(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2015-192140(P2015-192140A)
(43)【公開日】2015年11月2日
(54)【発明の名称】変圧器
(51)【国際特許分類】
H01F 27/06 20060101AFI20151006BHJP
F16B 37/14 20060101ALI20151006BHJP
H01F 27/30 20060101ALI20151006BHJP
H01F 30/00 20060101ALI20151006BHJP
【FI】
H01F27/06
F16B37/14 J
H01F27/30
H01F31/00 T
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2014-70939(P2014-70939)
(22)【出願日】2014年3月31日
(71)【出願人】
【識別番号】000000262
【氏名又は名称】株式会社ダイヘン
(74)【代理人】
【識別番号】100064469
【弁理士】
【氏名又は名称】菊池 新一
(74)【代理人】
【識別番号】100099612
【弁理士】
【氏名又は名称】菊池 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100073450
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 英俊
(72)【発明者】
【氏名】馬場 功一
(72)【発明者】
【氏名】篠永 雄治
【テーマコード(参考)】
5E043
5E059
【Fターム(参考)】
5E043FA06
5E059LL02
5E059LL06
(57)【要約】
【課題】タンク内での変圧器本体の固定強度を低下させることなく、変圧器本体とタンクの蓋とを連結する連結ボルトの有効長の調整をタンク外で行い得るようにする。
【解決手段】変圧器本体20とタンク10の蓋12とを連結する連結ボルト31に、座板付きナット35をその座板部35bを下にして螺合させ、座板付きナットのナット本体35aを蓋に設けた貫通孔12aをゆるく貫通させて蓋から上方に導出し、タンク10の外からナット本体35aを操作してナット35の高さ方向位置を調整することにより連結ボルトの有効長を調整する。座板付きナットの上端から上方に突出した連結ボルト31の突出部に袋ナット37を螺合させて、該袋ナットの内部に座板付きナット35を収容し、袋ナット37をパッキン38を介してタンク10の蓋12に対して締め付けて、袋ナット37の内外をシールする。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
上端に開口部を有する有底のタンク本体と該タンク本体の上端に固定されて該タンク本体の開口部を閉じる蓋とを備えたタンク内に変圧器本体が絶縁媒体と共に収容されて、該変圧器本体が前記タンク本体の底板上に載置され、下端が前記変圧器本体に固定され、上端寄りの部分が前記蓋に固定された複数の連結ボルトが設けられて、該複数の連結ボルトの突っ張りにより前記変圧器本体がタンク内に固定される変圧器において、
前記タンクの蓋の肉厚よりも大きい軸線方向寸法を有するナット本体と、該ナット本体よりも大きな外径を有して該ナット本体の軸線方向の一端に一体化された座板部とを有する座板付きナットが前記座板部を下にして各連結ボルトの上端寄りのネジ部に螺合され、
前記座板付きナットのナット本体をゆるく貫通させるが、前記座板部の通過は阻止する大きさの内径を有する貫通孔が各連結ボルトに対応させて前記蓋に設けられ、
各連結ボルトに螺合された座板付きナットのナット本体が、前記蓋に設けられた対応する貫通孔を貫通した状態で配置されるとともに、該座板付きナットの座板部が前記蓋の内面側で前記貫通孔の周辺部に当接されて、前記蓋の上方への膨らみ量が設定された膨らみ量となるまで前記座板付きナットが前記蓋に対して締め付けられ、
各座板付きナットが前記蓋に対して締め付けられた状態で、各連結ボルトの上端寄りのネジ部に、各連結ボルトに螺合された座板付きナットの上端から上方に突出した突出部が形成されるように各連結ボルトの長さが設定され、
各連結ボルトの前記突出部に袋ナットが螺合されて、各連結ボルトに螺合された座板付きナットのナット本体の前記蓋から上方に突出した部分が前記袋ナットの内側に収容され、
各袋ナットの下端と前記タンクの蓋との間にパッキンが配設されて、各袋ナットが前記パッキンを介して前記蓋の貫通孔の周辺部に対して締め付けられ、
