【解決手段】ROI処理部230は、量子化画像データ308を構成する各量子化ウエーブレット係数が、原画像中のROIと非ROIのどちらに対応付けられているのかを、Max−shift法のスケーリング量304に基づいて判別し、その判別結果からROIマスク312を生成する。マスク処理部260中のマスク復元部は、ROIマスク312に対してマスク復元処理を1回または複数回行うことによって、第2画像データ320と同じ分解レベルの復元ROIマスクを生成する。マスク処理部260中のマスク実行部は、復元ROIマスクを第2画像データ320に適用することによって、マスク済み画像データ322を生成する。IDWT部250は、マスク済み画像データ322に対して分解レベル0までIDWTを行う。
ウエーブレット変換を用いて符号化したビットストリームから、符号化画像データと、Max−shift法のスケーリング量に関する付加情報とを抽出する、ビットストリーム解析部と、
前記符号化画像データを復号化することによって、複数の量子化ウエーブレット係数で構成された量子化画像データを生成する、復号化部と、
前記複数の量子化ウエーブレット係数のそれぞれが、原画像中のROI(関心領域)と非ROIのどちらに対応付けられているのかを、前記スケーリング量に基づいて判別し、その判別結果から前記量子化画像データの分解レベルに対応したROIマスクを生成する、ROI処理部と、
前記スケーリング量に基づくスケールダウン処理後の前記量子化画像データに対して逆量子化を行うことによって、複数のウエーブレット係数で構成された第1画像データを生成する、逆量子化部と、
前記第1画像データを取得し、前記第1画像データに対して逆ウエーブレット変換を行うことによって、指定された分解レベルの第2画像データを生成する、逆ウエーブレット変換部と、
前記ROIマスクを取得し、前記ROIマスクに対して所定のマスク復元処理を1回または複数回行うことによって、前記第2画像データと同じ分解レベルの復元ROIマスクを生成する、マスク復元部と、
前記復元ROIマスクを前記第2画像データに適用することによって、マスク済み画像データを生成する、マスク実行部と
を備え、
前記逆ウエーブレット変換部は、前記マスク済み画像データに対して分解レベル0まで前記逆ウエーブレット変換を行うことによって、復号化画像データを生成する、
画像復号化装置。
(a)ウエーブレット変換を用いて符号化したビットストリームから、符号化画像データと、Max−shift法のスケーリング量に関する付加情報とを抽出する工程と、
(b)前記符号化画像データを復号化することによって、複数の量子化ウエーブレット係数で構成された量子化画像データを生成する工程と、
(c)前記複数の量子化ウエーブレット係数のそれぞれが、原画像中のROI(関心領域)と非ROIのどちらに対応付けられているのかを、前記スケーリング量に基づいて判別し、その判別結果から前記量子化画像データの分解レベルに対応したROIマスクを生成する工程と、
(d)前記スケーリング量に基づくスケールダウン処理後の前記量子化画像データに対して逆量子化を行うことによって、複数のウエーブレット係数で構成された第1画像データを生成する工程と、
(e)前記第1画像データを取得し、前記第1画像データに対して逆ウエーブレット変換を行うことによって、指定された分解レベルの第2画像データを生成する工程と、
(f)前記ROIマスクを取得し、前記ROIマスクに対して所定のマスク復元処理を1回または複数回行うことによって、前記第2画像データと同じ分解レベルの復元ROIマスクを生成する工程と、
(g)前記復元ROIマスクを前記第2画像データに適用することによって、マスク済み画像データを生成する工程と、
(h)前記マスク済み画像データに対して分解レベル0まで前記逆ウエーブレット変換を行うことによって、復号化画像データを生成する工程と
を備える、画像復号化方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来より、原画像のROIを高画質にする技術が開発されている。これに対し、本発明はROIに関連した新しい画像処理技術、より具体的には原画像においてROIとして指定された領域を切り出すことが可能であると共にその切り出す領域の境界を調整することが可能な技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1の態様に係る画像復号化装置は、ウエーブレット変換を用いて符号化したビットストリームから、符号化画像データと、Max−shift法のスケーリング量に関する付加情報とを抽出する、ビットストリーム解析部と、前記符号化画像データを復号化することによって、複数の量子化ウエーブレット係数で構成された量子化画像データを生成する、復号化部と、前記複数の量子化ウエーブレット係数のそれぞれが、原画像中のROI(関心領域)と非ROIのどちらに対応付けられているのかを、前記スケーリング量に基づいて判別し、その判別結果から前記量子化画像データの分解レベルに対応したROIマスクを生成する、ROI処理部と、前記スケーリング量に基づくスケールダウン処理後の前記量子化画像データに対して逆量子化を行うことによって、複数のウエーブレット係数で構成された第1画像データを生成する、逆量子化部と、前記第1画像データを取得し、前記第1画像データに対して逆ウエーブレット変換を行うことによって、指定された分解レベルの第2画像データを生成する、逆ウエーブレット変換部と、前記ROIマスクを取得し、前記ROIマスクに対して所定のマスク復元処理を1回または複数回行うことによって、前記第2画像データと同じ分解レベルの復元ROIマスクを生成する、マスク復元部と、前記復元ROIマスクを前記第2画像データに適用することによって、マスク済み画像データを生成する、マスク実行部とを備え、前記逆ウエーブレット変換部は、前記マスク済み画像データに対して分解レベル0まで前記逆ウエーブレット変換を行うことによって、復号化画像データを生成する。
【0008】
本発明の第2の態様に係る画像復号化装置は、上記の第1の態様に係る画像復号化装置であって、前記指定された分解レベルが、前記第1画像データの分解レベルと同じである場合、前記逆ウエーブレット変換部は、前記第2画像データの代わりに前記第1画像データを前記マスク実行部に供給し、前記マスク復元部は、前記復元ROIマスクの代わりに前記ROIマスクを前記マスク実行部に供給し、前記マスク実行部は、前記ROIマスクを前記第1画像データに適用することによって、前記マスク済み画像データを生成する。
【0009】
本発明の第3の態様に係る画像復号化装置は、上記の第1または第2の態様に係る画像復号化装置であって、前記指定された分解レベルが分解レベル0である場合、前記マスク済み画像データは、前記逆ウエーブレット変換が行われることなく、前記復号化画像データとして扱われる。
【0010】
