【解決手段】窒化ケイ素粒子および金属ケイ素粒子の少なくとも一方を主原料とし、前記主原料と、有機バインダーと、Al、Mg、Fe、Zr、Yおよびランタノイドからなる群から選ばれる元素を少なくとも1種類以上含む化合物である無機バインダーと、造孔材とを混合し、混合物の成形体を脱脂、焼成する。
窒化ケイ素粒子および金属ケイ素粒子の少なくとも一方を主原料とし、前記主原料と有機化合物とを含む混合物の成形体を脱脂、焼成することにより得られる窒化ケイ素系多孔体であって、
炭素濃度が8wt%未満であることを特徴とする窒化ケイ素系多孔体。
【背景技術】
【0002】
セラミックスの多孔体は、内燃機関の排ガス処理部材に使用されている。このような多孔体の材質としては、材料の耐熱性、耐熱衝撃性の観点から、コージェライトやチタン酸アルミ、炭化ケイ素などが実用化され、窒化ケイ素(Si
3N
4)も実用化が検討されている。
【0003】
このような窒化ケイ素の多孔体は、まず、無機原料に、バインダー物質(メチルセルロースや有機バインダー樹脂など)を添加して押出成形が可能な坏土とする。坏土には、気孔量を調整する造孔材なども添加される。次に、形成した坏土を押出成形して、所望の形状とし、これを乾燥後、脱脂、焼成する。
【0004】
なお、無機原料としては、窒化ケイ素粒子を用いる方法と、金属ケイ素を用いる方法と、両者を用いる方法とがある。金属ケイ素を用いる場合、焼成工程において、最初に窒素雰囲気下で金属ケイ素を窒化させ、その後に生成された窒化ケイ素を焼結させる。
【0005】
脱脂工程では、バインダー物質などの有機分が除去される。
【0006】
この時有機分が残存すると、窒化ケイ素中に炭化ケイ素が生成され、窒化ケイ素系多孔体の特徴である、低熱膨張性や優れた耐熱衝撃性を損なう恐れがあることが知られている(特許文献1参照)。特に、内燃機関の排ガス処理部材として使用される多孔体の場合、フィルタとして機能する部分が薄い構造体として形成されるため、窒化ケイ素中の炭化ケイ素による影響をなるべく避ける必要がある。
【0007】
金属ケイ素を原料とする場合、脱脂工程において残存した有機分に含まれる炭素粒子が熱処理過程で金属ケイ素と反応し、炭化ケイ素となる。また、窒化ケイ素粒子を原料とする場合であっても、残存した有機分に含まれる炭素粒子が熱処理過程で窒化ケイ素粒子と反応し、炭化ケイ素が生成される。
【0008】
そこで、特許文献1では、Si、TiおよびCeからなる群から選ばれる元素の酸化物、水酸化物および塩からなる群から選ばれる1種類以上の無機粒子を原料に添加することで、脱脂工程において、有機分の熱分解を促進する方法が提案されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
また、脱脂工程において残存した有機分に含まれる炭素粒子の一部は、上記炭化ケイ素が生成する反応のほかに、他の物質と反応することもあり得る。例えば、脱脂工程において残存した炭素が、窒化ケイ素粒子表面に形成された酸化膜である二酸化ケイ素と反応することが考えられる(3SiO
2+6C+2N
2→Si
3N
4+6CO)。
【0011】
窒化ケイ素表面に形成された酸化膜(SiO
2)は、焼結助剤として添加されるマグネシアスピネル等と反応し、ガラスを形成し、このガラスが粘着剤となって窒化ケイ素粒子同士の焼結反応に寄与する。そのため、残存炭素により前記の反応が生じると、酸化ケイ素(SiO
2)が失われ、形成されるガラスの量が不足し、多孔体としての機械的強度が低下するとともに、発生するCOガスが炉の断熱材を損傷させてしまうという問題がある。
【0012】
しかしながら、脱脂工程において、有機分を残さず除去してしまうと、無機原料同士を結び付けておく物質がなくなってしまい、脱脂後の成形体(脱脂体)の機械的強度が低くなる。脱脂体の機械的強度が低下すると、クラック等の欠陥の原因になるとともに、製造の容易性が損なわれてしまうという問題がある。そのため、脱脂体の機械的強度を保持するために、ある程度量の有機分を残した状態で脱脂を行うことが一般的であり、脱脂体を焼成して得られる窒化ケイ素系多孔体中に含まれる炭化ケイ素の量を下げることは困難であった。その結果、窒化ケイ素系多孔体は機械的強度の向上には限界があった。
