(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2015-192851(P2015-192851A)
(43)【公開日】2015年11月5日
(54)【発明の名称】発声補助装置
(51)【国際特許分類】
A61F 2/50 20060101AFI20151009BHJP
【FI】
A61F2/50
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2014-241416(P2014-241416)
(22)【出願日】2014年11月28日
(31)【優先権主張番号】特願2014-67290(P2014-67290)
(32)【優先日】2014年3月28日
(33)【優先権主張国】JP
(71)【出願人】
【識別番号】504205521
【氏名又は名称】国立大学法人 長崎大学
(74)【代理人】
【識別番号】100174643
【弁理士】
【氏名又は名称】豊永 健
(72)【発明者】
【氏名】諸麥 俊司
(72)【発明者】
【氏名】石松 隆和
(72)【発明者】
【氏名】古賀 弘之
【テーマコード(参考)】
4C097
【Fターム(参考)】
4C097AA29
4C097BB02
4C097BB06
4C097CC08
4C097MM09
4C097TA10
4C097TB01
(57)【要約】
【課題】人工呼吸器使用者が思ったことをすぐに発声できるようにする。
【解決手段】発声補助装置に、スピーカー20と、箱体32と、鼻孔密着部34と、音発生器10とを備える。音発生器10は、声帯の代用音を生成する音声信号発生部12と、その代用音を適切な音圧に増幅するアンプ14とを有する。スピーカー36は、箱体32に収納され、鼻孔密着部34を介して人の鼻孔に音発生器10が発生した音を伝達する。スイッチ20は、音発生器10がスピーカー36に音を発生させるか否かを切り替える。使用者は、鼻孔密着部34を鼻部に密着させて、スイッチ20をオンにした状態で、口の形状を変化させることにより、所望の音声を口から出すことができる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
スピーカーと、
前記スピーカーが発生する音を人の鼻孔に伝達する筐体と、
前記スピーカーに前記人の口腔内で共鳴を生じる周波数成分を含む音を発生させる音発生器と、
前記音発生器が前記スピーカーに音を発生させるか否かを切り替えるスイッチと、
を有することを特徴とする発声補助装置。
【請求項2】
前記筐体は、前記スピーカーを収納する箱体と、前記箱体に固定され前記人の鼻部に接するように配置されて前記スピーカーが発生した音を鼻孔に伝達する鼻孔密着部と、を備えることを特徴とする請求項1に記載の発声補助装置。
【請求項3】
前記鼻腔密着部から前記鼻腔内を延びる伝声管をさらに備えることを特徴とする請求項2に記載の発生補助装置。
【請求項4】
前記筐体は、前記スピーカーを収納する箱体と、前記箱体に固定され前記人の鼻部を通して前記鼻腔内を延びる伝声管をさらに備えることを特徴とする請求項1に記載の発生補助装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発声補助装置に関する。
【背景技術】
【0002】
喉頭癌治療のため喉頭摘出術を行った患者は声を失い、日常生活において重要な位置を占める会話が困難になる。2008年のデータでは、喉頭がんの羅患数は約5300人であり、それまでの約10年間には人口10万人あたり約3人の羅患が報告されている。喉頭癌治療による喉頭摘出のみならず、様々な理由により気管切開術を受けた患者も、基本的に声を出すことができなくなる。そのような患者のための発声装置が開発販売されている。
【0003】