本発明の第4の態様に係る画像復号化装置は、上記の第1〜第3の態様のうちのいずれか一つに係る画像復号化装置であって、前記ROIマスクおよび前記復元ROIマスクは、前記原画像中の前記ROIおよび前記非ROIに対応するROI対応部分および非ROI対応部分を含み、前記マスク実行部は、マスク対象の画像データにおいて前記非ROI対応部分に設定されているデータを0に置換する。
【0011】
本発明の第5の態様に係る画像復号化装置は、上記の第1〜第3の態様のうちのいずれか一つに係る画像復号化装置であって、前記ROIマスクおよび前記復元ROIマスクは、前記原画像中の前記ROIおよび前記非ROIに対応するROI対応部分および非ROI対応部分を含み、前記マスク実行部は、マスク対象の画像データにおいて前記非ROI対応部分に設定されているデータを、別の原画像に関する別のデータに置換する。
【0012】
本発明の第6の態様に係る画像復号化装置は、上記の第1〜第5の態様のうちのいずれか一つに係る画像復号化装置であって、前記所定のマスク復元処理は、所定のマスク復元条件に基づいて、復元対象の第1ROIマスクから、前記第1ROIマスクよりも分解レベルが1段階低い第2ROIマスクを生成する処理であり、前記逆ウエーブレット変換に5×3フィルタが利用される場合における前記所定のマスク復元条件は、nを整数として、前記逆ウエーブレット変換の前において低域成分のn番目ならびに高域成分の{n−1}番目およびn番目のデータのうちの少なくとも1つが、前記第1ROIマスクによって前記原画像中の前記ROIに対応付けられているとき、前記逆ウエーブレット変換の後において2n番目のデータが前記ROIに対応付けられるように前記第2ROIマスクを形成する、という第1条件と、前記逆ウエーブレット変換の前において前記低域成分のn番目および{n+1}番目ならびに前記高域成分の{n−1}番目から{n+1}番目のデータのうちの少なくとも1つが、前記第1ROIマスクによって前記ROIに対応付けられているとき、前記逆ウエーブレット変換の後において{2n+1}番目のデータが前記ROIに対応付けられるように前記第2ROIマスクを形成する、という第2条件とを含む。
【0013】
本発明の第7の態様に係る画像復号化装置は、上記の第1〜第5の態様のうちのいずれか一つに係る画像復号化装置であって、前記所定のマスク復元処理は、所定のマスク復元条件に基づいて、復元対象の第1ROIマスクから、前記第1ROIマスクよりも分解レベルが1段階低い第2ROIマスクを生成する処理であり、前記逆ウエーブレット変換にDaubechies9×7フィルタが利用される場合における前記所定のマスク復元条件は、nを整数として、前記逆ウエーブレット変換の前において低域成分の{n−1}番目から{n+1}番目および高域成分の{n−2}番目から{n+1}番目のデータのうちの少なくとも1つが、前記第1ROIマスクによって前記原画像中の前記ROIに対応付けられているとき、前記逆ウエーブレット変換の後において2n番目のデータが前記ROIに対応付けられるように前記第2ROIマスクを形成する、という第3条件と、前記逆ウエーブレット変換の前において前記低域成分の{n−1}番目から{n+2}番目および前記高域成分の{n−2}番目から{n+2}番目のデータのうちの少なくとも1つが、前記第1ROIマスクによって前記ROIに対応付けられているとき、前記逆ウエーブレット変換の後において{2n+1}番目のデータが前記ROIに対応付けられるように前記第2ROIマスクを形成する、という第4条件とを含む。
【0014】
本発明の第8の態様に係る画像復号化装置は、上記の第1〜第7の態様のうちのいずれか一つに係る画像復号化装置であって、前記ビットストリームはJPEG(Joint Photographic Experts Group)2000に準拠している。
【0015】
本発明の第9の態様に係る画像復号化装置は、上記の第1〜第8の態様のうちのいずれか一つに係る画像復号化装置であって、前記所定のマスク復元処理を複数回行うことは、前記所定のマスク復元処理を再帰的に複数回行うことを含む。
【0016】
本発明の第10の態様に係る画像復号化方法は、(a)ウエーブレット変換を用いて符号化したビットストリームから、符号化画像データと、Max−shift法のスケーリング量に関する付加情報とを抽出する工程と、(b)前記符号化画像データを復号化することによって、複数の量子化ウエーブレット係数で構成された量子化画像データを生成する工程と、(c)前記複数の量子化ウエーブレット係数のそれぞれが、原画像中のROI(関心領域)と非ROIのどちらに対応付けられているのかを、前記スケーリング量に基づいて判別し、その判別結果から前記量子化画像データの分解レベルに対応したROIマスクを生成する工程と、(d)前記スケーリング量に基づくスケールダウン処理後の前記量子化画像データに対して逆量子化を行うことによって、複数のウエーブレット係数で構成された第1画像データを生成する工程と、(e)前記第1画像データを取得し、前記第1画像データに対して逆ウエーブレット変換を行うことによって、指定された分解レベルの第2画像データを生成する工程と、(f)前記ROIマスクを取得し、前記ROIマスクに対して所定のマスク復元処理を1回または複数回行うことによって、前記第2画像データと同じ分解レベルの復元ROIマスクを生成する工程と、(g)前記復元ROIマスクを前記第2画像データに適用することによって、マスク済み画像データを生成する工程と、(h)前記マスク済み画像データに対して分解レベル0まで前記逆ウエーブレット変換を行うことによって、復号化画像データを生成する工程とを備える。
【0017】
本発明の第11の態様に係る画像復号化方法は、上記の第10の態様に係る画像復号化方法であって、(i)前記指定された分解レベルが、前記第1画像データの分解レベルと同じである場合に前記工程(g)に代えて実行され、前記ROIマスクを前記第1画像データに適用することによって、前記マスク済み画像データを生成する工程をさらに備える。
【0018】
本発明の第12の態様に係る画像復号化方法は、上記の第10または第11の態様に係る画像復号化方法であって、前記指定された分解レベルが分解レベル0である場合、前記マスク済み画像データを、前記逆ウエーブレット変換を行うことなく、前記復号化画像データとして扱う。
【0019】
本発明の第13の態様に係る画像復号化方法は、上記の第10〜第12の態様のうちのいずれか一つに係る画像復号化方法であって、前記ROIマスクおよび前記復元ROIマスクは、前記原画像中の前記ROIおよび前記非ROIに対応するROI対応部分および非ROI対応部分を含み、前記マスク済み画像データを、マスク対象の画像データにおいて前記非ROI対応部分に設定されているデータを0に置換することによって生成する。
【0020】
