【解決手段】キナーゼと、基質と、DNP基を含むATP誘導体とを反応させて前記基質にDNP基を導入する工程、DNP基含有基質と抗DNP抗体とを混合する工程および形成された複合体を検出してキナーゼの活性を測定する工程を含み、前記ATP誘導体が、リンカーを介してジニトロフェニル基がATPのγ位のリン酸基に結合した化合物であるキナーゼ活性の測定方法、前記ATP誘導体ならびに前記ATP誘導体を含有する試薬キット。
(A)キナーゼを含む被検試料と、前記キナーゼの基質と、ジニトロフェニル(DNP)基を含むアデノシン三リン酸(ATP)誘導体とを反応させ、前記基質にDNP基が導入されたDNP基含有基質を含む混合物を得る工程、
(B)前記工程(A)で得られた混合物と、前記DNP基に結合する抗体とを混合し、前記DNP基含有基質と前記抗体とを含む複合体を形成させる工程、および
(C)前記複合体を検出することによって前記キナーゼの活性を測定する工程
を含み、
前記ATP誘導体は、ATPのγ位のリン酸基にリンカーを介してDNP基が結合した化合物である、
キナーゼ活性の測定方法。
【発明を実施するための形態】
【0013】
(ATP誘導体)
本実施形態に係るATP誘導体は、リンカーを介してDNP基がATPのγ位のリン酸基に結合していることを特徴とする。本実施形態に係るATP誘導体は、ATP部分と、DNP基部分とから構成されている。
【0014】
なお、本明細書において、「キナーゼ」とは、ATPなどの高エネルギーリン酸結合を有する化合物からリン酸基を基質に転移して基質をリン酸化する酵素をいう。かかるキナーゼには、基質である低分子量の化合物をリン酸化する低分子量基質型のキナーゼ、基質である特定のアミノ酸配列を有するタンパク質をリン酸化するプロテインキナーゼなどが包含される。前記低分子量基質型のキナーゼとしては、クレアチンキナーゼ、ピルビン酸キナーゼなどが挙げられるが、特に限定されない。また、前記プロテインキナーゼは、セリン/スレオニンキナーゼと、チロシンキナーゼとに大別される。前記セリン/スレオニンキナーゼとしては、例えば、サイクリン依存性キナーゼ(CDK)1、CDK2、CDK4、CDK6などのCDK;Akt 1、IKK、PDK1、PK、PKA、PKC、PKN、Rsk1、Rsk2、SGK、KSR、LKB1、MAPK1、MAPK2、PAK3、PKR、PLK1、PRAK、PRK2、Raf、Tak1などが挙げられるが、特に限定されない。前記チロシンキナーゼとしては、例えば、Eck、EGF−R、Erb B−2、Erb B−3、Erb B−4、FGF−R、Flt−1、PDGF−R、TrkA、TrkB、TrkC、Tie−2などの受容体型チロシンキナーゼ;Abl、FAK、Pyk2、Yes、Csk、Fyn、Lck、Tec、Blk、JAK1、JAK2、JAK3、Src、Eck、Hck、Lyn、Tyk2、BTK、Fgr、Sykなどの非受容体型チロシンキナーゼなどが挙げられるが、特に限定されない。これらのキナーゼのなかでは、CDKが好ましく、CDK1およびCDK2がより好ましい。
【0015】
本実施形態に係るATP誘導体としては、例えば、式(I):
【0016】
【化1】
(式中、X
1は、直接結合、酸素原子または硫黄原子、L
1はリンカー部分、R
1は前記L
1および前記DNPの双方に連結可能な反応基、DNPはジニトロフェニル基を示す)
で表わされる化合物などが挙げられるが、特に限定されない。なお、本実施形態においては、ATP誘導体の製造の容易性を確保する観点から、R
1およびX
1は、互いに異なる官能基であることが好ましい。
【0017】
式(I)において、X
1は、直接結合、酸素原子または硫黄原子である。これらのX
1のなかでは、ATP誘導体の製造の容易性を確保する観点から、硫黄原子が好ましい。
【0018】
式(I)において、L
1は、リンカー部分である。前記リンカー部分は、R
1に連結可能な第1の反応基とX
1に連結可能な第2の反応基とを有する二官能性リンカーを、R
1およびX
1に連結させることによって生成される部分である。すなわち、L
1におけるR
1側末端の官能基は、前記第1の反応基に由来する官能基(以下、「R
1結合基」という)である。また、L
1のX
1側末端の官能基は、前記第2の反応基に由来する官能基(以下、「X
1結合基」という)である。
【0019】
R
1結合基は、R
1の種類に応じて適宜選択することができる。R
1がアミノ酸残基である場合、前記R
1結合基としては、例えば、カルボニル基、アミノ基、スルフヒドリル基
などが挙げられるが、特に限定されない。前記R
2結合基は、X
2の種類に応じて適宜選択することができる。X
1が硫黄原子である場合、前記X
1結合基としては、例えば、マレイミド基、ブロモアセトアミド基、ヨードアセトアミド基、ジスルフィド基などが挙げられるが、特に限定されない。前記リンカー部分は、必要に応じ、R
1結合基とX
1結合基との間にスペーサーを有していてもよい。前記スペーサーとしては、置換基を有していてもよい炭素数1〜12のアルキレン基、置換基を有していてもよい炭素数2〜12のアルケニレン基、置換基を有していてもよい炭素数2〜12のアルキニレン基、(ポリ)オキシアルキレン基などが挙げられるが、特に限定されない。アルキレン基の炭素数は、ATP誘導体のATP部分とDNP部分との間の立体障害を抑制してATPの機能を十分に発揮させ、リン酸化反応を効率よく行なう観点から、好ましくは1以上、より好ましくは2以上であり、ATP誘導体の水溶性を確保して操作の容易性を確保する観点から、好ましくは12以下、より好ましくは8以下、さらに好ましくは6以下である。炭素数1〜12のアルキレン基としては、例えば、メチレン基、エチレン基、n−プロピレン基、イソプロピレン基、n−ブチレン基、イソブチレン基、sec−ブチレン基、tert−ブチレン基、n−ペンチレン基、イソペンチレン基、ネオペンチレン基、ヘキシレン基などが挙げられるが、特に限定されない。アルケニレン基およびアルキニレン基それぞれの炭素数は、ATP誘導体のATP部分とDNP部分との間の立体障害を抑制してATPの機能を十分に発揮させ、リン酸化反応を効率よく行なう観点から、好ましくは2以上、より好ましくは3以上であり、ATP誘導体の水溶性を確保して操作の容易性を確保する観点から、好ましくは12以下、より好ましくは8以下、さらに好ましくは6以下である。炭素数2〜12のアルケニレン基としては、ビニレン基、プロペニレン基、ブテニレン基、ペンテニレン基などが挙げられるが、特に限定されない。炭素数2〜12のアルキニレン基としては、例えば、エチニレン基、プロピニレン基、ブチニレン基、ヘキセニレン基などが挙げられるが、特に限定されない。前記置換基としては、例えば、水酸基、アミノ基などが挙げられるが、特に限定されない。(ポリ)オキシアルキレン基としては、例えば、オキシアルキレン基の炭素数1〜12であり、オキシアルキレン基の付加モル数が1〜8である(ポリ)オキシアルキレン基などが挙げられるが、特に限定されない。オキシアルキレン基の炭素数は、ATP誘導体のATP部分とDNP部分との間の立体障害を抑制してATPの機能を十分に発揮させ、リン酸化反応を効率よく行なう観点から、好ましくは1以上、より好ましくは2以上であり、ATP誘導体の水溶性を確保して操作の容易性を確保する観点から、好ましくは12以下、より好ましくは8以下、さらに好ましくは6以下である。炭素数1〜12のオキシアルキレン基としては、例えば、オキシメチレン基、オキシエチレン基、オキシプロピレン基、オキシブチレン基などが挙げられるが、特に限定されない。