前記パッキンにより、各袋ナットの内部が外部に対してシールされていることを特徴とする変圧器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タンク内に変圧器本体を収容してなる変圧器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
変圧器は、上端に開口部を有する有底のタンク本体と該タンク本体の上端に固定されて該タンク本体の開口部を閉じる蓋とを備えたタンク内に、変圧器本体を絶縁媒体と共に収容することにより構成される。この種の変圧器では、変圧器本体がタンク内で動くのを防ぎ、タンクの蓋の上面に雨水が溜まる凹みが形成されるのを防ぐため、変圧器本体と蓋との間を連結ボルトで連結して、この連結ボルトに突っ張り棒としての役目をさせることにより、変圧器本体をタンクの底板に押し付けて該底板に対して固定するとともに、蓋を上方に適度に膨らませるようにしている。
【0003】
図6及び
図7は、従来のこの種の変圧器の一例を示したものである。
図6は、変圧器本体をタンク内に収容するに当たり、変圧器本体に連結ボルトを介して蓋を連結した状態を、蓋を断面して示した正面図、
図7は、
図6に示した変圧器本体をタンク内に収容してタンク本体に蓋を取り付けた状態を示した縦断面図である。
【0004】
図7において、1は、有底のタンク本体101と、タンク本体の上端の開口部を閉じる蓋102とからなるタンク、2は、上下の継鉄部がそれぞれコア締め金具201a ,201b により締め付けられた3脚鉄心202と、鉄心202の3つの脚部にそれぞれ巻装された三相の巻線203u,203v及び203wとを備えた変圧器本体である。この例では、変圧器本体2の三相の巻線203u〜203wの並設方向に間隔を開けて、タンクの蓋102の下面に少なくとも一対のナット3,3が溶接等により固定され、下端が変圧器本体2に固定された一対の連結ボルト4,4の上端のネジ部がナット3,3に螺合されている。
図7に示した例では、連結ボルト4,4がスタッドボルト(頭部を持たず、少なくとも両端にネジが設けられているボルト)からなっていて、それぞれの下端は、ナット5及び6により変圧器本体2の鉄心202の上部継鉄部を締め付けるコア締め金具201a に締結されている。
【0005】
変圧器本体をタンク内に収容して変圧器を組み立てる際には、
図6に示したように、タンクに収容する前の変圧器本体2に連結ボルト4,4を介して蓋102を連結した状態で、蓋102と変圧器本体2とを吊り上げて、
図7に示すように変圧器本体2をタンク本体101内に挿入し、蓋102をタンク本体101の上端にパッキンPを介して載せ、蓋102を適宜の手段によりタンク本体101に対して固定する。
【0006】
図7に示すように、変圧器本体2をタンク1内に収容して蓋102をタンク本体101に対して固定した状態で、連結ボルト4,4を突っ張り棒として機能させて、変圧器本体2及び蓋102をそれぞれ下方及び上方に押すことにより、変圧器本体2の下端をタンク本体の底板101aに押し付けて固定するとともに、蓋102を上方に適度に膨らませて、蓋102の上面に雨水が溜まる凹みが形成されるのを防いでいる。
【0007】
図6及び
図7に示した変圧器においては、変圧器本体2の下端をタンク本体の底板に押し付けてタンク内で変圧器本体が動くのを防ぎ、かつ蓋102に適度な膨らみを形成するために、連結ボルト4,4の高さ位置を調整して、連結ボルト4,4の突っ張り棒としての有効長を正確に調整する必要がある。連結ボルト4,4の有効長の調整は、変圧器本体をタンク本体内に挿入する前に、タンク本体101の深さの実測値と変圧器本体の高さの実測値とに基づいて、各連結ボルト4の有効長を調整した後、変圧器本体2をタンク内に実際に収容して見て、蓋102の膨らみの程度を観察することにより行う。この調整は1度で済まないことが多く、調整を行う毎に重量がある変圧器本体2を蓋102と共に上げ下ろしする作業を行う必要があるため、甚だ面倒であった。
【0008】
図6及び
図7に示した構造では、万一連結ボルト4,4の有効長が不足した場合に、変圧器本体2の下端をタンク本体の底板に十分な押圧力を以て押し付けて固定することができないおそれがあるため、変圧器本体2の振れ止めを図るための金具7をタンク本体101の底板101aに固定しておくことが必須であった。
【0009】
そこで、特許文献1に示すように、連結ボルトの有効長(突っ張り棒としての有効長)の調整を蓋の外側から行うことを可能にした変圧器の中身固定構造が提案されている。
図8は、特許文献1に開示された変圧器の中身固定構造8を示している。