本発明の第14の態様に係る画像復号化方法は、上記の第10〜第12の態様のうちのいずれか一つに係る画像復号化方法であって、前記ROIマスクおよび前記復元ROIマスクは、前記原画像中の前記ROIおよび前記非ROIに対応するROI対応部分および非ROI対応部分を含み、前記マスク済み画像データを、マスク対象の画像データにおいて前記非ROI対応部分に設定されているデータを、別の原画像に関する別のデータに置換することによって生成する。
【0021】
本発明の第15の態様に係る画像復号化方法は、上記の第10〜第14の態様のうちのいずれか一つに係る画像復号化方法であって、前記所定のマスク復元処理は、所定のマスク復元条件に基づいて、復元対象の第1ROIマスクから、前記第1ROIマスクよりも分解レベルが1段階低い第2ROIマスクを生成する処理であり、前記逆ウエーブレット変換に5×3フィルタが利用される場合における前記所定のマスク復元条件は、nを整数として、前記逆ウエーブレット変換の前において低域成分のn番目ならびに高域成分の{n−1}番目およびn番目のデータのうちの少なくとも1つが、前記第1ROIマスクによって前記原画像中の前記ROIに対応付けられているとき、前記逆ウエーブレット変換の後において2n番目のデータが前記ROIに対応付けられるように前記第2ROIマスクを形成する、という第1条件と、前記逆ウエーブレット変換の前において前記低域成分のn番目および{n+1}番目ならびに前記高域成分の{n−1}番目から{n+1}番目のデータのうちの少なくとも1つが、前記第1ROIマスクによって前記ROIに対応付けられているとき、前記逆ウエーブレット変換の後において{2n+1}番目のデータが前記ROIに対応付けられるように前記第2ROIマスクを形成する、という第2条件とを含む。
【0022】
本発明の第16の態様に係る画像復号化方法は、上記の第10〜第14の態様のうちのいずれか一つに係る画像復号化方法であって、前記所定のマスク復元処理は、所定のマスク復元条件に基づいて、復元対象の第1ROIマスクから、前記第1ROIマスクよりも分解レベルが1段階低い第2ROIマスクを生成する処理であり、前記逆ウエーブレット変換にDaubechies9×7フィルタが利用される場合における前記所定のマスク復元条件は、nを整数として、前記逆ウエーブレット変換の前において低域成分の{n−1}番目から{n+1}番目および高域成分の{n−2}番目から{n+1}番目のデータのうちの少なくとも1つが、前記第1ROIマスクによって前記原画像中の前記ROIに対応付けられているとき、前記逆ウエーブレット変換の後において2n番目のデータが前記ROIに対応付けられるように前記第2ROIマスクを形成する、という第3条件と、前記逆ウエーブレット変換の前において前記低域成分の{n−1}番目から{n+2}番目および前記高域成分の{n−2}番目から{n+2}番目のデータのうちの少なくとも1つが、前記第1ROIマスクによって前記ROIに対応付けられているとき、前記逆ウエーブレット変換の後において{2n+1}番目のデータが前記ROIに対応付けられるように前記第2ROIマスクを形成する、という第4条件とを含む。
【0023】
本発明の第17の態様に係る画像復号化方法は、上記の第10〜第16の態様のうちのいずれか一つに係る画像復号化方法であって、前記ビットストリームはJPEG(Joint Photographic Experts Group)2000に準拠している。
【0024】
本発明の第18の態様に係る画像復号化方法は、上記の第10〜第17の態様うちのいずれか一つに係る画像復号化方法であって、前記工程(f)で前記所定のマスク復元処理を複数回行うことは、前記所定のマスク復元処理を再帰的に複数回行うことを含む。
【発明の効果】
【0025】
上記の第1および第10の態様によれば、原画像においてROIとして指定された領域を切り出すことができる。また、指定された分解レベルの値によって、原画像から切り出す領域の境界を調整することができる。また、Max−shift法を利用するので、ROIマスクのデータを別個に入手する必要がない。また、第1の態様を引用する第2〜第9の態様および第10の態様を引用する第11〜第18の態様によっても同様の効果が得られる。
【0026】
本発明の目的、特徴、局面、および利点は、以下の詳細な説明と添付図面とによって、より明白となる。
【発明を実施するための形態】
【0028】
実施の形態では、まず画像符号化装置を説明し、その後、画像復号化装置を説明する。なお、一般的に、画像データの圧縮には符号化が採用されており、このため「圧縮」と「符号化」とが同義で用いられる場合がある。かかる点に鑑み、画像符号化装置を例えば、画像圧縮装置、または、画像圧縮符号化装置と呼んでもよい。同様に、「伸張」と「復号化」とが同義で用いる場合に鑑みると、画像復号化装置を例えば、画像伸張装置、または、画像伸張復号化装置と呼んでもよい。
【0029】
<画像符号化装置10>
図1に、画像符号化装置のブロック図を例示する。
図1に例示の画像符号化装置10は、前処理部20と、ウエーブレット変換部(以下、DWT部とも呼ぶ)30と、量子化部40と、ROI管理部50と、符号化部60と、ビットストリーム生成部70とを含んでいる。
【0030】
<前処理部20>
前処理部20は、圧縮対象の入力画像データに対して所定の前処理を行う。
図1の例では、前処理部20は、DCレベルシフト部21と、色空間変換部22と、タイリング部23とを含んでいる。
【0031】
DCレベルシフト部21は、入力画像データのDCレベルを必要に応じて変換する。色空間変換部22は、DCレベル変換後の画像データの色空間を変換する。例えば、RGB成分がYCbCr成分(輝度成分Yと色差成分Cb,Crとから成る)に変換される。タイリング部23は、色空間変換後の画像データを、「タイル」と呼ばれる矩形状の複数の領域成分に分割する。そして、タイリング部23は、タイルごとに画像データをDWT部30に供給する。なお、必ずしも画像データをタイルに分割する必要はなく、色空間変換部22から出力された1フレーム分の画像データを、そのままDWT部30に供給してもよい。
【0032】
<DWT部30>
DWT部30は、タイリング部23から供給された画像データに対して、タイル単位で整数型または実数型の離散ウエーブレット変換(DWT)を施し、その結果得られる変換係数を出力する。以下では、変換係数を例えば、ウエーブレット変換係数、または、ウエーブレット係数と呼ぶ場合もある。
【0033】
DWTでは、2次元画像データが高域成分(換言すれば高周波成分)と低域成分(換言すれば低周波成分)とに分解される。かかる周波数分解は例えば帯域分割とも呼ばれる。また、周波数分解によって得られた各帯域成分(すなわち低域成分と高域成分のそれぞれ)はサブバンドとも称される。JPEG2000の基本方式では、垂直方向と水平方向の両方について低域側に分割された帯域成分のみを再帰的に帯域分割していく、オクターブ分割方式が採用されている。再帰的な帯域分割を行った回数は、分解レベルと呼ばれる。
【0034】
図2〜