【0020】
式(I)において、R
1は、L
1およびDNPの双方と連結可能な反応基である。前記L
1およびDNPの双方と連結可能な反応基としては、例えば、アミノ酸残基、アルキル基の炭素数が1〜4のアミノアルキルカルボン酸などが挙げられるが、特に限定されない。前記アミノ酸残基としては、例えば、アラニン残基、グリシン残基、ロイシン残基、リジン残基、メチオニン残基、フェニルアラニン残基、プロリン残基、セリン残基、スレオニン残基、バリン残基などが挙げられるが、特に限定されない。なお、R
1におけるアミノ酸残基とは、アミノ酸に由来する2価基を意味する。R
1のなかでは、反応基の反応性および製造の容易性を確保する観点から、リジン残基が好ましい。
【0021】
(ATP誘導体の製法)
本実施形態に係るATP誘導体は、例えば、式(II):
DNP−R
2 (II)
(式中、R
2は、アミノ酸残基を示し、DNPは前記と同じ。)
で表わされるDNP基含有化合物と、式(III):
【0023】
(式中、X
2は反応基(ただし、DNPを含む官能基を除く)を示す)
で表わされるATP化合物と、R
2に連結可能な第1の反応基およびX
2に連結可能な第2の反応基を有する二官能性リンカーとを反応させることなどによって製造することができる。なお、本実施形態において、式(II)で表わされるDNP基含有化合物と、式(III)で表わされるATP化合物と、前記二官能性リンカーとの反応の順番は、特に限定されない。式(II)で表わされるDNP基含有化合物と、式(III)で表わされるATP化合物と、二官能性リンカーとの反応は、例えば、
(1)式(II)で表わされるDNP基含有化合物と前記二官能性リンカーとを反応させた後、得られた製造中間体と式(III)で表わされるATP化合物とを反応させること、
(2)式(III)で表わされるATP化合物と前記二官能性リンカーとを反応させた後、得られた製造中間体と式(II)で表わされるDNP基含有化合物とを反応させること
などによって行なうことができる。
【0024】
以下、前記(1)の製法を例として挙げて説明するが、これに限定されない。まず、式(II)で表わされるDNP基含有化合物と前記二官能性リンカーとを反応させ、式(IV):
DNP−R
1−L
2 (IV)
(式中、DNPおよびR
1は前記と同じ。L
2は二官能性リンカーに由来するリンカー部分である)
で表わされる製造中間体を得る(工程1−1)。工程1−1における反応は、例えば、N,N−ジメチルホルムアミドなどの有機溶媒中で行なうことができる。工程1−1における反応に際して、反応温度は、前記DNP基含有化合物と前記二官能性リンカーとを反応させるに十分な時間であればよい。前記反応温度は、特に限定されないが、通常、15〜40℃、好ましくは25〜35℃である。また、工程1−1における反応に際して、反応時間は、前記DNP基含有化合物と前記二官能性リンカーとを反応させるに十分な時間であればよい。前記反応時間は、通常、0.5〜3時間、好ましくは0.5〜2時間である。前記反応によって得られた反応生成物には、ATP誘導体の製造中間体が含まれている。前記反応生成物は、逆相高速液体クロマトグラフィーなどで適宜精製し、必要に応じて、さらに濃縮することができる。工程1−1において、式(II)で表わされるDNP基含有化合物1モルあたりの前記二官能性リンカーの量は、前記製造中間体の収率を向上させる観点から、好ましくは0.5モル以上、より好ましくは0.6モル以上であり、次工程での副反応を抑制する観点から、好ましくは2モル以下、より好ましくは1モル以下、さらに好ましくは0.8モル以下である。
【0025】
式(II)において、R
2は、アミノ酸残基である。前記アミノ酸残基としては、例えば、アラニン残基、グリシン残基、ロイシン残基、リジン残基、メチオニン残基、フェニルアラニン残基、プロリン残基、セリン残基、スレオニン残基、バリン残基などが挙げられるが、特に限定されない。なお、R
2におけるアミノ酸残基とは、アミノ酸に由来する1価基を意味する。R
2のなかでは、反応基の反応性および製造の容易性を確保する観点から、リジン残基が好ましい。
【0026】
前記二官能性リンカーは、R
2に連結可能な第1の反応基と、X
2に連結可能な第2の反応基とを有する二官能性リンカーからなる。前記第1の反応基は、R
2の種類に応じて適宜選択することができる。R
2がアミノ酸残基であり、当該アミノ酸残基のアミノ基を介して式(II)で表わされるDNP基含有化合物を二官能性リンカーと連結させる場合、前記第1の反応基としては、例えば、カルボニル基、イソチオシアノ基、クロロスルホン基、クロロカルボニル基、カルボキシル基、スクシンイミド基などが挙げられるが、特に限定されない。前記第2の反応基は、X
2の種類に応じて適宜選択することができる。例えば、X
2が硫黄原子である場合、前記第2の反応基としては、例えば、マレイミド基、ブロモアセトアミド基、ヨードアセトアミド基、ジスルフィド基などが挙げられるが、特に限定されない。前記リンカー部分は、必要に応じ、第1の反応基と第2の反応基との間にスペーサーを有していてもよい。前記スペーサーとしては、前述と同様のものが挙げられる。前記二官能性リンカーとしては、例えば、N−(4−マレイミドブチリルオキシ)スクシンイミド、N−(6−マレイミドヘキサノイツオキシ)スクシンイミド、N−(8−マレイミドオクナノイルオキシ)スクシンイミド、N−(11−マレイミドウンデカノイルオキシ)スクシンイミドなどのアルキノイル基の炭素数が1〜12の(マレイミドアルキノイルオキシ)スクシンイミドなどが挙げられるが、特に限定されない。
【0027】
式(IV)において、L
2は、前記二官能性リンカーに由来するリンカー部分である。かかるL
2は、X
1に連結可能なフリーの第2の反応基を有している。
【0028】
つぎに、工程1−1で得られた製造中間体と、式(III)で表わされるATP化合物とを反応させ、本実施形態に係るATP誘導体を得る(工程1−2)。工程1−2における反応は、例えば、リン酸ナトリウム緩衝液などの中性水系溶媒中で行なうことができる。工程1−2における反応に際して、反応温度は、式(IV)で表わされる製造中間体と式(III)で表わされるATP化合物とを反応させるに相応な温度であればよい。前記反応温度は、特に限定されないが、通常、15〜40℃、好ましくは25〜35℃である。また、工程1−2における反応に際して、反応時間は、式(IV)で表わされる製造中間体と式(III)で表わされるATP化合物とを反応させるに十分な時間であればよい。前記反応時間は、通常、0.5〜3時間、好ましくは0.5〜2時間である。前記反応は、例えば、反応系にメルカプトエチルアミンなどの反応停止剤を添加することにより、停止させることができる。得られた製造中間体を含む反応生成物は、逆相高速液体クロマトグラフィーなどで適宜精製し、必要に応じて、さらに濃縮することができる。工程1−2において、式(IV)で表わされる製造中間体1モルあたりの式(III)で表わされるATP化合物の量は、収率を向上させる観点から、好ましくは0.5モル以上、より好ましくは0.6モル以上、さらに好ましくは0.8モル以上であり、製造コストの低減および次工程の精製の容易性の観点から、好ましくは2モル以下、より好ましくは1.2モル以下、さらに好ましくは1.0モル以下である。
【0029】
式(III)において、X
2は、反応基である。ただし、式(III)において、X