図8に示された中身固定構造では、内周及び外周にそれぞれ雌ネジ部及び雄ネジ部を形成し、先端部の外周に互いに平行な工具係合用の溝部801c,801cを形成した管状部801aと、該管状部の下端に一体に形成されたワッシャ部801bとを有する特殊ナット801を用意して、この特殊ナット801の管状部801aの内周の雌ネジ部を連結ボルト4に螺合させ、連結ボルト4と該連結ボルトに螺合された特殊ナット801の管状部801aとをタンクの蓋102に設けた孔102aをゆるく貫通させて蓋102の上方に導出する。
【0010】
蓋102をタンク本体(
図8には図示せず。)の上端に固定した後、蓋102から突出した特殊ナット801の管状部801aの上端に形成した平行な溝801c,801cに係合させた工具により、特殊ナット801を回転させて、特殊ナット801のワッシャ部801bの高さ方向位置を調整することにより、連結ボルト4の突っ張り棒としての有効長を調整する。次いで、特殊ナット801の管状部801aにワッシャ803を嵌合させた後、特殊ナットの管状部801aの外周の雄ネジ部にロックナット802を螺合させて、このロックナットを締め付けることにより、特殊ナット801を蓋102に締結する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開平11−283842号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
図8に示された変圧器の中身固定構造によれば、特殊ナット801の管状部801aの溝部801c,801cに工具を係合させて、特殊ナット801をタンクの外部から回転させることにより、連結ボルト4の突っ張り棒としての有効長を調整することができる。従って、重量がある変圧器本体の上げ下ろしを何度も行う必要がないため、変圧器の組み立てを簡単に行うことができる。
【0013】
しかしながら、
図8に示された中身固定構造を実現するためには、内周及び外周にそれぞれ雌ネジ部及び雄ネジ部を有する管状部とワッシャ部とを一体に備えた特殊な構造のナットを製作する必要があるため、変圧器本体とタンクの蓋とを連結する連結ボルト4とタンクの蓋102との結合部を構成するために必要なコストが高くなるのを避けられなかった。
【0014】
また
図8に示された中身固定構造によった場合には、連結ボルト4と特殊ナット801の雌ネジ部との間のシールを図ることができないため、連結ボルト4と特殊ナット801の雌ネジ部との間を通して雨水が浸入するのを避けられなかった。そのため、
図8に示された中身固定構造は、屋外に設置する変圧器には適用できないという問題があった。
【0015】
図8に示された中身固定構造によった場合にはまた、連結ボルト4と特殊ナット801の雌ネジ部との間を通して変圧器タンク内と外気との間で呼吸が行われるため、タンク内を密封することができず、外部からタンク内に進入した酸素により絶縁媒体が劣化するおそれがあった。
【0016】
更に
図8に示された構造によった場合には、変圧器の輸送中に変圧器に振動が加えられると、連結ボルト4と特殊ナット801との結合部からタンク内の絶縁油が漏れ出るおそれがあるため、工場で絶縁油を充填した状態で変圧器を輸送することができず、変圧器を据え付ける現地で絶縁油を充填する作業を行うことが必要になって、面倒である。
【0017】
また
図8に示された構造では、特殊ナット801の管状部801aの外周の雄ネジ部にナット802を螺合させる必要があることから、特殊ナット801の管状部801aの外径を太くして特殊ナットに十分な強度を持たせることが困難である上に、溝部801c,801cに係合させた工具から特殊ナット801に与える操作力が強すぎると、特殊ナット801が破損するおそれがあるため、変圧器本体をタンクの底板に十分な押圧力を以て押し付けることが難しく、タンク内での変圧器本体の固定を確実に行うことが難しいという問題があった。
【0018】
更に
図8に示された構造によった場合には、連結ボルト4の上端が特殊ネジ801の雌ネジ部に螺合されているだけで、連結ボルト4が特殊ネジ801に対してロックされることがないため、万一連結ボルト4と変圧器本体との結合部が緩んで、振動等により連結ボルト4に回転力が作用した場合に、連結ボルト4と特殊ナット802との間に相対的な回転変位が生じて、連結ボルト4と特殊ナット802との結合部に弛みが生じ、変圧器本体の固定強度が低下するおそれがあった。
【0019】