図4に、2次元でのDWTについて、mallat型のウエーブレット平面を示す。
図2〜
図4の例によれば、入力画像(2次元画像)は、分解レベル1において(
図2参照)、垂直方向と水平方向のそれぞれについて周波数分解が行われる。これにより、
図2に示すように、4つの帯域成分HH1,HL1,LH1,LL1に分解される。
【0035】
分解レベル1で得られた帯域成分LL1は、分解レベル2において(
図3参照)、更に4つの帯域成分HH2,HL2,LH2,LL2に分解される。分解レベル2で得られた帯域成分LL2は、分解レベル3において(
図4参照)、更に4つの帯域成分HH3,HL3,LH3,LL3に分解される。なお、分解レベルの設定値は3に限定されるものではない。
【0036】
2次元のDWTに関する表記について、例えばHL1は、分解レベル1における水平方向の高域成分Hと垂直方向の低域成分Lとからなる帯域成分である。その表記法は「XYm」と一般化される(XおよびYはそれぞれH,Lのいずれか。mは1以上の整数)。すなわち、分解レベルmにおける水平方向の帯域成分Xと垂直方向の帯域成分Yとからなる帯域成分は「XYm」と表記される。
【0037】
ここで、ウエーブレット平面(
図2〜
図4参照)は、DWTの演算結果データを、原画像中の画素の並びに対応付けて2次元配列したデータ群である。例えばウエーブレット平面において帯域成分LL1として示されている領域内には、原画像中のある画素を注目画素として得られた演算結果データ(LL成分データ)が、原画像中での当該注目画素の位置に対応して並べられている。なお、ウエーブレット平面はウエーブレット空間、ウエーブレット領域、または、ウエーブレット画像と呼ばれる場合もある。
【0038】
分解レベル1において、帯域成分LL1は画像の本質的な情報に対応する。なお、帯域成分LL1によれば、分解前の画像の1/4のサイズの画像を提供可能である。帯域成分HL1は垂直方向に伸びるエッジの情報に対応し、帯域成分LH1は水平方向に伸びるエッジの情報に対応する。帯域成分HHは斜め方向に伸びるエッジの情報に対応する。これらの点は他の分解レベルについても同様である。例えば、分解レベル2の帯域成分LL2,HL2,LH2,HH2は、分解前の帯域成分LL1を原画像と見なした場合における帯域成分LL1,HL1,LH1,HH1とそれぞれ同様の関係にある。
図5に原画像の例を示し、
図5の原画像を分解レベル3までウエーブレット変換した画像を
図6に示す。
【0039】
帯域分割は、例えば2分割フィルタバンクを垂直方向と水平方向のそれぞれについて適用することによって、実現可能である。
図7に、1次元DWTを実現する2分割フィルタバンク群の構成例を示す。
図7の例では、2分割フィルタバンクは、低周波成分を通過させるローパスフィルタH
0(z)と、高周波成分を通過させるハイパスフィルタH
1(z)と、フィルタH
0(z),H
1(z)のそれぞれの後段に設けられたダウンサンプラとで構成されている。なお、ダウンサンプラは、入力される信号を1つおきに間引いて、信号長を半分にして出力する。1次元DWTは、この2分割フィルタバンクを繰り返し用いることによって、実現される。
【0040】
<量子化部40>
図1に戻り、量子化部40は、DWT部30から供給されたウエーブレット係数に対して、量子化ステップサイズに基づいて、スカラー量子化を行う。量子化ステップサイズは、例えば目標画質に応じて設定される。また、量子化部40は、ROI管理部50から供給されたROI設定情報に基づいて、ROIの画質を優先させるためのビットシフトを行う。
【0041】
ROIの代表的な利用方法には、JPEG2000のオプション機能としてのMax−shift法がある。Max−shift法では、ROIを任意の形で指定することができる。また、ROIを高画質に圧縮する一方で、非ROIを低画質に圧縮する。
【0042】
具体的には、まず、非ROIに対応るウエーブレット係数のうちで最大値max(Mb)を求める。次に、s≧max(Mb)を満たすs(スケーリング値と呼ばれる)を求める。そして、ROIに対応するウエーブレット係数のみを、最上位ビット(MSB)側にsビットだけシフトさせる(
図8参照)。これにより、ROIに対応するウエーブレット係数の値が、2
sだけ相対的にスケールアップされる。なお、ROIに対応するウエーブレット係数をROI係数と呼び、非ROIに対応するウエーブレット係数を非ROI係数と呼ぶ場合がある。
【0043】
例えば、max(Mb)が十進数で“255”(すなわち二進数で“11111111”)である場合、s=8ビットである。また、max(Mb)が十進数で“128”(すなわち二進数で“10000000”)である場合も、同様にs=8ビットである。これらの例では、ROI係数を、MSB側に8ビットだけシフトさせることになる。
【0044】
これにより、ROIの圧縮率を非ROIに比べて低く設定でき、ROIについて高画質の圧縮データを得ることが可能となる。
【0045】
<ROI管理部50>
ROI管理部50は、上記のように、量子化部40にROI設定情報を供給する。ROI設定情報は、いわゆるROIマスクによって提供される。なお、ROIマスクを単にマスクと呼ぶ場合もある。
【0046】
量子化部40でのスケールアップに利用されるROIマスクは、ウエーブレット平面に対応したビットマップである。当該ビットマップのビットはウエーブレット平面のウエーブレット係数に対応して設けられており、各ビットの状態が、対応するウエーブレット係数がROIと非ROIのどちらに対応するのかを示す。
【0047】
ウエーブレット平面に対応したROIマスクは、例えば、原画像に対応したROIマスクをウエーブレット平面に展開することによって、生成可能である。なお、原画像に対応したROIマスクの各ビットは、原画像の画素に対応する。以下では、原画像に対応するROIマスクを例えば、原画像レベル(換言すれば、分解レベル0)のROIマスク、原ROIマスク、または、原マスクと呼ぶ場合もある。また、ウエーブレット平面に展開されたROIマスクを例えば、展開ROIマスク、または、展開マスクと呼ぶ場合もある。
【0048】
原画像レベルのROIマスクは、例えば、ディスプレイ上に表示した原画像に対してマウス等のポインティング入力デバイスでROI(または非ROI)を指定することによって、作成可能である。あるいは、原画像データを解析して、原画像中で特定の色(例えば花の色)を含む領域をROIとして抽出してもよい。その他の技術を用いて、原マスクを生成してもよい。
【0049】
図9に、
図5の原画像において花の領域をROIに指定した場合の原マスク100を示す。原マスク100において、白抜き部分が、原画像上のROIに対応するROI対応部分101であり、黒塗り部分が、原画像上の非ROIに対応する非ROI対応部分102である。また、
図9の原マスク100を分解レベル1,2,3のウエーブレット平面(