2がDNPを含む官能基である場合を除く。前記反応基としては、例えば、スルフドリル基(−SH)などが挙げられるが、特に限定されない。なお、ATP誘導体の製造の容易性を確保する観点から、X
2は、式(II)のR
2と異なる官能基であることが好ましい。例えば、R
2がアミノ酸残基である場合、X
2は、当該アミノ酸残基以外の官能基であることが好ましい。これらのX
2のなかでは、ATP誘導体の製造の容易性を確保する観点から、スルフドリル基が好ましい。
【0030】
得られたATP誘導体は、例えば、使用用途に適した溶媒に溶解して保存することができる。
【0031】
本実施形態に係るATP誘導体は、キナーゼによるリン酸化反応におけるリン酸基供与体として用いることができる。したがって、後述のキナーゼ活性の測定方法に好適に用いることができる。
【0032】
(キナーゼ活性の測定方法)
本実施形態に係るキナーゼ活性の測定方法は、
(A)キナーゼを含む被検試料と、当該キナーゼの基質と、前述のATP誘導体とを反応させ、前記基質にDNP基が導入されたDNP基含有基質を含む混合物を得る工程、
(B)前記工程(A)で得られた混合物と、前記DNP基に結合する抗体とを混合し、前記DNP基含有基質と前記抗体とを含む複合体を形成させる工程、および
(C)前記複合体を検出することによって前記キナーゼの活性を測定する工程
を含み、
前記ATP誘導体は、ATPのγ位のリン酸基にリンカーを介してジニトロフェニル基が結合した化合物であることを特徴としている(以下、「本実施形態の測定法」という)。
【0033】
本実施形態の測定法の原理を
図1に示す。なお、
図1においては、キナーゼの1つであるCDK1を例として挙げて説明する。図中、「ATPγDNP」は前述のATP誘導体、「CDK」はCDK1、「基質ペプチド」は前記CDK1のリン酸化部位のモチーフ配列を有するペプチド、「標識物質」は酵素、「基質」は前記酵素の基質、「シグナル」は前記酵素が前記基質に作用することによって生じるシグナルを示す。
図1(A)に示されるように、CDK1の反応におけるリン酸基供与体として前記ATP誘導体(ATPγDNP)を用いる。そして、CDK1の作用によって前記ATP誘導体(ATPγDNP)からDNP基を含むリン酸基を基質ペプチドのセリン残基またはスレオニン残基に転移させる。その後、
図1(B)に示されるように、DNP基を含む基質ペプチドを固相担体に固定し、未反応のATPγDNPを分離するとともに、DNP基を含む基質ペプチドのDNP基を抗DNP抗体で捕捉し、標識物質である酵素が基質に作用することによって生じるシグナルを検出する。
【0034】
以下、本実施形態の測定法の手順を詳述する。本実施形態の測定法では、まず、キナーゼを含む被検試料と、当該キナーゼの基質と、前記ATP誘導体とを反応させ、前記基質にDNP基が導入されたDNP基含有基質を含む混合物を得る〔工程(A)〕。本工程(A)では、被検試料中のキナーゼと、キナーゼの基質とATP誘導体とを接触させることとなるが、これらの接触順序は、特に限定されない。
【0035】
本実施形態の測定法で測定対象となるキナーゼは、前述のキナーゼである。キナーゼを含む被検試料として、生体の細胞や体液などから得られる生体由来試料を用いることができる。前記生体由来試料としては、例えば、胃、肝臓、乳房、乳腺、肺、膵臓、膵臓腺、子宮、皮膚食道、喉頭、咽頭、舌、甲状腺などの細胞、血液、尿、リンパ液などの体液が例示される。
【0036】
なお、キナーゼのなかには、CDKのように、細胞質中において、細胞の核内に存在する成分であるサイクリンと結合して活性化され、酵素活性を発現する状態(活性化状態)となる酵素がある。また、キナーゼの種類によっては、細胞膜の内側または細胞の核の内部に存在し、細胞の表面には表出していない場合がある。このように、キナーゼが、細胞内の成分と結合して活性化される酵素または細胞膜の内側もしくは細胞の核の内部に存在するキナーゼである場合、キナーゼを含む被検試料は、細胞の細胞膜または核膜を破壊し、測定対象のキナーゼを遊離させることによって得られた可溶化試料であることが好ましい。
【0037】
可溶化試料は、生体の細胞に対して可溶化処理を施すことによって得られる。前記可溶化処理は、生体試料に可溶化処理用の緩衝液(以下、「可溶化剤」という)中で細胞に超音波処理、ピペットでの吸引攪拌などを施すことなどによって行なうことができる。
【0038】
可溶化剤は、細胞膜または核膜を破壊する物質を含有する緩衝液である。前記可溶化剤は、キナーゼの変性または分解を阻害する物質、キナーゼによってリン酸化された基質の分解を抑制する物質などをさらに含有してもよい。
【0039】
細胞膜または核膜を破壊する物質としては、例えば、界面活性剤、カオトロピック剤などが挙げられるが、特に限定されない。前記界面活性剤は、測定対象のキナーゼの活性を阻害しない範囲で用いることができる。前記界面活性剤としては、例えば、ノニデットP−40(NP−40)、トリトンX−100〔ダウケミカルカンパニー(Dow Chemical Company)の登録商標〕などのポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル;デオキシコール酸、CHAPSなどが挙げられる。前記細胞膜または核膜を破壊する物質は、単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。可溶化剤における前記細胞膜または核膜を破壊する物質の濃度は、通常、0.1〜2w/v%である。
【0040】
キナーゼの変性または分解を阻害する物質としては、例えば、プロテアーゼインヒビターなどが挙げられるが、特に限定されない。前記プロテアーゼインヒビターとしては、例えば、EDTA、EGTAなどのメタロプロテアーゼインヒビター;PMSF、トリプシンインヒビター、キモトリプシンなどのセリンプロテアーゼインヒビター;ヨードアセトアミド、E−64などのシステインプロテアーゼインヒビターなどが挙げられるが、特に限定されない。これらのキナーゼの変性または分解を阻害する物質は、単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。可溶化剤における前記キナーゼの変性または分解を阻害する物質の濃度は、通常、EDTA、EGTAおよびPMSFの場合、0.5〜10mMである。
【0041】
前記キナーゼによってリン酸化された基質の分解を抑制する物質としては、脱リン酸化酵素阻害剤などが挙げられるが、特に限定されない。前記脱リン酸化酵素阻害剤としては、フッ化ナトリウムなどのセリン/スレオニン脱リン酸化酵素阻害剤;オルトバナジン酸ナトリウムなどのチロシン脱リン酸化酵素阻害剤などが挙げられるが、特に限定されない。前記キナーゼによってリン酸化された基質の分解を抑制する物質は、単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。可溶化剤における前記キナーゼによってリン酸化された基質の分解を抑制する物質の濃度は、通常、フッ化ナトリウムでは25〜250mM、オルトバナジン酸ナトリウムでは0.1〜1mMである。
【0042】
キナーゼによる基質のリン酸化反応は、キナーゼの活性を発現させるのに適した反応用溶液中で行なわれる。前記反応用溶液は、キナーゼの活性を発現させるのに適したpHを有する緩衝液、キナーゼの基質、前記ATP誘導体、必要に応じて、キナーゼの活性の発現に必要な金属カチオン、例えば、マグネシウムイオン、マンガンイオンなどを含有する。前記緩衝液としては、例えば、トリス塩酸緩衝液、HEPES緩衝液などが挙げられる。前記緩衝液のpHは、キナーゼの種類などに応じて、適宜決定することができる。例えば、キナーゼがCDKである場合、pHは、通常、6〜8、好ましくは6.5〜7.5である。