本発明の目的は、特殊な構造のナットを用いることなく、タンクの蓋と変圧器本体とを連結する連結ボルトの突っ張り棒としての有効長の調整をタンク外から行うことを可能にするとともに、タンク内での変圧器本体の固定強度を十分に高くすることを可能にし、かつ連結ボルトとタンクの蓋との結合部を気密かつ液密な構造にすることができるようにして、上記の諸問題点を解決した変圧器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明は、上端に開口部を有する有底のタンク本体と該タンク本体の上端に固定されて該タンク本体の開口部を閉じる蓋とを備えたタンク内に変圧器本体が絶縁媒体と共に収容されて、変圧器本体がタンク本体の底板上に載置された状態で支持される変圧器を対象とする。本発明が対象とする変圧器においては、下端が変圧器本体に固定され、上端寄りの部分が蓋に固定された複数の連結ボルトが設けられて、該複数の連結ボルトの突っ張りにより変圧器本体がタンク内に固定される。
【0021】
本発明においては、前記の目的を達成するため、タンクの蓋の肉厚よりも大きい軸線方向寸法を有するナット本体と、該ナット本体よりも大きな外径を有して該ナット本体の軸線方向の一端に一体化された座板部とを有する座板付きナットが座板部を下にして各連結ボルトの上端寄りのネジ部に螺合される。
【0022】
本発明においてはまた、座板付きナットのナット本体をゆるく貫通させるが、座板部の通過は阻止する大きさの内径を有する貫通孔が各連結ボルトに対応させて蓋に設けられ、各連結ボルトに螺合された座板付きナットのナット本体が、蓋に設けられた対応する貫通孔を貫通した状態で配置されるとともに、該座板付きナットの座板部が蓋の内面側で貫通孔の周辺部に当接されて(あてがわれて)、蓋の上方への膨らみ量が設定された膨らみ量となるまで前記座板付きナットが前記蓋に対して締め付けられる。
【0023】
また本発明においては、各座板付きナットを蓋に対して締め付けた状態で、各連結ボルトの上端寄りのネジ部に各連結ボルトに螺合されたナットの上端から上方に突出した突出部が形成されるように、各連結ボルトの長さが設定され、各連結ボルトの突出部に袋ナットが螺合されて、各連結ボルトに螺合された座板付きナットのナット本体の蓋から上方に突出した部分が袋ナットの内側に収容される。また各袋ナットの下端とタンクの蓋との間にパッキンが配設されて、各袋ナットがパッキンを介して蓋の貫通孔の周辺部に対して締め付けられ、該パッキンにより、各袋ナットの内部が外部に対してシールされる。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、ナット本体と、座板部を一体に有する座板付きナットを、その座板部を下にした状態で各連結ボルトに螺合させて、各連結ボルトに螺合させた座板付きナットのナット本体と各連結ボルトの上端寄りの部分とを、タンクの蓋に設けた貫通孔をゆるく貫通させてタンクの蓋から上方に導出したので、タンクの蓋の上方に突出したナット本体にスパナを係合させて、座板付きナットを回転させることにより、座板付きナットの高さ方向位置を調整して、連結ボルトの有効長(突っ張り棒としての有効長)を調整することができる。このように、本発明によれば、タンクの外部から座板付きナットを操作することにより、変圧器本体とタンクの蓋とを連結する連結ボルトの突っ張り棒としての有効長を調整することができるため、変圧器本体の上げ下ろしを繰り返し行うことなく、タンクの蓋の膨らみの調整と、タンク内での変圧器本体の固定強度の調整とを適確に行うことができる。
【0025】
本発明において用いる座板付きのナットは、一般に広く用いられている鍔付きナットと大差がない構造を有するもので、
図8に示した従来技術で用いていた特殊ナットに比べて低コストで製作することができるため、連結ボルトの有効長を外部から調整するための機構を低コストで構成することができる。
【0026】
また本発明においては、スパナ等の締め付け工具により操作できる座板付きナットを用いて連結ボルトとタンクの蓋とを結合するため、ナットの締め付けを十分に行って、タンク内での変圧器本体の固定強度を高めることができる。
【0027】
また本発明においては、座板付きのナットのナット本体を収容する空所を内側に備えた袋ナットを、座板付きのナットの上端から上方に突出した連結ボルトの突出部に螺合させて締め付ける構造にするとともに、袋ナットとタンクの蓋との間にパッキンを介在させて、袋ナットをパッキンを介してタンクの蓋に対して締め付けるようにしたので、変圧器本体とタンクの蓋とを連結する連結ボルトと蓋との結合部を気密かつ液密な構造にすることができる。従って、本発明は、屋外に設置する変圧器にも適用することができ、タンクを完全に密閉する必要がある変圧器にも適用することができる。
【0028】
