブチルピロリジニウム、N−メチル−N−メトキシメチルピロリジニウム等が挙げられる。
【0068】
また、上記ピペリジニウムとしては、例えば、N−メチル−N−プロピルピペリジニウム等が挙げられる。
【0069】
上記テトラアルキルアンモニウムとしては、例えば、N,N,N−トリメチル−N−プロピルアンモニウム、メチルトリオクチルアンモニウム等が挙げられる。
【0070】
上記ピラゾリウムとしては、例えば、1−エチル−2,3,5−トリメチルピラゾリウム、1−プロピル−2,3,5−トリメチルピラゾリウム、1−ブチル−2,3,5−トリメチルピラゾリウム等が挙げられる。
【0071】
また、上記カチオンと組み合わされてイオン液体を構成するアニオンとしては、例えば、BF
4−、NO
3−、PF
6−、SbF
6−、CH
3CH
2OSO
3−、CH
3CO
2−、または;CF
3CO
2−、CF
3SO
3−、(CF
3SO
2)
2N
−[ビス(トリフルオロメチルスルフォニル)イミド]、(FSO
2)
2N
−[ビス(フルオロスルフォニル)イミド]、(CF
3SO
2)
3C
−等のフルオロアルキル基含有アニオンが挙げられる。
【0072】
上記イオン液体としては、これら各種アニオンの少なくとも1種とこれら各種カチオンの少なくとも1種とを組み合わせたものを採用することができる。電気化学デバイスがリチウムイオン二次電池である場合は、(FSO
2)
2N
−等のアニオンを含むイオン液体が好ましい。これらのイオン液体は、(1)蓄電デバイスにおける電気的特性がより優れたものとなりつつ該電気的特性の低下が抑制されるという点および(2)入手し易く電解液の有する電気的特性の低下が蓄電デバイスにおいてより抑制されるという点から好ましい。
【0073】
また、大気中での取り扱いが容易という点でも、リチウムイオン二次電池においては、(FSO
2)
2N
−等の含フッ素系アニオンを含むイオン液体が好ましい。
【0074】
また、上記イオン液体としては、比較的低粘度であり、イオン伝導性に優れ、電気化学的な安定性に優れるという点で、イミダゾリウムカチオン又はピロリジニウムカチオンを含むイオン液体が好ましい。
【0075】
具体的には、上記イオン液体としては、アニオンとしてのビス(フルオロスルフォニル)イミドアニオンと、カチオンとしてのピロリジニウムなどの四級アンモニウムとの塩が好ましく、より具体的には、N,N−ジアルキルピロリジニウム ビス(フルオロスルフォニル)イミドが好ましい。また、テトラアルキルアンモニウム ビス(フルオロスルフォニル)イミドや1−エチル−3−メチルイミダゾリウム ビス(フルオロスルフォニル)イミドも好ましい非水系電解液として挙げられる。
【0076】
非水系電解液は、「イオン液体」に限らず、電気化学デバイスの非水系電解液に用いられる、有機系電解液であってもよい。このような有機系電解質はイオンキャリアとなる電解質塩を含み、それを溶解させる有機溶媒から構成される。
【0077】
上記電解質塩として、上記イオン液体、四級オニウム塩、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩等を用いることができる。
【0078】
代表的な四級オニウム塩として、テトラアルキルアンモニウム塩やテトラアルキルホスホニウム塩等を挙げることができる。
【0079】
代表的なアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩として、リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、マグネシウム塩、カルシウム塩等を挙げることができる。
【0080】
上記電解質塩のアニオンとして、例えば、BF
4−、NO
3−、PF
6−、SbF
6−、CH
3CH
2OSO
3−、CH
3CO
2−、または;CF
3CO
2−、CF
3SO
3−、(CF
3SO
2)
2N
−[ビス(トリフルオロメチルスルフォニル)イミド]、(CF
3SO
2)
3C