主に使用されている発声装置は、電気式人工喉頭である。この装置は、喉に装置の振動部を当て、その振動による音を声帯の代用音として使用する装置である。笛式人工喉頭という発声装置もある。笛式人工喉頭とは、声帯の代用音を笛から出し、その笛を口内に挿入し、音を口腔に共鳴させて声にするものである。この装置は、音源にゴム弁を利用した笛を使用しているため、音の高さの調節が不可能である。その結果、この装置を使用して発声した声は、常に一定の高さになる。これらの発声装置を使用することで、思ったことをすぐに口に出すことができる直感的な発声が可能になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭58−68798号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】橋場 参生、外3名、「音声の自然性を備えた電気人工喉頭の開発研究(第1報)」、北海道立工業試験場報告No.291、95頁〜106頁、北海道立工業試験場、1992年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
電気式人工喉頭および笛式人工喉頭といった発声装置は、主に喉頭摘出をした喉頭癌患者を対象とした発声装置であり、これらの装置を人工呼吸器使用者が利用することは難しい。電気式人工喉頭は、振動部を喉に押し当てる。このため、生命維持にとって重要な人工呼吸器を喉の気管切開孔に接続している患者は、電気式人口喉頭の使用が難しい。また、笛式人工喉頭は、声帯の代用音となる笛を、気管切開孔から排気する空気によって鳴らす。このため、気管切開孔に人工呼吸器が接続されている患者は、笛式人工喉頭を使用することができない。
【0007】
人工呼吸器使用者のためのコミュニケーションツールとしては、パソコンなどを用いて作成した文章を読み上げるソフトウェアが存在する。しかし、この方法を使用した場合、文章を作成するまでに多少の時間が掛かり、思ったことをすぐに伝える、スムーズなコミュニケーションや、直感的な発声が実現できない。
【0008】
そこで、本発明は、人工呼吸器使用者が思ったことをすぐに発声できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述の目的を達成するため、本発明は、発声補助装置において、スピーカーと、前記スピーカーが発生する音を人の鼻孔に伝達する筐体と、前記スピーカーに前記人の口腔内で共鳴を生じる周波数成分を含む音を発生させる音発生器と、前記音発生器が前記スピーカーに音を発生させるか否かを切り替えるスイッチと、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、人工呼吸器使用者が思ったことをすぐに発声できるようにすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明に係る発声補助装置の第1の実施の形態のブロック図である。
【
図2】本発明に係る発声補助装置の第1の実施の形態のスピーカーユニットの斜視図である。
【
図3】本発明に係る発声補助装置の第1の実施の形態の使用状態を示す斜視図である。
【
図4】本発明に係る発声補助装置の第2の実施の形態のブロック図である。
【
図5】本発明に係る発声補助装置の第3の実施の形態の使用状態を示す斜視図である。
【
図6】本発明に係る発声補助装置の第3の実施の形態の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明に係る発声補助装置のいくつかの実施の形態を、図面を参照して説明する。なお、この実施の形態は単なる例示であり、本発明はこれらに限定されない。同一または類似の構成には同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
【0013】
[第1の実施の形態]
図1は、本実施の形態の発声補助装置のブロック図である。
図2は、本実施の形態の発声補助装置のスピーカーユニットの斜視図である。
図3は、本実施の形態の発声補助装置の使用状態を示す斜視図である。なお、この発声補助装置は声帯がない人などが用いるものであるが、
図1には、参考のために声帯48を有する人40を併せて示した。
【0014】
本実施の形態の発声補助装置は、音発生器10とスイッチ20とスピーカーユニット30とを有している。音発生器10は、音声信号発生部12とアンプ14とを有している。スピーカーユニット30は、箱体32と鼻孔密着部34とスピーカー36とを有している。
【0015】