【0043】
前記キナーゼの基質は、キナーゼの種類によって適宜選択することができる。キナーゼが低分子量基質型のキナーゼである場合、基質として、当該キナーゼの低分子量基質、例えば、クレアチン、ピルビン酸などを用いることができるが、特に限定されない。また、キナーゼがプロテインキナーゼである場合、基質として、当該プロテインキナーゼの種類に応じた基質タンパク質、当該プロテインキナーゼのリン酸化部位のモチーフ配列を有する基質ペプチドを用いることができるが、特に限定されない。また、前記キナーゼの基質の量は、キナーゼの種類、キナーゼの量などに応じて適宜設定することができる。前記基質は、後述の工程(B)を固相担体上で行なう場合などには、必要に応じ、ビオチン、ストレプトアビジンなどのように、高い親和性で特異的な結合を生じる物質を含んでいてもよい。
【0044】
本実施形態の測定法では、前記キナーゼは、好ましくはCDKである。この場合、キナーゼとしてCDKの基質を用いることができる。前記CDKは、正の細胞周期調節因子の1つである。前記CDKは、通常細胞内では不活性型単体として細胞質に存在し、当該CDK自体がリン酸化などによって活性化され、細胞質から核内に移動する。また、核内では、前記CDKは、核内に存在するサイクリンと結合してCDKとサイクリンとの複合体を形成し、必要な場合はさらに脱リン酸化などを受けて活性型CDKを形成する。前記活性型CDKは、細胞周期の様々な段階において、細胞周期の進行を正に調節する。前記CDKおよびサイクリンの発現プロファイルは、特定のがんに関連していると考えられている。したがって、本実施形態の測定法によって前記CDKの活性を測定することにより、特定のがんに関する情報を得ることが期待される。前記CDKとしては、例えば、CDK1、CDK2、CDK3、CDK4、CDK5、CDK6、CDK7、CDK8などが挙げられるが、特に限定されない。キナーゼがCDK1またはCDK2である場合、キナーゼの基質として、ヒストンH1、式(a1):
Xaa
1−Pro−Xaa
2−Xaa
3 (a1)
(Xaa
1はセリン残基またはスレオニン残基、Xaa
2は任意のアミノ酸残基、Xaa
3はリジン残基またはアルギニン残基を示す。)
で表わされるアミノ酸配列(配列番号:1)を有する基質ペプチドを用いることができる。式(a1)で表わされるアミノ酸配列を有する基質ペプチドとしては、化学的または遺伝子工学的に生成したペプチドであってもよいし、天然に存在するペプチドであってもよい。
【0045】
前記ATP誘導体の量は、キナーゼの種類、キナーゼの量などに応じて、適宜設定することができる。
【0046】
キナーゼによる基質のリン酸化反応に際し、反応温度は、キナーゼの種類などに応じて適宜設定することができる。前記反応温度は、通常、30〜37℃である。また、反応時間は、キナーゼの種類、キナーゼの量などに応じて適宜設定することができる。前記反応時間は、通常、10〜60分間である。
【0047】
工程(A)で得られたDNP基含有基質は、前記ATP誘導体中のDNP基含有モノリン酸が基質のリン酸化部位に導入された化合物である。したがって、前記DNP基含有基質の量を測定することによってキナーゼの活性を測定することができる。
【0048】
本実施形態に係る測定法では、つぎに、工程(A)で得られた混合物と、前記DNP基に結合する抗体とを混合し、前記DNP基含有基質と前記抗体とを含む複合体を形成させる〔工程(B)〕。
【0049】
前記DNP基に結合する抗体は、前記複合体の検出が容易であることから、標識物質を含む標識抗体であることが好ましい。前記DNP基に結合する抗体は、例えば、カレント・プロトコルズ・イン・イムノロジー(Current Protocols in Immunology)に記載の方法〔ジョン・イー・コリガン(John E.Coligan)編、ジョン・ワイリー&サンズ社(John Wiely & Sons,Inc)、1992年発行〕などに記載の慣用の方法により、DNP基を含む化合物を用いて動物を免疫することによって容易に作製することができる。また、標識物質による抗体の標識は、標識物質の種類に応じた手法に容易に行なうことができる。なお、本実施形態においては、前記抗体の代わりに、当該抗体を精製後、ペプチダーゼなどにより処理することによって得られた抗体断片を用いてもよい。
【0050】
前記標識物質は、酵素であってもよく、蛍光物質であってもよい。
【0051】
前記蛍光物質としては、例えば、ヨードアセチル−フルオレセインイソチオシアネート、5−(ブロモメチル)フルオレセイン、フルオレセイン−5−マレイミド、5−ヨードアセトアミドフルオレセイン、6−ヨードアセトアミドフルオレセインなどのフルオレセイン誘導体;4−ブロモメチル−7−メトキシクマリンなどのクマリン誘導体;エオシン−5−マレイミド、エオシン−5−ヨードアセトアミドなどのエオシン誘導体;N−(1,10−フェナントロリン−5−イル)ブロモアセトアミドなどのフェナントロリン誘導体;1−ピレンブチリルクロリド、N−(1−ピレンエチル)ヨードアセトアミド、N−(1−ピレンメチル)ヨードアセトアミド、1−ピレンメチルヨードアセテートなどのピレン誘導体;ローダミンレッドC2マレンイミドなどのローダミン誘導体などが挙げられるが、特に限定されない。前記酵素としては、β−ガラクトシダーゼ、アルカリホスファターゼ、グルコースオキシダーゼ、ペルオキシダーゼなどが挙げられるが、特に限定されない。
【0052】
前記DNP基含有基質と前記抗体とを含む複合体は、固相担体上に形成させることが好ましい。後の工程において、当該複合体の回収を簡便な操作で行なうことができ、当該複合体の検出を効率よく行なうことができるためである。前記固相担体としては、例えば、磁性ビーズ、マイクロプレートなどが挙げられるが、特に限定されない。固相担体として磁性ビーズを用いる場合、当該磁性ビーズとして、例えば、ストレプトアビジン固定磁性ビーズ、ビオチン固定磁性ビーズなどを用いることができる。ストレプトアビジン固定ビーズまたはビオチン固定磁性ビーズを用いる場合、前記DNP基含有基質として、磁性ビーズに固定された物質に結合する物質を含む基質を用いる。例えば、ストレプトアビジン固定ビーズを用いる場合、前記DNP基含有基質として、ビオチン標識DNP基含有基質を用いることにより、複合体を磁性ビーズ上で形成させることができる。また、ビオチン固定ビーズを用いる場合、前記DNP基含有基質として、ストレプトアビジン標識DNP基含有基質を用いることにより、複合体を磁性ビーズ上で形成させることができる。
【0053】
前記複合体の形成は、溶液中で行なうことができる。前記溶液は、複合体を形成させるのに適した溶液であればよい。前記溶液は、トリス塩酸緩衝液、HEPES緩衝液などの緩衝液;塩化ナトリウムなどの塩;ウシ血清アルブミン(BSA)などのブロッキング剤などを含有する。前記溶液のpHは、前記DNP基含有基質および抗体の機能を維持する範囲であればよい。前記溶液のpHは、通常、6〜8、好ましくは6.5〜7.5である。
【0054】