−等のフルオロアルキル基含有アニオンが挙げられる。
【0081】
特にリチウムイオン二次電池における電解質塩としては、例えば、LiClO
4、LiAsF
6、LiPF
6、LiPF
4、LiBF
4、LiB(C
6H
5)
4、LiCl、LiBr、CH
3SO
3Li、CF
3SO
3Li等のリチウム塩を挙げることができる。
【0082】
また、上記有機溶媒として、例えば、エーテル類、ケトン類、ラクトン類、ニトリル類、アミン類、アミド類、硫黄化合物、塩素化炭化水素類、エステル類、カーボネート類、ニトロ化合物、リン酸エステル系化合物、スルホラン系化合物等を用いることができる。
【0083】
代表的な有機溶媒としては、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、アニソール、モノグライム、アセトニトリル、プロピオニトリル、4−メチル−2−ペンタノン、ブチロニトリル、バレロニトリル、ベンゾニトリル、1,2−ジクロロエタン、γ−ブチロラクトン、ジメトキシエタン、メチルフォルメイト、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、ジメチルチオホルムアミド、スルホラン、3−メチル−スルホラン、リン酸トリメチル、リン酸トリエチルおよびこれらの混合溶媒等を挙げることができる。
【0084】
これらの中でも、低粘度であり、イオン伝導性に優れ、電気化学的な安定性に優れる点で、プロピレンカーボネートが好ましい。上記非水系電解質は、単独又は2種以上が組み合わされて用いられ得る。
【0085】
また、リチウムイオン二次電池においては、ポリエチレンオキシド、ポリアクリルニトリル、ポリメチルメタクリレート等の公知のポリマー電解質を用いてもよい。
【0086】
<セパレータ>
本発明の電気化学デバイスでは、正極と負極との短絡を防止するため、これらの間にセパレータが備えられる。セパレータは公知のものを使用でき、特にされないが、具体的にはポリエチレンまたはポリプロピレン製フィルムの微多孔膜;多孔性のポリエチレンフィルムとポリプロピレンとの多層フィルム;ポリエステル繊維、アラミド繊維またはガラス繊維等からなる不織布が挙げられ、より好ましくは、それらの表面に、シリカ、アルミナ、チタニア等のセラミック微粒子を付着させたセパレータが挙げられる。
【0087】
上記セパレータは空隙率が70%以上ものが好ましく、80%以上、95%以下であるものがより好ましい。また、ガーレー試験法によって得られる透気度が200秒/100cc以下であることが好ましい。
【0088】
ここで、空隙率はセパレータの見掛け密度と構成材料の固形分の真密度から、次式により算出した値である。
空隙率(%)=100−(セパレータの見掛け密度/材料固形分の真密度)×100
また、ガーレー透気度とは、JIS P 8117に規定されたガーレー試験機法による透気抵抗度である。
【0089】
上記セパレータとしては、平均繊維径が1μm以下のガラス繊維を80重量%以上と、フィブリル化有機繊維を含む有機成分を20重量%未満とを含有し、ガラス繊維同士がフィブリル化有機繊維の絡み付きによって結合され、空隙率85%以上とされた湿式抄造シートが特に好適に用いられる。
【0090】
フィブリル化有機繊維は、繊維を離解する装置、例えばダブルディスクリファイナーを用いることによって、叩解等による剪断力の作用を受け、単繊維が繊維軸方向に非常に細かく解裂して形成された多数のフィブリルを有する繊維であって、少なくとも50重量%以上が繊維径1μm以下にフィブリル化されているものであることが好ましく、100重量%が繊維径1μm以下にフィブリル化されているものであればより好ましい。
【0091】
フィブリル化有機繊維としては、ポリエチレン繊維、ポリプロピレン繊維、ポリアミド繊維、セルロース繊維、レーヨン繊維、アクリル繊維等を使用できる。
【0092】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【実施例】
【0093】