図2〜
図4参照)に展開した展開マスク110,120,130を
図10〜
図12にそれぞれ示す。展開マスク110,120,130においても、ROI対応部分111,121,131が白抜きで図示され、非ROI対応部分112,122,132が黒塗りで図示されている。
【0050】
原画像レベルのROIマスク100をウエーブレット平面に展開する手法は、DWTのフィルタのタップ数に依存する。
【0051】
例えばDWTの演算処理において5×3フィルタが用いられる場合、
図13に示すようにして原マスクを展開可能である。なお、5×3フィルタでは、分解側のローパスフィルタが5タップであり、分解側のハイパスフィルタが3タップである。
【0052】
図13に示すように、原画像の偶数番目(nを整数として、2n番目と表記できる)の画素(換言すれば画素データ)がROIに属する場合、低域成分の側において(
図7の例を参照すると、ローパスフィルタの側のダウンサンプラから出力されるデータのうちで)n番目のデータを、分解レベル1の展開マスク110においてROI対応部分111に設定する。それと共に、高域成分の側において(
図7の例を参照すると、ハイパスフィルタの側のダウンサンプラから出力されるデータのうちで){n−1}番目およびn番目のデータを、分解レベル1の展開マスク110においてROI対応部分111に設定する。
【0053】
他方、原画像の奇数番目({2n+1}番目と表記できる)の画素がROIに属する場合、低域成分の側のn番目および{n+1}番目のデータと、高域成分の側の{n−1}番目から{n+1}番目のデータとを、分解レベル1の展開マスク101においてROI対応部分111に設定する。
【0054】
なお、
図13は原画像と分解レベル1のウエーブレット平面との対応関係を例示しているが、更に深い階層への再帰的な展開も同様に理解される。
【0055】
また、例えば、DWTの演算処理においてDaubechies9×7フィルタが用いられる場合、
図14に示すようにして原マスクを展開可能である。なお、Daubechies9×7フィルタでは、分解側のローパスフィルタが9タップであり、分解側のハイパスフィルタが7タップである。
【0056】
図14に示すように、原画像の偶数番目(2n番目と表記できる)の画素がROIに属する場合、低域成分の側の{n−1}番目から{n+1}番目のデータと、高域成分の側の{n−2}番目から{n+1}番目のデータとを、分解レベル1の展開マスク110においてROI対応部分111に設定する。
【0057】
他方、原画像の奇数番目({2n+1}番目と表記できる)の画素がROIに属する場合、低域成分の側の{n−1}番目から{n+2}番目のデータと、高域成分の側の{n−2}番目から{n+2}番目のデータとを、分解レベル1の展開マスク110においてROI対応部分111に設定する。
【0058】
なお、
図14は原画像と分解レベル1のウエーブレット平面との対応関係を例示しているが、更に深い階層への再帰的な展開も同様に理解される。
【0059】
例えば、ROI管理部50は、予め与えられた原マスク100から、分解レベルの設定値に応じた展開マスクを生成する。あるいは、各分解レベルの展開マスクがROI管理部50に予め与えられてもよい。展開マスクは、量子化部40が各ウエーブレット係数をROI係数であるか否かを判別するために利用される。なお、かかる判別は、量子化部40が行ってもよいし、ROI管理部50が行ってもよい。
【0060】
<符号化部60>
図1に戻り、符号化部60は、量子化部40によって生成された量子化ウエーブレット係数(ここではMax−shift法によってスケーリングされている)に対して、所定の符号化を行う。所定の符号化では、例えば、ビットプレーン符号化を行うEBCOT(Embedded Block Coding with Optimized Truncation)に従ってエントロピー符号化が行われる。
図1の例では、符号化部60は、係数ビットモデリング部61と、エントロピー符号化部62とを含んでいる。
【0061】
係数ビットモデリング部61は、量子化されたウエーブレット係数に対して、ビットモデリング処理を行う。ここでは、ビットモデリング処理は既知技術を利用するものとし、詳細な説明は省略する。
【0062】
なお、係数ビットモデリング部61は、入力された帯域成分を32×32または64×64程度の「コードブロック」と呼ばれる領域に分割する。そして、係数ビットモデリング部61は、コードブロック中の各量子化ウエーブレット係数の二進値を構成する各ビット値を別々のビットプレーンに割り当てる。ビットモデリング処理は、そのようなビットプレーン単位で行われる。
【0063】
エントロピー符号化部62は、係数ビットモデリング部61で生成されたデータに対してエントロピー符号化を行って、符号化画像データを生成する。エントロピー符号化として、例えば既知の算術符号化が利用される。
【0064】
なお、符号化部60では、エントロピー符号化部62によって生成された符号化画像データに対してレート制御を行って、符号量を制御してもよい。
【0065】
<ビットストリーム生成部70>
ビットストリーム生成部70は、符号化部60から出力される符号化画像データを付加情報と多重化してJPEG2000に準拠したビットストリームを生成し、そのビットストリームを圧縮画像データとして出力する。なお、付加情報として例えば、ヘッダ情報,レイヤー構成、スケーラビリティ情報、量子化テーブル、Max−shift法で適用したスケーリング量が挙げられる。
【0066】
<画像復号化装置200>
図15に、画像復号化装置のブロック図を例示する。
図15に例示の画像復号化装置200は、ビットストリーム解析部210と、復号化部220と、ROI処理部230と、逆量子化部240と、逆ウエーブレット変換部(以下、IDWT部とも呼ぶ)250と、マスク処理部260と、後処理部270とを含んでいる。
【0067】
<ビットストリーム解析部210>
ビットストリーム解析部210は、JPEG2000に準拠したビットストリーム300を解析して、当該ビットストリーム300から符号化画像データ302と付加情報とを抽出する。符号化データ302は復号化部220に供給される。各種の付加情報はそれぞれ所定の処理部に供給される。特に、Max−shift法のスケーリング量に関する付加情報304は、ROI処理部230に供給される。なお、以下では、付加情報304をスケーリング量304と呼ぶ場合もある。
【0068】
<復号化部220>
復号化部220は、符号化画像データ302に対して、所定の復号化を行う。所定の復号化は、符号量制御を除いて、基本的には、
図1の符号化部60における符号化とは逆の処理にあたる。所定の復号化によって、符号化画像データから、量子化ウエーブレット係数で構成された量子化画像データ308が生成される。
図15の例では、復号化部220は、エントロピー復号化部221と、係数ビットモデリング部222とを含んでいる。