前記複合体の形成を溶液中で行なう場合、前記工程(B)および後述の(C)の間に、前記複合体が形成された固相担体と、前記溶液とを分離する工程を行なうことができる。これにより、非特異的な夾雑物質などの混入を抑制し、複合体の検出精度を向上させることができる。前記固相担体と前記溶液との分離は、例えば、固相担体として磁性ビーズを用いる場合、磁石で前記磁性ビーズを集めることによって、前記複合体が形成された固相担体と前記溶液とを分離することができる。また、前記固相担体と前記溶液との分離は遠心分離などによって行なってもよい。さらに、非特異的な夾雑物質などの混入を抑制し、複合体の検出精度を向上させる観点から、必要に応じ、前記複合体が形成された固相担体を固相担体洗浄用の洗浄液で洗浄してもよい。
【0055】
つぎに、前記工程(B)で得られた複合体を検出することによって前記キナーゼの活性を測定する〔工程(C)〕。
【0056】
前記複合体の検出は、前記抗体が標識物質を含む標識抗体である場合、前記複合体中の標識物質を検出することによって前記活性を測定することができる。具体的には、前記標識物質が蛍光物質である場合、当該蛍光物質に応じた励起光を照射することによってシグナルとしての蛍光を生じさせる。この蛍光の量(強度)を測定することによって、抗体が結合したDNP基含有基質(反応生成物)の量を測定することができる。この場合、既知量のDNP基含有基質と蛍光の量(強度)とから作成された検量線を用い、蛍光の量(強度)の測定値からDNP基含有基質の量を算出する。これにより、算出されたDNP基含有基質の量を、被検試料中に含まれるキナーゼの活性値として得ることができる。
【0057】
また、前記標識物質が酵素である場合、前記酵素を当該酵素との反応によって発光が生じる酵素基質に作用させることによって発光を生じさせる。この発光の量(強度)を検出することによって、抗体が結合した反応生成物(DNP基含有基質)の量を測定することができる。この場合、既知量のDNP基含有基質と発光の量(強度)とから作成された検量線を用い、発光の量(強度)の測定値からDNP基含有基質の量を算出する。これにより、算出されたDNP基含有基質の量を、被検試料中に含まれるキナーゼの活性値として得ることができる。
【0058】
(試薬キット)
本実施形態に係る試薬キットは、前述のキナーゼ活性の測定法に用いるための試薬キットであって、キナーゼの基質と、前述したATP誘導体と、前記ATP誘導体中のDNP基に結合する抗体とを含有するものである。本実施形態に係る試薬キットにおけるキナーゼの基質および抗体は、前述のキナーゼ活性の測定法に用いられるキナーゼの基質および抗体と同様である。なお、前記キナーゼの基質は、固相担体に固定されたものであってもよい。
【0059】
本実施形態に係る試薬キットは、キナーゼの基質、前記ATP誘導体および抗体がそれぞれ別容器に収容された試薬キットであってもよく、キナーゼの基質、前記ATP誘導体および抗体が同一の容器に収容された試薬キットであってもよい。また、本実施形態の試薬キットは、キナーゼの種類に応じて、リン酸化反応時に必要な物質、例えば、金属カチオンなどを含む溶液などをさらに含有していてもよい。また、前記抗体が標識物質としての酵素を有する標識抗体である場合には、当該酵素に対する酵素基質、当該酵素の反応液などをさらに含んでいてもよい。
【実施例】
【0060】
以下、実施例などにより、本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されない。なお、以下において、「ATPγDNP」は本実施形態に係るジニトロフェニル基を含むATP誘導体、「ATPγS」はアデノシン5’−(γ−チオ三リン酸)〔5’−O−(ジヒドロキシチオホスフィニルオキシホスホニルオキシホスホニル)アデノシン、メルク社製〕、「EMCS」はN−(6−マレイミドカプロイルオキシ)スクシンイミド〔同仁化学(株)製〕、「DNP−Lys」はN−(2,4−ジニトロフェニル)−L−リジン〔東京化成工業(株)製〕、「DMF」はN,N−ジメチルホルムアミド、「SM(PEG)
2」はスクシンイミジル−([N−マレイミドプロピオンアミド]−ジエチレングリコール)エステル〔サーモサイエンティフィック(Thermo Scientific)社製〕を示す。
【0061】
実施例1
(1)ATPγDNPの合成
EMCS96mgをDMF3.2mLに溶解させ、1.5当量のDNP−Lysを含む50v/v%DMF溶液と混合し、混合物6mLを得た。得られた混合物6mLを0.1Mリン酸ナトリウム(pH7.0)で2.5倍に希釈した。得られた希釈物を30℃で1時間静置することにより、EMCSとDNP−Lysとを反応させた。その結果、式(x1)で表わされる製造中間体(化合物1)を含む溶液15mLを得た。
【0062】
【化2】
【0063】
前記DNP−Lysとの反応に用いられたEMCSと等モル数のATPγSを超純水0.7mLに溶解させ、前記製造中間体(化合物1)を含む溶液14.5mLに添加した。その後、得られた混合物を30℃で1時間静置することにより、前記製造中間体(化合物1)とATPγSとを反応させた。得られた溶液15.2mLに、当該溶液の体積の1/20の量の1Mメルカプトエチルアミン溶液を添加し、得られた混合物を30℃で5分間静置することによって反応を停止させた。
【0064】
得られた反応生成物を含む溶液を、逆相クロマトグラフィーに供して精製した。精製条件は、以下のとおりである。得られた画分を遠心濃縮し、反応生成物を得た。
<精製条件>
・検出波長:260nmおよび360nm
・使用カラム:C18逆相カラム
〔テレダインイスコ(Teledyne Isco)社製、
商品名:Redisep Rf C18〕
・カラム温度:室温
・移動相
移動相A: 50mMテトラエチルアンモニウムブロミド含有水溶液
移動相B: 50mMテトラエチルアンモニウムブロミド含有アセトニトリル溶液
移動相AおよびBを用いる濃度勾配
(アセトニトリル濃度:0体積%から40v/v%までの濃度勾配)
・ 流量: 5mL/min
【0065】
(2)反応生成物の同定
得られた反応生成物を50mMテトラエチルアンモニウムブロミド水溶液で100倍に希釈し、測定試料を得た。得られた測定試料および参照溶液(50mMテトラエチルアンモニウムブロミド水溶液)と、分光光度計〔(株)島津製作所社製、商品名:UV−1800PC〕とを用い、波長220〜420nmの吸光スペクトルを測定した。また、前記反応生成物の代わりに原料であるATPγSまたはDNP−Lysを用いたことを除き、前記と同様の操作を行なうことによりに、吸光スペクトルを測定した。ATPγSの吸光スペクトルを
図2(A)、DNP−Lysの吸光スペクトルを
図2(B)、反応生成物の吸光スペクトルを
図2(C)に示す。
【0066】
前記(1)において、製造中間体(化合物1)とATPγSとの反応時に、製造中間体(化合物1)のマレイミド基とATPγSのチオール基とが架橋を形成していると考えられる。また、
図2に示された結果から、反応生成物の吸光スペクトルは、波長260nm付近におけるATPγSの特徴的なピークおよび波長360nm付近におけるDNP−Lysに特徴的なピークを有していることがわかる。したがって、反応生成物は、式(x2):
【0067】
【化3】
【0068】
で表わされる化合物2であることが示唆される。なお、式(x2)で表わされる化合物2は、本実施形態に係るATP誘導体の1つ(ATPγDNP)である。
【0069】
(2)キナーゼ反応(リン酸基転移反応)