本発明について、実施例および比較例、並びに
図1〜
図7に基づいてより具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。当業者は本発明の範囲を逸脱することなく、種々の変更、修正、および改変を行うことができる。
【0094】
〔実施例1〕
以下の材料を用いて、電気化学デバイス用正極を作製した。
【0095】
活物質 :LiNi
0.5Mn
1.5O
4(以下ではLNMとも称する)
導電助剤 :カーボンブラック(KB、ライオン株式会社製)と気相法炭素繊維(VGCF(登録商標)、昭和電工株式会社製)との混合物
バインダ :アルギン酸マグネシウム(Alg−Mg)(株式会社キミカ製)
集電体 :アルミ箔
まず、5重量%のアルギン酸マグネシウム水溶液を調製した。また、活物質および導電助剤を乳鉢に入れ、約10分間混合した。次に、活物質および導電助剤の混合物に、アルギン酸マグネシウム水溶液を加えた。ここで、活物質、導電助剤およびアルギン酸マグネシウム水溶液を乾燥後の重量比(電極における含有比)が85:8:7となるように混合し、スラリーの塗工液を作製した。ドクターブレードにより塗工液を集電体に塗布し、ホットプレート上で塗工液を80℃で10分程度加熱した。その後、集電体に塗布された塗工液を、100℃の温度雰囲気下、10
−1Paの減圧下で12時間乾燥させ、目的物である正極を得た。得られた電極は評価のために直径12mmのディスク状に打ち抜いた。
【0096】
さらに、この正極および下記負極を両側に配置し、両電極間にセパレータを配置し、電解液を注入して二電極式ハーフセルを作製した。なお、二電極式ハーフセルの材料としては、以下の材料を使用した。
【0097】
電解液 :1.0mol dm
−3 LiPF
6/EC+DMC(電池グレード、キシダ化学株式会社製)
セパレータ :セラミックコートポリエチレン
負極 :金属リチウム箔(本城金属株式会社製)
LiPF
6 =六フッ化リン酸リチウム
EC+DMC=エチレンカーボネートおよびジメチルカーボネートの1:1混合液
〔実施例2〕
バインダとして、アルギン酸マグネシウムに代えて、以下のバインダを使用した以外は、実施例1と同様にして二電極式ハーフセルを作製した。
【0098】
バインダ:アルギン酸ナトリウム(Alg−Na)(株式会社キミカ製)
〔実施例3〕
バインダとして、アルギン酸マグネシウムに代えて、以下のバインダを使用した以外は、実施例1と同様にして二極式ハーフセルを作製した。
【0099】
バインダ:アルギン酸リチウム(Alg−Li)(株式会社キミカ製)
〔実施例4〕
バインダとして、アルギン酸マグネシウムに代えて、以下のバインダを使用した以外は、実施例1と同様にして二電極式ハーフセルを作製した。
【0100】
バインダ:アルギン酸アンモニウム(Alg−NH
4)(株式会社キミカ製)
〔比較例1〕
バインダとして、アルギン酸マグネシウムに代えて、以下のバインダを使用した以外は、実施例1と同様にして二電極式ハーフセルを作製した。
【0101】
バインダ:ポリフッ化ビニリデン(PVdF)(N−メチルピロリドン溶液として使用)
〔充放電特性評価〕
実施例1〜4および比較例1で得られた二電極式ハーフセルを用いて、以下の条件にて充放電特性を評価した。
【0102】
充電:定電流−定電圧(CC−CVモード。なお、CVモードでは電流値がCCモードでの設定電流値の10分の1になった時点で終了。)
放電:定電流(CCモード)
1時間率(1Cレート)=142.3mA g
−1
電圧範囲:3.5〜4.9V
<充放電曲線および充放電サイクル特性>
上記条件下にて、充放電を100サイクル行った。なお、1サイクル目については充電および放電をともに0.1Cレートにて行い、2サイクル目以降は充電および放電をともに1.0Cレートにて行った。
【0103】
図1は、充放電を1、2、10、20、50、70および100サイクル行った場合の放電容量と電極電圧との関係を示している。
図1(a)は実施例1における充放電曲線を示すグラフであり、