【0013】
本発明は上記の問題点に鑑みて成されたもので、その目的は、脱脂工程での有機分の残存量を低下させるとともに、脱脂体の機械的強度を確保した窒化ケイ素系多孔体の製造方法を提供するとともに、機械的強度に優れた窒化ケイ素系多孔体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本願発明者らは、原料に無機バインダーを添加することで、脱脂後の機械的強度を保持したまま、残存炭素量を減らせる事を見出し、本願発明を行うに至った。
【0015】
本発明の窒化ケイ素系多孔体の製造方法は、窒化ケイ素粒子および金属ケイ素粒子の少なくとも一方を主原料とし、前記主原料と、有機バインダーと、Al、Mg、Fe、Zr、Yおよびランタノイドからなる群から選ばれる元素を少なくとも1種類以上含む化合物である無機バインダーと、造孔材とを混合する混合工程と、前記混合工程で得た混合物を成形する成形工程と、前記成形工程で得た成形物の有機分を熱分解する脱脂する脱脂工程と、前記脱脂工程で得た脱脂体を焼結する焼成工程とを有することを特徴とする。
【0016】
上記の方法によれば、成形体の機械的強度は有機バインダーによって保持され、脱脂体の機械的強度は無機バインダーが保持する。そのため、脱脂後において有機バインダーを残存させる必要がなく、炭素の残存量を低減することができ、残留炭素に起因する機械的強度の低下を抑制することができる。すなわち、脱脂工程での炭素の残存量を低下させるとともに、脱脂体の機械的強度を確保した窒化物多孔体の製造方法を実現することができる。
【0017】
さらに、本発明の窒化ケイ素系多孔体の製造方法において、前記混合物は、焼結助剤を含み、前記焼結助剤は、Al、Mg、Fe、Zr、Yおよびランタノイドからなる群から選ばれる元素を少なくとも1種類以上含む酸化物を少なくとも1種類以上含んでいてもよい。
【0018】
上記の方法によれば、焼成工程において、焼結助剤が窒化ケイ素粒子の焼結を促進するため、機械的強度にすぐれた窒化ケイ素系多孔体を製造することができる。
【0019】
さらに、本発明の窒化ケイ素系多孔体の製造方法において、前記無機バインダーが、前記化合物の水溶液またはコロイド溶液であって、前記無機バインダーのpHが5以上であることが好ましい。
【0020】
上記の方法によれば、混合物を適度な粘度にしやすくなり、成形工程において押出成形が容易となるため、製造の容易性が確保される。
【0021】
さらに、本発明の窒化ケイ素系多孔体の製造方法において、前記化合物が乳酸アルミニウムであることが好ましい。
【0022】
上記の方法によれば、乳酸アルミニウムが、脱脂工程において、脱水、脱炭酸し、酸化アルミニウム水和物へと変化し、機械的強度が発現する(Al(OH)
3−x(C
3H
5O
3)
x・nH
2OがAl
2O
3・mH
2Oへと変化する)。さらに、酸化アルミニウム水和物が脱水し、酸化アルミニウムとなり(Al
2O
3・mH
2OがγAl
2O
3へと変化する)、焼成工程において、焼結助剤として作用することで、窒化ケイ素粒子間の結合に寄与し、多孔体の機械的強度を向上させる。
【0023】
本発明の窒化ケイ素系多孔体は、窒化ケイ素粒子および金属ケイ素粒子の少なくとも一方を主原料とし、前記主原料と有機化合物とを含む混合物の成形体を脱脂、焼成することにより得られる窒化ケイ素系多孔体であって、炭素濃度が8wt%未満であることを特徴とする。
【0024】