96ウェルフィルタープレート(親水性PVDFメンブレン、ミリポア社製)のウェルに免疫沈降用緩衝液〔0.1質量%ノニデットNP−40と50mMトリス塩酸(pH7.4)とを含む緩衝液〕70μLを入れた。その後、ウェル中の免疫沈降用緩衝液に抗CDK1抗体(オペロン社製)16μgまたは抗CDK2抗体(オペロン社製)8μgを含む抗体溶液20μLと、プロテインAをコートした20体積%セファロースビーズ(GEヘルスケア社製)30μLとを添加した。
【0070】
つぎに、K562細胞を可溶化剤〔組成:0.1w/v%界面活性剤NP−40(ポリオキシエチレン(9)オクチルフェニルエーテル)、1×濃度のプロテアーゼ阻害剤〔ロシュ(Roche)社製、商品名:Complete〕、50mMフッ化ナトリウム、1mMオルトバナジン酸ナトリウムおよび50mMトリス塩酸(pH7.4)〕中において、マイクロピペットによる吸排攪拌によって可溶化し、細胞破砕物を得た。得られた細胞破砕物を18000×gで5分間遠心分離して上清を回収し、10.2mg/mLのK562可溶化試料を得た。前記K562可溶化試料を前記可溶化剤で40倍、160倍、640倍または2560倍に希釈した(希釈物における可溶化試料の濃度は、順に2.5%、4.14%、1.03%または0.04%)。得られた各希釈物30μLを各ウェルに添加した。その後、各希釈物を添加した後の96ウェルフィルタープレートを振盪しながら4℃で2時間インキュベーションすることによってCDK1と抗CDK1抗体との反応またはCDK2と抗CDK2抗体との反応を行なった。
【0071】
反応終了後、ビーズをウェル毎に反応液から回収した。以下において、便宜上、40倍の希釈物からの反応液より回収されたビーズを「セファロースビーズA」、160倍の希釈物からの反応液より回収されたビーズを「セファロースビーズB」、640倍の希釈物からの反応液より回収されたビーズを「セファロースビーズC」、2560倍の希釈物からの反応液より回収されたビーズを「セファロースビーズD」という。セファロースビーズA〜Dそれぞれをビーズ洗浄液A〔組成:1w/v% NP−40および50mMトリス塩酸(pH7.4)〕で2回洗浄した。
【0072】
つぎに、洗浄後のセファロースビーズA〜Dそれぞれをビーズ洗浄液B〔組成:300mM塩化ナトリウムおよび50mMトリス塩酸(pH7.4)〕で1回洗浄した。その後、前記セファロースビーズA〜Dそれぞれをビーズ洗浄液C〔組成:50mMトリス塩酸(pH7.4)〕で1回洗浄した。
【0073】
つぎに、洗浄後のセファロースビーズA〜Dそれぞれに、CDK基質溶液〔組成:100ng/μLビオチン標識CDK2基質ペプチド〔エンゾ(Enzo)社製、商品名:CDK2 substrate(biotinylated)〕、式(x2)で表わされる化合物2、54mMトリス塩酸(pH7.4)および20mM塩化マグネシウム〕50μLを添加し、混合物A〜Dを得た。化合物2の濃度は、362nmの吸光度が2となる濃度であった。この吸光度は、実施例1(2)と同様に測定した。ビオチン標識CDK2基質ペプチドの構造は次の通りであった:Biotin−Ahx−His−His−Ala−Ser−Pro−Arg−Lys(配列番号:2)。なお、「Biotin」はビオチン、「Ahx」はアミノヘキサン酸(アミノカプロン酸)を示す。
【0074】
得られた混合物A〜Dそれぞれを振盪しながら37℃で20分間インキュベーションすることによってキナーゼによるリン酸基転移反応を行なった。かかる反応を行なうことにより、ビオチン標識基質ペプチドにDNP基を導入した。リン酸化反応終了後、各反応液を760×gで5分間の遠心分離に供し、各濾液を回収した。
【0075】
(3)化学発光を用いるキナーゼの活性の検出
前記(2)で得られた各濾液50μLに0.5v/v%ストレプトアビジン標識磁性ビーズ含有HEPES緩衝液30μLを添加した。得られた各混合物を37℃で10分間振盪しながらインキュベーションすることにより、ビオチン標識CDK基質ペプチドを磁性ビーズ上に捕捉した。その後、各濾液から、ビオチン標識CDK基質ペプチドが捕捉された磁性ビーズを磁石によって集めるとともに、上澄みを除去した。以下において、混合物Aの反応液から得られた磁性ビーズを「磁性ビーズA」、混合物Bの反応液から得られた磁性ビーズを「磁性ビーズB」、混合物Cの反応液から得られた磁性ビーズを「磁性ビーズC」、混合物Dの反応液から得られた磁性ビーズを「磁性ビーズD」という。
【0076】
得られた磁性ビーズA〜Dそれぞれを磁性ビーズ洗浄液〔組成:0.1w/v%ツイーン(Tween)20および20mM トリス塩酸(pH7.4)および138mM 塩化ナトリウム〕で3回洗浄した。つぎに、洗浄後の磁性ビーズA〜Dに、アルカリホスフォターゼ(ALP)標識抗DNP抗体を含む溶液(抗体量:ALP活性として1ユニット)100μLを添加した。得られた各混合物を振盪しながら、37℃で20分間インキュベーションし、DNPとALP標識抗DNP抗体とを反応させた。なお、前記ALP標識抗DNP抗体として、オリエンタル酵母社製のマウス由来抗DNP抗体に、アミノ基を介してオリエンタル酵母社製のALPを結合させた標識抗体を用いた。つぎに、反応後の磁性ビーズA〜Dを磁石によって集めるとともに、上澄みを除去した。
【0077】
得られた磁性ビーズA〜Dを前記磁性ビーズ洗浄液で3回洗浄した。つぎに、洗浄後の磁性ビーズA〜Dに、化学発光基質2−クロロ−5−(メトキシスピロ{1,2−ジオキセタン−3,2’−(5’−クロロ)トリシクロ[3.3.1.1
3,7]デカン}−4−イル)フェニルリン酸ジナトリウム(Disodium 2−chloro−5−(methoxyspiro {1,2−dioxetane−3,2’−(5’−chloro)tricyclo [3.3.1.1
3,7]decan}−4−yl)phenyl phosphate)〔アプライドバイオシステムズ(Applied Biosystems)社製、商品名:CDP−star〕を含む基質溶液150μLを添加した。得られた各混合物を振盪しながら、37℃で5分間インキュベーションすることにより、ALPによるリン酸エステル加水分解反応を行なった。
【0078】
反応終了後、得られた反応液を黒色96ウェルプレートに移した。その後、反応液が入った黒色96ウェルプレートをルミノメータ〔ビーエムジーラボテック(BMG LABTECH)社製〕に供して各反応液の発光強度を測定した。抗CDK1抗体を用いたときの発光強度を「発光強度A1」、抗CDK2抗体を用いたときの発光強度を「発光強度A2」という。
【0079】
(4)バックグラウンドの発光強度の測定
前記(2)および(3)において、抗CDK1抗体または抗CDK2抗体の代わりに、対照としてウサギ免疫グロブリンG(IgG)(カルビオケム社製)を用いたことを除き、前記(2)および(3)と同様の操作を行ない、各反応液の発光強度を測定した。ウサギIgGを用いたときの発光強度を「発光強度B」とする。
【0080】
(5)本実施形態に係る測定法の定量性の検討
発光強度A1、発光強度A2および発光強度Bを用い、式(A)または(B):
CDK1活性に基づく特異的発光強度C1=発光強度A1−発光強度B (A)
CDK2活性に基づく特異的発光強度C2=発光強度A2−発光強度B (B)
にしたがって、CDK1活性に基づく特異的発光強度C1およびCDK2活性に基づく特異的発光強度C2を求めた。
【0081】