本発明においてはまた、座板付きナットから上方に突出した連結ボルトの突出部に螺合させた袋ナットの締め付けにより、連結ボルトをロックすることができるため、何らかの原因で、連結ボルトと変圧器本体との締結部が緩んで、変圧器の電磁振動等により連結ボルトに回転トルクが作用した場合に、座板付きナットの高さ位置が変化して、変圧器本体の固定強度が低下したり、蓋の膨らみがなくなって、蓋の上面に雨水が溜まる状態になったりするのを防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図1】本発明に係る変圧器の一実施形態の外観を示した正面図である。
【
図3】
図1に示した変圧器の本体と該本体に締結された連結ボルトとを示した側面図である。
【
図4】
図1及び
図2の実施形態で用いる連結ボルトとタンクの蓋との結合部の構造を詳細に示した断面図である。
【
図5】本発明の実施形態において、連結ボルトにナットを螺合させて締め付けた状態を示した正面図である。
【
図6】従来の変圧器において、変圧器本体に連結ボルトを介してタンクの蓋を連結した状態を、蓋を断面して示した正面図である。
【
図8】特許文献1に示された変圧器中身固定構造の要部の構成を示した断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、
図1ないし
図5を参照して、本発明の実施形態を詳細に説明する。
図1及び
図2は、本発明に係る変圧器の一実施形態の全体的な構成を概略的に示したもので、これらの図において、10は変圧器のタンク、20はタンク10内に絶縁油(図示せず。)とともに収容された変圧器本体、30は変圧器本体20をタンク10に対して固定する変圧器本体固定装置である。
【0031】
更に詳細に説明すると、タンク10は、側壁部11aと、底板11bとを有し、上端に開口部をするタンク本体11と、タンク本体11の上端の開口部を閉じる蓋12とを備え,タンク本体11の側壁部11aには、放熱板13が取り付けられている。放熱板13は、例えば波形に成形された板からなっていて、タンク本体の側壁部11aに溶接により取り付けられている。
図1及び
図2においては、放熱板13の詳細な構造の図示が省略されている。なお放圧板に代えて内部に油道を有する放熱器をタンク本体の側壁部に取り付ることもあり、タンクの側壁部11a自体を波形に成形して該側壁部に放熱器としての機能を持たせる場合もある。
【0032】
タンク本体11の側壁部の上部には、変圧器を吊り上げる際にホイスト・クレーン等の吊り上げ装置のフックを引っ掛ける吊り耳14が溶接されている。またタンク本体11の底板11bの下面には、アングル材等からなる脚部15が溶接されている。
【0033】
タンク10内に収容する変圧器本体の構成は任意であるが、本実施形態で用いる変圧器本体20は、上下の継鉄部がそれぞれコア締め金具21,22により締め付けられた3脚鉄心23と、鉄心23の3つの脚部にそれぞれ巻装された三相の巻線25u,25v及び25wとを備えている。変圧器本体20は、タンク本体11内に挿入されて、タンク本体の底板11bの上に載置されている。
【0034】
変圧器固定装置30は、下端が変圧器本体20に固定され、上端がタンクの蓋12に固定される複数の連結ボルト31と、連結ボルト31をタンクの蓋12に結合する結合部とにより構成される。本実施形態では、
図3に示されているように、変圧器本体20の鉄心23の上部継鉄部を締め付ける一対のコア締め金具21,21のそれぞれの長手方向の一端に、スタッドボルトからなる2本の連結ボルト31,31が、鉄心23を鋼板の積層方向に2等分する垂直平面の両側の対称位置に位置させた状態で配置されて、各連結ボルトの下端がナット32及び33によりコア締め金具21,21に締結されている。同様に、一対のコア締め金具21,21のそれぞれの長手方向の他端にスタッドボルトからなる2本の連結ボルトの下端が締結されていて、合計4本の連結ボルトが、それぞれの中心軸線を水平面上で長方形の4つの角部に位置させた状態で設けられている。
【0035】
なお連結ボルト31は、蓋12と変圧器本体20との間をバランスよく突っ張ることができるように設ければよく、連結ボルトの数や配置は、変圧器本体の構造に応じて適宜に設定することができる。例えば、変圧器本体の鉄心の上下の継鉄部を幅方向に2等分する垂直平面に沿って鉄心の一端側及び他端側にそれぞれ2本の連結ボルトを固定することができる場合には、これら2本の連結ボルトにより蓋12と変圧器本体20との間をバランスよく突っ張ることができる。
【0036】
本実施形態において、各連結ボルト31をタンクの蓋12に結合する結合部は、