上記構成によれば、窒化ケイ素系多孔体中の炭素濃度が低いため、窒化ケイ素系多孔体の機械的強度が向上する。なお、本明細書中において炭素濃度とは、残存した有機分に由来する元素としての炭素の濃度であって、炭化ケイ素や炭素粒子として存在している炭素を含む。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、脱脂工程での有機分の残存量を減少させ、脱脂後の脱脂体の機械的強度を確保した窒化ケイ素系多孔体の製造方法を提供するとともに、機械的強度に優れた窒化ケイ素系多孔体を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明を実施の形態により説明する。本発明に係る窒化ケイ素系多孔体は、例えば、内燃機関の排気ガス処理部材に使用することができる。ガソリンエンジン用の排気ガス触媒担持用としてや、ディーゼルエンジン用の排気ガス処理の酸化触媒担持用として、あるいは排気ガスに含まれる粒状物質を捕集浄化するDPF(Diesel Particulate Filter)のハニカムフィルタとして用いられる。
【0028】
(1.ハニカムフィルタの説明)
以下に本発明の形態に係る窒化ケイ素系多孔体が用いられるハニカムフィルタの一例を示す。
【0029】
図1は、ハニカムフィルタの概観を示す斜視図である。
図2は、ハニカムフィルタの軸方向に平行な面の模式断面図である。
【0030】
図1、
図2に示すように、ハニカムフィルタ1は、本発明に係る窒化ケイ素系多孔体よりなる円柱状のハニカム構造体10を有する。ハニカム構造体10における円柱状の本体の内部には、一方向に延伸する複数のセル11が形成されている。各セル11は、軸方向(セルの延伸方向)に垂直な方向の断面形状が略正方形をなし、多孔性のセル壁12に区画されることによって形成されている。多孔性のセル壁12が粒子状物質(以下、PM)の捕集部材となる。
【0031】
ハニカム構造体10に設けられている各セル11は、軸方向(延伸方向)の一方側の端部に充填材が封入されることで封止(目封じ)され、封止部21が形成されている。封止部21は、ハニカム構造体10の軸方向の両端部で、複数のセル11が交互に設けられている。
【0032】
ハニカム構造体10の外周部は、外周被覆層15にて被覆されている。外周被覆層15はセラミック層からなり、ハニカム構造体10の外周部に塗布された外周被覆材が焼成されることで形成されている。外周被覆層15は必ずしも必要なものではない。なお、
図2においては、外周被覆層15の記載を省略している。
【0033】
このような構成を有するハニカムフィルタ1は、
図2に示すように、セル11の延伸方向でもある軸方向が排気ガスの流れと平行となるように配置される。排気ガスは、流れの上流側に位置する、セル端部が封止されていないセル(流入側セル)11より流入する。セル11内に流入した排気ガスは、多孔性のセル壁12の微細孔を通過して、流れの下流側に位置する、セル端部が封止されていない隣接セル(流出側セル)11へと移動し、そこから流出する。
【0034】
排気ガスがセル壁12の微細孔を通過することにより、排気ガスに含まれるPMがセル壁12に捕集される。捕集されたPMは、ハニカムフィルタ1を再生加熱処理することでセル壁12より除去され、これにより、ハニカムフィルタ1が再生される。
【0035】
なお、
図1においては、ハニカム構造体10として、ハニカムフィルタ1の軸方向に垂直な面の断面形状が円形をなす円柱状のものを例示したが、該断面形状は特に限定されるものではなく、例えば、楕円形、正方形、長方形、多角形であってもよい。このようなハニカム構造体10の成型は、押出機を用いることで、所望する形状に予め成型することができる。また、ハニカムフィルタ1の軸方向に垂直な面の断面の大きさは、エンジンの排気量によって最適値が決定されるものである。
【0036】
一方、セル11の断面形状は、略正方形であることが好ましい。しかしながら、必ずしもこれに限定されるものではなく、他の形状であってもよい。セル壁12の厚さも特に限定されるものではなく、例えば、0.2〜0.4mmとすればよい。また、単位面積中のセル数も特に限定されるものではなく、例えば、200〜300cpsiとすればよい。外周被覆層15の厚さも特には限定されないが、概して0.3mm〜1.0mmに設定される。
【0037】