図1(b)は比較例1における充放電曲線を示すグラフである。
図1において、曲線に添えられた数字はサイクル数を表している。
図1(a)においては、充放電曲線が重なり合っており、各サイクルにおける放電容量と電極電圧との関係が安定していることがわかる。これに対し、
図1(b)においては、サイクル数の増加に伴って放電容量が低下している。この結果は、アルギン酸を含んでいるバインダを用いた系では、PVdFをバインダとして用いた系よりも変化が少なく、安定した充放電が可能であることを示している。また、実施例1においては、3.5〜4.9Vという非常に高い電圧範囲においても安定的に作動していることがわかる。
【0104】
図2は、実施例1〜4および比較例1に係る充放電サイクル特性を示すグラフであり、サイクル数による放電容量の推移を示している。この結果は、アルギン酸を含んでいるバインダを用いた系では、PVdFをバインダとして用いた系よりも変化が少なく、安定した充放電が可能であることを示している。また、バインダとして、アルギン酸アンモニウムを用いた場合は、アルギン酸リチウムを用いた場合に比べて優れた効果が得られた。さらに、バインダとしてアルギン酸マグネシウムまたはアルギン酸ナトリウムを用いた場合に最も優れた効果が得られた。
【0105】
<充放電レート特性>
上記条件下にて、充電レートおよび放電レートを、0.1C、1.0C、2.0C、3.0C、5.0C、8.0C、10.0C、20.0C、30.0C、50.0Cに設定し、放電容量を測定した。なお、各レートにおいて、5サイクルの充放電を行った。
【0106】
図3は、実施例1および比較例1に係る充放電レート特性を示すグラフであり、レートおよびサイクル数による放電容量の推移を示している。実施例1においては、8.0Cおよび10.0Cにおける速い充放電が可能であった。また、実施例1においては、各レートにおける5サイクル中の放電容量の変化も少なく、安定した充放電を維持できている。
【0107】
<低温環境下での充放電特性>
上記条件下にて、充放電を60サイクル行った。なお、1〜10サイクルにおいては室温(25℃)にて充放電を行い、11〜60サイクルにおいては低温(0℃)にて充放電を行った。また、1サイクル目については充電および放電をともに0.1Cレートにて行い、2サイクル目以降は充電および放電をともに1.0Cレートにて行った。
【0108】
図4は、実施例1および比較例1における、低温環境下での充放電特性を示すグラフであり、温度およびサイクル数による放電容量の推移を示している。実施例1では、比較例1に比べると低温環境下においても高い放電容量が維持されている。よって、アルギン酸を使用した場合、PVdFを用いた系を上回る低温特性を示すことがわかる。
【0109】
〔交流インピーダンス法による内部抵抗評価〕
実施例1および比較例1で得られた二電極式ハーフセルを用いて、交流インピーダンス法によって以下の条件にて内部抵抗を評価した。
【0110】
周波数範囲:500kHz〜10mHz
交流信号の振幅:10mV
p−0
図5は、実施例1および比較例1における、交流インピーダンス法による内部抵抗評価の結果を示すグラフである。当該結果はCole−Coleプロットとして示されている。実施例1では、比較例1に比べて内部抵抗が低減されていることがわかる。つまり、アルギン酸の使用により、内部抵抗の低減に成功している。本発明は、特に半円部分の電荷移動抵抗の低減に非常に効果的であると言える。
【0111】
〔実施例5〕
負極として、金属リチウム箔に代えて、グラファイト負極を使用した以外は、実施例1の二電極式ハーフセルと同様の方法により、二電極式フルセル(実用セル)を作製した。なお、グラファイト負極の材料としては、以下の材料を使用した。
【0112】
活物質 :グラファイト
導電助剤 :鱗片状グラファイトと気相法炭素繊維(VGCF(登録商標)、昭和電工株式会社製)との混合物
バインダ :アルギン酸マグネシウム(株式会社キミカ製)
集電体 :アルミ箔