混合物A〜DそれぞれにおけるCDK1またはCDK2の濃度(可溶化試料濃度)と、混合物A〜Dを用いて得られた各反応液の特異的発光強度C1または特異的発光強度C2との関係を調べることにより、本実施形態に係る測定法の定量性を評価した。実施例1において、可溶化試料濃度(CDK1濃度)とCDK1活性に基づく特異的発光強度との関係を調べた結果を
図3に示す。実施例1において、可溶化試料濃度(CDK2濃度)とCDK2活性に基づく特異的発光強度との関係を調べた結果を
図4に示す。
【0082】
図3に示された結果から、CDK1濃度の増加(可溶化試料濃度の増加)に伴ってCDK1活性に基づく特異的発光強度が増加していることがわかる。また、
図4に示された結果から、CDK2濃度の増加(可溶化試料濃度の増加)に伴ってCDK2活性に基づく特異的発光強度が増加していることがわかる。これらの結果から、本実施形態に係る測定法によれば、CDK1、CDK2などのキナーゼの活性を定量的に測定することができることがわかる。
【0083】
(実施例2)
(1)ATPγDNPの合成
実施例1と同様の手法により、式(x2)で表わされる化合物2を得た。
【0084】
(2)キナーゼ反応(リン酸基転移反応)
96ウェルフィルタープレート(親水性PVDFメンブレン、ミリポア社製)のウェルに免疫沈降用緩衝液〔0.1質量%ノニデットNP−40と50mMトリス塩酸(pH7.4)とを含む緩衝液〕70μLを入れた。その後、ウェル中の免疫沈降用緩衝液に抗CDK1抗体(オペロン社製)16μgを含む抗体溶液20μLと、プロテインAをコートした20体積%セファロースビーズ(GEヘルスケア社製)30μLとを添加した。
【0085】
つぎに、K562細胞を可溶化剤〔組成:0.1w/v%界面活性剤NP−40(ポリオキシエチレン(9)オクチルフェニルエーテル)、1×濃度のプロテアーゼ阻害剤〔ロシュ(Roche)社製、(商品名:Complete)〕、50mMフッ化ナトリウム、1mMオルトバナジン酸ナトリウムおよび50mMトリス塩酸(pH7.4)〕中において、マイクロピペットによる吸排攪拌によって可溶化し、細胞破砕物を得た。得られた細胞破砕物を18000×gで5分間遠心分離して上清を回収し、7.58mg/mLのK562可溶化試料を得た。前記K562可溶化試料を前記可溶化剤で86倍に希釈した。得られた希釈物30μLを各ウェルに添加した。その後、希釈物を添加した後の96ウェルフィルタープレートを振盪させながら4℃で2時間インキュベーションすることによってCDK1と抗CDK1抗体とを反応させた。
【0086】
反応終了後、得られた反応液からビーズを回収した。回収されたビーズをビーズ洗浄液A〔組成:1w/v% NP−40および50mMトリス塩酸(pH7.4)〕で2回洗浄した。つぎに、洗浄後のビーズをビーズ洗浄液B〔組成:300mM塩化ナトリウムおよび50mMトリス塩酸(pH7.4)〕で1回洗浄した。さらに、洗浄後のビーズをビーズ洗浄液C〔組成:50mMトリス塩酸(pH7.4)〕で1回洗浄した。
【0087】
つぎに、洗浄後のビーズに、CDK基質溶液〔組成:100ng/μLビオチン標識CDK2基質ペプチド(エンゾ(Enzo)社製)、式(x2)で表わされる化合物2、54mMトリス塩酸(pH7.4)および20mM塩化マグネシウム〕50μLを添加し、混合物を得た。化合物2の濃度は362nmの吸光度が2となる濃度であった。この吸光度は、実施例1(2)と同様に測定した。
【0088】
得られた混合物を振盪させながら37℃で20分間インキュベーションすることによってキナーゼによるリン酸基転移反応を行なった。かかる反応を行なうことにより、ビオチン標識基質ペプチドにDNP基を導入した。リン酸化反応終了後、得られた反応液を760×g(2000rpm)で5分間の遠心分離に供し、濾液を回収した。
【0089】
(3)化学発光を用いるキナーゼの活性の測定
前記(2)で得られた濾液10μLに0.5v/v%ストレプトアビジン標識磁性ビーズ含有HEPES緩衝液30μLを添加した。得られた混合物を振盪させながら37℃で10分間インキュベーションすることにより、ビオチン標識CDK2基質ペプチドを磁性ビーズ上に捕捉した。その後、濾液から、ビオチン標識CDK2基質ペプチドが捕捉された磁性ビーズを磁石によって集めるとともに、上澄みを除去した。
【0090】
得られた磁性ビーズを磁性ビーズ洗浄液〔組成:0.1w/v%ツイーン(Tween)20および20mMトリス塩酸(pH7.4)および138mM塩化ナトリウム〕で3回洗浄した。つぎに、洗浄後の磁性ビーズに、抗DNP抗体(マウス由来抗DNP抗体、オリエンタル酵母社製)を含む溶液(抗体量:0.1ng/μL)100μLを添加した。得られた混合物を振盪させながら、37℃で20分間インキュベーションし、DNPと抗DNP抗体とを反応させた。つぎに、反応後の磁性ビーズを磁石によって集めるとともに、上澄みを除去した。
【0091】
得られた磁性ビーズを前記磁性ビーズ洗浄液で3回洗浄した。つぎに、洗浄後の磁性ビーズに、ホースラディッシュペルオキシダーゼ(以下、「HRP」ともいう)標識抗マウスIgG抗体(MBL社製)を含む溶液(抗体量:1000倍希釈)100μLを添加した。得られた混合物を振盪させながら、37℃で60分間インキュベーションし、抗DNP抗体のIgGとHRP標識抗マウスIgG抗体とを反応させた。つぎに、反応後の磁性ビーズを磁石によって集めるとともに、上澄みを除去した。
【0092】
得られた磁性ビーズを前記磁性ビーズ洗浄液で3回洗浄した。つぎに、洗浄後の磁性ビーズに、化学発光基質〔ピアース(Pierce)社製、商品名:Super Signal ELISA Femto〕を含む基質溶液120μLを添加した。得られた混合物を振盪させながら、37℃で5分間インキュベーションした。
【0093】
インキュベーション終了後、得られた反応液を黒色96ウェルプレートに移した。その後、反応液が入った黒色96ウェルプレートをルミノメータ〔ビーエムジーラボテック(BMG LABTECH)社製〕に供して反応液の発光強度A1を測定した。
【0094】
(4)バックグラウンドの発光強度の測定
前記(2)および(3)において、抗CDK1抗体の代わりに、対照としてウサギ免疫グロブリンG(IgG)(カルビオケム社製)を用いたことを除き、前記(2)および(3)と同様の操作を行ない、反応液の発光強度Bを測定した。
【0095】
(比較例1)
(1)キナーゼ反応(リン酸基転移反応)
96ウェルフィルタープレート(親水性PVDFメンブレン、ミリポア社製)のウェルに免疫沈降用緩衝液〔0.1質量%ノニデットNP−40と50mMトリス塩酸(pH7.4)とを含む緩衝液〕70μLを入れた。その後、ウェル中の免疫沈降用緩衝液に抗CDK1抗体(オペロン社製)16μgを含む抗体溶液20μLと、プロテインAをコートした20体積%セファロースビーズ(GEヘルスケア社製)30μLとを添加した。
【0096】
つぎに、K562細胞を可溶化剤〔組成:0.1w/v%界面活性剤NP−40(ポリオキシエチレン(9)オクチルフェニルエーテル)、1×濃度のプロテアーゼ阻害剤〔ロシュ(Roche)社製、商品名:Complete〕、50mMフッ化ナトリウム、1mMオルトバナジン酸ナトリウムおよび50mMトリス塩酸(pH7.4)〕中において、マイクロピペットによる吸排攪拌によって可溶化し、細胞破砕物を得た。得られた細胞破砕物を18,000×gで5分間遠心分離して上清を回収し、10.2mg/mLのK562可溶化試料を得た。前記K562可溶化試料を前記可溶化剤で86倍に希釈した。得られた希釈物30μLを各ウェルに添加した。その後、希釈物を添加した後の96ウェルフィルタープレートを振盪させながら4℃で2時間インキュベーションすることによってCDK1と抗CDK1抗体とを反応させた。