ハニカムフィルタ1における各部の材料は、本発明に係る窒化ケイ素系多孔体を用いるハニカム構造体10を除き、従来からある既存の材料を用いることができる。
【0038】
例えば、セル端部を封止する充填材としては、酸化アルミニウム(アルミナ)、チタン酸アルミニウム、炭化珪素、窒化珪素、コーディエライト、ムライト、アパタイトなどのセラミック坏土、またはセメント材料を使用することができる。これらは単独で使用してもよいし、複数種類を併用してもよい。中でも熱膨張係数をそろえる観点から、ハニカムフィルタ1と同様の材料とすることが特に好ましい。
【0039】
外周被覆層15はセラミック層よりなり、上記したハニカム構造体10の材料に、無機バルーン、コロイダルシリカ、ベントナイト等の無機粒子や無機バインダー等を配合した材料が用いられる。
【0040】
なお、ハニカムフィルタ1は、ハニカム構造体10が1つの多孔質セラミック焼成体よりなる、いわゆる一体型を例示した。しかしながら、角柱状に形成された複数の多孔質セラミック焼成体であるハニカムセグメント体を、接合部を介して貼り合わせてハニカム構造体とした分割型であってもよい。
【0041】
(2.窒化ケイ素系多孔体の概要)
本実施の形態に係る窒化ケイ素系多孔体は、窒化ケイ素粒子、および金属ケイ素粒子の少なくとも一方を主原料とし、前記主原料と有機化合物とを含む混合物の成形体を脱脂、焼成することにより得られる窒化ケイ素系多孔体であって、炭素濃度が8wt%未満であることを特徴とする。炭素濃度は好ましくは3wt%以下である。また、脱脂後の成形物(脱脂体)の機械的強度を保つため、Al、Mg、Fe、Zr、Yおよびランタノイドからなる群から選ばれる元素を少なくとも1種類以上含有している無機バインダーを原料に添加する。そのため窒化ケイ素系多孔体はAl、Mg、Fe、Zr、Yおよびランタノイドからなる群から選ばれる元素を少なくとも1種類以上含有している。上記の無機バインダーは、焼結助剤としても作用するが、Al、Mg、Fe、Zr、Yおよびランタノイドからなる群から選ばれる元素を少なくとも1種類以上含む酸化物を少なくとも1種類以上含む焼結助剤を別途添加してもよい。また、窒化ケイ素系多孔体には、窒化ケイ素のケイ素および窒素の一部をそれぞれアルミニウムおよび酸素で置換したサイアロンも窒化ケイ素系多孔体に含まれる。
【0042】
(3.窒化ケイ素系多孔体の製造方法)
次いで、本実施の形態に係る窒化ケイ素系多孔体の製造方法について説明する。製造工程は、原料を混合する混合工程と、混合物を成形する成形工程と、成形物を乾燥させる乾燥工程と、乾燥させた成形物を脱脂する脱脂工程と、脱脂後の脱脂体を焼成する焼成工程とを含む。
【0043】
原料としては、窒化ケイ素粒子、および金属ケイ素粒子の少なくとも一方を主原料とし、無機バインダー、有機バインダー、造孔材、焼結助剤、分散剤、水等を用いる。
【0044】
無機バインダーとしては、Al、Mg、Fe、Zr、Yおよびランタノイドからなる群から選ばれる元素を少なくとも1種類以上含む化合物の水溶液またはコロイド溶液が用いられる。無機バインダーとしては、例えば、乳酸アルミニウム、乳酸マグネシウム、乳酸ジルコニウム等の乳酸塩、グルコン酸、シュウ酸等の有機酸化合物およびアルミナゾル等の金属ゾルが用いられる。無機バインダーは、脱脂体の機械的強度の低下を防止するとともに、焼成工程において焼結助剤として作用する。
【0045】
また、後述するように、混合物が塩基性であるときに分散剤の分散作用が高まる場合には、pH調整剤等を添加して所望のpHとなるように調整してもよい。また、pH調整剤等を用いず、無機バインダーとしてpHが5以上のものを用いることでpH調整を行ってもよい。pHが5以上の無機バインダーとしては、例えば、塩基性乳酸アルミニウムや塩基性乳酸ジルコニウム等の塩基性乳酸塩を用いることができる。塩基性乳酸塩とは、乳酸イオンの一部が水酸化物イオン(水酸基)に置換されたものである。例えば塩基性乳酸アルミニウムは、Al(OH)
3−x(C
3H
5O
3)
x・nH
2Oで示される。
