【実施例】
【0031】
図1に示すように、鍛造用金型10は、ダイ20とパンチ30とを備えている。
ダイ20は、基台11から上へ延ばした筒状ダイ21と、この筒状ダイ21を外から囲うと共に筒状ダイ21に対して上下に移動するフローチングダイ22と、基台11に設けられフローチングダイ22を所定の力で押し上げる油圧シリンダ23と、基台11を貫通し且つ筒状ダイ21を貫通しているノックアウトピン24と、このノックアウトピン24を軸方向に移動するノックアウトシリンダ25とを備えている。
【0032】
筒状ダイ21は、上部にワークとしてのかさ歯車40の背面を収納する凹部26を有する。
フローチングダイ22は上部に環状突起27を有する。環状突起27は、かさ歯車40の歯41の外周端42を規制する傾斜面28を有する。
【0033】
パンチ30は、かさ歯車40の正面中央部41を窪ませるセンタパンチ31と、このセンタパンチ31を囲うと共に成形凸部32及び成形凹部33を有するリングパンチ34と、このリングパンチ34及びセンタパンチ31を支えるパンチ支持板35とを備えている。
【0034】
ダイ20に対してパンチ30が相対的に移動する。相対的な移動であるから、基台11が静止していてパンチ支持板35が移動(昇降)するシステム、基台11が移動しパンチ支持板35が静止しているシステムと、基台11及びパンチ支持板35が共に移動するシステムの何れであってもよい。
【0035】
基台11が静止していてパンチ支持板35が移動(昇降)するシステムを、例に以下説明する。
図2にて、鍛造工程が終了すると、パンチ支持板35が上昇する。センタパンチ31及びリングパンチ34が一緒に上昇する。この上昇に伴って、フローチングダイ22が一定距離上昇する。ノックアウトシリンダ25で、ノックアウトピン24を上げると、このノックアウトピン24が、かさ歯車40を突き上げダイ20から浮かす。これで、かさ歯車40を鍛造用金型10から払い出すことができる。
【0036】
図2の後に、
図1に戻って鍛造が実施されるが、この鍛造のときに、成形凸部32に大きな荷重が加わる。この荷重に対する対策を講じた例を以下に説明する。
図3に示すように、リングパンチ34は、中心に円筒穴36を有し、この円筒穴36を囲う円周上に交互に配置される成形凸部32と成形凹部33とを備える。すなわち、成形凸部32と成形凹部33が周方向に交互に配置されている。さらに、成形凸部32にピン50が埋設されている。
【0037】
図4に示すように、ピン50は、先端に円錐部51を有する尖り先ピンである。
成形凸部32は、JIS G 4404で規定される合金工具鋼(例えばSKD61)で製造される。SKD61は焼入れ焼戻し硬さがHRC(ロックウエルCスケール)で53以下である。
一方、ピン50は超硬合金で製造される。超硬合金は成分によって硬さが変化するが、HRA(ロックウエルAスケール)で84以上、HRCに換算すると65以上である。
よってピン50は、成形凸部32より、硬度の高い材料で造られている。
【0038】
図5(a)に示すように、レーザガン52からレーザ光53を照射して、貫通穴54を開ける(穴開け工程)。貫通穴54は、レーザ加工の他、放電加工やドリルでの機械加工で開けてもよい。ただし、リングパンチ34が特に硬い場合は、ドリルの交換頻度が高まるため、レーザ加工の方が適している。
【0039】
図5(b)に示すように、円筒穴36と同径のダミー軸56を円筒穴36に嵌める。また、円筒穴36の中心軸57と貫通穴54の中心軸55とのなす傾斜角θの2倍の角度2・θを円錐角とする尖り先ピン50を準備する。傾斜角θは30°〜60°の範囲から選択される。
この尖り先ピン50の外径は貫通穴54の穴径と同じである。
尖り先ピン50の基部59をピン打ち具58でチャックして貫通穴54に嵌める(ピン嵌め工程)。
【0040】
このピン嵌め工程のための尖り先ピン50の外径と貫通穴54の穴径との関係について、説明する。
ピン嵌め工程には、軽圧入法と挿入法が適用できる。
軽圧入法では、圧入代を1%以下となるような外径の尖り先ピン50を準備し、尖り先ピン50をピン打ち具58で貫通穴54に圧入する。圧入代が1%以下であるため、圧入作業はそれほど困難ではない。
【0041】
挿入法では、貫通穴54と同径の尖り先ピン50を挿入する。推奨される作業法としては、尖り先ピン50の外径を全て計測してリストを作成する。次に、貫通穴54の穴径を実測し、この穴径に近似した外径の尖り先ピン50を選択し、挿入する。