図4に示されているように、連結ボルト31の上端寄りの部分に螺合された座板付きナット35と、座板付きナット35を内側に収容した状態で連結ボルト31に螺合された袋ナット37とを備えている。
【0037】
座板付きナット35は、タンクの蓋12の肉厚よりも大きい軸線方向寸法を有するナット本体35aと、ナット本体35aよりも大きな外径を有して該ナット本体の軸線方向の一端に一体化された座板部35bとを有するナットで、このナットは、その座板部35bを下にして各連結ボルト31の上端寄りの部分に螺合されている。
【0038】
蓋12には、座板付きナット35のナット本体35aをゆるく貫通させるが、座板部35bの通過は阻止する大きさの内径を有する貫通孔12aが、各連結ボルト31に対応させて設けられている。図示の例では、貫通孔12aの周辺部が上方に(タンク本体11と反対側に)凸な形状を呈するように変形されて、貫通孔12aの周辺部に円環状の座部12bが形成されている。
【0039】
各連結ボルト31に螺合された座板付きナット35は、そのナット本体35aが、蓋12に設けられた対応する貫通孔12aをゆるく(回転自在に)貫通した状態で設けられ、その座板部35bが、蓋12の内面側で貫通孔12aの周辺部にプレスボード等のクッション材からなるワッシャ36を介して当接される(あてがわれる)。座板付きナット35は、後記する手順で蓋12がタンク本体11の上端に固定された後に、蓋12の上方への膨らみ量が設定された膨らみ量(設定膨らみ量)となるまで蓋に対して締め付けられる。蓋12の膨らみ量は、蓋12の所定箇所(例えば貫通孔12aの周辺部)の上方への変位量を測定することにより確認することができる。
【0040】
本実施形態では、蓋12の上方への膨らみ量が設定膨らみ量となるまで座板付きナット35を締め付けた状態で、変圧器本体20の下端をタンク本体11の底板に、該変圧器本体20を動かないように固定するために十分な押圧力を以て押付けた状態にすることができるように、上記蓋12の設定膨らみ量が設定される。
【0041】
本実施形態においては、蓋12の上方への膨らみ量が設定された膨らみ量となるまで各座板付きナット35を蓋12に対して締め付けたときに、
図5に示すように、各連結ボルト31の上端寄りのネジ部に各連結ボルトに螺合された座板付きナット35の上端から上方に突出した高さhの突出部31aが形成されるように、各連結ボルトの変圧器本体20から上方に延びる部分の長さが設定され、座板付きナットの上端から突出した各連結ボルト31の突出部31aに袋ナット37が螺合される。
【0042】
袋ナット37は、座板付きナット35のナット本体35aの、蓋12の上面から上方に突出した部分を収容する空所37aと、連結ボルト31の突出部に螺合される雌ネジ部37bとを備えたもので、袋ナット37を各連結ボルト31の突出部31aに螺合して、蓋12の座部12bに対して締め付けた状態にしたときに、座板付きナット35のナット本体35aの蓋から上方に突出した部分が袋ナット37の内側に収容されて隠されるようになっている。
【0043】
各袋ナット37の下端には、パッキン収容溝が周設されて、このパッキン収容溝内に、パッキン38が収容され、各袋ナット37が、パッキン38を押し潰した状態で蓋の貫通孔12aの周辺の座部12bに対して締め付けられて、パッキン38により、各袋ナット37の内部が外部に対してシールされるようになっている。
【0044】
変圧器本体20を収容したタンク10の蓋12には、変圧器本体のU,V,W三相の高圧側端子にそれぞれ接続された高圧ブッシング40u、40v及び40wと、変圧器本体の三相の低圧側端子にそれぞれ接続された三相の低圧ブッシング(図示せず。)とが取り付けられる。
【0045】
上記の変圧器を組立てる際には、変圧器本体20の鉄心の上部継鉄部を締め付けているコア締め金具21,21に各連結ボルト31の下端をナット32及び33を用いて締結して、各連結ボルトの下端を変圧器本体に固定した後、変圧器本体20をタンク本体11内に挿入して、該変圧器本体20をタンク本体の底板11b上の所定位置に着座させる。
【0046】
各連結ボルト31の下端を変圧器本体20に固定する際には、後の工程で、各連結ボルトの下端が固定された変圧器本体20をタンク本体内に収容して、各連結ボルトの上端寄りの部分を,タンク本体の開口部を閉じる蓋12に設けられた対応する貫通孔12aを通して蓋から上方に突出させた状態にしたときに、各連結ボルトのネジ部の蓋12から上方に突出した部分の長さが、袋ナット37を螺合させて十分に締め付けることを可能にするために許容される範囲内に収まるように、変圧器本体20の高さの実測値と、タンク本体の高さの実測値とに応じて、各連結ボルト31の、変圧器本体20から上方に延びる部分の長さを調整する。袋ナット37の空所37a及び雌ネジ部37bの軸線方向寸法にある程度の余裕を持たせておけば、各連結ボルトのネジ部の蓋12から上方に突出した部分の長さに多少のバラツキがあっても、袋ナットの突出部31aへの螺合と蓋12に対する締め付けとに支障を来すことはないため、上記の調整はそれほど厳密に行う必要はない。