【0046】
有機バインダーは、混合物や成形物が所望の機械的特性(降伏応力等)あるいは流動特性(粘度等)を発揮するために添加するものである。有機バインダーとしては、例えば、PVA(Polyvinyl Alcohol)、メチルセルロース等の脱脂工程で熱分解する有機高分子が用いられる。
【0047】
造孔材は多孔体の気孔率を制御する為に添加するもので、例えばでんぷん、フェノール樹脂等が用いられる。分散剤は、均一に混合するために添加するもので、混合物が塩基性であればよく作用し、成形過程において、ひび割れ等の欠陥が生じにくくなる。分散剤としては、例えば、セラミゾール(日本油脂(株)製、「C−08」)等が用いられる。また、分散剤がバインダーとしての役割を担っていてもよい。
【0048】
焼結助剤は、焼成工程において窒化ケイ素粒子の焼結を促進させるために添加し、Al、Mg、Fe、Zr、Yおよびランタノイドからなる群から選ばれる元素を少なくとも1種類以上含む酸化物を少なくとも1種類以上含んでいればよい。焼結助剤としては、例えばマグネシアスピネル(MgAl
2O
4)、イットリア(Y
2O
3)、アルミナ(Al
2O
3)およびマグネシア(MgO)等を用いることができる。しかしながら、無機バインダーが焼成工程において焼結助剤としても作用するため、原料に焼結助剤が含まれていなくてもよい。
【0049】
混合工程では、上記の原料を主原料40〜60wt%、無機バインダー0.5〜10wt%、有機バインダー3〜10wt%、造孔材5〜25wt%、焼結助剤0〜15wt%、分散剤1〜5wt%、水5〜30wt%の質量比で混合し、混合物を得る。
【0050】
成形工程では、押出用金型を用いて、ハニカム構造体などの所望の形状に押出成形する。この時混合物が塩基性であれば、分散剤の分散作用が高まることで混合物が適度な粘度を有することとなり、混合物の押出成形が容易になる。その後成形物を乾燥させる(乾燥工程)。
【0051】
脱脂工程では、乾燥させた成形物を、混合物の原料に応じて適宜選択される条件下(温度、雰囲気、時間、圧力等)にて脱脂を行う。この際、有機バインダーを分解し、かつ、無機バインダーの機械的強度が発現する条件が適宜選択される。
【0052】
本実施の形態に係る窒化ケイ素系多孔体では、有機バインダーとともに、無機バインダーを混合工程において添加する。無機バインダーは、脱脂工程において、組成が変化することで、主原料粒子の粒界近傍に無機粒子が集中し、機械的強度を発現する。そのため、脱脂工程後の有機分の残存量を低下させても脱脂体の機械的強度の低下を防止することができる。例えば、無機バインダーとして塩基性乳酸アルミニウムを使用すると、脱脂工程において、脱水、脱炭酸し、酸化アルミニウム水和物へと変化し、機械的強度が発現する(Al(OH)
3−x(C
3H
5O
3)
x・nH
2OがAl
2O
3・mH
2Oへと変化する)。そのため、有機分の残存量を低下させても、脱脂後の脱脂体が崩壊することはない。また、酸化アルミニウム水和物が脱水し、酸化アルミニウムとなり(Al
2O
3・mH
2OがγAl
2O
3へと変化する)、その後の焼成工程において焼結助剤として作用することで、窒化ケイ素粒子間の結合に寄与し、多孔体の機械的強度を向上させる。
【0053】
また、脱脂工程は、有機バインダーを分解させ、かつ、無機バインダーの機械的強度が発現する条件であればよく、1段階であっても多段階であってもよい。脱脂対象物の大きさや密度等により、雰囲気や温度について適宜条件を定めればよい。
【0054】
例えば、1段階目は、真空または窒素または窒素に酸素を数vol%添加した雰囲気下で、400℃〜800℃にて焼成を行う。その後、300℃〜600℃にて1段階目より温度を低く、酸素分圧を高くして焼成を行う。
【0055】
その他の例として、1段階目は、空気雰囲気下150℃〜500℃(好ましくは、200℃〜350℃)にて焼成を行う。その後、200℃〜600℃にて焼成を行う。
【0056】