【0069】
エントロピー復号化部221は、符号化画像データ302に対してエントロピー復号化を行って、ビットデータ306を生成する。エントロピー復号化は、
図1のエントロピー符号化部62におけるエントロピー符号化とは逆の処理にあたる。
【0070】
係数ビットモデリング部222は、エントロピー復号化部221によって生成されたビットデータ306に対してビットモデリング処理を行って、量子化ウエーブレット係数を復元する。それにより、量子化画像データ308が生成される。ここでのビットモデリング処理は、
図1の係数ビットモデリング部61におけるそれとは逆の処理にあたる。係数ビットモデリング部222によって生成された量子化画像データ308は、ROI処理部230および逆量子化部240に供給される。
【0071】
<ROI処理部230>
図16に、ROI処理部230で行われる処理S10について、フローチャートを示す。
図16の例によれば、工程S10において、ROI処理部230は、量子化画像データ308に含まれる複数の量子化ウエーブレット係数のそれぞれが、原画像中のROIと非ROIのどちらに対応付けられているのかを、スケーリング量304に基づいて判別する。
【0072】
例えばスケーリング量304が2
sである場合(sはスケーリング値)、各量子化ウエーブレット係数が2
sと比較される。2
sよりも大きい量子化ウエーブレット係数は、スケールアップされた係数(換言すればROI係数)であると判別される。他方、2
s以下の量子化ウエーブレット係数は、スケールアップされていない係数(換言すれば非ROI係数)であると判別される。
【0073】
そして、工程S12において、ROI処理部230は、スケールアップされていると判別した量子化ウエーブレット係数を、sビットだけ最下位ビット(LSB)側にビットシフトする。すなわち、対象となる量子化ウエーブレット係数に対して、スケーリング量304に基づくスケールダウン処理が行われる。スケールダウンの概念図を
図17に示す。
【0074】
工程S12後の量子化画像データ310は、逆量子化部240に供給される。
【0075】
なお、ビットストリーム解析部210から取得するスケーリング量304(換言すれば、画像符号化装置10から送られるスケーリング量)は、スケーリング値sであってもよいし、あるいは、上記値(すなわち2
s)であってもよい。
【0076】
また、工程S13において、ROI処理部230は、工程S11の判別結果に基づいて、量子化画像データの分解レベルに対応したROIマスク(すなわち展開マスク)312を生成する。具体的には、上記のように、工程S11では、量子化ウエーブレット係数のそれぞれがROI係数と非ROI係数のどちらに対応付けられているのかが判別される。このため、その判別結果をマッピングすることによって、展開マスク312を生成することができる。
【0077】
なお、工程S13で生成された展開マスクは、画像符号化装置10の量子化部40が、スケールアップさせる量子化ウエーブレット係数を選別するために利用した展開マスクに対応する。
【0078】
工程S13によって生成されたROIマスク312は、マスク処理部260に供給される。
【0079】
ここで、入力ビットストリーム300がスケーリング量304を含まない場合、例えば、ROI処理部230は処理S10を実行しない。その場合であっても、
図15の例によれば逆量子化部240には、復号化部220から量子化ウエーブレット係数が供給される。
【0080】
あるいは、入力ビットストリーム300がスケーリング量304を含まない場合であっても、ROI処理部230は、スケーリング量を0に設定して、処理S10を実行してもよい。その場合、
図15の例とは異なり、復号化部220から逆量子化部240への量子化ウエーブレット係数の供給を省略することができる。また、入力ビットストリーム300がスケーリング量304を含まない場合、入力画像はROIを含まないので、マスク生成工程S13を実行しないようにしてもよい。
【0081】
また、ビットシフト工程S12は逆量子化部240によって実行されてもよい。その場合であっても、マスク生成工程S13はROI処理部230によって実行される。なお、係数判別工程S11は、逆量子化部240とROI処理部230のうちの少なくとも一方によって実行されればよい。
【0082】
<逆量子化部240>
図15に戻り、逆量子化部240は、復号化部220またはROI処理部230から供給された量子化画像データ308または310に対して、スカラー逆量子化を行う。ここでの逆量子化は、
図1の量子化部40における量子化とは逆の処理にあたる。逆量子化によって量子化ウエーブレット係数はウエーブレット係数に変換され、その結果、複数のウエーブレット係数で構成された第1画像データ314が生成される。第1画像データ314はIDWT部250に供給される。
【0083】
<IDWT部250>
IDWT部250は、整数型または実数型の逆離散ウエーブレット変換(IDWT)を行う。IDWTは、
図1のDWT部30におけるDWTとは逆の処理にあたり、帯域成分が再帰的に合成される。なお、DWTがタイル単位で行われた場合、IDWTも同じタイル単位で行われる。
【0084】
IDWTによる帯域合成は、1次元IDWTを実現する2分割フィルタバンク群によって実現可能である。
図18に例示した2分割フィルタバンクは、低域成分を通過させるローパスフィルタG
0(z)と、高域成分を通過させるハイパスフィルタG
1(z)と、フィルタG
0(z),G
1(z)のそれぞれの前段に設けられたアップサンプラと、フィルタG
0(z),G
1(z)の出力を加算する加算器とで構成されている。なお、アップサンプラは、入力される信号間にゼロ値を1つ挿入して、信号長を2倍にして出力する。1次元IDWTは、この2分割フィルタバンクを繰り返し用いることによって、実現される。
【0085】
IDWTにおける合成回数は、合成レベルと呼ばれる。なお、合成レベルは
図18の例に限定されるものではない。なお、IDWT前の状態(
図18の例では分解レベル3の状態)の合成レベルを0と表現することにする。
【0086】
ここで、IDWT部250は、逆量子化部240から第1画像データ314を取得し、当該第1画像データ314に対して1回または複数回のIDWTを行うことによって、指定された分解レベルの第2画像データ320を生成する。なお、第2画像データ320の分解レベルの指定値316は、IDWT部250とマスク処理部260に与えられる。後述するように、第2画像データ320は、マスク処理部260によって、マスク済み画像データ322に変換される。IDWT部250は、マスク済み画像データ322に対して分解レベル0までIDWTを行うことによって、分解レベル0の画像データ324、すなわち復号化画像データ324を生成する。復号化画像データ324は後処理部270に供給される。