【0047】
各連結ボルト31のネジ部の、変圧器本体20から上方に延びる部分の長さを常に一定とした場合、各連結ボルトのネジ部の蓋12から上方に突出する部分の長さは、変圧器本体20の高さ寸法のばらつきと、タンク本体の高さのばらつきとに応じてばらつくことになる。変圧器本体20の高さ寸法のばらつき及びタンク本体の高さのばらつきに起因して各連結ボルトのネジ部の蓋12から上方に突出した部分の長さに生じるばらつきを、袋ナット37の空所37a及び雌ネジ部37bの軸線方向寸法に余裕を持たせることで吸収することができる場合には、上記の調整作業を省略して、変圧器本体20から上方に延びる部分の長さを常に一定とするように連結ボルトの下端を変圧器本体に固定するようにすることもできる。
【0048】
上記のようにして各連結ボルト31の下端を変圧器本体20に固定した後、各連結ボルト31の上端寄りの部分のネジ部に、座板付きナット35を、その座板部35bを下にした状態で螺合させ、各座板付きナット35の座板部35bの上にワッシャ36を載せて、蓋12をタンク本体11の上端に被せる。蓋12とタンク本体11の上端との間には、
図2に示したように、パッキンPを介在させておく。蓋12をタンク本体11の上端に被せる際に、各連結ボルト31に螺合された座板付きナット35のナット本体35aを、蓋12に設けられた対応する貫通孔12aに挿入して、各座板付きナット35のナット本体35aが貫通孔12aを貫通した状態にする。次いで、蓋12を図示しないボルトによりタンク本体11の上端に締結して、タンク本体11の上端の開口部を閉じる。
【0049】
上記のようにして蓋12をタンク本体11の上端に取り付けた後、座板付きナット35のナット本体の、貫通孔12aを通して蓋12から上方に突出している部分に、スパナ等のナット締付け工具を係合させて、座板付きナット35を回転させることにより、座板付きナット35を上方に変位させ、座板付きナットの座板部35bを蓋12の内面側で、貫通孔12aの周辺部にワッシャ36を介して当接させる。座板付きナットの座板部35bを貫通孔12aの周辺部に当接させた状態で、座板付きナット35を更に回転させることにより、各連結ボルト31を突っ張り棒として機能させて、蓋12を上方に押し上げて膨らませるとともに、変圧器本体20をタンク本体11の底板11bに押付ける。最終的に、蓋12の上方への膨らみ量が設定膨らみ量となるまで座板付きナット35を蓋に対して締め付ける。これにより、蓋12の上面に所定の膨らみを持たせるとともに、変圧器本体20の下端をタンク本体の底板11bに十分大きい押圧力を以て押付けて、変圧器本体20がタンク内で動かないようにする。
【0050】
上記のようにして、座板付きナット35を締付けた後、各連結ボルト31に螺合された座板付きナット35の上端から上方に突出している連結ボルトの突出部31aに、袋ナット37を螺合させて、各袋ナット37を、蓋12の貫通孔12aの周辺の座部12bに対してパッキン38を介して締付けることにより、袋ナット37の内部と外部との間でガス及び液体の流通がないように、袋ナット37の内部を外部に対してシールする。座板付きナット35の締め付けを完了した時点で、座板付きナットの上端から上方に突出した状態で形成される各連結ボルト31の突出部31aの高さhは、袋ナット37の締付けに支障を来さない高さに設定しておく。
【0051】
上記のようにして、タンク内に変圧器本体を収容して固定し、タンクの蓋12にブッシングなどの必要部品を取り付けた後、蓋12に設けられた注油口(図示せず。)からタンク10内に絶縁油を注入する。
【0052】
上記のように、本実施形態においては、ナット本体35aと、座板部35bとを一体に有する座板付きナット35を、その座板部を下にした状態で各連結ボルト31に螺合させて、各連結ボルトに螺合させた座板付きナットのナット本体35aと各連結ボルト31の上端寄りの部分とを、タンクの蓋12に設けた貫通孔をゆるく貫通させて蓋12から上方に導出し、蓋12から上方に導出されたナット本体35aを回転させることにより、座板付きナットの高さ方向位置を調整する。このように構成しておくと、連結ボルト31の有効長(突っ張り棒としての有効長)の調整をタンクの外部から行うことができるので、変圧器本体の上げ下ろしを繰り返し行うことなく、タンクの蓋の膨らみの調整と、タンク内での変圧器本体の固定強度の調整とを適確に行うことができる。