1段階目の脱脂では、有機バインダーや造孔材が脱脂(熱分解)するとともに、無機バインダーの機械的強度が発現する。2段階目の脱脂では、1段階目の脱脂よりも、酸素分圧を高くし、有機分の残渣を脱炭する。このように脱脂工程を多段階とすることで、機械的強度を保持したまま、有機分の残存量をより低下することもできる。有機分の残存量が低下することで、後の焼成工程に持ち込まれる炭素量が減少する。
【0057】
焼成工程では、窒化ケイ素粒子を原料として用いた場合、脱脂体を窒素雰囲気下、1600〜1800℃で2〜12時間焼成し、多孔体を得る。原料として窒素雰囲気下で熱処理を行う必要があるものを用いた場合は、脱脂体を、窒素雰囲気下1300〜1500℃で2〜20時間窒化し、その後1600〜1800℃で2〜12時間焼成する。
【0058】
本実施形態によれば、脱脂工程において炭素の残存量を減らすことができるので、焼成工程における炭化ケイ素の生成や、焼結助剤として作用する酸化被膜である二酸化ケイ素と炭素との反応を抑制できる。その結果、焼成後の多孔体の機械的強度が向上する。
【0059】
本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能である。すなわち、請求項に示した範囲で適宜変更した技術的手段を組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【実施例】
【0060】
本発明を、実施例を挙げてより詳細に説明する。
【0061】
(実施例A)
原料として、平均粒径0.2μmのβ窒化ケイ素粉末57.4wt%と、造孔材として、平均粒径20μmのフェノール樹脂7.6wt%(エア・ウォーター(株)製 「R800」)と、水35wt%とを混合した。さらに、有機バインダーとしてPVAと、無機バインダーとして塩基性乳酸アルミニウムとを、前記の混合により得られた混合物の質量を1として、表1に示す質量比で混合した(実施例1,2)。なお、本実施例(以下の実施例B,Cも同様)における、塩基性乳酸アルミニウムの質量比は、脱水、脱炭酸後の酸化アルミニウムの質量を基準としている。
【0062】
混合後、内径15mmの金型を用いて50MPaで30秒間一軸加圧成形し、その後200MPaで1分間CIP(Cold Isostatic Pressing ;冷間等方圧加圧)を行い直径15mm、高さ3mmの円柱状成形物を得た。
【0063】
成形物を空気雰囲気下、4時間で250℃まで昇温して3時間保持により1段階目の脱脂を行い、その後、空気雰囲気下、4時間で500℃まで昇温して3時間保持により2段階目の脱脂を行い、さらに、空気雰囲気下、4時間で560℃まで昇温して3時間保持により3段階目の脱脂を行った。
【0064】
同様の手順で、無機バインダーを添加せず混合した比較例1,2の脱脂体を得た。
【0065】
上記の方法で作成した実施例1,2および比較例1,2の成形物および脱脂体の圧縮強度ならびに成形体の密度および炭素濃度の測定を行った。
【0066】
圧縮強度は精密万能試験機(島津製作所(株)製、AG−X)を用いた圧縮試験により測定した。また、マイクロメーターにより脱脂体の外形寸法を測定し、脱脂体の体積および質量から密度を算出した。
【0067】
炭素濃度は、EPMA(Electron Probe Micro Analyzer;電子線マイクロアナライザー)(日本電子(株)製)により分析した。
【0068】
表1に測定結果を示す。
【0069】
【表1】
【0070】
表1より分かるように、有機バインダーのみを添加した比較例1,2と比較して、有機バインダーと無機バインダーとを両方添加した実施例1,2は、脱脂後の圧縮強度が増加している。そのため、脱脂後も成形物の機械的強度が保たれ、炭素濃度が8wt%未満の窒化ケイ素系多孔体の製造が可能となる。
【0071】
(実施例B)
原料としては、金属ケイ素(Si)(山石金属製)とβ窒化ケイ素(β−Si
3N
4)(電気化学工業製)との和51.8wt%、さらに、造孔材19wt%、焼結助剤としてジルコニア(ZrO