具体的には、まず、5重量%のアルギン酸マグネシウム水溶液を調製した。また、活物質および導電助剤を乳鉢に入れ、約10分間混合した。次に、活物質および導電助剤の混合物に、アルギン酸マグネシウム水溶液を加えた。ここで、活物質、導電助剤およびアルギン酸マグネシウム水溶液を乾燥後の重量比(電極における含有比)が91:3:6となるように混合し、スラリーの塗工液を作製した。ドクターブレードにより塗工液を集電体に塗布し、ホットプレート上で塗工液を80℃で10分程度加熱した。その後、集電体に塗布された塗工液を、100℃の温度雰囲気下、10
−1Paの減圧下で12時間乾燥させ、目的物である負極を得た。得られた電極は評価のために直径12mmのディスク状に打ち抜いた。
【0113】
そして、実施例1で得られた正極および上記負極を両側に配置し、両電極間にセパレータを配置し、電解液を注入して二電極式フルセルを作製した。
【0114】
〔比較例2〕
バインダとして、アルギン酸マグネシウムに代えて、以下のバインダを使用した以外は、実施例5と同様にして二電極式フルセルを作製した。
【0115】
バインダ:ポリフッ化ビニリデン(N−メチルピロリドン溶液として使用)
〔充放電特性〕
実施例5および比較例2で得られた二電極式フルセルを用いて、以下の条件にて充放電特性を評価した。
【0116】
充電:定電流−定電圧(CC−CVモード。なお、CVモードでは電流値がCCモードでの設定電流値の10分の1になった時点で終了。)
放電:定電流(CCモード)
1時間率(1Cレート)=142.3mA g
−1
電圧範囲:3.5〜4.9V
<充放電サイクル特性>
上記条件下にて、充放電を100サイクル行った。なお、1サイクル目については充電および放電をともに0.1Cレートにて行い、2サイクル目以降は充電および放電をともに1.0Cレートにて行った。
【0117】
図6は、実施例5および比較例2に係る充放電サイクル特性を示すグラフであり、サイクル数による放電容量の推移を示している。この結果は、実施例5では、比較例2よりも変化が少なく、安定した充放電が可能であることを示している。つまり、実用セルの正極および負極に、アルギン酸を含んでいるバインダを適用することによって、PVdFを用いた系に比べて安定な電池の構築に成功した。
【0118】
<充放電レート特性>
上記条件下にて、充電レートおよび放電レートを、0.1C、1.0C、2.0C、3.0C、5.0C、8.0C、10.0Cに設定し、放電容量を測定した。なお、各レートにおいて、5サイクルの充放電を行った。
【0119】
図7は、実施例5および比較例2に係る充放電レート特性を示すグラフであり、レートおよびサイクル数による放電容量の推移を示している。実施例5においては、8.0Cおよび10.0Cにおける速い充放電が可能であった。また、実施例5においては、各レートにおける5サイクル中の放電容量の変化も少なく、安定した充放電を維持できている。
【0120】
以上の実施例および比較例から、本発明に係るバインダは、アルギン酸を含むことによって、電気化学デバイスの正極へ適用することができ、高電圧および高電位(例えば3.5〜4.9V)にて良好な充放電特性を示すことがわかる。
【0121】
〔実施例6〕
電解液として、以下に示す電解液(イオン液体)を使用した以外は、実施例1と同様に、二電極式ハーフセルを作製した。
【0122】
電解液 :1.46mol dm
−3 LiFSI/MPPyFSI(第一工業製薬株式会社製)
LiFSI =リチウムビス(フルオロスルフォニル)イミド
MPPyFSI =N,N−メチルプロピルピロリジニウム ビス(フルオロスルフォニル)イミド
〔充放電特性〕
実施例1と同様の条件下において、充電1.0Cレート、放電1.0Cレートの充放電を100サイクル行い、充放電サイクル特性を評価した。
【0123】
図8は、実施例6に係る充放電サイクル特性を示すグラフであり、サイクル数による放電容量の推移を示している。この結果により、本発明に係るバインダを、従来型の有機溶媒系電解液だけではなく、イオン液体系電解液と組み合わせた場合であっても安定な充放電が可能であることが明らかになった。