音声信号発生部12は、人40が声帯48で発生する音の代用音に相当する電気信号を発生する。アンプ14は、音声信号発生部12が発生した代用音の電気信号をスピーカー36から適切な音量の音が出るように増幅する。音声信号発生部12は、人40が声帯48で発生する音を録音したデジタルデータから代用音の電気信号を生成するものであってもよいし、人工的に代用音を合成するものであってもよい。アンプ14は、音声信号発生部12と一体となっていてもよい。
【0016】
音発生器10は、スイッチ20を介してスピーカー36に接続されている。スイッチ20は、音発生器10がスピーカー36に音を発生させるか否かを切り替える。つまり、スイッチ20がオンのときには、音発生器10が生成した電気信号、すなわち、音声信号発生部12が生成した代用音の電気信号をアンプ14が増幅したものがスピーカー36に伝達されて、スピーカー36から音が発生する。スイッチ20がオフのときには、スピーカー36からは音は発生しない。
【0017】
スピーカー36は、箱体32に収められている。箱体32には鼻孔密着部34が取り付けられている。たとえば、箱体32には図示しない貫通部が形成されていて、鼻孔密着部34には箱体32の貫通部と連通する貫通孔が形成されている。このような箱体32および鼻孔密着部34からなる筐体によって、スピーカー36が発生する音は、人40の鼻孔42に伝達される。
【0018】
この発声補助装置は、鼻孔密着部34を人の鼻孔42に密着させた状態で用いる。箱体32の側面には、紐通部38が形成されている。その紐通部38に通したゴムなどの伸び縮みする紐39を耳に掛けることによって鼻孔42にスピーカーユニット30を密着させる。鼻孔42に鼻孔密着部34を密着させた状態で、スイッチ20をオンにし、スピーカー36から声帯48の代用音を発生させると、口46から音が出てくる。その過程で、代用音は口腔44を通過し、口腔44内で共鳴することによって母音などの音に変化する。この変化した音は、人の声に類似したものとなる。口腔44内での共鳴状況は、口腔44の形状によって変化するため、人40は口腔44の形状を変化させることによって口46から出てくる音を変化させることができる。
【0019】
このように、本実施の形態の発声補助装置は、鼻孔42に密着させたスピーカー36から声帯の代用音を発生させる。このため、喉頭癌患者だけでなく、頚部に穴を開けて人工呼吸器を挿入している人工呼吸器使用者も用いることができる。したがって、人工呼吸器使用者であっても、この発声補助装置を装着していれば、思ったことをすぐに発声できるようになる。
【0020】
スピーカー36から発する代用音は何でもよい訳ではない。鼻孔42から入った音は口腔44を通過する際に口腔44内の形状などに応じて共鳴し、これにより母音などの声として外部に聞こえる。したがってスピーカー36からは、人の口腔44内で共鳴を生ずる周波数を含むなど、所定の条件を満たす必要がある。
【0021】
通常、人40の声帯48が発する音は、多くの周波数帯を含むと同時に、音程を決めるためのピッチという基準となる周波数が存在する。また、声帯48から出た音を共鳴させて発声する母音は、それぞれの母音に特有の周波数がいくつか現れ、その周波数のことをフォルマントと呼ぶ。よって、スピーカー36から発する声帯48の代用音も、フォルマントの周波数を含む幅広い周波数が含まれており、かつ、音程を決めるためのピッチが存在する音でなければならない。本実施の形態では、笛式人工喉頭の音を録音したものを使用し、発声補助装置を用いて既存の発声装置と同様な発声ができることが確認された。
【0022】
代用音を発生させるスピーカー36は、箱体32に入れておくことにより、口46以外からの音漏れを抑制することができる。また、鼻孔密着部34をシリコーンゴムなどの柔らかい材質でパッド状に形成しておくことにより、鼻孔密着部34と人の鼻部分との密着性が向上し、鼻孔密着部34と鼻部分との接触部からの音漏れが低減される。また、笛式型などとは異なり、口腔44内には何も挿入せず、鼻孔42に鼻腔密着部34を密着させるだけなので、鼻孔密着部34のシリコンパットなどを交換することで衛生的な管理が容易である。
【0023】