【0053】
本実施形態で用いる座板付きナット35は、一般に広く用いられている鍔付きナット(またはフランジナット)と大差がない構造を有するもので、複雑な構造を有するものではないため、
図8に示した従来技術で用いていた特殊ナットに比べて低コストで製作することができる。また座板付きナット35には、通常のナットと同様に、十分な機械的強度を持たせることができるため、座板付きナットの締め付けを十分に行って、変圧器本体をタンク内に強固に固定することができる。
【0054】
また本実施形態においては、座板付きナット35のナット本体35aを収容する空所を内側に備えた袋ナット37を、座板付きナットの上端から上方に突出した連結ボルトの突出部31aに螺合させて締め付ける構造にするとともに、袋ナット37とタンクの蓋12との間にパッキン38を介在させて、袋ナット37をパッキン38を介してタンクの蓋に対して締め付けるようにしたので、変圧器本体20とタンク10の蓋12とを連結する連結ボルトと蓋との結合部を、気密かつ液密にシールされた構造にすることができる。従って、本発明は、屋外に設置する変圧器にも適用することができ、タンクを完全に密閉する必要がある変圧器にも適用することができる。また連結ボルトとタンクの蓋との結合部を通して呼吸が行われるのを防ぐことができるため、タンク内に外気が進入して絶縁油が劣化するのを防ぐことができる。
【0055】
本実施形態に係る変圧器においてはまた、座板付きナット35の上端から上方に突出した連結ボルト31の突出部31aに螺合させた袋ナット37の締め付けにより、連結ボルト31をロックすることができるため、何らかの原因で、連結ボルト31の下端と変圧器本体20との締結部が緩んで、変圧器の電磁振動等により連結ボルト31に回転トルクが作用した場合に、座板付きナット35の高さ位置が変化して、変圧器本体の固定強度が低下したり、蓋の膨らみがなくなって、蓋の上面に雨水が溜まる状態になったりするのを防ぐことができる。
【0056】
なお本発明において、変圧器本体とタンクの蓋とを連結する連結ボルトとしてスタッドボルトを用いる場合、該スタッドボルトは、その全長に亘って雄ネジ部を有するものでもよく、一端寄りの部分及び他端寄りの部分にのみ雄ネジ部を有するものでもよい。また連結ボルト31の変圧器本体から上方に突出して延びる部分の長さを適宜に調整するためには、連結ボルトとしてスタッドボルトを用いるのが便利であるが、連結ボルトは必ずしもスタッドボルトにより構成する必要はなく、締付け工具を係合させる頭部を一端に有するボルトを連結ボルトとして用いて、該連結ボルトの一端側を変圧器本体に固定するようにしてもよい。また上記の実施形態では、連結ボルトの下端をナットを用いて変圧器本体に固定しているが、連結ボルトの下端の変圧器本体への固定は、溶接等によってもよい。
【0057】
上記の実施形態では、変圧器本体20が、上下の継鉄部をコア締め金具で締め付けた三脚積層鉄心に三相の巻線を巻装した構造を有しているが、上記の実施形態はあくまでも一例を示したものであり、本発明は、変圧器本体の構造の如何に関わりなく、変圧器本体とタンクの蓋との間を連結ボルトで連結して、タンク内での該連結ボルトの突っ張りにより、変圧器本体をタンクの底板側に押圧するとともに、タンクの蓋を上方に適度に膨らませる構造が採用される変圧器に広く適用することができる。
【0058】
例えば、上記の実施形態では、巻線を巻装する鉄心として積層鉄心を用いているが、巻鉄心を用いる場合にも本発明を適用することができる。また本発明を適用する変圧器において、鉄心の継鉄部を締め付けるコア締め構造は任意であり、鉄心の継鉄部にコア締めを施さない場合にも本発明を適用することができる。タンク内に収容する変圧器本体は、鉄心と該鉄心に巻装された巻線とを有し、連結ボルトの下端を固定することができる部分を備えたものであればよい。また三相変圧器だけでなく、単相変圧器にも本発明を適用することができるのはもちろんである。
【0059】
上記の実施形態では、変圧器の絶縁と冷却とを図るためにタンク内に収容する絶縁媒体として絶縁油を用いたが、絶縁媒体として絶縁ガスを用いる場合にも本発明を適用することができる。
【符号の説明】
【0060】
10 タンク
11 タンク本体
12 タンクの蓋
30 変圧器本体固定装置
31 連結ボルト
32 ナット
33 ナット
35 座板付きナット
35a ナット本体
35b 座板部
36 ワッシャ
37 袋ナット