【0087】
<マスク処理部260>
図19にマスク処理部260のブロック図を示す。
図19の例によれば、マスク処理部260は、マスク復元部261と、マスク実行部262とを含んでいる。
【0088】
マスク復元部261は、ROI処理部230からROIマスク312を取得すると共に、第2画像データ320の分解レベルの上記指定値316を取得する。そして、マスク復元部261は、ROIマスク312に対して所定のマスク復元処理を1回または複数回行ことによって、第2画像データ320と同じ分解レベルのROIマスク318を生成する。以下では、ROIマスク318を例えば、復元ROIマスク318、または、復元マスク318と呼ぶ場合もある。
【0089】
上記指定値316は、IDWT部250からマスク処理部260に引き渡す第2画像データ320の分解レベルを指定する値であると共に、ROI処理部230で生成されたROIマスク312をどの分解レベルまで復元するかを指定する値でもある。指定値316は例えば画像復号化装置200に予め与えられているものとする。指定値316は、固定されていてもよいし、あるいはユーザ等によって変更可能であってもよい。
【0090】
例えば、入力ビットストリーム300で伝送される画像データが分解レベル3までウエーブレット変換されている場合(
図4および
図6参照)、ROI処理部230で生成されたROIマスク312は分解レベル3に対応する(
図12参照)。この例において、指定値316が分解レベル2に設定されている場合、マスク復元部261は
図11のROIマスク120を復元する。同様に、指定値316が分解レベル1に設定されている場合、マスク復元部261は
図10のROIマスク110を復元する。また、指定値316が分解レベル0に設定されている場合、マスク復元部261は
図9のROIマスク100を復元する。
【0091】
上記の所定のマスク復元処理は、所定のマスク復元条件に基づいて、復元対象のROIマスク(第1ROIマスクとも呼ぶ)から、第1ROIマスクよりも分解レベルが1段階低いROIマスク(第2ROIマスクとも呼ぶ)マスクを生成する処理である。
【0092】
上記の所定のマスク復元条件は、IDWTのフィルタのタップ数、換言すれば画像符号化装置10におけるDWTのフィルタのタップ数に依存する。
【0093】
例えばIDWTの演算処理において5×3フィルタが用いられる場合、上記の所定のマスク復元条件は次の第1条件および第2条件を含む(
図20参照)。なお、5×3フィルタでは、分解側のローパスフィルタが5タップであり、分解側のハイパスフィルタが3タップである。
【0094】
第1条件は、IDWT前において低域成分のn番目ならびに高域成分の{n−1}番目およびn番目のデータのうちの少なくとも1つが、第1ROIマスクによって原画像中のROIに対応付けられている場合、IDWT後において2n番目のデータがROIに対応付けられるように第2ROIマスクを形成することを規定している。なお、nは整数とする。
【0095】
また、第2条件は、IDWT前において低域成分のn番目および{n+1}番目ならびに高域成分の{n−1}番目から{n+1}番目のデータのうちの少なくとも1つが、第1ROIマスクによってROIに対応付けられている場合、IDWT後において{2n+1}番目のデータがROIに対応付けられるように第2ROIマスクを形成することを規定している。
【0096】
また、例えばIDWTの演算処理においてDaubechies9×7フィルタが用いられる場合、上記の所定のマスク復元条件は次の第3条件および第4条件を含む(
図21参照)。なお、Daubechies9×7フィルタでは、分解側のローパスフィルタが9タップであり、分解側のハイパスフィルタが7タップである。
【0097】
第3条件は、IDWT前において低域成分の{n−1}番目から{n+1}番目および高域成分の{n−2}番目から{n+1}番目のデータのうちの少なくとも1つが、第1ROIマスクによって原画像中のROIに対応付けられている場合、IDWT後において2n番目のデータがROIに対応付けられるように第2ROIマスクを形成することを規定している。
【0098】
また、第4条件は、IDWT前において低域成分の{n−1}番目から{n+2}番目および高域成分の{n−2}番目から{n+2}番目のデータのうちの少なくとも1つが、第1ROIマスクによってROIに対応付けられているとき、IDWT後において{2n+1}番目のデータがROIに対応付けられるように第2ROIマスクを形成することを規定している。
【0099】
上記の所定のマスク復元処理を分解レベルの指定値316に応じて、1回または複数回行うことによって、指定値316で指定された分解レベルの復元ROIマスク318を生成可能である。また、所定のマスク復元処理を複数回行う場合、当該所定のマスク復元処理は再帰的に複数回行うことが可能である。
【0100】
図22に、マスク復元部261で行われる処理S20について、フローチャートを示す。
図22の例によれば、工程S21において、ROIマスクの現在の分解レベル(換言すれば上記第1ROIマスクの分解レベル)が指定値316で指定された分解レベルと比較される。
【0101】
ROIマスクの現在の分解レベルが指定値316よりも大きい場合、工程S22において現在のROIマスクが1段階、復元される。すなわち、分解レベルが1段階低いROIマスク(換言すれば上記第2ROIマスク)が生成される。そして、工程S21が再び実行される。
【0102】
これに対し、ROIマスクの現在の分解レベルが指定値316よりも大きくない場合、より具体的には指定値316で指定された分解レベルのROIマスクが生成された場合、処理S20が終了し、マスク実行部262において処理S30(
図23参照)が実行される。
【0103】
<マスク実行部262>
図19に戻り、マスク実行部262は、マスク復元部261から、指定値316で指定された分解レベルの復元ROIマスク318を取得する。また、マスク実行部262は、IDWT部250から、指定値316で指定された分解レベルの第2画像データ320を取得する。そして、マスク実行部262は、第2画像データ320に復元ROIマスク318を適用することによって、マスク済み画像データ322を生成する。
【0104】
図23に、マスク実行部262で行われる処理S30について、フローチャートを示す。
図23の例によれば、工程S31において、IDWT部250から取得した第2画像データ320中のウエーブレット係数が復元ROIマスク318中のROI対応部分に設定されているか否かを判別する。
【0105】
ROI対応部分に設定されていない(換言すれば非ROI係数である)と判別されたウエーブレット係数は、工程S32においてデータ置換を行なう。これに対し、ROI対応部分に設定されている(換言すればROI係数である)と判別されたウエーブレット係数に対しては、データ置換を行わない。
【0106】