また鼻腔は鼻中隔によって左右に仕切られており、鼻中隔が鼻孔から咽頭の奥まで伸びているため、スピーカー36および鼻孔密着部34を、一方の鼻口側にだけ設けて、他方の鼻口を開放しておいても良い。鼻口の一方が空いていることにより、鼻呼吸ができる快適さは使用感に大きな影響を与えるものと考えられる。
【0024】
アンプ14を設けることにより、声帯の代用音の音圧を上げ、結果として人の口46から出てくる音の音圧を向上させることができる。その結果、口46から出る音の音圧が小さすぎて聞き取りにくくなることもない。また、アンプ14に音量調節器を取り付けて、使用者が、適宜、代用音の音圧を変化させ、口46から出る音の音圧を変化させてもよい。
【0025】
スイッチ20は、たとえばオンおよびオフを切り替えるボタンスイッチであり、ボタンを押しているときのみオンすなわち代用音が出るようにしてもよい。このようなスイッチ20を設けることにより、言葉と言葉の間の無音状態を再現できるようになる。
【0026】
[第2の実施の形態]
図4は、本実施の形態の発声補助装置のブロック図である。なお、この発声補助装置は声帯がない人などが用いるものであるが、
図4には、参考のために声帯48を有する人40を併せて示した。
【0027】
本実施の形態の発生補助装置は、第1の実施の形態に伝声管60を追加したものである。伝声管60は、中空の管である。伝声管60の一方の端部は、鼻腔密着部34に接続されている。伝声管60は、鼻孔42内を口腔44の近傍まで延びている。伝声管60は、鼻孔42の形状にあわせて変形可能な柔らかい材料で形成されている。
【0028】
本実施の形態の発生補助装置では、伝声管60が鼻孔42の内部を延びているため、スピーカー36で発生した代用音が効率的に口腔44に到達する。したがって、雑音の発生を抑制しつつ、人40の口46から出てくる音の音圧を向上させることができる。また、伝声管60による代用音の伝達効率の向上が大きい場合には、アンプ14の増幅率をそれほど高くする必要もなくなり、場合によってはアンプ14が不要な場合もある。
【0029】
スピーカー36および伝声管60を、一方の鼻口側にだけ設けて、他方の鼻口を開放しておいても良い。これにより、伝声管60を鼻孔42内に挿入する違和感は生じるものの、両方の鼻口を塞ぐという状況を避けることもできる。伝声管60を鼻孔42内に挿入する違和感は、使用期間の経過とともに慣れにより小さくなっていくものと考えられる。鼻口の一方が空いていることにより、鼻呼吸ができる快適さは使用感に大きな影響を与えるものと考えられる。
【0030】
[第3の実施の形態]
図5は、本実施の形態の発声補助装置の使用状態を示す斜視図である。
図6は、本実施の形態の発生補助装置の断面図である。
【0031】
本実施の形態の音発生器11は、耳掛ケース72と伝声管62とを有している。耳掛ケース72は、スピーカー36を収納する細長い箱である。耳掛ケース72は、スピーカー36が配置された端部から人40の耳に沿って延びる形状に形成されている。耳掛けケース72は、たとえば樹脂製である。
【0032】
スピーカー36は、耳掛ケース72の外側に向かって音を発するように配置されている。耳掛ケース72のスピーカー36が配置された方の端部には、伝声管62が取り付けられている。この音発生器11は、人40の耳に引っ掛けて用いる。伝声管62は、鼻口を通って鼻孔42(
図4参照)の内部に挿入され、口腔44(
図4参照)の近傍まで延びている。
【0033】
本実施の形態の音発生器11では、伝声管62は、耳の近傍から鼻口を経由して鼻孔内に挿入される。つまり、伝声管62などの音発生器11の一部が鼻口に密着しなくてもよい。このため、鼻水が発生したときに、その鼻水が音発生器11の一部が鼻口を塞ぎ、鼻づまりを発生させることがない。したがって、使用者の使用感が向上する。
【0034】
また、スピーカー36を鼻口から離しているため、スピーカー36を収納する箱体にスイッチ20を設けても、使用時の不自然さがなくなる。その結果、スイッチ20を一体化でき、小型化できる。
【符号の説明】
【0035】
10…音発生器、11…音発生器、12…音声信号発生部、14…アンプ、20…スイッチ、30…スピーカーユニット、32…箱体、34…鼻孔密着部、36…スピーカー、40…人、42…鼻孔、44…口腔、46…口、48…声帯、60…伝声管、62…伝声管、72…耳掛ケース