2)とマグネシア(MgO)との和2.4wt%、分散剤(日本油脂(株)「セラミゾール」)0.4wt%および水26.4wt%を混合した。さらに、前記の混合により得られた混合物の質量を1として、有機バインダーとしてメチルセルロース(信越化学工業(株)「メトローズ」)を11wt%、および無機バインダーとして塩基性乳酸アルミニウムを0.5wt%〜2.6wt%、表2に示す比率で混合した(実施例3〜7)。
【0072】
混合後、押出成型機(宮崎鉄工(株)製「FM−P20」)を用いて成形した。
【0073】
その後、70L/min(STP:standard temperature and pressure)の空気流中において、4時間で250℃まで昇温し、250℃で3時間保持し、1段階目の脱脂を行った。その後、70L/min(STP)の空気流中において、4時間で500℃まで昇温し、500℃で3時間保持し、2段階目の脱脂を行った。脱脂体をGPS(Gas Pressure Sintering;ガス圧焼結法)により、窒素雰囲気下、1700℃で3時間焼成した。
【0074】
上記の方法で作成した実施例3〜7の成形後および脱脂後の圧縮強度の測定、ならびに無機バインダーを添加しなかった比較例3の成形後の圧縮強度の測定を行った。
【0075】
なお、比較例3は、20L/min(STP)の窒素気流中において、2.5時間で150℃まで昇温し、150℃で3時間保持し、1段階目の脱脂を行った。その後、20L/min(STP)の窒素気流中において、1時間で225℃まで昇温し、225℃で4時間保持し、2段階目の脱脂を行った。さらに、20L/min(STP)の窒素気流中において、1.5時間で320℃まで昇温し、320℃で15時間保持し、3段階目の脱脂を行った。なお、比較例3は脱脂後崩壊した為、脱脂後の圧縮強度は測定できなかった。
【0076】
圧縮強度は精密万能試験機(島津製作所(株)製、AG−X)を用いた圧縮試験により測定した。
【0077】
表2に押出成型時の出口圧力、および測定により得られた圧縮強度の測定結果を示す。
【0078】
【表2】
【0079】
表2より分かるように、無機バインダーを添加することで、成形体の圧縮強度が向上している。また、比較例3の脱脂体は脱脂後崩壊したのに対し、実施例3〜7の試料は機械的強度を保持している。このことから、無機バインダーの添加により、脱脂後も成形体の機械的強度が確保されていることがわかる。
【0080】
(実施例C)
原料としては、金属ケイ素(Si)(山石金属製)とβ窒化ケイ素(β−Si
3N
4)(電気化学工業製)との和51.8wt%、さらに、造孔材19wt%、焼結助剤としてジルコニア(ZrO
2)とマグネシア(MgO)との和2.4wt%、分散剤(日本油脂(株)「セラミゾール」)0.4wt%および水26.4wt%を混合した。さらに、前記の混合により得られた混合物の質量を1として、有機バインダーとしてメチルセルロース(信越化学工業(株)「メトローズ」)を11wt%、および無機バインダーとして塩基性乳酸アルミニウムを表3に示す比率で混合した(実施例8,9)。
【0081】
比較例として、無機バインダーを添加しない比較例4の混合物も作成した。
【0082】
上記の混合物を70L/min(STP)の空気流中において、4時間で250℃まで昇温し、250℃で3時間保持し、その後、4時間で500℃まで昇温し、500℃で3時間保持し脱脂を行った。
【0083】
脱脂後の成形物を窒素雰囲気下、1350℃で3時間保持し、その後、1750℃で3時間保持し、焼成を行った。焼成後圧縮強度の測定を行った。圧縮強度は精密万能試験機(島津製作所(株)製、AG−X)を用いた圧縮試験により測定した。
【0084】
【表3】
【0085】
実施例8,9は比較例4に比べて脱脂後の保形性があった。また、表3からわかるように、無機バインダーを添加した実施例8,9は比較例4に比べて焼成後の圧縮強度が向上した。このことから、無機バインダーの添加により脱脂後の成形物の強度が向上するとともに、焼成体の強度も上昇したことがわかる。