マスク実行部262は処理S30を、第2画像データ320中の全てのウエーブレット係数に対して行う。それにより、第2画像データ320からマスク済み画像データ322が生成される。
【0107】
マスク済み画像データ322は、IDWT部250に引き渡される。上記のように、IDWT部250は、マスク済み画像データ322に対して分解レベル0までIDWTを行うことによって、分解レベル0の画像データ324、すなわち復号化画像データ324を生成する。
【0108】
<後処理部270>
図15に戻り、後処理部270は、IDWT部250から出力された復号化画像データ324に対して、所定の後処理を行う。所定の後処理は、ここでは、
図1の画像符号化装置10における所定の前処理とは逆の処理にあたる。
図15の例では、後処理部270は、タイリング部271と、色空間変換部272と、DCレベルシフト部273とを含んでいる。
【0109】
タイリング部271は、
図1の画像符号化装置10のタイリング部23とは逆の処理を行う。具体的には、タイリング部271は、IDWT部250から出力されるタイル単位の復号化画像データ324を合成して、1フレーム分の画像データ326を生成する。なお、復号化画像データ324がタイル単位で供給されない場合、換言すればDWTがタイル単位で行われていなかった場合、タイリング部271による処理は省略される。あるいは、タイリング部271自体を省略してもよい。
【0110】
色空間変換部272は、
図1の画像符号化装置10の色空間変換部22とは逆の処理を行う。例えば、タイリング部271から出力された画像データ326をRGB成分に変換する。DCレベルシフト部273は、色空間変換部272から出力された画像データ328のDCレベルを必要に応じて変換する。
図15の例では、DCレベルシフト部273から出力される画像データ330が、画像復号化装置200の出力画像データとなる。
【0111】
<効果等>
ここで、上記では、IDWT部250が、第1画像データ314に対して1回または複数回のIDWTを行うことによって、指定された分解レベルの第2画像データ320を生成する例を説明した。すなわち、この例では、第2画像データ320の分解レベル(指定値316で指定される)は、第1画像データ314の分解レベルよりも低い。
【0112】
しかしながら、指定値316として、第1画像データ314の分解レベルと同じ値を指定することも可能である。すなわち、この例では、IDWT部250は、逆量子化部240から取得した第1画像データ314に対してDWTを行わずに、第1画像データ314を第2画像データ320の代わりにマスク実行部262に供給する。
【0113】
また、この例では、マスク復元部261は、ROI処理部230から取得したROIマスク312に対して所定のマスク復元処理を行わずに、復元ROIマスク318の代わりにROIマスク312をマスク実行部262に供給する。
【0114】
その結果、マスク実行部262は、ROIマスク312を第1画像データ314に適用することによって、マスク済み画像データ322を生成する。
【0115】
また、指定値316として、分解レベル0を指定することも可能である。この例では、マスク実行部262に供給される第2画像データ320の分解レベルは0である。このため、第2画像データ320は、ウエーブレット係数ではなく、例えばYCbCr成分の画素値で構成されている。また、マスク済み画像データ322も分解レベル0であるので、IDWTを行う必要はなく、マスク済み画像データ322が復号化画像データ324として扱われる。この場合、マスク実行部262は、マスク済み画像データ322をIDWT部250に引き渡してもよいし、あるいは、後処理部270に引き渡してもよい。
【0116】
図24〜
図28に復号化画像を示す。
図24は分解レベルの指定値316=4の場合を示し、
図25〜
図28は指定値316=3,2,1,0の場合をそれぞれ示す。
図24〜
図28の例ではビットストリーム300に含まれる符号化画像データ302が分解レベル5まで帯域分割されている。なお、
図29に参考として、符号化画像データ302を従来の手法で復号化した画像を示す。
【0117】
図24〜
図28を
図29と比較すれば分かるように、画像復号化装置200によれば、
図5の原画像においてROIとして指定された領域を切り出すことができる。また、
図24〜
図28を比較すれば分かるように、分解レベルの指定値316が小さいほど、原画像から切り出す領域がROIに近づく。換言すれば、指定値316の設定によって、原画像から切り出す領域の境界を調整することができる。
【0118】
ここで、原画像に対するROIマスクを高精度に作成することが簡単でない場合がある。また、原画像のROIよりも広めに領域を切り出したい場合もある。それらの場合でも、画像復号化装置200によれば、切り出す領域を調整することができる。
【0119】
また、
図24〜
図28は、工程S32(
図23参照)において非ROI係数を0に置換した例に対応する。この場合、原画像から切り出されない領域を黒の背景にすることができる。但し、0以外の所定値に置換してもよい。
【0120】
さらに、全ての非ROI係数を異なる値に置換してもよい。例えば、非ROI係数を、別の原画像から生成された別のウエーブレット係数に置換すれば、画像を合成することができる。例えば、別の原画像上に花の領域を重ねた合成画像を得られる。
【0121】
また、画像復号化装置200によれば、ROIマスクをMax−shift法が適用された入力画像データから生成するので、ROIマスクのデータを別個に入手する必要がない。
【0122】
上記の所定のマスク復元条件について、第1条件および第2条件(
図20参照)によれば、マスク済み画像データ322に対して分解レベル0までIDWTを行っても(すなわち、マスク済み画像データ322から復号化画像データ324を生成しても)、復号化画像データ中のROIに影響を及ぼすことがない。かかる点は第3条件および第4条件によっても同様である。
【0123】
上記では入力ビットストリーム300がJPEG2000に準拠している例を説明した。但し、入力ビットストリーム300はJPEG2000に準拠していなくてもよい。すなわち、ウエーブレット変換を用いて符号化され且つ符号化画像データとMax−shift法のスケーリング量に関する付加情報とを含むビットストリームに対して、画像復号化装置200は上記の処理および効果を提供する。
【0124】
なお、画像復号化装置200の各種処理部はハードウェアで構成されるものとするが、各種処理部の一部または全部を、マイクロプロセッサを機能させるプログラムで構成してもよい。
【0125】
本発明は詳細に説明されたが、上記した説明は、すべての局面において、例示であって、本発明がそれに限定されるものではない。例示されていない無数の変形例が、本発明の範囲から外れることなく想定され得るものと解される。