【0042】
図5(c)に示すように、尖り先ピン50の先端はダミー軸56に当たって止まる。基部59は成形凸部32から外へ突出する。この突出部分61は機械加工により切除する(除去工程)。
図5(d)に示すように、円錐部51の一面が円筒穴36の周面と面一であるため、尖り先ピン50の先端に除去加工を施す必用が無く。除去工程の工数を低減することができる。
【0043】
図6にて、ピン50の効果を説明する。
図6(a)に示す比較例では、成形凸部101にはピンが嵌められていない。成形凸部101の変形は予測が難しいが、ここでは、鍛造時に頂点102が左にL1だけ倒れたと仮定する。この倒れにより、成形凸部101の裾、すなわち成形凹部103、103に応力が集中する。応力が繰り返し集中して過大になると集中部位に亀裂が発生し、金型寿命を迎える。
【0044】
図6(b)に示す実施例では、ピン50は成形凸部32より硬度が高い材料で造られているため、成形凸部32の剛性(曲げ剛性、たわみ剛性)の増大に寄与する。結果、同じ荷重が加わっても頂点62が左にL2だけ倒れる。このL2はL1より格段に小さいため、成形凹部33、33に過大な応力が発生する心配はなく、金型の寿命を延ばすことができる。
【0045】
図5に対する変形例を、
図7で説明する。
図7(a)にて、
図5(a)と同様に、貫通穴54を開ける。
図7(b)にて、貫通穴54より十分に長いピン50Bを準備する。このピン50Bの先端形状は任意であるため、市販ピンをそのまま使用することができ、ピン50Bの調達コストを低減することができる。
【0046】
ピン50Bを貫通穴54に嵌める。ピン50Bの先端63と基部59が貫通穴54から突出する。すなわち、突出部分61、61はピン50Bの前後に存在する。そこで、先端と基部の突出部分61、61を機械加工などにより切除する。切除後の形態は、
図7(c)に示す通りである。
図7(d)に示すように、ピン50Bの先端切断面64は楕円になる。正円の丸穴である貫通穴54に対して先端切断面64が楕円であるため、ピン50が空転(自転)する心配はない。
【0047】
図5に対するさらなる変形例を、
図8で説明する。
図8(a)に示すように、レーザ加工により、底65を有する非貫通穴66を開ける。
図8(b)に示すように、非貫通穴66へ、先が丸い丸先ピン50Cを嵌める。丸先ピン50Cは市販ピンをそのまま使用することができ、ピン50Cの調達コストを低減することができる。また、丸先ピン50Cを使うことにより、底65にピン50Cの角が当たらないので、応力が集中するのを防ぐことができる。
【0048】
次に、基部59側の突出部分61を切除する。
レーザ加工が難しくなるため、
図5、
図7に示す貫通穴よりは穴開け工程における加工費が嵩む。しかし、ピン50Cの先端を切除する必要がないので、除去工数における加工費の低減が図れる。
【0049】
図9(a)に示すように、貫通穴54の長さL3より、短い長さL4であるピン50Dを貫通穴54に嵌める。
図9(b)に示すように、ピン50Dの全てが貫通穴54に収納される。結果、ピン50Dの前後を除去する必要が無くなり、除去工数をゼロにすることができる。
【0050】
ところで、ピン50、50B、50C、50Dは、成形凸部32の任意の位置に嵌めることが可能であり、その位置は、一般に強度計算を重ねるなどして決定される。しかし、決定に要する費用を削減することができる、簡易的を次図にて提供することができる。
【0051】
本発明の鍛造用金型で、かさ歯車を鍛造する場合には、かさ歯車にピッチ円が存在する。
そこで、
図10に示すように、成形凸部32において、ピン50、50B、50C、50Dをかさ歯車のピッチ円67上に配置する。すなわち、ピン50、50B、50C、50Dが成形凸部32の幅(図面左右方向幅)Wの中心線68上で且つピッチ円67上に位置決めされる。ピン50、50B、50C、50Dの位置が一義的に決まり、面倒な計算や検討を行う必要がないため、設計費用の低減が図れる。
【0052】
尚、本発明は、かさ歯車40の鍛造に好適であるが、等速ボールジョイントのカップ部材の鍛造にも適用できる。すなわち、カップ部材は、鋼球(ボール)を収納するトラック溝が環状に配列されており、トラック溝を成形凸部で形成する。よって、ワークはかさ歯車40に限定するものではない。