【0097】
反応終了後、得られた反応液からビーズを回収した。回収されたビーズをビーズ洗浄液A〔組成:1w/v% NP−40および50mMトリス塩酸(pH7.4)〕で2回洗浄した。つぎに、洗浄後のビーズをビーズ洗浄液B〔組成:300mM塩化ナトリウムおよび50mMトリス塩酸(pH7.4)〕で1回洗浄した。さらに、洗浄後のビーズをビーズ洗浄液C〔組成:50mMトリス塩酸(pH7.4)〕で1回洗浄した。
【0098】
つぎに、洗浄後のビーズに、CDK基質溶液〔組成:100ng/μLビオチン標識CDK2基質ペプチド(エンゾ(Enzo)社製)、リン酸基供与体としての2mM ATPγS(メルク社製)、54mMトリス塩酸(pH7.4)および20mM塩化マグネシウム〕50μLを添加し、混合物を得た。
【0099】
得られた混合物を振盪させながら37℃で60分間インキュベーションすることによってキナーゼによるリン酸基転移反応を行なった。かかる反応を行なうことにより、ビオチン標識基質ペプチドにモノチオリン酸基を導入した。リン酸化反応終了後、得られた反応液を760×g(2000rpm)で5分間の遠心分離に供し、濾液を回収した。
【0100】
(2)化学発光を用いるキナーゼの活性の測定
前記(1)で得られた濾液10μLに、蛍光標識試薬〔組成:0.4mMの5−ヨードアセトアミドフルオレセイン(5−IAF)〔ライフテクノロジーズ(Life Technologies)社製〕、285mM MOPS−NaOH(pH7.4)、4.8mM EDTAおよび4.9v/v%DMSO〕を添加した。得られた混合物を振盪させながら、遮光下に37℃で10分間インキュベーションし、ビオチン標識CDK2基質ペプチドに導入されたモノチオリン酸基と5−IAFとを反応させた。これにより、ビオチン標識CDK2基質ペプチドに導入されたモノチオリン酸基をフルオレセインで標識した。得られた反応液に、反応停止液〔組成:60mM N−アセチル−L−システインおよび2M MOPS−NaOH(pH7.4)〕添加し、反応を停止させた。
【0101】
得られた反応液10μLに0.5v/v%ストレプトアビジン標識磁性ビーズ含有HEPES緩衝液30μLを添加した。得られた混合物を振盪させながら37℃で10分間インキュベーションすることにより、ビオチン標識CDK2基質ペプチドを磁性ビーズ上に捕捉した。その後、濾液から、ビオチン標識CDK2基質ペプチドが捕捉された磁性ビーズを磁石によって集めるとともに、上澄みを除去した。
【0102】
得られた磁性ビーズを磁性ビーズ洗浄液〔組成:0.1w/v%ツイーン(Tween)20および20mM トリス塩酸(pH7.4)および138mM 塩化ナトリウム〕で3回洗浄した。つぎに、洗浄後の磁性ビーズに、抗フルオレセイン抗体〔アクリスアンティボディーズ(Acris Antibodies)社製〕を含む溶液(抗体量:0.4ng/μL)100μLを添加した。得られた混合物を振盪させながら、37℃で60分間インキュベーションし、フルオレセインと抗フルオレセイン抗体とを反応させた。つぎに、反応後の磁性ビーズを磁石によって集めるとともに、上澄みを除去した。
【0103】
得られた磁性ビーズを前記磁性ビーズ洗浄液で3回洗浄した。つぎに、洗浄後の磁性ビーズに、化学発光基質〔ピアース(Pierce)社製、商品名:Super Signal ELISA Femto〕を含む基質溶液120μLを添加した。得られた混合物を振盪させながら、37℃で5分間インキュベーションした。
【0104】
インキュベーション終了後、得られた反応液を黒色96ウェルプレートに移した。その後、反応液が入った黒色96ウェルプレートをルミノメータ〔ビーエムジーラボテック(BMG LABTECH)社製〕に供して反応液の発光強度A1を測定した。
【0105】
(3)バックグラウンドの発光強度の測定
前記(1)および(2)において、抗CDK1抗体の代わりに、対照としてウサギ免疫グロブリンG(IgG)(カルビオケム社製)を用いたことを除き、前記(1)および(2)と同様の操作を行ない、反応液の発光強度Bを測定した。
【0106】
(実施例2および比較例1それぞれの測定法の評価)
実施例2で得られた発光強度A1およびBを用い、S/N比〔発光強度A1/発光強度B〕を求めた。同様に、比較例1で得られた発光強度A1およびBを用い、S/N比〔発光強度A1/発光強度B〕を求めた。実施例2および比較例1それぞれの測定法を評価した結果を
図5に示す。図中、線グラフ(a)は実施例2および比較例1それぞれの測定法のS/N比を示す。レーン1は比較例1の測定法の評価結果、レーン2は実施例2の測定法の評価結果を示す。白抜きのバーはCDK1活性に基づく発光強度A1、黒色のバーはバックグラウンドの発光強度Bを示す。
【0107】
図5に示された結果から、比較例1の測定法のS/N比と比べ、実施例2の測定法のS/N比は、著しく高いことがわかる。したがって、これらの結果から、本実施形態に係る測定法によれば、高感度にキナーゼ活性を測定することができることがわかる。
【0108】
(実施例3)
SM(PEG)
2 100mgをDMF1mLに溶解させて、得られた溶液0.11mLを取り、1.5当量のDNP−Lysを含む50v/v%DMF溶液と混合し、混合物0.49mLを得た。得られた混合物0.49mLを0.1Mリン酸ナトリウム(pH7.0)で3.9倍に希釈した。得られた希釈物を30℃で1時間静置することにより、SM(PEG)
2とDNP−Lysとを反応させた。その結果、式(y1)で表わされる製造中間体(化合物3)を含む溶液1.88mLを得た。
【0109】
【化4】
【0110】
前記DNP−Lysとの反応に用いられたSM(PEG)
2と等モル数のATPγSを超純水88μLに溶解させ、前記製造中間体(化合物3)を含む溶液1.81mLに添加した。その後、得られた混合物を30℃で1時間静置することにより、前記製造中間体(化合物3)とATPγSとを反応させた。得られた溶液1.9mLに、当該溶液の体積の1/20の量の1Mメルカプトエチルアミン溶液を添加し、得られた混合物を30℃で5分間静置することによって反応を停止させた。
【0111】
得られた反応生成物を含む溶液を、逆相クロマトグラフィーに供して精製した。逆相クロマトグラフィーによる精製条件は、以下のとおりである。
<精製条件>
・検出波長:260nmおよび360nm
・使用カラム:C18逆相カラム
〔テレダインイスコ(Teledyne Isco)社製、
商品名:Redisep Rf C18〕
・カラム温度:室温
・移動相A: 50mMテトラエチルアンモニウムブロミド含有水溶液
・移動相B: 50mMテトラエチルアンモニウムブロミド含有アセトニトリル溶液
移動相AおよびBを用いるアセトニトリル濃度0体積%から40v/v%までの濃度勾配
・流量:5mL/min
【0112】
得られた精製物を遠心濃縮し、式(y2):
【0113】
【化5】
【0114】
で表わされる化合物4を得た。
【0115】
また、実施例3において、式(x2)で表わされる化合物2を用いる代わりに、式(y2)で表わされる化合物4を用いることを除き、実施例2と同様に、キナーゼの活性を測定する。その結果、式(y2)で表わされる化合物4を用いた場合のS/N比は、実施例1および2の測定法のS/N比と同様に、比較例1の測定法のS/N比と比べ、高い傾向にあることが示される。